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2009年4月16日 (木)

臨床研修制度関連のあれこれ

いきなりタイトルと少しずれますが、臨床研修制度ということでネタを見繕っておりましたら、同じ臨床研修でも「外国人臨床修練制度」に関する話題で見つかったのが下記の記事です。
ところで中国人医師のその後についてはネットなどでも色々と噂は聞きますが、少なくとも素晴らしかった、是非またやろうと言った類の声はあまり聞いたことがないのですが、結局岩手医大ではどう総括されたのでしょうかね?

上原すみ子 外国人医師に活躍してもらうためには(2009年4月10日Buisiness i)

 医療機関専門の人材紹介会社が、日本で働きたい外国人医師を日本の医療機関に仲介し、日本の医師不足に一役買おうとしている。昨年、第1弾として、中国人医師を北福島医療センターに仲介したほか、日本語のできる外国人医師を医師不足が深刻な地方の医療機関の産婦人科や小児科に紹介しようと奔走している。

 本来であれば、外国人医師に日本の国家試験を受験してもらい、日本で働いてもらうのがベストだが、「臨床修練制度」という研修制度を利用することで実現できるという。

 前例もある。岩手県では2005年に産婦人科医不足を補うため、この制度を利用して中国の遼寧省瀋陽市の中国医科大と協定を結び、岩手医大に日本語のできる中国人医師を研修医として迎え入れた実績がある。

 元々は外国人研修医のために、日本で診療などに従事できる制度として創設されたのだが、医師不足を解消するために活用した珍しいケースで、同じように活用しようと考えている大学病院も少なくない。

 労働時間が不規則な産婦人科と小児科の医師不足は深刻化する一方。特に医師が都市部に集中した結果、地方では、小児科医が休診や廃業に追い込まれるケースも後を絶たない。

 日本は、東南アジアの国とEPA(経済連携協定)と呼ばれる、貿易だけではなく、人の移動も自由化する2国間協定を相次いで締結した。本来はフィリピンとの協定を通じて、日本に看護師を招聘(しょうへい)する計画だったが、実際にはほとんど実現していないのが実情だ。

 というのも、世界的にも優秀な医師や看護師は不足している。フィリピンの看護師さんは、同じ英語圏の香港やシンガポール、中東でも人気でいわば引っ張りだこ。日本語しか通じない日本の医療機関は不利な条件にある。

 英語が普及していないのであれば、無料で日本語を教えればいいという意見もある。外国人医師や看護師を招くのであれば、日本語のできる人だけを受け入れるのではなく、無料の日本語学校などを全国的に整備し、彼らが日本での生活を楽しめるような支援策も同時に打ち出さない限り、優秀な人材を招くのは難しいといえる。

いずれにしても医療市場が開放されると日本の医療というものの国際競争力が明らかになってくるんじゃないかと思いますが、その結果どういうことになるのか医療関係者の間でも見解が分かれています。
すでに医療崩壊先進国のイギリスなどでは自国医師が国外逃亡した結果残ったのは外国人医師ばかりといった話も聞きますが、出て行くにしろ入ってくるにしろ言葉の壁が日本にとって人材の流動化に対する制限になってきたのは確かでしょう。
わざわざ外国語を覚えて出稼ぎにいくくらいなら、なにも日本語など覚えなくとも英語でも覚えた方がよほどつぶしがきくはずで、給料も労働環境も悪い日本に優秀な外国人医師が来るはずもないと言う意見もありますが、実際には日本語が不自由でも出来る仕事というのは結構あるものだから現場の需要はあるという意見もあるようです。
しかしながら、全国的な医師不足という現象に大きな影響を与えるほどのものは期待できないという点ではほぼ見解の一致を見ているようですから、いずれ人材が流入してくるにしても過剰な期待感を抱くことは禁物ということなのでしょう。

それはともかく、以前にも書きましたように臨床研修制度がまた変更されるということは既に確定的となったようですが、その実際の内容に関してはまだ流動的な部分があるようです。
しかし現状で漏れ聞こえてくる部分にもなかなかに興味深いところが多々あるようですので、少し古いものですがこちらの記事から復習しておきましょう。

