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2009年6月 9日 (火)

苦しいときの神頼み…ではない別なやり方

何でもないようなことから「世の中やっぱり変わってきているんだな」と感じることってありますよね。
一昔前は医療現場から何をどう言おうがマスコミからは黙殺されていた時代がありましたが、最近は結構細かいところまで取り上げられることもあるようで時代の変化に驚きます。
最近も相次いで「もう限界。勘弁してくれ」という悲鳴混じりの報道が出ていましたが、あるいは「医療可愛そう物語」とでも言うべきものが結構世間受けすると彼らも理解してきていうことなのかなとも思わされるところです。

「財政審建議は現場を無視」―全医連(2009年6月8日CBニュース)

 全国医師連盟(黒川衛代表)は6月7日、財政制度等審議会が取りまとめた「来年度予算編成の基本的考え方」(春の建議)に対し、「医療費抑制を前提とし、医療現場の声を全く無視したもの」などとする見解を公表した。

 見解では、訴訟不安や過労不安の中で「かろうじて士気を保ち医療現場を守っている」と医療従事者の現状を指摘した上で、医師偏在の解消策として建議に盛り込まれた診療科や診療地域ごとに医師数を調整する規制的手法を行えば、医師のモチベーションを低下させ、現在の医療は破綻(はたん)すると主張。
 さらに、医療崩壊を改善するために財政審が提言すべきだったのは、医療費を含めた社会保障費の増額だとし、医療費抑制からの転換を求めた。

 見解ではこのほか、医療サービス全体を充実させるため、医師だけでなく診療補助やコメディカル、診療事務などに携わる人材と雇用を確保する体制を取る必要性も指摘している。

医療現場は「過酷労働」 医師ら課題指摘 静岡(2009年6月7日静岡新聞)

日本リハビリテーション医学会主催の県民・市民公開講座「日本の医療はこのままでいいのか?」(静岡新聞社・静岡放送共催)が6日、静岡市駿河区のグランシップで開かれた。
 同医学会の学術集会の一環。経済学者で東京大名誉教授の宇沢弘文氏のほか、みずほファイナンシャルストラテジーの野田博明常勤監査役が脳出血を経験した患者として、慶友整形外科病院の宇沢充圭理事長が医師の立場から、現在の医療が抱える課題をそれぞれ指摘した。
 宇沢名誉教授は経済学者の立場から、小泉政権時代の診療報酬制度をはじめとした政府の医療制度改革が、逆に医療現場の苦境につながっていると指摘した。野田氏も自身の闘病・リハビリ経験を踏まえ「患者がこうあってほしいと願う医療の姿を、医療制度そのものが妨げている」と述べた。
 宇沢理事長は、リハビリ医療だけでなく医療現場全体が過酷な労働環境に置かれ、現場のスタッフのやる気をも阻害している実態を報告した。会場にはリハビリ医学や医療制度に関心を持つ市民らが訪れ、3氏の報告に聞き入っていた。

産科医:在院月312時間 過労死認定基準超す実態(2009年6月4日毎日新聞)

 大学病院の産科医の在院時間は、1カ月間に平均312時間に及ぶことが、日本産科婦人科学会の初の調査で分かった。当直(夜間勤務)のある一般病院は平均295時間で、そのうち時間外勤務は平均123時間だった。厚生労働省の過労死認定基準が目安にする「1カ月100時間の時間外労働」をはるかに超えており、厳しい勤務実態が浮かんだ。

 調査は全国の大学病院や一般病院約750施設を対象に実施。回答した産科医計633人に、昨年5~11月の任意の1カ月間、全出勤日の出退勤時間を報告してもらい、在院時間を計算。また、退勤後も分娩(ぶんべん)などにすぐに対応する待機時間(オンコール)も調べた。

 その結果、大学病院の医師の在院時間は最大で505時間、大半の医師は238~386時間だった。当直回数は平均月4.9回、最も多い医師は月18回にも上った。当直のある一般病院では最大在院時間は428時間、大半の医師は234~356時間で、オンコール待機も平均88時間。当直のない病院では在院時間は平均255時間だったが、オンコール待機は平均166時間に上った。

