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2009年4月 6日 (月)

救急冬の時代 ご利用はくれぐれも計画的に

先日少しばかり触れました毎日新聞系新聞販売所従業員の死亡事例について、朝日新聞にやや詳しい経緯を書いた記事が載っています。

救急医療の危機 露呈 6病院搬送不能/奈良(2009年03月31日朝日新聞)

 ◇生駒市消防本部「7つ目、早い方」

 生駒市内で意識を失い倒れた新聞販売所従業員の男性(63)が生駒、奈良両市の六つの病院・医療機関に受け入れを断られ、約1時間後に大阪府内の病院に搬送後、死亡した問題は、県内の救急医療態勢のもろさを改めて浮き彫りにした。市消防本部は「七つ目で搬送先が見つかるのはまだ早い方。それ以上照会することも月に数件はある」と明かす。

 21日午後、救急隊員は通報を受け、7分後に市北部の新聞販売所に到着。すぐに重篤な救急患者を受け入れる救命救急センターを備えた近大奈良病院(生駒市)に電話。救急専門医の指示で、心臓の除細動や気道確保を行った。同病院には当直の医師が2人いたが、入院患者の処置で手が離せず、近くの2次救急病院に搬送するように指示されたという。

 この日、生駒市の2次救急の当番病院は白庭病院だった。新聞販売所からは北に1キロ足らず。だが、病院側は「土曜日で当直医が1人しかおらず、十分な設備もない。最初から(重篤な救急患者を受け入れる)3次救急で診てもらった方がいいと判断した」。

 近大病院と並ぶ救急医療の拠点、県立奈良病院救命救急センター(奈良市)も「研修医を含む4人が当直中でベッドは1床空いていたが、直前に脳内出血で救急搬送され、手術した患者の経過が悪く、処置に追われていた」と説明する。

 男性を最後に受け入れたのは、大阪府大東市の野崎徳洲会病院だった。市が計画中の公設民営の市立病院で指定管理者に内定している医療法人徳洲会が経営している。同法人は「年中無休」「24時間」、救急患者を受け入れることで知られる。

 市消防本部は「一般的に心肺停止に陥った場合、できるだけ近い病院で蘇生措置をした方がいい。それで心拍が再開した例もある」と言う。今回のように地元の病院が搬送を受け入れず、医療圏を越えて野崎徳洲会病院に搬送することは過去にもあったという。

 消防庁のまとめでは、08年の県内の重症患者の救急搬送で、受け入れ先が見つかるまでに4回以上照会したケースは530件と全体の12・5%を占め、割合は全国でワースト1。11回以上は50件(1・2%)あった。最大照会回数は23回だった。搬送先が見つかるまでに30分以上かかった件数も344件と、8・4%を占める。

 ◇「医師不足が影響」救命救急センター24時間体制作りへ

県の武末文男・地域医療連携課長は30日、記者会見し、救命救急センターを備えた県立奈良病院と近大奈良病院が受け入れを断ったことが最大の問題と指摘した。そのうえで「医師不足が影響している」として、今後、救命救急センターで常時重篤な救急患者を受け入れることができる態勢作りを進める考えを示した。

 武末課長によると、県立医大病院(橿原市)を含め3カ所の救命救急センターはそれぞれ研修医を含め医師約10人態勢だが、24時間体制で救急患者を受け入れるには30人態勢にする必要があるとした。

 また、消防隊員が2次輪番病院にも照会し受け入れを断られたことについて、武末課長は「2次病院に問い合わせても受け入れは難しい。患者の症状に合わせた照会の規則を作らないといけない」。今月可決された改正消防法は、都道府県に容体に応じた医療機関リストを作成し搬送先を選ぶルール作りを義務づけている。病院搬送に約1時間かかったことは「救急搬送にかかる時間の全国平均は33分。著しく長くかかったとは思わないが、平均より長いのは事実」とした。現場の消防隊員が患者の蘇生をしながら搬送先を探すのは負担が大きいとして、救命救急センターか消防本部が司令塔として照会を担う新たなシステム作りを検討するという。31日午後2時から医大病院で救命救急センターや消防、県の担当者が集まり検討会議を開く。

  ×  ×  ×

 ◎21日の救急搬送の経過(県調べ)