臨床研修見直し、医道審に具体案を提示(2009年2月26日CBニュース)

 2010年度から見直される新人医師の研修制度について、文部科学、厚生労働両省の合同検討会がまとめた最終報告を受け、厚生労働省は2月26日、医道審議会の「医師分科会医師臨床研修部会」(部会長=齋藤英彦・名古屋セントラル病院長)に、研修医の募集定員の設定方法などの「検討にあたってのたたき台」を示した。早ければ3月2日の同部会で合意を得て必要な政省令を改正し、来年4月から実施する。

 たたき台では、必修科目を削減したことで「弾力化」されるプログラムとして、▽現在と同様のプログラム▽2年目に、将来必要とする診療科で研修を行うプログラム▽研修開始時から将来専門とする診療科(例えば外科)で研修を行うプログラム▽選択必修の科目や地域医療を重点的に実施する研修プログラム―の4 例を示した。

 また、研修医が大都市部の病院に集中することを防止するため、「都道府県別の募集定員の上限」「病院ごとの募集定員」について、具体的な設定方法を提案した。
 「都道府県別の募集定員の上限」については、▽人口分布▽医師養成状況▽地域的条件―の3つの要素を踏まえて決定するとした。「病院ごとの募集定員」については、医師派遣の実績があるかどうかによって、募集定員に差を付ける方針を示した。

 たたき台ではまた、「単独型・管理型臨床研修病院」の指定基準を強化する方針を示した。具体的には、「単独型・管理型臨床研修病院」が単独で満たすべき基準として、▽診療体制▽症例数▽指導体制▽施設および設備―を挙げた。

 2004年に始まった「新医師臨床研修制度」は、5年以内に見直すことが厚労省令で定められている。このため同部会は、06年12月から1年間にわたって審議を重ね、07年12月に最終報告書をまとめた。これに基づく見直しが、08年4月から実施されている。
 しかし、医師不足への対策を求める声が高まったことを受け、短期的な対策として「新医師臨床研修制度」の見直しが“やり玉”に上がっていた。文科、厚労両省が合同で設置した検討会が2月18日にまとめた最終報告では、現在2年の研修期間を実質1年にできる「研修プログラムの弾力化」や、医師の地域偏在に対応するための「募集定員の調整」などを提言。都道府県や病院ごとの募集定員を具体的にどのように設定するかについては、医道審議会の「医師分科会医師臨床研修部会」で決定することとされたため、今回の部会が開催された。

研修医の募集定員、医師の「派遣」実績で(2009年2月26日CBニュース)

 2月26日に開かれた厚生労働省の「第3回医道審議会医師分科会医師臨床研修部会」(部会長=齋藤英彦・名古屋セントラル病院長)では、研修医の都道府県別の募集定員について、医師の「派遣」実績などで定員数を調整することを盛り込んだ「たたき台」を事務局が提示。これに対して委員から、上限設定の要件や「派遣」の定義などについて多くの意見が出た。

 事務局が示した案によると、研修医の適正配置を誘導するため、▽人口分布▽医師養成状況▽地域的条件など(100平方キロ当たりの医師数、離島の人口)―の3つの観点から、総合的に都道府県別の上限を設定(図1)。例えば東京の場合、人口分布を考慮すると、上限は約780人で、医師養成状況では約 1200人となる。東京の昨年度の研修医採用実績は1338人のため、特に人口分布では大きな差が出る。
 募集定員は、医師「派遣」の評価で採用実績への加算を定め、さらに上限の超過分を調整することで、次年度の募集定員を決める(図2)。超過分の調整については、「都道府県内の病院の募集定員の合計が、都道府県別の上限の1割を超えた場合、原則として募集定員を1割削減する」との例を挙げている。

 人口分布について、冨永芳徳委員(公立甲賀病院長)は「都道府県で、都道府県内の医師の責任と権限を持てるのならば、こうした設定もできると思う。しかし、例えば東京のように、周辺の県に(医師が)出ているのならば、どこが責任を持つかを論じなければうまくいかないのではないか」と指摘。
 河野陽一委員(千葉大医学部附属病院長)は「東京の大学などは、全国に医師を派遣している。数だけではなく、派遣先でどのような機能をカバーしているかという面も重要だ」と述べ、さらに医療需要の観点から地域の年齢構成などを考慮する必要性にも言及した。

■「派遣」の定義とは?

