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2009年4月

2009年4月30日 (木)

さらに豚インフルエンザ続報

いささかくどくなってきましたが、昨日に続いて今日も豚インフルエンザネタを取り上げたいと思います。
さて、メキシコ以外にアメリカでもついに小児の死者が発生したと言うことですが、こうした状況を受けてWHOでも警戒水準を「フェーズ5(相当数のヒト-ヒト感染の確証がある)」にまで高める一方、国内でも何とか水際での阻止を図っている状態です。

【豚インフル】メキシコ便、医師乗り込み検査の方針 厚労省(2009年4月27日産経新聞)

 豚インフルエンザ問題で厚生労働省は27日、感染が広がっているメキシコからの直行便が到着した際、機内に検疫官の医師らが乗り込み、診察などを行う方針を固めた。ウイルスを国内に入れない水際対策強化の一環で、他国からの乗客との接触を避けるねらいがある。次のメキシコからの直行便2便が予定されている29日から実施する。

 具体的には、到着便の乗客を留めたまま医師や看護師など5、6人が到着便に乗り込み、乗客全員に調査票を渡し、症状などがあれば記入してもらう。また、携帯型のサーモグラフィーを使った体温チェックを行い、乗員乗客の感染の有無を確認する。

 インフルエンザの症状を持つ乗客がいた場合は、他の乗客と分離。簡易検査などを行い、陽性反応が出たら指定医療機関で治療を行う。

 水際対策の強化では、厚労省はすでにメキシコからの入国者を対象に、一定期間、電話による健康調査を行う方針を示している。

こうやって一生懸命感染の洗い出しをするのはいいのですが、実際に感染者が見つかってしまった場合にどうしたらよいのでしょうか?
直ちに治療を…と言いたいところですが、感染者から更なる二次感染が発生する危険があるだけにどう扱ったらよいか迷うところですよね
このため厚労省は以前から新型インフルエンザ発生時のガイドラインを用意していますが、国民も医療機関も当面これに従って動くのがいいんだろうなと思いますね。

国民に対する行動指針としては以下の記事なども参考になりそうですが、いずれにしてもよく情報に耳を傾け公的な指示を遵守し、無用の混乱を巻き起こさないよう努めるべきなのは言うまでもありません。

新型インフル、もしも国内で発生したら…? (2009年4月28日中日新聞)

 政府は、新型インフルエンザ発生の警戒水準引き上げを受け、豚インフルエンザウイルスの国内侵入を阻止する水際対策に乗りだしたが、国内で感染者が出た場合には、感染拡大防止の観点から、市民生活は大幅に制限される。集会やコンサート、外出や公共交通機関利用自粛も求める。

 家庭では、最低限の食料や生活必需品の備蓄が必要になり、市区町村が食料配布などで住民生活を支援することが必要なケースも想定される。

 患者は感染症指定医療機関への入院措置がとられ、患者と接触した人には外出自粛を要請する。治療には有効とされる「タミフル」などの抗インフルエンザウイルス治療薬の投与が中心となる。

日本では政府が先頭に立ってマスクや手洗い、うがいの徹底といった一般的な防御対策を徹底するよう広報していますが、これに対して海外からはこういう声も出ているようです。

「マスクは感染防止効果乏しい」  英紙、交換必要と報道(2009年4月28日47ニュース)

 【ロンドン28日共同】新型インフルエンザをめぐり、28日付の英紙デーリー・エクスプレスは英健康保護局の専門家の話として、マスクを着用しても感染を防ぐ効果は乏しく、大量の使用済みマスクがかえって被害の拡大を招く恐れがあると報じた。

 マスクは一般的に感染リスクを減らすと期待されており、英国では、感染者の確認が報じられて以降、マスクが飛ぶように売れている。しかし、この専門家は「マスクはぬれるとウイルスが侵入しやすくなるので、1日に2度は交換する必要がある」と指摘。その上で「(ウイルス)感染の疑いがあるマスクの大量処分は、重大な公衆衛生上の危険を招く恐れがある」と警告し、マスクよりも「治療薬にお金を使うべきだ」とした。

 日本では、日常の予防策として厚労相がマスクや手洗いなどを求めているが、英保健相は「マスク着用を支持する科学的根拠はないが、感染者に接する介護員らのために、マスクの備蓄増強を急いでいる」と消極的な発言をしている。

何も知らない人が見ればマスクって無意味なの?!と短絡してしまいそうな記事ですが、いささか舌足らずな印象がありますね。
実はこの呼吸器感染症予防に対するマスクの効果と言うことは昔から議論のあるところで、例えばこちらの資料を参考にしていただければと思いますが、ざっと見ていただいて判るとおり「きっちりやろうとするとものすごく大変」なんです。

確かにマスクと言うものは正しく使用するならば一定の効果はある、ただし医療関係者の大部分でさえ実のところ正しく使用できていないという現実があって、本当であれば清潔操作などと同様に時間をかけて習熟させないといけないもののはずなのです(このあたりは医学教育カリキュラムの明らかな抜け穴だと思いますね)。
まして一般市民においては費用的な面からも集団感染防御として大々的に行うには効率が悪いのは確かですから、昔から「マスクの意味は感染防御ではなく感染者が周囲に汚染を広げないところにある」なんてことを言う人が多いのも無理ないところではあるかなと思います。
ただし誤解していただきたくないのはこうした費用対効果や実効性といった話は集団に対しての議論であって、個人が自分のお金を使ってやる分には個人の自由であるのもまた確かなのですね(ドックなどと同じことです)。

さて、一方で医療機関や行政に関してはどのような行動が求められているのでしょうか?
厚労省の「医療体制に関するガイドライン」では「患者数の増加に応じた医療体制の確保」をうたい文句に患者数に応じて段階を追った行動を取るよう定めていますが、現在のところ以下の第一段階に従うことになるでしょう。

第一段階:国外もしくは国内において新型インフルエンザ患者が発生したが、当該都道府県内にはまだ患者が発生していない段階

(1)発熱相談センターの設置
○ 都道府県・保健所を設置する市又は特別区(以下、「都道府県等」)は、保健所などに発熱を有する患者から相談を受ける体制(発熱相談センター)を整備するとともに、ポスターや広報誌等を活用して、発熱を有する患者はまず発熱相談センターへ電話等により問い合わせることを、地域住民へ周知させる。
○ 相談窓口は、患者の早期発見、患者が事前連絡せずに直接医療機関を受診することによる他の患者への感染の防止、地域住民への心理的サポート、特定の医療機関に集中しがちな負担の軽減等を目的とする。
○ 相談窓口では極力対面を避けて情報を交換し、本人の情報(症状、患者接触歴、渡航歴等)から新型インフルエンザを疑った場合、マスクを着用した上、感染症指定医療機関等を受診するよう指導を行う。新型インフルエンザの可能性がない患者に関しては、適切な情報を与え、必要に応じて近医を受診するよう指導を行う。
○ 発熱相談センターは、都道府県内に新型インフルエンザ患者が発生した後も継続する。

(2)新型インフルエンザの入院診療を行う医療機関(感染症指定医療機関等)の即応体制の整備
○ 新型インフルエンザ流行の初期には、当該患者は病状の程度にかかわらず入院勧告の対象となるため、都道府県等は新型インフルエンザ患者の入院可能病床数を事前に把握しておく必要がある。勧告にもとづく新型インフルエンザ患者の入院診療を担うのは、以下の医療機関である。

1.感染症指定医療機関1(特定、第一種、第二種)
2.結核病床をもつ医療機関など「新型インフルエンザ対策行動計画」に基づき都道府県等が病床の確保を要請した医療機関(以下、「協力医療機関」)
(上記1,2を併せて「感染症指定医療機関等」と略す)

○ 感染症指定医療機関等は、この段階から即応体制をとる必要がある。都道府県等は、これらの医療機関の準備状況を把握し、その準備を支援する(人材調整、感染対策用資材、抗インフルエンザウイルス薬等)。
○ 新型インフルエンザ患者が未発生でも、疑われる患者(当該疾患の可能性を訴え受診を希望する患者を含む)等が多数発生し、入院を必要とする例もあると予想される。このような場合も感染症指定医療機関等が患者を受け入れることになるが、新型インフルエンザが否定された時点で患者を退院もしくは一般病院に転送してよい。
○ 上記医療機関の職員に対するプレパンデミックワクチンの接種については、「新型インフルエンザワクチン接種に関するガイドライン」を参照。
○ なお、後述の第三段階に備えて全ての入院医療機関は、あらかじめ新型インフルエンザ患者を受け入れるための計画を策定しておく。

これを見ていただいても判るかと思いますが、患者が発生した場合に基本方針として「直接患者を病院に行かせない」で「適切な対応が可能な医療機関に誘導する」ということが強調されています(こうした発熱外来を設けること自体に意味がないという主張もあるのですが…)。
これは前述の二次感染被害を懸念したもので、当然病院と言うところは体調が悪い=抵抗力の弱い人が集中している場所ですから、無闇に感染した人々に押しかけてもらっては困るという理屈ですね。
「かかったかな?」と思ったらまず自治体に相談し指示を受ける、その上で指定された医療機関を受診するという流れを徹底するということですが、現状ではどうもこうした誘導が(後述のような理由もあって)適切になされているようには思えないのも気がかりなところです。

現実問題として日々発熱等の感冒症状を呈して一般外来を受診する患者は多数いるわけですし、それらに対して特別豚インフルエンザに罹患していると考えての対応が出来ているわけでもありませんから、ひとたび患者が発生すればあっという間に蔓延してしまう可能性がありますよね。
このあたりは「タミフルも効かない時期になってやっと病院に来る」メキシコあたりと違って、風邪でも引いたかと思ったら躊躇なく病院に受診する患者の多い日本の方が、当然元気よくウイルスをまき散らしている患者に病院内で遭遇する危険性ははるかに高いと見ておくべきなのでしょう。

そしてもう一点心配されることは、前述のように患者はどこでも好き勝手に受診してはいけませんよと言う割りに、自治体から受診するよう指示すべき病院の指定が全く進んでいないことです。。
これについては以下の記事を引用してみましょう。

新型インフル、「発熱外来」開設進まず…病院消極的(2009年4月29日読売新聞)

 豚インフルエンザの感染拡大を阻止するため、感染の疑いがある人を集中的に診察して患者かどうかを見極める「発熱外来」の開設準備が全国的に進んでいない。自治体から協力を求められた病院側は、二次感染の危惧(きぐ)や医師不足などを理由に開設に消極的。患者の殺到を心配する病院もあり、各自治体は「直接病院に向かわず、まず保健所に相談してほしい」と呼びかけている。

 「保健所を通じて医療機関に依頼中です」。28日、大阪府が開いた対策協議会に集まった医師に、担当職員が説明した。

 府は3月、府内の544医療機関に対し、国内で新型インフルエンザが発生した際に発熱外来を開設するかどうか確認したが、前向きな回答を示したのは36機関だけ。医師や看護師が慢性的に不足しているうえ、二次感染を心配する病院もあったという。

 発熱外来では、感染が疑われる患者を一般外来とは別室で診察。既存の病院が施設内に開くケースが多い。滋賀県は21機関に設置を要請し、28日までに開設したのは3機関。15機関の目標に対し、6機関が開設準備を進めている和歌山県は「病院側も人員や財政が厳しく、なかなか引き受けてもらえない」(難病・感染症対策課)とする。岡山県は「風評被害を気にする医療機関が多い」として、補助金交付も検討している。大阪府松原市のように、経営難の市立病院閉院で、発熱外来を設ける公立病院がなくなり、民間の総合病院などに依頼する自治体もある。

 東京都は28日、約60の医療機関に発熱外来の設置準備を要請。協力する医療機関には、治療薬のタミフルに加え、防護服やゴーグルなどを配る。都は「混乱を防ぐため」として病院名を公表しない方針。

 一方、京都府は予定通り10機関を確保済みで、「新型インフルエンザのマニュアル作成を始めた昨夏頃から、医療機関に熱心にお願いしてきた」としている。

 各自治体は「感染の疑いがある場合、病院に駆け込まず、最寄りの保健所に電話で相談してほしい。診察の必要があると判断すれば、保健所が近くの発熱外来を紹介する」としている。

基本的に新型インフルエンザと判ればそのまま入院加療ということになる場合が多いでしょうから、感染症専門家やそれなりの隔離設備などある程度施設の整った基幹病院に依頼するということになるだろうとは想像出来るところです。
しかしこうした病院は平素から入院、外来とも患者が集中して手一杯となっていることが一般的である上に、専用の別室と医師、スタッフを配置してとなると日常診療にも支障を来す可能性が極めて高いわけですね。
そうまでして協力したところで特別のメリットがあるわけでもなく、ましてや実際に罹患患者が来たともなれば院内挙げての対応を強いられることになりかねませんから、当然ながらどこの医療機関でも二の足を踏むことになるでしょう。

今ごろになって補助金交付を検討などと温いことを言っていても仕方がありませんから、特に長年の医療費削減政策で医療機関の「いざと言うときの余力」をすっかり奪い尽くしてしまった国は責任を持って適切な対応をしてもらわないといけませんよね。
はからずも積年の医療行政の歪みが、この重要な局面にいたって誰の目にも明らかなほどに露呈しつつあるといったところでしょうか。

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2009年4月29日 (水)

豚インフルエンザ続報

豚インフルエンザの感染が急速に広がっています。
お隣韓国でも「疑い濃厚」という症例が出たそうですが、噂によれば中国でも「インフルエンザ様症状を呈する患者の大量発生」が見られているとかいないとか。
中国だけにそうした情報の流出も遅れている可能性がありますが、一方ではアメリカでも既に死者が出たという噂もあるようで、いずれも明確なソースは確認できておりません。
ともあれ判明している分に限っても既に相当なものとなっているのは確かで、更には国内においてもそろそろ危険かと思わせるような兆候もあるようで…

【豚インフル】感染、疑い例15カ国に(2009年4月28日産経ニュース)

 世界保健機関(WHO)が警戒水準(フェーズ)を引き上げた新型インフルエンザの感染か感染の疑い例が確認された国は28日午前現在、15カ国に上っている。

 WHOなどの発表や各地の報道によれば、感染源となったメキシコは感染疑い例を含め1995人が感染し149人が死亡。感染確認数は米国48人、英国2人、カナダ6人、スペイン1人。

 疑い例があるのは、韓国のほかニュージーランド、グアテマラ、ベルギー、ペルー、オーストラリア、イタリア、スイス、イスラエル、フランスの10カ国。

発熱疑いの外国人女性が検疫ゲート突破…成田空港(2009年4月27日ZAKZAK)

 メキシコを中心に豚インフルエンザの感染者が広がる中、成田、関西両空港では水際での防止に躍起だ。成田空港のゲートでは、検疫所が体温を測定するサーモグラフィーを設置、検疫所の医師らが機内から降りる旅客に異常がないか呼び掛け、任意で体温などのチェックを行っている。

 ただ、あくまで任意のため、ゲートをすり抜ける人も。成田空港に25日に到着したメキシコ発バンクーバー(カナダ)経由の航空機から降りた外国人女性は、サーモグラフィーの画面で顔が赤く表示されたが、関係者が体温の確認を要請しても、その場を立ち去ってしまったという。任意の壁が立ちはだかっているようだ。

こうして豚インフルエンザ絡みの報道が増えているのは情報の蓄積と言う面でいいのですが、一方ではどうも実体と違う報道もあるんじゃないかという噂があります。
すでに幾つかのサイトでは取り上げられているようですが、豚インフルエンザの脅威にさらされるメキシコの当事者からの書き込みが「ヤバイんじゃないか」と話題を呼んでいるんですね。
このあたりは国内大手メディアもようやく注目し始めているようですが、あるいはネットウォッチャーや報道の方でも正しい理解が出来ていないのかあるいは…といった微妙な部分もあるようです。

【豚インフル】「未報告の死者がいる」英BBCにメキシコ医師らが告発(2009年4月27日産経ニュース)

 「報告されていない若者の死者がいる」「状況はコントロールされていると言うにはほど遠い」-。英BBC放送は27日までに、豚インフルエンザ感染の震源地メキシコの医師らが生々しい被害実態を“告発”した投稿をウェブサイトやラジオ番組で公開した。

 メキシコ市の呼吸器系疾患専門医アントニオ・チャベス氏は「1日に3人から4人が死亡する事態が2週間以上前から続いている」として、感染者の死亡率は「メキシコ当局の報告より高いのが真実だ」と指摘。20歳から30歳までの若い世代が「望みを失った医師らの目の前で」次々と亡くなっていくことに、深い悲しみに襲われると吐露した。

 さらにメキシコ市の医師グアダルーペさんによると、必要な検査が実施されなかったため豚インフルエンザとは報告されていない若者の死亡ケースが数例あるという。

BBCの告発というのは下記の書き込みのことだと思うのですが、確かにざっと見るだけでも幾つかそれらしいものが散見されます。
怪しい訳で内容を歪曲したと言われてもいけませんので幾つか目についたものをそのままを転載しますが、パニック寸前という現場の状況が見え隠れしてくるようですね。

Swine flu: Your experiences (BBC news)より抜粋

I'm a specialist doctor in respiratory diseases and intensive care at the Mexican National Institute of Health. There is a severe emergency over the swine flu here. More and more patients are being admitted to the intensive care unit. Despite the heroic efforts of all staff (doctors, nurses, specialists, etc) patients continue to inevitably die. The truth is that anti-viral treatments and vaccines are not expected to have any effect, even at high doses. It is a great fear among the staff. The infection risk is very high among the doctors and health staff.

There is a sense of chaos in the other hospitals and we do not know what to do. Staff are starting to leave and many are opting to retire or apply for holidays. The truth is that mortality is even higher than what is being reported by the authorities, at least in the hospital where I work it. It is killing three to four patients daily, and it has been going on for more than three weeks. It is a shame and there is great fear here. Increasingly younger patients aged 20 to 30 years are dying before our helpless eyes and there is great sadness among health professionals here.
 Antonio Chavez, Mexico City

I am a doctor and I work in the State of Mexico. I don't work in the shock team; I am in the echocardiography team, but I do get some news from my colleagues in the hospital. There have been some cases of young people dying from respiratory infections, but this happened before the alert and they were not reported because the necessary tests weren't done. We doctors knew this was happening a week before the alert was issued and were told to get vaccinated. I went to buy some anti-virals for my husband, who is also a doctor, because he had contact with a young patient who presented influenza symptoms and died. I don't think pharmacies stock enough anti-virals.
(略)
 Guadalupe, Mexico City

I think there is a real lack of information and sadly, preventative action. In the capital of my state, Oaxaca, there is a hospital closed because of a death related to the porcine influenza. In the papers they recognise only two people dead for that cause. Many friends working in hospitals or related fields say that the situation is really bad, they are talking about 19 people dead in Oaxaca, including a doctor and a nurse. They say they got shots but they were told not to talk about the real situation. Our authorities say nothing. Life goes on as usual here.
(略)
 Alvaro Ricardez, Oaxaca City, Oaxaca, Mexico

I work as a resident doctor in one of the biggest hospitals in Mexico City and sadly, the situation is far from "under control". As a doctor, I realise that the media does not report the truth. Authorities distributed vaccines among all the medical personnel with no results, because two of my partners who worked in this hospital (interns) were killed by this new virus in less than six days even though they were vaccinated as all of us were. The official number of deaths is 20, nevertheless, the true number of victims are more than 200. I understand that we must avoid to panic, but telling the truth it might be better now to prevent and avoid more deaths.
 Yeny Gregorio D?vila, Mexico City

特に気になるのは従来のワクチンが無効であることは予想されたことなのですが、産経の記事にも登場するAntonio Chavez氏が言うところの下記の一節ですよね。

”The truth is that anti-viral treatments and vaccines are not expected to have any effect, even at high doses. It is a great fear among the staff.”

他の書き込みを見てみる限りでは向こうでは抗ウイルス薬としてタミフルを主体に治療を行っているようですが、もし実際にこれが無効と言うことであるのなら大きな問題です。
薬剤耐性ということに関しては今年の日本でもタミフル耐性ウイルスが高率に出現してちょっとした問題になりましたが、これについては後述するような日本とは異なる現地の受診状況もあることを考慮にいれるべきなのかも知れませんね。
また第一次大戦下で大流行し数千万の死者を出したというスペイン風邪も特に塹壕戦で疲弊した兵士の間で蔓延したと言いますから、あるいはアメリカなど他国に比べてメキシコに重症者が多いのも衛生環境など公衆衛生学的側面が大いに関連しているとも推測されるところです。
そして他方ではAlvaro Ricardez氏もこんなことを言っています。

”Many friends working in hospitals or related fields say that the situation is really bad, they are talking about 19 people dead in Oaxaca, including a doctor and a nurse. They say they got shots but they were told not to talk about the real situation. Our authorities say nothing. Life goes on as usual here.”

本当のことを言わないように口止めしたのが誰かといったあたりも気になるところですが、そういう目線で産経の記事を見返してみますと元発言にあった「抗ウイルス薬もワクチンもまるで効かない」云々といった記述がすっぽり抜け落ちていることに気がつくわけですが、さて…
もし意図してのものであるとするなら報道管制は単にメキシコ国内だけの話にとどまらないことになってしまいますが、医療報道に関しては常にアレな産経新聞だけにこの抜け落ちが意図的なものなのかどうなのかもはっきりしません(苦笑)。
いずれにしてもかつて中国がSARS情報を隠蔽しようと画策して大失敗をやらかしたことは未だ記憶に新しいところですが、どこの国であれ万一にも今回同様なことが企図しているのだとすれば歴史に学ぶべきだとは言えるでしょうね。

あまり陰謀論めいたことばかり書いても仕方がないのでこのあたりにしておきますが、実際に現地では情報が錯綜して何が正しいのやら判らないという状況に陥りつつあるようですね。
その一方でインフルエンザや治療というものに対するあまりに初歩的な誤解というものも混乱に拍車をかけているようなのですが、そのあたりの状況についてこちら「科学ニュースあらかると」さんから引用してみましょう。

メキシコ単身者の「豚インフルエンザ」罹患体験記 +  (2009年04月27日記事)より抜粋

豚インフルエンザが原因と見られるメキシコの死者は149人
WHOが豚インフルエンザ用のワクチン製造に向けて作業を開始した

'I couldn't get out of bed'
BBC News 4/27

「鳥インフルエンザによってパンデミックが発生した場合、罹患した単身者はどうなるのか?」、という事を何度か繰り返して問いかけてきました。

この記事は、「メキシコでswine flu(豚インフルエンザ)かもしれない疾患を発症した女性の体験記」です。

昼に、「症状が進んでから病院に駆け込まれても …」という話をメモしました。現場の人のコメントなのですが「風邪で医者に駆け込み、感染初期にタミフルの処方を受けられる」日本の状態が、「世界のどこでも普通の状態」では無い、という話です。

「お金が無いから、悪くなるまで病院にいかずに回復する事を祈ってじっと部屋ですごす」という人達がメキシコに多数暮らしている事を、 APの記者は淡々とつづります … 
(略)
「タミフルはインフルエンザを治さない」
何度説明すれば、それが理解されるのだろうか、と頭を抱えます。

タミフルは「ウイルスが増殖するのを抑え込む」だけです。身体の免疫系がウイルスを制圧する為の抗体によってそれを押さえ込み、好中球などがそれを異物として食べてしまって撃退するまで、ウイルスの数を少ない状態にしておく事しか出来ないのです。
(略)
「タミフルが効いて無いじゃないか!」 … 「症状が進んでから病院に駆け込まれても …」というのが、昼間のAPが伝えていた現地の医療関係者の言葉です。それは、普通のインフルエンザでも「症状が出た直後(48時間程度)でないと、タミフルの投薬は無意味です」、という話の変形なのです。

タミフルが実際に何をしているのか、という事を理解しないなら、ウイルスが膨大な数に増加した後に(感染から長い時間が経過した後に)  … 増殖力の強い鳥インフルエンザ・ウイルスで、発症から投薬までの間に猛烈にウイルスが増加しているのと同様に、タミフルを投薬しても致死率が高くなってしまう、という事実の意味を間違えてしまいます。
(略)
「ウイルスが増えてからでは、身体が作り出す抗体ではウイルスによる破壊の速度に対応できずに、命が失われてしまう」という当たり前の事を理解できない場合には、「タミフルは効かない」という間違った情報が生み出され、一人歩きしてしまいます。

「タミフル」も「リレンザ」も … ウイルスを倒す魔法の薬などでは無いのです … それらは「泥棒を押さえていますから、早く捕まえてください」という働きしか出来ないのです。あなたの身体をウイルスから守るのは、あなたの身体の免疫系が作り出す「抗体」だけなのです。

「豚インフルエンザ・ウイルスにはタミフルは効いていない」、という薬の性質を理解しない人間の発言には、早急に対抗する必要があります。「無知な人間の扇動で起きるパニック」は、病気そのものよりも危険な事がありますから。
(略)
この体験を語っている女性が、「豚インフルエンザ」を体験したのかどうかは不明です。実際に症状が出てから「タミフルを処方される」までの時間が、かなり長い(日曜日に発症。友人からの電話が金曜日。病院に出かけたのは土曜日)ですから。

インフルエンザで「タミフル」が有効性を発揮するのは、実際には初期段階で「ウイルスの増殖を抑え込む」為ですので、気分が良くなったのは、「免疫系によって疾患から自力回復した」結果、とも考えられます。

一見正しそうに見える話を、自分の持っている情報で切り取ってみる事が、自分と大切な人の命を守る為に、必要です。

今さらですが意外にご存じない方もいらっしゃるかも知れませんので、ここで簡単にインフルエンザ感染症とタミフルというものに関して(ごく漫画的に)おさらいをしておきましょう。

インフルエンザウイルスの表面には二種類の棘が出ていて、片方はウイルスが細胞にとりついて中に潜り込むために働き、片方は細胞の中で増えたウイルスが細胞から飛び出す時に働くとされています。
タミフルという薬は後者の棘の働きを妨害することでウイルスが外に出ないようにする、その結果として周囲の細胞に感染が広がって重症化するのを防ぐという仕事をしているわけですね。

ところでインフルエンザと言うものが人間の身体に入ってから症状が出るまでの期間(潜伏期)は1~3日くらい、この間にウイルスは誰にも妨害されることなく増え放題に増えて周囲の細胞にも蔓延していくわけです。
そして症状が出る、すなわち身体の免疫が増えたウイルスを攻撃し始める時期からはむしろウイルスの量は減っていきますが、減りながらも症状が消えた後も一週間くらいはウイルスが検出されるとも言われています。
上記のような経過のどこからどこまで他人に感染力を及ぼすほどのウイルスが体外に排出されているのかはっきりしませんが、少なくとも風邪症状を呈している時期の前後にもウイルスを周囲にまき散らしている可能性があることには留意すべきでしょうね。

そしてタミフルが有効な(使うことで使わない場合よりも治りが早くなる)期間というのはこの「症状が出てから2日(48時間)以内」に限られ、それ以降では使用してもしなくても結果は変わらないとされています。
理屈の上では症状が出る前の潜伏期における予防投薬というものも効果があるのではと思われるでしょうが、「日本の保険診療上は」予防投薬という行為は認められていないことも周知しておく必要があるでしょう。

いずれにしても抗ウイルス薬が豚インフルエンザに対してきちんと効くのかどうか、耐性であるとしてもどの程度の耐性を持つのかといった情報は早期に検証して正確な情報を流してもらう必要があると思いますね。
今のところ遺伝子的にはタミフル、リレンザに対する耐性遺伝子はないということですが、今年のインフルエンザに見られた高度耐性化のように何とかの一つ覚えが如き処方は容易に新たな耐性をもたらすでしょうから、感染防御面も含めて臨床家の皆さんはそれなりに気を使いながら診療に当たる必要があるでしょうね。
そうした臨床面での情報も含めて、今後も随時フォローアップ出来ればいいかなと思います。

豚インフル、ワクチン切り替え「科学的な議論必要」―感染研(2009年4月28日CBニュース)

 世界的に広がっている豚インフルエンザについて、国立感染症研究所感染症情報センターの岡部信彦センター長は4月27日に開いた勉強会で、「人にとって新しいウイルスではないかと言われている」と指摘した。豚インフルエンザに対する既存のワクチンの有効性については、「理論的には期待できない」とした。ただ、製造するワクチンを切り替えると、通常の季節性インフルエンザワクチンの製造に影響が出るため、「科学的な議論が必要」と述べた。

 岡部センター長は、「確認されたウイルスは、これまでに人で見られたA-H1N1型ウイルスや、豚で見られたA-H1N1型ウイルスとは異なった遺伝子構造で、人にとって新しいウイルスではないかと言われている」と述べた。

 今回の豚インフルエンザウイルスの「起源」については、「よく分からない」と前置きした上で、「遺伝子の構造からすると、2つの地域にあった豚インフルエンザウイルスが、どこかの豚の体内で、あるいはどのようなタイミングか分からないが、遺伝子が混じり合って、人に感染しやすい新しいインフルエンザウイルスが生まれたのだろうと考えられている」と述べた。
 また、今シーズン日本で流行したA-H1N1型は、ほぼ100%がタミフル耐性の遺伝子を有していたが、現在広がっている豚インフルエンザウイルスでは、「オセルタミビル(タミフル)とザナミビル(リレンザ)耐性遺伝子はない」と説明。「臨床的には使ってみないと分からないが、治療としての可能性はかなり期待できるのではないか」と述べた。一方、アマンタジンとリマンタジンは耐性だと説明した。

 豚が豚インフルエンザにかかった場合の症状については、食欲減退や元気不良、鼻汁、咳、発熱などがあり、平均的には約1週間程度で回復すると指摘。致命率について、「1%前後。ただし、数%との報告もある」とした。
 人が豚インフルエンザにかかった場合の症状については、「米国での例などを見ても、通常のインフルエンザ様症状。ほとんどの人が軽快し、自宅だけで治っているといったこともある」と指摘。ただ、特にメキシコで重症患者の報告がある点については、「どうしてだろうと、わたしたちも思っている。情報を集めなければいけない」と述べた。重症化した患者の家族構成や年齢、ほかの病気の有無など患者自身の特徴が影響したのか、ウイルス自体に違いがあるのかなど、「まだ十分な情報がないためすべてを語れない」とした。

 既存のワクチンの豚インフルエンザウイルスに対する効果については、「不明だ。ただ、抗原が違うため、理論的にはあまり期待はできない」とした。新たなワクチンの製造については、「ウイルスが手に入れば製造は可能」と指摘。ただ、「次年度のワクチンの製造を断念して新ワクチンの作成に取り掛かるかどうかは、現在の流行状況と病原性などを見ての判断が必要だ」と発言。「もう少し様子を見て、科学的な議論が必要だ」との見方を示した。一方で、「決めるのを先送りにして、何も決めないのはいけない。その準備は必要だろう」と述べた。

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2009年4月28日 (火)

遅ればせながら時事ネタで豚インフルエンザの話題

豚インフルエンザ問題は、昨夜のうちにWHOがパンデミックインフルエンザの警戒レベルをフェーズ3(人に感染する新種のウイルスを確認したが、人から人への感染は限定的)からフェーズ4(人から人へ新しいウイルス感染が続くが、感染集団は小さい)へと引き上げました。
すでに感染者はメキシコ、アメリカに加えカナダ、ニュージーランド、スペイン、イギリスなどにも及ぶとされ、全世界的な感染の広がりが懸念されています。
久しく前から新型インフルエンザと言えば東アジアの片隅で発生というのが定説のようになっていましたから少なからず意表をつかれた印象ですが、WHOによればメキシコとアメリカのウイルスの型は同じだと言うことですから、短期間にこうまで広範囲に広がるほど相当な感染力を持ったウイルスであることは間違いなさそうです。
本日まずはこちらから、彼の地の状況を伝える記事を紹介しておきましょう。

豚インフル、依然400人入院中=在留邦人の感染報告なし-メキシコ(4月27日時事通信)

 【サンパウロ26日時事】メキシコのコルドバ保健相は26日夜、地元テレビに対し、豚インフルエンザへの感染が疑われる死者が全土で103人に達したと語った。感染が確認された犠牲者の数は精査中としている。同保健相によれば、感染の疑いでこれまでに1614人が入院したが、1000人以上の健康が既に確認され、今も入院中の患者は約400人という。
 在メキシコ日本大使館によると、メキシコの在留邦人は6000人超だが、日本人が感染したとの報告は寄せられていない。
 一方、カルデロン大統領はこの日、25日から実施している感染者の隔離などに加え、追加予防策を講じる意向を明らかにした。ドアノブや手すりの清掃、飲食店での食器類の共有禁止など日常生活に深くかかわる規制となる見通しで、感染拡大防止に向け強い決意を示した。 

豚インフルエンザ、NZでも感染疑い メキシコから帰国の25人(2009年4月26日CNN)

(CNN) ニュージーランドの保健当局は26日、メキシコでの語学学習を終えて帰国した学生22人と教員3人に、豚インフルエンザ感染の疑いがあると発表した。

25人は、オークランドにあるランギトトカレッジの教員と学生。メキシコからロサンゼルスを経由し、ニュージーランドに帰国していた。

オークランドの保健当局によると、25人中14人にインフルエンザ様の症状が出ているという。25人は全員、自宅から外に出ないよう指示を受けている。

英国、2人の豚インフルエンザ感染を確認(2009年4月28日ロイター)

 [ロンドン 27日 ロイター] 英スコットランド保険当局は27日、国内で2人が豚インフルエンザに感染したことを確認したと発表した。英国で豚インフルの感染が確認されたのは初めて。
 2人はスコットランドのグラスゴー近郊の病院に隔離され治療を受けているという。
 スタージョン・スコットランド保険相は記者団に対し「スコットランドで豚インフルエンザに感染した疑いのある2人について、検査の結果、陽性が確認された」とした上で「2人とも病院で回復に向かっている」と述べた。

豚インフルで米緊急事態宣言、メキシコの死者103人に(2009年4月27日読売新聞)

 【ワシントン=山田哲朗、リオデジャネイロ=小寺以作】豚インフルエンザ感染の世界的拡大を受けて、米政府は26日、「公衆衛生に関する緊急事態」を宣言した。

 米国では新たにオハイオ州で感染が確認され、感染者は累計で5州20人となった。

 被害が最も深刻な発生国メキシコでは、豚インフルエンザが疑われる死者は103人に達し、このうち22人の感染が確認された。

 同国は引き続き非常事態を発令している。カナダの保健当局も同日、6人の感染を確認した。この結果、感染者を出したのは計3か国となった。このほか、英国、コロンビア、ブラジルなど7か国で感染の疑いが浮上している。

 米政府の緊急事態は、ナポリターノ国土安全保障長官がホワイトハウスで宣言した。これにより、連邦政府が州、地方自治体の関連機関を統轄し、全米で柔軟に緊急事態に対処できるようになる。

 例えば、米食品医薬品局(FDA)には通常の手続きを踏まずに薬品や医療機器を使用する権限が与えられ、検査のため研究施設を優先使用できる。

 具体的には、インフルエンザ流行に備えて米政府が備蓄していた抗インフルエンザ薬のタミフル、リレンザ合計5000万人分の4分の1を、メキシコと国境を接し感染者を出したカリフォルニア、テキサス州などを中心に配布する。国防総省は、700万人分のタミフルを調達する。

