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2009年4月 8日 (水)

産科ももれなく崩壊中 復活への道は何処に

年度の変わり目ということもあってか各地から医療環境のさらなる悪化を知らせるニュースが相次いでいますが、もちろん崩壊最先端の産科医療に関しても例外ではありません。
ここ数日目についただけでもざっとこれだけの関連記事が出ていましたが、これらも氷山の一角に過ぎないことは言うまでもないことですよね。

塙厚生病院:分娩受け入れ存続を要望 2万4559人の署名提出 /福島(2009年3月4日毎日新聞)

 ◇東白川郡4町村など

 塙町の塙厚生病院で4月から、医師減員により分娩(ぶんべん)の受け入れが困難になる問題で、同町を含む東白川郡4町村などが3日、JA福島五連会長やJA厚生連などに存続を要望した。2万4559人分の署名を提出し、「産婦人科の医師2人体制の堅持を」と求めた。

 同病院の産婦人科は郡内で唯一、分娩を取り扱い、07年度では185件あった。病院側は4月から同科の医師が1人体制になるため、「分娩の受け入れは難しい」としている。2月から、4町村の全世帯を対象に署名が呼びかけられ、街頭での署名活動も実施された。

 塙町によると、この日、菊池基文町長ら4町村長と「塙町産婦人科医体制堅持対策協議会」の鈴木道男副会長らが署名を提出し、体制堅持を求めた。JA五連の安田寿男会長は「趣旨は理解した。地域の皆さんと一緒に努力したい」と答えたという。

出産数県内最多の佐藤病院 受け入れ制限 /群馬(2009年04月04日朝日新聞)

 県内で最も多くの出産を手がけている産婦人科専門の佐藤病院(高崎市)が、妊婦の受け入れ制限に踏み切った。これまでは「来る者は拒まず」で対応してきたが、受け入れが増え態勢の限界に達したからだ。背景には、産科医不足や開業医のお産離れがある。

 佐藤病院の08年の出産数は1833人で、前年より約100人増えた。陣痛から回復まで一部屋で過ごせる分娩(ぶん・べん)室(LDR)を04年に3室から5室に増やしたが、当時想定していた出産数は年間1800人だった。医師数は常勤5人、非常勤16人。増やしたいが募集をかけても集まらないという。このため3月から現状を超える出産希望者は断ることにした。

 佐藤雄一副院長(40)は「ここでの出産数は頭打ちになると思っていたが、増える一方。市内の他病院に相談したら『うちは余裕があるから大丈夫』と言ってもらえたので決断した」と話す。

 外来の削減にも踏み切る。現在は1日平均160人を4人の医師が診ているが、120人に減らす計画だ。妊娠10カ月に入るまでは1、2回精密検査に来てもらうだけにして、定期検診はお産を手がけない産婦人科医院に任せる。「セミオープン」と呼ばれる連携システム。佐藤病院で勤めた後独立した医師も多く、カルテの書き方を統一するなど連携が取りやすいという。

 その分、現在1~2人態勢の病棟の医師を常時2人以上確保する。産科医療への要求水準が高くなっているためという。

 外来削減にあたっては、利益率の高い外来診療が減ることによる収益の落ち込みを補うため、出産料金の値上げも検討している。

 佐藤病院に次ぐ年間約1250人の出産を扱う前橋市の横田マタニティーホスピタルは、1500人の出産を扱えるため受け入れ制限はしていない。横田佳昌・医療法人愛弘会理事長は「高崎は前橋より大きな病院が少なく、佐藤病院に集中するのだろう。限界を超えると医療事故が起こりやすい。無理せず制限した方がいい」と話している。

 佐藤病院では、周辺でお産を扱う病院が減ったことに加え、妊婦の大病院志向の強まりが同病院での出産数急増の原因とみている。医師不足と大病院への過度の集中は、全国で「お産難民」が生まれる事情と共通する。

 日本の赤ん坊の半分近くは、今も医師が1、2人の診療所で生まれている。この診療所が、次々にお産の扱いをやめている。

 産科医療関係者の間では、「内診問題」が開業医のお産離れが進む引き金になったと言われている。子宮口の開き具合を確認する内診は医師と助産師に限られるが、産科医側では医師の指導監督下なら看護師も可能と解釈されてきた。ところが02年に厚労省が看護師の内診を禁じる通知を出し、06年には内診を看護師にさせていたとして複数の病院が捜査を受けた。