 いずれの施設でも男女とも29歳以下の在院時間が最も長く、大学病院では平均383時間に及んでいた。同学会は勤務時間について、小児科医より若干長く、外科医とほぼ同じと分析している。

 調査を実施した海野信也・北里大教授(産婦人科)は「病院勤務の産科医は仕事がきつく、希望者が少ないといわれてきたが、今回の調査で厳しい勤務実態を事実として明らかにできた。国民への医療提供を維持するため、改善策を考えたい」と話している。【江口一】

小泉政権は医療分野への資本参入に熱心で色々と画策してきた結果今日に続く医療行政の基礎を形作ったなどとも言われますが、今の時代医療というものに注目し始めているのは資本家やマスコミにとどまらず、政治家も同様となってきています。
すでに地方行政レベルでは銚子市などにも見られるように医療問題が自治体首長の首に直結するという状況になって来ていますが、この先の都議選、そして衆院選と睨んでいく上で、国政レベルにおいても医療問題というものは無視できないファクターになってきているようです。
この点で従来民主党に比べてどうも及び腰という印象のあった与党自民党ですが、そろそろ風向きが変わり始めたのかなと思わされる話も出てきているようなのですね。

「診療報酬引き上げ、政権公約に」 自民・園田氏(2009年6月7日朝日新聞)

 自民党の園田博之政調会長代理は7日、鹿児島市で講演し、「診療報酬をさらにアップして医療供給体制を確立すると具体的に提示して選挙を戦う」と述べ、次期総選挙の政権公約に来年度の診療報酬引き上げを盛り込む必要があるとの考えを示した。

 診療報酬は2年ごとに改定され、小泉政権下の02年度に初めてマイナスとなり、06年度には過去最大のマイナス幅を記録。08年度の改定では医師の技術料にあたる「本体部分」は引き上げられた。園田氏は「国の財政難から診療報酬はずっと下げてきた。医者の立場で考えたら、必ずしも今『お医者さんはお金持ち』ではない」とも述べ、医師の待遇改善の必要性を強調した。

ま、自民党がいつまで政権与党の座にとどまるかは判りませんが、これで与野党双方共に診療報酬は引き上げるべきという認識で一致したという結論になります。
となれば今後それが政策として実行に移されるのはいずれにせよ確定的…と考えたいところですが、そうなりますとつい先日出されたばかりの財政審の意見書にあるところの「景気悪化、物価下落の折り、診療報酬も削減してしかるべき」という提言の扱いがどうなるのかというあたりに注目が集まってくるところです。
このあたりは厚労省対財務省、あるいは政治家対官僚といった対立の構図が今後あちこちで表面化してくるものなのかも知れませんが、果たしてこの国で一番強いのは誰なのかと言うことにも要注目ですかね。

マスコミや政治家のスタンスもさることながら、過労死レベルの違法な労働実態の改善ということを考える上で医師自身の権利意識の目覚めというものも当然ながら最も重要なものとなってきます。
医師会と並ぶ第二の医師団体を目指す「全国医師連盟(全医連)」が設立する医師の労働組合が先頃結成されたと言う記事を紹介しておきましょう。

初の医師労組が発足=労働環境改善目指す(2009年6月7日時事ドットコム)

 勤務医らでつくる全国医師連盟(黒川衛代表)は7日、都内で集会を開き、医師の労働組合「全国医師ユニオン」を設立したと発表した。医師の全国的な労組はこれまでなく、代表を務める植山直人医師は「多くの人に入っていただき、ともに日本の医療のために闘ってほしい」と呼び掛けた。
 近年、医師不足などによる医療崩壊が問題となっているが、背景には医師の過酷な勤務状況がある。植山医師は、欧州では医師労組が労働条件改善に役割を果たしてきたと指摘。「医療崩壊を何とかするには、医師が健康でやりがいを持って働くことができなくては。そのためにユニオンが重要」と述べた。
 ユニオンは先月中旬、北海道から長崎までの医師8人で結成。11月の定期大会に向け、会員を募り、組織体制を確立するとともに、相談活動など会員をサポートする仕組みを構築する。

