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2009年4月15日 (水)

愛育病院・日赤医療センター関連の話題で少し追加(追記あり)

先日の愛育病院問題に関連して、自称医療に強い読売新聞が解説記事を載せていますので紹介しておきましょう。

[解説]「周産期」指定返上問題/東京(2009年4月14日読売新聞)

過重労働医療の危機 診療科別に計画配置必要

 総合周産期母子医療センターの愛育病院(東京都港区)が、労働基準監督署の是正勧告により夜間の常勤医確保が困難として、指定返上を都に打診した。(医療情報部 館林牧子)

 【要約】

 ◇愛育病院は医師の夜間勤務が「時間外労働」と見なされ、是正勧告を受けた。

 ◇産科・救急医不足が背景にあり、抜本的解決には、医師の計画配置が必要だ。

 愛育病院によると、労基署から3月、産科医、新生児担当医の夜間勤務が、労働基準法で定める労働時間を超えているなどとして、指導・是正勧告を受けた。

医療機関では慣習的に、夜間勤務は労働時間に当たらない「宿直」扱いにしていることが多い。定時の見回り程度の仕事で睡眠も取れるのが建前だ。

 しかし、急患を常時受け入れている同病院の夜間勤務は、睡眠などは取れないのが実態であり、労基法上の「時間外労働」にあたると見なされた。労働時間に含めなければならず、日勤の25%増の割増賃金を支払う必要がある。

 総合周産期母子医療センターは産科医が24時間いることが条件だが、同病院では労基署の指導に従った場合、夜間帯も常勤医が常に勤務することは困難と判断。都に指定の返上を打診した。都からは「夜間は非常勤医でも問題ない」として、総合センター継続の要請を受けており、今月下旬には結論が出される見通し。

 しかし、今回の問題は愛育病院だけの問題にとどまらない。全国周産期医療連絡協議会が昨年、全国75か所の総合センターに行った調査では、97%の施設が、同病院と同様に、夜間勤務を「宿直」扱いとしていた。皇室関係のご出産でも知られる同病院は、比較的医師数も待遇も恵まれた病院であるにもかかわらず、労基署から是正勧告を受けたことが、医療現場には余計にショックを与えた。

 背景には、分娩に携わる産婦人科医の絶対的な不足がある。厚生労働省によると、2006年までの10年間で、全体の医師数は15%増えているのに対し、産科・産婦人科医の数は約1万1300人から約1万人へと11%も減少している。

 さらに、働き盛りの20歳代の産婦人科医の7割、30歳代の5割が女性だが、女性医師の約半数は、自分の出産を機に分娩を扱わなくなることも、産科救急医の不足に拍車をかけている。

過重労働は現場の疲弊を招き、医師の健康のみならず医療の安全も損なうことにもつながる。杏林大の岡本博照講師(公衆衛生学)が4年前、東京都と大阪府の6か所の救命救急センターの勤務医を調査したところ、平均当直回数は月10回、休日は月に2日だけ。月に1日も休みを取らず、22回も当直勤務をこなしていた医師もおり、労基法とはかけ離れた実態が明らかになった。休日が3日以下の医師は、免疫機能が低下し眠気も強いなど健康上の問題もわかり、岡本講師は「診療内容にも大きな影響を及ぼしかねない」と指摘する。

 愛育病院では、夜間専門の非常勤医師を雇い、現在の当直体制は維持する方針。だが、夜間の非常勤医師は、昼間は別の病院で働いており、病院を昼夜で移るだけで、医師の過重労働の抜本的な解決策にはならない

 杏林大高度救命救急センターの島崎修次教授は「労基法を守るなら、救命救急センターには今の1・5倍以上の医師が必要だ。医師確保が難しい中で、労基法の順守だけを求められても現場では解決のしようがない」と話す。

 読売新聞が昨年10月公表した医療改革提言では、医師を増やすとともに、地域や診療科ごとに定員を設け、計画的に専門医を養成することを提案している。過酷な勤務実態を改善するには、産科や救急など激務の診療科に適正に医師を配置する仕組みが必要だ。