 佐藤副院長は「助産師の絶対数が足りない。医師と看護師だけの小所帯では、お産が難しくなった」と話す。

 産科の勤務医不足も深刻だ。県内でお産を扱う医師の数は94年に194人いたが、06年には168人に減った=グラフ。減少率は13・4%。同時期の出生数の減少率16・1%に比べると、余裕があるように見える。

 だが医療事故の責任を追及されることが多いのを嫌って若い医師の産科離れが加速し、医師の高齢化が進み、働き盛りの負担感が増しているという。35歳以下の産婦人科医は半数以上が女性といい、結婚・出産で現場を離れれば医師はさらに不足する。

 このため、病院で出産の予約を取り付けることさえ苦労する地域もある。佐藤副院長は「特に横浜では里帰り出産は厳しく、妊娠4週目で予約を入れないと間に合わないほど。『里帰り先の30件以上の病院に全部断られた。やっぱりここで産みたい』と頼まれたこともある」と話す。

県立志摩病院産婦人科が休診 医師退職、後任も辞退 /三重(2009年4月4日中日新聞)

 志摩市の県立志摩病院の産婦人科が、3月16日から、1人しかいなかった医師の退職などにより休診していることが分かった。同病院では2006年11月にも医師が不在となり、分娩(ぶんべん)の取り扱いを休止。約5カ月後に医師1人を確保して再開したが、2年で再び休診に追い込まれた。

 同病院などによると、昨年12月に医師から、2008年度末での退職届が出され、受理。新たな医師を京都府から迎え入れるめどが立ち、準備を進めていたが、健康上の理由などから3月になって医師が辞退し、前任者も退職したという。

 同科では月平均4、5件の分娩を扱っていた。市内では、ほかに出産できる医療機関はなく、伊勢市など市外に行かなければならない。

 病院は「新しい医師が来られなくなるのは想定外だった。常勤は難しい面もあるが、非常勤医師は確保し、早く婦人科の業務は再開したい」としている。

 志摩病院では、内科・循環器科の医師減により、3月から同科外来を完全紹介制とし、夜間などの救急受け入れ日数も減らすなど、診療体制の縮小が相次いでいる

こうして見てみますとやはり無理はしない、質を落とすくらいならアクセスを制限するという思想はかなり滲透してきている印象を受けますが如何でしょうか?
全国どこでも産科はキャパシティー不足が顕在化してきていますが、社会的要請からも粗診乱療に走って質を落とすことは困難ですから、少しでも実質的なキャパシティーを上げるためには一層の効率化しか手段はないということにならざるを得ないでしょうね。
「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」とは非常に悪い印象のある言葉ではありますが、実際に多少なりとも効果があるものであるなら工夫してみるのもよいかも知れませんが、あくまでその実効性に対する評価をきっちり判断していくという大前提は崩すわけにはいきません。

ところで上記の記事中でも「セミオープン」という話が出てきていますが、例えば先日は東京都からこういうニュースが出ています。

周産期連携病院:都福祉保健局が2病院を指定 /東京(2009年4月2日毎日新聞)

 都福祉保健局は1日、出産に際して一定程度の危険が見込まれる「ミドルリスク」の妊婦に対応する「周産期連携病院」に、東京慈恵会医科大付属青戸病院(葛飾区)と都立府中病院(府中市)を指定した。周産期連携病院の指定は2回目で、計8施設となった。

 周産期連携病院は、地域の産科医院や、ハイリスク妊婦の処置にあたる周産期母子医療センターと連携し、内科の合併症や緊急の帝王切開などに休日・夜間含めて24時間体制をとる。都は今年度中に合計21病院を指定する予定。

ミドルリスクとは聞き慣れない言葉だなと思っていろいろとググってみておりましたら、こういう資料が出てきました。
平成17年から厚労省のやっている「周産期医療オープン病院化モデル事業」なるものの資料ですが、妊婦かかりつけの産科診療所、助産院ではローリスク分娩のみを扱い、ハイリスク分娩は診療所医師が病院(オーブン病院)に出向いて出産を取り扱うというシステムを検討しているものです。
ちなみにセミオープン病院とは分娩までの管理は診療所で、分娩自体は病院医師が取り扱うというスタイルのことですね。

