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2009年4月17日 (金)

救急医療関連の最近の話題

と言えば何を置いても「杏林割り箸事件」民事訴訟の二審判決が先頃出されまして、原告側が上告しない方針を決めたことから刑事に続いて民事も確定しました。
この件については様々な立場から様々な検証がそれこそ山のように行われてきた事例ではありますが、ある程度症例としての検討を行った医療関係者の最大公約数的な感想としては「妥当な判決」というところではないでしょうか。

割りばし事故死、両親の賠償請求を2審も認めず(2009年4月16日読売新聞)

 1999年に東京都杉並区の保育園児杉野隼三ちゃん(当時4歳)が綿あめの割りばしをのどに突き刺して死亡した事故を巡り、両親が、杏林大医学部付属病院(三鷹市)を運営する学校法人「杏林学園」と、治療した根本英樹医師(41)に約8960万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が15日、東京高裁であった。

 小林克已裁判長は、根本医師について「当時の医療水準では脳損傷を予見するのは不可能だった」と述べ、1審に続き請求を棄却した。

 判決によると、隼三ちゃんは99年7月、自宅近くの盆踊り大会で割りばしをくわえたまま転倒。同病院で根本医師は傷口に薬を塗るなどして帰宅させたが、隼三ちゃんは翌朝に死亡した。その後の解剖で、頭蓋(ずがい)内に約7・6センチの割りばし片が刺さっているのが見つかった。

 判決は、根本医師について、「問診は極めておざなりだったが、慎重な問診を行っていても、折れた割りばしが残っていると疑うのは難しく、詳しい検査をする義務があったとは言えない」と述べた。同病院の体制にも不備はないとした。

 この事故を巡っては、根本医師が業務上過失致死罪に問われたが、1、2審で無罪判決が言い渡され、昨年12月に確定している。

 判決後、両親は「ただただ無念でならない。上告しないつもりだ」とコメント。根本医師は「この経験はこれからの私の医師としての生き方に役立たせたい。隼三君のご冥福を心よりお祈り申し上げます」と述べた。

2審も医師の過失認めず 割りばし事故、両親の控訴棄却(2009年4月15日産経新聞)

 東京都杉並区で平成11年、割りばしがのどに刺さった保育園児、杉野隼三ちゃん=当時(4)=が、杏林大付属病院(同三鷹市)で受診後に死亡した事故で、隼三ちゃんの両親が担当医だった根本英樹医師(41)と病院側に計約9000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が15日、東京高裁であった。小林克巳裁判長は請求を退けた1審東京地裁判決を支持、両親の控訴を棄却した。

 小林裁判長は「当時、異物が口の中に突き刺さり、脳内損傷を起こした症例は皆無に近かった」と指摘。さらに「傷の状況や意識障害がなかったことなどから、脳内損傷を予見することは不可能だった」として、1審判決に続き根本医師の過失を否定した。

 1審判決は「当時の医療水準では脳が損傷された可能性があるとは診断できなかった。正しく診断できたとしても延命が可能だったかは認めうることができない」と判断していた。

 判決を受け、隼三ちゃんの両親は「血も涙もない印象の判決で、ただただ無念。上告はしないつもりです」。根本医師は「過失がなかったことが認められ、医師としての自信を取り戻すことができた」と、いずれもコメントを寄せた。

 判決によると、隼三ちゃんは11年7月、杉並区の自宅近くで開かれていた盆踊り大会で転び、くわえていた綿菓子の割りばしがのどを貫通。同病院に運ばれたが、根本医師は消毒薬を塗っただけで帰宅させた。隼三ちゃんは翌朝になって容体が急変し、死亡した。

 事故をめぐっては、根本医師が業務上過失致死罪で起訴されたが、1審、2審で無罪となり、検察側が上告を断念。無罪が確定している。

本事件や大野病院事件など一連の医療訴訟報道もあって医療に関する関心と注目度がかつて無いほど高まっていることは、結果として医療現場の実態に対する知識と理解を深めることにつながってきたように思います。
何より当時は医療バッシングの格好のネタとしてこの事件を扱ってきたマスコミですら何かしら感じるところがあったのだろうかと、産経新聞あたりの奇妙なほど冷静な筆致の報道ぶりを見ても思うところですよね(苦笑)。
先日は参議院厚生労働委員会で、民主党の梅村聡氏が勤務医の宿直問題について質問したことがネット上で動画付きで流されていましたが、正直こうした極めて基本的なことすら当事者である医療関係者も所轄官庁である厚労省も把握していなかったという事実が、ようやく医療に国民の関心が向き始めた今になって明らかになってきているわけです。

