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2009年6月26日 (金)

そろそろ流行終息のはずが、なぜか順調に増えてます

最近すっかり下火となった新型インフルエンザ関連の報道ですが、温かくなるにつれて自然に流行も落ち着くだろうという従来の定説とは裏腹に、報道の激減とは逆に感染者数は再び上昇に転じているという奇妙な現実があります。
もっとも政府としても確認検査をとうるさく言わなくなってきている状況ですから、この数字もどこまで信用したものかはっきりしないところがありますが、少なくとも時期が来れば自然に下火になってくるだろうという予想は見直しを考えておいた方がよさそうな気配ですね。

新型インフル、国内の感染者1000人超す…世界で8番目(2009年6月25日読売新聞)

 長崎、福島、茨城の3県は25日、新たに計4人の新型インフルエンザの感染者を確認したと発表した。

 これで国内の累計感染者数(成田空港での検疫などを含む)は同日午前11時時点で、38都道府県の1003人となった。

 厚生労働省などによると、5月9日に成田空港での検疫で初めて確認されてから、これまで重症化した患者の報告はない。世界保健機関(WHO)によると、感染者数が1000人を超えたのはアルゼンチンに次いで8か国目。

新型インフル感染者1000人超 夏になぜ持続?(2009年6月25日産経新聞)

 新型インフルエンザの国内感染者が25日、厚労省など行政機関に把握されただけで、入国前の検疫段階を含め累計1000人を超えた。長崎県佐世保市の40代女性の感染が同日確認されたため。5月9日に成田空港の検疫で最初の感染者が確認されてから1カ月半。弱毒性ウイルスではあるものの、日本も世界保健機関(WHO)が宣言したパンデミック(世界的大流行)の渦中にある。

 25日までに感染が確認されたのは38都道府県。WHOによると世界で1000人を超える感染者が確認されているのは、米国(2万1449人)、メキシコ(7624人)などに次いで、8カ国目となる。

 国内の感染は大阪・兵庫両府県を中心に1日で67人が発症した5月17日をピークに感染が拡大。しかし、5月末には新たな発症は終息し、10日間以上、発症者が一けたで推移を続けた。

 しかし、6月に入ると発症は再び増加に転じ、10日には1日で42人が発症した。地域も関東や九州、北海道など全国的に広がった。海外渡航歴のない人に感染が確認されるなど、国内での蔓延(まんえん)を示す兆候もあらわれ始めている。

 ただ、統計上は1000人となるが、国内の対応策はこれまでと変わらない。

 厚労省などが関心を持っているのは、通常の季節性インフルエンザでは、流行が治まる6月になって、国内でなぜ感染が持続しているのかだ。

 厚労省新型インフルエンザ対策推進室の見解でも、「それだけ感染力が強いということか、雨が少ないことなどの天候も影響しているかもしれない。今後の調査課題」と、明確な理由が分かっていない

 新型インフルエンザの感染拡大は、冬季を迎えつつあるチリやオーストラリアなど南半球の国と比べると緩やかながら米国、カナダ、欧州など海外の北半球でも見られる。

 国の対策本部の専門家諮問委員会委員長を務める尾身茂・自治医大教授は「一部では何もない健康な若い人が重症化する例があり、これが季節性との最大の違い。若い人や妊婦が死亡すれば社会的なインパクトも大きい。それを防ぐのが今回の最大の課題だ」と話している。

先日フィリピンで(確認された症例としては)アジア初の死者が出たということですが、一方国内では未だ死者は出ていないもののついに医療従事者にも感染が確認されてきているようです。
こうなりますと遠からず院内感染発症ということになりかねないところですが、まずは慌てず基本的対策を徹底していくしかないところでしょうが、何より以前にも書きましたような補償問題についてもきちんと道をつけていただきたいところですね。
更に加えて発熱外来絡みの不手際も色々と出てきているようで、こちらは発熱外来への誘導・集約化という方針自体をやめにするという話になっているとのことですが、将来的に予想される新たな感染爆発に対しても思わぬ苦い教訓になったというところでしょうか。

新型インフル:研修医が感染 さいたま市立病院(2009年6月22日毎日新聞)

 さいたま市立病院(同市緑区)は22日、臨床研修医の女性(24)が新型インフルエンザに感染したと発表した。海外渡航歴はなく、既に判明している感染者との接触もなかったが、18日夕~19日朝、救急外来の当直を担当した際、簡易検査でA型陽性が出た女性患者を診察していた。村山晃院長は「診察時に感染した可能性がある」と話している。埼玉県内の感染者は17人目。

