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2009年4月13日 (月)

社会的責務として求められる医療従事者の労働環境整備

年度末はどこの業界も修羅場を迎えていたのではないかと思いますが、医療業界も例外ではありません。
もっともこちらの場合年度末だからどうこうと言うよりも、積年の問題がこうした機会を捉えてたまたま噴出してきたと考えた方がよさそうですね。
年度初めにはこういった修羅場とも関連して色々と面白い話が出ていますが、まずは沖縄の記事から紹介してみましょう。

患者・家族の不安拡大 琉大骨髄移植医の退職問題/「理由を公表して」/沖縄(2009年04月10日沖縄タイムス)

過重労働改善も要望
 県内で唯一、骨髄バンクを介した移植が可能な琉球大学医学部附属病院の骨髄専門医3人が退職することに、患者や家族の不安が広がっている。同病院では3月に小児科の骨髄専門医1人が辞めた直後で、「なぜ次々に医師が辞めるのか」「病院は早く理由を調べて公表すべきだ」と訴える。一方、病院側は退職について「新聞報道で初めて知った。医師の所属する医局と調整し対応を決めたい」としている。

 2007年に白血病で骨髄移植を受けた男性の妻(33)は、今年2月末に担当医から直接辞意を聞いた。現在も夫は月1~2回通院している。「移植できて感謝している」と話す。一方、「白血病は再発が怖い。今度は県内で治療できなくなるかもしれないと考えると怖い」と不安を口にした。

 昨年10月に移植を受けた崎原正志さん(28)と妻の千尋さん(31)=那覇市=は約2週間前、別の担当医から退職について聞いた。「病状や治療方法を丁寧に答えてくれた。最近体調が悪いと聞いていたが、まさか辞めるとは」と驚く。

 正志さんは今月、一時体調を崩して再入院。最近退院した。千尋さんは「担当医は『心配な時はいつでも電話して』と言ってくれた。急な高熱や痛みで、夜中、救急に行くべきかどうか迷った時に相談したこともあった」と話す。

 医師退職の原因が過重勤務にあると新聞報道で知り、夫妻は心を痛めている。「医師の退職は患者だけの問題ではない。医療体制を守るためにも病院は、医師の勤務実態など問題の所在を明らかにしてほしい」と求めた。

 がんの子どもを守る会沖縄支部の片倉弘美幹事は「小児科医の退職をきっかけに要望した治療体制の継続についても、病院からまだ正式な回答がない」と病院側の対応に憤る。「別の医師も退職すると聞いて驚いている。早急な回答を要求したい」と述べた。

いや理由を公表と言いますがそれこそ個人のプライバシーの問題ですし、そもそも「最近体調が悪い」とまで言っているのに24時間オンコール体制を続けていたならそれは身体が保たないのも当然だと思いますけれどね。
記事から見る限りずいぶんと熱心に診療に当たられていた先生なんだと思いますが、これは典型的な燃え尽き現象と言うべきものではないでしょうか。

若手医師が臨床を離れる理由に「これが一生続くと思うととても無理だと思った」という声がよく上げられますが、決算期を乗り越えればという気持ちがある他業種と違って医療業界の場合多くは365日ずっと似たような状況が続きますし、しかも今後それが改善される見込みにも乏しいとすれば「もう限界、勘弁してくれ」と心が折れてしまうのも仕方ないでしょう。
かねて医療崩壊問題に関しては報道を通じて多大な貢献をしていると定評のある毎日新聞でも、同日付でこんな記事が出ています。

現場から:命のとりで /神奈川(2009年4月10日毎日新聞)

 「あと10年間、持つのか」。大学病院の医師の間で、こんな言葉が交わされているという。深刻化する勤務医不足を受け、政府は昨年、長年の抑制策から養成増に転じた。全国の大学医学部には今月、昨年度より約500人多い新入生約8500人が入学した。横浜市立大でも、約90人が緊張した面持ちで医学部長の言葉に耳を傾けた▼だが、彼らが一人前の医師になるには10年間かかる。長時間労働に学生指導の負担も増える現役医師たちは、それまで持ちこたえられるのか▼連載「医療クライシス」の取材で各地の医師に会うと、真剣に医療に取り組む人ほど苦しんでいるように思える。「取材なんか受けるひまはない!」と、悲鳴のような声で電話をたたき切られたこともある。最前線で命と向き合う医師のために人や予算を充てることが、なぜ難しいのか。私たちが命を預ける人たちが、追い詰められ続ける理由などないはずだ。