 長尾卓夫委員(医療法人恵風会理事長)は医師の「派遣」について、「大学の医局に入っている医師がどこかに行って勤めるわけで、医局に属していることがあって派遣と呼ぶのか。一般の地域の病院でも、そこにいた人がどこかへ行ったら、それを派遣と呼ぶのか。それとも、ただの異動なのか」と質問。これに対し、事務局側は大学について、「それ以外にも該当するケースはあると思う。全体としてどのように取り扱うかは、ここでの議論を踏まえて整理したい」と答えた。
 これを聞いた山下英俊委員(山形大医学部附属病院長)が、「この人が派遣なのか派遣でないのかは分からない。そういうものを基準にすること自体、わたしは反対だ。この地域では、これだけの研修医に質の高い教育が提供できる、という点を積み上げることが先にあるべきだ」とかみつく一幕もあった。

 厚労省の担当課長は「研修医といえども、雇用関係を結んで給料を頂いて、医師としての仕事をするのだから、地域偏在などの問題について、やはり何らかの調整みたいなことは考えなければならないだろう」と述べた。

「派遣なのか異動なのか」は良かったですが、近ごろでは報道においてもそろそろ厚労省の本音も見え隠れしてきているのは、国民世論の誘導を狙っているとみてほぼ間違いないところなのでしょうね。
そもそもいわゆる新臨床研修制度導入の経緯において、過去には研修医という存在が病院にとって安く使い潰せる労働力として認識されてきたという経緯があって、それを何とかしようと言うのも一つの導入理由であったように記憶しています。
研修医は安く使える下働きではなく、そうであるからこそアルバイトをしなくても食っていける程度の給料は最低限制度的に保証する、そして下働きとして日々の雑用に忙殺されることなく研修の実をあげてもらうというのが当時聞かされた「バラ色の未来」ではありました。

未だに一部では「地方が医師不足と言うなら臨床研修のカリキュラムで僻地勤務を義務づければいい」という意見もあるようですが、さすがに政府筋も過去の経緯を顧みて残り少ない羞恥心というものを刺激されたのでしょうか、研修医僻地送りは(公式には)当面無しと言うことになったようです。
その代わりに制度改革の柱として導入されそうなのが一つには研修病院の定員を削減する(=都市部の定員を削ってあぶれた研修医が地方に行かざるを得ないように強いる)こと、そしてもう一つが研修医が欲しければ田舎病院に医師を送れと研修病院に強要すること、この二点のようなんですね。
さすが頭の良い官僚諸氏が知恵を絞って考えたことなのでしょう、結果として地方に研修医が送り込まれることとなってもそれは決して国が強要したものではなく、研修医自身と各地の研修病院が自ら判断し行動した結果であると言うわけです。

いずれにしても国がそうすると言うのであれば地方は対応するしかありませんが、すでに各地では見直し案に対応する動きや政府への要望が相次いでいるようで、このうちの幾つかを紹介してみましょう。

臨床研修医制度見直し案に要望 宮城など4県知事/宮城(2009年04月08日河北新報)

 村井嘉浩宮城県知事ら4県の知事は7日、厚生労働省の審議会が示した臨床研修医制度の見直し案に関する緊急要望を行った。「都市部への医師偏在は解消されない」として、厚労省に制度修正を求めた。

 厚労省の医道審議会医師分科会は3月、医師不足に悩む地方に配慮して都道府県別、病院別に研修医の募集定員上限を設ける見直し案を公表した。

 見直し案について4県知事は「研修医募集定員の全国総数は約1万人で、卒業する医学生数よりも2000人あまり多い。都市部の削減定員数も少なく、偏在解消の見込みは少ない」と指摘した。