 研修医は20日からのどが痛み始め、21日午後に39度の発熱があった。22日夜に遺伝子検査で感染が確認され、入院した。研修医は20、21日に計3回、担当する内科の入院患者計6人を回診している。病院は、研修医と接触したとみられる職員と患者計24人に予防的にタミフルを投与した。A型陽性だった女性患者も追跡調査している。

新型インフル感染者 県職員が一般受診指示  拡大恐れも /埼玉(2009年6月17日読売新聞)

 新型インフルエンザ感染が確認された白岡町の男子学生(20)に対し、電話相談を受けた県職員が発熱外来ではなく一般の医療機関の受診を指示していたことが16日、分かった。医療機関側の機転で男性は発熱外来を受診したが、感染拡大の恐れもあった。県は「重く受け止め、きめ細やかな対応を徹底したい」としている。

 この学生は14日朝、39度の発熱があり、白岡町内の医療機関に電話で受診を求めたが、医療機関は発熱相談センターに連絡するよう要請。ところが、学生側から電話を受けた同センターの県職員は、一般の医療機関で受診するよう指示した。

 このため学生は再度、同じ医療機関に受診を求めたが、症状を聞いた医師が「新型インフル感染の疑いがある」と判断し、同センターに直接連絡。県は学生に発熱外来を受診するよう指示し直した。

 この医療機関は内科やリウマチ科などがあり、持病を抱える患者も多い。医療機関の院長(49)は「男性が受診していれば感染が拡大した恐れもある。新型インフルが強毒性になったりした場合、今の対応では不安だ」と憤る。同センターは県保健医療部の職員らが対応しているが、院長は「電話相談は初期診断と同じ。もっと専門家を置くべき」と指摘する。県疾病対策課の本多麻夫課長は「すべての発熱患者を発熱外来に誘導しているわけではない。男子学生は感染拡大地域に行っておらず、困難な判断だった」と話している。

波田で新型インフル検査の都内男性 車で帰宅、戸惑う声 /長野(2009年6月19日信濃毎日新聞)

 県内3例目の新型インフルエンザ感染者と確認された東京都北区の自営業男性(41)は、詳細検査の結果が出る前に滞在先の松本市を離れ、自家用車で帰宅していた。今回のケースで感染症法は本人を引き留めることを規定しておらず、「移動の自由」を妨げるわけにはいかない。半面、感染拡大防止策を講じる県側からは18日、「バスや電車で移動する場合はどう対応すればいいのか」との戸惑いも聞かれた。

 17日に男性を診察し、簡易検査を行った波田総合病院(東筑摩郡波田町)によると、A型陽性反応が出た後、詳細検査の結果が確定するまで入院するよう勧めたが、男性は自宅療養を希望。症状が軽く、自家用車で移動することもあり、県松本保健福祉事務所と相談の上、人込みを避けるよう依頼して帰したという。

 感染確定前から感染症法に基づいて対象者に入院勧告することなどが許されているのは、国内外のまん延地域での滞在歴があったり感染者と濃厚に接触したと認められる場合などに限られる。5月22日に見直された新型インフルエンザに関する国の対処方針は、患者がまん延しておらず、長野県のように数人にとどまっている地域では、同法に基づき、感染が確定して初めて入院(原則7日間)などの措置を求めることとしている。

 このため波田総合病院の波多腰賢司事務長は「確定前の段階では強制力を伴う入院の対象にならず、患者に入院費用の負担も生じる。(入院は)任意でしか勧められない」とする。医師でもある小林良清・県健康づくり支援課長も「本人の行動は、本人の判断になる」と説明する。ただ、バスや電車での移動を希望する場合、「(詳細検査の結果が出るまで)移動は避けてもらうよう最大限、お願いするしかない」とも話す。

 厚労省は、今回の新型インフルエンザは多くの感染者が軽症のまま回復しているとして、軽症の感染者は原則、入院措置を取らずに自宅療養とする方向で検討を始めている。弱毒性とみられるため過剰な対応を疑問視する声がある一方、妊婦や疾患を持つ人などは重症化しやすいとされることから感染防止に向けた対応の必要性も指摘される。