ま、最後の「医者など黙ってラーゲリ送りでFA」云々の持論に関しては華麗にスルーしておくのがよろしいかなという感じなのですが(苦笑)、相変わらず判ってるんだか判ってないんだか微妙にピンぼけしているような記事ですかね。
しかしながら敢えて評価する部分を探せば、医師の過重労働問題が回り回って結局は患者の不利益になるという話が少しばかりでも表に出てくるようになったのは、一応はマスコミの進歩と言えるのかも知れません。
別に医療業界に限った話でもなく日本人が勤労を美徳としているのは素晴らしいことだとは思うのですが、一面でそれが「仕事をしていない=悪」という考えに結びつきやすいのは欠点ですよね。

消防隊が常時稼働状態でいつも消防署に一台の車も残っていないという状況を目の当たりにすれば、「これって何かヤバイことなんじゃね?」とは誰でも想像できると思うのですよ。
ところが国が「病床稼働率をもっと上げろ!空きベッドを抱え込むなどまかりならん!」と空床ゼロを目指さなければ経営的に成り立たないように診療報酬を改定してしまうことに対しては、医療の無駄を省くなどという甘い言葉に乗せられてしまっても平然としている。
そのくせ空きベッドがないということは当然急患など取れないのだという当たり前の事実が公になってくると「おかしいじゃないか!医者は何をやっているんだ!」と大騒ぎし始めるわけですが、何をやっていたも何も国民の皆さんが支持し望んだとおりの政策が実を結んだだけなんですけどね。
日本には「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という言葉がありますが、どうせ熱さを経験するなら向こう何十年かは忘れようにも忘れられないというくらいに骨身に染みて実感しておく良い機会であるというくらいに前向きに捉えておくと、医療の現状もあまり思い悩まずに済んで良いかもしれません。

さて、愛育病院と並んで日赤医療センターも労基署から是正勧告を受けているわけですが、これに関連して「新小児科医のつぶやき」で詳しくも面白い記事を載せていただいていますので紹介しておきます。

 

日赤医療センター 労基署への挑戦(2009年4月4日の記事)

 

なかなか一口に要約しづらい話ですが、有名コテハンさん達が集うコメント欄も含めて色々と興味深い話が続いていますので是非ご一読いただくのがよろしいでしょう。
実際のところこうして経緯を概観してみただけでも厚生労働省内部に何かしら首尾一貫しないものを感じてしまうのですが、確かにYosyan氏もご指摘のように合併省庁だけに旧省庁それぞれからのしがらみも相当に引きずっている可能性というのはあるかなと思います。
特にコメント欄のこの辺りの話などはなかなか面白そうで、関係者が何か勘違いをしているといったものでなければこれは尾を引くかも知れないですよね。

法務業の末席法務業の末席  2009/04/04 11:02

  愛育病院に対して「東京都及び厚労省の対応」ですが、下記2の説明アドバイスを行った「厚生労働省の担当者」とは、一体厚労省の何処の部署の誰のことなのでしょうか?

>1.都は25日、「労基署の勧告について誤解があるのではないか。当直中の睡眠時間などは時間外勤務に入れる必要はないはず。
> 勧告の解釈を再検討すれば産科当直2人は可能」と病院に再考を求めた。
>2. 厚生労働省の担当者からは25日、労働基準法に関する告示で時間外勤務時間の上限と定められた年360時間について、
> 「労使協定に特別条項を作れば、基準を超えて勤務させることができる」と説明されたという。

周産期センターの指定返上に絡んでの東京都の担当者と相談したのは3月25日のことです。このときに愛育病院が相談したのは東京都福祉保健局医療政策部であって、東京都労働局(三田労働基準監督署の上級庁)や厚生労働省労働基準局(東京都労働局の上級庁、所謂「本省の局」)と相談したとの報道は確認できません。ですので上記の2つの見解やアドバイスは、指定返上の相談を受けた東京都福祉保健局医療政策部が、慌てふためいて周産期センター全般を所管する厚生労働省の雇用均等女子家庭局、或いは病院や医療を所管する医政局に問い合わせた結果、その両部局の厚生労働省の担当者が説明した2の解説アドバイスであると推測されます。

ご承知のこととは思いますが、労働基準法を所管しているのは厚生労働省ですが、労働基準局が所管であって、雇用均等女子家庭局や医政局は労働基準法や労働基準行政について、何ら公式に発言したり法律解釈を行う権限がありません。また、36協定での時間外労働の上限時間である年360時間等の限度基準の設定は、平成10年労働省154号の労働大臣の告示であって、特別条項での上限超過についても法的な根源はこの大臣通達と、平成11年4月改正で追加された労基法36条2項「労働大臣は、・・・・・・基準を定めることが出来る」という労基法条文になります。ですので36協定で延長できる上限時間の基準を見直す場合は、単なる官僚の通達(局長通達)ではダメで、改めて厚生労働大臣(現時点では舛添大臣)の名において、平成10年の労働大臣告示を改正する新たな大臣告示が必要になります。所管の労働基準局であっても、課長や課長補佐クラスが電話口で東京都福祉保健局医療政策部に対して安請け合い出来る事項では無い筈です。