「全国医師ユニオン」結成を報告 勤務医の待遇改善目指し(2009年6月7日47ニュース)

 病院勤務医らでつくる「全国医師連盟」が7日、都内で集会を開き、同連盟の医師らが中心となった労働組合「全国医師ユニオン」が結成されたことが報告された。医師だけが参加する全国規模の労組は初めてといい、勤務医の待遇改善などに取り組む。

 ユニオンは、病院勤務医8人が参加し5月16日に設立。(1)過労死を引き起こす過剰労働をなくす(2)当直を時間外勤務と認めさせる(3)主治医制を担当医制に変える―ことを当面のスローガンに、各政党や厚生労働省などへの働き掛けをする。11月に定期大会を開く。

 長期的には、複数の医師が勤務するすべての医療機関に支部をつくることを目指すという。

 ユニオンの代表を務める植山直人医師は集会で「医療費抑制と医師不足に苦しむ状況を改善するには、ゲリラ戦ではなく正規軍としてのユニオンが必要だ。現場の声を反映しながら運動を進めていく」とあいさつした。

医師だけの労組「全国医師ユニオン」が発足(2009年6月8日CBニュース)

 全国医師連盟(全医連)は6月7日、東京都内で集会を開き、勤務医らの労働環境改善などを目指す「全国医師ユニオン」が5月に発足したことを明らかにした。医師だけが参加する全国規模の労働組合は初めてという。過労死を招きかねない医師の過剰労働の解消などを当面のスローガンに、労働環境の改善に向けて会員が勤務する病院側と団体交渉するほか、必要に応じて社会保険労務士や弁護士を紹介するシステムの構築も目指す。代表に就任した植山直人さん(老健施設「みぬま」嘱託内科医)は集会で、「1人でも多くの勤務医に参加していただき、日本の医療のために闘ってほしい」と呼び掛けた。

 全国医師ユニオンでは、病院や診療所の医療従事者らが加入する「日本医療労働組合連合会」などのほか、「東京管理職ユニオン」など他職種の労働組合とも連携する。政治的中立の立場は守る。
 年会費は2万円。ただ、1年目の研修医に限り5000円にするなど、立場が弱い医師への配慮を重視するという。第一段階として、全医連の会員らに加入を呼び掛け、300人程度の組合員獲得を目指す。全医連の会員でなくても受け付けるが、歯科医などに拡大する構想は現時点ではない。

 過剰労働の解消のほか当面のスローガンとして掲げているのは、▽医師の当直を時間外勤務と認めさせる運動▽医師が24時間365日拘束される主治医制の見直し― の推進。組合員が過労で倒れた場合は家族の相談に乗り、場合によっては100万円を上限に弁護士費用を援助する。長期的には、複数の医師が勤務する全医療機関への支部の設置などを目指す。

 植山さんは「(病院側との交渉は)人間関係の問題もあって単純にはいかない。成功事例を積み重ねることが大事だと考えている」と述べた。

ドイツなどではストなどを繰り返して医師勤務態勢の改善を勝ち取り、それを国民も支持していると側聞しますが、外国の医療が大好きな日本のマスコミあたりはこの件も絶讚するんでしょうかね(苦笑)。
ま、組合が最適解かどうかはともかくとして、こういう当たり前の労使活動を当たり前にやっていくというのはいい学習機会かなと思いますね。