 この宣言は、ハリケーンなど自然災害でしばしば出されるが、今回のように感染症で出されるのは珍しい。

 米政府は、「病気の症状がある人は外出せず、公共機関利用も控えてほしい」と呼びかけた。メキシコへの渡航禁止措置は取らないが、自粛は要請している。在メキシコの米国大使館は26日、メキシコ人や、日本人を含む外国人約5100人に対する米国行きのビザ発給を最長1週間延期すると発表した。今週の発給予定者が対象。ただ、米政府は米・メキシコ間の往来は当面制限しないとしている。

 また、米疾病対策センター(CDC)の幹部は26日の記者会見で、「感染者の報告はまだ増えると見られるが、季節性のインフルエンザでも豚インフルエンザでも、ワクチン製造には何か月もかかる」と述べた。

ちなみにこちらでは豚インフルエンザの感染拡大の様子をリアルタイムで表示していますが、これはまだまだ収束しそうにないですよね。
折からGWということで出国ラッシュの真っ盛りを迎えつつあり、これで米墨国境封鎖ということにでもなればまたパニックになりかねないと危惧されるところですが、どうもアメリカと発生元のメキシコとでは同じ型の豚インフルエンザと言ってもずいぶんと症状が違っているようなんですよね。
メキシコでは重症化していて大流行となり死者多数が出ているのに対して、アメリカではさほどの症状はなく患者も散発的で、概ね軽症で済んでいるようです。

ウイルスの場合宿主が変わるとウイルス自身の性質も変わってしまうということはままあることですから、もし今回の豚インフルエンザがヒトーヒト感染を通じて弱毒化する方向で急速に性質を変えてきたということであれば既に「感染力は相応に強いが病原性は並みの」インフルエンザとなっている可能性もあると言うことですね。
これ自体は罹患する患者にとっては朗報になるかも知れませんが、逆に言えば既に一般の感冒症状に紛れて思いがけないほど広範に広まってしまっている可能性も否定できないわけです。

さて、この状況下でどこの国も対策に大わらわだと言うことですが、日本でもさっそく既定の方針に従って政府が動き始めたようです。
実際に病原性がそうまで心配しないでも良いレベルだとしますと、不謹慎ながらこれは危機管理に対する絶好の経験値獲得のチャンスとも言えるわけですから、是非にも事前計画の不備などあらゆる面で検証しながら対策を進めていってもらいたいものですね。

「行動計画に沿ってやるだけ」=フェーズ引き上げ示唆で-厚労省(2009年4月28日時事通信)

 豚インフルエンザ問題で、世界保健機関(WHO)のスポークスマンが28日未明、警戒レベル引き上げの可能性を示唆したことを受け、厚生労働省幹部は「これまでも準備を進めてきた。政府の行動計画に沿ってきっちりやっていくだけ」と話した。
 別の男性職員も「想定の範囲内だ」と説明。冷静な表情で「豚インフルは未解明の部分が多い。WHOの正式な判断を待ちたい」と語ったが、その脇を慌ただしく出入りする職員の姿もあった。
 同スポークスマンは同日、進行中の委員会で警戒レベルが現在の「フェーズ3」から「4」か「5」に引き上げられる可能性があると示唆した。
 同省は、空港での検疫態勢を強化するため、準備を本格化させる。 

豚インフルで水際対策など4方針、冷静行動呼びかけ(2009年4月27日読売新聞)

 政府は27日午前、首相官邸で麻生首相と全閣僚が出席して豚インフルエンザ対策に関する初の関係閣僚会合を開き、ウイルスの国内侵入を防ぐための水際対策など4項目の「当面の対処方針」を決めた。

 首相は会合の冒頭、「国家の危機管理上の重要課題であるという認識の下、対策に全力を尽くされたい」と要請した。

 対処方針は〈1〉国際的な連携と情報収集、国民への情報提供〈2〉検疫・入国審査の強化など水際対策〈3〉ワクチン製造の早急な検討〈4〉国内での患者発生に備えた対策――の4項目。国内対策には、発熱相談センターの設置準備、電気・ガス・生活必需品の事業者に対する供給体制の確認などを盛り込んでいる。

 会合後、舛添厚生労働相は記者団に、世界保健機関(WHO)からの情報収集のため、担当者をジュネーブに派遣したことを明らかにした。また、石破農相は記者団に、メキシコや米国から輸入された豚肉について、「出荷段階で減菌され、さらに加熱調理するからまったく問題ない。風評被害がないようにしたい」と述べ、風評被害対策に乗り出す方針を表明した。

 河村官房長官は同日午前の記者会見で、日本国内での感染者は現時点で確認されていないとし、国民に、「落ち着いて冷静に行動してほしい」と呼びかけた。

豚インフル、警察庁が対策室設置…成田など警戒強化(2009年4月27日読売新聞)

 警察庁は26日午前9時、豚インフルエンザの対策室(室長・塩川実喜夫警備企画課長)を設置し、成田空港など国際空港の警戒を強化している。

 同庁は検疫所での混乱を想定して成田空港の警備にあたる警察官を増員するとともに、関連情報の収集に乗り出した。

同庁は昨年9月、新型インフルエンザに対する行動計画を策定しており、さらに感染が広がった場合は対策室を対策本部に格上げする方針。

<豚インフル>予防ワクチンを優先製造 舛添厚労相(2009年4月27日毎日新聞)

 政府は27日午前、メキシコを中心に世界的な広がりをみせる豚インフルエンザ問題で、全閣僚が出席して対策会合を首相官邸で開いた。検疫・入国審査の強化など「水際対策」の実施など当面の対処方針を決定した。また、舛添要一厚生労働相は27日、報道陣の取材に、豚インフルエンザの発症予防ワクチンを、今冬向けの季節性インフルエンザのワクチンより優先して製造する考えを示した。

 政府が備蓄するワクチンは、鳥インフルエンザのウイルスから製造されたもの。型が違い、今回の豚インフルエンザには効果が期待できない。発生国からウイルス株を分けてもらい、新たにワクチンを作る必要がある。ただこの時期、各メーカーは今冬に流行する型を予測して季節性インフルエンザのワクチン生産に入りつつある。

 この日、豚インフルエンザによる死者が報告されてから初めて厚労省入りした舛添氏は「季節性ワクチンの製造を一時停止してでも、早急に作る態勢を組みたい。製造ラインにも限りがあり、一気に全部はできないが、優先順位をつけて半年くらいで完成させたい」と語った。

 感染の広がるのが、想定していた鳥インフルエンザではなかったことについて舛添氏は「発生源がどうあれ、対策に変わりはない。政府の行動計画は鳥であれ豚であれ使える」と説明した。その上で「新しい情報が入れば必ず公表するので、冷静に行動してもらいたい。一般的なインフルエンザと同じように、うがいや手洗いなどを励行してほしい」と、国民に呼び掛けた。

しかし「日本国内での感染者は確認されていない」と言いますが、軽症型の症状ですと既に患者が発生してもおそらく見逃しているんじゃないかと思うんですがね。
ちなみに現在のヒトインフルエンザ迅速キットでも検出される可能性が高いながら感度など全く未確認という話ですし、そもそも人インフルエンザか豚インフルエンザかなど区別できるものではありません。
それもあってかCDCでは疑い例には検体を検査センターまで送ってリアルタイムPCR等で確認しろと言うんですが、抗ウイルス薬の有効期間を考えると疫学的意義はともかくとして臨床現場にとってはあまり実用的な方法ではなさそうですよね。
さっそく豚インフルエンザ対応のキットなども開発されているようですが、現場にしてみれば在庫も沢山あるだろう既存キットの実効性の検証をさっさとしていただいた方がありがたいかなと言う気がするんですが。

参考までにこちら、厚労省から出ている資料と、東京医大感染制御部の松永先生が和訳してくださったという一般向け説明書を紹介しておきます。

ブタインフルエンザに対する対応について(厚生労働省健康局結核感染症課)

共有資料 ブタインフルエンザの一般向け説明書 - 感染症診療の原則

しかしこちらの報道を見ると何かオバマさんも極めてきわどいタイミングと言いますか、普通だったら感染していても全くおかしくないような話なんですが…
(ちなみに続報ではインフルエンザではなかったという情報も入っているようですから大統領も一安心というところでしょうか)

メキシコ大統領が豚インフルで非常事態宣言-首都で学校閉鎖(2009年4月26日ブルームバーグ)

  4月25日(ブルームバーグ):メキシコのカルデロン大統領は25 日、同国での豚インフルエンザの発生に伴い非常事態を宣言した。これにより同大統領は検疫の実施を命じたり、公共の行事を中止することができる。
(略)
  カルデロン大統領は「政府は必要なあらゆる措置を取ることをちゅうちょしないだろう」と述べた。メキシコ政府は感染拡大を抑制するためにマスクを配布している。メキシコ市一帯では美術館や劇場など多くの市民が集まる施設が自主的に閉鎖されており、コンサートなどのイベントも取りやめとなっている。

  メキシコで最初の症例が見られたのは4月13日で、オバマ米大統領はメキシコ市を16日に訪問していた。メキシコ紙レフォルマによると、オバマ大統領はメキシコ市の人類学博物館で、著名な考古学者フィリペ・ソリス氏の歓迎を受けたが、ソリス氏は翌日インフルエンザに似た症状で死亡した。同紙はソリス氏が豚インフルに感染していたかどうかは確認していない。

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2009年4月27日 (月)

消防法改正が成立(追記あり)

海の向こうではいよいよ新型インフルエンザが猛威をふるい始めたと言う話で大騒ぎになっていますが、こうなると国内でも早晩同様の事態が発生することを想定しておかなければならないでしょうね。
そうなると救急医療体制というものにも関心が向くわけですが、ちょうどタイミングが良いのかどうなのか、以前にも少しばかり書きました消防法の改正がとうとう成立したとのことです。

搬送先確保を義務づけ 法改正(2009年4月24日NHKオンライン)

 救急患者が医療機関から受け入れを断られるケースが相次いでいることを受けて、患者の容態に応じた搬送先の候補を地域ごとに決めておくことなどを義務づけた改正消防法が、24日の参議院本会議で可決・成立しました。
 これまでの消防法では患者の搬送や受け入れの方法が定められておらず、救急患者が受け入れを断られるケースが相次いでいる問題を受けて、搬送時のルール作りの必要性が指摘されていました。こうしたルール作りを都道府県ごとに義務づけた改正消防法が、24日の参議院本会議で全会一致で可決・成立しました。具体的には、各都道府県に消防や医療関係者などからなる協議会を設け、患者の容体や地域の医療機関の数に応じて搬送先の候補をあらかじめ決めておき、公表することが義務づけられます。すぐに搬送先が決まらない場合でも、必ず患者を受け入れる医療機関を決めておいたり、搬送先を調整する専門のコーディネーターを配置したりすることも求めています。
 この法律は年内に施行される予定で、総務省消防庁はガイドラインを示すなどしてルール作りを支援することにしています。
 今回の改正について、救急医療に詳しい杏林大学医学部の島崎修次教授は「搬送や受け入れに関するルールを法的な枠組みの中できちんと決めることになり、大きな意義があると思う。受け入れ拒否などの問題の解消につながると期待している」と話しています。

こういうものをどう捉えるべきかですが、特に「必ず患者を受け入れる医療機関」に指定されてしまった施設の先生方がどう考えるかですよね。
これを受けて各地で一気に救急指定病院返上だの指定先医療機関からの医師逃散だのという動きが出てくると面白いかも知れませんが、この話題自体が意外なほど扱いが小さくてあるいは何も知らないという先生方も多いのかも知れません。

ところでこれもタイミングが良いのか知りませんが、かの有名な「加古川心筋梗塞事件」に絡めて兵庫医療問題研究会なる団体が唐突にこんな声明を出してきています。
この団体、どうも「医療問題弁護団」に参加している組織のようなのですが、今ごろになって唐突にこういう話が出ているのは果たして意図的なものなのかどうか、上記の記事との絡みとも併せていささか解釈に迷うところではありますが…

ネット上で判決批判 加古川市民病院、医療過誤敗訴(2009年4月25日神戸新聞)

 兵庫県内の弁護士でつくる兵庫医療問題研究会は二十四日、二〇〇七年四月にあった医療過誤訴訟の神戸地裁判決をめぐり、「インターネットのブログ上に、医師を名乗る匿名の利用者らから誤った書き込みが相次いでいる」として、公正な議論を求める声明を出した。

 同研究会によると、この訴訟は、加古川市民病院(加古川市)が、心筋梗塞(こうそく)の救急患者に適切な対応をせずに死亡させたとして、遺族が損害賠償を求め、病院側の転送義務が争点になった。

 判決は医師の過失を認め、「早期に転送すれば救命可能性があった」とし、病院側が敗訴した。ところがその後、複数のブログでこの判決に対する批判が噴出。「転送要請をほかの病院に断られているうちに、容体が悪化した」など裁判所の認定と違う内容や、原告を中傷する書き込みが相次いだという。

 声明では「裏付けもせず、非難中傷を発信することは、患者家族の名誉を侵害する」と指摘。同会代表の泉公一弁護士は「医療側と患者側の対立は、医療の安全に向けての議論を妨げる」と、冷静な対応を呼びかけた。

まあこの件に関しては裁判所の認定自体がどうなのかという声も多々あるわけですが…

いずれにしても救急医療の需要と供給のバランスは全く崩壊し、現場の状況が極めて逼迫していることは事実ですので、早急に何らかの対策を講じないことにはどうしようもないというのは確かでしょう。
しかしその対策なるものが現場にもう少し頑張ってもらおうなどという供給側への対策に偏ったものであるならば、長期的に見て結局今以上の救急医療の崩壊を招くことになるんじゃないかと多くの人々が危惧しているところです。
その意味では最近ようやく需要側に対する対策というものが取られ始めているのは良い傾向で、各地で救急受診の抑制策や患者誘導策が相次いで打ち出されてきていることは歓迎すべきことなんじゃないかとは思いますね。
しかし問題はそれらの対策が必ずしもうまくいっていない場合もあるということなんですよね。

救急車呼ぶ前電話相談 奈良県や大阪市、センター設置へ(2009年4月24日朝日新聞)

 救急搬送の受け入れを病院が断るケースが頻発する中、奈良県や大阪市、仙台市が今秋、救急車を呼ぶかどうかについて医師や看護師に相談できる「救急安心センター」を設置する方針を決めた。入院や手術が必要な患者に対応する2次救急病院に殺到している軽症患者を診療所などに振り分け、2次救急病院の満床状態を解消するのが狙い。

 同センターは、東京都の救急搬送体制をモデルに、消防庁が呼びかけ、今年度から一部地域での導入を目指していた。事業費は国が負担し、今秋からの半年間で3県市計3億8千万円。

 救急搬送をめぐっては、「ベッドが満床」などの理由で受け入れを拒否するケースが全国的に相次いでいる。特に奈良県では今年3月、意識を失った62歳の男性が6病院に受け入れを断られ、その後死亡。06年には意識不明になった妊婦が19病院に断られ、その後亡くなった。07年にも未受診の妊婦が11病院に断られて、死産するなどの深刻なケースが相次いだ。

 県は同センターに看護師2人、医師と消防関係者、事務員各1人の計5人の配置を検討。病院側の人員が少なく受け入れが困難になる休日夜間に専用ダイヤルを設ける。医師らが軽症と判断すれば、近くの休日夜間診療所などを紹介するという。県幹部は「救急車が必要な患者を搬送前に判断することで、病院側の負担を減らし、搬送不能事案をなくしたい」と話す。

 大阪市も複数の医師や看護師が交代しながら、24時間態勢で対応する方針。携帯電話に転送し、医師がどこにいても相談できる枠組みづくりも検討している。

「勤労者外来」利用伸びず 広島の舟入病院(2009年4月18日中国新聞)

 ▽軽症患者、二次救急に 現状解消へPR強化

 仕事などで通院できない内科の患者を夜間に診る広島市立舟入病院(中区)の「勤労者外来」の利用が伸び悩んでいる。二〇〇八年度の利用率は五割台に低迷。患者の集中を避けるため、積極的にPRしてこなかったのが原因だ。本来は重症患者向けの二次救急病院に軽症患者が駆け込む現状の解消へ向け、市は一転ポスター掲示などの周知活動を始めた。

 「勤労者外来」は平日午後六時から三時間開く。内科医師二人が、成人の患者を最大三十人診察できる。インフルエンザが流行した今年一月は利用が目立ったが、〇八年度を通した一日平均の患者数は17・4人。利用率は57・9%だった。

 〇七年度の18・8人、62・7%からは一割近く減少。山木戸英人副院長は「患者が集まりすぎると対応しきれないため、積極的にPRしていなかった」と利用低迷の原因を説明する。

 一方、市内では手術や入院が必要な重症患者を夜間に診る輪番制の二次救急病院を訪れる軽症患者が増えている。〇七年度に二次救急病院が受け入れた内科患者のうち軽症患者は92・7%に上った。軽症患者の診療に追われて医師が疲弊し、輪番制から脱退したり、参加頻度を減らしたりする病院が相次ぐ危機的状況に陥っている。

 二次救急病院の負担軽減へ向け、広島市医師会は三月、千田町夜間急病センター(中区)を開設。内科と眼科の軽症患者の診療を始めた。

 受け皿が急病センターと勤労者外来の二つになったことで、市は「軽症患者が集中する恐れがなくなった」と判断。勤労者外来を含む、夜間や休日に診療する医療機関を紹介するポスターを、市民病院など四医療機関に張り出し始めた。

 今後は案内する冊子の製作も検討。市保健医療課は「急病センターとの相乗効果で認知度を上げ、二次救急病院の負担を減らしたい」としている。

休日夜間応急診療所:土曜の日中診療者数、周知不足で想定の4割--奈良 /奈良(2009年4月18日毎日新聞)

 ◇ようやく、実現したのに……市議会混乱で広報見送り 市が慌てて動き出す

 救急医療に対応するため、奈良市二条大路南の市立休日夜間応急診療所が今月から始めた土曜の日中診療の利用者数が、周知不足で想定の約4割にとどまっていることがわかった。3月定例市議会で市長選(今年7月)不出馬を表明した藤原昭市長に議会側が反発。一時、今年度予算案を否決する構えを見せたため、ぎりぎりまで広報できなかったという。低迷が続けば運営が危ぶまれる可能性もあり、市は慌てて広報に乗り出した。【泉谷由梨子】

 同診療所は、休日・夜間に軽症患者に対応できる民間診療所が市内にないことから設置され、内科と小児科の開業医が交代で詰めている。夜間は無休、日中はこれまで日祝日と年末年始だけで、年間利用者数(07年度)は夜間が3924人、休日は2748人に上る。

 空白だった土曜の日中も開けるよう、市が07年度から市医師会と交渉。「小児科医の確保が難しい」などの理由で約1年かかったが、ようやく実現にこぎつけ、今年度予算案に土曜日中診療の運営費約2000万円を盛り込んだ。

 ところが、藤原市長の不出馬表明などによる市議会の混乱を受け、4月1日発行の市広報誌などへの掲載が見送られた。この影響で、初回の4日の利用者はわずか4人、2回目の11日は13人と、休日の平均利用者数の約40人を大幅に下回った。

 運営費約2000万円のうち1200万円を診療報酬などでまかなう予定で、利用者が少なければ来年度以降、運営が続けられなくなる可能性もある。市は「5月号の広報などで周知を図りたい」としている。

正直記事を見る限りでは、行政当局に本当にやる気があるのかと首をかしげざるを得ないような事例もあるようですが、彼らにはあまり危機感や当事者意識といったものはないのかなとも感じるところです。
そもそも救急医療とは何ぞやとか、適正な受診とはどういったものかといった広報すら満足に行われていないことも問題ですが、何かしらそれ以前の問題としてあまりに要領の悪い話であるように見受けられますよね。
多くの自治体が自前の公立病院の巨額赤字にあっぷあっぷしていることからも判るように、今や医療問題と言うものが地方行政における大きなテーマとして浮上してきていることは先の銚子出直し市長選の件でも明らかなわけですから、自治体関係者こそまず医療に対する認識を改めていただきたいところです。

一方で最近の救急医療行政などを見ていて自分などが感じるのは、上記の消防法改正の話題もそうですが某首都圏の名物知事などに見られるように「何でも受け入れる米国型ER式の施設さえあれば全ては解決する」といった妙な幻想が一部で広まっているんじゃないかということです。
確かにアメリカの医療体制は一面で日本にない良さがあることも事実ですが、では総合的に見て日本より遙かに優れているのかと言えばそんなことがあるならヒラリーらがああまで大騒ぎするはずがありませんよね。
混合診療導入の議論におけるオリックスあたりの口ぶりにも感じるところですが、アメリカを見ならえと言うなら皆保険制度で甘やかされた日本人にはちょっと想像のつかないようなその暗黒面もちゃんと知らせておかないとフェアではないでしょう。
ひと頃病院が長期入院患者を公園に捨ててきたなどと大騒ぎになったことがありましたが、そのレベルで大騒ぎしていられる日本はなんて幸せな国なんだと思わなければならないのかも知れません。

米国・ワシントン 患者たちの向かう先は…(2009年04月24日西日本新聞)

 診療所に電話して、医師の診察を受けるまでにかかる日数、25日。20日付のワシントン・ポスト紙によると、米東南部ノースカロライナ州の一部地域では、にわかには信じ難いこんな状況が続いているという。

 昨秋の金融危機は経済の「血液」ともいえるカネの循環を滞らせ、多くの企業が倒産。高額の医療費が必要な一般の病院へは足が遠のき、職をなくした人々は非営利団体が運営する診療所に詰め掛ける。やがて患者数が減った一般病院も経営が成り立たなくなり閉鎖。患者たちの向かう先はおのずと診療所に集中し、「25日」という悲劇的な数字を生み出した。

 ごく一部の高齢者を除き、米国には公的な医療保険制度がない。一般市民は勤め先と応分の負担をするか、もしくは自ら民間の保険会社と契約して保険料を払うが、仕事を失えば…。ノースカロライナだけでなく、全米各地で同じ光景が広がっているのは確かだろう。

 「虫歯1本の治療費が2000ドル(約20万円)」「エックス線検査700ドル(約7万円)」など、高額医療費を嘆く米国人は数限りない。米国人の5人に1人は無保険者。金融危機のドミノ倒しはいつ終わるのだろうか。

医療崩壊の根本原因は医療費抑制(下)日本も見習う?弱者切り捨ての米病院会社(2008年11月21日JANJAN)

 日米は同じ「小さな政府」だが、医療費を比較すると上のようになる。米国は1人当たりにかかる税負担が日本の3.5倍。それなのに、わが国では「公的負担は限界に達した」と言われる。国家予算からの支出は米国が25%なのに対し、日本は10%にすぎない。

 米国で民間医療保険が高いのは(1)運営の効率が悪いことと(2)「サクランボ摘み」、つまり、いいとこ取りの弊害からである。

 (1)について、米国にメディカル・ロス(医療損失)という概念がある。徴収した保険料のうち、医療に使う支出の割合を示したもので、「民」の81に対して「公」は98となっている。営利の保険会社は85を超えると、ウォールストリートで「あの会社は経営が下手だ」と株価が下がる。今、日本では「公」を減らして「民」を増やすと言っている。

 (2)について、米国の保険会社は儲けを多くするため、病人を保険に入れない。自営業者の保険料が高く設定してあるのもそのためである。反対に大企業で働く人の保険料は安い。健康な人が多く、大口の顧客を獲得できるからである。そのため、公的保険に有病者が集中して加入者の負担が増すという悪循環に陥っている。

 テネシー州では入院日数を年間20日までとしたり、受診回数を10日までと制限を設けることが常態化している。ユタ州ではさらに、救急外来や専門医受診、入院医療を保険から外す動きが起きている。サービスカットされたこの新しいメディケイドは医療保険などと言えず、事実上の無保険者化である。そのことが民間保険への需要を高め、毎年2、3割も値上げすることにつながっている。社会に公の保険が1つだけなら、こうした悲劇は起こらない。

 わたしは昨年5月、米国の病院で患者として手術を受け、8日間入院した。病院から室料を含め5万229ドル、日本円でおよそ500万円の請求があった。医師たちからのおよそ5,100ドルと合わせおよそ5万5,000ドルだったが、保険に入っていたため約9,000ドルすなわち約90万円ですんだ。もし保険に入っていなかったら、この値引きは受けられない。しかも逆進性があり、貧しい人ほど高い。

 こうした欠陥ある医療制度は、借金地獄の温床になっている。無保険者が入院して多額の借金を残すと、一定期間後にプロによる債務の取り立てが始まる。患者の持ち家に抵当権を設定し、裁判所や弁護士の費用も債務に加算する。債務者は一度呼び出しを無視すれば、逮捕状を請求される。警察による肉体差し押さえだ。医療費負債による個人破産は原因の第2位に上昇している。名門イエール大学で過酷な取り立てが問題になった後、コネチカット州では医療費負債の利子を年5%に制限した。

日本の皆保険制度というものがうまく働いてきたこと自体が奇跡のように言われますが、関係者の頑張りはもとよりこの制度は利用者それぞれの辛抱や我慢もなしでは成立しない制度です。

「サービス業なんだから顧客の言う通りにやって当然」という態度では、結局何もかも失ってしまうことになりかねないということを患者が理解して、限りある公共資源としての医療を守り少しでも長く利用できるように自省していく必要があるんじゃないかと思いますね。

(追記)

何ともタイミング良くこういうニュースが出ていますが、これでますます消防法改正の意義があったということになりそうですよねえ…

救急搬送拒否で重篤、消防組合に1億4千万円支払い命令(2009年4月27日読売新聞)

 奈良県警橿原署の駐車場から救急搬送されずに意識不明に陥った同県大淀町内の男性(44)とその両親が、重篤になったのは中和広域消防組合が搬送義務を怠ったのが理由として、治療費や慰謝料など計約2億5000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が27日、奈良地裁であった。

 坂倉充信裁判長(一谷好文裁判長代読)は「すぐに救急搬送していれば、重篤にならなかった可能性が高い」と、同組合に計約1億4000万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性は2006年11月15日未明、同署駐車場で顔から血を流し、酔った状態で同署員に保護された。

 通報で駆けつけた中和広域消防組合の救急隊員は、意識障害などの症状から医療機関に搬送すべきだったのに、家族らに対し「搬送先がない」などと説明して拒否した。男性は脳挫傷などで、現在も意識が戻っていない。

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2009年4月26日 (日)

今日のぐり「豚料理ざくろ」

世界中から時々妙なニュースが流れてくる時代ですが、いったいこれは本当のことなのかネタなのか判らないという場合が結構あります。
とりあえず記事の日付を確認してみる必要はあるのかなと言うところですが、特に4月1日絡みというわけでもなさそうなんですよねえ…

男性の肺からモミの木が見つかる/ロシア(2009年4月16日日テレニュース24)

 ロシア・イジェフスクで、男性の肺の中で木が育っているのが見つかった。

 男性が胸の痛みを訴え、検査を受けたところ、肺に腫瘍(しゅよう)のようなものが見つかった。摘出手術が行われ、“腫瘍”は長さ5センチのモミの木とわかった。

 モミの木は研究機関に送られた。専門家は「あり得ないことだ」と首をかしげている。

ちなみに動画もあるんですが、確かに肺に結構大きなものが写っているようではあります。

同じ生物の脅威ということで調べてみますと少しばかり古い話ですが「恐ろしい虫トップ5」というこちらの記事などもあるのですが、この写真やら動画やらもなかなかに素敵なんですよねえ…

世界で最も危険な恐ろしい虫トップ5(日本のあの虫も…)(2008年01月26日らばQ)

現在、地球上には10,000,000,000,000,000,000匹の虫がいると見積もられており、そんなに多いと虫嫌いとか言ってられないような気はします。

人類の数で割っても、一人につき150億匹(!)の割合というすごい数です。

そんな途方も無い数ともなると当然多種多様の虫がおり、中には非常に恐ろしい虫もいます。

決して近づきたくない獰猛で命の危険がある世界でもっとも恐れられるトップ5の虫たちの紹介です。

この5種の悪名高き虫の中には、日本のあの虫も入ってます。

オオスズメバチ

・生息地:日本

・恐れられる理由:まずサイズそのものがスズメバチの中でも最も大きく、親指ほどもありますが、恐ろしいことに毒は注入するだけでなく散布してくると言うから驚きです。その毒が目に入れば失明の危険、体にかかれば他の仲間を引き寄せて死ぬまで集団で襲われるという怖い毒なのです。

逃げおおせるかどうかということですが、1日に80kmまでなら飛べるそうです。こんな怖い虫が、めったに出くわさないような場所に棲んでいると思いきや、結構どこにでもいます。毎年40人ほどが被害にあって亡くなっています。

・さらに怖いお話:他の昆虫にとっては、より恐ろしい虫です。オオスズメバチは幼虫のえさを求めて何キロも飛び回ります。そして何千匹ものセイヨウミツバチの巣などを見つけては攻撃を開始します。その方法たるや毒液を巣に散布し、それが仲間のスズメバチを誘い、ミツバチの巣を地獄へと追いやります。

30匹も入れば3万匹のミツバチを3時間ほどで全滅させることができ、5倍ほどもある大きな体にミツバチは全く歯が立ちません。スズメバチはその大きな顎を使って、ミツバチの体を一匹ずつ食いちぎります。3時間後にはミツバチ3万匹の残骸が山積みとなっています。残骸の部分や巣の中にいるミツバチの子供を幼虫のエサとして持ち帰るのです。

パラポネラ(Paraponera)

・生息地:ニカラグアからパラグアイまでの熱帯雨林地帯

・恐れられる理由:まず体長は2,5センチほどもあるアリです。木の中に棲んでいるため、そうとは知らずに近づいた者の上に、巣から追い払うために落ちてくることもあります。そしてその直前に金切り声をあげます。刺されると撃たれたような激痛が来ることから、Bullet Ant(銃弾アリ)とも呼ばれています。

"Schmidt Sting Pain Index"と呼ばれる、刺されたときの痛みの指標では、どんなハチに刺されてもこれ以上の痛みはないとされるほど恐ろしい激痛らしく、焼けるような痛み、震えるような痛み、全ての痛みが同時にやってくるようで、しかもそれが24時間続くのです。そしてその攻撃の前には金切り声をあげるのです。

・さらに怖いお話:子供が大人に成長する証というのはいろいろありますが、その土着の先住民は青年が大人になる証として、このアリを利用しています。彼らは特別な葉で編みこんだグローブを作り、何百匹もアリを入れて両手にはめます。するとアリたちは一斉に刺し始めます。そしてそのまま10分も装着しておかなければいけません。ようやくグローブを外しても激痛は続きます。手は焼け付くようで、腕は完全に硬直してしまいます。全身に耐えられないほどの痛みが何日も続くのです。そして大人として合格するためにはそれを20回もこなさなければいけないのです。

アフリカミツバチ

・生息地:南アメリカ、中央アメリカ、アメリカ南西部

・恐れられる理由:キラービーとしても有名なアフリカミツバチは、実は一般のセイヨウミツバチと外見上は全く見分けがつかないのです。ただし行動には大きな違いがあります。通常のセイヨウミツバチは巣に近づいた者に対して、敵かどうかの判断に9秒程かかるので、危険を感じればその場から叫ぶことなく立ち去ることができます。もし追いかけられても100メートル離れた時点で追い払ったと認識してもらえます。

アフリカミツバチは全く違います。巣に近づいたものに半秒しか隙を与えません。その半秒後には巣の中の全ての怒り狂った10万とも100万といわんほどの大群に攻撃されるのです。大群に体中を覆われ、泥だらけで泣きながら逃げ惑うあなたを800メートル以上も追いかけてくるのです。

・さらに怖いお話:アフリカミツバチと言うのは存在そのものがサイエンスの証です。Warwick Estevam Kerr(ワーウィック・エステヴァン・カー)氏がジャングルで生息できるハチを作るために西洋ミツバチとアフリカミツバチを交配させ産み出したのです。その結果、何千万匹で群れ、気が狂ったように縄張り意識が強く、なさけ容赦なく攻撃的で、そして確かにジャングルに生息できるハチが誕生したのです。そのために数十人とも数千人とも言われるほどの命が奪われています。さらに群れて北上し、砂漠でも生息できることがわかってきました。2010年にはモンタナまでやってくると言われています。

軍隊アリ(Army or Soldier Ant / Eciton burchellii)

・生息地:アマゾン盆地。亜種がアジアやアフリカにも生息していますがアマゾン生息のものが最もよく知られています

・恐れられる理由: このアリたちはかなり特大級のアリです。体はゆうに1cmを超え、頑丈で体の半分ほどの長さのある大きな鎌(かま)のような顎(あご)を持っています。どんなサイズの生物でも行く手にあるものは捕食してしまいますが、彼らは全く目が見えておらずそのことがさらに恐るべき理由となっています。

軍隊アリと呼ばれる所以は、その見事な集団行動にあり、最高で100万匹が団結して動く大兵団となります。普通のアリのように定住の巣を持たずに、女王アリが数千個の産卵をするに足るだけの期間を野宿するような形です。当然その間は他の兵士アリたちはエサを探し回ります。そしてエサというのは彼らにとって動くもの全てなのです。孵化(ふか)すればその存在は脅威の大群となります。

獲物と定めたら大挙して押し寄せ、完膚無きまで狩り尽くし、もうそこには死しか残されていません。その恐ろしさは確実にジャングルの地を這って行くのです。刺すわけでも毒でもなく、何万匹という大群がこの大顎でひたすら原始的に食いちぎって行くのです。驚くほど強健な顎で全く相手の種類やサイズに無頓着なのは、行く手を阻むものは全てこの軍隊の存続を脅かすと考えるからなのです。馬のような大きな動物でも食いちぎられていったケースが報告されています。

・さらに怖いお話:軍隊アリは組織だった建築者としても達人(達虫?)であり、構造的に必要とあらば自らの体を使い、どんな形にも組み立てることができます。防御のための壁、悪天候のときの天井、離れた2点を渡すための橋などです。世界のどこを探してもこんなことができる生物はいません。しかも目は見えていないのです。そのうちパチンコのような形に合体して自らの体を獲物に弾き飛ばすのではないかとさえ思えるほどです。

ウマバエ(Bot fly)

・生息地:ほとんどの種類は中央アメリカや南アメリカで見られる。亜種は世界中にいる

・恐れられる理由:十数種類ほどのウマバエがいますが、特に一つの動物に非常に適応しやすく、適応した動物を表した呼び名があるほどです。馬の腹バエだとか、羊の鼻バエだとか、なんと人間バエというものまでいます。

それぞれが綿密な生殖サイクルを持っており、どれも最後は皮膚内にうじ虫となって寄生します。馬の腹に寄生するハエは草に産卵し、馬がそれを食べ、暖かい馬の口内で孵化(ふか)します。馬の口から腹へ送り込まれ他の仲間と共に腹部で蜂の巣のようなものを作りそこで太っていきます。ハエになる寸前にそこから離れ、馬の糞とともに外へ出てきます。

人間に寄生するハエは蚊やアブなど、人に接触するものに産卵します。そしてこの産卵されたキャリアが人間に止まり、卵が人間の皮膚にこすり付けられます。皮膚の熱で孵化をし、皮膚孔に入り込んでそこに寄生し食事もします。

・さらに怖いお話:恐ろしいのは幼虫は人間のどの部分に寄生しても生きていけることで、卵がどこにこすられたかによります。ぶくぶくと肥えたこのうじ虫が涙管に棲みついていることも、脳内に棲みついていることもあります。その証拠として過去にそういった報告例があるのです。

脳内に寄生してあなたの思考を食い尽くしていくのです。

今日のぐり「豚料理ざくろ」

岡山駅前から一筋裏通りに入った繁華街の一角にあるのがこの豚料理が自慢という「ざくろ」です。
店の入り口が極端に目立たないのでちょっと探すのに迷うところですが、間口は狭いものの中は意外に広いというこの辺りの店によくあるパターンで結構大人数にも対応しそうですね。
ちなみにこの日は豚しゃぶを中心とするコースと言うことでした。

サラダは豚と言えば一応生ハムっぽいのが乗っているらしくも見えるかな?と言ったところで、まあ特別何ということもないよくある居酒屋のサラダという感じでしょうか。
練り物は見た目よりあっさりした味ですが、何でも豆腐が入っているとかいないとか?
軟骨からあげはしゃくしゃくと結構いけると思うんですが、硬めの食感が周りにはあまり受けなかったのか売れ残り気味でしたね。
名古屋っぽく甘辛の鶏手羽先は結構身の味も深くて食い出もあるんですが、このあたりまで食べてみたところで一向に豚料理屋らしさがありません。

さて、ようやく豚料理屋らしくなってくるのがメインが豚しゃぶなんだそうですが、いきなり店員さんがやってきて鍋にコラーゲンボールを投入し始めたのには驚きましたね。
これは最近流行りだとか言うんですが、鍋に入れるととろとろしてスープの味も深まると一部スーパーなどでも扱い始めているものです。
いやまあ…それは鍋だから何を入れてもいいんですけれども、そんなもの入れるより最初からコラーゲンたっぷりのスープを用意してくれればいいのにと思いますね。
こういうのを「見せちゃう」というのは自分などの感覚ですとラーメン屋に業務用スープの空き缶が並んでいるようなもので、どうも興ざめな感じがするのですが。

まあそんなこんなでいささか割り引いて見るところはあったのですが、豚しゃぶ自体はまずまず食べられるものだったのは幸いでした。
肉の方もさすがに妙な臭みもないすっきりした風味なのは好印象でしたが、しかし冷静になって考えてみるとまともな豚料理ってこれだけだったんじゃないでしょうか?
せっかく豚料理屋を自称している上に豚自体もそれなりにいいものを入れているわけですから、もっと豚らしい料理がどんと並ぶようなコースであれば良かったのにとも思います。
値段を見てみましたらそう高いわけでもないようなので、価格的に豚ばかり並べるのも厳しいということなのかも知れませんけれども、下手するとこれは羊頭狗肉と言われかねないですよね。

割合人数が多かったこともあって格別サービスと言うことに言及するほどの印象もないのですが、この手の団体客相手にしてはそこそこ店員のレスポンスは良い方ではなかったでしょうか。
特に飲み放題などが入ると時々露骨な放置プレーまがいになるような店もないわけではないんですが、ここは比較的そういう気配もなかったですかね。
全般の印象としては良く言えば値段相応、普通に言って特別印象に残るものはなく、ちょいと気の利いた居酒屋のコースメニューのレベルという感じでしょうか。
自慢の豚料理ばかりを頼んでみれば実はそれなりに食えるものだったりするのかも知れませんが、このコースを食べた一見客がわざわざ豚料理を目的に再訪してみる気になるかどうかということですが…

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2009年4月25日 (土)

産科医療現場の温度差?

