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2009年5月27日 (水)

ユートピアはすでに遠くなりにけり

本日はこちら「masayangの日記」さんの記事からーメディアのオバマ大統領へのインタビュー内容を紹介してみましょう。
「DRUDGE REPORT: OBAMA SAYS 'WE'RE OUT OF MONEY'を速攻適当翻訳」だそうですが、なかなか味があっていいと思います。

もう金庫は空っぽなんです by オバマ大統領(2009年5月23日記事)より抜粋

C-SPANのインタビューで、オバマ大統領は米国民に対して力強く語った。「資金は尽きた」と。
以下、C-SPAN側聞き手はSteve Scully氏(Washington Pres Corps)。

Scully: 「もうご存知ですよね。財政赤字は1.7兆ドル。国全体の負債は11兆ドル。アメリカはどの時点で資金が尽きますか?」

オバマ: 「もう資金は尽きてます。既に大きな赤字の元でやりくりしています。この大きな赤字は医療保険などで最近下した結果ではありません。この数年の経済危機と、過去数十年に渡って医療保険に関して放置してきた積み重ねが、今の状態を生んでいます。」

オバマ:「まず短期的な課題があります。金融機関を救済するために多大な資金が必要でした。自動車産業に競争力を取り戻す必要もあります。深刻な景気後退により税収は減少する一方で、職を失った人たちへの失業保険給付や食糧配給券交付などの資金が必要です。」

オバマ:「短期的な問題がある一方で、長期的な問題もあります。長期的な問題のほうが遥かに大きいのです。長期的な問題には、メディケイド*1とメディケア*2とがあります。これらの制度に対する出費が長期的に膨れ上がらないようにしないと、財政赤字は制御不能になります。」

オバマ:「何もしない、という手もあります。医療分野はとても高くつくので短期的な投資は無理だ、ともいえるわけです。もう財政赤字は膨れ上がっている。なので、いまのメディケイドとメディケアのままでいきましょう、と。」

オバマ:「でも、このままでいくと医療分野の出費はどんどん増えていきます。連邦政府の予算に占める医療費は膨れ上がり、やがて全部を食い尽くすことになるわけです。」

御存知のように民主党と言えばかねてヒラリーさんを旗頭にして大々的な国民医療保険導入をうたってきたところです。
当然ながら民主党政権誕生で一気に話が進むかと誰しも期待したところだったわけですが、当のトップであるオバマさん自ら「もう無理。絶対無理」と言ってしまったというわけですね(別に指名選挙で戦った意趣返しというわけでもないのでしょうが…)。
少なくとも当面はこの方面での大きな改革というものは消えたと見てよさそうな話ですが、そうなりますとしばしば「奇跡的」などとも表現される日本の皆保険制度というものは実はトンでもないものだったんじゃないかと改めて思わされるところです。

しかしその制度も今では崩壊寸前という状況にあるのは御存知の通りなんですが、いったい何がどうしてこうなってしまったのかという話ですよね。
その観点からすると先頃の5月18日に開催された「財務相の諮問機関」である財政制度等審議会(財政審)でのやり取りなどが非常に象徴的で興味深いのですが、まずは記事から引用してみましょう。

「春の建議」に診療報酬の配分見直しなど―財政審(2009年5月18日CBニュース)

 財務相の諮問機関である「財政制度等審議会」の西室泰三会長は5月18日、同審議会終了後の記者会見で、来年度予算編成の基本的考え方(春の建議)の中に、病院と診療所間の診療報酬の配分の見直しなど4点を盛り込む考えを示した。