午後1時42分 男性が倒れ、同僚が119番通報
  1時43分 救急車が出動
  1時49分 救急車が現場に到着。応急処置をしながら搬送先を照会
・近大奈良病院(救命救急センター) 処置中
・白庭病院(生駒地区2次輪番病院) 処置困難
・阪奈中央病院(救急告示病院) 処置困難
・県立奈良病院(救命救急センター) 処置中
・西奈良中央病院(生駒地区2次輪番病院) 処置困難
・県立奈良病院 処置中
・野崎徳洲会病院 受け入れ可能と回答
  2時19分 現場を出発
  2時42分 野崎徳洲会病院に収容
  3時15分 死亡確認

こうして見ると本当にどこの施設も社会的要請に対応しているのか、無理な受け入れはしないという姿勢が徹底してきているのを感じますね。
医療に対する国民の要求を見てみますと少なくとも質的悪化を受容するという声はないわけですから、コスト面で国策的に押さえられている以上は全て同時には満足できないと言われる三要素(質、コスト、アクセス)の残る一つであるアクセスが悪化することは避けられません。
限られた医療資源によっても対応可能な範囲内においては可能な限りの対応をするという基準が明確化してくれば、後はその資源を如何に国民の間で分配するのかという議論になっていくのが自然かなと思いますから、後はこうした現状を受けての国民的議論の進展を期待するところですかね。

実際のところどの程度までなら対応可能なのかという話をする上で当然ながら救急の実態把握が欠かせませんが、最近ではマスコミ等においてもある程度現場の状況が報道されるようになってきました。
少し前までの「医療関係者が幾ら声を上げようが徹底無視」という状態からすると隔世の感がありますが、ここでは地方医療圏の状況を報じる地方紙を例に取り上げてみましょう。

医師疲弊「仮眠もできぬ」 危機の二次救急輪番制 広島ルポ(2009年4月1日中国新聞)

 重症患者を夜間や休日に受け入れる広島市の二次救急病院の輪番制が、崩壊の危機にさらされている。当直医師は日中の診察や手術に引き続く長時間勤務を強いられ、軽症患者の増加への対応に追われる。二次救急体制の維持の「瀬戸際」に立つ現場を訪ねた。

 ▽連続30時間勤務も 不当なクレームも悩み

 腕を骨折した幼児の診察中に、看護師が新たな救急車の到着を告げた。午後八時すぎのシムラ病院(中区舟入町)。外科部長の井上秀樹医師(43)は、エックス線撮影を待つよう母親に言い残して診察室を出る。待合室に寄って、別の親子に「もうちょっと待ってね」。搬送されてきた女性が待つ救急処置室へ急いだ。

 断続的に電話

 午後六時から翌午前八時までに井上医師が処置した患者は六人。うち五人が午後八時台に集中した。午前二時、腕のしびれを訴える男性からの電話に応えた。井上医師は「来院や救急隊や患者からの電話が断続的にあり、ほとんど仮眠できない」と明かす。

 この夜は、二次救急の本来の役割ではない軽症患者が五人を占めた。井上医師は「ブト」に刺された患者を深夜に診た経験もある。「それでも、夜にけがを負った患者を診るのは苦にならない」と使命感をみせる。

多忙を理由に日中に受診せず、輪番病院に来る患者が目立つ。いわゆる「コンビニ受診」が二次救急の患者数を押し上げている。広島市内では二〇〇七年度に二次救急病院が受け入れた患者は、十年前と比べ25・9%増の五万五千六百八人に達した。同病院の種村一磨理事長は「このままでは重症患者への対応の遅れを招く恐れもある」と訴える。

 現場では急患より先に診察を要求したり、必要のない検査を求めたりする患者からの理不尽なクレームも目立つという。種村理事長は「クレームやコンビニ受診が医師をつぶす」と危機感を抱く。

 参加減を懸念

 当直を終えた井上医師は翌日も午前中、外来診察をした。午後からは入院患者を診て、帰宅の途についたのは午後三時。勤務は連続二十八時間に達した。手術日は三十時間を超えることもある。

 「救急は不採算部門のうえ、医師不足で救急担当を確保できない」と種村理事長。広島市内で輪番制に参加する病院は四月から一つ減り二十七病院となった。「今後も輪番制から抜ける病院がありそうだ」と危惧(きぐ)する。