常々この問題を考える上で非常に興味深いなと思うのは、今の時代どこでも医者が足りない、医者がいなければ病院も潰れるしかないという状況で、言ってみれば医者の側にとってものすごい言い値の売り手市場が形成されているわけなんですが、案外と目に見えて労働環境改善のために動いているという話が少ないですよね。
むしろ全国何処でも聞こえてくるのは「人手が減って大変だ。もう無理」なんて悲鳴ばかりですから、そういうことは世に向けて叫ぶ以前に勤務先の経営者と交渉するものなのではないかなと思うのですが、どうやらあまりそうしたことをやっている医者も多くはないらしい。
もちろん世に言う「医療現場は医師の使命感に支えられ」云々という美談的側面も多分にあるとは思うのですが、その一方でどうも医者という人種は労働者としての基本的な作法というものすら理解していない世間知らずなのかな、という気もしないでもありません。

「そんなことはない。労使交渉などかったるいことをするくらいならさっさと逃散した方がはるかに有利だからそうしているだけだ」と言う人ももちろん大勢いるんだと思うんですが、逃げ出すほどの踏ん切りもつかないままずるずると底なしの現状にはまり込んでしまっている人々というのもそれより遙かに多く存在していると思うのですね。
しかし考えていただければ判ることなんですが、これ以上無理と言うところまで働いて心も体も病んでからようやくドロップアウトする、あるいは最悪過労死してしまう、そんなことは一昔前の他業界ではとっくに社会問題になるほど経験していることで、当然ながらそれなりの対処法のノウハウと言うものも蓄積されているわけです。
世の先達の知恵があるのにそれを利用しようとしないで、自分たちの狭い知識の中に閉じこもってあがいているだけということであれば、それは今の時代にあって「情弱」などと揶揄されても仕方がないことではないでしょうか?
そして明らかに医師総数が足りていなくて超売り手市場が形成されている今のような時代でこそ色々と交渉しがいもあるんじゃないかと思いますし、そうした財産は後々の後輩達にもきっと感謝されるようになると思うんですけどね。

どうも未だに多くの医療従事者が勘違いしている気がしますが、医療を受ける側にすれば「もう50時間連続で働いています。ボクってすごいでしょ」なんて医者の超人伝説自慢を聞かされてもありがたくも何ともないわけで、そんなことより自分の命を預ける相手が当たり前の常識が通用する「まともな人間」であることこそがはるかに重要なことなのです。
「こんなに苦しいのに先生はちっともわかってくれない」とは患者がよく口にするところですが、他人の苦しさを当たり前に感じるためには大前提として自分の苦しさを当たり前に感じられる正常な感覚が備わってなければならないのは言うまでもないことですよね。
何より特殊な心身の耐久力を持った人間の存在を前提にして初めて成立するような職場はメジャーな産業として決して長続きしませんが、社会的インフラの一つとして欠くべからざるものと認識されつつある医療こそどんな時でも存続できるシステムであるべきで、それならばこそ「大丈夫、24時間戦えなくとも誰でも務まります」という体制を整えておくことが最大の武器になり得るでしょう。
ドロップアウトしていった医者達が「これなら俺でもやっていけるかも…」と戻ってくるようになる人に優しい医療業界、そんな職場環境を目指していくことこそが世間並みの常識が通用する「医療業界の正常化」へとつながる第一歩であり、最終的に国民多数派の利益にもつながり得るからこそ世論の支持も訴えやすいんじゃないかと思うんですけどね。

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コメント

給料の大元の診療報酬がお国によって低~く設定されてますから、基本赤字の企業相手に闘争したって待遇上がるわけがありませぬ。出せる可能性のあるところに移動するか、出てくる金額に見合った働きにするか、二者択一ですね。

投稿: REX | 2009年6月10日 (水) 19時39分

このところの数年間、「逃散論を知ってる?よし合格!」で話が済んでいた時代というものは、ある意味医局人事全盛時代と同様に話がシンプルだったのかも知れませんね。
今現在起こってきていること、今後起こっていくことを各論として知っている、見聞している人間というのは多々いるでしょうが、それを総論として論ずるに至っている人間を未だ知りません。
何が起こるか先の見えなくなってきた時代だけに、ここから先の身の振り方というのはなかなか難しそうだなという気がしてきていますが、さてここから結局誰が特をし誰が貧乏くじを引くかが見物ですかね(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2009年6月11日 (木) 08時03分

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