 西室会長が挙げたのは、診療報酬配分の見直しのほか、▽医療従事者間の役割分担の見直し▽混合診療の解禁▽診療報酬に医師の熟達度を反映させる仕組みの導入―の各項目。

 会見で西室会長は、「地域や診療科目だけでなく、病院勤務医と開業医の負担格差についても解消する必要がある」と強調。「今一番過重な労働を強いられているといわれている病院勤務医の負担軽減に確実につながる」よう、病院への診療報酬の配分を手厚くする必要性を指摘した。
 医療従事者間の役割分担については、病院勤務医の負担を軽減するため、看護師や薬剤師などコメディカルの活用が必要だと主張。「スキルの高い看護師などの養成を考えなければならない」と述べた。
 また、「医療従事者の多くが混合診療の解禁を求めている」と述べ、混合診療の解禁についての議論の必要性を示した。
 さらに、現在の診療報酬について「医師の経験熟達度を反映していない」と批判。「これからは専門医が大事になる」「米国では専門医の報酬が高い」と述べ、診療報酬に医師の熟達度を反映させるような制度を導入する必要性も示した。

開業医報酬下げで一致(2009年5月19日読売新聞)

財政審 勤務医に重点配分

 財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は18日、医療機関に支払われる診療報酬の2010年度の改定にあたり、開業医の報酬を引き下げ、病院勤務医に重点的に医療費を配分する方針で一致した。6月上旬にまとめる建議(意見書)に盛り込む考えだ。

 西室泰三会長は会議後の記者会見で、「診療報酬の配分と体系を見直し、過重労働を強いられている病院勤務医の負担軽減につなげる必要がある」と指摘した。年収が開業医の半分程度とされる病院の勤務医の待遇を改善し、病院の医師不足に対応したい考えだ。

 また西室会長は、医師の勤務地域や診療科の選択などに一定の制限がある英独など海外の例を挙げ、「日本も公的な関与が必要ではないか」と指摘した。

ま、いくら病院の診療報酬を手厚くしようが赤字解消に回るだけで、勤務医の待遇改善に結びつくというエヴィデンスなどどこにも存在しないことは今さら改めて指摘する必要もないことですが、むしろポイントは開業医の引き下げの方なんでしょうね。
個人経営が多い開業医の場合はサラリーマンである勤務医と比べるとダイレクトに医師自身の待遇を診療報酬でコントロールしやすい、一方病院の診療報酬引き上げと言っても定額払い制度の支払い切り下げ等で幾らでも別な管理手段はあるということです。

これで見ますとなんだ、結局また医療費削減政策かというだけの話なんですが、最近すっかり影が薄くなった日本医師会の空しい反論を載せている記事もあるようです。

診療報酬の大幅引き上げなどを財政審で提言-日医・中川常任理事(2009年5月18日CBニュース)

 日本医師会の中川俊男常任理事は5月18日の財政制度等審議会の財政制度分科会財政構造改革部会で、「国民皆保険を守るための緊急提言」として、「外来における患者一部負担割合の引き下げ」「診療報酬の大幅な引き上げ」の2点を提言した。

 中川常任理事は、国民の経済的困窮からくる受診抑制、重症化への懸念を解決するために「外来における患者一部負担割合の引き下げ」を、医療資源の大幅な不足・偏在による地域医療の崩壊を食い止めるために「診療報酬の大幅な引き上げ」をそれぞれ提言した。

 これに対して委員からは、以前から財政審でも導入を提言している「少額医療費についての保険免責制をぜひとも導入してはどうだ」との意見が出たが、中川氏は「軽度の医療の負担割合が極端に大きくなってしまうので、皆保険制度の意義が問われる。医師会としては賛成できない」とした。
 また、診療報酬の引き上げに関して委員から、「国民感情からすると、なぜいきなり診療報酬を引き上げるのか理解できない」という意見が出された。「不況の下で民間の給料は下がるのに、なぜ診療報酬だけが上がるのか。議論すべきは診療報酬の推進(引き上げ)よりも、むしろ配分の問題ではないか」との意見には、「診療報酬の配分の見直しという姑息(こそく)な手段では問題は解決しない」と反論した。
 さらに、「混合診療についても前向きな議論をしてほしい」との意見に対しては、「最先端の有効な新薬については、速やかに保険診療の対象にすべきだ。混合診療を全面解禁にすると、安全性・有効性が確保できない。そういうふうな民間療法もすべて解禁されるので反対をしている」と述べた。別の委員からは、「混合診療の解禁が医師の収入を増やす突破口になるのでは」との意見も出たが、「そうは思わない」とした。

