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2009年4月25日 (土)

産科医療現場の温度差?

先日の奈良での訴訟の件ですが、一般紙もそれなりに注目しているようで、その後幾つか続報が入っていますので紹介しておきましょう。

産科医割増賃金訴訟:県、不備認め待遇改善へ /奈良(2009年4月23日毎日新聞)

 ◇原告側「労働時間明示、画期的」

 県立奈良病院(奈良市平松)の産婦人科医2人が、夜間や土曜休日の宿日直勤務に対し、割増賃金などの支払いを求めた民事訴訟。奈良地裁の判決は、原告の主張を一部認め、県に厳しい内容となった。判決を受けて、記者会見した武末文男・健康安全局長は「日本の医療のあり方に一石を投じた。判決を重く受け止めます」と述べ、今後、待遇改善に取り組む意向を示した。

 武末局長は「控訴については今後検討したい」と述べたが、「労務管理や勤務状況を把握しなければなかったという点では問題があった」と、不備があったことを認めた。

 一方、これまでの県の取り組みに触れ、宿直勤務や分べん、時間外呼び出しなどへの特殊勤務手当の支給▽同病院産科の産科医や後期臨床研修医3人の増員▽医師の業務負担を軽減する事務員「メディカルクラーク」の導入--などを進めてきたことを強調した。

 原告側は、異常分べんなどに備えて自宅で待機する「宅直」も労働時間に含めるよう主張したが、判決は「病院の指揮命令下にあったとは認められない」として請求を退けた。

 宅直について、武末局長は「根本的には2人当直にできない医師不足がある。また、自分が主治医をしている患者の具合が悪くなったら、どんな場所に居ても呼び出される慣習があった」と指摘。「今後は当直勤務の翌日は休みが取れるような勤務態勢の導入を検討したい」と述べた。

 原告側の藤本卓司弁護士は「宿日直勤務の始めから終わりまでが労働時間だと明示した画期的な判決だ。全国の多くの病院も同じような実態で、国や行政が産科医不足の対策を取ることが求められる」と述べた。

割増賃金支払い命令判決「当直は時間外労働」…産科医激務に一石 /奈良(2009年4月23日読売新聞)

調査の病院8割、法違反

 「当直は時間外労働にあたる」――。22日、奈良地裁が言い渡した判決は、待機や軽微な勤務を前提に認められている医師の当直について、一部の時間帯は通常業務と変わりない実態があるとして、割増賃金の支払いを命じた。

 医師不足が深刻化する中での初の司法判断は、医療の現場に勤務体系の見直しを迫るものになりそうだ。

 奈良県立奈良病院の産婦人科医の待遇は決して特殊なケースではない。全国周産期医療連絡協議会が2008年、重症の妊婦を24時間態勢で受け入れる全国75か所の「総合周産期母子医療センター」に実施した調査では、97%にあたる73施設が夜間勤務を正規の労働時間にあたらない「宿直」と見なしていた。

 1回の手当の平均は約2万3000円。8000円しか支払われない施設もあった。また77%の施設では、当直医が翌日も夕方まで勤務していた。

 労働基準監督署の基準では、そもそも当直は「ほとんど労働する必要がなく、病室の巡回など、軽度で短時間の勤務」とされている。これを前提に、労基署は宿直は週1回、日直は月1回を限度に病院などに許可を出すが、実態は軽度で済まない。医師が当直日に忙しく働いたかどうか、勤務実態を調べて割増賃金を支払うことは多くの病院がしていない。

 緊急手術や急患に対応するために、宿直の医師は仮眠すら取れないケースが多い。前日朝から宿直を経て、翌日の夕方まで連続30時間以上という激務もある。

 日本産科婦人科学会のまとめでは、大学病院に勤務する産婦人科医が病院に滞在する時間は月平均341時間、最長は505時間。過酷な労働環境を反映し、産婦人科医はここ10年で約1割も減少している。

