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2009年4月 1日 (水)

不況の最中、医療業界も厳寒期に突入している

世間では不景気真っ盛りで、この春の新卒者の就職もずいぶんと厳しい状況だと言います。
一方では比較的景気の動向に左右されない印象のある医療業界ですが、このところ構造的不況とでも言うべき状況に見舞われているのですね。
本日は新年度の初めから恐縮ですが、ひどく不景気な話を取り上げてみようかと思います。

病院の赤字:過去最大 100床当たり月1261万円(2009年3月31日毎日新聞)

 全国の病院の医業収支(医療での収入と経費の差)の赤字額が08年に、ベッド数100床当たり月約1261万円に上ったことが、全国公私病院連盟(竹内正也会長)と日本病院会(山本修三会長)の調査で分かった。67年の調査開始以来最も赤字額が大きかった。コストカットを優先する病院が多い中、診療報酬だけでは経費を賄えない現状があるとみられる。

 全国の病院の約4割にあたる3412病院に対し、08年6月1カ月の医業収支などを尋ね、1206病院(回収率約35%)が回答した。

 医業収入は100床当たり約1億3609万円で、対前年比1.1%の減少。内訳は、入院収入が約9063万円(対前年比0.1%増)でほぼ横ばいだったが、外来収入は3.6%減の約3995万円と落ち込んだ。

 一方、必要経費に当たる医業費用は約1億4870万円で、1.2%増えた。特に給与費の伸びが目立ち、1.3%増の約7791万円。100床当たりの赤字額は月約1261万円で、過去10年で最少だった00年(月約475万円)の倍以上に膨れ上がった。

 また、医業外を含めた総収支でみると、黒字の病院は23.8%にすぎず、76.2%は赤字だった。

 すでに3/4が赤字という状況では産業として成立していないとしか思えませんが、これぞまさしく医療の暗黒時代とでも言うべきなのでしょうか。
こういう状況になれば民間病院から真っ先に再編成が起こってくるでしょうし、その煽りを受けて公立病院も今まで以上の過酷な状況に追い込まれざるを得ないでしょう。
いずれにしてもどこの施設でも経営というものに対する要求は一段と厳しくなるでしょうから、何よりも医療を為す上で施設にとって得か損かという視点がかつてないほど求められることになりそうですが、果たしてそれが誰にとっての幸せにつながるのかということですね。

皆保険制度下での医療不況の大要因として政府が推し進めてきた社会保障費抑制政策の影響があったことも否定できないところでしょうが、事ここにいたってもまだまだ手綱を緩める気はないようです。

医療クライシス:コストカットの現場で/1 総務省「3年で経営改革」要求(2009年3月31日毎日新聞)

 ◇「黒字化」苦しむ公立病院

 「予算計上を認めていただきたい」。今月6日の岩手県議会。達増(たっそ)拓也知事が議員に向かい、じゅうたんに額をこすりつけるように土下座した。

 県立の1病院と5診療所の入院用ベッドを休止(無床化)するなどとした、県立病院・診療所計27施設の経営改革計画。反発した議会は、関連予算を認めなかった。無床化した診療所から、入院の必要な患者を病院へ送るマイクロバスの購入予算だった。

 県の狙いは27施設の黒字化だ。経営に年141億円を出しているが、合計収支は年10億円余りの赤字。県の試算では、6施設の無床化で年約12億円の節減になる。他の策も合わせ13年度には県の支出を123億円に減らし、10億円の黒字にするという。議会は土下座後もバスの予算を認めなかったが、結局は無床化を容認した。

 北海道に次ぐ広さで過疎地も多い岩手県。診療所周辺の住民は「開業医もなく、夜間・休日は無医村になる」と反発した。4万2653人の反対署名を知事に出したが、県は「医師不足が危機的で医師負担軽減も必要だ」と強調し、バスの代わりにタクシーを借りて計画を進めるという。

   ■   ■

 総務省は07年12月に出した「公立病院改革ガイドライン」で自治体に対し、病院経営を3年程度で黒字化する案を08年度中に作るよう求めた。小泉内閣から続いた構造改革路線の一環だ。

 総務省によると、07年度は全国957の公立病院に自治体から計約7000億円が支出された。それでも計約2000億円の赤字。公立病院はコスト意識の薄さを指摘され、効率化は欠かせない。だが、救急、へき地など不採算医療を担い、黒字化は簡単ではない。