 輪番病院の経営者たちは小規模な医院などが交代で時間外に軽症患者に対応するシステムの整備を求めている。行政、医療機関、市民が協力し、医師がベストな状態で診療できる体制づくりが急務となっている。

 ●クリック 広島市の二次救急輪番制

 夜間や休日に入院や手術が必要な重症患者を診る二次救急の輪番制は4月から27病院が対応する。ピークだった1998年度の32病院から大幅に減った。各病院の参加頻度も年々減っており、整形外科は初めて必要な病院数の下限を割り込んだ。

少し前に消防庁が中心となって全国の救急搬送の実態調査結果を発表していましたが、「重症患者が医療機関から3回以上受け入れを拒否されたケースが全体の3・6%」であり「最も多かった理由が「処置困難」、次いで「ベッド満床」だった。」と言うことです。
ちなみに同じ条件で妊婦や小児の場合は「妊婦では749件(4・6%)、子どもでは9146件(2・8%)」であり、「拒否理由で最も多く挙げられたのは妊婦が「処置困難」、子どもが「専門外」だった。」ということですから、やはり妊婦の救急搬送というものはそれなりにシビアな状況と見るべきようですね。
なお同じ調査で都道府県別に見てみますと4回以上照会を要した比率では「奈良が12.5%で最も多く、次いで東京(9.4%)、埼玉(8.7%)、大阪(8.2%)」ということですが、聖地奈良は別格としても都市部の方が状況は厳しいのかなと感じられるところですが、これも少しばかり注意が必要な話です。

以前に兵庫県姫路市で深夜に吐血患者が搬送先がなかなか決まらなかったという事例があり、その後に同市消防救急が搬送拒否先医療機関リストなるものをずらずらと公表して物議を醸したことがありました。
この件に関しては当ぐり研でも取り上げましたが、肝疾患患者の吐血という状況で近隣に消化器内科の常駐する病院があったにも関わらず「外科の症例だろう」と勝手に判断してスルーしていたり、明らかに搬送先として不適切と言うしかないビル診クリニックにまで電話をかけ「連絡つかず」などとやっていたりと、むしろ消防救急の搬送先探し体制にこそ大きな問題があるのでは?と考えられた一例でした。

医療機関自体が少ない田舎と違って都市部では全ての医療機関の顔が見えているわけではないだけに、こうした行き違いの重なりが更なる救急搬送困難を呼んでいる可能性もありますが、まさしくこうした点の改善について消防庁が搬送先リストアップなどと言いだしたように、最近ようやく対策が立てられ始めているところです。
救急医療の逼迫に対する一つの対策として最近では各地の自治体レベルで搬送トリアージの試みも行われていますが、ちょうど先頃そのお試し期間の結果が発表されていましたので紹介しておきます。

軽症の70%が救急搬送辞退 トリアージ試行で効果(2009年3月31日47ニュース)

 傷病者の緊急度に応じて搬送の必要性を判断する「救急搬送トリアージ」を、東京消防庁が比較的軽症な例を対象に試行した結果、救急車での搬送を最終的に辞退した人が70%に上り、救急隊の活動時間短縮に効果があったことが31日、分かった。同庁は4月1日から本格運用を始める。

 トリアージは重症者の搬送遅れを防ぐため、同庁が全国で初めて採用した。救急隊が現場到着後に容体を確認し、緊急性が低い場合は受診可能な病院を紹介し、同意を得て自力で行ってもらう。同意が得られなければ搬送する。

 2007年6月から08年12月までの試行期間で、救急隊が出場した約105万件のうち比較的軽症な約1760件にトリアージを実施したところ、約70%の傷病者が自力で病院に行くことに同意し、30%は同意しなかった。

 1回当たりの活動時間は、「同意あり」は平均約19分だったが、「同意なし」は現場での活動や搬送などで約36分を要した。

東京都ではかねてこの救急搬送トリアージに前向きな姿勢を示していることが知られていますが、極めて限定的な運用であるとはいえ対象例の70%が搬送辞退したと言うことはそれなりの効果があったのかとも思われる結果です。
もちろん全体の中でのわずか0.2%程度に試みたということですから、恐らくは誰がどう見ても緊急性がない症例に限定されていたであろうことは容易に想像できるところですし、今後対象を広げるほど現場での説得時間が余計にかかるだろうとも予想されるところではあります。
しかしこうした報道によるアナウンス効果も含めて住民意識改善につながる可能性が多少なりともあるということであれば、救急医療の需要と供給の不均衡を改善する一助となるかも知れないという期待は残りますよね。