問題はこうした関心の高まりが崩壊真っ盛りな医療現場の改善に少しでもつながっていくかということだと思うのですが、残念ながらこと救急医療の現場に関しては未だそうした気配はないようですね。
救急病院の総数が減少する一方であることはもちろん、救急医療を担当するスタッフの確保すら今やおぼつかないという状況ですから、残ったスタッフはますます過重労働を強いられ、結果として更なる逃散を招くという完全な悪循環に陥っている状況が相変わらず続いています。

救急科医師の当直回数は平均の2倍(2009年4月15日CBニュース)

 「救急科」と「産科・産婦人科」に勤める非管理職の一般医師の1か月当たりの平均当直回数は、それぞれ5.48回、4.51回で、診療科全体の平均 2.78回を大きく上回った。特に救急科では、平均のおよそ2倍に達した。4月15日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬改定結果検証部会で公表された「病院勤務医の負担軽減の実態調査」の結果(速報)で明らかになった。1か月あたりの平均連続当直回数でも、2つの診療科が他の科を大幅に上回っており、医療崩壊が叫ばれる中、特に事態が深刻とされる両科の実態が、数字で裏付けられた格好だ。

 同調査は、病院勤務医に対する負担軽減策の取り組み状況の把握などを目的に、昨年12月から今年2月に実施。「入院時医学管理加算」「医師事務作業補助体制加算」「ハイリスク分娩管理加算」のいずれかの届け出をしているすべての病院と、そこに1年以上勤務する診療科責任者、医師を調査対象として、それぞれ 516施設、2389人、4227人から回答を得た。

 これによると、直近1週間の平均実勤務時間は、医師責任者が58.0時間で、医師は61.3時間。
 診療科別に見ると、医師責任者、医師のいずれも「救急科」が最も長く、それぞれ62.6、74.4時間だった。以下、医師責任者では「脳神経外科」(62.3時間)、「産科・産婦人科」(60.2時間)、医師では「外科」(65.0時間)、「脳神経外科」「産科・産婦人科」(それぞれ63.9時間)と続いている。特に、救急科の医師は、2番目に長かった「外科」の65.0時間を9.4時間も上回るなど突出している。

 また、1か月あたりの平均当直回数を見ると、医師責任者は1.61回、医師は2.78回だった。
 これを診療科別に見ると、医師責任者では「産科・産婦人科」が2.90回で最も多く、「救急科」(2.73回)、「小児科」(2.13回)と続いた。医師については、「診療科不明」を除き、「救急科」が5.48回で最多。「産科・産婦人科」(4.51回)、「小児科」(3.48回)がこれに続いた。
 いずれも救急科、産科・産婦人科が他の診療科を大幅に上回っている。

 同様の傾向は医師の1か月あたりの平均連続当直回数についても見られた。「産科・産婦人科」については0.40回、「救急科」は0.38回で、共に全体の平均値0.13回を大幅に上回った。

ちなみに厚労省の「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」なる通達によれば、当直に関して下記のように定められています。

労働基準法における宿日直勤務は、夜間休日において、電話対応、火災予防などのための巡視、非常事態が発生した時の連絡などにあたることをさす。

医療機関において、労働基準法における宿日直勤務として許可される業務は、常態としてほとんど労働する必要がない業務のみであり、病室の定時巡回や少数の要注意患者の検脈、検温等の軽度または短時間の業務に限る。

夜間に十分な睡眠時間が確保されなければならない。

宿直勤務は、週1回、日直勤務は月1回を限度とすること。

宿日直勤務中に通常の労働が頻繁に行われる場合は、宿日直勤務で対応することはできず、交代制を導入するなど体制を見直す必要がある。

その点で見ると当直回数が平均で月5回を超えるというのは明らかに通達に反した実態があるものと推測されるところですが、厚労省はこうした行為に対して労働を管轄する立場として一言無しで済ませるつもりなのでしょうか?