「いや取材拒否ってそれ毎日だからじゃね?」という素朴な疑問は置くとして、下記の記事のように10年などとトンでもない、今この瞬間にも危ういのだという声も一方ではあります。
このあたりは語る人間の主体によって何をもって医療崩壊とするかの定義の違いも絡むのだと思いますが、四病協などともなりますとまさにネズミに逃げ出された沈みかけた船状態の方々が大勢関わっておられることでしょう。
しかしこの記事、見れば見るほど突っ込み所にあふれていてなかなかに素敵ですよね。

「半年以内に先進国医療から後退も」(2009年4月10日CBニュース)

 日本病院会などでつくる四病院団体協議会(四病協)と超党派の「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」(代表=尾辻秀久・自民党参院議員会長)は4月10日、「メディカルスクール構想」をテーマに、東京都内でシンポジウムを開いた。国会議員や一般参加者など約80人が出席し、四病協メディカルスクール検討委員会の本田宏委員(済生会栗橋病院副院長)と中田力委員(新潟大脳研究所統合脳機能研究センター長)が講演した。中田委員は「おそらく、今何かしなければ、間違いなく6か月以内に日本は先進国医療から立ち遅れる」と警鐘を鳴らし、危機感を持つよう出席者に求めた。

 四病協の代表としてあいさつした日病の山本修三会長は、メディカルスクール構想のコンセプトについて、「質の良い臨床医を育てることだ」と強調
 山本会長はまた、「毎年、臨床研修医の中から100人以上がドロップアウトしている」と明かした。その理由について、「医師になりたいというモチベーションがあまりない」「臨床に出た後で(大学で勉強した内容との)あまりのギャップにやっていけない」の2点を指摘した上で、「米国のメディカルスクールでは、ドロップアウトする生徒はいないと聞いている」と述べた。

 講演の中で本田委員は、「今のままでは学士にもなれないし、途中でドロップアウトした人は本当につぶしが利かなくなってしまう。日本の医師国家試験は、医師数を減らそうとした時から年に1回になった。ちょっとでも体調が悪くて落ちると、1年待たなければならない」と問題提起。「米国では(試験を)毎日でも受けられると聞いている。いいところは米国のまねをして、日本の医師がよりよい臨床医になるよう理解と協力を頂きたい」と求めた。

 一方の中田委員は冒頭、「おそらく、今何かしなければ、間違いなく6か月以内に日本は先進国医療から立ち遅れる。それはもう確実だ。そうなれば絶対に元に戻らない」と強調。
 解決のキーワードとして、「要素が多過ぎて、どれを扱えばよいか分からない系」である「複雑系」を挙げ、「医療は『複雑系』の代表。まず『複雑系』だということを理解し、最初に解決法を考えなければ何をしても無駄だ」と指摘。そして、「医師の数を増やしたところで何の役にも立たない。どうすればきちんと患者を診る医師を増やせるかがポイントだ」と述べた。
 解決策の「応急処置」として、中田委員は「医師ではなく、患者を診ている病院に大量の資金を注ぐ」ことを提案。「病院医療を守ることによって、医者たちが戻ってくる」とした上で、「正しい専門医がつくれる、きちんとした医療改革をつくるという『根本治療』をやらなければならない」と訴えた。そして、「こうした議論ができる委員会を内閣府に設置してほしい」と求めた。

 質疑応答の中で、日本の適正な医師配置について、本田委員は「地域で決めなければならない」と答え、中田委員は「自分たちの意思と世の中の要求がうまく重なるようにしなければならない」と、配置は医師側が決めるべきだとの考えを示した。