先日の奈良での訴訟の件ですが、一般紙もそれなりに注目しているようで、その後幾つか続報が入っていますので紹介しておきましょう。

産科医割増賃金訴訟:県、不備認め待遇改善へ /奈良(2009年4月23日毎日新聞)

 ◇原告側「労働時間明示、画期的」

 県立奈良病院(奈良市平松)の産婦人科医2人が、夜間や土曜休日の宿日直勤務に対し、割増賃金などの支払いを求めた民事訴訟。奈良地裁の判決は、原告の主張を一部認め、県に厳しい内容となった。判決を受けて、記者会見した武末文男・健康安全局長は「日本の医療のあり方に一石を投じた。判決を重く受け止めます」と述べ、今後、待遇改善に取り組む意向を示した。

 武末局長は「控訴については今後検討したい」と述べたが、「労務管理や勤務状況を把握しなければなかったという点では問題があった」と、不備があったことを認めた。

 一方、これまでの県の取り組みに触れ、宿直勤務や分べん、時間外呼び出しなどへの特殊勤務手当の支給▽同病院産科の産科医や後期臨床研修医3人の増員▽医師の業務負担を軽減する事務員「メディカルクラーク」の導入--などを進めてきたことを強調した。

 原告側は、異常分べんなどに備えて自宅で待機する「宅直」も労働時間に含めるよう主張したが、判決は「病院の指揮命令下にあったとは認められない」として請求を退けた。

 宅直について、武末局長は「根本的には2人当直にできない医師不足がある。また、自分が主治医をしている患者の具合が悪くなったら、どんな場所に居ても呼び出される慣習があった」と指摘。「今後は当直勤務の翌日は休みが取れるような勤務態勢の導入を検討したい」と述べた。

 原告側の藤本卓司弁護士は「宿日直勤務の始めから終わりまでが労働時間だと明示した画期的な判決だ。全国の多くの病院も同じような実態で、国や行政が産科医不足の対策を取ることが求められる」と述べた。

割増賃金支払い命令判決「当直は時間外労働」…産科医激務に一石 /奈良(2009年4月23日読売新聞)

調査の病院8割、法違反

 「当直は時間外労働にあたる」――。22日、奈良地裁が言い渡した判決は、待機や軽微な勤務を前提に認められている医師の当直について、一部の時間帯は通常業務と変わりない実態があるとして、割増賃金の支払いを命じた。

 医師不足が深刻化する中での初の司法判断は、医療の現場に勤務体系の見直しを迫るものになりそうだ。

 奈良県立奈良病院の産婦人科医の待遇は決して特殊なケースではない。全国周産期医療連絡協議会が2008年、重症の妊婦を24時間態勢で受け入れる全国75か所の「総合周産期母子医療センター」に実施した調査では、97%にあたる73施設が夜間勤務を正規の労働時間にあたらない「宿直」と見なしていた。

 1回の手当の平均は約2万3000円。8000円しか支払われない施設もあった。また77%の施設では、当直医が翌日も夕方まで勤務していた。

 労働基準監督署の基準では、そもそも当直は「ほとんど労働する必要がなく、病室の巡回など、軽度で短時間の勤務」とされている。これを前提に、労基署は宿直は週1回、日直は月1回を限度に病院などに許可を出すが、実態は軽度で済まない。医師が当直日に忙しく働いたかどうか、勤務実態を調べて割増賃金を支払うことは多くの病院がしていない。

 緊急手術や急患に対応するために、宿直の医師は仮眠すら取れないケースが多い。前日朝から宿直を経て、翌日の夕方まで連続30時間以上という激務もある。

 日本産科婦人科学会のまとめでは、大学病院に勤務する産婦人科医が病院に滞在する時間は月平均341時間、最長は505時間。過酷な労働環境を反映し、産婦人科医はここ10年で約1割も減少している。

 厚生労働省では、労基署への申告が相次いだことを受け、2002年に当直勤務の適正化を図るため、全国の医療機関に対し、当直勤務の実態を自主点検するよう、各労働局に通達を出した。07年には、立ち入り調査した病院や診療所など1852施設のうち、約8割にあたる1468施設で法違反が見つかった。

 今年3月には東京・三田労基署が、都から総合周産期母子医療センターに指定されている愛育病院に対し、「当直の実態は時間外労働だ」として、残業代を支払うよう是正勧告。同病院は「勧告に従うと、センターが求める産婦人科医の勤務態勢を維持できない」として、同センターの指定返上を打診する事態になった。

改善策「すぐは厳しい」奈良県

 「あまりに過酷な環境をどうにかしてほしいということ。金が目当てではない」。原告代理人の藤本卓司弁護士は判決後の記者会見で、訴えた理由を強調した。

 藤本弁護士は、原告2人が提訴に関して「批判や中傷を浴びた」と、医師が労働条件に声を上げることの難しさを示した。そのうえで、宅直が認められなかったことに「やむを得ずやっていることなのに」と不満を漏らし、「労務管理体制を根本から変えないといけない。その対策が国や自治体に求められる」と話した。

 奈良県では2006、07年、妊婦の救急搬送の受け入れが拒否される問題が起きている。医師不足など、医師を取り巻く劣悪な環境が理由に挙げられる。

 奈良県健康安全局の武末文男局長は判決後、「根底に医師が足りないという問題がある」と述べた。交代勤務制の導入や他病院からの応援医師の配置などの対策を列挙したが、「今すぐにというのは厳しい」と、問題の根深さをのぞかせた。

背景に医師不足 産科の悲鳴届いた…奈良地裁判決 /奈良(2009年4月23日読売新聞)

2人で2年間に当直313回 50時間勤務も

産科医の悲鳴が司法に届いた――。奈良地裁が22日、奈良県立奈良病院の当直勤務を時間外労働と認めた判決で、産科勤務医の労働実態の過酷さが改めて浮き彫りになった。こうした問題の背景には、医師を計画的に配置せず、医師の偏在を放置してきた日本の医療体制がある。勝訴した産科医の1人は「産婦人科の医療現場では緊急事態に対応するためスタッフが必要」と訴え、医師不足の抜本的な解決策を求めている。

 今回の訴訟では、産科医が休憩もままならず、ぎりぎりの状況で母と子の命に向き合わなければならない実態が陳述などで明らかになった。原告の1人が2005年12月に経験した土、日、月曜の3日間の連続勤務を振り返ると――。

 土曜夜、1人の妊婦が出血し、その約1時間後に別の妊婦が陣痛を訴えた。日曜の午前4時半頃には、さらに別の妊婦の異常分娩(ぶんべん)に立ち会った。医師は原告だけ。1人の処置をしている間に、別の妊婦が分娩室にやってくる。

 日曜日は午前9時半前、午後4時前、同7時半前、同10時前にそれぞれ赤ちゃんが生まれ、月曜未明にも赤ちゃんが誕生した。ほかにも原告は、切迫早産や出血などの手当てに追われ、連続する宿直勤務の間に診た妊婦は計13人。立ち会った出産は6件にのぼった。この後、月曜日は夕方まで通常の勤務に就いたという。

 法廷で、原告は宿直明けの体調について「朝のうちは興奮状態で元気かなと思うが、昼ぐらいから、ガクッと疲れる感じ」と陳述。宿直明けの手術の際、エックス線撮影の指示を誤ったこともあったと述べた。

 原告2人が2年間で務めた夜間・休日の当直は計313回、担当したお産は計300件。妊婦からの呼び出しコールが頻繁にあるため、仮眠を取るのも難しく、50時間以上の連続勤務もあった。

 原告の上司も「外科の当直なら、整形外科などを含めた複数の診療科から1人出せばいいが、産婦人科は、産婦人科だけで回さなければならない」と厳しい実態を証言した。

過酷勤務、訴訟リスク…「なり手なくなる」

 「お産は24時間ある。産科は診療科の中で最も当直が多く、負担が特に大きい。なり手がなくなるのではないかと危惧(きぐ)している」。岡井崇・昭和大教授(周産期医療)はこう指摘する。

 産科医の減少は、分娩(ぶんべん)施設の数にも表れている。日本産科婦人科学会の調査(2006年)では、全国の分娩施設は1993年に約4200施設あったが、調査のたびに減少、05年は約3000施設となった。

 約2700病院が加盟する日本病院会は「勤務医、中でも産科、小児科は『訴訟リスク』が大きく、研修医らから敬遠されやすい。結果的に医師が不足し、労働条件も悪化する悪循環が起きている」とする。

 労働基準監督署から、指導を受ける病院も後を絶たない。原告の産科医が勤める県立奈良病院でも、04年に労働時間の是正を求められたが、改善されず、今回の訴訟に発展した。

 現場の産婦人科勤務医の評価はさまざまだ。

 京都市内の病院に勤務する50歳代の男性医師は「現場は医師のボランティア精神と犠牲の上に成り立っている。待遇が改善されれば、医師も増え、医療の充実につながるだろう」と話す。

 一方、石川県内の大学病院の男性医師は「抜本的な解決には、看護師のように3交代制を敷くしかない。それには、お産の拠点施設を配置するなど、医療システムを根本的に変える必要がある」と指摘する。

 厚生労働省監督課は「長時間労働は抑制し、労働基準法を順守するよう監督したい」としている。

読売だけに例によって「医師を強制配置しないのが悪い」でFAというのは毎度のことながら「なんだかなあ」という感じではありますけどね。
しかし全般的にみて「過酷な産科医療現場に一石を投じた判決」と評価する声がある一方、「現実問題として対応は難しいのでは」という声も聞こえているようです。
いずれにしても関係する各者とも現状が大いに問題があって、出来ることなら早急に改善しなければと言う認識は共有していると考えていいように思うのですが、どうでしょうか?
医療に対する関心が高まっている中で特に「産科医って大変らしいね」と一般市民からも同情が寄せられている、そうした状況下でこの判決が何かしら前向きな改善を図っていく一つの原動力となればいいのかなとも思える話です。

ところで少しばかり話はかわって、先日労基署からお叱りを受けた愛育病院ですが、その後医師増員を果たしたようで目出度く新体制構築がなったようです。

周産期指定継続へ 愛育病院 OB雇用 24時間態勢確保 /東京(2009年4月24日東京新聞)

 東京都の総合周産期母子医療センターに指定されている愛育病院(東京都港区)が先月、労働基準監督署から医師の勤務体制の是正勧告を受け、都に指定返上を打診していた問題は、センターを継続することで決着する見通しとなった。愛育病院では、非常勤のOB医師を増やすことにより、緊急治療が必要な妊産婦や新生児の二十四時間態勢での受け入れを可能にした。 

 愛育病院の夜間当直は常勤医と非常勤医が二人一組で担当。当直が可能な常勤医は六人しかおらず、当直は一人平均月六回、時間外勤務は月間約六十時間に上っていた。

 労働基準法では、当直などの時間外勤務は労使が協定を結んだ上で、原則月四十五時間以内と定めているが、同病院は医師側と協定を結んでいなかったため、東京・三田労基署から先月中旬、是正勧告を受けた。

 常勤医の当直勤務を減らすと、二人とも非常勤医による当直が月十日以上になるため、病院は「当直は総合周産期センターの機能に慣れた常勤医が必要」として都にセンターの指定返上を相談。都は「当直は医師が複数いれば問題ない」として継続を要望していた。

 このため病院は、今月十七日付で医師側と協定を締結。常勤医の当直は四十五時間以内になるように月三回程度にする一方、新たに四人のOB医師を非常勤で雇い入れ、常勤医が当直に入れない日にカバーしてもらう。都は近く、都周産期医療協議会に新しい取り組みを報告した上で、指定を継続する。

上記の奈良の悲惨な論調と併せてみると「さすが愛育、産科医も涌いて出るのか」といった感もあるのですが、かの大淀病院事件以来産科医療が崩壊してしまった奈良と、全国一医師が集積するという東京との温度差ということもあるのかも知れません。
ところでその愛育病院ですが、こんな興味深い記事も出てきています。

『現場で経験積みたい』 医師の思い労基署とズレ(2009年4月24日東京新聞)

 東京都に総合周産期母子医療センターの指定返上を打診し、医療関係者の注目を集めた愛育病院が、都と協議の末、妊産婦と赤ちゃんの“最後の砦(とりで)”を継続する見通しとなった。きっかけは労働基準監督署から医師の“働き過ぎ”を指摘されたことだが、現場の医師からは「医療を実地に学ぶ機会が減り、収入も少なくなる」と不満の声が上がる事態も起きた。 (神田要一)

 「産科医は現場で経験を積むことが大事で当直もその一つ。当直が減れば勉強の機会が少なくなる」

中林正雄病院長は現場の医師の気持ちを代弁した。労基署の是正勧告を受け、今月から常勤医の当直を月三回程度に減らしたところ「大変不評だった」。病院は当直一回につき三万-六万円の手当を支払っており、収入減も不評の一因だった。

 当直明けは午後から休みにするなど、過重な負担にならないように配慮していたため、勤務体制にそれほど不満がなかったという。中林院長は「労基署の勧告通りにやろうとすると、当直は月三回程度しかできず、困るというのが本音」と言う。

 病院は今回、医師側と時間外勤務の協定を結んだ際、規定の月四十五時間を超えても勤務できるよう特別条項も設けた。ただ、緊急時などに限られ「特別条項があっても従来の体制に戻すわけにもいかない」(大西三善事務部長)と話している。

よく見ると直接現場の先生方に聞いたわけでもなく、あくまで「院長を通じて」語られるところの現場の声であるということに留意ください。

新聞報道や院長の代弁する「現場の声」なるものがどれほどの信憑性があるのかという問題も確かにありますが、先ほどの奈良の先生方の悲惨極まるコメントと比べて何か違うぞ?とは感じられるところですよね。
記事を読む限りでも愛育の先生方は真面目で熱心で善意の方々なんだろうなとは思いますが、色々と政治的利用価値は高そうなコメントが並ぶのは気になるところです。
もし現場の声が実際に院長の言う通りの「大変不評だった」ということであるならそれはそれで大きな意味があることですし、現場の声が全く違っているのに院長がこうしたコメントを出しているのであればそれ以上に大きな意味があることですが、果たしてどうなっているのでしょうかね?

一方ではもっと働きたい、働く余力があるという労働力があって、一方ではこれ以上は無理、もっと人手をという職場がある、しかもそれらは社会的に必要とされる公共サービス的側面の高い産業であると言うことであれば、公的権力を活用して需給均衡を図るべきではというのが読売新聞らに代表される医師強制配置論者の主張です。
仮に国が画策する医師強制配置計画などと言うものが実現したとしても愛育病院に勤務していらっしゃるようなヒエラルキー上位に位置する(だろう)先生方が動員される可能性は限りなく低いんじゃないかという気はしますが、そうであるからこそ関係者の発言にはそれなりの周囲に対する影響も考慮する必要があるのではないかなとも思うのです。
愛育の現場にいる先生方も自分の発言の扱われ方というものに留意する必要はあるし、もし院長が勝手に現場の声なるものを捏造しているのだとしたら、それは違うぞと声を上げていく必要はあるんじゃないかと思いますね。

何にしろ業界内部で労働環境改善に向けて気持ちが高まってきている、そして外部からも注目の目線が集まってきているだけに、何気ない一言というものにもそれなりの社会的意味、あるいは社会的責任というものが自然についてまわることになります。
現場の声を無視する一部の方々が背後から銃を撃ちかけるような真似をすることも大きな問題ですが、ふと漏らした何気ないコメントが「これが現場の声だ!」と思わぬところで広まってしまうということも考えないではいられない時代と言うことですよね。

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2009年4月24日 (金)

最近面白いなと思った話あれこれ

昔とある芸人が言っていた話ですが、お笑いというのはやっている人間は目一杯真剣でないと芸にならないんだそうですね。
そのあたり、あくまで自分が面白かったからという動機の延長線上にある素人演芸との境界線があるような気がして興味深いところではありました。

それはともかくとして、先日こういう記事を見かけて大笑いしてしまいました。
ちなみにネタでもなんでもなく、至って真面目な新聞の至って真面目な普通の記事です(たぶん)。

危ないお医者さんはこう見抜く(2009年4月15日日経WagaMaga)

 名医に診断・治療してほしい。誰もがそう願う。大学病院や専門医を頼る人も多い。しかし、『危ないお医者さん』(ソフトバンク クリエイティブ刊)を書いた医師でジャーナリストの富家孝さんは「大学病院に名医が多いわけではない。専門医の肩書も当てにはならない」と言う。自分の身体にメスが刺さる前に「あぶない医師・病院」を見抜くポイントを、富家さんに教わった。

 2008年に起きた、急患妊婦が8病院をたらい回しにされた事件は40、50代男性にとっても他人事ではない。脳梗塞のような症状で救急車にかつぎ込まれても、搬送に手間取って手遅れになるという事態は容易に起きうるからだ。心配に思う人は、勤め先や自宅近くの救急指定病院に一度かかっておいて、カルテを残しておき、受け入れてもらいやすくするような対策を講じておいてもいいだろう。後で述べるが、かかりつけ医に自分のデータを蓄積しておくことも、いざという時の助けになる。
(略)
 「医は仁術」という言葉はとうに死んだ。医師の仕事は一種のサービス業となった。一定の報酬と引き替えに、患者が求める医療サービスを提供する立場だ。誰にでも分け隔てなく接するという態度は期待できないのが現実だ。

 サービス業ならサービス業で構わない。ただ、サービス業だというのなら、対価に見合ったサービスでなくてはおかしい。ところが、日本の病院では同じ金額を支払っても、受けられる医療の質の差が大きすぎる。執刀する医師次第で、ある患者は助かり、別の患者は命を落とす。そんな格差が医療の現場ではまかり通っている。ホテルでは一般に料金が高ければ、それなりに見合ったもてなしを受けられるが、病院ではそうではない。患者側からすれば、ここは納得できないところだ。

 だからこそ、病院の質を見極める「目」が患者側に求められる。日頃から日本有数の名医にばかりかかる必要はないだろうが、患者を軽視する「危ない病院」は避けたいものだ。個人経営の病院について、患者が比較的簡単に「危ない病院」を見抜くには、いくつかのチェックポイントがある。

 例えば、やけにすいている病院。待ち時間の少ない病院に行きたがる人は多いが、患者の評判が悪く、経営状態が悪い病院である可能性もあり、疑ってみる必要がある。スタッフが少ない病院や、若い看護師ばかりの病院、受付が無愛想な病院、規模に比べて診療科目が多い病院なども、要注意と言える。

 麻生太郎首相が2008年に「(医師は)社会常識が欠落している人が多い」と発言したら、大騒ぎになった。だが、医師が往々にして一般常識からかけ離れているという事は間違いではない。親が子供を医学部に進めたがる傾向は今も変わらない。代々、医師の一家というのはざらで、親族30人以上が医師という家系もある。医師以外の業種が身の回りにいないせいで、一般的な考え方とはずれてしまい、そこから抜け出せないのだ。異業種交流や一般社会との接点が少ないせいで、付き合うのは医師会の仲間ばかりで、趣味はゴルフ、夢は子供の医師デビューという医師はあまりにも多い。

 病院を見抜く以外に、医師本人の資質も見定める必要がある。とりわけ、一生に何度も受けるわけではなく、しかも生命にかかわる手術となりがちな心臓や脳手術の技量に関しては、しっかり確かめておきたい。比較的手軽にチェックできる方法は、各病院のウェブサイトに医師の手術数が公開されているかどうかだ。この程度の情報公開すらできない病院は信用しないに越したことはない。

 今世紀の医療のテーマは「情報開示」と「公正」だろう。この2つに反する医師・医療機関は淘汰されていく方向にある。病院サイトの充実度は今や最も簡単に、「情報開示」と「公正」への取り組みをうかがい知る手がかりとなっている。
(略)
 外科医に関して言えば、患者から一般に求められる「名医」の意味合いは「手術がうまい」のようだ。もし、その意味の名医を探すのであれば、手術症例数というデータを手がかりにするのが一番手っ取り早い。症例数の多い医師は成功率が高い傾向があり、だからさらに手術依頼が集まり、ますます症例数が増える。症例数が「名医」の目安になりうるのはこういう仕組みがあるからだ。

 そもそも症例数が少ない医師は経験値が低いので、命に関わる大事な手術を任せるのは心許ないところがある。外科医に限って言えば、日々手術を重ねて経験を重ねている「手術職人」のような外科医の方が実力が高いと言える。どんなに医師歴が長くても、その分野の執刀経験が少ないのでは、手術の成功率は低くなりがちだ。大学の名前や、教授であるかどうかは、症例数に比べれば、はるかに意味を持たない。

 日本胸部外科学会が発表した興味深いデータがある。「年間に25件未満しか心臓手術を行っていない病院での死亡率は、年100件以上の病院に比べて、約2倍高い」というものだ。症例数と成功率はこれほど密接に関係している。

 年間150~200の手術を、高い成功率でこなす心臓外科医は国内には30人ほどしかいない。経験と成功率に優れた医師に頼みたいと考えるのは当たり前だから、自ずと依頼は一部の優秀な実績を持つ医師に集中する傾向がある。つまり、こうした優れた医師以外から手術を受けるのは、リスクを伴う選択とすら言える。

 繰り返して言うが、大病院であるかどうかや、教授であるかどうかは、外科手術の腕には関係ない。最近は朝日新聞社や日本経済新聞社、読売新聞社などから、分野別の症例数データをまとめたデータブックが刊行されるようになった。かつては専門家しか閲覧できなかったような生の数字が今では誰でも参考にできるのだ。

 こうしたデータブックを読めば分かる通り、症例数の上位は決して首都圏の大学病院の教授ばかりというわけではない。もちろん、大学病院にも分野別の「名医」は存在するが、「大学病院=名医の集団」という思い込みは現実のデータに合わない。例えば、漫画『ブラックジャックによろしく』のモデルとしても有名で、「神の手」と呼ばれる心臓外科の南淵明宏氏は神奈川県大和市にある大和成和病院の院長。心カテーテル治療の第一人者とされる延吉正清氏が院長を務めるのは、福岡県北九州市にある小倉記念病院だ。

 手術を前に、担当医師が名医かどうかを直感的に見抜ける方法もある。名医はコミュニケーション能力が高いから、説明が丁寧で、聞いていて納得しやすい。手術の結果に関して、起こりうるケースの説明が明解・具体的で、物言いが冷静かどうかが、コミュニケーション能力を見極めるポイントと言える。説明の細部を省いたり、態度が高圧的だったり、説明そのものを面倒臭がったりするようであれば、別の医師に頼むことを検討する余地がある。最初に名刺を渡して、しっかりと自己紹介してくれるかどうかもコミュニケーション能力を推し量る材料になる。

 医師は嘘をつかないという思い込みも事実に反する。医師を信じたい気持ちは分からないでもないが、医者は嘘をつくし、隠蔽(ぺい)も改竄(ざん)もする。過去のいくつもの医療事故事件からもこの事ははっきり分かる。だから、医師の説明はメモに書き取っておこう。メモを取られていると、医師が「いい加減なことを言ってはまずい」と緊張するという効果も期待できる。

 医師は「絶対にミスを認めてはならない」と教え込まれている。医療過誤訴訟ではこうした医師の嘘や隠蔽行為が事実解明の壁となる。もっとも、訴訟に勝っても、失われた命や機能は戻ってこないこないのだから、腕が確かで、誠実な人柄の医師を見付けることが第一だ。

 医療過誤の被害を受けたと感じたら、訴訟をためらう必要はない。患者側がチェックして、いざという時は訴訟を起こさないと、医療の体質は変わっていかない。手術の前に同意書を提出していても、気にするには及ばない。同意書は手術を受けることに同意したにすぎず、医療過誤の責任を問わないという約束ではない。同意書があろうがなかろうが、訴訟は成立する。泣き寝入りは無用だ。

 病院で手術を勧められたら、セカンドオピニオンを求めよう。セカンドだけではなく、サード以上も集めて、手術の妥当性を納得できるまで調べたい。医師が違えば、見立てや処置プランが変わることはざら。全然違うアプローチが提案される場合だってあり得る。最初にかかった病院・医師の判断を鵜呑みにするのは、賢明とは言い難い。
(略)
 医師はプライドが高い上、それぞれが得意とする治療法を優先したがる傾向がある。だから、患者の側から別の治療法を示されると、気分を害して、患者の提案を受け入れたがらない。かえってむきになって自分の説を守ろうとする。だが、そんな態度を示したら、患者側が見限ればいいだけの話だ。今時、セカンドオピニオンを拒否するような医師は、先に述べたコミュニケーション能力の面でも問題があると見ていいだろう。

 診断や治療プランに少しでも疑問を感じたら、あらゆる検査データを渡してもらうべきだ。データは本来、患者の個人情報であり、本人の持ち物。医師は預かっているだけの立場だから、患者が求めれば、渡す義務がある。セカンドオピニオンを得るには、検査データが必要となる場合が多い。医療過誤を防ぐとともに、万一の場合の備えとしても、検査データを手に入れておく意味は大きい。

 検査データを要求すると、まるで自分たちが信用されていないように感じて、不愉快に思う医師がいるかも知れない。提供を拒む医師・病院もあるだろう。だが、そんな場合は別の病院に移ればいい。患者の正当な権利すら守れないようなところに命を預ける必要はない。
(略)
 患者と医師の間柄は、嫁と姑(しゅうとめ)に似ている。往々にして利害は一致しない。有り体に言えば、患者を治さない方が病院の利益になる場合だってある。過剰な検査や、大量の薬処方はそうした経営優先の態度の現れだ。本来は不要かも知れない検査や投薬を、利益のために押し付けてくる医師はそこら中にいる。だから、医師を信じ切ってしまうのはよそう。そして、信じるに値する医師との巡り会いに費やす手間と時間を惜しまない事だ。

 脳や心臓疾患での大手術のようないざという時を心配するのであれば、そんな一生に一度しか世話にならないような外科手術の名医を今から探すよりも、名医につながる「かかりつけ医(ホームドクター)」を見付けることにエネルギーを注ぎたい。かかりつけ医に継続的に健康状態を把握しておいてもらえれば、大病をした時でも的確なアドバイスをもらいやすい。名医を知るかかりつけ医に紹介状を書いてもらえれば、その後の治療でも心強い。

いきなりブチですか(苦笑)。
語り手は一応医師だと言う割には何ですかこのあからさまに素人の釣り臭い内容はと思っていましたら経歴を見て納得と言いますか、まあこれなら確かに素人ですね。
なんて言いますか、この「先生」の医療業界内部での狭い交友範囲がどういう方々との間に交わされていたのかということが垣間見えて、むしろそっちの方で楽しめるという記事ではありますかね。

こちらは真面目な新聞かどうかは判りませんが一応まともっぽく書いているつもりらしい記事なんですが、これも別な意味で色々と笑える内容ですよね。
言うまでもなく、これもネタではありませんので(一応)。

今どきお産事情:/1 出産施設、減少の一途 リスクに応じ産院選び(2009年2月13日毎日新聞)

 晩婚化に伴い、女性が生涯に子供を産む機会は減った。その分、より納得できる出産を希望する女性は多い。医療の技術も進む。様変わりした出産事情に直面した記者が、自身や妻の妊娠・出産で感じた体験から、課題と解決に向けた取り組みを探った。1回目は出産施設が減るなか、どこで産むのかを考えた。

 ◇助産院、総合病院…特徴把握して

 東京・代官山の「育良(いくりょう)クリニック」(東京都目黒区)。和室を備え、出産現場への夫や子供の立ち会いを認めている。いざという時に帝王切開もできる。「安全な環境下での自然分娩(ぶんべん)」を理念に掲げ、扱った出産数も10年間で5倍の年間630件に増えた。だが、ここ1、2年は様子が変わってきた。浦野晴美院長は「以前は理念に共感して来る女性が多かった。最近は『他に受け入れ先がない』という理由で来る人が増えた」と憂える。

 妊娠・出産・育児サイト「ベビカム」の運営団体が07年、ネットを通して妊娠中の189人に聞くと、8人に1人が「産みたいと思った施設で分娩予約ができなかった経験がある」と答えた。

 厚生労働省によると、05年に出産を扱っていたのは2933施設だが、96年より1058施設も減った。

   ◇  ◇

 昨年12月のベビカム調査では、リスクの高い妊娠を理由に、かかりつけ医の指示・紹介で転院したのは前年同期比で1・8ポイント増の4・6%。20人に1人の割合だ。

 背景には夜間や休日の出産が少なくなく、医師の負担が大きいことがある。訴訟回避の狙いもありそうだ。産科医1000人当たりの医療訴訟件数(06年の終結分)は16・8件で診療科別で最も多い。

 リスクが高い妊娠の典型が、高齢と病気だ。糖尿病を発症していると胎児の巨大化を招く恐れがある。「病気以前の肥満や高齢初産でも、受け入れを敬遠する病院が増えている」と浦野院長。病院側の「売り手市場」の傾向が強くなっている。

   ◇  ◇

 妊婦には冬の時代だが、病院の規模に応じた特徴と自分のリスクを把握したい。厚労省研究班(班長・中林正雄愛育病院院長)は05年、リスクに応じた産院選びをすることで、安全な妊娠・出産に結びつけようと自己評価表を作成、病院ホームページ(http://www.aiiku.net /riskcheck.htm)で公開した。

 3人の子どもを持つ出産ジャーナリストの河合蘭さん(49)は長男(20)の出産場所として助産院か総合病院を考えた。当時の総合病院では、出産直後は母子別室が通常だったが、相談すると同室を了解してくれたという。「納得できるお産に近づけるため、医療機関と相談しながら一緒にやっていこうという姿勢が大切」と話す。=つづく

   ×   ×

 この企画は斎藤広子、須田桃子、河内敏康が担当します。

 ◆記者の体験
 ◇「自然」にこだわって

 昨年1月、自宅(横浜市)の近所の産院で妊娠の確定診断を受けた。待合室で9月の分娩予約が迫る掲示が目に入った。焦ったが、初産のほぼ全員に、赤ちゃんが生まれやすいように肛門(こうもん)と膣(ちつ)の間を切る会陰(えいん)切開をしていると聞き、予約しなかった。

 陣痛促進剤の投与などのない「自然なお産」にこだわった。特に興味を持っていたのが、ぬるま湯の中で産む水中出産だ。痛みが和らぎ、リラックスしやすいという。水中出産できる神奈川県の施設を探すと、その数は片手で足りた。自宅から最も近かったのが、バスで約30分の豊倉助産院(同市)だ。

 3月中旬、夫と見学に訪れた。豊倉節子院長(61)は「『お産だけ自然に』というのは無理。食事や運動などで体を整える必要がある」と語った。出産時の夫の立ち会いや母乳育児などもかなうと知り、その場で分娩を申し込んだ。

 無事出産したが、希望を最大限受け入れてくれる施設との出合いは幸運だった。【須田桃子】

自然にこだわって水中出産って(苦笑)。
どうも毎日新聞社の皆様方ともなると、自然という言葉の意味が自分ら非修非学の身とはずいぶんと異なっているようですね。
一部のカルトまがいの方々がむやみに推進しておられるいわゆる自然のお産なるものの実体がどういうものかは以前にも少しばかり紹介しました。
産科医である田村正明氏は先日の記事で「僕は学校で、ヒトが魚から猿になり人間へと進化したことを学びました。せっかく進化して人間になったのに、あえて魚にまでさかのぼって水中出産するなんて、僕にはすごく不思議なことに思えます。」とのコメントを残していますが、全く同感ですね。

すこし面白いということとは外れますが、こちらも日本の医療というものを考える上で興味深い話題と思えますので紹介してみましょう。

生存が絶望視された赤ちゃん、生命維持装置を外したあとで自力呼吸を始める(2009年04月09日AFP)

カナダ・トロント(Toronto)の小児科病院Hospital for Sick Children (SickKids)は8日、生存の見込みがないとされた生後2か月の女の赤ちゃんが、生命維持装置を外されたあとで自力で呼吸を始めたと発表した。

 生後2か月のカイリー・ウォレス(Kaylee Wallace)ちゃんは、先天的に脳に障害があり、生命維持装置がなければ呼吸ができない状態だった。

 両親は、同じ病院に心臓移植を必要とする赤ちゃんがいることを知り、わが子の心臓を提供することを決意。生命維持装置を外した。ところが両親は、「カイリーちゃんが自力で呼吸を始めた」ことを医師から告げられることになる。

 病院は8日朝会見を開き、カイリーちゃんの容体は安定しており、心臓を提供する可能性はなくなったと発表した。

 担当のジム・ライト(Jim Wright)医師は、カナダ放送協会(Canadian Broadcasting Corporation、CBC)に対し、「両方の家族にとっては明らかに悲劇だ。今の状況は、どちらの家族にとっても何の解決策にもなっていない」と話した。

 カイリーちゃんの父親、ジェイソン・ウォレス(Jason Wallace)さんは報道陣に対し、「娘を失うことに対する心の準備はできていた。だから、娘を失うのはまだいい。理解できる。だが2人を失いたくはない」と語った。

 カイリーちゃんの今後の容体については不確定だ。なお、カイリーちゃんの心臓を移植される予定だった生後1か月の赤ちゃんも、今のところ容体は安定しているという。

「両方の家族にとっては明らかに悲劇だ。今の状況は、どちらの家族にとっても何の解決策にもなっていない」というコメントは病状がはっきりしない以上いささか説明を要するかなと思いますが、少なくとも未来永劫安定して生きられるとも思えない状況ですから、少しばかり経過が緩慢となったとしてもいずれ亡くなってしまうことは確定的と見るべきでしょうね。
もちろん移植ドナーとしての機会が失われたこともさることながら、この場合医療費の問題というものも考えてみなければならないように思います。
カナダは英国式のゲートキーパー式医療制度を設けていて同様にアクセスが極めて制限されている代わりに一般的な医療では患者の窓口負担はないのですが、入院となりますと個室料等は別料金で負担しなければならないということです。
当然こういう状態の患者に大部屋で寝ておけとかすぐ家に帰りなさいというのもまずもって不可能だと思いますから、おどらく年若いだろう両親にとってはその面での負担も大きいことでしょうね。

日本の場合ですと同じような状況で延々とNICUに長期入院しているという症例が結構あって、厚労省の調査では1年以上の長期入院が全体の4%に登るというデータもあるようです。
興味深いのはその退院できない理由なんですが、医学的に退院が無理というのは僅か1/3に過ぎず、在宅療養の担い手がいないとか療育施設の不足といった「社会的入院」が半数近くを占めているというんですね。
こういうことがある、あるいは出来てしまうというのも小児医療費無料化政策や小児移植医療禁止など様々な要因があるんだろうなとは思いますが、海外諸国で見られるような悲劇の回避という一面がある一方で、別な悲劇をも生み出しているような気もしないでもない話です。

子供関連ということでもう一つ、記事というわけではないのですがこちらの話も紹介してみましょう。

この国では子供は産めないといったら大喧嘩になりました。(2009年4月20日大手小町トピより)

北欧の某国に住んでいます。

この国の医療制度は無料ではありながら最低です。

子宮ガン検診のときには普通の診察室にある普通の長いすに座ってと言われ、そのままいきなり下着まで脱げと言われ、目隠しのカーテンもないままいきなり内診です。

具合が悪くて今すぐ見て欲しくて病院にいったのに予約がなければ
見てもらえず、見てもらえても1週間後。1週間まちの2秒医療で、しかも薬など出してもらえず詳しい検査もなし、医療器具は日本の何十年前のものがそのまんま。
風邪をこじらせ慢性副鼻腔炎になり、具合が悪いと何度も医者に行ったのに塩水の鼻うがいを薦めるのでそのとおりにしていましたが、具合が良くならず、日本の医者に帰国時に行ってみたら「こんなになるまで放置するな」と叱られました。

そんな経緯もあって、この国の医療を私は信用していません。

日常会話のついでに「この国で子供生む人って勇気あるよ、私は絶対にいやだ。」といったら大喧嘩になってしまいました。それでも私は絶対にこの国では生むつもりはありません。夫は自分の子供でもあるから、日本で生むのは反対だといいます。夫に言わせると日本の過剰な医療行為が気に食わないそうです。

私にしてみれば医療費がタダでも、雑で、適当で、まともに診察もしてくれず緊急時に言葉が通じないなんてうんざりです。出産で命を落としたらやり切れません。

日本以外の国に住んで、外国の医療システムにうんざりの皆さん
どのように相手を説得しましたか?