すなわち、36協定での上限時間数や特別条項での上限時間を弾力的に解釈に言及することや、労基法や36協定に関する労働基準行政の運用の弾力化ついては、雇用均等女子家庭局や医政局が勝手に発言することは出来ません。もし仮に、雇用均等女子家庭局や医政局所管が管轄外の労基法解釈について、労働基準局との打合せや承認が無いまま解説アドバイスすることは重大な越権行為であって、そうした権限外の労基法解釈アドバイスの有効性は認められないのが霞ヶ関のルールです。

こうした理由から、先の愛育病院に対する「厚生労働省の担当者からは・・・特別条項を作れば・・・できると説明された」という報道は、労働基準局の担当者からの公式の説明ではなく、雇用均等女子家庭局や医政局の医療系官僚が、個人的な「思い」として東京都福祉保健局医療政策部の担当者宛てに口にしたコメントが、医療系のマスコミ関係者や病院関係者の間で、いつのまにか労基法を所管する「厚生労働省の担当者」が、という形に膨らんでしまったのではないかと推測されます。

この「厚生労働省の担当者」が一体どの部局の誰なのか私自身も明確な情報を得ていませんが、印象としては労基法を所管する労働基準局の担当者の解説アドバイスとは到底思えません。今後の報道で明かになるであろう事実経過や、厚生労働省から出される公式の情報などを注視するべきと思います。

Yosyan   2009/04/04 12:41

  法務業の末席様

 >印象としては労基法を所管する労働基準局の担当者の解説アドバイスとは到底思えません。

私もそうなんです。簡単に経緯をまとめると、

 3/13:日赤に是正勧告
 3/17:愛育に是正勧告
 3/25:東京都と「厚労省の担当官」のアドバイス
 3/26:マスコミ報道

ここでそもそもなんですが、東京都の担当者が愛育の総合周産期返上の動きに対して愛育に相談をしても何の不思議もないのですが、ここで厚労省(本省)の官僚がシャシャリ出てくるのは誠に不思議です。シャシャリ出た上に労基法軽視のアドバイスをするなんてのは、官僚秩序からあり得るかの素直な疑問です。労基署の決定を骨抜きにするような方針のアドバイスを、是正勧告後1週間で行なうのは責任問題と言う観点からリスクが高すぎます。

政治的に動く事はありうるかもしれませんが、それならそれで責任回避のために絶対に表に出ない隠密行動でなければならないはずです。隠密行動を起すにしても時期として早すぎるかとも感じます。隠密行動のためには省内の根回しが絶対必要ですから、1週間で動くには監査の時点から行動する必要が生じます。それなら監査自体をやらなければ良いの理屈になります。もっと言えば監査の時点で是正勧告内容に細工をした方が問題対処が容易になります。

そうなると 3/25に愛育と相談したのは、法務業の末席様が指摘されたように、東京都の担当者だけで、東京都の担当者が内々に「厚生」労働省の官僚に相談しただけだった可能性が高くなります。ここで是正勧告に震え上がっている愛育サイドを説得するために、東京都の担当者が「厚労省の担当者」の話をお墨付として多用したのがもっともあり得ます。

一つだけ不思議なのは、マスコミ報道の「厚労省の担当者」の話の内容は、厚生「労働省」サイドからすると、おもしろくないと言うか看過できるものではないと感じます。それに対するリアクションが今のところ乏しい事です。この辺りをどう考え、判断するかの続報が待たれるところです。

法務業の末席 2009/04/04 13:10

>厚生「労働省」サイドからすると、おもしろくないと言うか看過できるものではないと感じます。
>それに対するリアクションが今のところ乏しい事です。

私が想像するに、「厚生労働省の担当者の話」は東京都担当者或いはマスコミ関係者の、脳内メイキングであることを、霞ヶ関の本省労働系部局では当初から承知しているから、省内でのリアクションが出ていないのではなかろうか。また東京都に対して厚労省の労働系部局から、医政系部局を経由しないで直接イチャモン付けたり、ネジ込むことも官僚のルール違反ですから、表面化していないのではないかと想像するのですが・・・。

