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2009年5月12日 (火)

「専門家」の定義とは何なのか

ご記憶の方もおられるかも知れませんが、先日こんな記事が出ていました。

「手元狂った」 外科医を強制わいせつ容疑で逮捕(2009年5月7日産経新聞)

 大腸の内視鏡検査を受けていた20代の女性の性器に内視鏡を入れたとして、警視庁捜査1課は強制わいせつの疑いで、東京都板橋区小豆沢、外科医師、堀江良彰容疑者(53)を逮捕した。同課によると、堀江容疑者は「手元が狂った」と犯意を否認している。

 同課の調べによると、堀江容疑者は平成16年5月28日、勤務先だった豊島区長崎の病院で、大腸の内視鏡検査を受けていた当時20代だった都内の女性の性器に内視鏡を入れるなどわいせつな行為をした疑いが持たれている。

 同課によると、堀江容疑者は立ち会っていた看護師が目を離した間に、わいせつな行為をした。その場で女性から抗議を受け、「手元が狂った」などと説明していた。女性は今月28日午前0時に時効を迎えることを考え、今年2月に被害届を出した。

最初に話を聞きましたときには「へえ、なんでこんなことで逮捕までされてんだ?」と思いつつも流しておりましたが、結構この件があちこちで話題になってるようなんですね。
その割には報道からは事情が見えてこないというのが気になったところで、例えばこの医師には常習的にこういう行為があったと言った証言でもあれば犯意の存在が推定されるところですが、肝心のそのあたりの情報に関しては全く記事には書かれていません。
またそうなると逆に通常同じメンバーで行っていてお互いの「性癖」を承知しているはずの内視鏡スタッフが件の医師一人から目を離すというのもおかしな話だなとも感じられるところですが(現在どこの病院でも検査室内で女性患者と男性医師を二人きりで放置することは一般論として忌避されています)、それも記事では触れられていません。
そんなこんなでどうも事情がよく判らない話だなというのが正直な感想だったわけですが、実際にその時に二人きりしかいなくて「誤挿入した」という行為だけしか客観的証拠がないという話であれば、これは実際に犯罪行為だったとしてもなかなか立証する方も大変だろうなとは感じさせる話ではあります。

いずれにしても実際の状況も逮捕に至った経緯の詳細も不明ですし、単なる事故なのか犯意があっての行動なのかどうか白黒つけるのが本稿の目的でもないのですが、今回事件そのものよりも面白いなと思ったのが世間での反応と医療関係者の反応にずいぶんとズレがあるらしいことなんですね。
例えば元検察で弁護士という立場でかねて医療問題にも色々とコメントを出しているモトケン氏も記事に対してこんなふうに書いていますが、実のところネット上での一般人からと思われるカキコと言うのがほぼ例外なくこれと同様の内容でした(もう少し言葉遣いはアレでしたけれども)。

モトケンブログ場外乱闘編「どうでもいいことのスレその2」より抜粋

631 :モトケン:2009/05/08(金) 10:58:40 ID:UdD3j/5c0
    >>628
    >そんなことって本当にあり得るものなんですか?
    たぶん、手元が狂って肛門と膣口を間違えたという主張のようですが、医師の治療行為中に「本当にあり得るもの」かどうかは常識の範疇の問題ではないかと思います。
    本当にあり得たとすると医師としての適格性が問題になりそうですね。
    最低限度の外界認識能力がないことになりそうです。
    あまり議論しても意味がないかと思って、表でエントリを立てるのをやめたニュースでした。

なるほど、世間の人々から見れば「あまり議論しても意味がない」くらいに「常識の範疇の問題」なんだなあと改めて感じさせられたわけですが、その後モトケン氏の方ではこの件についてわざわざ専用スレを立てていただいたようで、こちらには医療関係者も含めて沢山のコメントがついています。
当該スレや他のネット上での医療関係者のコメントを見ても判りますように、間違って入れることがあるかないかと言われれば「ある」というのがほぼ内視鏡関係者の共通認識であって、むしろ「あり得ない」という世間の認識の方に常識のギャップを感じたという意見が主流派であると見ていいように思うんですよね。