 医師不足が深刻な都道府県に病院別定員上限を適用した場合、さらに不足に拍車がかかる可能性も指摘。こうした県については病院別上限を適用しないよう求めた。

 4県知事は村井知事のほか、佐賀の古川康、徳島の飯泉嘉門、鳥取の平井伸治の各知事。

研修医逃すな 県が独自支援 複数病院で共通指導 /香川(2009年4月8日読売新聞)

 医師不足を解消するため、県は、県内の医療機関が連携して、2010年度から産科や救急など専門医資格を取得するための独自の後期研修制度「医師育成キャリア支援プログラム」を策定すると発表した。大都市への医師流出を防ぐのが目的で、厚生労働省は「都道府県単位で共通の研修に取り組むのは全国初ではないか」としている。

 厚労省の調査では、県内の人口10万人当たりの医師数は251人(全国平均218人)で全国13番目。ただ、県内での医師免許取得者(2007年度)に占める研修医の採用者数は94人中64人と採用率では30番目にとどまり、研修後は毎年4割前後が県外に就職するため、今後、医師不足が加速するおそれがある。

 県が策定するプログラムは、大学卒業後2年間の初期研修を終えた研修医に、引き続き県内で高度な専門医研修(6~10年間)を受けてもらう。初期研修を実施している香川大付属病院や県立中央病院など11病院が中心となり、診療科別に共通の専門医研修プログラムと指導チームをつくる。

 最初の1~2年は、中核病院で内科と外科を総合的に学んだ後、脳神経外科、整形外科、小児科、麻酔科など特定科の専門医資格を取得できる指定病院で研修。最後の1~4年は研修先を自由に選べるようにする。

 参加者には、奨励金や研究補助金を出すほか、県内での就職をあっせんするなど支援策を盛り込んでいる。専門医だけでなく、過疎地などで幅広い診療科の知識が必要な「総合医」の養成コースも設置する。

 県が昨年、15公立病院に勤務する35歳までの若手医師38人を対象にした進路アンケートでは、17人が県内就職・開業を望む一方、11人が「大都市圏でキャリアを積みたい」と回答。県医務国保課は「都市圏の大病院は症例数や指導医が充実しているが、県内で研修を受ければ、出身大学や医局の枠を超えた複数の病院で経験が積めるようになる」と魅力を強調している。

「研修減で医療崩壊の危機」 /京都(2009年4月14日NHKオンライン)

地方の医師不足を解消するとして大都市で臨床研修の募集定員を大幅に減らすという国の方針について、京都府の山田知事は、記者会見で、「中央官庁の失敗で起きた医師不足がさらに深刻化し、地域医療は崩壊の危機に直面する」と厳しく批判しました。

この問題は、5年前に始まった臨床研修制度で若い医師が研修を受ける病院を選べるようになり、地方の医師不足が深刻化したことから、厚生労働省が研修の募集定員を見直す方針を示したもので、これによって京都府では、去年の採用実績より30%余り減らされ、削減の幅が全国でもっとも大きくなります
これについて、山田知事は13日の記者会見で「医師不足は臨床研修制度の改悪から始まり、中央官庁が行った失敗施策の見本みたいなものだ」と述べました。
その上で「府内でも医師が偏在する中で、研修医が減らされれば、地域医療は崩壊の危機に直面する」と述べ、「人災のうえに人災を重ねるのか」と厳しく批判しました。山田知事は、▼医師を地方に配置するための手段が示されていないことや、▼府立大学で独自に医師を養成してきた努力が評価されていないことに問題があると指摘しました。
この問題をめぐっては、医療関係者で作る協議会のほか、京都府と府内26のすべての市町村が撤回を求める意見書をまとめ、13日厚生労働省に提出しました。

