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2009年6月20日 (土)

臓器移植法改正が決まる

ということで、まずは記事を紹介してみましょう。

「脳死は人の死」案、衆院通過 臓器移植法改正、子どもに拡大(2009年6月18日47ニュース)

 衆院本会議は18日午後、議員立法4案が提出された臓器移植法改正案のうち「脳死は一般に人の死」と位置付け、本人が生前に拒否表明しなければ、家族の同意で臓器提供を可能にするA案(中山太郎元外相ら提出)を賛成多数で可決した。賛成263票、反対167票だった。同日中に参院に送付。最初に採決されたA案が可決されたため、残る3案は採決されず、廃案となる。

 現行法で15歳以上とされている年齢制限を撤廃し、子どもの臓器提供に道を開く。患者団体らは、脳死判定に至る条件が緩和されることから国内での提供者(ドナー)の大幅な増加につながると期待。ただ、衆院解散の時期によっては参院審議日程が厳しくなる上、法案修正や対案提出を模索する動きもあり、成立には曲折が予想される。

 中山元外相は可決後、国会内で記者団に「支援を待っている、待たざるを得ない人たちが救われる可能性が出てきた」と強調した。

 臓器移植法は1997年6月に成立。本人が生前に書面で意思表示し、家族が同意した場合に限って脳死を人の死とし、臓器摘出を認める。世界的に見ても条件が厳しく、これまで脳死下での臓器提供は81例にとどまる。このため大人、子どもを問わずに海外渡航して移植を受ける患者が後を絶たないのが実情だ。

 一方で国際移植学会が昨年、渡航移植禁止を求める宣言を発表。世界保健機関(WHO)も追認する方針で、渡航移植の道が閉ざされるとして法改正の機運が高まった。

既にこの問題については各メディアで色々な報道がなされていますが、社会的な影響として一つ大きなポイントとしてはやはり記事中にもある移植絡み、特にしばしば新聞ネタにもなる「子供の臓器移植へ道を開く」ということになるのかと思います。
記事から一見すると「子供からも臓器を提供できるようになった」というだけの話に見えるのですが、実際のところ子供が臓器移植を受けるためには身体に見合ったサイズの臓器が手に入らなければ無理なわけですから、これは実質的に国内で子供の移植医療が行われる可能性が出てくるということになるわけですよね。

記事中でも触れられているように移植医療の進歩で先進国ではどこでも臓器提供者の不足が深刻になってきていて、近ごろでは「自分の国の患者の臓器は自分の国でまかなうようにしよう」という原則を言うようになってきています。
この現れとしてこのところ国外からの移植患者受け入れに色々と難色を示す国が出てきていて、今までのように何でもかんでも外国に行って移植してこようという状況ではなくなってきているのですね。
一例として先日もこのような記事が出ていましたが、高額のデポジット金を支払っても臓器を「買い漁って」いく日本人に対して、現地国で長年移植の順番待ちをしている人々の一部では好ましからざる感情を抱いているという事情もあるとか。

米の小児心臓移植、日本人患者に高額請求…4億円前払いも(2009年6月18日03時03分読売新聞)

 日本人の心臓移植希望者を唯一受け入れている米国で、日本の小児患者が移植費用として、1億6000万円を請求される症例が昨年あったことが17日、わかった。

 今年3月には、医療機関へ事前に支払うデポジット(前払い金)として、別の小児患者が4億円を求められた。値上げの理由について、医療機関は明らかにしていないが、米国でも臓器不足は深刻なため、外国人の医療費を値上げすることで自国の待機患者の不満を解消するなどの意図があるとみられる。

 調査したのは、国立成育医療センター研究所の絵野沢伸室長。米国と今年3月に新規受け入れを中止したドイツで、1998年~2008年に心臓、肝臓などを移植した日本人患者66人を対象に、集めた募金額や医療費などを分析した。

 このうち、医療費が他の臓器よりもともと高かった心臓移植を受けたのは42人。うち、米国で07年までに移植し、費用明細が判明した23人の医療費は、集中治療室(ICU)に入った重症患者など3人(99年~04年)を除くと、すべての症例が3000万~7000万円台で推移していた。これに対し、08年は4人すべてが8000万円を超え、うち南部の小児病院と西海岸の大学病院で移植を受けた2人は、1億6000万円と1億2000万円を請求された。

 米国に次ぐ数の日本人が渡航していたドイツでは費用明細がわかった8人の平均額が約3900万円で済んでいた。

 4億円のデポジットを請求したのは西海岸の大学病院。デポジットは患者の医療費支払い能力を確認するため、医療機関が請求する。額は医療機関の裁量で決まり、値上げ理由は示されないことが多い。安く済んだ場合、残金は返済されるが、追加請求される症例の方が多い。