同じトリアージつながりでこんな記事もありますが、医療=限られた公共資源であるという認識を一人でも多くの国民が共有し節度ある利用を心がけると同時に、節度を失った乱用に対しては周囲からはっきりと否定的な態度を示していくということが求められているのだと思います。
今の時代何かあったとして絶対確実に医療機関に受け入れてもらえるという保証などどこにもないという時代ですが、少しでもその可能性を高めるために平素から心がけていけることは幾らでもあるということです。
医療が守るのも国民であるなら、医療を守るのも国民であるという認識が等しく皆の共有するところとなれば、限られた医療資源も最大限の効率で機能するようになるのではないかという気がします。

「トリアージ」進まぬ周知 災害、事故時の治療優先順位付け 医師「人命救助 協力を」(2009年03月21日西日本新聞)

 大規模災害や事故の際、負傷者の治療の優先順位を決める「トリアージ」が九州でも浸透しつつある。2005年の福岡沖地震や大分市の造船所で26人が死傷した1月のタラップ落下事故では、駆けつけた医師らが行った。だが、市民の多くは「『避けられる災害死』を出さない」という意義を知らず、「早く診ろ」と判定に不服を訴えることも。医師は「市民の協力なしには救える命が救えない」と理解を求めるが、容易ではない。

 「選別」を意味するトリアージは、医師たちが負傷者を救命不可能の「黒」、緊急を要する「赤」、治療を遅らせても影響がない「黄」、緊急処置が不要な「緑」に色分けし、札を付ける。効率よく、多くの命を救うための取り組みだ。

 大分市の南日本造船大在工場での1月の事故。大分三愛メディカルセンター(同市)の玉井文洋医師は現場に急行、負傷者の搬送順位を決めるトリアージをした。死者2人と重軽傷者24人が次々と病院へ運ばれた。

 「ショックが大きすぎたのか、負傷者が叫ぶこともなく静かだった」。こう振り返る玉井医師だが、一方で、救急隊が「何で何もしないのか」と責められる声を聞いた。

 救急隊はトリアージで、死亡した男性に黒色の札を付けた。「黒」と判定されれば、医師たちは別の負傷者を診る。しかし、同僚がシートに寝かされたままの姿を見た作業員は「助かるやつを優先するんだ…」とやりきれない思いを口にした。

 福岡沖地震では福岡市内の病院で行われたが、「緑」と判定された人が腹を立て、札をちぎり、再び判定を求めるケースもあった。判定に従わない負傷者が増えれば混乱は避けられず、市民への周知は欠かせない。だが、現状では医療者でさえ正確に理解していないこともあるという。

 大分県内の医療者や消防職員向けに毎月、学習会を開く玉井医師は、市民向けの啓発は今後の課題と指摘する。ただ「周知しすぎると、負傷者が重傷を装って『演技』する恐れもあって悩ましい」とも打ち明ける。

 災害医療に詳しい九州医療センター(福岡市)の小林良三救急部長は「多くの人に意義を知ってもらうため、行政との連携が必要」と訴えるが、手付かずの状態という。

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コメント

救急が赤字事業であり、医師も設備も、そして後方支援もすべてボロボロだからこういう事態になっています。それを何とかしようとしない限り、どれだけ消防が何とかしようとしてもなんともしようがありません。
「医師の過重労働」がなんでおこっているのか、その原因をチャンと報道してくれるところは今のところ見当たりませんがね。

投稿: | 2009年4月 6日 (月) 13時26分

政府が医療にお金を十分出さないからだと言うことはみんな知っていますよ。でも自分は出したくないのよね。

投稿: | 2009年4月 6日 (月) 21時35分

財政的な裏付けというものは確かに社会的に無視できないことですから、むしろ医療業界のコスト軽視という姿勢を正すには良い機会なのかなと前向きにとらえることにしています(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2009年4月 7日 (火) 11時11分

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