全国幾つかの自治体で産科施設が加わって行っている取り組みですが、実際にやってみるとすでに幾つかの問題点が指摘されているようです。
例えばオープン病院に出向いている間診療所は閉鎖になるわけで経営的にも難しいだとか、事故があったときに誰が(どの施設が)責任を取るのかだとか、あるいはこれだけ手間暇をかけても(診療所医師にすれば往診ですしね)収入面でインセンティブがないと厳しいだとか、考えてみれば当たり前の話ばかりです。
そんなわけで誰も手を挙げる診療所がいないものだから実際にはセミオープン病院でないと少なくとも地方においては無理だろうという結論になりつつあるようですが、今回の記事に言うところの周産期連携病院というものがこのセミオープン病院に相当するものというわけです。

これも病診連携の一つということになるのでしょうが、例えば東京都における状況ではこちらの記事などが参考になるかとも思いますので紹介しておきます。

日本医科大多摩永山病院の成功例に学ぶ 周産期医療体制を整えるには強いリーダーシップが必要だ

先日も世間を賑わせたかの愛育病院などでも割合積極的にこのオープン病院、セミオープン病院としての機能を果たしているようで、資料によれば2006年にはそれぞれのシステムに則って100件前後の分娩をこなしているということです。
こうした事業の理念自体の是非はさておき一千万都民の分娩に対してどれほど貢献するのかと言うところを考えるならまだまだ先は長いなという話ですが、こうした事業もあくまで質的な部分を担保するという大前提を抜きにしては無意味なものとなりかねません。
その意味ではこういう記事を読んでみますと、果たして現場の当事者意識として大丈夫なのか?と危惧しないではいられないものも感じるのですがどうでしょうか?

【産科医解体新書】(32)愛育病院「指定返上」の波紋(2009年4月7日産経新聞)

 リスクの高いお産を診る「総合周産期母子医療センター」の指定返上を、愛育病院(東京都港区)が都に打診しました。このニュースは、われわれ産婦人科医にとって非常にショッキングでした。愛育病院は昔から、周産期に力を入れている病院として有名で、その病院でさえ限界にきているのですから、まさに産科崩壊ここに極まる、です。

 今回の問題は、愛育病院の労働環境が劣悪だと労働基準監督署から指摘されたことに端を発します。厳密に労働基準法を順守するのであれば、日本全国ほとんどの産科のある病院は法律違反をしています

 僕のいた医局も総合センターに指定されています。僕がいたころの話ですが、いくつかの総合センターは常に満床で、搬送の受け入れが可能になったためしがありませんでした。つまり、総合センターとしての役割を果たせていなかったのです。これは、病床や人員の関係でやむを得ないことともいえます。

 このころ、僕らに労働時間のアンケートがありました。労働時間超過を疑われたためです。改めて考えると、自分がすごい長時間、病院にいることに気づきました。でも、僕らはそれが普通のことだと思っていました。僕は途中まで記入したのですが、はたと思いました。このアンケートを真剣に記入して提出したら産科が立ち行かなくなると。ちょうど他科でも労働時間が問題になっていて、労基署による家宅捜索がありました。結局、僕らはアンケートを提出しませんでした。

 自分たちで労働環境の改善を訴えておきながら、いざとなると、何となく尻込みしてしまった僕らは反省すべきかもしれません。産科医の労働環境改善が遅れたわけですから。しかし、患者さんのことを考えるとモラルジレンマに陥ってしまうのが辛(つら)いところです。

 医師の労働環境を問い直す時期だとは思います。ただ、今回のように旧厚生省と旧労働省で仕事を縦割りで進めていけば、間違いなく産科医療は一度崩壊することになるはずです。(産科医・ブロガー 田村正明)

自身が産科医でもある筆者はこれを「モラルジレンマ」と称していますが、果たしてそのように捉えるべき問題なのでしょうか?
これと全く同様の言葉を、例えば運送業界で働く運転手の人がしゃべっていたとしたらどうでしょう?