   ■   ■

 兵庫県北部の但馬地区。豊岡市と朝来(あさご)市で作る「公立豊岡病院組合」が5病院を経営し07年度は約19億円の赤字だった。3年での黒字化は無理とみて、17年度までの9年で黒字化する計画を立てた。

赤字の主因は医師不足という。組合の試算では、医師1人が年約8000万円稼ぐが、03年度に113人いた常勤医は07年度には102人に。医業収支(医療での収入と経費の差)の赤字は、03年度は約8000万円だったが、07年度には約17億円に拡大した。

 計画によると、10年度から毎年、組合の奨学金を受けた医師が5病院に順次着任する。17年度に15人に達し、黒字化を見込む。

 だが、前途は険しい。手厚い看護体制にすると診療報酬が増えるため、08年度に看護師70人の確保を目指したが50人にとどまった。医師の突然の退職もある。昨秋、公立豊岡病院の麻酔科医5人のうち3人が辞めた。4月にやっと4人に戻る。

 同病院の竹内秀雄院長は「地方は不便で子供の教育にも困り、医師が定着しにくい。経営は大事だが、(総務省には)医療の質という視点がない。小児科など不採算な科も縮小はできない」と訴える。

いつの頃からか経費削減、効率化という言葉が至上のものであるかのように言われるようになっていますが、そもそも医療における無駄を削り、効率を改善するとはどういうことなのでしょうか。
例えばロケットの打ち上げなどには今でももの凄い管理体制が取られていて、普通そこまでやるか?というレベルの過剰なマージンが組み込んであります。
旅客機などともなればそれよりは数段落ちますが、それでもきちんと管理されたスケジュールに従って整備を行い、公共交通機関としては統計的に見れば非常に安全な乗り物としての地位を確保しています。
これが自家用車となりますと二年ごとの車検なるものはありますがこれもほとんどザルと言ってもいいレベルのもので、幸い今は機械的信頼性が上がっているからこそ何とかなっているとは言え整備不良車の比率はロケットや飛行機とは比較にならないでしょう。

ではほとんどの場合事故を起こすことのないジャンボジェットにかけている整備費用は無駄なのか、もっと簡略化すれば運賃はずっと安くなるんじゃないかと言われれば、多くの乗客は何かあってもらっても困るし、安全と安心のためのコストとして仕方がないだろうと感じているのではないでしょうか。
あるいはオイルはいつ交換したのかも判らない汚れっぱなし、ラジエーター水は下限を下回っていても知らんぷり、タイヤは摩耗し放題で空気圧?スリップサイン?何それ食べられるの?状態でも平気で毎日車を乗り回していられるのは、車に何か不具合があってもまあ何とか我慢できる範囲で収まるんじゃないかと考えているからですよね。
日常生活の多くの場合において安全にかけるコストとその利益とはまあそれなりに相関関係があるんだろうなという了解が成立しているわけですが、ある意味で安全というのは「ほとんどの場合に無駄となるだろうコストを余計にかけて買うもの」であると言えるのでしょうね。

ところが何故か世界一のコストパフォーマンスを維持していても「まだまだ無駄があるはずだ!さっさとコストダウンしろ!質を落とすことは一切まかりならんぞ!」などという妙な言説が、こと医療業界に対しては要求しても構わないのだと考えておられる方々が大勢いらっしゃるように見えるのが何とも不思議に思えます。
角を矯めて牛を殺すという言葉がありますが、日本よりはるかに金銭的にシビアな国民性を持っているだろう国々も含めて各国よりずっと安上がりで質の高い医療を維持してきた日本の医療に対して更なるコストダウン要求を強いることは、黙っていても99点を取れる子供に100点以外まかりならんと連日徹夜で猛勉強をさせ試験当日に過労で寝込ませるような行為ともなりかねないのではないかと思いますね。
そんなことよりもはるかに優先順位が高く、早急に改善されるべき問題が医療業界の外側に多数あることは今や周知の事実となっているわけですから、容易に改善し得て実効性も大きい領域から手を付けていく方がよほど「効率的」ではないのかと言うことです。

たとえば周産期救急が最近何かと話題になっていることから政府では各地の病院にNICUを作れ作れと言っていますが、東京都の「周産期医療体制整備プロジェクトチーム(PT)」座長を務める猪瀬直樹氏がこんなことを言っています。