このトピのコメント欄がそれぞれ秀逸で海外の医療事情というものを知る上でもそれなりに参考になりそうなのですが、ここで一番面白いなと思ったのは医療に対する期待値ということです。
「トピ主さんの主張は、極端に言えばアマゾンの奥地で「お腹痛いからすぐ救急車呼んで!」って言ってる様なもんです。」という声が一つの究極なのかなと思うのですが、医療というものの質やアクセスといったものに当然国毎の違いはある、しかしそれと医療に対する満足度や不満というものが決してパラレルなわけではないということには留意すべきでしょうね。

別に医療に限らず日本人というのは結構「現状に満足しない」という一面があって、良い方向でそれが発揮されるといわゆる「職人のこだわり」などと言われるような質的改善の動機につながっていったりする。
しかし逆に言えば顧客側にも同様のこだわりが天井知らずに発揮されていくという一面もあって、「日本の消費者は世界で一番厳しい」なんてことを言われていますけれども、少なくとも医療費を公定価格で抑制する施策を続けるのであればそろそろ提供する側、利用する側ともに満足するということを覚えていくべき時期ではあるのかも知れません。

最後になりましたがこれは文句なしにケッサク、あまりにあまりな内容で思わずモニターの前で大爆笑してしまった記事を紹介しておきます。
しかし、さすが医療ネタに関して斜め上方向に向けてのトップランナーと定評のある産経新聞、ここまでピントの外れた記事はそうそう狙っても書けるものではありません。
ま、内容に関しては敢えて突っ込まないでおきますが、いつの日か記者氏がラーメン代と介護利用料の違いを理解できるようになることを願っております(苦笑)。

【ゆうゆうLife】編集部から ラーメン代と介護利用料の違いは?(2009年4月17日産経新聞)

 介護報酬引き上げの取材をしていて、ある大学の先生から、こんなたとえ話をされた。

 「いつものラーメンが100円値上がりした。店主に理由を聞いたら、『今月からパートさんでなく、ラーメン作りの経験豊富な従業員を増やすことに方針転換しましてね』といわれたら、納得できますか?」

 「う~ん」と、うなってしまった。腕利き職人が作った品と聞けば、期待は高まる。しかし、この不況下、前と同じ味だったら納得できない。明日は外食しないかもしれない。

 介護保険サービスの利用料が今月から変わった。月額利用料がかなり上がる人も少なくないが、値上がり分は、ヘルパーの待遇改善をはじめ、介護福祉士やベテランヘルパーを増やすことに使われるという。しかし、それが明日から“味”、つまり質の向上につながるものでもなさそうだ。

 厚生労働省は「将来的に、サービスの質が利用者に還元されるので理解してほしい」と説明する。介護サービスの質が変わらないのに…と、納得がいかない人も多いだろう。

 介護保険が保険料で運営される以上、質を良くするための値上げはやむをえない。しかし、国や事業者には、ぜひとも利用者がサービス向上を実感できるよう、がんばってほしい。利用している人は介護サービスなしには暮らせない。「高いから、や~めた」とはいかないのだから。(清水麻子)

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2009年4月23日 (木)

医療と行政との関わりの中で

愛育病院問題と絡めて医療行政の中における医師の労働問題というものを何度か取り上げてきましたが、厚労省自らがこと医師の労働に関しては裏技や抜け道を認めているのではないかとも取れるようなとんでもない話も見え隠れしてきました。
昨日は奈良の賃金未払い訴訟の判決が出ましたが、これも医療と医療行政の関わりという面から興味深い事例かなと思いますので、本日まずはそちらの記事から紹介してみましょう。

医師の当直勤務は「時間外労働」、割増賃金支払い命じる判決(2009年4月22日読売新聞)

 奈良県立奈良病院(奈良市)の産婦人科医2人が、県を相手取り、夜間や休日の当直などは時間外労働に当たり、手当支給だけで賃金を払わないのは労働基準法に違反するとして、2004、05年分の時間外割増賃金計約9200万円の支払いを求めた訴訟の判決が22日、奈良地裁であった。

 坂倉充信裁判長(一谷好文裁判長代読)は「当直時間に 分娩 ( ぶんべん ) や新生児の治療など通常業務を行っており、割増賃金が不要な勤務とは到底いえない」として、県に対し、労働基準法上の請求期限の時効分を除く、当直分の割増賃金として、それぞれ736万円と802万円の支払いを命じた。

通常勤務並みという医師の当直勤務を時間外労働と認めた初の判断。産科医の過重労働が問題となる中、全国の病院運営に影響を与えそうだ。

 また、坂倉裁判長は、緊急時に備えて医師が自宅で待機する「宅直」については「医師間の自主的な取り決めで病院の内規にもなかった」として、割増賃金を認めなかった。

金額は請求に比べてずいぶんと少ないようにも見えますが、「時効が成立 していない分については、すべて時間外割増賃金の支払いが認められた」(原告側弁護士)のだそうで、まずは良かったと考えるべきでしょうね。
こうした訴訟を見ても、平素から自分の労働時間と言うものをきちんと把握し記録に残しておかないと、後日請求しようと思ってもダメだったということになりかねませんので注意が必要でしょう。
ちなみにこの訴訟に至る経緯も含めて「新小児科医のつぶやき」さんが詳しいですので、こちらに紹介しておきます。

 

奈良時間外手当請求訴訟(2007年4月16日記事)

 

未払い賃金云々以前にこうして当直が「時間外労働」と認められたと言うことは、当然ながら労働時間の制限に関して今まで以上に厳しい制約を科されたとも取れる話ではありますよね。
先の愛育問題では色々とお上から抜け穴指導があったりと言われていますが、こうして「実体的に労働をしている当直は時間外労働である」という判決が出てしまいますと話の前提条件にも修正が必要となってくるようにも思うのですがどうでしょうかね?
しかし最近思うのは、愛育の件で見られるように厚労省内部でも旧厚生系と労働系の確執?があり、また上記の記事のような医療行政と司法行政の見解の相違、あるいは厚労省と財務省の方向性の違いといったものもあり、このところの医療と言うものは本当に外圧によって右往左往させられてるなあということでしょうか。

当直料というのも昔からいろいろあって、例えば非常勤の当直バイト医にはひと晩で何万円も出しているのに常勤には数千円しか出さずに、しかもそれすらも「本給に含みます」などというふざけたことを相変わらずやっている施設も結構あります。
まあ医師という人種がそのあたりの労働条件に関して今まで非常にルーズであったことは確かで、せいぜいが年俸が幾らといったどんぶり勘定では「良く働く者ほど損をする」なんてことになるのも当然の道理ではありますよね(今の時代は良く働く=訴訟リスク増大とも言いますし)。
このあたりは全国の病院がこの判決を受けてなにがしかのリアクションをとってくるのかといった辺りが注目されるところですが、何より当事者である医師自身が自らの労働環境に対してもう少し意識を高めていくことが労働者としての義務ではないでしょうかね。

労働条件ということにも関連して最近もう一つ話題になっているのが、下記の産科医飲酒診療のニュースです。
実はこの記事もよくよくみると、医療と行政との関わり合いということで大きな意味を持っているらしい事例でもあるのですね。

宴席で飲酒後、お産取り扱い 周産期医療センター副院長(2009年4月20日朝日新聞)

 大阪府内の産科救急の中心的役割を担う石井記念愛染園(あいぜんえん)付属愛染橋(あいぜんばし)病院(大阪市浪速区)の60歳代の副院長が、飲酒後に病院で「臨時当直」としてお産を取り扱っていたことがわかった。緊急対応の必要がないのに病院に宿泊し、臨時当直手当を受け取っていたこともあった。病院側は「逆子など困難なお産があったときには自分が診たいという熱意の表れ」と説明するが、厚生労働省は「あまりに常識外れ」としている。

 朝日新聞が入手した資料によると、副院長は06年1月~07年5月に計214回、勤務表に「臨時当直」と記入し、署名していたが、病院関係の宴会に出た後、臨時当直をしたケースが十数回あった。このうち、少なくとも3回は正常分娩(ぶんべん)を取り扱った記録が残っている。宴会後に病院に戻ったものの、分娩記録のない臨時当直も10回近くあった。

 07年5月、産婦から「酒のにおいをさせた男性医師が赤ちゃんを取り上げた。飲酒運転より悪質ではないか」と病院に投書があり、病院側が実態調査していた。

 同病院は274床を備え、リスクの高い妊婦に対応する総合周産期母子医療センターに大阪市内で唯一、指定されている。年間分娩数は約1700件で、常勤の産婦人科医は8人。毎日1人が病院で当直し、緊急時に備えた自宅待機の「宅直」も1人いる。

 副院長は取材に事実関係を認め、「飲酒後でも心配な患者がいる時は病院に戻った。飲んでから自宅に戻ると、深夜に緊急の呼び出しがあった際、車を運転して駆けつけられない。飲んだ時こそ病院に泊まらざるを得なかった」と話した。調査結果が出た後、病院から厳しく注意され、禁酒を心がけてきたという。

森本靖彦院長は「副院長は酒も強いので酔わない。急患を助けるために仕方ない面もあり、飲酒運転のように法律違反ではない」と主張。処分などは考えていないという。厚労省医事課は「飲酒した医師に診療させてはいけないのは常識。法に定めがないのは、他に医者がいない場合の緊急避難的な措置を想定してのことで、通常ならあり得ない」としている。

 副院長は06年度、月平均12・7回の当直を務め、時間外・当直手当として計約1千万円を受け取ったとされる。07年9月に「当直は実態に合わせて月6回まで」と定めて以降は、急減したという。

 同病院は大阪府から、新生児集中治療室の増床など施設整備費として、04~05年度に計2億1730万円、08年度には総合周産期母子医療センターの運営補助費として、1158万円の補助を受けている。

他社の記事などを読み比べて見ますとずいぶんとニュアンスが違って聞こえる話なのですが、このあたり朝日新聞の立ち位置というものが見え隠れするような記事ではありますね。
ちなみにこの副院長先生、風の噂に聞くところによれば「腕は確かな人」なんだそうで、そうしたことから院長のコメントも妙に擁護的なのではないかなとも推測されるのですが、それよりも記事中で注目されるのが厚労省医事課の下記のコメントです。

「飲酒した医師に診療させてはいけないのは常識。法に定めがないのは、他に医者がいない場合の緊急避難的な措置を想定してのことで、通常ならあり得ない」

実はこの飲酒診療の件に関しては以前から医師法第19条に定められた応召義務で以下のように診療要請を断ることが出来る正当な自由「には含まれない」とされていました。

又、以下のような場合は、正当事由は認められていない
1.軽度の疲労,酩酊
2.診療費の不払い
3.休診日、診療時間外(但し上記3.参照)
4.診療の必要な場合の往診の求め

そんなこともあって飲酒時の診療義務に関しては「酒飲みが他人の命を預かるって常識的にあり得ないだろ」などと一部方面で長年議論されていたのですが、今回マスコミの皆さんが明確なお上の言質を引き出してくれたことではっきり結論が出ました。
今回「飲酒した医師に診療させてはいけないのは常識」と厚労省医事課のお墨付きをいただいたわけですので、全国の医師の皆さんくれぐれも今後飲酒診療など行わないようにお願いいたしますね。

ちなみに当直明けの医師は酩酊状態と同程度の判断力しかないとはっきりエビデンスが存在しますから、こちらも当然に36時間連続勤務などは患者の生命と健康を守る職場にあって行って良いことではありません
マスコミの皆さんも酒飲み医師が診療に当たるなどケシカランという問題認識を共有するに至ったのですから、当然それと同様の問題行動を日常的に行うなど言語道断であるとこの際一題キャンペーンを張っていただくべきではないでしょうか。
閉鎖的かつ旧弊に縛られた医療業界の暗部を白日の下にさらけ出し国民のためにより良き医療へと改善していくためにも、業界の壁を越えた広範な協力体制を構築していく必要があるんじゃないかと思いますね。

さて、昨日のネタでも第一の戦犯扱いだった財務省絡みで、その諮問機関である財政制度等審議会(財政審)のニュースが幾つかあるのですが、まずはこちら報酬絡みの件から紹介してみます。

医師の報酬格差、「原因は中医協」―財政審で意見(2009年4月21日CBニュース)

 財務相の諮問機関である財政制度等審議会(西室泰三会長)は4月21日、「医療提供体制の再構築」をめぐり意見交換した。財務省が提出した説明資料では、病院勤務医の「年収」と開業医の「収入格差」に約2倍の格差があるとしており、委員からは「格差が生じた原因は、まさに中医協の問題だ」「開業医より、勤務医の待遇が良い方が正常な姿かもしれない」などと、“格差是正”を求める意見が出た。

 財政審終了後の記者会見で西室会長は、社会保障について、今後2回にわたり引き続き審議する方針を明らかにした。財政審は、来年度予算編成に関する「春の建議」の素案を5月中にもまとめ、早ければ6月第1週に提出する見通しだ。

 この日、財務省が提出した「病院勤務医と診療所医師(開業医)の給与の比較」では、厚労省が07年6月に実施した「医療経済実態調査」のデータを基に、病院勤務医の「年収」を1415万円、個人開業医の「収支差額」を2804万円と試算し、両者に2倍の開きがあるとした。
 試算は、介護保険による収入のない医療機関の集計データのうち、同月分の病院勤務医の収入(118万円)と一般診療所の収支差額(234万円)を基にそれぞれ12倍した値。資料によると、開業医の収支差額は「保険診療収入等の医業収入から給与費や医薬品費等の医業費用を差し引いたもの」で、「主に開設医師の報酬となる」としている。
 この日の財政審では、「開業医と勤務医の報酬そのものに明らかに格差がある。格差が生じた原因は、まさに中医協の問題だ」「米国だと開業医の報酬が低いが、日本とは逆に開業医が不足している。米国では地方によって医療の事情が違うが、開業医よりは勤務医の待遇が良い方が、正常な姿かもしれない」などの意見があった。

 会見で西室会長は、「診療報酬の問題は、医療の将来に対する根幹の部分」だと強調。その上で、「今までの診療報酬の決め方について、中医協を批判すべきところはしっかりと批判していく」と述べた。

 一方、社会保障費の自然増のうち毎年2200億円を抑制する政府方針については、「現実的に考えて、2200億円の削減だけを金科玉条にするのが正しいかどうかも論議せざるをえない」と述べた。

まあ議論のソースとも言うべき「医療経済実態調査」の年収データなるものの数字も大いに異論があるところで、すでにあちこちから突っ込みが入っているのは御存知のところですよね。
一般的な傾向でいいますと常勤扱いになれば概ね一定額以上の年収というものが保証される勤務医に対して、開業医なるものの年収はそれこそピンキリですから(潰れた開業医は退場して統計に出ません)、数字としての平均を出すより年収分布でも見せてもらった方が実態が掴みやすいかなという気はしています。
またその勤務医にせよいい歳をして非常勤扱いなどという日雇い身分でコンビニのバイトより低い時給に喘いでいる人々も大勢いるわけで、しかもそうした人々ほどいわゆる高度な医療というものを支える現場に近いわけで、先のピンキリ問題と含めてそうした内部格差の方がはるかに大きく重要な問題なんじゃないかと思いますね。
そんなこともあって自分としては勤務医vs開業医という単純な対立の図式は現場の人間には何らの意義も意味も感じられないので、こうした数字を元に何かしら議論をしたいという人たちは財務省なり厚労相なりの代弁者なんだろうなと考えることにしています(苦笑)。

しかしそうは言っても世の中格差是正だのと言った言葉を聞けば思わず奮い立つというタイプの人も大勢いらっしゃるようで、「外国では専門医を一般医より優遇するのが当然なのに日本では逆になっている!ケシカラン!」という声も根強くあります。
今のどうも存在意義も意味もよくわからない専門医制度と言うものに実体を持たせるためにも専門医の診療に対してそれなりの割増料金を認めるようにするのもありだとは思うのですが、そうなるとひと頃色々な事情から好き放題量産されていた「なんちゃって専門医」の皆さん方にも不当な特権を認めていいのか?という話にもなりかねませんよね。
つい先日も「俺は大腸なんて一例もやったことないけど内視鏡専門医だぞ」と胸を張って言った大先生がいらっしゃいましたが、専門医制度なるものも妙に適当な権威付けをしていると後で余計に話がややこしくなる一例として後の世に語られることになるのかも知れません。

それはともかく、議論の流れの中で厚労省傘下の中央社会保険医療協議会(中医協)が諸悪の根源だ!みたいな意見がさらっと出てきているあたりには注目されるところですかね。
かねて言われることに厚労省はお馬鹿で無能で役立たずではなくて実は医療現場の実態も良く知っているのだけれど、毎回財務省にやられてしまっているだけなのだと言う意見も一部にはありました。
厚労省の評価の部分に関してはおくとしても、こうして実際に議論を見てみますと医療行政の実権をも握ろうと画策している財務省側の思惑というものが見え隠れしているようで興味深いですよね。

さて、同じく格差問題ということで、財政審ではもう一つのネタを提供してくれていますが、一見して上のネタと絡まないようで微妙に絡んでいるのかなとも思わされる話ではあります。

地方で不足、医師数格差4.6倍 財務省、診療報酬見直しも(2009年4月21日47ニュース)

 財務省は21日、都道府県ごとの医師数について、人口と面積を基準に算出した独自の指数を公表した。指数が最大で医師数が相対的に最も多い東京都と、最小の茨城県とでは4・6倍の格差があった。地方で医師不足が深刻な一方、都市部に集中しがちな実態が浮かび上がった。

財務省は、医師が不足しがちな地域への診療報酬を手厚く配分することで偏在を是正する見直し策を検討。与野党で高まる医療費総額の増額要求をかわす狙いもありそうだ。年末に予定している診療報酬改定に向けて厚生労働省などとの議論を本格化させる。

 財務省がこの日開かれた財政制度等審議会に提示した試算は、2006年度の都道府県ごとの医師数を全国平均を1として指数化。単なる人口比に比べ病院への距離なども反映されるため、利用者の実感により近い指数とみている。

 それによると、最大の東京は3・19で、続いて大阪2・43、神奈川1・53、福岡1・45、京都1・33と大都市を抱える都道府県が上位に並ぶ。一方、指数が低いのは茨城0・70、岩手0・74、青森0・74、新潟0・76、福島0・76などだった。

 へき地の医師不在に加え、産婦人科や小児科などの医師不足が深刻化しているものの、全国の医師数は06年度までの10年間で14・4%増加。地域格差だけでなく、診療科別でも精神科や泌尿器科など医師が比較的多い分野でさらに増える傾向があり、医師の偏在が拡大している可能性がある。財務省は診療科ごとに開業できる枠を設ける案も検討する方針だ。

茨城はこの件で医療業界内では一躍有名になったんじゃないかと思うのですが(苦笑)、こちらの記事中で注目すべきは「与野党で高まる医療費総額の増額要求をかわす狙い」と「財務省は診療科ごとに開業できる枠を設ける案も検討する方針」といったところでしょうかね。
普通に考えて医療支出を手控えてきたことが問題なんですから底上げをしていかなければならないんじゃないかなと思うところですが、さすが財務省ともなりますと金をあちらからこちらへと転がすだけで問題が解決できると読んでいるようです(苦笑)。
後段の医師の偏在云々も同じですが、別段相対的に多いからといってどこの病院であれ診療科であれ医師が余っているところなどないわけですし、先の診療報酬で手厚く改訂されたという産科や小児科が潤うようになったわけでもないわけです。
特に財務省が手厚く扱ってくださろうとしているらしい(苦笑)病院勤務医など病院全体で収支勘定はひとまとめな訳ですから、「○○科を手厚くした分△△科は削っていいよね?」なんて言われたところで現場にすれば意味が判らないという話ですよね。

診療科ごとの開業枠の制限というのも意図は何かしら見える気もしますが実のところよく判らない話であって、例えば今の日本で行われている「自由標榜制」との絡みをどうするかという疑問があります。
「眼科の定数は幾ら」と言われたら「それじゃアイクリニックならいいのか」なんてことを言い出す奴も必ず出てきそうですが、どうやってその制限に実効性を持たせるつもりなんでしょうかね?
本気で医師の偏在が気に入らないということであれば、医療需要の少ない割に医師需要の多い僻地において開業することに大きな補助でもつけるようにすればまだしも少しは意味のある施策になるんじゃないかという気もするのですが、記事を見る限りではそうした「増やす」方向での話というのは全くする気もなさそうな気配です(苦笑)。

そして何より診療報酬改定に反映だの後段の開業医枠の制限だのの話を見ていても思うのですが、何故に財務省風情が所轄官庁である厚労省の頭越しにこうした医療行政の細部に渡って口出しをしてくるんでしょうかね?
本当にこうした形で財務省主導の医療制度改革なるものが進められていくのだとしたら、確かに「諸悪の根源は財務省」と言うのも間違いではないのかなという気はしてくるところですが…

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2009年4月22日 (水)

今や日本の医療は草刈り場状態らしいですが…

先頃にも少しばかり取り上げましたが、どうやらレセプトのオンライン請求義務化のスケジュールがようやく確定しそうな勢いです。
医師会の方では例によって「先送りだ!我々の勝利だ!」なんてことを言っていた気配ですが、こうして見てみますと何と言いますか、実際上は何一つ既定の方針から変わっていないという感じですかね(苦笑)。

レセプトのオンライン請求、1年先送り可能に 厚労省が検討(2009年4月20日日経ネット)

 今月から薬局や400床未満の医療機関で義務化されるレセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求について、厚生労働省が1年間先送りできる省令案を検討していることが20日、分かった。3月末の閣議決定を“骨抜き”にする内容だが、同省は「オンライン請求の準備が間に合わない薬局や医療機関が予想以上に多い」と説明している。

 政府が3月末に閣議決定した「規制改革推進3カ年計画」ではレセプトのオンライン請求の完全義務化は2011年度から実施予定。段階的に実施しており、現行省令では昨年度は400床以上の病院、今年度はすでにレセプト作成を電子化している400床未満の医療機関と薬局が義務化の対象だった。

レセプトのオンライン請求義務化の背景に関しては色々と噂はありますが、少なからざる額の新規市場が国によって創出されたということには違いないようですよね。
かつて舛添厚労相と二階経済産業相が「医療分野へのIT技術投入」で意気投合したなんて話がありましたが、実際医療の外側から眺めてみるとそのあたりの状況がよく判ります。

不況?抵抗勢力?それでも伸びる医療IT化関連市場(2009年4月17日日本証券新聞)

超高齢化が進展している日本。医療の質を高めることはもちろんだが、可能な限りの効率化で医療費負担を抑制していかなければ、その先は財政破たんの文字がちらつく危険性。医療のIT化の流れは不可逆だ。

今年3月末、政府は医療機関のレセプト(診療報酬明細書)を2011年4月から全面オンライン化する方針について「地域医療の崩壊を招かないよう配慮」という文言を付与し、実施することを決めた。

主に高齢の開業医や僻地の医療機関などに対する義務化期限延長が、新たな文言の目的で、ある面では「骨太の改革」が推進してきた医療IT化を、医師会、歯科医師会などが強力なロビー活動で阻止した結果とも指摘される。こうしているうちに、隣国韓国では既に06年、レセプトの100%電子化を完了させてしまった。

それでも医療はIT化する。効率化による保険料上昇の抑制、不正やミスの撲滅、医療機関同士の情報連携など、IT化で被保険者や患者が享受する恩恵は大きい。すでに、賢明な医療機関は電子カルテの導入などから着実にIT化を進展させてきている。

現にIT専門調査会社IDC JAPANによれば、09年の国内IT市場は世界同時不況の影響から6年ぶりのマイナス成長、特に中小企業向けIT投資は抑制されることが予測されているが、中小医療機関向けIT投資は前年比3・9%増と、底堅さを示すことが予測されていた。

これを裏付けるかのように、ソフトウェア・サービス(3733・HC)の足元業績が好調だ。15日に発表した3月の月次売上高は前年同月比53・7%増の6億900万円、3月末までの受注残高も同97・1%増と急増。電子カルテで国内市場の15%を握る同社は、富士通やNEC、日立など大手の競合企業に引けをとらない存在感を示している。

一方、シーエスアイ(4320・東マ)も電子カルテ市場でのシェアが高いが、連結子会社で運営する別事業の不振が連結業績に影を落としており、株式市場ではソフトウェアサービスの方がより多くの物色人気を集めているようだ。

このほか、レセプト関連製品・サービスを中心に医療関連情報事業を展開、最近は「ジェネリック(後発薬)通知サービス」の利用拡大促進サービスで注目されているデータホライゾン(3628・東マ)も、医療IT化の流れで活躍余地が広がると期待されている。

先ごろ09年3月期業績予想を大きく上方修正し、新興市場の注目を誘った、特定健診や介護関連ソフトウエア開発のエヌ・デーソフトウェア(3794・JQ)などとともに、今後一段と注目を集めそうな銘柄群といえそうだ。

要するに、医療というものはすでに他業種にとって立派な飯の種になっているということですから、大不況の最中にこれはこれで大きな社会貢献として誇るべきことなのかなとも思いますけれどもね(苦笑)。

しかし診療報酬を抑制する一方で医療業界の金をこうして他業界に流出させるよう一生懸命政策的に誘導してきたわけですから、産業界主体でまとめられた「骨太の方針」などとも絡めてあまりにもあからさまな話とも感じられるところですが、世の中にはもっとあからさまな話というものもあるわけです。
かねて一部でささやかれていた「医療崩壊陰謀論」なるものにも通じるような話ですが、こちらの記事から紹介しておきましょう。

アメリカよ・新ニッポン論:第2部・改革の構造/6(2009年3月10日毎日新聞)

 ◆医療への市場原理導入
 ◇米の要求と符合か

 オバマ米大統領は5日、「今年中に包括的な医療保険改革を法制化する」と宣言した。米国には公的な医療保険制度がない。国民は民間保険に入るしかないが、人口約3億人の実に約4900万人が無保険者だ。保険に入っていても、保険料に応じ受けられる医療に大きな格差がある。

 クリントン国務長官は1993年、当時のファーストレディーとして国民皆保険制度創設を目指したが、失敗。今回は民主党政権による16年ぶりの再挑戦だ。

 「日本も米国のようになるのではないか」。01年以降、急速に進む日本の医療制度改革に対し、米国の医療崩壊を引き合いにした懸念の声がやまない。「混合診療」解禁も焦点の一つ。保険が適用される診療と保険外診療(自由診療)の併用を認める改革だが、「金持ちは高価な保険外治療も受けられるようになる半面、所得が低くて民間保険に入れない患者との格差が生じる」と心配された。

解禁の旗振り役は、小泉改革の「推進エンジン」だった経済財政諮問会議と総合規制改革会議の学者や経営者のメンバーたち。「日本もバリュー・フォー・マネー(=金に見合った医療サービス)の方がいい」という意見が非公式の場で盛んに飛び交い、厚生労働省や医師会は猛反対した。

 第2次小泉改造内閣が発足した04年9月。官邸に呼ばれた尾辻秀久厚労相(現自民党参院議員会長)は、小泉純一郎首相から課題を列記した紙を手渡された。「混合診療の解禁」とあった。「他の指示は抽象的で、これだけが具体的だったので違和感を持った」(尾辻氏)。規制改革担当相に任命された村上誠一郎衆院議員の紙にも「混合診療を今年中に解禁」と書かれていた。

 3カ月後、両相は混合診療解禁で基本合意する。「包括解禁」は見送られたが、それまでも例外的に併用を認めていた「特定療養費制度」を拡充する妥協案で一応の決着をみた。

 関係者は「小泉元首相に国民皆保険制度を破壊する意図はなかった」と口をそろえるが、医療制度改革は小泉政権発足を境に進み、その歩みは、米国側が日本に規制緩和を求めた軌跡と奇妙に符合する。

 01年の年次改革要望書で、米政府は日本の医療分野に市場競争原理を導入するよう要求。同年と翌02年、在日米国商工会議所は株式会社による病院経営を認めるよう迫った。混合診療解禁は、米国が投資環境の改善を目指して示した04年の「日米投資イニシアチブ報告書」にある。小泉首相が閣僚に指示した年だ。

 この間、日本は02年と03年に保険診療における患者の自己負担を引き上げて医療費の抑制を図り、04年には混合診療や病院の株式会社経営を限定的ながら容認するなど、次々と改革を実行してきた。これが、「小泉改革は米国流のお仕着せだ」という批判の「状況証拠」とされている。

 米国自身がもがいている医療崩壊の道を、なぜ日本がたどろうとするのか。小泉元首相は「米国の代弁者」だったのか。

アメリカよ・新ニッポン論:第2部・改革の構造/7(2009年3月11日毎日新聞)

 ◆医療制度めぐる国内対立
 ◇ナショナリズムと呼応

 「テロより怖い、医療問題」。米国の医療崩壊を描いて反響を呼んだマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「シッコ」(07年)が、日本で公開された時の宣伝コピーだ。

 日本医師会は一部組織などで自主上映会を開き、医療制度改革への危機感を訴えた。当時の副会長、桜井秀也医師は「改革の背後に米国の影響があったのは間違いない。米政府の言われるまま、質の悪い米国医療を日本に取り入れるのはおかしい」と憤る。

 ただ、「米国の圧力が改革を強制した」直接の因果関係は今も証明されていない。むしろ改革をめぐる日米関係には、別の特徴も見られる。米年次改革要望書は1994年から始まっていたが、医療制度改革の要求は01年までほとんど見当たらず、同年の小泉政権成立を境に目立ちだした。

 「最大の動機は財政再建だった。制度を変えることにより、結果的に歳出を減らそうとした」。財務、厚生労働両省の幹部は、そう解説する。バブル崩壊後、橋本政権の「6大構造改革」が挫折し、続く小渕・森両政権は空前の「バラマキ」を行った。小泉改革はこれにブレーキを掛け、方向転換した。最大の歳出分野である社会保障費の大幅削減は、誤った政策のツケを払う国内の財政上の要請が、まず先にあったのだ。

 「医療分野への市場原理導入」を声高に唱えたのは、経済財政諮問会議や総合規制改革会議の学者、経営者たちだったが、財務省が便乗し、後押ししなければ、制度改革が次々に実行に移されるのは難しかった。

 「霞が関では以前から制度改革を検討していた。米国の要求は、日本で政策が変わる可能性が出てきたのを見て言い出しただけ」(厚労省幹部)。国内では圧力団体や決断しない政治のために自己変革を言い出せず、米国も事情を知っている。待ったなしで財政再建が始まり、方策として医療分野の規制緩和が行われる流れとなって米国の要求も始まった、というのだ。