財政審:医師会、社会保障費削減に反対(2009年5月19日毎日新聞)

 財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が18日開かれ、日本医師会の中川俊男・常任理事が出席し、医療費削減に反対の立場で持論を展開した。社会保障費削減を主張している財政審に、主張が対立する医師会の代表が出席したのは初めて

 中川常任理事は、「02年度以降の医療費抑制が、病院閉鎖や医師不足の原因。社会保障費削減の計画を撤回し、診療報酬を引き上げるべきだ」と述べた。具体策として、高齢者を中心に患者の自己負担を引き下げ、医師不足解消のため診療報酬の引き上げを提言。財源として必要な約9兆円は、消費税を11・5%程度に引き上げることで穴埋め可能だと指摘した。

 財政審の委員からは「開業医に偏っている報酬の配分見直しで対応すべきだ」などの批判が続出。西室泰三会長は会見で「医療ユートピア論という印象を受けた」と医師会の提言を酷評した。【斉藤望】

これを見るとすっかり医師会=抵抗勢力という図式が鉄板ですが(苦笑)、実はこの話には久しく以前から続く前振りがあります。
一昔前には大病院に患者が集中するのが問題で、日常の診療は近所の開業医にいきましょうという話を政府が音頭を取って盛んにやっていたのはご記憶かと思いますが、あれの尻馬に乗っていたのが開業医の利権団体である医師会だったんですね。
当時の政府は「外来が儲からないようにすれば病院は患者を手放すはずだ」という面白い考え方から病院外来の診療報酬を切り下げたのですが(何故面白いかと言えば、診療報酬切り下げ=患者から見れば大病院にかかった方が安上がりとなってますます患者が集中したからなんですが…)、この政府方針に賛同して病院外来診療報酬切り下げに頷いたのが当時の医師会です。
経緯から見ると「病院の診療報酬を削った」という医療費削減の話だったはずが、いつの間にか時代がたって「開業医の診療報酬が優遇されている」という開業医優遇の話にすり替わってしまっているのも興味深いところで、今度は開業医の診療報酬も削るとなればなんだ、医療費は削減する一方なんだなと誰でも理解できる話です。
こうなりますとさすがに尻に火が付いた医師会も黙ってはいられなかったのでしょうが、はっきり言って己の浅慮を恥じ前非を悔いて率直に自己批判でもしてみせればまだかわいげもあったかなという気もしないでもありません(苦笑)。

いずれにしても財務省側からすると医療費削減政策堅持というのはどうも至上命題のようですから、当然ながら財政審もそれに則った線で話をまとめてくるのは当然なんですが、一応は医師代表という立場で呼ばれているだろう医師会の見解を公の場で「医療ユートピア論だね(w」などと一笑に付してみせるというのは穏やかではありませんよね。
このあたりどういった話が「ユートピア論」であったというのか、当日の議事要旨からもう少し引用してみましょう。

財政制度等審議会 財政制度分科会 財政構造改革部会〔議事要旨〕(2009年5月18日財務省)より抜粋

5.議事内容

      ○まず、「医療崩壊から脱出するための緊急提言」というテーマで、中川俊男日本医師会常任理事よりヒアリングを行った。中川理事の説明の要点は以下のとおり。

          o 診療報酬の引下げを直接的な要因として、平均在院日数の短縮化、患者負担割合の引き上げ、雇用・生活環境の悪化、新医師臨床研修制度の導入といった事態が起きており、また、これを間接的な要因として、全国の病院・病棟の閉鎖、診療科の休止が相次いでいる。社会保障費削減政策は撤回すべきである。
          o 75歳以上の方は疾病にかかるリスクが高く、長期療養が必要なので、高齢者に関しては保険原理が働きにくい状況がある。高齢者の医療費は全額公費負担とし、高齢者以外の一般は純粋保険制度とするべき。
          o 国民皆保険を守るための財源を確保する手段として、①消費税など新たな財源の検討、②国の支出の見直しの継続、③公的医療保険の見直し、が必要。
          o 国民の経済的困窮による受診抑制、重症化の懸念を解決するために、外来患者の一部負担割合を引き下げるべき。医療資源の大幅な不足・遍在による地域医療の崩壊に対しては、診療報酬の大幅引上げを以て対処すべき。