 厚生労働省では、労基署への申告が相次いだことを受け、2002年に当直勤務の適正化を図るため、全国の医療機関に対し、当直勤務の実態を自主点検するよう、各労働局に通達を出した。07年には、立ち入り調査した病院や診療所など1852施設のうち、約8割にあたる1468施設で法違反が見つかった。

 今年3月には東京・三田労基署が、都から総合周産期母子医療センターに指定されている愛育病院に対し、「当直の実態は時間外労働だ」として、残業代を支払うよう是正勧告。同病院は「勧告に従うと、センターが求める産婦人科医の勤務態勢を維持できない」として、同センターの指定返上を打診する事態になった。

改善策「すぐは厳しい」奈良県

 「あまりに過酷な環境をどうにかしてほしいということ。金が目当てではない」。原告代理人の藤本卓司弁護士は判決後の記者会見で、訴えた理由を強調した。

 藤本弁護士は、原告2人が提訴に関して「批判や中傷を浴びた」と、医師が労働条件に声を上げることの難しさを示した。そのうえで、宅直が認められなかったことに「やむを得ずやっていることなのに」と不満を漏らし、「労務管理体制を根本から変えないといけない。その対策が国や自治体に求められる」と話した。

 奈良県では2006、07年、妊婦の救急搬送の受け入れが拒否される問題が起きている。医師不足など、医師を取り巻く劣悪な環境が理由に挙げられる。

 奈良県健康安全局の武末文男局長は判決後、「根底に医師が足りないという問題がある」と述べた。交代勤務制の導入や他病院からの応援医師の配置などの対策を列挙したが、「今すぐにというのは厳しい」と、問題の根深さをのぞかせた。

背景に医師不足 産科の悲鳴届いた…奈良地裁判決 /奈良(2009年4月23日読売新聞)

2人で2年間に当直313回 50時間勤務も

産科医の悲鳴が司法に届いた――。奈良地裁が22日、奈良県立奈良病院の当直勤務を時間外労働と認めた判決で、産科勤務医の労働実態の過酷さが改めて浮き彫りになった。こうした問題の背景には、医師を計画的に配置せず、医師の偏在を放置してきた日本の医療体制がある。勝訴した産科医の1人は「産婦人科の医療現場では緊急事態に対応するためスタッフが必要」と訴え、医師不足の抜本的な解決策を求めている。

 今回の訴訟では、産科医が休憩もままならず、ぎりぎりの状況で母と子の命に向き合わなければならない実態が陳述などで明らかになった。原告の1人が2005年12月に経験した土、日、月曜の3日間の連続勤務を振り返ると――。

 土曜夜、1人の妊婦が出血し、その約1時間後に別の妊婦が陣痛を訴えた。日曜の午前4時半頃には、さらに別の妊婦の異常分娩(ぶんべん)に立ち会った。医師は原告だけ。1人の処置をしている間に、別の妊婦が分娩室にやってくる。

 日曜日は午前9時半前、午後4時前、同7時半前、同10時前にそれぞれ赤ちゃんが生まれ、月曜未明にも赤ちゃんが誕生した。ほかにも原告は、切迫早産や出血などの手当てに追われ、連続する宿直勤務の間に診た妊婦は計13人。立ち会った出産は6件にのぼった。この後、月曜日は夕方まで通常の勤務に就いたという。

 法廷で、原告は宿直明けの体調について「朝のうちは興奮状態で元気かなと思うが、昼ぐらいから、ガクッと疲れる感じ」と陳述。宿直明けの手術の際、エックス線撮影の指示を誤ったこともあったと述べた。

 原告2人が2年間で務めた夜間・休日の当直は計313回、担当したお産は計300件。妊婦からの呼び出しコールが頻繁にあるため、仮眠を取るのも難しく、50時間以上の連続勤務もあった。

 原告の上司も「外科の当直なら、整形外科などを含めた複数の診療科から1人出せばいいが、産婦人科は、産婦人科だけで回さなければならない」と厳しい実態を証言した。

過酷勤務、訴訟リスク…「なり手なくなる」

 「お産は24時間ある。産科は診療科の中で最も当直が多く、負担が特に大きい。なり手がなくなるのではないかと危惧(きぐ)している」。岡井崇・昭和大教授(周産期医療)はこう指摘する。