可能性と犯意の有無はこの場合無関係なのは無論なんですが、少なくとも「あり得ないことが起こってんだから故意に決まっている」という認識はちょっと違うんじゃないかなというのが、ネット上での専門家の一般的見解ということです。

ところが、と言ったところでここからが今日のテーマに関わるところなんですが、この件に関する報道で下記のようなまさしく世間の感覚を裏書きするような内容の記事があるのですね。

専門家も否定する…肛門と性器を間違える“ミス” (2009年5月8日ZAKZAK)

外科医が女性器に内視鏡挿入

 大腸の内視鏡検査を受けた20代の女性の性器に内視鏡を入れたとして、外科医(53)が7日、警視庁に強制わいせつの疑いで逮捕された。2004年5月の“犯行”で、時効ギリギリの逮捕劇だったが、外科医は「手元が狂っただけ」と犯意を否認している。肛門と性器を間違えるなんて、本当にそんな“ミス”が起こるのか?

元国立医療センター医師の黒木誠氏は「間違える可能性ゼロとはいえないが、過去に聞いたことがない。手元が狂ったとしても、すぐに“修正”は可能。診察中に継続して挿入していたとすれば、故意としか言いようがない」と解説する。

 内視鏡検査を受ける際、患者の多くは肛門付近に裂け目が入った特製トランクスを着用。診察台上でヒザを抱えるように横たわるため、自然と肛門が露出するという。

 「その状態であえて奥まった位置にある女性器に挿入しようとすれば、何らかの“作業”が必要。通常の内視鏡検査では医師の両手が操作でふさがっており、看護師の付き添いも不可欠。何か理由をつけて看護師を追い払い、犯行に及んだとしか考えられない」

 また黒木氏は“まな板の上の鯉”状態の患者の不安を悪用した可能性も指摘する。

 「被害者は診察中、違和感を覚えつつも声を上げられなかったと考えられる。鎮静剤によって意識がもうろうとしていた可能性もある」

 外科医が勤務していた病院関係者は「同じ病院に勤務していた者として、恥ずかしいかぎり」と話している。

まあ博識の黒木氏には申し訳ないんですが、この一件が報道されてからと言うものネット上のあちこちで「実はオレもやったことがあるんだ…orz」という懺悔(?)が相次いでおりまして、内視鏡医としては恥ずかしい失敗ながら実は結構皆やってんだなと改めて判明してしまったわけなんですが(苦笑)。

ちなみに大腸内視鏡の挿入手技というのも様々な流派(?)があって一概にこれが正解とは言えませんが、「医師の両手が操作でふさがって」いるのは挿入後の話であって、挿入時には用手的に患者さんのお尻を広げながら(介助のスタッフにしてもらう場合もあります)誤挿入しないようなるべく目で直接肛門部を確認しながらカメラを挿入していく場合が多いのではないかと思います。
中にはもちろん「自然に肛門が露出する」患者さんもいらっしゃいますが、昨今の日本人も体格が向上している事情などもあって残念ながらそうでない場合も当たり前に多々あるわけであって、そうした場合特に女性の場合ですとあまりおおっぴらに広げてマジマジと直視するのも憚られるという遠慮もあるわけで、誤挿入のリスクを高める要因になりかねません。
上記の記事の書き方からするとこの「元国立医療センター医師の黒木誠氏」なる人物がこの問題に関しての「専門家」であると言うことのようですが、その割には記事の内容が良く言っていい加減、普通に言ってデタラメで、到底まともな「内視鏡専門家」の意見とも思えない内容という印象が拭えないわけです。

そこで試しに厚労省ご自慢の(苦笑)「医師資格等確認検索」で黒木誠なる御仁を検索してみましたら、一件だけヒットしたのが平成11年登録の黒木誠氏でした。
後述するような別な記事なども見てみますと黒木氏は30代前半の年格好ということですから、(既に医籍から削除された別人などというオチでもなければ)この御仁であると見て間違いなさそうです。
日本国内唯一の黒木誠氏の現在の境遇について調べてみますと、確かに週二回の(非常勤での?)内科外来もされているようなんですが、別の施設では(やはり非常勤での?)皮膚科医をされていまして、しかも論文等の業績を見てみますとどう見ても内視鏡の専門家どころか、一般的な内科医のそれですらなさそうなんですよね。