      ○これに対する、各委員からの主な意見は以下の通り。

          o 皆保険制度は世界に誇るべき制度であり、維持していく必要。医療保険制度は患者と医師双方で支える必要がある。
          o 医療費の増加については、財源確保のほかに、医療コストの節減も必要ではないか。経費節減のため、レセプトのオンライン化や後発医薬品の利用拡大に積極的に取り組むべき。
          o 財源確保には消費税の引き上げが必要だと思うが、どう考えるか。
          o 少額医療費についての保険免責制を導入してはどうか。税でも保険料でも、医療コストは国民の誰かが負担することになるのだから、皆保険制度を守るためには、免責制を導入すべき。
          o 混合診療についても前向きな議論をすべき。所得格差が医療格差につながるのはおかしいという意見もあるが、自分の健康に対する投資が不当に制限されるのはおかしいのではないか。
          o 医療の再生には、ただ金を積めばよいということではなく、地域の病院と診療所の連携が必要。医師会には、地域医療システムを構築するためリーダーシップを発揮して欲しい。
          o 医療報酬の配分やあり方そのものを検討するに当たって、中医協のメンバーとしてリーダーシップを発揮して欲しい。
          o 患者自己負担割合の問題は所得水準に依存する話であり、一律の引き下げには反対である。保険制度では、限られたリソースの有効活用が大事であり、高所得者には高額医療費制度が有効に機能するのではないか。
          o レセプトのオンライン化について、医師会は強制化に反対と言うが、多額の国費が投入されている現実があり、医療機関にも相応の義務が発生するのはやむをえないのではないか。
          o 国民皆保険を守るための財源についての3つの提案があったが、これに加えて国庫負担の見直しを考えて欲しい。公的医療保険の見直しの背後には国が医療に対しどういう負担をするかという議論があるし、高齢者医療制度の提案をするのなら、若い人も含めて国庫負担のあり方を検討すべき。
          o 国民感情からすると、医師の給料は高いと思っている人がほとんどであり、不況下で民間の給与は下がるのに診療報酬を引き上げるのは、理解できない。診療報酬には多額の税金が入っているのに、人事院勧告を無視した形で決まる従来のやり方はおかしい。診療報酬の水準より配分の在り方を議論すべき。
          o アメリカでは専門医の方が家庭医より給与が高い。簡単な診療より難しい診療を行う者の給料が高いのは当然で、日本でも開業医より病院の専門医に厚く配分すべき。
          o 医療費、特に高齢者医療費が10年、20年先にどうなるかという推計を医師会は持っているか。
          o 混合診療を解禁することにより、患者側のメリットだけでなく、高額の医療費収入が入るという意味で医師側のメリットもあるのではないか。

      (以上の意見に対し、中川理事より

          o レセプトのオンライン化について、医師会はIT化自体には反対しないが、地方には年配の医師も多く、小規模な診療所に対しても完全義務化し、期限を守れない場合にペナルティーを科すような導入の仕方には反対である。
          o 免責制について、軽度の医療の負担割合が極端に大きくなってしまい、皆保険制度の意義が問われることになる。
          o 混合診療について、最先端の有効な医療、新薬についてはまず速やかに保険診療の対象にすべき。全面解禁すると、安全性、有効性が確保できない民間療法も解禁されるので反対である。
          o 地域医療の崩壊が金だけで再生できないのは確かだが、金が無ければダメなのも実態である。
          o 国保、協会けんぽ等の保険制度からは国庫負担を排除し、若年世帯で助け合う仕組みにすべき。ただし、この提案は、あくまで財源の話として出しているのであって、制度として国庫負担全廃を提案しているわけではない。
          o 医師のあるべき給与水準というのは神学論争。開業医の年収が法外に高いとは言えない。診療報酬の配分の見直しという姑息な手段では問題は解決しない。給与が高いのは一部の医師に過ぎないので、イメージではなくデータを根拠に話して欲しい。
          o 将来の医療費について、10年程度の見通しの推計は行うべきだが、20年先の推計が妥当かということは疑問である。
          o 贅沢な部分は患者負担にすることには反対ではないが、現行の制度でも、認可までの期間を早めれば、混合診療に関わる問題は解決可能である。混合診療を導入しても、高度な医療ができる医師は限られており、保険で認められているレベルそのものが上がる訳ではない。むしろ普遍的な医療のレベルは下がってしまうのではないか。