 小林課長は「国の態勢が変わるのか、状況を見守りたい」としている。

しかしまあ、「困難な判断だった」というのもその通りではあるんでしょうが、その困難な判断を現場に一任して感染拡大を防ぐなどと豪語する国の姿勢もどうなのよという気がするところではありますけれどもね。
コンビニなどではどんな素人がバイトをやっても業務が滞らないよう、例えば「レジ待ちの人が増えたら」といった曖昧な表現ではなく「レジ待ちのお客様が二人以上並んだら」といった具体的な表現でマニュアルを整備していると言いますし、牛丼屋なども誰がついでも必ず一定の量が維持出来るようお玉のサイズはもちろん汁抜きの穴の数やサイズまで計算して決めてあると聞きます。
大規模に行う業務であるほど現場がその場で頭を悩ますことのないよう指示を出す方こそが知恵を使っておかなければならないのは当然だと思うんですが、こうして見ている限りでは今回厚労省にもいささか抜かりがあったかなという印象が拭えないところで、早めにこのあたりの総括を行って行動指針の改定を随時やっていってもらいたいところですね。

さて、例によって例の如く一連の状況に対して反省の弁というものがあちこちから聞こえてくるわけですが、特に注目されるのが国内初の患者を確認したあの神戸の医師の弁です。
この開業医さん、お上の方針に反して海外渡航歴もないのに患者に確認検査をしてしまい初めて国内発症の患者を見つけてしまったことで一躍有名になりましたが、お陰でお上から当分営業を自粛せよと指導を受けるわ、その間の休業補償?何それ食べられるの?であっという間に無収入状態を強要されてしまうわで、国策に逆らうとどうなるか身を以て示した方でもあります。
今もその「後遺症」に苦しめられているという話ですが、組織だった対応が出来る発熱外来を備えるような大きな施設での話ではないだけに、現場の判断というものを考える上でなかなかリアリティーがありますよね。

「全体で対策考えて」国内初感染者 診察した医師(2009年6月16日産経関西)

 国内初の感染確認となった兵庫県立神戸高校3年の男子生徒を診察した神戸市の男性医師(52)は「結果的に、自分の発見で神戸が“発祥地”になった。まさかとの思いからしばらくは家でも何も話せなかった」と当時を振り返る。開業する医院は、生徒が新型と確定したその日、厚労省の要請で休業した。「僕が(ウイルスを)出したわけじゃないのに、食中毒のように『あそこでインフルが出た』と今も言われている」。来院者は3割減の状態が続いている。

 医師は6年前から神戸高の校医を務める。生徒は5月11日にせきやのどの痛みを訴えて来院し、薬を処方。翌日再び来院した際は37・4度の発熱があった。

 昨秋に季節性インフルエンザの予防接種を受けていたが、生徒が「(同じ部活動で)インフルエンザが2、3人いる」と話したのが気になり、簡易検査を行ったところA型陽性だった。「新型ではないと証明して、生徒に安心してもらおう」と、神戸市に「念のため」と詳細検査を依頼した。当時、市の研究所は別の検査に追われており「一度だけ」の約束で受けてくれたという。

 15日午後9時半ごろ、市からソ連型か新型かを示す「H1」反応が出たと電話があり、翌16日午前1時には「大変です。豚(新型)が出ました」とうわずった声で連絡があった。

 その後2日間で同高での感染確認は10人を超えた。学校には「バスに乗るな」「通学路をすべて公表しろ」という電話もあった。学校はパニックとなったため、自主的に職員会議に出席し、教員からの「生徒は大丈夫か」「自分も感染しているのでは」との問いに「治療できるんだから、怖くない」と言い聞かせた。

 神戸高生の感染者は17人にとどまった。医師は「校内での蔓延(まんえん)を少しでも食い止められたのは良かった。多くの感染者が出たのは恥ずかしいことでも何でもない。日本中で蔓延した今は今後どうするべきかを全体で考え、第2波に備えるべきだと思う」と話した。

【新型インフル】「あの騒動はなんだった?」次への備えは…(2009年6月15日産経新聞)

 新型インフルエンザの国内初感染が神戸市で確認されてから16日で1カ月。世界保健機関(WHO)は11日に警戒水準を最高レベルの「6」へ引き上げるなど世界的にはいまだ感染拡大の傾向にあるが、神戸市では15日、有症者数がゼロになった。兵庫県はこれまでの対応を検証する第三者委員会を設置。神戸市医師会でもすでに検証委員会が立ち上げられており、現場では秋以降にも予測される“第2波”に備え、本格的に動き始めている。

 「あの騒動は何だったんだ、という感じです」

 神戸市保健福祉局の桜井誠一局長(59)は1カ月をこう振り返った。

 国内初感染が確認されて以降、神戸市では発熱相談センターに相談電話が殺到。3カ所の発熱外来も限界となり、5月20日から新型感染の疑いがある患者を一般病院にも振り分けた。