例によって例の如く「メディカルスクールで良医育成!」一辺倒な方々はともかくとして、現状の学士入学、社会人入学組のその後の状況に少しでも虚心坦懐に向き合っていればモチベーションやドロップアウト云々に関してもう少し異なった見解も出てくるかと思うのですけれどもね。
今の時代不足しているのは最前線の野戦病院で奴隷労働に従事する方々であるわけですが、こうした奴隷医養成のためには妙な社会常識など抱え込んでいない人材が欠かせなかったという歴史的経緯がありました。
世間知らずの初心な連中を院内に幽閉し強制労働させるに近い行為を臨床研修と称して行ってきた時代には、極めてモチベーションの高い医師達が世に満ちあふれていた医療の黄金時代と言っても良いかも知れません。

時代は流れ臨床研修の内容も以前に比較すればすっかり(社会常識的には)まともなものと化し(旧世代の研修を受けた医師達からは「お客様研修だ」とずいぶん評判は悪いようですが)、ストレート入学組以外にも社会人などを経験した理性と常識ある人々が医学部にも大勢入学してくるようになりました。
こうした世間並みの常識を持っている人々が増えてくると「きつい仕事を我慢せずすぐ逃げる」「美容整形など安易な金儲けに走る」などと言われているようですが、苦労をせずともお金を稼げる手段があるのであればそちらの仕事から埋まっていくのは世の中当たり前の現象ではないでしょうか?
問題とすべきは学生のモチベーションがどうのと言う以前に労働環境として社会的に通用しない状況を平然と放置してきた医療業界の怠惰であるべきで、内部でだけしか通用しない価値観で染め上げてきた旧来のロジックこそ正義としてなおも後進に強要するというのであれば、それは「洗脳」と呼ばれる行為と同じだと思います。
こうした洗脳の結果どういうことになるのか、その一例としてこちらの記事が参考になりそうです。

勤務医の労働改善に高い壁 時間外勤務の上限“過労死ライン”超/滋賀(2009年4月9日中日新聞)

 成人病センター(守山市)など県立3病院の医師らの時間外勤務で労働基準法違反があった問題で、県病院事業庁などは先月末までに労使間の協定を結び、大津労働基準監督署に届け出た。協定内容は現場の実態を考慮して、厚生労働省が示す過労死の認定基準を超える時間外勤務を労使ともに認めるしかなかった。人員不足の解消など、勤務医の労働環境の改善が急務となっている。 (林勝)

 「(3病院で6割にあたる)過半数の勤務医が労組に加入すること自体が全国的にも画期的なこと。労働の適正化を求める意識が医療現場で高まっている」。病院側との労使間協議に臨んだ県自治労幹部はこう話す。

 1日8時間の法定労働時間を超えて勤務させる場合、勤務時間の上限を定める労使協定を結び労基署に届け出なければならない。県立3病院は従来、この労基法の規定を守らず、勤務医らの裁量に頼った運営をしてきた。

 この結果、脳神経外科や産婦人科などの診療科目によって違法な長時間勤務が常態化。昨春、内部告発を機に労基署がセンターを立ち入り調査して是正勧告を行った。同庁は自治労など職員団体と協議を開始。3病院の医師の労組加入も相次いで、熱心な議論が続けられた。

 しかし、医療現場と労基法の両立は現実的に不可能とする勤務医は多い。ある医師は「我々は労基法を守る前に、医師法または医師の倫理に従って仕事をせざるを得ない」と強調。医療従事者の長時間労働の上に日本の医療が成り立っている現実を指摘する。こうした状況に慢性的な人員不足が拍車を掛け、勤務医の負担は増える一方になっている。

 今回の労使間協議では現実を踏まえ、時間外勤務の上限を決め、当直を見直した。病院側は厚労省が定める過労死認定ラインを下回るように、勤務医の時間外勤務を月80時間以内とする案を提示した。しかし「最初から破られることが分かっている協定を結ぶべきでない」とする現場の意見があり、成人病センターでは月120時間を上限とすることで決着。これに沿って労働改善に取り組んでいくとした。

成人病センターの医師は「労基法と診療に対する責任を両立させるため、互いが譲り合った現実的な協定だと思う」と評価する。ただ、協定を継続して守るためには勤務医の負担軽減策が急務だ。病院事業庁は「欠員となっている診療科の医師確保に努め、事務作業などで医師の業務をサポートする方法も考えていく」と話している。