このころ、僕らに運行速度のアンケートがありました。速度超過を疑われたためです。改めて考えてみると、自分がすごい速度で、トラックを走らせていることに気付きました。でも、僕らにはそれが普通のことだと思っていました。僕は途中まで記入したのですが、はたと思いました。このアンケートを真剣に記入して提出したら会社が立ち行かなくなると。ちょうど他の運送会社でも速度超過が問題になっていて、警察による家宅捜索がありました。結局、僕らはアンケートを提出しませんでした。

労働者としての権利の尊重などと言う以前に、ひどく無責任で反社会的な行動であり自分勝手な論理の発露のように思えませんか?
例えば事故を起こしたトラックの運転手がこうした言葉を口にしたとして、あなたが被害者であったとしたら「ああ、あなたも大変つらかったのですね。それは仕方なかったです」と素直に許す気になるでしょうか?
もちろん中には心の広い人もいて同情的な言葉を投げかけてくれるかも知れませんが、それが世間での一般的な反応であるかどうかについては他科の2~3倍にも及ぶ産科の被訴訟率を思い出してからにした方が良いのではないでしょうか。
過労というものは判断力を大きく鈍らせる要因の一つであることはすでに広く知られていますが、過労の現場を離れてすらこうした奇妙な勘違いが根深く残っているということに医療業界の問題点が存在している気がします。

実のところ産科医不足問題というものは別に日本でだけ起こっていることではなく世界的な現象であって、その理由もまたどこででも似たような状況であるのだなと感じさせるものであるようです。
先頃医師会から発表された話ですが、こんな記事を見てみますとおそらくどこの国でも日本と似たような議論が繰り広げられているのだろうなと苦笑せざるを得ないところですよね。

産科医不足・偏在は諸外国も共通(2009年4月1日CBニュース)

 日本医師会は4月1日、定例記者会見を開き、日本を含め米国や韓国など15か国・地域の産科医の状況を探った調査結果を公表した。それによると、11か国・地域の医師会が「産科医の不在や偏在がある」と回答しており、この問題が諸外国でも共通して見られることが明らかになった。

 調査は、厚生労働省の子ども家庭総合研究事業「分娩拠点病院の創設と産科2次医療圏の設定による産科医師の集中化モデル事業」の分担研究「産科医を恒常的に確保するための各国の施策についての調査」として、日医が世界医師会に加盟する17か国・地域を対象に昨年1-8月に実施。このうち14か国・地域から回答を得て、日本を含めた15か国・地域分を集計した。

 それによると、「現在の産科医数に不足あるいは偏在がある」と回答したのは、15か国・地域中11か国・地域に上った。このうち、「不足」と「偏在」の両方があるとしたのは、日本、カナダ、ニュージーランド、イスラエルの4か国。また、「不足」のみは、英国、タイ、台湾の3か国・地域で、「偏在」のみは、米国、フランス、フィンランド、韓国の4か国だった。
 一方、産科医の不足や偏在はないとしたのは、ドイツ、デンマーク、シンガポール、アイスランドの4か国だった。

 産科医が不足・偏在する理由を聞いたところ、「女性医師の増加による人手不足」「訴訟の増加による産科医の早期退職」「医師の開業医志向による勤務医の減少」などが挙げられた。

 一方、産科医確保対策を聞いたところ、「研修医(インターン)数の管理・制限」が最も多く、回答があった12か国のうち7か国が挙げた。以下は、「地方・へき地での医師確保のための財政支援(奨学金、補助金)」(6か国)、「国内の総産科医数の管理・制限」(5か国)と続いた。

もちろん何をどうやっても対応できない場合には研修医の強制配置(学徒動員?!)などといった医療業界内部での強権発動もやむを得ない場合もあるのでしょうが、現状では医療業界を取り巻く外部環境にこそより大きく改善するべき余地があるようにも感じられます。
「聖職者さながらの献身」をもって世界一高効率な医療を行っている医療従事者を更にむち打って逃散を招くよりは、それ以外の部分で少しずつ皆が頑張っていった方がはるかに効率的だと思えますし、何より国民全てが等しく自ら改善出来る部分を探していくという行為こそ医療を守る意識改革につながっていくような気がするのですがどうでしょうかね?
地方も医療を失う被害者のような顔ばかりしていて良いのかと言えば、一面では自ら地域医療の崩壊を招いている側面も多々あるようにも見えるのですが。

妊婦健診無料化の実態を調査  厚労省(2009年4月7日47ニュース)

 4月からすべての妊婦健診を無料で受けられる仕組みが導入され、厚生労働省は7日までに、実施主体の市町村の取り組み状況について実態調査を始めた。

 日本産婦人科医会の調査で、実際に完全無料化している市町村は1自治体しかないことが判明。国は健診費用分に当たる地方交付税を市町村に配分したものの、交付税の使途は自治体に委ねられていることから、財政難などで別の用途に支出しているためとみられ、同省母子保健課は「調査結果を分析して、必要な施策を考えたい」としている。