 それを改革反対派が「米国の圧力」と難ずる理由を、総合規制改革会議の元委員で医師会と対立した八代尚宏・国際基督教大教授は「国民のナショナリズム心理に響くから」とみる。八代氏は、米国人医師の日本での開業に反対する医師会幹部が「国益に反するから」と主張したのに驚いたという。

 「60年代の反米・反安保以来、米国を持ち出すと効きやすい土壌が日本にはある。でも、ナショナリズムは多くの場合、既得権を守りたい立場の裏返しだ」

 財政悪化で国力衰退を実感するほど、世論はナショナリズムへ傾きやすい。小泉純一郎元首相も靖国神社参拝で同じ大衆心理を利用した。

 経済財政諮問会議のメンバーだった本間正明・近畿大教授も「現状を変えようとなると、日本と最も異質な典型例として米国を持ち出してくる」と苦笑する。

 改革に伴う利害の不透明さは、米「圧力」の有無を持ち出すまでもない。総合規制改革会議の元議長で混合診療解禁を主張したオリックスグループの宮内義彦CEO(最高経営責任者)は、02年1月26日号の雑誌「週刊東洋経済」で「金持ちでなくとも、高度医療を受けたければ、家を売ってでも受けるという選択をする人もいるでしょう」と述べていた。解禁が民間保険のビジネスチャンスだったのは間違いない。オリックスのグループ会社は医療保険も手掛けている。郵政民営化の「かんぽの宿」問題と似た図式が透ける。

 「外圧」論は、しばしば本質をぼやけさせる。元厚労省局長で社会保険診療報酬支払基金理事長の中村秀一氏は言う。「米国の陰謀説を言えば楽だし、市場原理主義のせいにすれば皆納得するけど、医療制度の問題は解決しない。そこに建設的な提言はない」

 ある医師会幹部は「皆保険という麻薬を吸ってはいけなかった」と漏らした。厚労省幹部は「裕福な人からは多くの金をもらって治療し、貧しい人は無料で診て感謝されるのが医師のあるべき姿なのに、皆保険制度に縛られているのは自己矛盾だという意味でしょう」と解説する。

ここいらでもオリックスというのがまた笑えてしまうところではありますが、田舎病院一つまともに運営できない方々が寄ってたかって医療制度改革の名の下に医療崩壊を推進してきた歴史的経緯が分かり易すぎて素敵です。
昔から「下手の考え休むに似たり」なんてことを言いますが、休むと言うよりもむしろ悪い方向へ全力で後押ししているんじゃないかと思えるような話ではありますよね。
その「下手の考え」のもう一つの結末として、こんな話もあります。

健保組合92%が赤字見通し 総額6000億円マイナス(2009年4月10日47ニュース)

 健康保険組合連合会(健保連)は10日、大企業の社員や家族計約3000万人が加入する全国の健康保険組合の2009年度予算を集計し、1485組合のうち92%に当たる1360組合が赤字になるとの見通しを公表した。赤字組合は08年度より26組合増え、全体に占める割合は約3ポイント上昇して過去最悪。

 赤字総額は、過去最大を見込んだ08年度予算から19億円減の6152億円と横ばい。前年度に赤字が大きく膨らむ要因となった高齢者医療向けの拠出金負担は受診の伸びの鈍化などで約700億円減少したものの、不況で加入者の給与や賞与が低下して保険料収入が500億円近く減ったことなどが響いた。

 既に187組合が保険料率(平均7・4%)を引き上げた。健保連は「実体経済の悪化で定期昇給を控えたり残業を減らす企業が増えており、さらに厳しくなるかもしれない」としている。

 今回の見通しは、予算の報告があった88%の組合のデータを全組合に当てはめて算出した。

 健保組合から高齢者医療向けの拠出金は、08年度から高齢者医療制度が変わったことで負担が急増。同年度中には西濃運輸など14組合が、本年度も4月1日付で8組合が解散した。09年度の拠出金総額は前年度並みの約2兆7500億円で、保険料収入の45%の見通し。

「2年連続未曽有の巨額赤字」-健保連(2009年4月11日CBニュース)

 健康保険組合連合会(健保連)は4月10日、健保組合の今年度の経常収支の赤字額が6152億円と、過去最大ととらえていた2008年度とほぼ同水準の大幅な赤字となるとの推計を発表した。経済危機の影響を受け、被保険者の給与・賞与が下がり、さらに厳しい状況になるとみている。対馬忠明専務理事は記者会見で、「08年度が過去最悪の赤字と申し上げてきたが、非常に残念ですけれど、2連続の未曽有の巨額赤字というのが現在の健保組合全体の集計結果」と語った。

 推計は、健保連に加入する1485組合のうち、今年度の予算について報告のあった1304組合の数値を基に行われた。
 加入組合全体の赤字額は、08年度とほぼ同水準の6152億円に上る見通し。赤字組合は08年度からさらに拡大し、全体の91.56%、1360組合になると推計した。全体の組合数は17組合減少するとした。
 また、平均標準報酬月額は08年度予算とほぼ同水準だが、平均標準賞与額は9.47%減と大きく減少した。対馬専務理事は昨今の経済・雇用状況を反映したものとしながらも、「実態はもっと厳しいのではないかと憂慮している」と述べた。

 また保険料率は、前年度比0.046ポイント増の平均7.412%で、協会けんぽの8.2%を超える組合は241組合(18.5%)。対馬専務理事は「協会けんぽを超えると、事業主あるいは被保険者に対して、さまざまな説明を求められる。説明して納得していただけるか」などと語った。

 対馬専務理事はさらに、「後期高齢者支援金」「前期高齢者納付金」の負担の大きさを指摘。今後も、厳しい経済状況の中、高齢化により支援金・納付金などによる負担が増加すれば、さらに組合財政は厳しいものになるとして、「医療制度改革が当然望まれる」と強調した。

「非常に残念ですけど、2連続の未曽有の巨額赤字」というのは良かったですが、これも以前に書きましたように元を辿れば国が公費支出を削減しようと健保組合に肩代わりさせることを画策したことから発生した話です。
高い負担に耐えかねて企業の健保組合が潰れ、その分の被保険者達が社保疔の運営する政管健保に移行するという話になりますと、結局今まで企業が支えてきた分も国庫負担に回ってくるという意味のない話になってしまいますよね。
国民の目から見ると何とも馬鹿馬鹿しいとしか言いようがないことですが、これも国にすればまた医療費亡国論のソースとして医療費抑制政策のネタに使えるわけですから、「一粒で二度美味しい」とはこのことかと高笑いが止まらないのかも知れません。

日本は極めて高度に医療技術が進歩していると言う点で医療先進国ですが、その最先端の医療をどんな人間でも安い負担で好き勝手に利用して良いというフリーアクセスを維持している点でもかなり特殊な存在だと思います。
よく「年寄りを家で介護しているより病院にでも入れておいた方が安心だし、何より安上がりでいい」なんてことを言いますが、何度担当医が書類送検されようが未だに安楽死、尊厳死といった議論が一向に盛り上がらないのも人工呼吸器をつけっぱなしだろうが「先生もうやめてくれ!俺たちが首を吊らなきゃならなくなる!」なんて家族が心配しなくてもいいからだと言う一面もあるわけですよね。
フリーアクセスかつ応召義務の存在、訴訟リスクなどなどもあって医療機関側とすれば来た患者には「やれることは全て」という濃厚な治療をやらざるを得ないという社会的背景があるわけですから、「やればやるほど赤字にしてやればいずれ勝手に止めるだろう」なんて方向での医療費抑制政策などハナから無理があるのです。

煙草の箱にすら物騒な警告文が書き込まれているような時代に、これだけ医療費は抑制しなければと大騒ぎしているわりに「医療機関の無駄な受診は控えましょう。あなたの自分勝手な行動が医療財政を破綻させ、医療現場を崩壊に追い込んでいます」なんて政府公報の一つも出さない。
それならそれで医療という産業をいっそ大きく育て、医療費を通じて広く社会に金を流すという体制でも目指せばいいのにとも思うのですが、相変わらず「医療に投じる金=死に金」という公式見解を堅持しているように見える裏で一部の企業にだけ甘い汁を吸わせようとしているのかとも勘ぐられるような状況がある。
別に陰謀史観に与するわけではありませんが、やっぱりそれって何か変じゃないかという気はするんですけども、これも何かしら凡人には窺い知れないような深慮遠謀でも背後に存在しているということなのでしょうか?

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2009年4月21日 (火)

医療と行政との至って小さな関わりあい

最初にお断りしておきますが、今日の話題は天下国家のことなど縁遠い至って小さな話です。
さて、先日もお伝えしましたように、市立病院の休止問題を巡って住民投票が行われ市長が失職した銚子市で出直し市長選が行われることになりました。
この候補者というのが元市民病院医師あり、失職した前市長あり、リコール推進団体擁立の候補者ありでなかなか面白そうな顔ぶれになっているようなのですね。

候補者乱立の様相 失職の岡野氏ら出馬へ 銚子市長出直し選/千葉(2009年4月17日東京新聞)

 銚子市立総合病院の休止問題でリコール(解職請求)が成立し、岡野俊昭前市長(63)が失職したことに伴う出直し市長選は、十七日で投開票まで一カ月となる。岡野氏と元市長の野平匡邦氏(61)は十六日、相次いで立候補を正式表明。両氏は前回市長選で、市議の石上允康氏(63)を交え、三つどもえの選挙戦を展開した因縁の関係だが、互いに病院再開に努力すると明言した。

 市長選には両氏に加え、石上氏も立候補する見通し。リコール運動を進めた市民団体「『何とかしよう銚子市政』市民の会」代表の茂木薫氏(58)、元同病院医師松井稔氏(45)も既に立候補を表明している。ほかにも立候補を目指す動きがあり、五人前後の候補者が乱立する激しい選挙戦となりそうだ。

 岡野氏は市役所で記者会見し、「リコール運動で混乱だけが残り市は大変なダメージを受けた。市が進める公設民営での病院再開は私の下でしかできない」と述べた。

 約二万人が解職に賛成したことには「一番病院を残そうと努力したのに、『つぶした』と言われたことはショックだった。過去どれだけ誠実なことをやってきたか見てほしい」と力を込めた。

 一方、野平氏は市内の後援会事務所で会見し、「全力で対応できる自信がなければ前回の雪辱戦というだけになってしまう。病院の再開は困難だが、不可能ではないと感じたから立候補を決意した」と語った。

 経営協力の可能性がある医療組織の代表と話し合い、再開協力に好意的な感触を得たという。経営形態などは協力先の希望に合わせ、医師中心の委員会を設置して協議するとした。

しかしほんとに、市政の舵取り役を決めるべき選挙がこんな病院の話ばっかりでいいのかと思うくらいに病院一色な選挙戦になりそうですよね。
まあ実際のところ誰が市長になったところで元のような形での病院再開というのはほぼ不可能ではないかと思われるところではありますから、むしろどのレベルまで縮小し、それをどう市民に納得させられるのかといったあたりが当選後の課題になりそうな気もしますけれどもね。
しかし下手をすると、当選早々また公約違反で再選挙なんてことになるんじゃないかという気もしないでもないのですが…

それはさておき、同じく病院問題と市長選絡みの話題と言うことで、このところ県立病院に残業代不払いでお上の捜査の手が伸びたとか、市立病院の診療制限には根拠がないと患者から訴訟を起こされたとかで何かと話題の滋賀県からも記事を紹介してみましょう。
こちらも今や地方自治体において医療問題が重要な政策上の争点となっていることを示す話ですが、今回は記事そのものの内容よりも、下の方の市民の皆様方のコメントにご注目いただけると幸いです。

’09市長選:城下町・彦根は今/中 診療制限18科中5科の市立病院 /滋賀(2009年4月16日毎日新聞)

 ◇赤字体質、脱却は多難

 「(湖東医療圏は)県内で最も受け入れ態勢が整っていない。やめた方がいい」。湖南地域の総合病院で受診していた30歳代後半の初産を控えた女性が彦根市での里帰り出産を医師に相談したところ、こんな助言を受けた。彦根市立病院は02年に移転新築したばかりだ。女性は「なぜ、そんなに評判が悪いの」と耳を疑った。

 市立病院では、3人いた産婦人科医が1人になった07年4月から分娩(ぶんべん)を休止。昨年2月、県内初の院内助産所を開設し、2人目以上のお産で通常分娩が可能なケースに限って出産に対応することにした。医師1人と助産師16人の体制だ。その後、県から医師2人を派遣してもらい、常勤医師1、非常勤医師2人になったものの、医師による分娩は休止のままだ。

 同病院では、常勤医師1人の神経内科が06年9月から、非常勤医師1人の心療内科が07年7月から、それぞれ予約患者のみを診療。常勤医師5人と非常勤医師2人の整形外科は昨年1月から、紹介状持参の初診患者と過去5年以内に受診した再診患者に限って診療し、常勤医師2人の歯科口腔(こうくう)外科は紹介状持参か院内他科からの紹介に限定して医療を施している。18科中5科が何らかの診療制限をしている状態だ。

 歯科口腔外科で紹介状がないことを理由に診療を断られた男性は「診療制限は根拠がない」などとして、病院と市長を相手に訴訟を起こしている。

 患者も減った。03年度には延べ患者数が入院14万3823人、外来33万9730人だったのが、07年度は入院13万4815人、外来28万6592人に減った。470床ある病床の利用率も、03年度の89%が07年度には78%になった。収支も、03年度は9億3690万円だった赤字が07年度には12億2000万円に拡大し、累積赤字は約85億円に膨らんだ。

 病院は一定基準の高度医療を有すると認められる「日本医療機能評価機構」の認定を受けるなど特色作りと、市民に必要な医療供給体制の持続、3年後の赤字体質脱却を目指す改革プランを作成したが、前途は不透明だ。

 ■彦根市民の声

◆城町2、無職、門脇信雄さん(61)

開業医の紹介状がないと受診できない市立病院では心もとない。市民は仕方なく他の医療機関にかかり、市立病院の患者は減る一方と聞く。こんな状況が続けば、赤字は増え、市民の負担はかさむばかり。根本的な立て直しが急務だ。

 ◆日夏町、主婦、成宮聡子さん(34)

ばく大な投資をして改築した市立病院で5科も診療制限とは信じられない。「医師不足だから仕方がない」と言うだけでなく、医師や看護師を確保し、患者や医師にも魅力ある病院にしてほしい。

◆大藪町、蒔絵師、舟越丈二さん(38)

 市立病院は設備は一流だが、使いこなせる医師がいないとよく聞く。他の行政サービスの低下に市民が我慢できるのなら、予算をもっと病院に回し、志のある医者を集めてはどうか。

いや、志のある医者を集めることには大いに賛成なんですけどね(苦笑)。
ちなみに彦根市民病院といえばあの掲示板が炎上したことで一躍名を馳せた「彦根市民病院での安心なお産を願う会」でも有名なところです。
同会の掲示板の内容は「勤務医 開業つれづれ日記」さんでもご紹介いただいておりますが、釣りでも何でもなくこんな感じであるということにご留意ください。

■彦根の方々のご意見 「彦根市立病院での安心なお産を願う会」 掲示板(2007年1月31日記事)より抜粋

「一彦根市民ですが、彦根市民病院での安心なお産を願う会が、医者におもねり全国で多発している殺人にも等しい医療ミスを促進するのではないかと危惧しています。
彦根市民は日本の医者のほとんどを占めている金儲け主義のヤブはいらないのだ
という当初の設立の気持ちを失わないでいてほしいです。」

「一彦根市民です。儲けようと思ったら給料の安い公立病院には来ませんよ。 私から見れば
今の市民病院でも医者に給料を払い過ぎです。半分以下にすれば私たちの医療費も安くなっていつでも気軽 にかかれるようになるので、
この会の方々もぜひそういう方向で運動して下さい。
それと私はこれまで勤務していた産婦人科医も、今勤務している医者も全く信用していません。
私の周囲の女性達も皆そのように言っています。私たちの市民病院はもっと一流の医者を雇うべきだと思います。これも会の皆さんに強く訴えてほしいと思っています。」

「私も彦根の人間だけど、
市民病院の医者が信用できないのは市民の誰もが思っていることというのは事実です。
産婦人科も同じ。もっと金や自分のことを考えずに腕のいい医者を求めることはそんなにおかしいことなのですか? ここには自分たちの利益ばかり主張する医者の書き込みだかりで悲しみと怒りがわいてくるばかりです。会の皆さんはこういう自己中の医者連中とこれからも戦い続けて彦根市民の健康を守る役割をはたしていってください。応援しています。」

「彦根市民病院のひどさは本当に市民でないとわからない。
私はいったん今いる医者を全員首にして、
改めて新たに私たち市民の目線で雇った医者で新市民病院を立ち上げるべきだと考えています。
今残っている産科医を一刻も早く首にすればむしろしがらみのない施設として医者も雇いやすくなる。
会社と同じです。」

「皆さん冷静になってください。忘れてはいけないのは
これまで居た医者達はどうやら京大の医師の中でも底辺層だという事です。
彦根の住みやすさや医師を取り巻く環境を向上させて、本当に能力と人間性の優れた医師を派遣して頂けるよう歩み寄りをする必要があるのではないでしょうか? 医者が憎いだけ、という運動ではないのです。
さもないと大津の低レベルな私立大学から能力、人間性ともにさらに劣った医者が派遣されて彦根の医療が壊滅してしまう恐れがありますよ。」

「医者が憎いわけではないが、患者を殺しておいて反省のかけらもない医者、自分が楽をしたくて逃げ出す医者の罪を不問にふしてはいけないと思います。
反省を求め、謝罪させ、そのうえで彦根の医療に貢献したいという医師なら歓迎ですが。」

彦根で働かして欲しいなら、きちんと地元の人に挨拶して己の分限を弁えて欲しい。
自分が仕事をもらう立場であり、雇用主は地元住民であることを理解できることが必要。彦根の人々に生かされていること、自分が余所者であり、新参者であることが理解できること。つまり、地元の人々の意向が最優先されること、余所者のくせに自己主張をしないこと。このような最低限度のモラルが求められる。いままでの医者はこの程度すら出来なかった。」

まあ、私としても「勤務医 開業つれづれ日記」さんにならってコメントは差し控えたいと思いますが…
外野からの素朴な疑問として考えましてもそうまで市民病院に不満があり、なおかつ赤字がかさむのは嫌だと言うならさっさと潰してしまった方がそれこそ話が早いのではないでしょうか?
現実問題として他にかかれる医療機関もあるわけですから、何も善良なる大多数の市民にとって市民病院の存在が絶対必要不可欠というものでもありますまい。
まあそれこそよほどレベルが低くて他の医療機関においては使い物にならないようなスタッフばかり抱え込んでいると言うことであれば、何も少なからぬ市民の血税を投じて彼らの雇用安定を図る義務もないのではないかなと思うのですよね。

彦根市の問題は市長選における市民の選択によっていずれ明確な結論が示されるのではないかと愚考いたしますが、確かにこのところ地方行政における医療問題の比重は増す一方とも感じられます。
これについて最近こんな記事が載っていましたが、まずはこの記事をそのまま一読ください。

伊藤忠商事会長・丹羽宇一郎 医療難民は政治の貧困(2009年4月15日Business-i)

 ■病院勤務医の待遇改善が急務

 厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によれば、2006年末現在の日本の総医師数は約27万8000人。2年前に比べて2.8%増加し、過去最高を更新した。しかし、国際レベルでみれば、人口10万人当たりの医師数は217.5人にすぎず、OECD(経済協力開発機構)加盟30カ国のうち下から4番目で、きわめて少ないというのが現状だ。

 ◆根源は「医療費亡国論」

現在の医師不足の根源は、厚生労働省が打ち出した「医療費亡国論」にその一端がある。また1986年、「95年を目標に医師の新規参入を最小限10%削減する必要がある」とする検討委員会の意見書が出され、これに基づいて文部科学省は医学部定員の削減を進めた。

 “医療亡国”ともいえる現在の医療問題は、患者や国民への配慮を欠いた政治の貧困に根ざしている。

 現在の重要な問題の一つは、診療科や地域によって医師の数に大きな偏在が生じていることだ。

 例えば2006年実績で、産科・産婦人科は1996年比12.1%の減少、小児科も10.8%減った。内科はほぼ横ばいだが02年と比べると3.6%減少した。アレルギー科や美容外科の医師数が1.3~3倍強の伸びを示す一方で、直接命にかかわる恐れのある小児科、産婦人科・産科、内科医の医師不足が深刻化している。

 医師の偏在をもたらす大きな要因の一つが、日本医師会の医師賠償責任保険の問題だ。2003年末現在で139億円の累積赤字を抱えているうえ、高額の賠償訴訟を念頭においた設計がされていない。一方で、医療過誤の損害賠償請求は1億円を超えるケースが増えており、このままでは同保険はいずれ破綻(はたん)する。このため保険料の値上げは差し迫った課題だが、その場合、今度は医療訴訟リスクの低い医師が加入(現在の加入率約4割)を辞退することが予想され、保障制度の不備から、訴訟リスクの高い医療に従事する医師のなり手がますますいなくなるという事態に直面する。

 それによって生まれるのは、医療難民だ。医療難民は、政治の貧困が生み出す、ということを政治家はしっかりと自覚しなければならない。

 ◆長時間勤務を余儀なく

 医師のなかでも、とりわけ一般病院の勤務医の多くは、医師不足から連続して30時間を超えるような長時間勤務を余儀なくされるなど、過酷な状況で働いている。平均年収(約1400万円)も個人開業医の半分程度という。労働環境、収入、医療訴訟対応への不安から、一般病院の勤務医が、よりリスクの少ない、安定した職場へと移っていくことは避けられない。そうした事態を回避するためにどう対策を講じるかを考えるのが、政治の責任だ。

 政府は緊急医師確保対策として、09年度までに国公私立合わせた医学部の定員を年間最大約700人増やす方針を打ち出した。長期的な対策も大事だが、政治として取り組まなければならない喫緊の対策はまず小児科、産科・産婦人科、内科、外科などの医療現場で働く病院勤務医の待遇をよくし、過酷な労働環境の改善を図ることだ。

 ◆地域に応じたきめ細かな対策

 地域においても、過疎地などで、助産師や看護師が患者に応急措置などを施すことが可能になれば、これらの経験を積んだ人が故郷に帰り、地元の医療相談も含め、仕事をすることができる。それが医師不足や地域住民の不安の解消にもつながる。

 地域の状況に応じたきめ細かな対策は、地元の各都道府県に責任をもたせる形で任せるべきである。地域によって実情が異なるのに、地方を信頼せず厚労省が全国一律に指図するところに問題の根源がある。具体的な取り組みは自治体に委ね、その費用を国が保障する。地方分権を、もっと強力に進めないといけない。

一見すると「医療の現状は国政の失敗に基づくものであり、政府は直ちにこれに対処しなければならない」といった内容に思える記事です。
しかし何故か末尾の丹羽宇一郎氏のプロフィールを見ますと、「経済財政諮問会議」の議員であったという前歴が省略されているようなのですね。
経済財政諮問会議と言えば例の「骨太の方針」なるものに示されるように、「聖域無き構造改革」を旗印に医療費抑制政策を強硬に主導し現在の医療現場の状況を創出してきた主役格とも言える方々ですよね。
何と言いますか、かの朝日新聞社が珊瑚保全を訴えるくらいに素晴らしいものを感じてしまうのは自分だけでしょうか。

と言うわけで今日の結論: お前が言うな。

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2009年4月20日 (月)

愛育病院関連の話題、さらに続報

先日に続いて愛育病院関連の話題でいくつか興味深い記事が出ていますので、まとめて紹介しておきましょう。
まずは医療問題で積極的な取材を続けている東洋経済の記事から取り上げてみます。

深刻化する周産期医療、愛育病院の指定返上騒動で浮き彫りに (2009年4月16日東洋経済)

 愛育病院は3月下旬、「総合周産期母子医療センター」の指定返上を東京都に申し出た。総合センターは、飛び込みや容体急変などハイリスク出産を24時間365日受け入れるセーフティネット。愛育病院は港区など五つの区を受け持っている。

 皇室とのゆかりが深い愛育病院は、秋篠宮妃紀子さまが出産したことでも知られる。設備の整った名門だが、3月中旬に医師の勤務条件について三田労働基準監督署から是正勧告を受けた。労働基準法に基づく労使協定を結ばず、超過勤務が行われていた。

 実際、メインの夜間勤務が可能な勤務医は5人で、1回16時間の当直勤務をこなすと「超過勤務は月44時間まで」と定める国の基準を上回る。是正勧告に応じるには医師の労働時間を減らす必要があり、総合センターの態勢が確保できないと判断した。中林正雄院長は「全国の総合センターに対し、月60時間程度の超過勤務を認めるのが現実的」と訴える。都の「周産期医療協議会」のメンバーも務める中林院長の発言力は大きく、今後の周産期医療のあり方を左右する可能性もある。

医師の確保に懸命

 産科医不足は今に始まった問題ではない。中でも総合センターの産科医は激務を強いられる。20代の産科医の5割以上は女性が占めるため、出産などで一時的に夜間勤務ができなくなるケースも多い。

 昨年10月、総合センターの墨東病院(墨田区)で起きた、いわゆる妊婦たらい回しも産科医の大量欠員が原因だった。指定返上の話が出たが、墨東病院がなくなれば都の東部地区は壊滅状態に陥る。地元の要請もあり、何とかセンターを継続している。

 国も対応策として医学部の定員増などで底上げを図るが、産科医不足が今すぐ解消できるわけでもない。このため愛育では「基準を超える超過勤務について待遇を手厚くしている」(中林院長)。当直料の相場は2万円程度だが、3万~6万円を支払ってきた。急増する女性医師に対しても「5年後、10年後を見越して、子育て中の当直を免除する」(中林院長)と医師確保に懸命だ。

 一方で固定給与の都立病院は賃金面での対策が難しい。たとえ柔軟な手当てができても、激務はバーンアウト(燃え尽き症候群)を招く懸念もある。労働基準の見直しは両刃の剣になりかねない。

 都は愛育に対し、総合センター継続を要請している。4月上旬の協議会で超過勤務の見直しが示されれば、愛育も継続を検討する方針だ。周産期医療の要である愛育の“返上”問題は、深刻化する医師不足を改めて浮き彫りにする格好となった。

労基署を初め関係省庁の思惑は未だにややはっきりしないところもありますが、「あの愛育が」という点では一罰百戒的な効果があったことだけは間違いはないようですね。
後は物理的に対応困難と開き直る気配を見せている一部病院が今後どのような対応策を打ち出してくるかに関心が集まりますが、下手をすると施設間での産科医待遇格差拡大がさらに進行し医師の大量移籍を招く可能性もあるのではないでしょうか。

さて、前回も取り上げました一連の経緯の裏側につきまして、なかなか興味深い「ロハス・メディカル」さんの記事を紹介いたします。

なぜ愛育病院は「総合周産期母子医療センター」返上を申し出たか(上)(2009年4月9日ロハス・メディカル)

 3月末にメディアを賑わせた恩賜財団母子愛育会・愛育病院(東京都港区・中林正雄院長)の「総合周産期母子医療センター」指定返上騒ぎ。労働基準法違反に対する労基署の是正勧告に端を発しているとは言え、唐突さに驚きを隠せない医療関係者がほとんどだった。だが取材を進めてみると、単なる偶発の騒ぎでは済まされない事情が見え隠れする。(熊田梨恵)

現場へ届かない補助金

 事の発端は、愛育病院が今年1月20日、所管の三田労働基準監督署から医師の時間外労働について36協定を結んでいなかったなど労働基準法違反に対する是正勧告を受けたことだ。他病院に比べて労働条件に恵まれた同病院が是正勧告を受けたことで、周産期医療界に動揺が走った。

 しかしこれ自体は特筆すべきものではなかったとの説がある。関東圏の労働基準監督署の職員は「病院が労働基準法違反の状態であるなんて周知のこと。いますぐそれが改善されないということはこちらも分かっているが、見逃しているわけにはいかない。だから、あくまで『指導』という形で、『今後の改善を求める』という意味をもって立ち入り調査をし、是正勧告をする。今まではなんとなくそうして『大人の解決』を図ることですんでいたので、今回愛育病院がこんなに騒がれているのがよく分からない。『総合』の指定返上が絡んでいるからかもしれないし、愛育病院への是正勧告の情報が外部に漏れたということ自体、何かの思惑あってのことかもしれない」と話す。

 現に、3月13日には東京都渋谷区の日本赤十字社医療センター(幕内雅敏院長)も、36協定を締結していなかったことや時間外労働時間に対する割増賃金を払っていなかったことなどを理由に、労働基準法違反で是正勧告を受けている。こちらは東京都が3月末に鳴り物入りで始めた、救命処置が必要な重症な妊婦を受け入れる「スーパー総合周産期センター」の1つ。もっと大騒ぎになってもおかしくなかったが、指定返上の動きなどは起きていない。
(略)
 医師や看護師の労働問題に詳しい松丸正弁護士(過労死弁護団全国連絡会議代表幹事)は、「日本の医療現場は、医療と医療従事者のどちらが先に壊れてしまうか、というほどの矛盾をはらんでいる状態」と指摘する。

 このため、違法状態には目をつぶって少しずつ労働条件を改善していこうという取り組みが一般的だ。日本産科婦人科学会産婦人科医療提供体制検討委員会の海野信也委員長は、「まずは実態を把握することが大事で、学会では産婦人科勤務医の在院時間調査などを行ってきた。目指す待遇改善も分ってきたところだったので、勤務管理を考える段階に移ろうとしていたところ」と話す。同学会は昨年秋に、産婦人科勤務医の在院時間調査を舛添要一厚生労働相に提出するなど、周産期医療行政の質の向上とともに、労働環境の改善も求めていた。また、同学会や、日本産婦人科医会産婦人科医は、勤務医の労働環境の改善をするため、労働環境についての調査を行い、会員内で情報を共有することで改善しようとするなどの努力も行ってきた。

 だから労基署の方も、予定調和的に是正勧告したとの声があるのは先ほど紹介した通りだ。だが、愛育病院は「大人の解決」を選ばなかった。

 愛育病院が是正勧告を受けた内容は、▽医師の時間外労働について36協定が締結されていなかった▽職員の時間外労働と休日労働が法定基準を超えていた▽時間外勤務の割増賃金の未払い―の3点。

 これを受けて同病院は、「労働基準法を遵守すると、常勤医がすべての当直に加わることができず、非常勤医2人で当直することもあるため、総合周産期母子医療センターの体制としてどうか」(中林院長)と考えたことなどを理由として、3月24日に東京都に対して総合周産期母子医療センターの指定返上を打診。あわてた東京都や厚生労働省が病院側と協議した。

 このとき、厚労省の外口崇医政局長が中林院長に対し、職員代表との合意の上で時間外労働に関する「特別な定め」について労基署と相談してはどうかと助言した。中林院長は、「労使協定の特別条項を使ってクリアしたらどうかというアドバイスをいただいたが、時間外労働が100時間とかになるとそれでは『ザル法』。80時間では過労死ラインといわれる。米国では60時間ぐらいなら容認しようという考えもあるので、それぐらいなら何とかなるのでは」と話す。

 愛育病院の産婦人科で4月の勤務に組まれたのは12人。中林院長によると、このうち、4人の女性医師が妊娠中や子育て中で当直ができないという。また、部長クラスになるとオンコール体制となるため、実際に当直ができるのは6人。労基署の指導に従って当直表を組むと非常勤2人の体制になる日が10日ほどあった。中林院長は、「総合」センターを続けることについて「東京都は2人の医師がそろっていればいいと言う。周産期医療協議会の岡井崇会長が皆さんと相談し、『愛育にお願いしよう』と言っていただけるなら、続けてやっていける」と、中林院長は総合の指定を続けることには前向きな意向だ。

 何が何だかよく分からない話だが、「愛育が『総合』を続けることには何のメリットもない。むしろ返上したくて仕方なかっただけ」と指摘する同病院関係者もいる。中林院長によると、「総合」指定を受けていることによる補助金は年間約3000万円で、2007年度の分娩件数は約1750件。「現状の体制で許されているならば、(総合の指定が)あった方がいい。ただ、いざとなれば日赤医療センターもあるので、『絶対に』というわけではないと思っていた。法律違反をしている病院という後ろ指を指されたくないし、『総合』を降りたとしても、コーディネータとしての機能などこの地区で起きたことについては引き受け、同じ役割を果たしていくつもり」(中林院長)。

現状の体制で許されないとなれば、補助金を帳消しにするほどの人件費増が見込まれる。しかも、過重労働は産科だけの問題ではない。新生児科も同様に厳しい状況だ。4月には常勤が2人減って5人体制となり、1人の新生児科医が月に7回の当直をこなさないといけない状況になる。非常勤医もいない状態だという。中林院長も新生児科については「特例条項が80時間ぐらいになっても仕方がないと思う」と話す。これまでの残業時間も、産科よりも新生児科の方が長いという。

 「愛育は産科と小児科しかないから、補助金が要らないなんて思い切ったことが言える」との声も産科医の間から聞こえる。「総合病院では、補助金をアテにして予算が組まれている。他科にも影響が出ることになって、簡単に返上なんてできない。本当に厳しいのは日赤だ」

 日赤医療センターは、東京都の「スーパー総合周産期センター」になって年間5千万円ほどの補助金が約束されている。同センターの産科医は24人。ただ、これには当直を経験したことがない初期研修医も含まれており、同センター関係者は「3人当直なのに、当直できるのは18人ぐらいしかいない。今年度中には3人が退職し、転科する医師もいる。代わりの医師も来るが、当直ができない医師もいるため、実質的に戦力は落ちる」と内情を明かす。加えて、同センターは新生児科にも医師の欠員が1人出ており、現在もホームページ上に募集案内が出ている。「労働基準法を遵守するような体制を保っていられるとは、とても思えない」。同センターに勤務する医師たちには、補助金や是正勧告が自分たちの労働環境改善にはつながらないことに、動揺とあきらめとが入り混じる。

 現在までのところ、日赤医療センターは「大人の解決」を選び、愛育病院も予定調和の世界に戻って事態は沈静化したように見える。しかし今回の問題はこれでは終わらない、本番はこれからだ、との指摘がある。今まで医療界が所与の条件と捉えてきた厚労行政の在り方に大きな地殻変動が生じており、これまでの常識が通用しなくなるというのだ。

なぜ愛育病院は「総合周産期母子医療センター」返上を申し出たか(下)(2009年4月10日ロハス・メディカル)

 「ここ2年ほどで、病院が労基署から是正勧告を受けることが増えてきたと感じる」と話すのは、医師の労働環境の問題などに詳しい、札幌市在住の小児科医の江原朗氏だ。「07年には11か所の国立病院が是正勧告を受けており、このころから大学病院など一定規模の病院に対する是正勧告が増えてきた。また、以前は医師の労働環境についての国会質問は野党側からがほとんどだったが、ここ2年ほどは与党側からの質問が多い。これまで医療界が"聖域"と見なされていた風潮が、あくまで数ある業界の中の一つとして、業種間のバランスを持って捉えられるようになってきているのでは」