まあしかし、皆さん研修医というものを都合良く使える労働力くらいにしか思っていないことがあからさまに見て取れるのは何ともですが…
マスコミ報道などを見てみますと「地方の病院はこれだけ医師不足なのに研修医が来てくれない。とにかく何とかしてくれないと地域医療が崩壊する」といった論調で書き立てられているようですが、果たしてそう単純に「研修医が都市部病院に集中し」云々と片付けてしまってよいのでしょうか。
実際には僻地だろうがド田舎だろうが大病院だろうが小病院だろうが、研修医(あるいは医師)に人気がある病院、ない病院というものは歴然とあるわけですし、実際学生などに聞いてみても「よくもそんな病院を見つけてきたな」と思うような場所までわざわざ見学に出向いていたりしています。
今の時代病院の評価などネットで調べればあっという間に出てくるわけですから、もの凄く臨床研修の場として魅力的であるのに研修医が全くやってこない病院というものがそうそうあるかと言えば少なからず疑問であって、むしろ不人気の施設はそれだけの理由があるのだと考え自らの資質を向上させてもらわなければならないでしょうね。

ところで卒後研修は厚労省の管轄ですが、学生実習といえば文科省の管轄になります。
卒後の臨床研修医を早期に戦力化するという目的で研修期間の短縮も検討されていますが、これと関連して学生実習に関しても改める動きが出てきているのですが、このあたりも報道から引用してみましょう。

臨床実習で必要な単位数の明確化をー文科省検討会(2009年4月14日CBニュース)

 卒前の医学教育の方向性について検討してきた文部科学省の「医学教育カリキュラム検討会」(座長=荒川正昭新潟県健康づくり・スポーツ医科学センター長)は4月13日、臨床実習で最低限必要な単位数の明確化や医師国家試験での臨床能力評価の重視などを求める提言をまとめた。同省は今後、厚生労働省とも連携しながら、提言の具体化に向けた検討を進めていく方針で、来年度の臨床研修制度見直しに合わせ、卒前と卒後の一貫した教育内容の充実に努めたい考えだ。

 検討会では、医師不足問題への対応や臨床研修制度見直しの方向性などを踏まえ、卒前と卒後で一貫した医学教育への改善を図るため、▽基本的診療能力の習得と将来のキャリアの明確化▽地域の医療を担う意欲、使命感の向上▽基礎と臨床の有機的連携による研究マインドの涵養(かんよう)▽学習成果を生かす多面的な評価システムの確立▽医学教育の充実に必要な指導体制の強化―の5点について、今後の方向性や方策を提言している。

 具体的には、修了時の到達目標の明確化、内科や外科などの「全人的な総合診療能力の育成」、診療科の連携が必要な救急、周産期、精神医療などの「体系的教育の重視」といった視点から、医学部教育のガイドライン「モデル・コア・カリキュラム」を改訂し、臨床実習の充実を目指すとしている。
 また、医師不足に対応するため、卒前と卒後教育を一貫して担う大学が、地域の医療機関や医師会などと連携しながら、「地域全体で医師を養成・確保するシステムの構築」や「地域枠や医師不足診療科などの医師養成のための重点コースの設定」などを推進することを求めている。

 さらに、臨床実習で最低限必要とされる単位数の明確化や教員数の拡充など、大学設置基準の改正が必要な事項については、文科省の中央教育審議会(中教審)で「速やかに検討が開始されることを望む」としている。

 具体化に向けた今後の検討については、中教審や「モデル・コア・カリキュラムの改訂に関する連絡調整委員会」での議論のほか、医学教育改革の進ちょく状況を厚労省と合同で検証する場の設置を求めている。

医学生の臨床実習1500時間義務付け、卒後研修減に対応(2009年4月14日読売新聞)

 医学教育のあり方を検討している文部科学省の専門家検討会(座長・荒川正昭新潟大名誉教授)は13日、医学部在学中の「臨床実習」について、1500時間以上行うことを義務づける方向で大筋合意した。