こうしたことも含めて面白いのは、先頃の愛育・日赤の事例においても明らかな違法労働の実態が公になっている現状でありながら、これに対する行政側の動きが極めて悪いということです。
例えば厚労省は先の診療報酬改定で現場で激務に晒されている診療科に配慮したと自画自賛していましたが、実際にこうしてデータとして出てきますと描いたは良いが単なる画餅で終わっていたのではないかという印象が濃厚ですよね。

勤務医の待遇改善、実感薄く 中医協が実態調査(2009年4月15日産経新聞)

 病院勤務医の待遇改善を目指した平成20年度の診療報酬改定について、中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関、中医協)が実施した検証調査で、改定前よりも業務負担が軽減されたり、給与が増えるなど「待遇が改善された」と回答した勤務医が1~2割程度にとどまっていることが15日、分かった。医師不足の状況が改善されない中、報酬増の恩恵を受ける勤務医は限定されており、診療報酬改定だけでは勤務医の待遇改善を実現することの難しさが浮き彫りとなった。

 20年度の診療報酬改定では、医療秘書を配置するなど勤務医の待遇改善に向け体制整備をしている医療機関に対し、診療報酬を加算して支払うことになっている。検証調査は昨年12月~今年2月、この加算報酬を取り入れた医療機関1151施設を対象に行われ、516施設から回答が得られた。管理職の勤務医2389人、一般の勤務医4227人にも現場の勤務状況を尋ねた。

 調査結果によると、加算報酬が得られたため勤務医の給与面の改善を図った医療機関が45%。内訳をみると(複数回答)、勤務医の当直などの手当を増やしたのが75・4%、基本給を増やしたのは36・2%に上ったが、勤務医側に給与面の改善状況を尋ねると、手当について「増えた」と答えたのは7・6%にとどまり、86・6%が「変わらない」と回答した。基本給も「増えた」は12%で、「変わらない」が79・5%だった。

 勤務医に給与増が実感されていない理由について、厚労省は「医療機関側が報酬増を、勤務医以外の職員にも全体に広く薄く配分したため」と分析。手当に関しては、実際にお産を取り扱った産科医だけに支給するなど対象者が限定されるケースが少なくないとしている。

 また、業務負担の軽減状況については、診療報酬改定前より当直回数が減るなど「改善」と回答した勤務医(管理職)は16・8%どまり。「変わらない」は41・3%で、逆に「悪化」は40・8%にも上った。業務負担が改善されない理由に関しては、高齢化に伴う患者増、研修医を含む医師数の減少、事務作業の増加などの回答が寄せられた。

 ただ、診療科別にみると、「改善」と答えた割合が救急28%、産科25・6%、小児科22・4%となり、診療報酬改定で重点的に報酬を配分した診療科では一定の効果がみられた。

病院医師「勤務改善」17% 検証調査、報酬改定でも(2009年4月15日47ニュース)

 病院勤務医の負担軽減を目指した2008年度診療報酬改定の効果について、中央社会保険医療協議会(中医協)が実施した検証調査で「改定前より勤務状況が改善された」と回答した医師は17%にとどまったことが15日、分かった。

 「悪化した」(41%)、「変わらない」(同)との回答が改善を上回った。患者増や医師不足が続き、診療報酬による対応だけでは勤務医の負担解消が難しい実態が浮き彫りになった。

 調査は昨年12月から今年2月に実施、改定で新設された報酬加算を取り入れた病院のうち約500病院が回答。部長ら責任者の医師約2400人に現場の勤務状況などを尋ねた。

 診療科別では「改善」と答えた割合が救急(28%)、産科(26%)、小児科(22%)の順に多かった。いずれも改定で報酬を重点配分した分野で、中医協は一定の効果があったとみて次回の来年度改定にも勤務医対策を盛り込む方向だ。

 併せて、現場の医師約4200人に「最も負担が重い日常業務」を尋ねたところ、当直勤務が31%と最多だった。

いや、それを一定の効果と言ってしまうのもどうかと思うのですが…と言いますか、記事のタイトル自体が「診療報酬改定後も勤務状態悪化4割、改善を大幅に上回る」などとすべきでしょう?
いかに奴隷労働真っ盛りで脳内にエンドルフィンが充満している最前線医師といえども、あの改訂で現場の状況が少しでも改善するなどとはまさか夢にも思っていなかったのではないかと思うのですが、厚労省もこういうレベルで思惑通りと満足しているのであれば今後の政策の斜め上方向への疾走ぶりに大いに期待が高まるところですよ。