 産科医の減少は、分娩(ぶんべん)施設の数にも表れている。日本産科婦人科学会の調査(2006年)では、全国の分娩施設は1993年に約4200施設あったが、調査のたびに減少、05年は約3000施設となった。

 約2700病院が加盟する日本病院会は「勤務医、中でも産科、小児科は『訴訟リスク』が大きく、研修医らから敬遠されやすい。結果的に医師が不足し、労働条件も悪化する悪循環が起きている」とする。

 労働基準監督署から、指導を受ける病院も後を絶たない。原告の産科医が勤める県立奈良病院でも、04年に労働時間の是正を求められたが、改善されず、今回の訴訟に発展した。

 現場の産婦人科勤務医の評価はさまざまだ。

 京都市内の病院に勤務する50歳代の男性医師は「現場は医師のボランティア精神と犠牲の上に成り立っている。待遇が改善されれば、医師も増え、医療の充実につながるだろう」と話す。

 一方、石川県内の大学病院の男性医師は「抜本的な解決には、看護師のように3交代制を敷くしかない。それには、お産の拠点施設を配置するなど、医療システムを根本的に変える必要がある」と指摘する。

 厚生労働省監督課は「長時間労働は抑制し、労働基準法を順守するよう監督したい」としている。

読売だけに例によって「医師を強制配置しないのが悪い」でFAというのは毎度のことながら「なんだかなあ」という感じではありますけどね。
しかし全般的にみて「過酷な産科医療現場に一石を投じた判決」と評価する声がある一方、「現実問題として対応は難しいのでは」という声も聞こえているようです。
いずれにしても関係する各者とも現状が大いに問題があって、出来ることなら早急に改善しなければと言う認識は共有していると考えていいように思うのですが、どうでしょうか?
医療に対する関心が高まっている中で特に「産科医って大変らしいね」と一般市民からも同情が寄せられている、そうした状況下でこの判決が何かしら前向きな改善を図っていく一つの原動力となればいいのかなとも思える話です。

ところで少しばかり話はかわって、先日労基署からお叱りを受けた愛育病院ですが、その後医師増員を果たしたようで目出度く新体制構築がなったようです。

周産期指定継続へ 愛育病院 OB雇用 24時間態勢確保 /東京(2009年4月24日東京新聞)

 東京都の総合周産期母子医療センターに指定されている愛育病院(東京都港区)が先月、労働基準監督署から医師の勤務体制の是正勧告を受け、都に指定返上を打診していた問題は、センターを継続することで決着する見通しとなった。愛育病院では、非常勤のOB医師を増やすことにより、緊急治療が必要な妊産婦や新生児の二十四時間態勢での受け入れを可能にした。 

 愛育病院の夜間当直は常勤医と非常勤医が二人一組で担当。当直が可能な常勤医は六人しかおらず、当直は一人平均月六回、時間外勤務は月間約六十時間に上っていた。

 労働基準法では、当直などの時間外勤務は労使が協定を結んだ上で、原則月四十五時間以内と定めているが、同病院は医師側と協定を結んでいなかったため、東京・三田労基署から先月中旬、是正勧告を受けた。

 常勤医の当直勤務を減らすと、二人とも非常勤医による当直が月十日以上になるため、病院は「当直は総合周産期センターの機能に慣れた常勤医が必要」として都にセンターの指定返上を相談。都は「当直は医師が複数いれば問題ない」として継続を要望していた。

 このため病院は、今月十七日付で医師側と協定を締結。常勤医の当直は四十五時間以内になるように月三回程度にする一方、新たに四人のOB医師を非常勤で雇い入れ、常勤医が当直に入れない日にカバーしてもらう。都は近く、都周産期医療協議会に新しい取り組みを報告した上で、指定を継続する。