 同市では昨年11月から、国内初感染も想定したシミュレーションを実施。その段階で医療資源の限界は課題に挙げられていた。第2波へ向けてホールなどの外部施設を“野戦病院化”する案も検討しているが、「一自治体では限界がある。国全体で実践的な行動計画作りに取り組むことが必要」と桜井局長は指摘する。

 今回の混乱を生んだ要因の一つは、国の対応と実際の毒性とのギャップだ。神戸市医師会の検証委でも、「厚労省が海外渡航歴にこだわったために、感染確認が遅れた」と批判の声が上がった。現場が定義外の検査を行ったため最初の国内感染者が確認され、それは「震災以来の危機」と言われるほどの風評被害を招く皮肉な結果にもなった。

 新型が弱毒性との報告も4月からあったが、感染確認後、県や神戸市は休校やイベント中止など社会活動の制限措置に踏み切った。「あのときはそうするしかなかった。リスクを適切に評価し、対応を切り替えることの重要性を痛感した」と桜井局長はいう。

 予想される第2波の毒性には諸説ある。神戸市医師会は「今回は一般医療機関でも受け入れたが、強毒の場合も同様にできるかは課題」という。最初の感染者を診察した医院が当初は厚労省から休業を求められたこともあり、「何の補償もなく長期休業を求められるなら、誰も報告などしない」と懸念する。

 神戸市の桜井局長は「強毒性を前提として取り組みを進めるべきなのか。どの説を選択すればいいか正直自信はない」と明かす。予想される第2波まで、3カ月弱。現場では、まだ模索が続いている。

今回の騒動を強毒型発生時に対するリハーサルになったとして捉える向きも多いのですが、記事中にもあるようにリハーサルの段階でこれだけ大騒ぎになるようなら本番ではどうなるんだという不安の声も根強くあるようです。
しかし日本人の国民性を考えた場合に一度こういうことを経験してしまうと結構次は頭が冷えてしまうと言いますか、逆に妙に緊張感が抜けてしまう部分がありますから、案外ひどいパニックにはならずに住むかも知れないという気もするところです。
新型対応のワクチンはこの7月から生産開始ということで、早ければ今秋にも予想される第二次流行(もっとも現在の流行も未だ収束してはいませんけれども…)にも間に合いそうだということですから、実際の効果以上にある程度一般市民向けの「プラセボ効果」は期待できそうにも思います。

100%の感染防御はもちろんあり得ませんが、出来ることと出来ないことは理解し区別していなければ正しい行動も選択出来るはずもないわけで、医療従事者は末端に至るまで最低限の感染防御の知識を共有して的確に実行していくことが求められるところかなと思いますし、一般市民は間違った情報に踊らされてパニックにならないようにしなければならないでしょうね。
「新型対策こうすれば大丈夫」とあっちでもこっちでもいろんな人間が好き勝手なハウツーまがいのことを口走っていますが、その大丈夫という言葉の意味するものが病気にかからないという意味なのか、かかってもひどいことにならないという意味なのか、あるいは社会防衛的に感染拡大を阻止できるという意味なのかすらまちまちなのが現状です。
発言者がどういうポジションからどういうスタンスで語っているのか、その人間の発言ははたして信用できるのかといったあたりから検証しなければならないとすれば新聞テレビしか情報源がないという人々には難しいところもあるのかも知れませんが、ソース至上主義なんてものが身についているネット常用者であれば案外受け入れやすい概念なんじゃないかなとも思いますね。

何にしろ大流行となれば医療現場は殺到する患者対応に追われて目の回る忙しさになるでしょうから、とりあえず混乱を極める診察室で「でもセンセイ、みのもんたが言ってたからこれが正しいはずですよ」などと言い張るのは勘弁しておいて欲しいというのが現場の人間の偽らざるところかも知れませんけどね(苦笑)。

重症化防止へスイッチ切り替え、「正に医療の出番」(2009年6月21日CBニュース)

【第66回】岡部信彦さん(国立感染症研究所・感染症情報センター長)

 5月16日に国内初の感染が確認されてから、急速に感染が拡大した新型インフルエンザ。感染症の専門家の立場からウイルスを分析した国立感染症研究所・感染症情報センター長の岡部信彦さんは、「幸いにも推測した範囲の中では比較的病原性が穏やかなものだった」と言う。しかし秋以降に流行が予想される第2 波や、当初病原性が高いものとして想定されていた鳥インフルエンザなど、流行の不安が消えたわけではない。これまでの対策は適切だったのか。第2波や鳥インフルエンザに備え、改善しなければいけない問題は何か。(高崎慎也)