ただ表だってイチャモン付けなくても、心の内では「このヤロォー」と労働系官僚や労基署が憤慨し、その怒りの感情が「病院や都がそんな小細工するなら、今に見ておれぇ~」となって、医療現場にしっぺ返しと言うかリアクションが来ることを、私個人としては非常に危惧します。

(追記)この厚労省の奇妙な動きに関しては、「ロハス・メディカル ブログ」さんでも取り上げていただいているようですが、事実に関して重大な情報が掲載されていますので引用いたします。

厚労省医政局長から愛育へのアドバイスの中身(2009年4月10日の記事) より抜粋

愛育病院側の唐突な指定返上の申し出に慌てた都や厚生労働省は、翌日に中林院長ら病院側と会談の場を持ちました。

その会談内容について、26日付の朝日新聞の報道で、
「厚生労働省の担当者からは25日、労働基準法に関する告示で時間外勤務時間の上限と定められた年360時間について、『労使協定に特別条項を作れば、基準を超えて勤務させることができる』と説明されたという」との内容が流れていました。

この報道内容をそのまま受け止めると、
厚生労働省が病院に「過重労働してもいいですよ」と言ったということになります。
医療者の過労死裁判に多くかかわってこられた、松丸正弁護士にこの話を伝えますと、
「行政が『過労死してもいい』と言っているようなものではないか。行政のそういう態度が問題だ」
と、大変憤慨しておられました。

ただ、朝日新聞の報道では、「厚労省の担当者」としか書かれておらず、厚生労働省内の旧労働系の労働基準局なのか、旧厚生系の医政局の、どちらが言ったのかが分かりませんでした。

①結果的に医師の過重労働を容認するような形となる助言を病院長にした
②内容として、明らかに労働マターの話

一体どちらの局の「担当者」がそういう発言をしたのか、確認しなければならないと思っていました。

そこで、会見時に中林院長に尋ねると、

医政局長です」と。

!!!!!
担当者レベルではなく、医政を束ねる局長がそうおっしゃったのか、しかも、これは労働基準局側にも触れる内容ではないのかと、大変驚きました。

中林院長は、
外口局長が
『生きた行政をやっている医政局として、今の(労使協定の)条項では病院を運営していくことはできないので特別条項を使ってクリアしたらどうか』
と、アドバイスをしてくださった

とお話しされました。

これは、かなり問題ではないか?と感じました。
(記事のコメント欄に、法務業の末席様からもご指摘を頂戴しました内容ですね)

しかし、これは中林院長からのお話ですので、外口局長に事実を確認せねばなりません。
そこで、医政局書記室に上記の内容が事実であるかどうかをメールで、文字にして尋ねました。

すると、翌日にこんな回答を頂戴いたしました。

======

「外口局長が

生きた行政をやっている医政局として、
愛育病院が医師の処遇に努力されていることも理解しているが、三六協定の締結は求められており、勤務する医師の過半数を代表する者と合意することで特別な定めをすることができるようなので、監督署とよく相談してみたらどうか

と、アドバイスをしてくださった。」

という趣旨の発言をしたとの確認をいたしましたので、回答いたします。

======

ほー。
「特別条項」という文字は抜け、「こんな抜け道がありますよ」というニュアンスもやわらいでいます。

事ここにいたってと言う感もなきにしもあらずですが、最近になってようやく医療業界の外側からも「このままじゃ医療ヤバくね?」という声が聞こえてくるようになりました。
医療を守ろうと市民自らが立ち上がった兵庫県丹波市の例などもその一つですが、実のところこうした市民運動にしたところで別段特別にものすごいことをやっているというわけでもなんでもありません。
しかし医療の受益者である国民の間にようやく当事者意識が出てきたことの意味は、決して小さなものではないということですね。

この結果世の中の何が変わったかと言えば、かつてないほど医療ネタがニュースバリューを持つようになってきています。
医師が危ない-密着、高知医療センター脳外科」という一連の連載で好評を博した高知新聞などもその一例ですが、今まで「白い巨塔」がどうの「赤髭」がこうのと空想の世界で遊ぶばかりだったマスコミがようやく実際の医療現場に足を運んで取材するようになったことも、そうした視聴者層の意識変化に基づくものなのかも知れません。
医療業界内部では久しく以前から国民に警鐘を鳴らしてきた人々が存在していましたが、ようやくそうした声が届くべき人たちに届き始めたということなのでしょうか。