 医師不足の一因になったとされる卒後の臨床研修は事実上、半分に短縮される形になったが、同研修で行われてきた基礎的な部分を卒前研修に組み込むことを狙ったという。同省は今後、大学設置基準の見直しなどを行い、新たな臨床研修制度と同様に2010年度スタートを目指す。

 臨床実習は、医学部5年目から始まるが、全国医学部長病院長会議の07年度の調査では、2250時間以上行っている大学が7大学ある一方、1500時間に満たない大学が27大学あるなど、大学によってばらつきがあった。特に、6年目は医師国家試験の受験対策に追われ、実習そのものが形骸(けいがい)化していると指摘されてきた。

 見直し案は、臨床実習の時間を増やすほか、内科や外科などの診療科目の実習を充実させ、実習終了時の到達目標を明確にする。

 また、臨床研修制度で必修から選択必修になる小児科や産婦人科などの分野についても在学中から体系的に学ぶこととし、卒業までに医師としての総合診療力を身に着けさせることを目指すとしている。

 一方、臨床実習に入る前に知識の習熟度を測る「共用試験」については、統一的な合格基準を設け、学生の質を担保する。

記事中にも少しありますが、話に聞くところによると一部の学校では実習そこのけで国試対策に万全を期しているとも噂されていて、こうした学部臨床実習の制度改革によって国試合格率というものがどのように変化するのかも追跡調査してみると面白いかも知れませんね。

まあそうした話はともかくとして、「お客様研修」「単なる学生実習の二年延長」などとも非難されてきた新臨床研修制度なるものを、開き直って学生実習の方に前倒しすることにしたというずいぶんと潔い話です。
現場を知らないよりは知っていた方が良いだろうことは誰しも総論賛成でしょうから、表立っては反対しにくい話であることは確かでしょうが、問題は実習というものを増やすのであれば当然それに対応して指導する教官というものもつけなければならないということですよね。
数十人を一人で相手できる講義室での座学と違って臨床実習と言えばせいぜい数人単位の小グループで行うわけですから、今まで以上に医療現場のマンパワーを教育に削ぎ取られることになると思いますが、先の「研修病院は医師を供出すべし」なる改革案などと併せて考えるとどこの大学も研修病院も大変な仕事量の増加になるだろうなと想像するところです。

こうしたお上主導の一連の制度改革について、最大の当事者たる学生達もコメントを寄せていますので紹介しておきます。

臨床研修見直しに抗議  医療の質落とすと学生団体(2009年2月28日47ニュース)

 医師不足対策として国の検討会がまとめた臨床研修の見直し提言に対し、全国約30大学の医学生ら約200人でつくる「医師のキャリアパスを考える医学生の会」(代表・東京女子医大4年、川井未知子さん)が、「教育体制の整わない病院にも未熟な医師を強制的に配置し、医療の質の低下を招く」などと抗議声明を出した。声明は27日付。

 都道府県と病院ごとに募集定員の上限を設けるとした提言の柱について撤回を求め、近く与野党の国会議員や医療関係者に送る。

 上限設定は研修医の偏在を是正するためだが、声明では「(偏在は)学生が公開の情報で病院を選択し、教育に力を入れている病院に希望が集まった結果。(上限設定は)研修医からよい教育を受ける機会を奪う」と批判。

 さらに「地域医療に求められているのは研修医ではなく熟練医師。日本の医療の将来にとって、研修医が質のよい教育を受けることこそが必要」としている。

念のために申し添えておくならば、こうした学生団体の声なるものが必ずしも学生多数派の声を反映しているかと言えばそうした確証はどこにもなく、むしろ医学生というものはこうした行動に対して斜に構えるタイプの人間が多いような気がします。
しかしながら様々な意味で「良い」病院に研修医が集中するのは言ってみれば当たり前の現象であって、「悪い」病院の質的改善を担保することなく定員数コントロールによって強制的にそちらへ誘導するということであるなら、これは「研修医からよい教育を受ける機会を奪」っているとしか言えない話なのは確かですよね。
ちなみにこれも余談ながら、「地域医療に求められているのは研修医ではなく熟練医師」と言うのも地域住民の多くが首肯するところでしょうから、むしろこの際たとえば加入の要件に僻地診療歴○年を要するなんて条項を追加しておけば、医師会あたりも国民の熱烈な支持を受ける好機となるかも知れませんが(苦笑)。