 2008年からマスメディアに報道されただけでも、山梨県立中央病院や東北大病院、長崎大病院などで残業代の未払いの問題などがあった。今年1月 22日には、北九州市立医療センターもいわゆる「名ばかり管理職」の医師への残業代の不払い分について、過去2年間分の支払いを求められるなどの是正勧告を受けていた。札幌医大病院では医師の時間外の割増賃金が正当に払われていない疑いがあるとして医師の勤務実態に関する内部調査を開始するという。極め付けは、つい10日ほど前に共同通信に報道された滋賀県立成人病センターの事例。大津労働基準監督署が、医師の残業代に一部未払いの疑いがあるとして、同センターを運営する県病院事業庁と幹部らを書類送検していた。ついに刑事司法まで巻き込む事態になっている。

 相次いで起きているかのように見える病院への立ち入り調査や是正勧告。これらの労基署の動きについて、「本省から強い指導があったからだろう」と旧労働省側の厚労省職員は見る

 この場合の「本省」とは、当然のことながら病院を所管する旧厚生省系の部局ではなく、旧労働省系部局だ。縦割りを維持し、互いの領域には口を出さないで来たはずの両者の間に何があったのか。

 旧厚生省と旧労働省が2001年に厚生労働省として合併後、キャリア事務官のトップとなる「事務次官」には、旧厚生系出身の近藤純五郎氏が初代事務次官となったのを皮切りに、厚生系と労働系が交互に就いていた。しかし旧厚生系の辻哲夫氏が早々と退任した07年8月、当時問題となっていた年金記録問題の解決を図るためとして、旧厚生省出身で元内閣府事務次官の江利川毅氏が就任して、このたすき掛けが崩れた。しかもショートリリーフと見られた江利川氏が、政局の不安定さゆえにズルズルと留任し、労働側から見ると長くトップの座を奪われた格好だ。

 サブプライムローン以来の米国発不況で、非正規雇用者をめぐる問題が注目を集めるなど、近年にないくらい労働行政の重要さがクローズアップされている。この状況下、年末の日比谷公園で日雇い労働者が年越しをする「日雇い派遣村」の際の労働系官僚の対応は迅速で、「労働系の株はうなぎ登り」(国会議員)という。対して、旧厚生系部局は、年金や薬害、医療崩壊で失策を重ねた。これにより力関係が逆転したと見る向きもある。しかも、そろそろ次官人事が行われるとの見方も強く、次の事務次官には、順当に行けば旧労働系幹部が就くとみられる。

 関東圏の労働基準監督署の職員も「去年ぐらいから、本省側が活気づいているように思う」と話す。舛添厚生労働相が「厚生労働省は大きすぎる」と3 月初旬に示した、年金省・厚生省・労働省に分割するという省庁再編案についても、「元の形に戻るだけになるので、労働側には歓迎されていた」と、別の厚労省の職員は明かす。

 ここで愛育病院の問題に話を戻せば、恩賜財団母子愛育会・愛育病院理事長の古川貞二郎氏は厚生事務次官や厚生省顧問などの後、全官僚のトップである元内閣官房副長官を務めた。古川氏の意向を無視して愛育病院が指定返上を申し出るとは考えられないし、官僚の世界を知り尽くした古川理事長が、何の思惑もなくそれを許すと見るのはお人好し過ぎるだろう。古川理事長は言う。「労働者を守るという労働基準法の精神を尊重した上で、医療者の勤務実態を把握して医療者を保護できるよう、労働基準法を勤務実態に合わせていくことを早急に検討していくべき。また、産科などの医師確保や助産師の活用も含めて医療供給の在り方を是正し、確保していくことも、早急な課題だ」

 もちろん、このような霞ヶ関の力学だけで、すべてが説明できるわけではない。

 日本医師会で勤務医の労働環境改善のためのプロジェクトを担当している今村聡常任理事は、「確かに今の医師不足の中で杓子定規に労基法を当てはめられないというのは、その通りだがこの状況が続いたことで現場にしわ寄せが来て、中原先生のようなことが起こったのではないかと思う。個人的には、勤務医の過重労働等の労働環境の改善は喫緊の重要課題という認識の下、労基法からのアプローチもやむを得ないという考え方もある」と話す。

 それでなくても、病院が労働行政指導の対象になりやすい構造転換が進んでいる

 2004年4月に大学病院が独立行政法人化し、人事院規則に代わって労働安全衛生法の適用を受けるようになった。このため、大学病院も労働基準監督署の指導対象になり、労基法に違反するとみられる場合には、是正勧告や使用停止命令、罰則の適用もありうる状況となった。「法令違反があれば淡々と業務をこなしていくのが労働基準監督署の職員だから、もともと労働基準法など存在しなかったような医療現場に対してこうした立ち入り調査が行われ、是正勧告がされていくのが必然」と、厚生労働省の職員は話す。

 2010年度に独法化を控える国立がんセンター中央病院の土屋了介院長も、「センターの常勤医師は超過勤務手当をほとんどもらっていない。独法化すれば、労基署から責め立てられることになるだろう」と懸念を示す。

 時代の流れとして労働基準法が遵守されてない状況の医療現場に対する是正勧告が相次いでいるのだとしても、次官人事などを見込んだ上で旧労働省側の「活気」がなせるものなのだとしても、今回の騒動は医療現場の深刻さを改めて示しただけで、問題はまだ何も解決していない。

 勤務医の立場から医療崩壊の打開を訴えている済生会栗橋病院の本田宏副院長は、「庶民的な感覚からすると、厚生省と労働省が合併すれば、両方が連携して勤務医の労働環境は改善されると思った。だが、医政局と労働基準局とでは動きが全然違って縦割りだということが分かり、甘かったと思った。ただ旧厚生側も財務省から色々と言われるのは分かるが、医療費抑制政策を見直すなど何らかのアクションを起こしていかなければ、是正勧告が入っていく状況の中で医療を守ることを打ち出せないのではないか。今回の是正勧告がいい方向に行くことを期待したい」と話す。

 病院医療の質や機能について第三者評価を行い、医療安全に関する研修なども行っている日本医療機能評価機構の河北博文専務理事も、「今まで黙認してきた人たちが、法律があるからと言って、法通りに執行しようというのが間違っている。できないなら現実にどうすればできるのか、順番を間違えないように、時間をかけていつまでにやるかを一緒に考えていこうと言いたい。勤務シフトや医療安全を考えれば医師の数は必要。行政にはきちんと考えて動いてもらいたい」と主張する。

 しかし、厚労相周辺は「医政に携わる職員も、労働に携わる職員もそれぞれの職務にのっとったことを淡々とこなすという官僚の動きにのっとったもの。トータルで見たら医療の現実に即していない動きになっている。本来はこうした時に官房など、大臣筋から調整していくしかないが、いまは全く機能していない」と語る。

要するに、こういうことでしょうか。

1)愛育病院側にとってはセンター指定返上は痛くも痒くもなく、むしろ望むところである
2)厚労省省内力学や次期次官人事等も絡んで、旧労働系の動きが活発化している
3)愛育病院上層部には旧厚労省官僚が入っていることから「無知故の行動」ということは考えにくい(何らかの計算が働いている)

それに付け加えるならもう一つ、こんなことも見え隠れしていそうです。

4)法を改めてでも医師の違法労働を合法化し継続させよという声はあっても、誰も医師の労働環境を改善しようなどというつもりはない

これも個別の病院の問題として捉えるならば、愛育にしろ日赤にしろそれできちんと医者が集まってきて病院の運営が支障なく出来るというのであれば、厳密な法的解釈がどうあれそれでいいのではないかなという気もしないでもありません。
いくら労基署がやる気満々だろうが全ての労働者に対して目を向けることが出来ない以上、当事者である現場医師が現在の労働条件に納得して受け入れているというのであれば他に幾らでも助けを求めている業界がある現状でそちらを優先するのは当然ですしね。
ただ今現在こうした状況で医療業界の労働環境というものに社会的関心も所轄省庁の目も向いているわけですから、もし医療従事者に自らの労働環境を改善しようという積極的な意思があるというのであれば千載一遇の好機であるという言い方は出来るかなとは思います。
しかし社会の方で手を差し伸べてきている中で、当事者がそれに乗る権利を自ら放擲するということになれば、自助努力の欠如と見放されても仕方がないかなとも思いますがどうなんでしょうね。

医療業界の労働環境が過酷だ過酷だと最近一般メディアでも取り上げられるようにはなりましたが、面白いのは管理者側の立場である(本物の)管理職スタッフはもとより、現場で泥にまみれてはいずり回っている医師達までもが「法が実態に即していない」なんてことを当たり前の顔で口走ってみたりする。
例えばこれが他業界の話だと考えてみると、たとえばトヨタの製造ラインで働いている一労働者がインタビューに答えて、

「我々は常時過労死ラインの超勤80時間越えが続いているが、プリウスのバックオーダーが半年も貯まっている状況で休むわけにはいかない。法律が現場の実態を反映していないのが問題だ」

なんてことを喋っていたりしたら、正直「はあ?何いってんだこいつ?」なんてことを感じませんか?
それ以前に末端がそんな上層部の公式見解そのままをオウム返ししてくるような職場なんてキモチワルイ、まるで某独裁国家で誰に尋ねても「我々国民の意思は常に将軍様と同じです」と胸を張って答えられているような気持ち悪さを感じないでしょうか?

一昔前にもちょっとした騒ぎを起こした団体の人たちが何をきいてもそういう「公式見解」ばかりを繰り返すというので話題になって、世間ではそういうのを「洗脳」だとか「マインドコントロール」だとか呼んでいたことが思い出されます。
世間的にはそうしたことは決して肯定的評価の対象にはならないことなんですが、何故か医療業界には今も勘違いして妙な塩梅に決意を固めている方々も大勢いらっしゃるようで、そのあたりも(悪い意味での)業界の閉鎖性、特殊性といったことなのかなという気がしないでもありません。
こういうことは知識とか知能とかいったものとはまた別問題で嵌る人はあっさり嵌るとも聞きますが、そういえばあの団体にも元医師なんて方々が幹部にいらっしゃったですよね…

競走馬のように視野を狭めて一心不乱に突っ走ることももちろん大事なことではあるのでしょうが、時には立ち止まって自分の立ち位置を振り返り、間違った方向に疾走していないか顧みるのも同じくらい大事なことなんじゃないかなと思います。
今回の件をどう受け止めどういった行動に出るかで、普段は見えにくい医療業界内部の「意識:と言うものがいくらか外からも判るようになるんじゃないですかね。

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2009年4月19日 (日)

今日のぐり「夜寿司 津高店」

スーパーカーブームはとっくの昔に去ったと言いますが、車というものは今の時代にあってもどこか心躍る心地がするものではないでしょうか。
最近では様々な動力源の車も登場していますが、こんな時代であるからこそこういうレトロな風味の車もまた格別の味わいがあるという気がします。

世界最速を狙う、蒸気機関の車(2009年4月13日GIZMODO JAPAN)

戦闘機を思わせるこのフォルム。いかにも速そうです。

この車は、世界最速の蒸気で動く車を目指して作られ、理論的には時速約273kmものスピードを出すことができます。7.6メートルの細長いボディは90Aのバッテリーで起動し、12個のボイラーに火をつけます。ボイラーは400度まで熱せられ、1分間に50リットルの水を使用します。その結果、蒸気機関は一分間に1万3千回転も回転します。

6月の初旬に米カリフォルニア州南部のモハーベ砂漠で、1906年に記録された、時速205.4kmの記録を抜く事に挑戦するそうですが、見た目ならすでに勝ってますよね?!

ハイテク装備で囲まれたコックピットや、雄々しい走行写真は以下にもありますが、あえて蒸気機関で挑戦しようというところに男気を感じます。

この格好良さは記事の写真を見ていただければと思いますが、またこの吹き出す蒸気の白煙がよろしいですな。

まあこのあたりは動力が少しばかりアレなだけで至って真っ当と言っても良い範囲かなと思うのですが、これがかねて変態と名高いブリともなれば尋常ではありません。
この素晴らしき勇姿は写真などでは物足りないところですから、是非とも出典元の動画もご参照いただきたいところですね。

ジェットプロペラ搭載!火を噴き迷走する「世界最速のトイレ」(2007年5月10日GIZMODO JAPAN)

男子用、ですね。

前々からうすうす変だとは思ってましたけど、やっぱりイギリスは変人の集まりのようです。トイレにボーイングのジェットエンジン(価格1万ドル)を取り付けました。最高時速112km(70マイル)はおそらく「世界最速」。まあ、だから何なのだという気もしないではないですが…。テールから鮮やかに火炎を放屁射しながら野を駆けます。

どこに行くんでしょう?
なんで急いでいるのか作った本人にも分からないのでは? と推測します。

発明の主ポール・ステンダー(Paul Stender)さんの雄姿と、ヘリがトイレを追いかけ回す貴重な実況映像、火炎がもはや危険レベルな現場の写真は「続きを読む」でどうぞ。

しかしさすがブリだけに、結局何の意味があるのかもさっぱり理解できないままというところが素敵すぎるのですが…

今日のぐり「夜寿司 津高店」

夜寿司といえば「岡山で二番目に美味しい」のキャッチフレーズが一部で妙に受けているらしいのですが、その支店の一つがここ津高店です。
岡山市から津山市方面に向かって北上する旧街道が高速道路と交差するあたりにひっそりと佇む小綺麗な店構えで、中もしゃれた今風のつくり。
そろそろ夜に入ってきた頃合いに訪れたのですが、そこそこ埋まっている駐車場の状況に比べると店内の客はまばらです。
もっとも食事の間に様子を見ているとこのお店、むしろテイクアウトの方が繁盛しているようなのでこんなものなのかも知れません。

普通寿司屋に来ますとカウンターに座るのですが、連れの関係でテーブル席に座って「月替わり寿司」なるものを頼んでみました。
ちなみにこのお店、色々とセットメニューが豊富な上に1000円~2000円と手頃な価格ですから、昼食客に人気というのも判る気がします。
しばらく待つほどにやってきたのは寿司に吸い物、茶碗蒸しに果物がつくという手頃な組み合わせで、写真で比較する限り一人向けのメニューとしては一番無難に寿司屋らしいのかなという気がしますね。
ネタとしては中トロや鯛、蟹、貝柱、鰻、イカ、卵などおおむね値段相応の内容かなという感じですが、妙に無理して不相応なネタを出すよりこういう当たり前のネタの方が正解かなとも思います。

さてこの店、価格帯やネタの質などの面ではちょうど高価格帯の回転寿司とバッティングするかなという感じなのですが、店内の雰囲気は全く違っているのは好対照です。
この界隈にも何軒か回転寿司の店もあって、どこもそれなりに繁盛しているという状況から見ると、やはり客の入りという点では明らかに見劣りしているのは否めないようですね。
一昔前と違って回転寿司もまともな店はそれなりに普通に食えるという時代ですが、仕入れで有利な大規模チェーン店に対して価格的にはかなり頑張っていると思うんですけどね。
むしろああした回転寿司が一皿二カンと言うことを考えると、この価格でこれだけの味のバリエーションを楽しめるのはアドバンテージになり得るかも知れませんし、実際他のお客を見ていてもセットメニューの出が良いようです。

ただ良いことばかりでもないので、やはり回転寿司と比べてこういう店に何を期待するかと言えばプロフェッショナルというものの技術的な部分ではないかと思うのですが、その面では妙に中途半端な印象も拭いきれないんですよね。
たとえば肝心の寿司の握りですが、昨今では回転寿司の機械握りもかなり進歩して侮れないところも出てきているように思いますが、ここの握りは一昔前の大衆寿司店のおみやげによくある寿司折りの味を思い出させるところがあります(そうした店は今やほとんど消えてしまいましたが)。
一人分として見た場合に量的にはそれなりに食べ応えがあって見た目以上に満腹感はあるのですが、出汁の塩梅もあって茶碗蒸しがやや硬めなことに加えてスが入っていたり、卵も妙に焼き加減が一定していなかったりと、良くも悪くも回転寿司のバイト店員の仕事を連想させる部分が多々あるのはいただけません。
上位回転寿司店と内容と価格のバランスにはそれほど本質的な差はない、そして何より差がついていなければならないはずの技術的な部分でそれほどアドバンテージもないとなれば、好きなものを気楽に選べる回転寿司の方により多くの客が流れるのも道理かなという気はします。

親方やフロアのスタッフの接遇面は水準で少なくとも悪い感じはしないですが、客の入りが少ない時間帯にはもう少しこまめにテーブルの状況に気を配っているとさらに喜ばれるかも知れません。
店内は無茶に席を押し込めている感じでもなく程よいプライバシーを保って落ち着いて食事が出来ることは一つ良いポイントかなと思いますが、これもある意味実態以上に敷居を高くしている要因でもあるのは痛し痒しなのかなと思いますね。
まあ昨今繁盛している回転寿司というのも賑やかすぎたり妙に待ち時間が長かったりでそうまでして食いたくないと感じることも多々ありますから、逆にこれくらいの手頃な値段で静かに落ち着いて寿司をつまめる店と言うのは案外良い落としどころと感じている顧客も結構いそうな気もしますけれどもね。
しかしそれなりにネームバリューもあるはずの夜寿司さんクラスでも苦戦しているんだろうなと感じられるあたり、やはり回転寿司恐るべしだなと思い知らされた一夜ではありました。

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2009年4月18日 (土)

続・マスメディアに求められる資質

前回に続きましてマスコミネタです。
春の新聞週間も終わってしまいましたが、相変わらずメディア絡みの話題には事欠きません。
先日は例の調書漏洩事件で精神鑑定医が有罪判決を受けるという一件がありましたが、これに対してマスコミ各社が結構熱心にコメントを出していますので紹介してみましょう。

調書漏えい判決 裁かれるべきは出版の倫理 (4月16日付・読売社説)

 奈良県の放火殺人をめぐり、加害少年の調書が漏洩(ろうえい)され、単行本に引用された事件で、秘密漏示罪に問われた少年の精神鑑定医に対し、奈良地裁は懲役4月、執行猶予3年の判決を言い渡した。

 報道目的で調書を提供した取材協力者であっても、医師としての守秘義務を、より厳格に課した司法判断である。

 秘密漏示罪は、医師や弁護士らが職務上知り得た情報を不当に漏らした場合に罰せられる。

 被告側は、治療を目的としない鑑定医は、罪が適用される医師ではないと無罪を訴えた。「少年には殺意がなかった」ことを公にするという正当な目的があったとも強調した。

 判決は、医師を前提として鑑定人に選任された以上、医師の業務としての鑑定だと判断した。

 鑑定医が調書提供時に立ち会わず、閲覧も自由にさせたことを重視し、「プライバシーの配慮や提供手段に相当性を欠き、鑑定医として公私混同」と批判した。

 取材への協力であっても、情報提供の仕方が、あまりに安易で軽率だった点は否めないだろう。

 しかし、今回の事件で最も問われるべきは、フリージャーナリストの著者や出版した講談社の裏切り行為にあろう。

 直接引用はしない、原稿は事前に見せるなどと、鑑定医に約束しながら、それを反故(ほご)にした。被告側は「情報の詐取だ」と著者らを非難している。

 取材協力者との信頼関係に基づく報道がメディアの基本だ。情報の取り扱いに慎重さが求められる少年事件なら、なおさらだ。

 著者側は共犯に問われなかったとはいえ、道義的責任は重い。

証人出廷した著者が、情報源を明かしたことも大きな問題だ。被告が認めたとしても、情報源の秘匿はメディアの鉄則である。

 証言拒否罪を恐れたと受け止められれば、メディア全体に対する信頼を失いかねない。

 情報源のみならず、社会の信頼を維持するためにも秘匿する姿勢を守るべきではなかったか。

 秘密漏示罪での司法判断は異例だ。今回の捜査を、言論・報道の自由に対する不当な権力行使とする批判がある。

 取材協力者に萎縮(いしゅく)効果をもたらしかねない点は極めて残念だが、興味本位の出版が、自ら権力の介入を招き入れたといえる。

 情報源が有罪になるという今回の判決を機に、メディアの基本原則の徹底が求められる。

ま、他人事であれば筆致が厳しくなるのはいつものマスコミの行動パターンではありますが、まずこうした記事を書きながら一度鏡をのぞき込んでみるといった行為も求められるのではないでしょうか。
しかしこの一件、口約束で鑑定医を騙した挙げ句調書を盗み撮りして丸写し出版するという暴挙に及んだ件のジャーナリスト・草薙厚子氏の方は結局無罪放免ということで、何とも後味の悪い思いと共に釈然としない印象が残った事件ではありました。
被告である鑑定医は後に「見せる相手を間違えた」と語ったそうですが、自らの思想・信条を公のものとしたいがために草薙氏を利用して社会的にも認めがたい秘密漏洩という行為に及んだとも言われる御仁だけに、この件に関しては正直どっちもどっちではないかなとも思いますが。

一方でマスメディアの誤報あるいは捏造、偏向報道ぶりは最近ますます磨きがかかっているとも噂されているようです。
各社とも以前から囁かれる経営難にこのところの不景気によるスポンサー収入激減といった問題が重なって青息吐息、すでに互いの食い合いすら始まっているとも言いますが、貧すれば鈍すると言うくらいでもはやなりふり構わず刺激的な内容で目先の数字を追いかけているということなのでしょうか?

先日の皇室行事で麻生首相がまた誤読をやらかした!と各社が喜び勇んで報道した件ですが、その後結局誤読でも何でもなかったと言うことが判明しました。
質量共に通常のレベルの羞恥心というものを持っている人間であれば穴があったら入りたいと思ってしまいそうな大失態ですが、そうでなくとも他人の誤読を天下の一大事であるかのように大騒ぎするくらいですから自らの誤報に対してはそれ以上の厳しさで襟を正すのが当然だろうと思います。
ところがなんと謝罪すらせずに黙って記事を削除するにとどめる、さらには開き直りまでするという呆れるばかりの態度を取っていると言うのですから、これには何かしら違和感を覚えずにはいられません。

TBS社員、「弥栄」で麻生首相を罵倒→「いやさかえ」であってると指摘されても謝罪せず(2009年04月12日痛いニュース)

投稿者 WEB多事争論編集委員 吉岡弘行
>2月にこのサイトで「新聞を読まない首相について」というテーマでメディア論を取り上げました。
>10日の天皇・皇后両陛下のご成婚50年で、麻生首相は三権
の長を代表してのお祝いの言葉でまたもや失態を演じました。
繁栄を意味する「弥栄(いやさか)」を「いやさかえ」と言い間違えたのです。
>宮殿の「松の間」で両陛下の前に一歩進み出て、紙を見ずに祝辞を述べたのですが、
国のトップが国民の象徴に対してこれでは情けない限りです。
>歴史的な誤った日本語事例として残ってしまいました

→「いやさかえ」であっているのでは?と指摘される。

>弥栄を「いやさかえ」とも読むことを初めて知りました
>実際に目撃したのはこれが初めてだったもので、少々きつい物言いになってしまいました。
>しかし茶の間で観た方々は、何かしら違和感を持ったのは事実ではないでしょうか?
>まあ、それはさておき麻生さんの部分はこのツリーの本旨とははずれていますので、本来のテーマについてご意見をお寄せ下さると幸いです。
ttp://www.taji-so.com/weekly_souron/bbs.php?all=790

吉岡弘行。1963年島根県松江市生まれ。一橋大学法学部卒業後、1988年TBS入社。
報道局社会部、『筑紫哲也ニュース23』編集長、『ニュースの森』編集長などを経て、
現在、編集部副部長。『WEB多事争論』編集委員。

誤報・捏造で自国の総理を侮辱するといった話であればまだ国内に恥をとどめていられるという点で救われる部分もありますが、これが他国との関わりとも絡むことになりますと大変です。
先日は新聞週間とも絡めてNHKの偏向報道に台湾の人々が怒り心頭という話題についても紹介させていただきましたが、この件について早速抗議の声が上がっています。
これなどは実際の取材を受けた台湾の当事者の怒りの声を確認していなければ妙な思想に固まった連中が勝手に吼えているくらいにしか見えない話ですが、ブロガーの地道な取材活動がNHKという巨大な組織の闇を暴いたという格好ですね。

台湾を取り上げたNHK番組に抗議(2009年4月17日なる台NEWS)

17日の中央通信社の報道によると、5日放送されたNHKの番組『ジャパンデビュー』1回目の『アジアの一等国』で、日本初の植民地として台湾が取り上げられたが、これに対して番組内容が偏っていて台湾人が反日のような印象を受けると日本人が抗議しているとともに、番組に登場した台湾人が取材内容のうち特定の部分しか放送していないと怒りの声を上げている
金美齡・前総統府国策顧問は、週刊誌『週刊新潮』の最新号で「偏向した番組の一語に尽きる。まだ日本は自虐史観から抜け出していない」などと批判。番組のなかで、台北第一中学(現在の建国中学)在学中に数少ない台湾人として日本人から差別と偏見を受けたと語った柯德三さんは「取材時に日本統治はプラスの面が50%、マイナスの面が50%であると強調したが、日本統治を批判した部分だけが放送されたのには驚いた」などと話しているという。また日本李登輝友の会(小田村四郎会長)もNHKあてに抗議声明を出している。

Nスペに「李登輝友の会」が抗議声明(2009年4月10日IZA)

 NHK総合テレビが5日に放送した「NHKスペシャル シリーズJAPANデビュー 第1回『アジアの“一等国”』」の内容が偏向していたとして、日本李登輝友の会(小田村四郎会長)は10日、福地茂雄NHK会長あてに抗議声明を出した。

 番組では、日清戦争後の日本による台湾統治について、一等国を目指して統治の成功を海外に誇示したものの、日台間の格差と同化という矛盾を抱え、やがて皇民化運動で日本文化を強制した-などとした。

 この放送に対し、声明は「日本が一方的に台湾人を弾圧したとするような史観で番組を制作することは、公共放送として許されるべきではない」とした。

 NHK広報局は「歴史を振り返り、未来へのヒントにしたいという番組の趣旨を説明し、理解していただきたいと考えています」としている。

偏向を未来へのヒントにしたいとはNHKも妙なことを言うものですが、この件についても日台友好に大きく水を差したNHKがどのように責任を取るのかも注目していきたいところです。

昨日も少しばかり取り上げました杏林割り箸事件の二審判決ですが、さすがギネスブックにも登場したという世界のみのもんた氏ともなれば放置できるような話題でもなかったようです。
氏の「朝ズバ」では以前からこの裁判に関して非常に熱心に取り上げてきた経緯がありますが、これについては「ある町医者の診療日記」さんで詳しく取り上げておられるので、そのまま引用させていただきましょう。

朝ズバのお涙頂戴ショー2(2008年2月13日”ある町医者の診療日記”記事より)

昨日、割り箸訴訟の、民事の地裁判決があった。被告側の完全勝利のようです。
その関係でしょう、朝ズバが長い時間を当てて放送していました。
今回も病院に出る前の慌ただしい中で見たというものですが、それでも内容は、報道とはとても言えない、ただのお涙頂戴のショー、それも二流、三流の全く下らないものだったというのはよく分かった。

報道番組ってのはどうあるべきなんでしょう?
間違いのない事実を、時間の許す限り詳しく、そして分かりやすく提示し、それに関係した専門家の解説や意見を、できれば複数付け加え、最後に少しは報道局の主張を入れる(これはキャスターに述べさせる)、こういうのが報道番組だと私は思うのですが、この朝ズバはまさにショーにしか過ぎない。それも先に書いたように低級なショー。
原告の家族の映像が少しはあってもいいとは思うが、これは最小限とすべきものでしょう。それを延々と流し続け、時々恨み辛みを述べさせる。さらにCMを挟んでも同じような映像を続けるってのは、いったいどうなっているのか。よほど時間を埋められなかったのか。
こんなのは、報道すべき「事実」ではない。

これは裁判事例の報道なんですから、報道すべき「事実」は双方の主張やその根拠となる証拠でしょう。これらは裁判を取材していたら入手可能なはずです。また判決文も視聴者に分かりやすく放送すべきものなのに、みのもんたがほんの少しだけ、申し訳程度と言っていいくらい述べただけ。それも、原告側に一方的に偏ったもので、とてもじゃないが、これでは「事実」とは言えない
解説を加えるべき専門家も、呼ばれていたのが由井なんとかという「医療ジャーナリスト」。この手の番組らしく、この専門家なる人も医師ではない、いつもの「自称」医療ジャーナリストでとても専門家と言えるようなしろものではない。発言内容も素人そのもので「当時の医療水準では診断治療ができないから無罪にしたと判決で言っているが、この判決を他の一生懸命頑張っている救急医が聞いたら、がっかりするだろう」って、何をトンチンカンなことを言うのか、あきれてものが言えなかった。他に、弁護士らしい女性のゲストがいたのですが、この人も裁判の一般論を述べるだけだった。そもそも、どういう裁判かというのさえこの人は知らなかったのでしょう。
そして、最後にみのもんたが「素人でも割りばしが脳にささったって思いますよね」って、思わず「アホか!」と言ってしまった。この事例がどれほど希なものなのか、どれほどあり得ないことが重なったものだったのかというのが分かってない、まさにど素人のタワゴトです。

これで報道番組と言えるのか?

こんな番組が成り立つ国、日本。
先が思いやられる。

ショーどころか偏向番組だったんだ!!>朝ズバ (2008年2月23日”ある町医者の診療日記”記事より)

割り箸訴訟判決があった日のTBS系列の番組「朝ズバ」を、私は朝ズバのお涙頂戴ショー2で「低級なショー」だと非難しました。
(略)
ところがです。
この番組、ショーでさえなかったようです。
民事訴訟の一方だけに、それも不当に偏った主張を垂れ流した偏向番組だったのです。

2月13日の放送で呼ばれた「自称」医療ジャーナリストなる油井某なる「専門家」は、この民事訴訟の原告を支援している人間だったのです。
こういう人間を、さも中立的な立場かのごとく発言させるとは、これで報道番組と言えるでしょうか?
民事訴訟における一方の側に立つ人間に、一方の側の主張を述べさせる。そんなことを、第四権力たるテレビ局がしてよいのでしょうか?
それも報道番組を、実質はショー番組だろうが、報道と自称している番組で。

私はこの事実を、ちょくちょく訪問させてもらっているブログ出物腫れ物所嫌わずのエントリー「割ばしがキズつけたのは脳かハートか」で知りました。

ブログ主の最凶さんも「とくにTBSじゃ判決当日のニュースで、両親のいい分ばっか時間をかけて、杏林側のコメントの後には「などと言っている」と敵意むき出し。」と書かれている。裁判の一方の当事者に肩入れしていると。
そのエントリーで、先のような解説を加えた自称「医療ジャーナリスト」、油井香代子という人らしいのですが、この人のことを書かれているのですが、それを見て、私はびっくりしました。
-----(ここから引用)-----
 んでもってコメンテーターのわりにはヤケに両親の肩を持つなーと思って調べてみたら、なーんとなんと、伊藤の隼ちゃんが主催していて、ばっちし両親を支援している市民団体「 医療事故市民オンブズマン・メディオ 」のシンパじゃん。つーことはぜーんぜん中立の立場じゃないじゃん。もっちろんニュースの中ではそんなことには一言も触れちゃ―いません。
-----(引用、終わり)-----

また、本も書いているようで、、、
-----(ここから引用)-----
 ちなみにこのオバハン、著書の「医療事故ー医者の奢り患者の怒り」(双葉社)のなかじゃ、実際には未発見の折れた割り箸を「後に警察の捜査で園庭の土の中から発見されている(P84)」なんて書いてるし。
-----(引用、終わり)-----

これが事実なら、裁判の一方の側のためなら平気で嘘をつく、本にも書くという人物ってことになります。
これが事実だとしたらとんでもないことです。
それで、コメント欄で最凶さんにお尋ねしたところ、、、
-----(ここから引用)-----
「医療の良心を守る市民の会」ってとこでは、両親とともに発起人に名を連ねているっつーこともわかりました。れっきとしたお仲間ですね。
http://ryousin.web.fc2.com/index.html
-----(引用、終わり)-----

とのこと。
本も書いている、会のメンバーでもある。
こうなれば間違いない、この油井某なる人物は、裁判の一方の当事者であるこの両親の支援者です。
こういう人物を発言者として登場させ、この裁判がどういうものかと客観的に解説する専門家かのように発言させることは、報道番組はもちろんのこと、ただのお涙頂戴のショー番組であっても許されないことです。これではショーでさえない、あきらかな「偏向番組」であり、マスコミとして自殺行為です。

なお、この油井某という人物、どうも胡散臭い。
日本自然治癒医学協会の理事。
そこで「医療ジャーナリスト」と名乗っているけど、どこが「医療」か。
単なるトンデモさんじゃないか。
それも、「自然」という言葉で人を誘って金儲けしている者達のお先棒を担いでいる。
こういう人物を、さも「専門家」のように紹介し、公共の電波を使って発言させたテレビ局の責任は重大です。

これほどの高い見識をもつみの氏だけに、通りすがりの何らの罪なき一般人の方々に対しても容赦はありません。
普通の人間がこんなことを公共放送で言ってしまうと大変ですが、平素から高い見識に基づいた発言を行っていると時々見識が高すぎてしまったとしても他人を侮辱したなどと罪に問われることはないということのようですから、我々凡人もみの氏を見習って平素から自らを高めるべく努力していかなければならないということなのでしょうね。

「朝ズバッ」損害賠償判決 生中継の在り方見直しか ( 2009年4月15日J-CAST)

   朝の情報番組の生中継でプライバシーを侵害されたとして、会社員が放送局側に損害賠償を求めていた裁判で、放送局側敗訴の判決が下された。テレビ報道では、生中継という手段は必要不可欠だとも言えるが、この手法は「禁じ手」になってしまうのか。

『強引すぎる』と言われてもやむを得ないでしょう

   問題とされたのは、2007年1月11日にTBS系で放送された情報番組「みのもんたの朝ズバッ!」。この日の番組では、外資系金融機関社員の男性が妻に殺害された事件の現場マンション前から生中継を行った。中継をしていたアナウンサーは、現場近くでゴミ収集作業中だった男性に取材をしようとしたが、男性はこれを拒否。男性は「これ、テレビに出るんですか」と質問し、アナウンサーは「映さないように配慮します」と応じたが、スタジオで司会をしていた、みのもんたさんは

「映っちゃってるよ、もう十分」

と発言。また、

「(事件の容疑者が)手首を生ゴミと一緒に出したってことは、この収集車が集めに来てるわけ?」

とも話した。

   このやりとりに対して、男性側は「撮影を拒む原告(男性)をあざ笑った。遺体の一部を運んだかのような印象を与え、被害を受けた」として、TBS(現:TBSホールディングス)と、みのさんに対して1100万円の損害賠償を求めて提訴していた。

   09年4月14日に東京地裁(須藤典明裁判長)であった判決では、みのさんについては「侮辱する意図はなかった。番組編集権もない」として賠償責任は認めなかったが、TBS側については「取材を拒んだ男性を特定できる形で中継した」として、肖像権やプライバシーの侵害にあたるとして、120万円の支払いを命じた。

   現場からの生中継はテレビの報道番組にとっては不可欠な存在で、これをめぐって訴訟を起こされるのは異例だ。だが、今回の判決について、名誉棄損訴訟に詳しい梓澤和幸(あずさわ・かずゆき)弁護士は、