1床あたり年間700万円以上も赤字では…新生児集中治療室の収支モデルを分析、増床策を提案する(2009年3月25日日経BP)

 周産期医療体制の問題で、17日、舛添要一厚生労動相を厚労省に訪ね、「NICUの整備促進に関する緊急要望」を提出した。僕が座長を務める東京都の「周産期医療体制整備プロジェクトチーム(PT)」による提言だ。昨年発生した、重症妊婦を複数の病院が受け入れ拒否した問題への対応策である。

NICUにいくらかかるのか、その収支モデル分析を初めて試みた

 「受け入れ拒否」の現場となった都立墨東病院、杏林大学病院の2つの事案とも、連絡を受けた総合周産期センターで受け入れができなかった原因の多くは「NICU満床」だった。NICU(新生児集中治療室)は、24時間体制で集中治療が必要な未熟児などに対して、人工呼吸器など特別な機器を備えた透明なアクリル製の保育器である。母子の容体が危ないときに搬送される総合周産期センターでは、かかりつけの産科医院では対応できない高度な周産期医療が行われるが、そのために必要なNICUが不足している。

 PTでは、これまでに都立墨東病院や杏林大学病院などを視察してきた。その際、僕が「NICU1床は、年間いくらでまわっているのか」と聞いても、誰も答えられなかった。医療関係者は、いままで「医師が何人足りない」という話はしても、「NICU1床を維持するのに年間いくら必要か」という考え方をしたことがないのである。

 NICUを増やしていくためには、新生児科医など担い手の確保が必要だが、これに加えて、経営体としての病院の経済的な裏づけも重要である。そのためには、収支モデル分析が欠かせない。

 収支モデル分析の必要性は、道路公団民営化のときも痛感した。旧道路公団には、「高速道路1本1本の年間収支はいくらか」という発想がなかった。僕は、どんぶり勘定でやっていた経営を改めさせて、収支分析を出した。そうすることで、説得力のある議論が可能となったのである。

 NICU1床あたりについて、PTでは、診療報酬などの収益と、医師・看護師の給与、薬品費、診療材料費、福利厚生費、維持業務委託費などの費用、建物の一定の床面積等についての減価償却費を計算した。その結果、4200万円の支出に対して、収入は3300万円で、900万円の赤字が出る構造になっている。さらに都の運営費補助金を投入してもなお1床当たり700万円以上の赤字が生じていた。

国はNICU増床を言うけれど、補助金は出さないという矛盾

 こうして、NICUでも高速道路と同じような収支モデル分析をして、どれだけのお金が足りないのかを、はっきりさせることができた。問題はこれまで、この赤字をどうやって処理してきたかである。

 高速道路の場合は、東名高速などの黒字路線から赤字路線にお金をまわしていた。NICUの場合も同じように、他の診療科から産婦人科にお金をまわしている。また、同じ産婦人科のなかでも、赤字の周産期医療と違って、正常分娩は収益が見込める。そのため正常分娩を増やすことで、NICUの赤字を埋め合わせてきた。

 本来なら、正常分娩は地域のクリニックが引き受け、緊急時の周産期医療に大病院が対応する形が望ましい。しかし、NICUが赤字だから、大病院では正常分娩を増やして埋めるしかない。その結果、正常分娩で大病院が忙しくなり、緊急時に対応できなくなるという悪循環が生じている。地域のクリニックとの役割分担ができない状況になっている。

収支モデル分析でNICUを増やせば増やすほど赤字が膨らむことが明らかになったころ、厚労省の「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」で、NICU増床という方針が打ち出された。出生1万人対20床という従来のNICUの整備目標を見直し、出生1万人対25~30床を目標にするものだ。現在の目標は出生1万人対比でおおむね20床となっている。東京都では出生数が10万人なので、NICUは207床、従来の整備目標はすでに達成している。

 新たな整備目標を達成するには、NICUの収支を改善しなくては増床するインセンティブがない。しかし、厚労省の周産期センターへの補助金は NICUに対して出されておらず、MFICU(母体・新生児集中治療管理室)という別の病床に対してのみ補助を出している。新しい方針が出たのに、従来のままの補助システムではちぐはぐである。