なるほど、確かに「ユートピア」ですが(苦笑)。
財政審といえば先日も「医師不足の解消に向けた改革案」と称して診療科定員制導入など「お前何様やねん」と思わず突っ込みたくなるようなネタを提供してくれているなかなかありがたいところですが、財務省筋の審議会がこうして筋違いの医療政策にどんどん口を出してくるのもいささかどうよ?と思われますけれどね。
いずれにしても意見を聞いてみましたというのは形だけで財務省の方針に沿った結論が出てくることは既定路線というところでしょうが、医師会側の中川氏に対する空気というものを端的に示しているのが部会後の記者会見での西室泰三(元東芝代表取締役会長)部会長のコメントで、なかなか面白いですからここで引用してみましょう。

財政構造改革部会 記者会見(2009年5月18日財務省)より抜粋

〔西室部会長〕本日は14時から財政審の財政構造改革部会を開催いたしました。議題は、お手元にありますように、「医療崩壊から脱出するための緊急提言」についての有識者ヒアリングということで、日本医師会の常任理事の中川さんからのプレゼンです。
(略)
まず、中川さん、日本医師会の常任理事ですけれども、「医療崩壊から脱出するための緊急提言」という題目の資料1のお話がございました。実際には、ほとんどこのままでご説明をされましたので、あえて繰り返す必要はないかと思いますけれども、まだブリーフィングも何も済んでいないというお話なので、ほんの少しだけ内容についてお話をしたいと思います。

ご主張の第一番最初の部分は、診療報酬の引き下げを直接的な要因として、平均在院日数の短縮化だとか、あるいは、患者負担割合の引き上げ、雇用・生活環境の悪化、さらには新医師臨床研修制度、これを間接的な要因として全国の病院、それから病棟の閉鎖、診療科の休止などが相次いでいるので、何としても社会保障費削減政策は撤回すべきである。

今、ここで申し上げましたように、在院日数の短縮化の話ですとか、あるいは患者負担の引き上げですとか、いろいろ財審としては、むしろ国際比較からいっても、在院日数が極めて長過ぎるということですとか、あるいは患者負担そのものをある程度上げた方がいいのではないかとかいうお話をしてきたわけですが、それは全部撤回して、医療費抑制はやめた方がいいと、こういうお話であります。

今、概略を申し上げましたのが、ずっと最初の方のお話です。長寿医療制度についてのお話というのが、その次の話題ですけれども、75歳以上の方は疾病にかかるリスクが高いし、長期療養が必要になるので、高齢者に関しては保険原理というのは働きにくいという状況がある。これは26ページです。

これを考えると、やはり、保険ではなくて保障ということ、つまり、医療費の9割は公費で、主として国が負担すべきである。28ページですけれども、高齢者以外の一般は純粋保険制度でやったらどうだ、こういうお話であります。

つまり、高齢者の方は全部公費負担にして、それで高齢者以外の一般は全部保険でやる。これがご主張です。

それからあと、それ以外の部分については、国民皆保険を守るための財源として、29ページのところにありますけれども、この3つ、つまり、消費税など新たな財源を検討すべきであるということ、それから、国の支出の見直しの継続をしろ、それに、公的医療保険の見直しが必要である、こういうことであります。