しかし一方でこうした労働問題に見られるように、業界内部では相変わらず昔ながらの発想でやっている人間が多いのも事実です。
せっかく世間では医療が危ない、何とかしなければいけないという気持ちになってきているというのに、一番の抵抗勢力が当の医療業界それ自体であったということになると目も当てられませんよね。
雇用側も被雇用側も最低限必要な関係法令は当然承知していなければならないし、法令よりも業界内部事情を優先させるなどという考え方を公然と語るという行為がどれほどおかしいことなのかという社会常識も持っていなければならない。

現代医療は卓越した個人の技に支えられた名人芸ではなく、幾多の凡人によって形作られる広大な裾野に支えられた社会システムです。
天才や超人、聖職者などにしかこなせないような特別な業務などというものは、社会全体で共有できるほど大きな規模で長続きさせることは決して出来ません。
心ある医療関係者は社会に向かって「変われ変われ」という以上に、何よりもまず同業者に向かって「変われ変われ」と言い続けなければならないということなのでしょうね。

医療志民の会 発足記念シンポジウム/東京(2009年4月12日ロハスメディカル)

 医療の抱える課題を克服するために国民的大合同をめざそうという『医療志民の会』が発足し、その記念シンポジウムが11日に開かれた。楽観的に言っても、悲観的に言っても、千里の道も一歩からの「一歩」は確かに踏み出した、ということに尽きるだろう。

 医療のステークホルダーには①提供者であり禄を得ている医療従事者②受益者である患者③大部分の費用負担をしている健康な国民・企業、の三者がある。

医療費抑制策と医療従事者への過度な要求とが続けば医療供給が細って行かざるを得ないということは、医療従事者のほぼ共通認識となったようだが、患者に共有されたとは言えないし、まして健康な国民や企業が心底から共感できるものでないと言わざるを得ない。右肩上がりの終わった社会では、費用負担者の理解を得ずにお金が回ってくるはずもないのだから深刻だ。

 原因は、当事者がきちんと説明していないからであり、そのまた原因は利害を共有できるはずの医療従事者と患者が協同していないからであり、もう少し厳しく言えば、医療従事者間でも利害と思惑が錯綜し、患者もまた一枚岩ではないからだ。ということで、国民的大合同をめざそうという理念・動きが出てくるのは当然とも言える。

 では、この日のシンポジウムで、国民的大合同の姿がかすかにでも見えただろうか。

 パネルディスカッションの司会をした黒岩祐司氏の総括の言葉だ。「論点が、あまりにも多岐に渡ったので方向性を出していけてないが、しかし良い流れなのかなあとは感じている。医師が権威の中にいた時代から、逆に患者の権利が過剰に言われて萎縮医療と医療崩壊の時代を経て、今改めて一つの場で、様々な立場の人々が立場を超えて情報交換し、変えるところは変え、我慢する所は我慢していこうという所に来た」

 努めて前向きな言葉遣いをしているが、要するにバラバラということが改めて分かった。そこは収穫だねという話だ。

 で、そのバラバラが、ステークホルダー三者の間のバラバラなのかというと、パネルディスカッションに登壇した15人の内訳は、医師8(勤務医6、開業医2)、歯科医師1、看護師1、ソーシャルワーカー1、患者2、メディア1、医学生1ということで、恐ろしく医療従事者側に偏っていた。

 患者である塩見健三・がんまんクラブ代表が、いみじくも最後に感想で述べていた。「この場にいながら勉強させていただいた。医療の世界が、これほどまでに複雑で矛盾をいっぱい抱えているんだなあと感じている」。私も全く同感であり、医療界内部のバラバラが主に見えたシンポジウムだった。費用負担者まで巻き込んだ運動にしていくためには、まだまだ何段階かの質的変換をとげる必要がありそうだ。

 ここからは、シンポジストたちの発言の中で印象に残ったものを、発言の出てきた順にいくつか拾っていく。

畑中暢代看護師
「先進医療である膵島移植のコーディネーターをしている。移植チームは、米国のベイラー大学で活動していて、その活動資金は多くが市民の寄付によって賄われている。寄付を募るために、まず市民講座を開き、それから老人ホームを訪問したり、ダンスパーティーに出席したり、市民開催のイベントに参加したりして、多くの市民に研究の意義やそこに関わるスタッフのことを知ってもらっている。実際、私も空港の入国審査で『膵島移植チームの方ですね』と言われたことがある。それだけ活動が一般の人に知られている。院内だけでなく外へ出て行って話をしないといけない」