少なくとも2001年以降は東邦大学皮膚科第一講座所属と言うことのようですから、逆算して(恐らくは内科系研修医として?)国立医療センターに勤務されていたのは医師免許取得直後のせいぜい2年間以下の期間に過ぎないことになってしまいますから、要するに「国立で研修医をやってみたが初期研修だけでドロッポして今は皮膚科をやっている」という何のキャリアなんだかよく判らない経歴の持ち主と考えてよさそうです。
現在も内視鏡をやっている施設で全く内視鏡に関与していない事実からしても想像できる通り、下手をしなくても大腸内視鏡など「何度か検査を見学したことがある」という学生レベルの知識しか持っていないでしょうから、それは専門家として意見を求められても困るだろうなとは同情いたします。

それでも本業は皮膚科のなんちゃって内科医が無理矢理専門外の領域にコメントを求められやむなく出したのが上記記事の内容だと言うのであれば、まだそれはそれでまだしも言い訳はつくかとも言えるわけですが、実際はそういう話でもないようなのです。
同じZAKZAKで検索してみますと黒木誠氏がコメントを寄せている記事というのが他にもあるんですが、これが皮膚科にも内科にも縁遠いような領域ばかりなんですよね。

母親が娘を8年間自宅監禁…近隣住民の通報で保護(2008年10月30日ZAKZAK)

重度の衰弱と知的障害

 札幌市北区の女性(21)が19歳までの約8年間、母親から自宅で監禁状態に置かれていたことが30日、分かった。2006年8月、市保健福祉部と父親によって保護された際、女性は部屋の片隅で座り込み、自力で歩けないほど衰弱していた。現在、福祉施設で治療を受けているが、長年の監禁が原因の知的障害と認定され、小学1年生の教科書を使って勉強しているという。

 札幌市によると、女性は小学2年まで普通に登校していたが、3年になった1996年ごろから母親が「娘が連れて行かれる」と学校から連れ戻し始めた。さらに、「娘が父親や学校に危害を加えられる」という妄想を抱くようになり、外出を禁じるなどして徐々に監禁状態に追い込んでいった。6年生だった98年度には登校日が1日となり、中学進学後も1年時に2日。2-3年時は出席ゼロとなった。

 両校の担任教諭は月数回女性宅を訪問したが、母親が「娘は体の具合が悪い」などと面会を拒絶。04年ごろ別居状態となった父親が、05年1月、市の出先機関に相談したが助言にとどまった。06年6月、近隣住民が「異臭がする」と地元警察に連絡。8月になって児童相談所に「怒鳴り声が聞こえる」「子どもの泣き声が聞こえる」といった虐待を疑う通報が寄せられ、ようやく保護に至った。

 母親は買い物など時折外出していたが、現在は統合失調症と診断され、精神保健法に基づき医療保護入院しているという。

元国立医療センター医師の黒木誠氏は「長期間監禁されていても、通常の食事と適度な運動が確保されれば歩行困難には成り得ない。重度の衰弱と知的障害となった状況を考えると、極度に狭い空間で運動を制限させられていた可能性が高い。発見時の体重は30-40キロ程度だったのでは」と解説する。

 国内の長期監禁事件としては00年1月、90年11月に新潟県三条市で行方不明になっていた小学校4年生=当時(9)=の女児が、無職の男によって9年2カ月も柏崎市内の一軒家に監禁されていた事件がある。

ナースに薬物注射レイプ…外科医師のお粗末手口とは(2008年2月19日ZAKZAK)

会議室で仮眠中の女性看護師の尻に睡眠剤を注射し、乱暴したとして、強姦致傷などの疑いで、元東京女子医大心臓血管外科医師(35)が逮捕された。心臓外科の世界的権威とされる施設で、しかも女性を最も大切にするはずの女子医大で、背筋も凍る事件が起きていた。

 警視庁捜査1課によると、容疑者は昨年12月12日午前2時ごろ、東京女子医大(東京・新宿)の会議室で、仮眠中の20代の女性看護師の尻に、服の上から睡眠剤を注射。看護師が目を覚まして抵抗すると、馬乗りになって顔を殴るなどの暴行を加えた疑い。容疑者は「私も仮眠するために会議室に入った。後は覚えていない」と犯行を否認している。