この公的医療保険の見直しというのは、今、保険制度が分かれておりまして、それで、34ページのところにありますように、協会けんぽ、組合健保、それから、共済組合の中の国家公務員、地方公務員、私学教職員と、こう分けて現状を見ると、それぞれの間で負担の仕方についての差がある。保険料率、パーミル書いてございますように、82.00‰、73.90‰、それから、64.34‰その他、これをすべて協会けんぽの料率82.00‰にする、こういうご提案が具体的な提案としてございました。

それから、こういう見直しを同時並行的に進めて、それで消費税を充てるべき費用は2009年、9.1兆円不足しているので、国・地方の配分が変わらなければ、これでどうにもなりません、こういうお話であります。

それであとは、医師会は、これを前提として、35ページのところにございますけれども、国民の経済的困窮から来る受診の抑制、重症化の懸念、これを解決するためには、外来における患者一部負担の割合を引き下げろと、こういうご提案と、それから、医療資源の大幅な不足・偏在による地域医療の崩壊というのについては、診療報酬を大幅に引き上げなさい、こういうことであります。これをやれば、身近な医療機関が健全に存続し、国民が経済的負担におびえることなく、いつでも医療機関にかかることができる。

こういうご提案なんですが、1つの医療ユートピア論と言ってもいいのではなかろうかと思われるようなご説明だというふうな印象を正直言って受けました。

誰にとってのユートピアかはともかくとして、議論の中身だけ追っていますと、まるで医師会が医療の受益者たる国民の代弁者のようにも聞こえるのが面白いですし、こういう利他的とも取れるような調子の良い話ばかり口にしているから医師会というのは信用されないんだとも感じましたがどうでしょうか。
しかし一連の議論を見てみますと財政審から出てくる話というのも相当に香ばしい話題続出なのは注目すべき点で、特に医師会が強硬に反対している混合診療導入に偏執的とも言える執念を燃やしているらしいところは注目されるところではあります。
医療従事者の中でも考え方に諸説あってもちろん混合診療断固反対という医師会の立場が医師を代表するなどと考えられても困りますが、例えば亀田病院理事長の亀田隆明氏などは熱心な混合診療導入論を主張されているところを見てみても、どういう立場で混合診療に賛成なり反対なりしているのかという点は常に留意しておく必要があります。

「混合診療自由化になぜ反対?」(2009年05月11日CBニュース)

 財務相の諮問機関である財政制度等審議会(西室泰三会長)は5月11日、医療法人鉄蕉会(千葉県鴨川市)の亀田隆明理事長から「病院経営が抱える諸問題」をテーマにヒアリングした。亀田氏は病院経営が抱える問題点として、収入の大半を診療報酬に依存し、病院による自助努力に限界があることなどを指摘。これを解消するための課題として、「民間資本の導入」や「寄付の活用」「混合診療の原則自由化」などを挙げた。

 このうち、混合診療の原則自由化について、委員からは「病院が収入を増やしたいだけ。患者の立場を考えておらず、反対だ」との意見が出た。

 亀田氏は「診療報酬だけでは経営が成り立たない」「混合診療の自由化は患者のため」などと主張。混合診療を原則自由化し、認められない医療行為の範囲を列挙する「ネガティブリスト方式」を提案した。
 さらに、「医師会など、一部の医療者が反対していると聞くが、大半の若い医師や病院勤務医は反対していないと思う」「なぜ反対するのか分からない」などとも述べた。

亀田氏がいみじくも「大半の若い医師や病院勤務医は反対していないと思う」と口にしたことからも明らかな通り、ああした人気病院がなぜ反対しないかと言えば、導入によって少数の患者で十分な利益が出るようになる、すなわち今のようなあり得ない数の患者を相手にしなくてよく、医師をはじめスタッフ集め上も有利という事情も大きいでしょう。
自分は混合診療反対派ではありませんが、欧米では医師一人当たり年間相手にする患者が2000~4000人レベルと言われる一方、日本でははるかに多い8000人という患者を診ていながら病院の半数が赤字という現実が何を意味するのかを考えてみた場合に、例えば薄利多売の受益者側たる市民が混合診療に対してどういう態度を取るのかは興味がありますね。
そして一方では西室氏らを代表とする財務省筋の方々は混合診療に対して熱心に導入を図ろうとしている、彼らは医療費抑制政策を堅持する一方で医療への国庫負担を減らし、税率引き上げを始めとする国民負担増を計ろうとしているとなれば、なるほど反対する者を「医療ユートピア論ですね(w」と斬って捨てる背景も理解できるというものではあります。