(黒岩氏の、日本医師会が諸悪の根源でないかという問いかけに対して)
神津仁・神津内科クリニック院長
「日本医師会は若い医師の代表ではない。そうなるのは階段を一つずつ上がらないといけないようになっているから。私も区医師会の副会長になった時に雑巾がけもしないでケシカランと言われた」

長尾和宏・長尾クリニック院長
「私自身も医師会の人間だし、医師会には頑張ってもらいたいんだけど実際には非常に難しい。医師会こそchangeが必要で、やれるもんならやりたいが、そういう類のものではない」

神津
「皆がこの問題にフォーカスすれば変えられる。こういうことを話す場が今までなかった」

崔ヘイ(〓)哲・滋賀県立成人病センター放射線治療科部長
今の医者はスーパーマンでないと働けない。そういう職場に普通の人は入って来れない。市民と病院と自治体と合体して医療を何とかするという時には、必ず現場にシワが寄るようになっている。マスコミも叩きやすい所だけ叩いて、市民に対して責任や負担を果たせと伝えてきたか。医療は既に崩壊している。もう戻れない。戻れないことを前提に医者が生きていけるようにしないとゼロになる」
アクセス、コスト、クオリティのどれを選ぶのか、国民も選択の時に来ている

豊島勝昭・神奈川県立こども医療センター新生児科医長
「昔と比べて医療が良くなってきた部分も相当ある。でも、その良くなっている部分が人々の欲望を満たす方に分散して、本当に昔から必要だった分野の人がいなくなっているというのもあると思う」


「それは政策。全てを取ることはできない。我慢する所を我慢しろと伝えるのは、政治家とマスコミの仕事

豊島
「人間が協力して人間を守るという原点に立ち返りたい」

大谷貴子・全国骨髄バンク推進連絡協議会会長
「お金がない、お医者さんがいない、改めて切実さに鳥肌が立った。ただ、どうしてこんなにお金がかかるのかという時に、禁煙をなぜ推進しないのかという話もそうだし、たとえばイギリスでは、がん検診を受けて見つかった人の治療費は無料で、受けてなかった人は有料になるという。こういう政策をすれば皆楽になるんでないか」

ここから二部でシンポジスト交代。

小松秀樹・虎の門病院泌尿器科部長
「現実を認識するという努力は大変。こうあるべきだと言ってしまった方が安直。しかし厚労省の言ってくる、こうあるべきは、現場ではとても守れないようなものばかり」

竜宗正・千葉県がんセンター前総長
現場でドロドロになってやってきたたたき上げの人の声を政治に届けないといけない。患者・国民も医療を守るために義務を果たす必要がある。ただしそのためには医療側のピアレビューも必要で、悪い医者を皆で庇っている所があった。今後は、こいつの所へは行くなという位に情報開示しないと国民の信頼を得られないのでないか。ほとんどの医療者は見られても困るようなことをしてないのだから、どんどん情報開示したらいい。
看護師の専門性についていえば、看護協会が専門看護師、認定看護師を育成しているけれど、あれを取っても給料にもポジションにも反映されない所が大問題だ。全国に100人もいない専門看護師が、師長の下に従属させられて思うようなことをできないでいる」

足立智和・丹波新聞記者
「柏原病院の守る会は、別に大したをことしているわけではない。ありがとうと手紙を書いたり、お友達に無闇に病院に行ったらあかんよと伝えているだけ。そこら辺の地に足のついた所からやっていかないとダメなんじゃないか」

小松
「人と人とが感情でつながり合うということが非常に大事であることは間違いない。しかし、それだけでもない。そういうことを押さえるためにもデータが必要。たとえば先ほどの大谷さんの話を聴いていて違和感があったのは、禁煙すると医療費は減るかということ。喫煙に起因する疾病は減るだろうが、その分長生きするときっと別の病気にかかるからトータルでは医療費が増えるかもしれない。そういうことはデータに基づいて議論しないと間違える」

 ということで、勉強会として捉えるならば非常に盛りだくさんで刺激的だった。が、これで何かが変わるかといえば、やはりこれから各構成メンバーたちがいかに小異を捨てて大同に付けるか、その大同に外部の人間を巻き込んで来れるかということになるのだろう。

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