 国は2008年度第2次補正予算などで、出産までに必要な14回の妊婦健診費用(計約11万3000円)を手当てした。約7割は自治体が負担、残り約3割は国から補助金が支給される仕組み。自治体負担分は交付税から賄うようになっている。

 これで、ほとんどの市町村では健診費用を全額公費で賄うことが可能なはずだが、医会が2月に支部を通じて調べたところ、約20道県の市町村の中で完全無料化は茨城県大子町のみ。ほかは補助率が約80%、約70%がそれぞれ4割で、約60%の市町村も2割あった。

 健診は自由診療のため、1回当たりの費用は医療機関によって異なり、予算で手当てされた額より高いところもあれば、安いところもある。補助率によって、妊婦は窓口で実際の費用との差額を請求されることになる。

未受診妊婦 減らせ 札幌市が対策/北海道(2009年04月06日朝日新聞)

■公費負担5→14回/啓発「10カ条」案まとめる
■安全出産へ健診促す

 一度も妊婦健診を受けず、出産間際になって体の異常を訴え、病院に駆け込む「未受診妊婦」を減らそう――。札幌市でそんな取り組みが進められている。国の政策と連動して4月から、妊婦健診の公費負担を拡充。さらに母子の健康や安全な出産に必要な知識の普及を進め、妊婦健診へと促す方針だ。関係者は「物心両面の対策で出産リスクの減少につなげたい」と意気込む。 

   ◇

《キーワード》
◆妊婦健診   母子の健康状態の確認のため、出産までに14回は必要とされる。血圧測定、尿検査などの一般的な診察のほか、血液検査、超音波検査などがある。費用は内容によって異なるが、1回あたり数千円~1万円程度。健康保険の対象外だが、国は今年4月、14回分を公費で負担するとした。道内でも多くの市町村で健診費用が公費負担される。

   ◇

 「ホテルで1人で出産したが、どうしていいか分からない」

 今年1月、夜間の産婦人科の急患に対応する札幌市の産婦人科救急電話相談に24歳の女性から電話があった。へその緒はつながったままで、母体から少量の出血がある状態だった。

 この女性は妊婦健診を受けていない「未受診妊婦」で、妊娠週数も不明なため、重症・重篤な患者に対応する北大病院(札幌市)に救急搬送した。母子ともに無事だったが、過去に二度の出産経験があり、前回の出産は帝王切開だったため、分娩(ぶんべん)時に子宮破裂を起こす危険性もあった。

■救急搬送13件

 同市の産婦人科救急電話相談には、08年10月の相談開始から5カ月間で、妊娠中の女性から361件の相談が寄せられた。そのうち、未受診妊婦と考えられるケースは約22%にあたる81件。その中で、急な出産や症状が深刻だったため、入院や手術に対応する2次救急病院や重症・重篤な患者に対応する3次救急病院に搬送したのは13件だった。

 北大大学院の水上尚典教授(産婦人科学)は「全国的に未受診妊婦の出産は全分娩(ぶんべん)数の0・3%ぐらいと言われている。札幌市では年間40件ぐらいあると考えられる」と話す。

未受診の場合、母子の生命が危険にさらされる可能性が高くなる。水上教授によると、未受診妊婦では、早産になるケースが20~30%と、通常の出産より4~6倍高いという。早産の子どもは妊娠周期が満期で生まれた子どもより死亡率が10倍高く、母親も妊娠高血圧症候群などの合併症が起きやすくなる。

 また、未受診妊婦は、産婦人科医や新生児集中治療室(NICU)の不足とともに、妊婦の救急搬送の受け入れ拒否の原因の一つとも言われている。病院側にとって、妊娠週数や母子の健康状態が分からない中での救急対応はリスクが高く、簡単には受け入れられないためだ

 同市はこうした状況を問題視。1月下旬に開かれた同市の産婦人科救急医療対策協議会で、未受診妊婦対策の検討を始めた。

■経済面も背景

 未受診の背景の一つとして指摘されている「経済的な理由」に対応するため、妊婦健診の公費負担をこれまでの5回から、出産までの望ましい回数とされる14回に増やし、超音波検査も8回分を公費負担とした。国の08年度2次補正予算の目玉として「妊婦健診の無料化」を打ち出したことが追い風となった。