そうした余談はともかくとして、こうした学生の動きに対して「ロハス・メディカル ブログ」でいささか苦言を呈していますので紹介しておきます。

医学生が署名しない”怪”(2009年04月15日ロハス・メディカル ブログ)

今朝の朝日新聞朝刊「私の視点」に東大医学部4年・竹内麻里子さんの投稿が載っていた。
ロハス誌次号でも扱う臨床研修制度見直しについての意見だ。
彼女は、拙ブログでも何回か紹介している『医師のキャリアパスを考える医学生の会』の中心メンバーとして11日の「志民の会」でも登壇していた。

「医学生の会」が、医師として十分なトレーニングを受けられないような病院に研修医が強制配置されるのでないかと心配するのは、非常に理解できるものがある。

一方で理解に苦しむのは、その彼らが行っている計画配置反対の署名活動への賛同が未だ1000筆ちょっとに留まっているらしいこと。しかも聞く所では医学生の署名が極端に少ない

全国の医学生は1学年約8000人、6学年合わせれば5万人近い。彼らは、なぜ自分たちの身に起ころうとしていることに対して自ら意見を表明しないのか。関心がないのか、トレーニングなんかどうでもいいと思っているのか、ハッキリ言って訳が分からない。後からグチグチ文句を言われたとしても、外部の人間としては「なぜその時に言わないんだ。知るか」となる。

医療界が自分たちの思っているほどには社会から信頼されない理由の一つが、この辺にも見え隠れしていると思う。

いやまあ、学生が政治運動に邁進しないことを以て「医療界が社会から信頼されない理由の一つ」だと言われましても、と言う感じではありますが…(苦笑)。
はるか昔から「医療ヤバイよ」と声を上げ続けてきたにも関わらず世間から無視され続けてきた内部の人々にすれば、それこそ今の医療崩壊に周桑狼狽為すところを知らずという外部の人間の現状こそ「今ごろ何周遅れなんだ。知るか」ではあるとも思いますけれどもね。

それはともかくとして、なぜ署名が少ないかと言えば推測される理由の一つに「ではどうするという意見もまとまってもないのに反対だけの署名ができるか」ということは確実にあると思いますね。
昨日取り上げた「医療志民の会」シンポジウムにおいても明らかになったように、まさにこうした「内部で団結するということをしない」のが学生と既卒医師とを問わない医療業界の問題(外部の人間からすれば)なのかも知れませんが、とにかく反対しているという一事を以て何でもかんでも手を挙げてしまうほどには医療界の人間も世間知らずではなかったということではないでしょうか。
何かあればとにかく団交というのが当たり前の外部の人間にとっては非常に歯がゆく見えることなのかも知れませんが、これに対してはひと頃ネットで常套句のように言われていた次のような言葉が一つの答えになるのかも知れません。

「団結なんかしたら敵に交渉相手を与えるだけ」
「さっさと逃散するのが一番早くて確実」

ひと頃あちこちの病院から医師が黙って辞めていく現象(小松先生の言う「立ち去り型サポタージュ」)を称してネットでは「逃散」と言う言葉が流行しましたが、「なぜ団結して声を上げないのか?」という医療業界外からの声に対する逃散派の答えが上のようなものでした(現在に至るも必ずしも医療業界の総意とはなっていませんが)。
もちろんネットらしく揶揄めいた部分もないではないですが、現実にどうあがいても医療業界総体としてのマンパワーは明らかに需要に対して過少なのですから、需要に100%応えようとして200%奮闘努力してしまうよりも需要そのものを引き下げると言う考え方があってもいいし、現状でとっくに過剰労働が常態化している以上はそうした縮小均衡を図る方がはるかに健全な発想だとも言えるでしょう。