    「事件自体を報道する場合や、事件と直接関連するものであれば、公共性が高まるので、関係者が映るのはやむを得ない面があります。ただ、今回の原告男性は事件と関係なく、公的な関心事だとは言えません。明確に撮影を拒否されている以上、(生中継は)違法とされても仕方ありません。映される側からすれば、生放送は後で編集する余地もない訳ですし、局側は『強引すぎる』と言われてもやむを得ないでしょう」

と判決に理解を示す。さらに、生放送特有の危険性を指摘、生放送のあり方を見直すべきだとしている。
若干時間を遅らせる処理をしてから放送する方法も

    「テレビは通信衛星などを使って迅速に放送できるという利点がある分、生放送では『編集』というプロセスを飛ばしてしまう危険性も持っています。その分、放送局の側には注意義務があるとも言えます。生放送をやるべきかどうか、あり方を見直す良い機会なのではないでしょうか。かつて、米国ではテレビ局が自殺シーンを生中継してしまったことがあって、大きな議論が起きました。今後は、生中継であっても『危険のあるものは、若干時間を遅らせる処理をしてから放送する』といった措置も検討すべきではないでしょうか」

   生中継に限らず、メディアが不特定多数を撮影する場合、プライバシー・肖像権の問題が常につきまとう。有名な例では、ニュース番組で、「日本人カップルが香港で買い物をしている様子」を流したところ、映っていた男性から、局に「実は不倫旅行だった。放送で妻との関係が悪化した」という苦情があったというケースもある。

   この件については報道各社も対応を進めており、例えば朝日新聞は、

    「個人を写すときには、相手の同意を得る。不特定多数の人々を『開かれた場』で撮影するときには、腕章を着用し、撮影していることが周囲に分かるようにする」

といった基準を設けているという。梓澤弁護士も、

    「重要なのはニュースの上での必要性とのバランス。『メディアの人間が映している』ということが周囲に分かるようにすることが大事です」

と、「身分を明らかにして撮影すること」の重要性を強調している。

ここに興味深いデータがあって、ネット掲示板「2ちゃんねる」で過去にスレが長続きした、すなわち大きな話題となった記事に関するランキングというものがあるのですが、その上位が軒並み報道関係の話題だったと言うのですね。
巷間賑わす話題を広く世に提供していくことが報道各社の仕事だったとすれば、今や報道各社自体が巷間賑わす存在となりつつあるということなのでしょうか。

2ちゃんの盛り上がりで見る過去の事件まとめ 上位は新聞社絡み(2009年4月14日アメーバニュース)

今年3月末に発覚した朝日新聞社員によるネット掲示板『2ちゃんねる』での荒らし行為のニュースは、その『2ちゃんねる』自身でも大いに話題となった。しかし、その盛り上がり方が尋常ではなかったようで、掲示板のひとつである「ニュース速報+@2ch掲示板」への書き込みが、『【ネット】朝日新聞社員(49)、2ちゃんねるで荒らし行為…「失語症躁鬱ニート部落民は首つって氏ねよ」と差別表現も』というタイトルで全263スレッドにも及び、同掲示板の歴代継続スレの1位になったのだった。
 世間で話題になったニュースと2chの掲示板で盛り上がった話題に、多少のズレがあるのは事実。しかし、その盛り上がりは本物だったはず。そこで、これまでにどんな話題が継続スレの上位を飾ってきたのか、1位以下のトップ10を見てみよう。

 カウントダウンに入る前に、まず「ニュース速報+@2ch掲示板」について説明しておこう。
 Wikipediaによれば、

     ニュース速報+板(そくほうプラスいた)は、匿名掲示板2ちゃんねるの板の一つである。ニュース速報板とは異なり、キャップを持った“記者”以外はスレッドを立てられない。社会・政治・国際・経済から、ネットの話題や地方ニュースまで、様々な範囲をカバーする。
     ※キャップとは、電子掲示板の個人を特定する機能のひとつ。キャップという名前の由来は、偽者防止→帽子→キャップということらしい。

     「4日ルール」が適用されており、最初にスレが立ってから4日間(96時間)経過すると、次のスレは立てられることはない。また、一般ユーザに対しては128秒間という長い連続投稿規制が設定されており、短時間で何度もレスを送信する事は出来ない。

 上記のようなスレッドを立てる条件や4日ルールなどがあるため、ひとつの話題でスレッドを長く継続することは難しいようで、話題になったニュースでも2 桁継続すれば御の字らしい。それだけに、263スレッドという数字は驚異的で、ネット界ではまさに一大事。スレッドの話題とともに、スレッドの存在自体が大ニュースになってしまったというわけだ。

 それでは改めて、歴代継続スレのトップ10を10位から見ていこう。

    ●第10位(52スレッド)
    【米・大学銃乱射】 “史上最悪” 韓国人の男、学生並ばせ「処刑」→学生ら32人死亡・負傷者多数…バージニア工科大

     米バージニア州のバージニア工科大学で発生した米国史上最悪といわれた銃乱射事件。授業中の教室に現れた同大学生で23歳の韓国人は、一列に並ばせた学生を「処刑」シーンのように次々と殺害した。銃社会が持つ負の側面の悲劇的な事件として注目された。

    ●第9位(56スレッド)
    【政治】 「『ぶってぶって』とよくせがむ」 “虎退治”民主党・姫井ゆみ子氏に、6年にわたる不倫疑惑…相手の教師激白

     トップ10内では唯一の政治関連もの。とはいえ、参院選で自民党の片山虎之助前参院幹事長を破って初当選し、「姫の虎退治」として話題を呼んだ民主党の姫井由美子氏の不倫疑惑という、週刊新潮が報じたありきたりなスキャンダル。これに受けた姫井議員も「これに関してはコメントしません」とあきりたりなコメントだった。

    ●第8位(57スレッド)
    【訃報】 筑紫哲也さん、肺ガンのため死去。73歳…「NEWS23」元キャスター

     テレビジャーナリズムの確立に大きな貢献をした筑紫哲也さんの訃報。1989年にスタートし、18年あまりメインキャスターを務めた「筑紫哲也ニュース 23」では、独特のコラム「多事争論」が人気に。また、ニュースだけでなく映画や音楽などの文化活動も行い、多くの視聴者に支持された。

    ●第7位(64スレッド)
    【秋葉原・大量殺傷】 "ネット予告も認める" 派遣社員の男、歩行者天国にトラック突入&人刺す…7人死亡は、過去最悪級

     秋葉原の歩行者天国にトラックで突入、さらに刃物で人を刺した秋葉原通り魔事件。死傷者の数もさることながら、加藤智大容疑者が事前にネット掲示板に犯行予告を書き込みしていたことが大きな話題になった。

    ●第6位(72スレッド)
    【毎日・変態報道】毎日新聞、追加処分と対応策発表 社長ら1ヶ月10~20%減俸 転載サイト判明すれば記事削除を要請

     毎日新聞が英文サイト「毎日デイリーニューズ」上のコラム「WaiWai」に、日本についての誤った情報、品性を欠く性的な話題などの記事を発信した事件。「WaiWai」は既に閉鎖され、過去記事を転載しているサイトなどには訂正や削除の要請。また、担当記者への処分に加え、社長や役員などの減俸処分を行った。

    ●第5位(73スレッド)
    【ネット】googleなどが検閲?「亀田・反則」「初音ミク・画像」などがネット上から“消えた”…、電通やTBSの陰謀との説も

     GoogleやYahoo!などで画像検索しても、当時爆発的に話題だった「初音ミク」の画像が1件もヒットしないという不思議な現象が続いた事件。さらに、Wikipediaの初音ミクに関する項目が削除されていたという事件も発覚。「これは電通の陰謀では?」などといった憶測も飛び交った。

    ●第4位(83スレッド)
    【神戸・高3自殺】 “2ちゃんねるで” 逮捕少年らの名前流出に加え、中傷の書き込みも殺到→学校側、人権侵害被害申告へ

     神戸市須磨区の私立高校で3年生の男子が飛び降り自殺した事件において、恐喝未遂容疑で逮捕された同級生の加害者の個人情報が2ちゃんねるに流出。また、この事件をきっかけに同校生徒らに対する中傷の書き込みが「2ちゃんねる」に殺到したため、学校側は生徒への人権侵害にあたるとして被害を申告した。

続いて3位と2位をどうぞ!

    ●第3位(117スレッド)
    【ネット】 2ちゃんねる、閉鎖か…すでに壷は差し押さえられ

     「2ちゃんねる」の元管理人、西村博之氏の全財産が仮差し押さえされることになったという事件。差し押さえは銀行口座や軽自動車、パソコン、さらにはネット上の住所にあたる 「2ch.net」にまで及ぶとされ、執行されれば掲示板が一時停止するのは必至といわれた。

    ●第2位(230スレッド)
    【毎日新聞・変態報道】ネット上に変態報道の処分と無関係の社員を誹謗中傷する書き込み→名誉棄損で法的措置を取る方針

     第6位で紹介した、毎日新聞の英文サイトに掲載された不適切な記事問題の続報的な事件。その事件とは無関係の社員や記者を誹謗中傷する映像や書き込みがインターネット上に続出したことに対し、同社が名誉棄損などの法的処置を取るとしたもの。元の事件の盛り上がりとあわせ、スレッドは200を超えるほど激しく炎上した。

 こうして確認してみると、トップ3はすべて3桁を超えているが、3位の117と比較して1位の263と2位の230が飛び抜けて多いことが分かる。それだけ話題になったということなのだが、「2ちゃんねる」の住人は「2ちゃんねる」の存続問題以上に、新聞社の不祥事には怒りの炎が燃え上がったということだろうか。
 毎日新聞、朝日新聞といえばどちらも日本を代表する大手新聞社。しかも不祥事がらみとくれば、早めにトップの座を明け渡してほしいもの。とはいえ、そこにY売やS経が入ってきたら、それはそれで面白い、かも。

毎日新聞変態記事事件が歴代一位の座を滑り落ちてしまったことはいささか残念ではありますが、この件に関しては今後も末永く語り継がれるべき偉業として今も人々の心の中で強い輝きを放っていることは言うまでもありません。

毎日と言えばすでに潰れるか潰れないかが問題ではなく、今やその崩壊後にシェアをどこが握るのかが問題となっていると囁かれるくらいで、弱肉強食の生き残り合戦の様相を呈してきた新聞各社の中でも目の前にぶら下げられた肉扱いとも言われます。
しかしそんな毎日でも全く存在価値がないかと言えば、今や「出来る男が使いこなすべきちょっとした小道具」といった地位を見いだしつつあるとも側聞しますから、いやはや新聞と言うものは物をくるんだり暖を取ったりとそれなりに最後の最後まで役に立つものなのだなと改めて痛感させられますね。
本日の最後にこちらのすばらしい記事を紹介させていただきましょう。

できる男は、機内で毎日新聞を読む(2009年4月17日Business Media誠)

 飛行機に乗ったとき、キャビンアテンダントに新聞を勧められたらスポーツ新聞が読みたいところだが、「できるビジネスパーソン」のフリをして『日本経済新聞』を選んだりすることはないだろうか。男なら、あると思う。

 しかしながら、キャビンアテンダントへの私的な取材結果によると、機内で日経新聞を読むということは、そのヒトは、その時間まで日経をチェックしていなかったと判断される。「できるビジネスパーソンには、ありえない!」て、ことになるらしい。

 なので機内で新聞を読むのなら『毎日新聞』はどうだろうか? 一番後回しに読まれるであろう(私的推測)、毎日新聞をオーダーすると「さすが! このヒトは、もうほとんどの新聞には目を通したのね!」となる。できる男の飛行機に乗ってる時間の実用的な使い方=いろんな情報に目を通すというこなのだ。
(略)
 デコラティブなイメージやパフォーマンスではなく、必要なモノだけを切り出したときに生まれてくる「引き算サービス」が、本質的に「使える付加価値」になる。

 キャビンアテンダントに、いいところを見せたいという余計な思惑が、実に間抜けな結果を招く。男らしい無限な妄想=頭での考えは、ろくなものではない。24時間を実用的に使っているビジネスパーソンは、その24時間という制約があるからこそ、頭で『日経新聞』を選ぶのではなく、身体で『毎日新聞』を選んでしまう。そこが「かっこいい=用の美」なのだ。

 現場主義とはビジネスの現場には、制約があることを身につけること。その制約の中から、身体から立ち上がる智恵を見いだすこと。ビジネスで使える「用の美」とは、そうやって紡ぎ出されていく。(中村修治)

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2009年4月17日 (金)

救急医療関連の最近の話題

と言えば何を置いても「杏林割り箸事件」民事訴訟の二審判決が先頃出されまして、原告側が上告しない方針を決めたことから刑事に続いて民事も確定しました。
この件については様々な立場から様々な検証がそれこそ山のように行われてきた事例ではありますが、ある程度症例としての検討を行った医療関係者の最大公約数的な感想としては「妥当な判決」というところではないでしょうか。

割りばし事故死、両親の賠償請求を2審も認めず(2009年4月16日読売新聞)

 1999年に東京都杉並区の保育園児杉野隼三ちゃん(当時4歳)が綿あめの割りばしをのどに突き刺して死亡した事故を巡り、両親が、杏林大医学部付属病院(三鷹市)を運営する学校法人「杏林学園」と、治療した根本英樹医師(41)に約8960万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が15日、東京高裁であった。

 小林克已裁判長は、根本医師について「当時の医療水準では脳損傷を予見するのは不可能だった」と述べ、1審に続き請求を棄却した。

 判決によると、隼三ちゃんは99年7月、自宅近くの盆踊り大会で割りばしをくわえたまま転倒。同病院で根本医師は傷口に薬を塗るなどして帰宅させたが、隼三ちゃんは翌朝に死亡した。その後の解剖で、頭蓋(ずがい)内に約7・6センチの割りばし片が刺さっているのが見つかった。

 判決は、根本医師について、「問診は極めておざなりだったが、慎重な問診を行っていても、折れた割りばしが残っていると疑うのは難しく、詳しい検査をする義務があったとは言えない」と述べた。同病院の体制にも不備はないとした。

 この事故を巡っては、根本医師が業務上過失致死罪に問われたが、1、2審で無罪判決が言い渡され、昨年12月に確定している。

 判決後、両親は「ただただ無念でならない。上告しないつもりだ」とコメント。根本医師は「この経験はこれからの私の医師としての生き方に役立たせたい。隼三君のご冥福を心よりお祈り申し上げます」と述べた。

2審も医師の過失認めず 割りばし事故、両親の控訴棄却(2009年4月15日産経新聞)

 東京都杉並区で平成11年、割りばしがのどに刺さった保育園児、杉野隼三ちゃん=当時(4)=が、杏林大付属病院(同三鷹市)で受診後に死亡した事故で、隼三ちゃんの両親が担当医だった根本英樹医師(41)と病院側に計約9000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が15日、東京高裁であった。小林克巳裁判長は請求を退けた1審東京地裁判決を支持、両親の控訴を棄却した。

 小林裁判長は「当時、異物が口の中に突き刺さり、脳内損傷を起こした症例は皆無に近かった」と指摘。さらに「傷の状況や意識障害がなかったことなどから、脳内損傷を予見することは不可能だった」として、1審判決に続き根本医師の過失を否定した。

 1審判決は「当時の医療水準では脳が損傷された可能性があるとは診断できなかった。正しく診断できたとしても延命が可能だったかは認めうることができない」と判断していた。

 判決を受け、隼三ちゃんの両親は「血も涙もない印象の判決で、ただただ無念。上告はしないつもりです」。根本医師は「過失がなかったことが認められ、医師としての自信を取り戻すことができた」と、いずれもコメントを寄せた。

 判決によると、隼三ちゃんは11年7月、杉並区の自宅近くで開かれていた盆踊り大会で転び、くわえていた綿菓子の割りばしがのどを貫通。同病院に運ばれたが、根本医師は消毒薬を塗っただけで帰宅させた。隼三ちゃんは翌朝になって容体が急変し、死亡した。

 事故をめぐっては、根本医師が業務上過失致死罪で起訴されたが、1審、2審で無罪となり、検察側が上告を断念。無罪が確定している。

本事件や大野病院事件など一連の医療訴訟報道もあって医療に関する関心と注目度がかつて無いほど高まっていることは、結果として医療現場の実態に対する知識と理解を深めることにつながってきたように思います。
何より当時は医療バッシングの格好のネタとしてこの事件を扱ってきたマスコミですら何かしら感じるところがあったのだろうかと、産経新聞あたりの奇妙なほど冷静な筆致の報道ぶりを見ても思うところですよね(苦笑)。
先日は参議院厚生労働委員会で、民主党の梅村聡氏が勤務医の宿直問題について質問したことがネット上で動画付きで流されていましたが、正直こうした極めて基本的なことすら当事者である医療関係者も所轄官庁である厚労省も把握していなかったという事実が、ようやく医療に国民の関心が向き始めた今になって明らかになってきているわけです。

問題はこうした関心の高まりが崩壊真っ盛りな医療現場の改善に少しでもつながっていくかということだと思うのですが、残念ながらこと救急医療の現場に関しては未だそうした気配はないようですね。
救急病院の総数が減少する一方であることはもちろん、救急医療を担当するスタッフの確保すら今やおぼつかないという状況ですから、残ったスタッフはますます過重労働を強いられ、結果として更なる逃散を招くという完全な悪循環に陥っている状況が相変わらず続いています。

救急科医師の当直回数は平均の2倍(2009年4月15日CBニュース)

 「救急科」と「産科・産婦人科」に勤める非管理職の一般医師の1か月当たりの平均当直回数は、それぞれ5.48回、4.51回で、診療科全体の平均 2.78回を大きく上回った。特に救急科では、平均のおよそ2倍に達した。4月15日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬改定結果検証部会で公表された「病院勤務医の負担軽減の実態調査」の結果(速報)で明らかになった。1か月あたりの平均連続当直回数でも、2つの診療科が他の科を大幅に上回っており、医療崩壊が叫ばれる中、特に事態が深刻とされる両科の実態が、数字で裏付けられた格好だ。

 同調査は、病院勤務医に対する負担軽減策の取り組み状況の把握などを目的に、昨年12月から今年2月に実施。「入院時医学管理加算」「医師事務作業補助体制加算」「ハイリスク分娩管理加算」のいずれかの届け出をしているすべての病院と、そこに1年以上勤務する診療科責任者、医師を調査対象として、それぞれ 516施設、2389人、4227人から回答を得た。

 これによると、直近1週間の平均実勤務時間は、医師責任者が58.0時間で、医師は61.3時間。
 診療科別に見ると、医師責任者、医師のいずれも「救急科」が最も長く、それぞれ62.6、74.4時間だった。以下、医師責任者では「脳神経外科」(62.3時間)、「産科・産婦人科」(60.2時間)、医師では「外科」(65.0時間)、「脳神経外科」「産科・産婦人科」(それぞれ63.9時間)と続いている。特に、救急科の医師は、2番目に長かった「外科」の65.0時間を9.4時間も上回るなど突出している。

 また、1か月あたりの平均当直回数を見ると、医師責任者は1.61回、医師は2.78回だった。
 これを診療科別に見ると、医師責任者では「産科・産婦人科」が2.90回で最も多く、「救急科」(2.73回)、「小児科」(2.13回)と続いた。医師については、「診療科不明」を除き、「救急科」が5.48回で最多。「産科・産婦人科」(4.51回)、「小児科」(3.48回)がこれに続いた。
 いずれも救急科、産科・産婦人科が他の診療科を大幅に上回っている。

 同様の傾向は医師の1か月あたりの平均連続当直回数についても見られた。「産科・産婦人科」については0.40回、「救急科」は0.38回で、共に全体の平均値0.13回を大幅に上回った。

ちなみに厚労省の「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」なる通達によれば、当直に関して下記のように定められています。

労働基準法における宿日直勤務は、夜間休日において、電話対応、火災予防などのための巡視、非常事態が発生した時の連絡などにあたることをさす。

医療機関において、労働基準法における宿日直勤務として許可される業務は、常態としてほとんど労働する必要がない業務のみであり、病室の定時巡回や少数の要注意患者の検脈、検温等の軽度または短時間の業務に限る。

夜間に十分な睡眠時間が確保されなければならない。

宿直勤務は、週1回、日直勤務は月1回を限度とすること。

宿日直勤務中に通常の労働が頻繁に行われる場合は、宿日直勤務で対応することはできず、交代制を導入するなど体制を見直す必要がある。

その点で見ると当直回数が平均で月5回を超えるというのは明らかに通達に反した実態があるものと推測されるところですが、厚労省はこうした行為に対して労働を管轄する立場として一言無しで済ませるつもりなのでしょうか?

こうしたことも含めて面白いのは、先頃の愛育・日赤の事例においても明らかな違法労働の実態が公になっている現状でありながら、これに対する行政側の動きが極めて悪いということです。
例えば厚労省は先の診療報酬改定で現場で激務に晒されている診療科に配慮したと自画自賛していましたが、実際にこうしてデータとして出てきますと描いたは良いが単なる画餅で終わっていたのではないかという印象が濃厚ですよね。

勤務医の待遇改善、実感薄く 中医協が実態調査(2009年4月15日産経新聞)

 病院勤務医の待遇改善を目指した平成20年度の診療報酬改定について、中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関、中医協)が実施した検証調査で、改定前よりも業務負担が軽減されたり、給与が増えるなど「待遇が改善された」と回答した勤務医が1~2割程度にとどまっていることが15日、分かった。医師不足の状況が改善されない中、報酬増の恩恵を受ける勤務医は限定されており、診療報酬改定だけでは勤務医の待遇改善を実現することの難しさが浮き彫りとなった。

 20年度の診療報酬改定では、医療秘書を配置するなど勤務医の待遇改善に向け体制整備をしている医療機関に対し、診療報酬を加算して支払うことになっている。検証調査は昨年12月~今年2月、この加算報酬を取り入れた医療機関1151施設を対象に行われ、516施設から回答が得られた。管理職の勤務医2389人、一般の勤務医4227人にも現場の勤務状況を尋ねた。

 調査結果によると、加算報酬が得られたため勤務医の給与面の改善を図った医療機関が45%。内訳をみると(複数回答)、勤務医の当直などの手当を増やしたのが75・4%、基本給を増やしたのは36・2%に上ったが、勤務医側に給与面の改善状況を尋ねると、手当について「増えた」と答えたのは7・6%にとどまり、86・6%が「変わらない」と回答した。基本給も「増えた」は12%で、「変わらない」が79・5%だった。

 勤務医に給与増が実感されていない理由について、厚労省は「医療機関側が報酬増を、勤務医以外の職員にも全体に広く薄く配分したため」と分析。手当に関しては、実際にお産を取り扱った産科医だけに支給するなど対象者が限定されるケースが少なくないとしている。

 また、業務負担の軽減状況については、診療報酬改定前より当直回数が減るなど「改善」と回答した勤務医(管理職)は16・8%どまり。「変わらない」は41・3%で、逆に「悪化」は40・8%にも上った。業務負担が改善されない理由に関しては、高齢化に伴う患者増、研修医を含む医師数の減少、事務作業の増加などの回答が寄せられた。

 ただ、診療科別にみると、「改善」と答えた割合が救急28%、産科25・6%、小児科22・4%となり、診療報酬改定で重点的に報酬を配分した診療科では一定の効果がみられた。

病院医師「勤務改善」17% 検証調査、報酬改定でも(2009年4月15日47ニュース)

 病院勤務医の負担軽減を目指した2008年度診療報酬改定の効果について、中央社会保険医療協議会(中医協)が実施した検証調査で「改定前より勤務状況が改善された」と回答した医師は17%にとどまったことが15日、分かった。

 「悪化した」(41%)、「変わらない」(同)との回答が改善を上回った。患者増や医師不足が続き、診療報酬による対応だけでは勤務医の負担解消が難しい実態が浮き彫りになった。

 調査は昨年12月から今年2月に実施、改定で新設された報酬加算を取り入れた病院のうち約500病院が回答。部長ら責任者の医師約2400人に現場の勤務状況などを尋ねた。

 診療科別では「改善」と答えた割合が救急(28%)、産科(26%)、小児科(22%)の順に多かった。いずれも改定で報酬を重点配分した分野で、中医協は一定の効果があったとみて次回の来年度改定にも勤務医対策を盛り込む方向だ。

 併せて、現場の医師約4200人に「最も負担が重い日常業務」を尋ねたところ、当直勤務が31%と最多だった。

いや、それを一定の効果と言ってしまうのもどうかと思うのですが…と言いますか、記事のタイトル自体が「診療報酬改定後も勤務状態悪化4割、改善を大幅に上回る」などとすべきでしょう?
いかに奴隷労働真っ盛りで脳内にエンドルフィンが充満している最前線医師といえども、あの改訂で現場の状況が少しでも改善するなどとはまさか夢にも思っていなかったのではないかと思うのですが、厚労省もこういうレベルで思惑通りと満足しているのであれば今後の政策の斜め上方向への疾走ぶりに大いに期待が高まるところですよ。

自治体レベルにおいてはこのところようやく公立病院に労基署の立ち入りが行われるようになってきたせいか、実態にそぐわない医師の管理職扱いをやめ残業代を支払うようになったなどといじましい話が聞こえてくるようになりました。
その結果ただでさえ莫大な額にのぼっている赤字額が過去最高を記録するなど積悪の報い、もとい、当然予想される結果となってきたりしているわけですが、その一方で例えば臨床研修制度勝ち組の一つである沖縄県のように赤字削減のために県立病院医師手当全廃という思い切ったことを言い出す自治体が出ていることも注目すべきですよね。
そんな中でも昨今なにかと話題の多い大阪からはこんなニュースも流れてきていますが、大阪府政・市政下における救急医療というものに対する認識が現れているようで興味深いところです。

救急勤務医手当 はやピンチ 大阪府・市補助せず(2009年4月15日産経関西)

 大阪府内の病院関係者らの訴えで、夜間・休日の救急医の待遇改善のため、国が今年度に新設した「救急勤務医手当」について、手当の3分の2の分担、補助が期待された大阪府と大阪市が、いずれも補助分を今年度予算に計上しなかったことが15日、分かった。都道府県の手当への補助は義務ではないが、 “制度発祥の地”である府、市が補助しない皮肉な事態。「財政難」が理由だが、制度普及を妨げ、救急医療の医師確保に影響する恐れもある。

 救急勤務医手当の創設は、昨年7月に舛添要一厚生労働相が大阪の医療現場を視察した際、府内の病院関係者らが夜間・休日の救急医の待遇改善を直訴したことがきっかけ。検討委員会を経て、わずか1カ月後の8月には、政府の「5つの安心プラン」の目玉として創設が決まった。

 関係者によると、スピード決定の背景には、大阪特有の事情があった。府内は首都圏などと異なり、2次救急の9割を民間病院が担当。医師不足で2次救急指定を辞退する民間病院が増え、本来は重篤患者を担当する3次救急機関の負担が増加した。

 救急患者の“たらい回し”も問題となり、2次、3次救急での医師不足が深刻になっている。

 大阪市内の300床クラスの民間病院で、夜間の当直医は2、3人が必要。救急1件当たり平均4万円の費用がかかり、経営的な負担は少なくはない。このため同手当で救急医の待遇を改善し、医師確保を目指した。

 ところが、大阪府は今年度予算で、同手当の「導入促進費用」として7億6800万円を計上したが、これは国の補助分として預かる金額。府の補助分として最大約15億円を上積みできるが、計上しなかった。大阪市も計上を見送った。

 都道府県の補助は義務ではないが、東京都や三重県は、それぞれ補助分3分の1を上積み計上。上積み分がないと、医療機関が残り3分の2を負担することになり、同手当導入に二の足を踏むことが懸念される。

 大阪府医療対策課は「国の要綱がまだ固まっておらず、財政状況が厳しいため、計上は見送った」。大阪市健康施策担当は「救急医療は第一義的に都道府県が広域的に担当するもの。今回、肝心の府が見合わせたため、予算計上しなかった」とする。一方、厚労省医政局指導課は「近隣の県が補助を始めれば、歩調を合わせざるを得なくなるのでは」としている。

    【救急勤務医手当】医師に支払われる給与規定に同手当を新設する医療機関に対し、その3分の1を国が補助する制度。残り3分の2は都道府県と市町村、医療機関が分担する。支給額は最大で夜間が1人当たり1万8659円、休日昼間が同1万3570円。国の補助は都道府県を通じて実施。医師不足への対策は従来は診療報酬の引き上げが一般的だったが、今回の手当は医師の所得を直接支援する形となる。

全国から医師が集まると言われる東京都では公立病院医師の待遇が全国で最も悪いことが知られていますが、市場原理ということを考えるならこれは至って当然の現象ではないかと思います(最も、多いとはいえ需要に対して決して十分ではないという話もありますが)。
大阪府にしても日本の救急医療発祥の地とも言われるくらいで救急医療に対してはそれなりの自負があるものと思われますから、手当など待遇面以外の部分で医師に自らをアピールするということであればそれで良いのではないかなという気がしますね。
いずれにしても医師にとって何の魅力もなく、自ら待遇を改善する意思もないのに「我々のところに医師が来ないのは国の施策が間違っているからだ!強制配置でも何でもさっさとやれ!」などと強権を以て医師をかき集めるような愚行がまかり通るようなことがあれば、医師の側もそれなりに自らの権利行使というものに目覚めざるを得ないことになるんでしょうね。

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2009年4月16日 (木)

臨床研修制度関連のあれこれ

いきなりタイトルと少しずれますが、臨床研修制度ということでネタを見繕っておりましたら、同じ臨床研修でも「外国人臨床修練制度」に関する話題で見つかったのが下記の記事です。
ところで中国人医師のその後についてはネットなどでも色々と噂は聞きますが、少なくとも素晴らしかった、是非またやろうと言った類の声はあまり聞いたことがないのですが、結局岩手医大ではどう総括されたのでしょうかね?

上原すみ子 外国人医師に活躍してもらうためには(2009年4月10日Buisiness i)

 医療機関専門の人材紹介会社が、日本で働きたい外国人医師を日本の医療機関に仲介し、日本の医師不足に一役買おうとしている。昨年、第1弾として、中国人医師を北福島医療センターに仲介したほか、日本語のできる外国人医師を医師不足が深刻な地方の医療機関の産婦人科や小児科に紹介しようと奔走している。

 本来であれば、外国人医師に日本の国家試験を受験してもらい、日本で働いてもらうのがベストだが、「臨床修練制度」という研修制度を利用することで実現できるという。

 前例もある。岩手県では2005年に産婦人科医不足を補うため、この制度を利用して中国の遼寧省瀋陽市の中国医科大と協定を結び、岩手医大に日本語のできる中国人医師を研修医として迎え入れた実績がある。

 元々は外国人研修医のために、日本で診療などに従事できる制度として創設されたのだが、医師不足を解消するために活用した珍しいケースで、同じように活用しようと考えている大学病院も少なくない。

 労働時間が不規則な産婦人科と小児科の医師不足は深刻化する一方。特に医師が都市部に集中した結果、地方では、小児科医が休診や廃業に追い込まれるケースも後を絶たない。

 日本は、東南アジアの国とEPA(経済連携協定)と呼ばれる、貿易だけではなく、人の移動も自由化する2国間協定を相次いで締結した。本来はフィリピンとの協定を通じて、日本に看護師を招聘(しょうへい)する計画だったが、実際にはほとんど実現していないのが実情だ。

 というのも、世界的にも優秀な医師や看護師は不足している。フィリピンの看護師さんは、同じ英語圏の香港やシンガポール、中東でも人気でいわば引っ張りだこ。日本語しか通じない日本の医療機関は不利な条件にある。

 英語が普及していないのであれば、無料で日本語を教えればいいという意見もある。外国人医師や看護師を招くのであれば、日本語のできる人だけを受け入れるのではなく、無料の日本語学校などを全国的に整備し、彼らが日本での生活を楽しめるような支援策も同時に打ち出さない限り、優秀な人材を招くのは難しいといえる。

いずれにしても医療市場が開放されると日本の医療というものの国際競争力が明らかになってくるんじゃないかと思いますが、その結果どういうことになるのか医療関係者の間でも見解が分かれています。
すでに医療崩壊先進国のイギリスなどでは自国医師が国外逃亡した結果残ったのは外国人医師ばかりといった話も聞きますが、出て行くにしろ入ってくるにしろ言葉の壁が日本にとって人材の流動化に対する制限になってきたのは確かでしょう。
わざわざ外国語を覚えて出稼ぎにいくくらいなら、なにも日本語など覚えなくとも英語でも覚えた方がよほどつぶしがきくはずで、給料も労働環境も悪い日本に優秀な外国人医師が来るはずもないと言う意見もありますが、実際には日本語が不自由でも出来る仕事というのは結構あるものだから現場の需要はあるという意見もあるようです。
しかしながら、全国的な医師不足という現象に大きな影響を与えるほどのものは期待できないという点ではほぼ見解の一致を見ているようですから、いずれ人材が流入してくるにしても過剰な期待感を抱くことは禁物ということなのでしょう。

それはともかく、以前にも書きましたように臨床研修制度がまた変更されるということは既に確定的となったようですが、その実際の内容に関してはまだ流動的な部分があるようです。
しかし現状で漏れ聞こえてくる部分にもなかなかに興味深いところが多々あるようですので、少し古いものですがこちらの記事から復習しておきましょう。

臨床研修見直し、医道審に具体案を提示(2009年2月26日CBニュース)

 2010年度から見直される新人医師の研修制度について、文部科学、厚生労働両省の合同検討会がまとめた最終報告を受け、厚生労働省は2月26日、医道審議会の「医師分科会医師臨床研修部会」(部会長=齋藤英彦・名古屋セントラル病院長)に、研修医の募集定員の設定方法などの「検討にあたってのたたき台」を示した。早ければ3月2日の同部会で合意を得て必要な政省令を改正し、来年4月から実施する。

 たたき台では、必修科目を削減したことで「弾力化」されるプログラムとして、▽現在と同様のプログラム▽2年目に、将来必要とする診療科で研修を行うプログラム▽研修開始時から将来専門とする診療科(例えば外科)で研修を行うプログラム▽選択必修の科目や地域医療を重点的に実施する研修プログラム―の4 例を示した。

 また、研修医が大都市部の病院に集中することを防止するため、「都道府県別の募集定員の上限」「病院ごとの募集定員」について、具体的な設定方法を提案した。
 「都道府県別の募集定員の上限」については、▽人口分布▽医師養成状況▽地域的条件―の3つの要素を踏まえて決定するとした。「病院ごとの募集定員」については、医師派遣の実績があるかどうかによって、募集定員に差を付ける方針を示した。

 たたき台ではまた、「単独型・管理型臨床研修病院」の指定基準を強化する方針を示した。具体的には、「単独型・管理型臨床研修病院」が単独で満たすべき基準として、▽診療体制▽症例数▽指導体制▽施設および設備―を挙げた。

 2004年に始まった「新医師臨床研修制度」は、5年以内に見直すことが厚労省令で定められている。このため同部会は、06年12月から1年間にわたって審議を重ね、07年12月に最終報告書をまとめた。これに基づく見直しが、08年4月から実施されている。
 しかし、医師不足への対策を求める声が高まったことを受け、短期的な対策として「新医師臨床研修制度」の見直しが“やり玉”に上がっていた。文科、厚労両省が合同で設置した検討会が2月18日にまとめた最終報告では、現在2年の研修期間を実質1年にできる「研修プログラムの弾力化」や、医師の地域偏在に対応するための「募集定員の調整」などを提言。都道府県や病院ごとの募集定員を具体的にどのように設定するかについては、医道審議会の「医師分科会医師臨床研修部会」で決定することとされたため、今回の部会が開催された。

研修医の募集定員、医師の「派遣」実績で(2009年2月26日CBニュース)

 2月26日に開かれた厚生労働省の「第3回医道審議会医師分科会医師臨床研修部会」(部会長=齋藤英彦・名古屋セントラル病院長)では、研修医の都道府県別の募集定員について、医師の「派遣」実績などで定員数を調整することを盛り込んだ「たたき台」を事務局が提示。これに対して委員から、上限設定の要件や「派遣」の定義などについて多くの意見が出た。

 事務局が示した案によると、研修医の適正配置を誘導するため、▽人口分布▽医師養成状況▽地域的条件など(100平方キロ当たりの医師数、離島の人口)―の3つの観点から、総合的に都道府県別の上限を設定(図1)。例えば東京の場合、人口分布を考慮すると、上限は約780人で、医師養成状況では約 1200人となる。東京の昨年度の研修医採用実績は1338人のため、特に人口分布では大きな差が出る。
 募集定員は、医師「派遣」の評価で採用実績への加算を定め、さらに上限の超過分を調整することで、次年度の募集定員を決める(図2)。超過分の調整については、「都道府県内の病院の募集定員の合計が、都道府県別の上限の1割を超えた場合、原則として募集定員を1割削減する」との例を挙げている。

 人口分布について、冨永芳徳委員(公立甲賀病院長)は「都道府県で、都道府県内の医師の責任と権限を持てるのならば、こうした設定もできると思う。しかし、例えば東京のように、周辺の県に(医師が)出ているのならば、どこが責任を持つかを論じなければうまくいかないのではないか」と指摘。
 河野陽一委員(千葉大医学部附属病院長)は「東京の大学などは、全国に医師を派遣している。数だけではなく、派遣先でどのような機能をカバーしているかという面も重要だ」と述べ、さらに医療需要の観点から地域の年齢構成などを考慮する必要性にも言及した。

■「派遣」の定義とは?