 渡航移植には渡航費、付き添い家族の滞在費などもかかる。絵野沢室長は「医療費は今後も上がる可能性があり、国内で移植を完結できる体制を整えるべきだ」と指摘している。

ちなみに国内で心臓移植を受けるとすると保険診療が適用されるようになりましたから患者の自己負担額は300万円だそうで、例の高額療養費制度に引っかかってこのうち一定額以上は帰ってきますから「格安」と言えます(別に宣伝ではありませんが)。
保険無しで考えても上記の海外の治療費を見ても判る通りこの金額はまさに破格のバーゲンプライスなのですが、当然のようにこの額では儲かるどころか病院の持ち出しとなるだけに、昨今の経営の厳しい病院にとっては痛し痒しとも言えるかも知れません。
また現場の一部では移植医療が広まっていくことで今以上に仕事量が増えることへの危惧などもあがっているようですが、このあたりは実際にどれほどの移植症例が出てくるのか判らないと何とも言い難いところですよね。

国内移植への道が開かれたといっても実際に広まっていくのはまだまだ先のこととなりそうですが、現在進行形で移植待ちをしている患者と家族にとっては少しでも早く手術を受けられるのなら海外でと考えたくなるのは人の情というものでしょう。
先の記事でも出ましたように海外の移植では高額の補償金を要求されることが普通ですが、そのため各地で移植待ち患者の募金活動というものが行われているのを見聞することもあろうかと思います。
ところが最近ではこの募金活動にも色々と批判の声があるようで、一部では「死ぬ死ぬ詐欺」なんて物騒な言葉まで使われているようなんですね。

批判されている代表的な例として例えばこんな事例があげられていますが、ネット上の噂の真偽はともかくとしてこれだけ大騒ぎになってきますと一般紙でも取り上げられるようになってきます。
特に話題豊富な(苦笑)毎日新聞がわざわざ取り上げたとなればさらにその記事に対する検証というものも当然必要になってくるわけですが、こちらも個人情報保護などの絡みもあって色々と微妙なところですからリンクの紹介のみにとどめておきましょう。

毎日新聞が2ちゃんねる「死ぬ死ぬ詐欺」などの「祭り」を大々的に批判(2007年01月01日DIGITAL TOWN)

この種の募金活動に対する批判、例えば会計が不明朗であるとか募金目標額を超えてもいつまでも募金を続けているといった話ももちろんそうなんですが、個人的に色々な「救う会」なる団体の規約などを見ていて一番気になったのは「余ったお金を次の移植を待つ人に回すというシステムがどうやら無いらしい」ということなんですね。
少なからざる金額を預かっている訳ですから最低限何にいくら使いましたという報告の義務があるのは社会常識的にも当然ですが、一般に預かり保証金というのは後になって精算されて帰ってくるのが普通で(もちろん中には清算後赤字という場合もあり得ますが)結局いくらかかったのかが非常に判りにくく、しかもそこをきっちり公開している団体が少ないことに驚きます。
少なくとも幾つかの団体では「余ったお金は今後万一の場合のために使わせていただきます」といった一文でお茶を濁しているようですが、そんな余分なお金があるのなら次に移植を待つ人に回してあげれば良いのにと考えるのも自然な話なのではないでしょうか。

家族の情として方法があるなら何であれすがりたいのは当然でしょうし、それに感じてお金を出す善意の人たちが大勢いるというのも社会として喜ばしいことだと思いますが、詐欺云々はともかくとしても日本人の移植患者が海外で臓器を買い漁っているなどと批判されるのは患者を支援する人たちにとっても本意ではないはずですよね。
善意の募金をしてくれた人々に対する当たり前の責任としても、国内外からの余計な疑惑や誤解を招かないためにも、明快にするべきところは明快にしていただいて誰恥じるところのない治療を受けられれば良いのではないかなという気がします。

移植以外にもう一つのいささか微妙な問題として、脳死が一般的に人の死であると定義された場合に、脳死者に対する医療費は誰が負担すべきなのかという議論もあります。
脳死者の扱いについて以前からいろいろと議論されているところではありますが、脳死が人の死であるなら既に脳死者は患者(ヒト)でなく死体(モノ)であって、その采配は遺族が行うべきという今回の改正のロジックには一応の一貫性があるかという考え方も出来るわけですよね。
一方で今まで社会的に生きている扱いだった脳死者が突然死んでいると公式に認定されることとなれば、色々と扱いも変わってくるんじゃないかという懸念も当然にあるわけで、特にその一つが脳死者に対する医療(費)の扱いです。