逃散というと何かしらもの凄く後ろめたいことをしているように感じられる方もいるかも知れませんが、現実問題として医療崩壊という現象がこうまで公になってくるまでは国民の医療に対する関心などどの程度であったかは、診療報酬削減政策が長年支持され続けてきたことでも明らかです。
医療のリソース不足を国民に強く印象づけ結果として最も早く医療を正常化する一つの戦略として「各人が無理をしない」という考え方はありだと思うし、そのための方法論として逃散が極めて有効であることは認めざるを得ないと思いますね。

医者も医学生も世間知らずではあるかも知れませんが必ずしも馬鹿ばかりではありませんから、気の利いた医学生であればあるほど制度がどうあろうが幾らでも対応できる抜け道は見つけられるものであるし、何よりしがらみのない学生達が世界で最も医療労働環境の悪い国の一つである日本での就労に固執する理由もありません。
このあたりは数少ない医療業界発のデモに参加している人々と言うのは大抵が公立病院の関係者で、しかも医師はほとんど含まれていないという事情と共通する背景があるのかも知れませんね。

医師がせいぜい30万人弱というのは国を動かすにはいささか過少なのは医師会御推薦候補が見事に落選したことから政府与党にも認められたという時代にあって、最大限たかが数万の学生が団結して声を上げるという行為にどれほどの実効性があるのかと考えてみてはどうでしょうか。
そんなことをするよりはるかに確実で実効性を伴うやり方があることが知れ渡っているとしたら、外部にアピールするという以外にさして意味のない活動に精出す学生がそう多くないだろうことは、近ごろ言われる若者気質からしてもむしろ当然じゃないかと思いますね。

それでは団結して声を上げることなど全く無意味なのかと言えば、業界内部よりも世間的な意味ではそうとばかりも言えない面も確かにありますよね。
組織として行動するよりも個人として行動した方が個人にとってはるかに有益な結果をもたらすという状況にあって、それでも敢えて人が団結して行動する道を選ぶ理由というものがあるとすれば、それはたぶん自分自身のためだけに行われる行動ではないんじゃないかという気もしています。
さっさと逃散して状況を生暖かく見守りながら安楽な生活を送ればいいのに馬鹿じゃね?と思っている賢い人たちももちろん少なくないでしょうが、幾ら他人に良いように利用され苦境を訴えても無視されてこようがそれでも声を張り上げてしまうような「世間知らずな馬鹿野郎達」もまた、それなりに愛すべき存在ではないのかなとも思うんですけれどもね。

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日本における臨床研修制度の全体像は

日野原先生の書かれた
【日本における臨床研修のあゆみ】
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2004dir/n2566dir/n2566_02.pdf
がよさそうです。

この原点になった
医学教育審議会 Council on Medical Education

東北大学機関リポジトリ"TOUR:TOhoku University Repository"から
http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/
(医学教育審議会をリポジトリ検索にいれていただく下記2論文が自由に読めると思います。)

発行日 タイトル 著者名
2003 GHQ/SCAP/PHWと「医学教育審議会」(1)-占領期医学教育改革の審議内容と政策過程ー 橋本, 紘市
2004 GHQ/SCAP/PHWと「医学教育審議会」(2)-占領期における医学教育改革の審議内容と政策過程ー 橋本, 鉱市

という形で公開され検討されています。

橋本鉱市氏は
専門職養成の政策過程 ―戦後日本の医師数をめぐって―
http://www.gaku-jutsu.co.jp/article/13315534.html
という本で
「医師の数がどれだけ必要かについては、長い間政治的なイシュー(争点)であり続けてきた。本書は、そうした医師の「適正数」についての議論を戦前期から1990年代まで追いかけ、わが国の専門職養成に関わるアクター(関係者)とそのレジーム(政治的構造)の生成と変容について分析する。そして、高等教育における専門職養成に関して、今後の政策議論の視座と論点を明らかにする」
という仕事をされています。

投稿: 京都の小児科医 | 2009年4月20日 (月) 07時12分

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