ちなみに財政制度分科会財政構造改革部会のメンバーはこんな感じとなっていますが、医療問題を論ずるに当たって妥当なメンバーかどうかはいささか異論の余地無しとしないかとも思われるところですよね。
西室氏の出身母体であるところの東芝さんをはじめとする電機メーカー各社も「総崩れ」と言われるほどずいぶんと厳しい状況にあるようですが、まさか医療に金を出すくらいならウチにもっと金を…なんてせこい考えではないんでしょうけれどね、たぶん。
いずれにしてもこの世の中に医療ユートピアなるものが存在するとすれば二十世紀後半の日本がその最有力候補の一つであっただろうことは確かでしょうから、ユートピアがいかにして失われていったかを記録しておくのも同時代人の義務と言うべきものでしょう。

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コメント

o 医療の再生には、ただ金を積めばよいということではなく、地域の病院と診療所の連携が必要。医師会には、地域医療システムを構築するためリーダーシップを発揮して欲しい。
→分かり易く言えば、「金を出す気はない。現場の努力で何とかしろ」ということですかね?

o レセプトのオンライン化について、医師会は強制化に反対と言うが、多額の国費が投入されている現実があり、医療機関にも相応の義務が発生するのはやむをえないのではないか。
→ほう、その国費は一体どこに?少なくとも医療現場には1円も回ってきてませんが。

o 国民感情からすると、医師の給料は高いと思っている人がほとんどであり、不況下で民間の給与は下がるのに診療報酬を引き上げるのは、理解できない。診療報酬には多額の税金が入っているのに、人事院勧告を無視した形で決まる従来のやり方はおかしい。診療報酬の水準より配分の在り方を議論すべき。
→かつてのバブル期、民間の給与に比べ診療報酬の伸びはバカみたいに低く抑えられていましたが何か?

o アメリカでは専門医の方が家庭医より給与が高い。簡単な診療より難しい診療を行う者の給料が高いのは当然で、日本でも開業医より病院の専門医に厚く配分すべき。
→一理ありますが、それならきちんと予算を取って手当すれば良いだけのこと。開業医の報酬引き下げの根拠にはなりません。てか、未だにアメリカ崇拝ですかw

他にも突っ込みどころ満載ですがこの辺で。

投稿: orz | 2009年5月27日 (水) 11時49分

根本的に、医師が「抵抗勢力」にされているのがおかしいですな。
どう考えても、「医療レベルを下げてでも社会福祉費を抑制して、しかも患者の負担を増やす」としているのが財政審の提言なのに、「それでは国民に安定した医療が供給できない」と反対している医師会が「抵抗勢力」にされているあたり、マスコミの世論誘導がすごく働いているとおもいます。

それと、かめちゃん。日本医師会が「混合診療反対」なら、少なくとも日本の医師の半分は反対派ということになるのでは?そりゃ、医師会が一枚岩だったのははるかな過去の話ではありますが。

まあ、財政審の連中は、自分たちが公費で助けてもらうのはOK(エコポイントとか、クルマのエコ減税とか)でも、自分たちの利権がからんでいないところにお金を使うのはNGだという、非常に了見の狭い連中ですから、国民にももっと知ってもらいたいですよね。
まあ、東芝メディカルの機械は他メーカーに比べて安いですから、病院が儲け始めると、よそのメーカーに流れて困る、というのもあるのかもしれませんね。

投稿: Seisan | 2009年5月28日 (木) 10時29分

いろいろと各業界の思惑というのもあるんでしょうが、そういうのと全く無関係な国民がこういう事情をみてどう感じるのかといったあたりは気になりますね。

投稿: 管理人nobu | 2009年5月28日 (木) 12時22分

ユートピアの語源を・・・

投稿: | 2009年5月29日 (金) 22時20分

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