一般的に亡くなった方にも色々とお世話をするわけですが、これは医療業界ではなく葬儀業界の管轄であって(こちらも医療費の半額、15兆円という巨大産業だそうです!)、当然ながら医療保険などは使えません(
「葬式代の7割は保険で賄う」なんて話はおよそ聞いたことがないですよね)。
医学の進歩で(臨床的に)脳死と判断されるような状態であってもそれなりに長期間生きられる(と言っていいのかどうか微妙ですが)ようになったわけですが、当然ながらこうした患者にも医療費というものが必要であり、人工呼吸器などの濃厚な管理が必要である以上決して少ない額では済みません。
皆保険制度下では医療費の大部分は患者(被保険者)ではなく保険者から病院に支払われているわけですが、もし保険者が「亡くなった後の医療費に関しては当方では関知しない」と脳死者に対する支払いを拒否した場合に、それなりに巨額になるであろう長期脳死者(この表現もずいぶんと妙なものですが)の医療費を誰が負担するのかということになりかねないわけですね。

臓器移植法:「脳死」から8年、身長も伸びた(2009年6月18日毎日新聞)

 脳死を人の死とし、15歳未満の臓器提供に道を開く臓器移植法改正案が18日、衆院で可決された。「A案が成立すると、うちの子どものような生き方が認められなくなるのではないか」。長男みづほ君(9)が「長期脳死」の女性=関東在住=は、A案の大差での可決を知り、肩を落とした。

 みづほ君は00年、1歳のとき、原因不明のけいれんをきっかけに自発呼吸が止まり、脳内の血流も確認できなくなった。旧厚生省研究班がまとめた小児脳死判定基準の5項目のうち、人工呼吸器を外して自発呼吸がないことを確かめる「無呼吸テスト」以外はすべて満たした。それから8年、人工呼吸器をつけて自宅で過ごし、身長は伸び体重も増えた。

 「今後も移植が必要な人は、どんどん増えるだろう。さらに臓器が足りなくなれば、死の線引きが変わり、私たちの方へ近寄ってくるかもしれない」と不安を口にする。

 みづほ君は、この1年、状態は安定している。女性は「この子は『延命』しているのではない。こういう『生き方』をしている。参院の審議と判断に期待したい」と話した。【大場あい】

無呼吸テストをやるとなれば自発呼吸がない場合仮に脳死でなくとも脳に大変なダメージを受けてしまうわけで、移植を前提とでもしていない限り実施しないことが普通です(麻酔科学会では「法的脳死判定には必須だが臨床的脳死判定には必須でない」と言っていますが)。
となれば現状でほとんどの脳死患者は法的な脳死判定基準を全て満たしていない=脳死ではないということは言えますから、少なくとも社会的な意味では生きているということになりますよね。
しかし保険者自体の財政が非常に厳しくなってきている一方で、若年者の臓器提供という道も開かれてしまったわけですから、有形無形を問わずそれなりの社会的な圧力というものは今後強まってくるかも知れないわけです。

このあたりは日本人の死生観が云々といった話ももちろん関わるところですが、海外ではこうした巨額の費用を負担できるような家庭ばかりでもなく「先生もうやめてくれ。俺たちに首をくくらせる気か」と家族の方から延命処置の停止を申し出る例も多いとも聞きます。
そうした場合には処置中止も家族が主体ですから医師が殺人容疑で取り調べを受けるなどということはあまりないのだろうなと思えるわけですが、日本の場合今までなまじ脳死者の医療費負担が安かったばかりにこうした決断の主体が誰となるべきなのか議論が進んでいなかった事情もあります。
脳死と認めることまでは受容しても、お体を切り開いて臓器提供まですることには心情的に忍びないという方もそれなりに多いのではないかと思いますから、実際問題として今後臨床現場ではこうした脳死者の「亡くならせ方」についてもコンセンサスとルール作りを早急にしていく必要があるのかとも思いますね。

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コメント

こんにちは。はじめまして。
いつも勉強にさせていただいております。
ちょっとだけ気になって。

> 一般的に亡くなった方にも色々とお世話をするわけですが、
> これは医療業界ではなく葬儀業界の管轄であって(こちらも
> 医療費の半額、15兆円という巨大産業だそうです!)、当然
> ながら医療保険などは使えません(
>「葬式代の7割は保険で賄う」なんて話はおよそ聞いたことが
> ないですよね)。

国民健康保険や後期高齢医療保険で5万円程度(地域によっては2万~10万)の葬祭費が出るようですよ。
額にもよりますがさすがに7割はいかないかもしれませんけど。

投稿: 北陸の人 | 2009年6月23日 (火) 08時50分

補足ありがとうございます。お産と比べて葬儀は相場もかなりまちまちなようですから、額の設定もなかなか難しいところがあるんでしょうね。
葬儀業界にも特に含むところはありませんので、思わぬ不快を感じられた方がいらっしゃったようであれば申し訳ないところです。

投稿: 管理人nobu | 2009年6月23日 (火) 10時26分

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