 同市保健福祉局の飯田晃・医療政策担当部長は「助産所や市外の医療機関での出産も補助の対象にしており、経済的な理由で未受診となるケースはかなり減らせるのではないか」と見る。

 一方で、同協議会は、妊婦健診の必要性や健診費用の公費負担などを市民に分かりやすく伝える必要があると判断。3月下旬の協議会で、母子の健康や安全な出産のために必要な知識なども盛り込んだ「元気な赤ちゃんを産むための『新市民啓発10カ条』案」=表=をまとめた。

 同市は携帯電話のホームページやフリーペーパーに掲載するなどの広報手段を検討中で、今年度中に実施する方針だ。

 ただ、予想外の妊娠などで周囲に妊娠の事実を隠している人や、健診そのものを面倒がる人たちもおり、こういう人たちにいかに受診を勧めるかがなお課題だ。飯田部長は「地域住民が妊婦を温かく見守る環境作りなど、未受診妊婦を解消するための様々な手段を考える必要がある」と話す。

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コメント

古いブログ記事のコメントで申し訳ありません。

前から気になっていることですが。。。

>厳密に労働基準法を順守するのであれば、日本全国ほとんどの産科のある病院は法律違反をしています。
産科医・ブロガー 田村正明先生
のご発言ですが。。これはほとんどではなくすべての間違いではないでしょうか

>厳密に労働基準法を順守するのであれば、日本全国(すべて)の産科のある病院は法律違反をしています。
???

厳密に労働基準法を順守する(法律違反をしていない)産科のある病院というのを知りたいのですが。。。
そういう情報があれば、たぶん、産科志望の研修医も集まるのではないでしょうか

産科医・ブロガー 田村正明先生は上記にて少数例だが厳密に労働基準法を順守する(法律違反をしていない)産科の
ある病院はあると公言されていますのでぜひその病院を知りたいです。


投稿: 京都の小児科医 | 2009年4月13日 (月) 13時08分

いかにも労働条件良好そうな施設というものは今も時に見かけるんですが、おそらくそういう施設ほど36協定など頭にないでしょうしね。
よほど分娩数が少なくて暇な施設であっても拘束時間などを入れていくとなかなか難しいと思いますし、そもそもそうまで暇な産科で経営的に成り立つかと言う疑問もあり、まして産科志望の研修医にとって魅力的かと言えば…どうなんでしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2009年4月13日 (月) 13時31分

管理人様

>いかにも労働条件良好そうな施設というものは今も時に見かけるんですが、おそらくそういう施設ほど36協定など頭にないでしょうしね。
>よほど分娩数が少なくて暇な施設であっても拘束時間などを入れていくとなかなか難しいと思いますし、そもそもそうまで暇な産科で経営的に成り立つかと言う疑問もあり、まして産科志望の研修医にとって魅力的かと言えば…どうなんでしょうか

上記なるほどとも思いました。

ただ、しぼって周産期母子医療センター(数はそうないですから)だけでも学会あたりで全数調査していただければと思います。
>厳密に労働基準法を順守するのであれば、日本全国ほとんどの(周産期母子医療センター)は法律違反をしています。
ではどうでしょうか


投稿: 京都の小児科医 | 2009年4月13日 (月) 21時41分

追加ですが

所属していないものの発言で申し訳ありませんが
こういった情報を日本産科婦人科学会がもっていることは重要ではないでしょうか

投稿: 京都の小児科医 | 2009年4月13日 (月) 21時58分

まさにそうした類の調査がようやく実施され、公開されつつあるというのが昨今の現状であるように思いますね。
働かせる側ももちろん問題ですが、何より働く側の意識というものもこの場合大いに問われるべきではないかと思います。
昨今ではようやく現場スタッフを守ることが医療システムを守ることであるという認識が出てきたようですが、未だにいつの時代の人間かと思わされるような精神論を振りかざして突貫してしまう方々が大勢いるのも現実ですので…

医療改革提言 多摩の現場から(3)2交代制で負担軽減
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyotama/feature/hachioji1236784422546_02/news/20090314-OYT8T00087.htm

投稿: 管理人nobu | 2009年4月14日 (火) 10時52分

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