産科・小児科領域というものは世間的にも関心が高いですが、特に周産期のトラブルとも絡めて昨今の医療業界ではやや過敏とも言えるほど厳重な対応を余儀なくされています。
ところが患者に対しては厳しいことをいう医療業界内部では、全業種平均で90%に登る育児休暇取得率がわずか1/3程度と極めてお寒い状況にあることが先頃の調査でも判明しています。
過労が判断を鈍らせミスを招くということは既にはっきりとしたエヴィデンスが存在していて、アメリカなどでは過労レジデントによる医療事故が訴訟沙汰になって以来、医師の労働時間を独自の法的規制によって管理することで医療安全を確保しようとしています。
興味深いのはアメリカにおいても日本と同様に「長時間労働は医療教育現場のカルチャー」であるとか、「長時間労働がレジデントたちにdedication(献身), stamina(持久力), responsibility(責任)といったものを教えるんだと信じ込んで」いるなどといった声が現場にはあるということなのですね。
しかし明快なエヴィデンスに逆らい過労によって患者の命と健康に不利益をもたらす行為が果たして社会的正義なのかと考えてみれば、医療従事者はより良い治療法を追求するのと同等以上の熱意でもってより良い職場環境を追求する社会的義務があるように思います。

一昔前の過労死がさんざんに取り上げられた時代には「日本人はワーカホリックだ」などと諸外国から言われたものでした。
当時と比べれば日本の労働環境も幾らか改善されてきているのでしょうが、最近では別種の労働問題で賑やかだそうで相変わらず自殺率などは世界トップクラスを誇っています。
そしてその世界トップクラスの中でも更に医師の自殺率は一般より3割増に高いと言いますから、医療従事者の心身の健康が保たれているとは到底言えない状況ですよね。

最近の調査によれば残業の多いサラリーマンほど職場での幸せを感じる比率が高いと言う傾向があるようで、ある種ランナーズハイにも似た症状を呈するのは医療現場に限ったことでもないのでしょう。
しかし自分が患者の立場に置かれた場合に、心身の健康を損ない過労で冷静な判断力を失い、ともすれば精神的安定すら欠くような医者に命を預けたいかと言われれば、医療従事者は何よりもまず職業的責任感に従って健全かつ健康たるを目指さなければならないのではないかとも思うのですけれどね。
近ごろでは予防医学が盛んですが、あなたが必死に患者のためにと懇切丁寧に説明をしているつもりでも、相手の方では「この先生には言われたくないなあ」と考えているかも知れないということです。

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コメント

>私たちが命を預ける人たちが、追い詰められ続ける理由などないはずだ。

いったい誰が追い詰めたのか小一時間(ry

医師不足と申しますが、足らない医師を大事にしようという発想が受療者側、あるいはマスコミに全くないのがポイントですね。
ここまで医師不足が話題になっているのに、いまだに大手マスコミからは「不要不急の病院受診を避けよう」とか、「時間外の利用は緊急時のみにしましょう」とかの話は全く出ず、「夜間診療など、患者側のニーズにこたえるべきだ」などと平気で言いますから。
患者側のニーズに応えるためには、まずは通常業務に余裕ができなければ無理だ、ということがなぜわからないのでしょう。
コンビニにしたって、社会資本が整って、流通や人材が安定しているから実現できた業種なわけでね。
日常業務で過労状態が改善するためには、すべてが病院に集中する今のシステムをやめて、外来診療所>病院外来>急性期>慢性期>介護のすべての段階の流れをよくして(特に介護をもっと拡大するべき)、今よりも患者が減ってもつぶれないようにするのに十分な診療報酬を出して(医科も介護も)、ちゃんとマスコミがそのことを国民に納得させえるような世論を形成し、啓蒙活動を行い、二人三脚で責任を分担してもらう必要があります。

カネは出さない、24時間フリーアクセス、その上で世界一の医療を維持、という「地球はひとつ、戦争をなくそう」というくらい非現実的な要求を突きつけていることを、もっとマスコミは理解してほしいものです。

投稿: Seisan | 2009年4月13日 (月) 17時52分

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