 容疑者は1999年に医師国家試験に合格。当初所属した浜松市内の病院では、心臓外科手術の症例で何度も学会発表するなど精力的な活動が認められ、2006年12月に東京女子医大へ栄転した。

 しかし、競争が激しい女子医大では目立った功績もなく、実質的には「研修医に毛が生えた程度」(関係者)の無給の助手に甘んじていた。

 犯行の手口も極めてお粗末で、心臓外科の手術を知り尽くした医者とは思えないほどズサンだという。元国立医療センター医師の黒木誠氏(33)は次のように解説する。

 「犯行に使用した睡眠剤は、『ドルミカム』と思われます。全身麻酔を打つ際に使用する筋肉注射用の睡眠導入剤ですが、当然痛みが伴ううえ、血流に吸収されてから脳に達するまで最低でも30分はかかる。意識ももうろうとするレベルで、犯行を認識される可能性は十分あります。同様の犯罪では、アルコールなどに『ロヒプノール』などの経口服用睡眠剤を混入させるケースが大半です」

 女子医大は事件から8日後の同月20日、警視庁に届け、26日に懲戒解雇処分とし、約2カ月の間、院外には一切公表していなかった。

 永井厚志院長は「社会的に許されない行為だが、職場内の個人的な傷害事件で、規定に基づき適切に対応した」とコメントしている。

しかしまあ、黒木誠氏にとって国立医療センターで研修医をやったということは経歴上よほど重要なことなんでしょうかねえ(苦笑)。
コメントの内容については敢えて触れませんけれども、この方はコメントする対象に関しては全く節操がないのか?という素朴な疑問は誰しも抱くところではないでしょうか。

何の専門家なんだかもよく判らなければ医療業界内でも全く何の影響力もない人物の的外れなコメントを毎回こうして専門家の意見として引用するZAKZAKというメディアもずいぶんと怪しいところだなとは思いますが、こうしてみるとこの黒木氏がよほど使い勝手の良い人物ということなんでしょうね。
ちなみに御存知のない方のために申し上げておきますが、ZAKZAKというのは「産経新聞社が発行する「夕刊フジ」の公式サイト」ですから、なるほど医療報道に関して並ぶ者なき産経新聞社ともなればこれくらいの手駒の一人や二人抱え込んでいるのも納得、といったところでしょうか。
さて、メディアのこういう行為を業界用語では何というのか知りませんが、その意図だけは恥ずかしいくらいにあからさまなのは見ているこっちが恥ずかしくなってきて困るのですけれど(苦笑)。

「あいつの場合に限って常に最悪のケースを想像しろ。
 奴は必ずその少し斜め上を行く!!」

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コメント

 黒木誠先生には、是非 産経のコラムも執筆していただきたい。羊先生と並ぶ二枚看板になれることでしょう。

投稿: JSJ | 2009年5月12日 (火) 10時53分

ぐりけんさん、Good job!
産經新聞について人に説明しやすくなりました。

投稿: 放置医 | 2009年5月12日 (火) 12時22分

ZAKZAKって、アレでしょ?産経新聞における毎日で言うところのWaiwai。
ちょっとお下品なネタOKなやつ。

まあ、そういうレベルですよ。
医師免許持ってたら「専門家」なんです。

実際、私はこの黒木某先生が本当にしたコメントなのかどうかも疑ってます。
コメンテーターとして協力してくれ、と言われて、了承したせいで、どんどん名前を使われている、そんな気がします。
元職の肩書ばかり使われて、現職の肩書を書かないあたりもそう感じる理由です。

黒木某先生も、自分のキャリアを大事にしたいんだったら、早々にコメンテーター役から撤退することをお勧めします。でないと好きなように名前を使われますよ。そういった例も知ってるもので(本人が言った覚えのないコメントがマスコミに使われる、という)。

投稿: | 2009年5月14日 (木) 10時48分

こういう話を聞くと、周囲のまともな医者は記事を見て何も言わなかったのかとはいつも思うところですけれどもね。
経歴から想像するところの皮膚科に途中入局の半フリーター医師という立場ゆえに、そういう助言をする相手もいなかったと言うことなのか…

投稿: 管理人nobu | 2009年5月15日 (金) 12時15分

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