上記の奈良の悲惨な論調と併せてみると「さすが愛育、産科医も涌いて出るのか」といった感もあるのですが、かの大淀病院事件以来産科医療が崩壊してしまった奈良と、全国一医師が集積するという東京との温度差ということもあるのかも知れません。
ところでその愛育病院ですが、こんな興味深い記事も出てきています。

『現場で経験積みたい』 医師の思い労基署とズレ(2009年4月24日東京新聞)

 東京都に総合周産期母子医療センターの指定返上を打診し、医療関係者の注目を集めた愛育病院が、都と協議の末、妊産婦と赤ちゃんの“最後の砦(とりで)”を継続する見通しとなった。きっかけは労働基準監督署から医師の“働き過ぎ”を指摘されたことだが、現場の医師からは「医療を実地に学ぶ機会が減り、収入も少なくなる」と不満の声が上がる事態も起きた。 (神田要一)

 「産科医は現場で経験を積むことが大事で当直もその一つ。当直が減れば勉強の機会が少なくなる」

中林正雄病院長は現場の医師の気持ちを代弁した。労基署の是正勧告を受け、今月から常勤医の当直を月三回程度に減らしたところ「大変不評だった」。病院は当直一回につき三万-六万円の手当を支払っており、収入減も不評の一因だった。

 当直明けは午後から休みにするなど、過重な負担にならないように配慮していたため、勤務体制にそれほど不満がなかったという。中林院長は「労基署の勧告通りにやろうとすると、当直は月三回程度しかできず、困るというのが本音」と言う。

 病院は今回、医師側と時間外勤務の協定を結んだ際、規定の月四十五時間を超えても勤務できるよう特別条項も設けた。ただ、緊急時などに限られ「特別条項があっても従来の体制に戻すわけにもいかない」(大西三善事務部長)と話している。

よく見ると直接現場の先生方に聞いたわけでもなく、あくまで「院長を通じて」語られるところの現場の声であるということに留意ください。

新聞報道や院長の代弁する「現場の声」なるものがどれほどの信憑性があるのかという問題も確かにありますが、先ほどの奈良の先生方の悲惨極まるコメントと比べて何か違うぞ?とは感じられるところですよね。
記事を読む限りでも愛育の先生方は真面目で熱心で善意の方々なんだろうなとは思いますが、色々と政治的利用価値は高そうなコメントが並ぶのは気になるところです。
もし現場の声が実際に院長の言う通りの「大変不評だった」ということであるならそれはそれで大きな意味があることですし、現場の声が全く違っているのに院長がこうしたコメントを出しているのであればそれ以上に大きな意味があることですが、果たしてどうなっているのでしょうかね?

一方ではもっと働きたい、働く余力があるという労働力があって、一方ではこれ以上は無理、もっと人手をという職場がある、しかもそれらは社会的に必要とされる公共サービス的側面の高い産業であると言うことであれば、公的権力を活用して需給均衡を図るべきではというのが読売新聞らに代表される医師強制配置論者の主張です。
仮に国が画策する医師強制配置計画などと言うものが実現したとしても愛育病院に勤務していらっしゃるようなヒエラルキー上位に位置する(だろう)先生方が動員される可能性は限りなく低いんじゃないかという気はしますが、そうであるからこそ関係者の発言にはそれなりの周囲に対する影響も考慮する必要があるのではないかなとも思うのです。
愛育の現場にいる先生方も自分の発言の扱われ方というものに留意する必要はあるし、もし院長が勝手に現場の声なるものを捏造しているのだとしたら、それは違うぞと声を上げていく必要はあるんじゃないかと思いますね。

何にしろ業界内部で労働環境改善に向けて気持ちが高まってきている、そして外部からも注目の目線が集まってきているだけに、何気ない一言というものにもそれなりの社会的意味、あるいは社会的責任というものが自然についてまわることになります。
現場の声を無視する一部の方々が背後から銃を撃ちかけるような真似をすることも大きな問題ですが、ふと漏らした何気ないコメントが「これが現場の声だ!」と思わぬところで広まってしまうということも考えないではいられない時代と言うことですよね。

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