■検査の充実、「素晴らしかった」

―国内発生から、この1か月を振り返っての感想をお聞かせ下さい。
 2003年のSARS(重症呼吸器症候群)の流行の時には、国内で発生するまでほとんどの人にはウイルスの性状が分からなくて、暗中模索から対策をスタートしました。その反省があってのことですが、今回の新型インフルエンザでは、病原性についてある一定の範囲にあることは推測できるが、ただしまだ詳細は不明の病気について、いくつかの推測をつけながら対策ガイドラインの作成が行われました。今回発生した新型インフルエンザは、幸いにも推測した範囲の中では比較的病原性が穏やかなものでした。海外の報告に加えて、国内発生の時点から国内でのウイルスの性状の理解も進んだため、全くゼロの状態からの準備ではありませんでした。現在進行中で、振り返るにはまだ早いのですが、国内発生の前から準備ができた分、SARSの時よりむしろ対応は楽だったと思います。

―この対応は今回良かった、ということはありますか。
 素晴らしかったと思うのは、かなり早い段階で北海道から沖縄まで、全国どこでも遺伝子レベルでの検査(PCR検査)ができるようになったことです。検疫所などでも同様の検査が可能となりました。これは誇るべきことだと思います。もちろん、このような病気をサーベイランスとしてとらえる仕組みや、普段からインフルエンザのウイルスを検知する仕組み、全国の地方衛生研究所が基本的なPCR検査を実施できるレベルにあった―。これらが基本にあったからこそできたことです。
 ただ、今後すべての発生例を正確かつ迅速に把握すべきかといえば、それは効率が悪く、必要性も低下します。また、やるとすれば、膨大な準備、お金、機械、人が必要になります。ある程度感染者が増えてくれば、すべての発生例を把握するのではなく、サンプリング方式、あるいは重点方式などに切り替えていくべきです。
 一度収まったかのように見えても、患者さんが急増する可能性は考えておくべきです。すべての患者さんに入院を求めたり、すべての学校を休校にしたりといったことは、次の作戦としては取る必要がなくなります。水際作戦から国内対策、感染者の早期発見へとスイッチを切り替えたように、今度は感染者の重症化防止へと、もう一段階スイッチを切り替える必要があります。
 多くの患者さんの外来診療を行い、重症患者さんの入院治療を行う。これは正に医療の出番であり、医療が果たすべき役割であると思います。多くの人がかかる病気なだけに、たとえ全体像としては軽いとしても、ある程度の重症者や死亡者は出てしまうでしょう。ただ、その数を人の努力で減らせるなら、努力した方が良い。医療資源が限られている中で、症状の軽い患者さんを効率よくかつきちんと診る一方、重症者の症状がより重くならないよう適切な治療ができるか、医療と医療行政が問われるところと思います。
 設備面で必要なものは、患者が増えることを想定すれば、おのずから見えてくると思います。今のままで大丈夫、とはならないはずです。しかし、医療というものをもっと長期的にみて、これらを左右する医療人を育てる必要があります。

■「第2波」には南半球の様子などをみて、柔軟な対応を

―今後、第2波や、これで消え去ったわけではない鳥インフルエンザ(H5N1)の到来が懸念されますが、今回の対応で、改善すべき点はあるでしょうか。
 日本の場合はルールに基づいて行動するから、ルール通りに動かなければならない部分はあります。これは「規則にしたがって物事がきちんと行われる」という意味では良いことです。しかし、相手となる感染症がダイナミックに動いているのであれば、それに対してはやはり柔軟な対応をしなくては間に合いません。今後想定される第2波、あるいはH5N1に取り組む時の大きな経験と反省材料になるでしょう。
 今回の新型インフルエンザは、想定した範囲の中では病原性の比較的低いものでしたが、当初想定していた鳥インフルエンザが、これでもう発生しなくなった、というわけではありません。鳥インフルエンザはあり得るべき別の話として、準備をしなければならない。ただそれに向けて、今回様々な対策を取ったことで得られた経験は大きいと思います。
 表現は悪いですが、一生懸命勉強していて定期試験の対策を立てているうちに、抜き打ちのテストを食らったようなものです。今回の対策を振り返って足りないものを補い、良いものは取り入れればいいわけです。今後第2波や、別のインフルエンザが流行した場合には、さらに良い対応が取れるようになると思います。