自治体レベルにおいてはこのところようやく公立病院に労基署の立ち入りが行われるようになってきたせいか、実態にそぐわない医師の管理職扱いをやめ残業代を支払うようになったなどといじましい話が聞こえてくるようになりました。
その結果ただでさえ莫大な額にのぼっている赤字額が過去最高を記録するなど積悪の報い、もとい、当然予想される結果となってきたりしているわけですが、その一方で例えば臨床研修制度勝ち組の一つである沖縄県のように赤字削減のために県立病院医師手当全廃という思い切ったことを言い出す自治体が出ていることも注目すべきですよね。
そんな中でも昨今なにかと話題の多い大阪からはこんなニュースも流れてきていますが、大阪府政・市政下における救急医療というものに対する認識が現れているようで興味深いところです。

救急勤務医手当 はやピンチ 大阪府・市補助せず(2009年4月15日産経関西)

 大阪府内の病院関係者らの訴えで、夜間・休日の救急医の待遇改善のため、国が今年度に新設した「救急勤務医手当」について、手当の3分の2の分担、補助が期待された大阪府と大阪市が、いずれも補助分を今年度予算に計上しなかったことが15日、分かった。都道府県の手当への補助は義務ではないが、 “制度発祥の地”である府、市が補助しない皮肉な事態。「財政難」が理由だが、制度普及を妨げ、救急医療の医師確保に影響する恐れもある。

 救急勤務医手当の創設は、昨年7月に舛添要一厚生労働相が大阪の医療現場を視察した際、府内の病院関係者らが夜間・休日の救急医の待遇改善を直訴したことがきっかけ。検討委員会を経て、わずか1カ月後の8月には、政府の「5つの安心プラン」の目玉として創設が決まった。

 関係者によると、スピード決定の背景には、大阪特有の事情があった。府内は首都圏などと異なり、2次救急の9割を民間病院が担当。医師不足で2次救急指定を辞退する民間病院が増え、本来は重篤患者を担当する3次救急機関の負担が増加した。

 救急患者の“たらい回し”も問題となり、2次、3次救急での医師不足が深刻になっている。

 大阪市内の300床クラスの民間病院で、夜間の当直医は2、3人が必要。救急1件当たり平均4万円の費用がかかり、経営的な負担は少なくはない。このため同手当で救急医の待遇を改善し、医師確保を目指した。

 ところが、大阪府は今年度予算で、同手当の「導入促進費用」として7億6800万円を計上したが、これは国の補助分として預かる金額。府の補助分として最大約15億円を上積みできるが、計上しなかった。大阪市も計上を見送った。

 都道府県の補助は義務ではないが、東京都や三重県は、それぞれ補助分3分の1を上積み計上。上積み分がないと、医療機関が残り3分の2を負担することになり、同手当導入に二の足を踏むことが懸念される。

 大阪府医療対策課は「国の要綱がまだ固まっておらず、財政状況が厳しいため、計上は見送った」。大阪市健康施策担当は「救急医療は第一義的に都道府県が広域的に担当するもの。今回、肝心の府が見合わせたため、予算計上しなかった」とする。一方、厚労省医政局指導課は「近隣の県が補助を始めれば、歩調を合わせざるを得なくなるのでは」としている。

    【救急勤務医手当】医師に支払われる給与規定に同手当を新設する医療機関に対し、その3分の1を国が補助する制度。残り3分の2は都道府県と市町村、医療機関が分担する。支給額は最大で夜間が1人当たり1万8659円、休日昼間が同1万3570円。国の補助は都道府県を通じて実施。医師不足への対策は従来は診療報酬の引き上げが一般的だったが、今回の手当は医師の所得を直接支援する形となる。

全国から医師が集まると言われる東京都では公立病院医師の待遇が全国で最も悪いことが知られていますが、市場原理ということを考えるならこれは至って当然の現象ではないかと思います(最も、多いとはいえ需要に対して決して十分ではないという話もありますが)。
大阪府にしても日本の救急医療発祥の地とも言われるくらいで救急医療に対してはそれなりの自負があるものと思われますから、手当など待遇面以外の部分で医師に自らをアピールするということであればそれで良いのではないかなという気がしますね。
いずれにしても医師にとって何の魅力もなく、自ら待遇を改善する意思もないのに「我々のところに医師が来ないのは国の施策が間違っているからだ!強制配置でも何でもさっさとやれ!」などと強権を以て医師をかき集めるような愚行がまかり通るようなことがあれば、医師の側もそれなりに自らの権利行使というものに目覚めざるを得ないことになるんでしょうね。

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