診療報酬の引き上げ、もしくはNICUへの適正な補助金──2点を提言

 国として、NICUを増やすという方針を出したのなら、そうなるような政策を具体的に実行する必要がある。赤字を埋めるような政策ができなければ、NICUを増やすというインセンティブは働かない。かけ声だけで実のある政策が打てなければ、また問題が繰り返される。

 僕は舛添厚労相との会談で、次の2点を提言した。

 まずは実態に見合うように、NICUの診療報酬を引き上げること。現行の診療報酬は1日あたり8万6000円だが、収支モデル上の赤字額700万円を診療報酬で埋めるためには、1日あたり2万3000円プラスして11万円程度の水準に引き上げる必要がある。

 これが直ちに難しい場合は、現在MFICUしか対象としていない国の周産期センターの運営費補助金を見直して、今後はNICUも対象としていくこと。東京都ではすでにNICUを対象に運営費補助金を出しているのだから、国も見習ってほしい。

霞が関と医療機関は透明性を高め、データを提示してほしい

 舛添厚労相とは、次のような話もした。

猪瀬 大事なことは、役人ではない舛添さんや僕のような人間が、経営の透明性をきちんと考えていくということだと思います。とくに厚労省は、透明性がないという伝統を持つ省庁だから、こういう問題を契機に、透明性を高める体質を作り上げていかなければいけない。もちろん予算の絶対量が足りないという面はあるけれど、限られた範囲内でも解決していく方法があるだろうということです。透明性を高めて収支モデルを明らかにすれば、おのずと問題も見えてきます。

舛添厚労相 私たちも、そのための努力をずっと続けてきています。やっぱり、普通の市民、普通の都民、普通の国民が見て、「あっ、それなら納得できるな」という形でやっていくというのが大事です。そのために情報の透明性を高めていくことには、もちろん大賛成ですよ。

猪瀬 国がこれだけ「NICUを揃えろ揃えろ」と言ったって、実際には設置していけばいくほど赤字になってしまいます。だから、 NICUを増やす気が各病院に起きてこない。そういうところを考えて、墨東病院はじめ2つの事件のようなことが、これから起きないようにしたいと思います。

舛添厚労相 周産期医療だけでなくて、医療体制全体の抜本的な見直しが必要だと考えています。そのなかで、東京都では猪瀬さんが副知事として問題に対処していただけるのは、非常にありがたいと思います。

猪瀬 旧知の仲だけど、まさかこういう形で舛添さんのところに来ることになるとは思わなかったよ(笑)。

舛添厚労相 私も、猪瀬さんがこういうところまで乗り込んで来るとは思わなかった(笑)。猪瀬さんとは気心の知れた仲なので、今後ともひとつよろしくお願いします。こちらから出せる情報はいくらも出しますよ。

 厚労省も東京都も、これまでNICU増床の必要性を認識しながら、経営体である病院に対して、必要な財政負担の分析と議論がなされてこなかった。これは、役所だけにデータがしまい込まれていたからである。

 霞が関と医療機関は、必要なデータを公開し、分析して、提示してほしい。今回の提案が、その第一歩になればと考える。国もこれをNICUの整備促進に向けて必要不可欠な提案と受け止め、新たな整備目標の実現に向け取り組んでもらいたい。

医療機関にとって損にしかならないことをドンドンやれ!とお上が強要すると言ったようなあり得ない現実があるわけで、消火器の押し売りですら消火器としての役には立つのだと考えるならば、これはそれ以下の犯罪的行為とでも言うべきでしょうか?
まあそのあたりは国中の俊英を集めた政府が先の先まで見据えて考えてやっていることですから、医療現場としてはただ黙々と合法的な範囲内で生き残るためにしかるべく対応を取っていくということになるわけですが、それで誰がどのような得をするのかということをマスコミの仕掛ける安易な医療バッシングの尻馬に乗る前に国民も考えていかなければならない時期ではあるでしょうね。

一方で公平を期すために言及しておかなければならないことは、医療現場に全く改善すべき余地がないかと言われれば、これが掃いて捨てるほどに沢山あるという点です。
しかし長くなりましたので、そのあたりは次回以降に続けさせていただきます。

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コメント

医者は高給取りなので命も私財も家庭も省みず一般市民のために尽くさねばならない。
これがこの国の一般市民の考えです。
これじゃ絶滅しますわな。

投稿: REX | 2009年4月 2日 (木) 01時01分

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