―第2波ではそのまま弱毒性のものがくる可能性もあれば、強毒性の可能性もあるといわれています。
 ウイルスの変化については、科学的に、冷静に考えなくてはいけないと思います。しかし、そのためにすべての患者さんを検査する必要はない。多くの患者さんが発生するのであれば、サンプリングでウイルスの科学的な検証をできるよう、準備しておく必要があります。その際には、効率性や実効性も考えなければなりません。本番前に不意打ちのテストがもう1回くらいくるかもしれませんが、その時には当然、過去問にこだわっていては駄目。相手は新しい問題を考えてくるわけですから、試験を受ける側は柔軟に対応した方が勝ちです。

―どうしても、もしひどいものがきたら、強毒性になったら、と考えてしまうのですが。
 心配事にはきりがありません。今回の対策を考える時に、「最悪のシナリオ」とよく言われていました。でも最悪の定義がないから、最悪を考えるとその次の最悪が出てくるし、その次の最悪も出てくる。際限がなくなってしまいます。同様に、理想を追い求めてもきりがない。理想と現実のバランスを取りながら、できる範囲で対応を考えなければなりません。ただしそれは、着実に進歩していく必要があります。
 現行のガイドラインは、ある程度病原性が高かった場合まで想定しています。今回は幸いにも病原性は比較的低かったわけですが、病原性が高いものがやってきた場合には、現行のガイドラインを適切に応用すれば良いわけです。状況に合わせた対策をとれるようにしておくことが肝要です。

―岡部先生は「今やっている医療をきちんと継続できるようにすることも重要だ」といつもおっしゃっています。
 既存の医療の中でも、「余裕を持った医療」と「時間をおいてできる医療」、「手を抜いてはいけない医療」があります。慢性疾患を持っている患者さんもいれば、急病の方もいる。透析やお産を、今は忙しいから後回し、とはいかない。
 救急医療や慢性疾患と同時に新型インフルエンザもすべからく診る、というのは無理な話です。あえて「診ない」という選択肢を取った方がいい場合もあります。その場合には、「どこが診るか」を明確にしておく必要があります。時間や日によって対応する医療機関が変わってしまうかもしれません。患者さんの理解、社会の理解が必要となるでしょう。そして、理解を頂くには、それなりの時間がかかると思います。
 慢性疾患をお持ちの方は、病気をコントロールしておくことが重要です。リスクを減らすことができるでしょう。新型インフルエンザ対策は、新型インフルエンザだけの対策をしていても駄目なのです。潜在的な疾患を発見できるよう健康診断を受けておく、ダブルパンチにならないよう麻疹などの予防接種をきちんと受けておくなど、普段できる健康管理をしっかりやっておくことが「リスクを減らす」という点できわめて重要です。

―発熱相談センターの体制については。
 初期の段階で、受診する医療機関をガイドし、相談に乗るという意味での意義は高かったと言えます。しかし患者さんが急増したら、保健所の電話線はパンクしてしまいます。患者さんが一定以上に増えたら、受診する医療機関をアナウンスして直接行ってもらうようにし、相談センターの人材は別の作業に振り分けた方が良いでしょう。

―今後「医療の出番」を迎えるにあたって、どのような問題があるとお考えでしょうか。
 日本は、人口当たりのベッド数では、世界でも断トツだと思います。医療そのものがそんなに悪いわけではありません。しかし、今の日本の医療はあまり能率が良くなくて、本当に必要なところに人がいない。だからこそ、医療従事者のシフトの問題、備品のストックの問題、外来をどうするかなど、いろいろな問題が出てきます。しかし患者さんがいるならば、医療はそれに対応しなければなりません。医療そのもののあり方についても、今後議論を進めていくべきです。
 入院機能のある中核的な医療機関が、外来にかかりきりになって入院患者を診る余裕がなくなっては本末転倒です。入院機能がある医療機関は入院患者の重症化防止に専念して、外来は外来機能のある医療機関で受け持つよう、役割分担をすべきです。設備にしても、国レベルで用意しなければならないもの、自治体レベルで用意しなければならないもの、個々の医療機関で用意しなければならないもの、と分ける必要があります。役割分担が非常に重要になってきます。どのようなやり方が一番やりやすいか、個々の医療機関も、行政も、われわれも考えなければなりません。医師会や保健所、病院、医療圏など、さまざまな単位での話し合いが必要だと思います。

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