 長尾卓夫委員(医療法人恵風会理事長)は医師の「派遣」について、「大学の医局に入っている医師がどこかに行って勤めるわけで、医局に属していることがあって派遣と呼ぶのか。一般の地域の病院でも、そこにいた人がどこかへ行ったら、それを派遣と呼ぶのか。それとも、ただの異動なのか」と質問。これに対し、事務局側は大学について、「それ以外にも該当するケースはあると思う。全体としてどのように取り扱うかは、ここでの議論を踏まえて整理したい」と答えた。
 これを聞いた山下英俊委員(山形大医学部附属病院長)が、「この人が派遣なのか派遣でないのかは分からない。そういうものを基準にすること自体、わたしは反対だ。この地域では、これだけの研修医に質の高い教育が提供できる、という点を積み上げることが先にあるべきだ」とかみつく一幕もあった。

 厚労省の担当課長は「研修医といえども、雇用関係を結んで給料を頂いて、医師としての仕事をするのだから、地域偏在などの問題について、やはり何らかの調整みたいなことは考えなければならないだろう」と述べた。

「派遣なのか異動なのか」は良かったですが、近ごろでは報道においてもそろそろ厚労省の本音も見え隠れしてきているのは、国民世論の誘導を狙っているとみてほぼ間違いないところなのでしょうね。
そもそもいわゆる新臨床研修制度導入の経緯において、過去には研修医という存在が病院にとって安く使い潰せる労働力として認識されてきたという経緯があって、それを何とかしようと言うのも一つの導入理由であったように記憶しています。
研修医は安く使える下働きではなく、そうであるからこそアルバイトをしなくても食っていける程度の給料は最低限制度的に保証する、そして下働きとして日々の雑用に忙殺されることなく研修の実をあげてもらうというのが当時聞かされた「バラ色の未来」ではありました。

未だに一部では「地方が医師不足と言うなら臨床研修のカリキュラムで僻地勤務を義務づければいい」という意見もあるようですが、さすがに政府筋も過去の経緯を顧みて残り少ない羞恥心というものを刺激されたのでしょうか、研修医僻地送りは(公式には)当面無しと言うことになったようです。
その代わりに制度改革の柱として導入されそうなのが一つには研修病院の定員を削減する(=都市部の定員を削ってあぶれた研修医が地方に行かざるを得ないように強いる)こと、そしてもう一つが研修医が欲しければ田舎病院に医師を送れと研修病院に強要すること、この二点のようなんですね。
さすが頭の良い官僚諸氏が知恵を絞って考えたことなのでしょう、結果として地方に研修医が送り込まれることとなってもそれは決して国が強要したものではなく、研修医自身と各地の研修病院が自ら判断し行動した結果であると言うわけです。

いずれにしても国がそうすると言うのであれば地方は対応するしかありませんが、すでに各地では見直し案に対応する動きや政府への要望が相次いでいるようで、このうちの幾つかを紹介してみましょう。

臨床研修医制度見直し案に要望 宮城など4県知事/宮城(2009年04月08日河北新報)

 村井嘉浩宮城県知事ら4県の知事は7日、厚生労働省の審議会が示した臨床研修医制度の見直し案に関する緊急要望を行った。「都市部への医師偏在は解消されない」として、厚労省に制度修正を求めた。

 厚労省の医道審議会医師分科会は3月、医師不足に悩む地方に配慮して都道府県別、病院別に研修医の募集定員上限を設ける見直し案を公表した。

 見直し案について4県知事は「研修医募集定員の全国総数は約1万人で、卒業する医学生数よりも2000人あまり多い。都市部の削減定員数も少なく、偏在解消の見込みは少ない」と指摘した。

 医師不足が深刻な都道府県に病院別定員上限を適用した場合、さらに不足に拍車がかかる可能性も指摘。こうした県については病院別上限を適用しないよう求めた。

 4県知事は村井知事のほか、佐賀の古川康、徳島の飯泉嘉門、鳥取の平井伸治の各知事。

研修医逃すな 県が独自支援 複数病院で共通指導 /香川(2009年4月8日読売新聞)

 医師不足を解消するため、県は、県内の医療機関が連携して、2010年度から産科や救急など専門医資格を取得するための独自の後期研修制度「医師育成キャリア支援プログラム」を策定すると発表した。大都市への医師流出を防ぐのが目的で、厚生労働省は「都道府県単位で共通の研修に取り組むのは全国初ではないか」としている。

 厚労省の調査では、県内の人口10万人当たりの医師数は251人(全国平均218人)で全国13番目。ただ、県内での医師免許取得者(2007年度)に占める研修医の採用者数は94人中64人と採用率では30番目にとどまり、研修後は毎年4割前後が県外に就職するため、今後、医師不足が加速するおそれがある。

 県が策定するプログラムは、大学卒業後2年間の初期研修を終えた研修医に、引き続き県内で高度な専門医研修(6~10年間)を受けてもらう。初期研修を実施している香川大付属病院や県立中央病院など11病院が中心となり、診療科別に共通の専門医研修プログラムと指導チームをつくる。

 最初の1~2年は、中核病院で内科と外科を総合的に学んだ後、脳神経外科、整形外科、小児科、麻酔科など特定科の専門医資格を取得できる指定病院で研修。最後の1~4年は研修先を自由に選べるようにする。

 参加者には、奨励金や研究補助金を出すほか、県内での就職をあっせんするなど支援策を盛り込んでいる。専門医だけでなく、過疎地などで幅広い診療科の知識が必要な「総合医」の養成コースも設置する。

 県が昨年、15公立病院に勤務する35歳までの若手医師38人を対象にした進路アンケートでは、17人が県内就職・開業を望む一方、11人が「大都市圏でキャリアを積みたい」と回答。県医務国保課は「都市圏の大病院は症例数や指導医が充実しているが、県内で研修を受ければ、出身大学や医局の枠を超えた複数の病院で経験が積めるようになる」と魅力を強調している。

「研修減で医療崩壊の危機」 /京都(2009年4月14日NHKオンライン)

地方の医師不足を解消するとして大都市で臨床研修の募集定員を大幅に減らすという国の方針について、京都府の山田知事は、記者会見で、「中央官庁の失敗で起きた医師不足がさらに深刻化し、地域医療は崩壊の危機に直面する」と厳しく批判しました。

この問題は、5年前に始まった臨床研修制度で若い医師が研修を受ける病院を選べるようになり、地方の医師不足が深刻化したことから、厚生労働省が研修の募集定員を見直す方針を示したもので、これによって京都府では、去年の採用実績より30%余り減らされ、削減の幅が全国でもっとも大きくなります
これについて、山田知事は13日の記者会見で「医師不足は臨床研修制度の改悪から始まり、中央官庁が行った失敗施策の見本みたいなものだ」と述べました。
その上で「府内でも医師が偏在する中で、研修医が減らされれば、地域医療は崩壊の危機に直面する」と述べ、「人災のうえに人災を重ねるのか」と厳しく批判しました。山田知事は、▼医師を地方に配置するための手段が示されていないことや、▼府立大学で独自に医師を養成してきた努力が評価されていないことに問題があると指摘しました。
この問題をめぐっては、医療関係者で作る協議会のほか、京都府と府内26のすべての市町村が撤回を求める意見書をまとめ、13日厚生労働省に提出しました。

まあしかし、皆さん研修医というものを都合良く使える労働力くらいにしか思っていないことがあからさまに見て取れるのは何ともですが…
マスコミ報道などを見てみますと「地方の病院はこれだけ医師不足なのに研修医が来てくれない。とにかく何とかしてくれないと地域医療が崩壊する」といった論調で書き立てられているようですが、果たしてそう単純に「研修医が都市部病院に集中し」云々と片付けてしまってよいのでしょうか。
実際には僻地だろうがド田舎だろうが大病院だろうが小病院だろうが、研修医(あるいは医師)に人気がある病院、ない病院というものは歴然とあるわけですし、実際学生などに聞いてみても「よくもそんな病院を見つけてきたな」と思うような場所までわざわざ見学に出向いていたりしています。
今の時代病院の評価などネットで調べればあっという間に出てくるわけですから、もの凄く臨床研修の場として魅力的であるのに研修医が全くやってこない病院というものがそうそうあるかと言えば少なからず疑問であって、むしろ不人気の施設はそれだけの理由があるのだと考え自らの資質を向上させてもらわなければならないでしょうね。

ところで卒後研修は厚労省の管轄ですが、学生実習といえば文科省の管轄になります。
卒後の臨床研修医を早期に戦力化するという目的で研修期間の短縮も検討されていますが、これと関連して学生実習に関しても改める動きが出てきているのですが、このあたりも報道から引用してみましょう。

臨床実習で必要な単位数の明確化をー文科省検討会(2009年4月14日CBニュース)

 卒前の医学教育の方向性について検討してきた文部科学省の「医学教育カリキュラム検討会」(座長=荒川正昭新潟県健康づくり・スポーツ医科学センター長)は4月13日、臨床実習で最低限必要な単位数の明確化や医師国家試験での臨床能力評価の重視などを求める提言をまとめた。同省は今後、厚生労働省とも連携しながら、提言の具体化に向けた検討を進めていく方針で、来年度の臨床研修制度見直しに合わせ、卒前と卒後の一貫した教育内容の充実に努めたい考えだ。

 検討会では、医師不足問題への対応や臨床研修制度見直しの方向性などを踏まえ、卒前と卒後で一貫した医学教育への改善を図るため、▽基本的診療能力の習得と将来のキャリアの明確化▽地域の医療を担う意欲、使命感の向上▽基礎と臨床の有機的連携による研究マインドの涵養(かんよう)▽学習成果を生かす多面的な評価システムの確立▽医学教育の充実に必要な指導体制の強化―の5点について、今後の方向性や方策を提言している。

 具体的には、修了時の到達目標の明確化、内科や外科などの「全人的な総合診療能力の育成」、診療科の連携が必要な救急、周産期、精神医療などの「体系的教育の重視」といった視点から、医学部教育のガイドライン「モデル・コア・カリキュラム」を改訂し、臨床実習の充実を目指すとしている。
 また、医師不足に対応するため、卒前と卒後教育を一貫して担う大学が、地域の医療機関や医師会などと連携しながら、「地域全体で医師を養成・確保するシステムの構築」や「地域枠や医師不足診療科などの医師養成のための重点コースの設定」などを推進することを求めている。

 さらに、臨床実習で最低限必要とされる単位数の明確化や教員数の拡充など、大学設置基準の改正が必要な事項については、文科省の中央教育審議会(中教審)で「速やかに検討が開始されることを望む」としている。

 具体化に向けた今後の検討については、中教審や「モデル・コア・カリキュラムの改訂に関する連絡調整委員会」での議論のほか、医学教育改革の進ちょく状況を厚労省と合同で検証する場の設置を求めている。

医学生の臨床実習1500時間義務付け、卒後研修減に対応(2009年4月14日読売新聞)

 医学教育のあり方を検討している文部科学省の専門家検討会(座長・荒川正昭新潟大名誉教授)は13日、医学部在学中の「臨床実習」について、1500時間以上行うことを義務づける方向で大筋合意した。

 医師不足の一因になったとされる卒後の臨床研修は事実上、半分に短縮される形になったが、同研修で行われてきた基礎的な部分を卒前研修に組み込むことを狙ったという。同省は今後、大学設置基準の見直しなどを行い、新たな臨床研修制度と同様に2010年度スタートを目指す。

 臨床実習は、医学部5年目から始まるが、全国医学部長病院長会議の07年度の調査では、2250時間以上行っている大学が7大学ある一方、1500時間に満たない大学が27大学あるなど、大学によってばらつきがあった。特に、6年目は医師国家試験の受験対策に追われ、実習そのものが形骸(けいがい)化していると指摘されてきた。

 見直し案は、臨床実習の時間を増やすほか、内科や外科などの診療科目の実習を充実させ、実習終了時の到達目標を明確にする。

 また、臨床研修制度で必修から選択必修になる小児科や産婦人科などの分野についても在学中から体系的に学ぶこととし、卒業までに医師としての総合診療力を身に着けさせることを目指すとしている。

 一方、臨床実習に入る前に知識の習熟度を測る「共用試験」については、統一的な合格基準を設け、学生の質を担保する。

記事中にも少しありますが、話に聞くところによると一部の学校では実習そこのけで国試対策に万全を期しているとも噂されていて、こうした学部臨床実習の制度改革によって国試合格率というものがどのように変化するのかも追跡調査してみると面白いかも知れませんね。

まあそうした話はともかくとして、「お客様研修」「単なる学生実習の二年延長」などとも非難されてきた新臨床研修制度なるものを、開き直って学生実習の方に前倒しすることにしたというずいぶんと潔い話です。
現場を知らないよりは知っていた方が良いだろうことは誰しも総論賛成でしょうから、表立っては反対しにくい話であることは確かでしょうが、問題は実習というものを増やすのであれば当然それに対応して指導する教官というものもつけなければならないということですよね。
数十人を一人で相手できる講義室での座学と違って臨床実習と言えばせいぜい数人単位の小グループで行うわけですから、今まで以上に医療現場のマンパワーを教育に削ぎ取られることになると思いますが、先の「研修病院は医師を供出すべし」なる改革案などと併せて考えるとどこの大学も研修病院も大変な仕事量の増加になるだろうなと想像するところです。

こうしたお上主導の一連の制度改革について、最大の当事者たる学生達もコメントを寄せていますので紹介しておきます。

臨床研修見直しに抗議  医療の質落とすと学生団体(2009年2月28日47ニュース)

 医師不足対策として国の検討会がまとめた臨床研修の見直し提言に対し、全国約30大学の医学生ら約200人でつくる「医師のキャリアパスを考える医学生の会」(代表・東京女子医大4年、川井未知子さん)が、「教育体制の整わない病院にも未熟な医師を強制的に配置し、医療の質の低下を招く」などと抗議声明を出した。声明は27日付。

 都道府県と病院ごとに募集定員の上限を設けるとした提言の柱について撤回を求め、近く与野党の国会議員や医療関係者に送る。

 上限設定は研修医の偏在を是正するためだが、声明では「(偏在は)学生が公開の情報で病院を選択し、教育に力を入れている病院に希望が集まった結果。(上限設定は)研修医からよい教育を受ける機会を奪う」と批判。

 さらに「地域医療に求められているのは研修医ではなく熟練医師。日本の医療の将来にとって、研修医が質のよい教育を受けることこそが必要」としている。

念のために申し添えておくならば、こうした学生団体の声なるものが必ずしも学生多数派の声を反映しているかと言えばそうした確証はどこにもなく、むしろ医学生というものはこうした行動に対して斜に構えるタイプの人間が多いような気がします。
しかしながら様々な意味で「良い」病院に研修医が集中するのは言ってみれば当たり前の現象であって、「悪い」病院の質的改善を担保することなく定員数コントロールによって強制的にそちらへ誘導するということであるなら、これは「研修医からよい教育を受ける機会を奪」っているとしか言えない話なのは確かですよね。
ちなみにこれも余談ながら、「地域医療に求められているのは研修医ではなく熟練医師」と言うのも地域住民の多くが首肯するところでしょうから、むしろこの際たとえば加入の要件に僻地診療歴○年を要するなんて条項を追加しておけば、医師会あたりも国民の熱烈な支持を受ける好機となるかも知れませんが(苦笑)。

そうした余談はともかくとして、こうした学生の動きに対して「ロハス・メディカル ブログ」でいささか苦言を呈していますので紹介しておきます。

医学生が署名しない”怪”(2009年04月15日ロハス・メディカル ブログ)

今朝の朝日新聞朝刊「私の視点」に東大医学部4年・竹内麻里子さんの投稿が載っていた。
ロハス誌次号でも扱う臨床研修制度見直しについての意見だ。
彼女は、拙ブログでも何回か紹介している『医師のキャリアパスを考える医学生の会』の中心メンバーとして11日の「志民の会」でも登壇していた。

「医学生の会」が、医師として十分なトレーニングを受けられないような病院に研修医が強制配置されるのでないかと心配するのは、非常に理解できるものがある。

一方で理解に苦しむのは、その彼らが行っている計画配置反対の署名活動への賛同が未だ1000筆ちょっとに留まっているらしいこと。しかも聞く所では医学生の署名が極端に少ない

全国の医学生は1学年約8000人、6学年合わせれば5万人近い。彼らは、なぜ自分たちの身に起ころうとしていることに対して自ら意見を表明しないのか。関心がないのか、トレーニングなんかどうでもいいと思っているのか、ハッキリ言って訳が分からない。後からグチグチ文句を言われたとしても、外部の人間としては「なぜその時に言わないんだ。知るか」となる。

医療界が自分たちの思っているほどには社会から信頼されない理由の一つが、この辺にも見え隠れしていると思う。

いやまあ、学生が政治運動に邁進しないことを以て「医療界が社会から信頼されない理由の一つ」だと言われましても、と言う感じではありますが…(苦笑)。
はるか昔から「医療ヤバイよ」と声を上げ続けてきたにも関わらず世間から無視され続けてきた内部の人々にすれば、それこそ今の医療崩壊に周桑狼狽為すところを知らずという外部の人間の現状こそ「今ごろ何周遅れなんだ。知るか」ではあるとも思いますけれどもね。

それはともかくとして、なぜ署名が少ないかと言えば推測される理由の一つに「ではどうするという意見もまとまってもないのに反対だけの署名ができるか」ということは確実にあると思いますね。
昨日取り上げた「医療志民の会」シンポジウムにおいても明らかになったように、まさにこうした「内部で団結するということをしない」のが学生と既卒医師とを問わない医療業界の問題(外部の人間からすれば)なのかも知れませんが、とにかく反対しているという一事を以て何でもかんでも手を挙げてしまうほどには医療界の人間も世間知らずではなかったということではないでしょうか。
何かあればとにかく団交というのが当たり前の外部の人間にとっては非常に歯がゆく見えることなのかも知れませんが、これに対してはひと頃ネットで常套句のように言われていた次のような言葉が一つの答えになるのかも知れません。

「団結なんかしたら敵に交渉相手を与えるだけ」
「さっさと逃散するのが一番早くて確実」

ひと頃あちこちの病院から医師が黙って辞めていく現象(小松先生の言う「立ち去り型サポタージュ」)を称してネットでは「逃散」と言う言葉が流行しましたが、「なぜ団結して声を上げないのか?」という医療業界外からの声に対する逃散派の答えが上のようなものでした(現在に至るも必ずしも医療業界の総意とはなっていませんが)。
もちろんネットらしく揶揄めいた部分もないではないですが、現実にどうあがいても医療業界総体としてのマンパワーは明らかに需要に対して過少なのですから、需要に100%応えようとして200%奮闘努力してしまうよりも需要そのものを引き下げると言う考え方があってもいいし、現状でとっくに過剰労働が常態化している以上はそうした縮小均衡を図る方がはるかに健全な発想だとも言えるでしょう。

逃散というと何かしらもの凄く後ろめたいことをしているように感じられる方もいるかも知れませんが、現実問題として医療崩壊という現象がこうまで公になってくるまでは国民の医療に対する関心などどの程度であったかは、診療報酬削減政策が長年支持され続けてきたことでも明らかです。
医療のリソース不足を国民に強く印象づけ結果として最も早く医療を正常化する一つの戦略として「各人が無理をしない」という考え方はありだと思うし、そのための方法論として逃散が極めて有効であることは認めざるを得ないと思いますね。

医者も医学生も世間知らずではあるかも知れませんが必ずしも馬鹿ばかりではありませんから、気の利いた医学生であればあるほど制度がどうあろうが幾らでも対応できる抜け道は見つけられるものであるし、何よりしがらみのない学生達が世界で最も医療労働環境の悪い国の一つである日本での就労に固執する理由もありません。
このあたりは数少ない医療業界発のデモに参加している人々と言うのは大抵が公立病院の関係者で、しかも医師はほとんど含まれていないという事情と共通する背景があるのかも知れませんね。

医師がせいぜい30万人弱というのは国を動かすにはいささか過少なのは医師会御推薦候補が見事に落選したことから政府与党にも認められたという時代にあって、最大限たかが数万の学生が団結して声を上げるという行為にどれほどの実効性があるのかと考えてみてはどうでしょうか。
そんなことをするよりはるかに確実で実効性を伴うやり方があることが知れ渡っているとしたら、外部にアピールするという以外にさして意味のない活動に精出す学生がそう多くないだろうことは、近ごろ言われる若者気質からしてもむしろ当然じゃないかと思いますね。

それでは団結して声を上げることなど全く無意味なのかと言えば、業界内部よりも世間的な意味ではそうとばかりも言えない面も確かにありますよね。
組織として行動するよりも個人として行動した方が個人にとってはるかに有益な結果をもたらすという状況にあって、それでも敢えて人が団結して行動する道を選ぶ理由というものがあるとすれば、それはたぶん自分自身のためだけに行われる行動ではないんじゃないかという気もしています。
さっさと逃散して状況を生暖かく見守りながら安楽な生活を送ればいいのに馬鹿じゃね?と思っている賢い人たちももちろん少なくないでしょうが、幾ら他人に良いように利用され苦境を訴えても無視されてこようがそれでも声を張り上げてしまうような「世間知らずな馬鹿野郎達」もまた、それなりに愛すべき存在ではないのかなとも思うんですけれどもね。

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2009年4月15日 (水)

愛育病院・日赤医療センター関連の話題で少し追加(追記あり)

先日の愛育病院問題に関連して、自称医療に強い読売新聞が解説記事を載せていますので紹介しておきましょう。

[解説]「周産期」指定返上問題/東京(2009年4月14日読売新聞)

過重労働医療の危機 診療科別に計画配置必要

 総合周産期母子医療センターの愛育病院(東京都港区)が、労働基準監督署の是正勧告により夜間の常勤医確保が困難として、指定返上を都に打診した。(医療情報部 館林牧子)

 【要約】

 ◇愛育病院は医師の夜間勤務が「時間外労働」と見なされ、是正勧告を受けた。

 ◇産科・救急医不足が背景にあり、抜本的解決には、医師の計画配置が必要だ。

 愛育病院によると、労基署から3月、産科医、新生児担当医の夜間勤務が、労働基準法で定める労働時間を超えているなどとして、指導・是正勧告を受けた。

医療機関では慣習的に、夜間勤務は労働時間に当たらない「宿直」扱いにしていることが多い。定時の見回り程度の仕事で睡眠も取れるのが建前だ。

 しかし、急患を常時受け入れている同病院の夜間勤務は、睡眠などは取れないのが実態であり、労基法上の「時間外労働」にあたると見なされた。労働時間に含めなければならず、日勤の25%増の割増賃金を支払う必要がある。

 総合周産期母子医療センターは産科医が24時間いることが条件だが、同病院では労基署の指導に従った場合、夜間帯も常勤医が常に勤務することは困難と判断。都に指定の返上を打診した。都からは「夜間は非常勤医でも問題ない」として、総合センター継続の要請を受けており、今月下旬には結論が出される見通し。

 しかし、今回の問題は愛育病院だけの問題にとどまらない。全国周産期医療連絡協議会が昨年、全国75か所の総合センターに行った調査では、97%の施設が、同病院と同様に、夜間勤務を「宿直」扱いとしていた。皇室関係のご出産でも知られる同病院は、比較的医師数も待遇も恵まれた病院であるにもかかわらず、労基署から是正勧告を受けたことが、医療現場には余計にショックを与えた。

 背景には、分娩に携わる産婦人科医の絶対的な不足がある。厚生労働省によると、2006年までの10年間で、全体の医師数は15%増えているのに対し、産科・産婦人科医の数は約1万1300人から約1万人へと11%も減少している。

 さらに、働き盛りの20歳代の産婦人科医の7割、30歳代の5割が女性だが、女性医師の約半数は、自分の出産を機に分娩を扱わなくなることも、産科救急医の不足に拍車をかけている。

過重労働は現場の疲弊を招き、医師の健康のみならず医療の安全も損なうことにもつながる。杏林大の岡本博照講師(公衆衛生学)が4年前、東京都と大阪府の6か所の救命救急センターの勤務医を調査したところ、平均当直回数は月10回、休日は月に2日だけ。月に1日も休みを取らず、22回も当直勤務をこなしていた医師もおり、労基法とはかけ離れた実態が明らかになった。休日が3日以下の医師は、免疫機能が低下し眠気も強いなど健康上の問題もわかり、岡本講師は「診療内容にも大きな影響を及ぼしかねない」と指摘する。

 愛育病院では、夜間専門の非常勤医師を雇い、現在の当直体制は維持する方針。だが、夜間の非常勤医師は、昼間は別の病院で働いており、病院を昼夜で移るだけで、医師の過重労働の抜本的な解決策にはならない

 杏林大高度救命救急センターの島崎修次教授は「労基法を守るなら、救命救急センターには今の1・5倍以上の医師が必要だ。医師確保が難しい中で、労基法の順守だけを求められても現場では解決のしようがない」と話す。

 読売新聞が昨年10月公表した医療改革提言では、医師を増やすとともに、地域や診療科ごとに定員を設け、計画的に専門医を養成することを提案している。過酷な勤務実態を改善するには、産科や救急など激務の診療科に適正に医師を配置する仕組みが必要だ。

ま、最後の「医者など黙ってラーゲリ送りでFA」云々の持論に関しては華麗にスルーしておくのがよろしいかなという感じなのですが(苦笑)、相変わらず判ってるんだか判ってないんだか微妙にピンぼけしているような記事ですかね。
しかしながら敢えて評価する部分を探せば、医師の過重労働問題が回り回って結局は患者の不利益になるという話が少しばかりでも表に出てくるようになったのは、一応はマスコミの進歩と言えるのかも知れません。
別に医療業界に限った話でもなく日本人が勤労を美徳としているのは素晴らしいことだとは思うのですが、一面でそれが「仕事をしていない=悪」という考えに結びつきやすいのは欠点ですよね。

消防隊が常時稼働状態でいつも消防署に一台の車も残っていないという状況を目の当たりにすれば、「これって何かヤバイことなんじゃね?」とは誰でも想像できると思うのですよ。
ところが国が「病床稼働率をもっと上げろ!空きベッドを抱え込むなどまかりならん!」と空床ゼロを目指さなければ経営的に成り立たないように診療報酬を改定してしまうことに対しては、医療の無駄を省くなどという甘い言葉に乗せられてしまっても平然としている。
そのくせ空きベッドがないということは当然急患など取れないのだという当たり前の事実が公になってくると「おかしいじゃないか!医者は何をやっているんだ!」と大騒ぎし始めるわけですが、何をやっていたも何も国民の皆さんが支持し望んだとおりの政策が実を結んだだけなんですけどね。
日本には「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という言葉がありますが、どうせ熱さを経験するなら向こう何十年かは忘れようにも忘れられないというくらいに骨身に染みて実感しておく良い機会であるというくらいに前向きに捉えておくと、医療の現状もあまり思い悩まずに済んで良いかもしれません。

さて、愛育病院と並んで日赤医療センターも労基署から是正勧告を受けているわけですが、これに関連して「新小児科医のつぶやき」で詳しくも面白い記事を載せていただいていますので紹介しておきます。

 

日赤医療センター 労基署への挑戦(2009年4月4日の記事)

 

なかなか一口に要約しづらい話ですが、有名コテハンさん達が集うコメント欄も含めて色々と興味深い話が続いていますので是非ご一読いただくのがよろしいでしょう。
実際のところこうして経緯を概観してみただけでも厚生労働省内部に何かしら首尾一貫しないものを感じてしまうのですが、確かにYosyan氏もご指摘のように合併省庁だけに旧省庁それぞれからのしがらみも相当に引きずっている可能性というのはあるかなと思います。
特にコメント欄のこの辺りの話などはなかなか面白そうで、関係者が何か勘違いをしているといったものでなければこれは尾を引くかも知れないですよね。

法務業の末席法務業の末席  2009/04/04 11:02

  愛育病院に対して「東京都及び厚労省の対応」ですが、下記2の説明アドバイスを行った「厚生労働省の担当者」とは、一体厚労省の何処の部署の誰のことなのでしょうか?

>1.都は25日、「労基署の勧告について誤解があるのではないか。当直中の睡眠時間などは時間外勤務に入れる必要はないはず。
> 勧告の解釈を再検討すれば産科当直2人は可能」と病院に再考を求めた。
>2. 厚生労働省の担当者からは25日、労働基準法に関する告示で時間外勤務時間の上限と定められた年360時間について、
> 「労使協定に特別条項を作れば、基準を超えて勤務させることができる」と説明されたという。

周産期センターの指定返上に絡んでの東京都の担当者と相談したのは3月25日のことです。このときに愛育病院が相談したのは東京都福祉保健局医療政策部であって、東京都労働局(三田労働基準監督署の上級庁)や厚生労働省労働基準局(東京都労働局の上級庁、所謂「本省の局」)と相談したとの報道は確認できません。ですので上記の2つの見解やアドバイスは、指定返上の相談を受けた東京都福祉保健局医療政策部が、慌てふためいて周産期センター全般を所管する厚生労働省の雇用均等女子家庭局、或いは病院や医療を所管する医政局に問い合わせた結果、その両部局の厚生労働省の担当者が説明した2の解説アドバイスであると推測されます。

ご承知のこととは思いますが、労働基準法を所管しているのは厚生労働省ですが、労働基準局が所管であって、雇用均等女子家庭局や医政局は労働基準法や労働基準行政について、何ら公式に発言したり法律解釈を行う権限がありません。また、36協定での時間外労働の上限時間である年360時間等の限度基準の設定は、平成10年労働省154号の労働大臣の告示であって、特別条項での上限超過についても法的な根源はこの大臣通達と、平成11年4月改正で追加された労基法36条2項「労働大臣は、・・・・・・基準を定めることが出来る」という労基法条文になります。ですので36協定で延長できる上限時間の基準を見直す場合は、単なる官僚の通達(局長通達)ではダメで、改めて厚生労働大臣(現時点では舛添大臣)の名において、平成10年の労働大臣告示を改正する新たな大臣告示が必要になります。所管の労働基準局であっても、課長や課長補佐クラスが電話口で東京都福祉保健局医療政策部に対して安請け合い出来る事項では無い筈です。

すなわち、36協定での上限時間数や特別条項での上限時間を弾力的に解釈に言及することや、労基法や36協定に関する労働基準行政の運用の弾力化ついては、雇用均等女子家庭局や医政局が勝手に発言することは出来ません。もし仮に、雇用均等女子家庭局や医政局所管が管轄外の労基法解釈について、労働基準局との打合せや承認が無いまま解説アドバイスすることは重大な越権行為であって、そうした権限外の労基法解釈アドバイスの有効性は認められないのが霞ヶ関のルールです。

こうした理由から、先の愛育病院に対する「厚生労働省の担当者からは・・・特別条項を作れば・・・できると説明された」という報道は、労働基準局の担当者からの公式の説明ではなく、雇用均等女子家庭局や医政局の医療系官僚が、個人的な「思い」として東京都福祉保健局医療政策部の担当者宛てに口にしたコメントが、医療系のマスコミ関係者や病院関係者の間で、いつのまにか労基法を所管する「厚生労働省の担当者」が、という形に膨らんでしまったのではないかと推測されます。

この「厚生労働省の担当者」が一体どの部局の誰なのか私自身も明確な情報を得ていませんが、印象としては労基法を所管する労働基準局の担当者の解説アドバイスとは到底思えません。今後の報道で明かになるであろう事実経過や、厚生労働省から出される公式の情報などを注視するべきと思います。

Yosyan   2009/04/04 12:41

  法務業の末席様

 >印象としては労基法を所管する労働基準局の担当者の解説アドバイスとは到底思えません。

私もそうなんです。簡単に経緯をまとめると、

 3/13:日赤に是正勧告
 3/17:愛育に是正勧告
 3/25:東京都と「厚労省の担当官」のアドバイス
 3/26:マスコミ報道

ここでそもそもなんですが、東京都の担当者が愛育の総合周産期返上の動きに対して愛育に相談をしても何の不思議もないのですが、ここで厚労省(本省)の官僚がシャシャリ出てくるのは誠に不思議です。シャシャリ出た上に労基法軽視のアドバイスをするなんてのは、官僚秩序からあり得るかの素直な疑問です。労基署の決定を骨抜きにするような方針のアドバイスを、是正勧告後1週間で行なうのは責任問題と言う観点からリスクが高すぎます。

政治的に動く事はありうるかもしれませんが、それならそれで責任回避のために絶対に表に出ない隠密行動でなければならないはずです。隠密行動を起すにしても時期として早すぎるかとも感じます。隠密行動のためには省内の根回しが絶対必要ですから、1週間で動くには監査の時点から行動する必要が生じます。それなら監査自体をやらなければ良いの理屈になります。もっと言えば監査の時点で是正勧告内容に細工をした方が問題対処が容易になります。

そうなると 3/25に愛育と相談したのは、法務業の末席様が指摘されたように、東京都の担当者だけで、東京都の担当者が内々に「厚生」労働省の官僚に相談しただけだった可能性が高くなります。ここで是正勧告に震え上がっている愛育サイドを説得するために、東京都の担当者が「厚労省の担当者」の話をお墨付として多用したのがもっともあり得ます。

一つだけ不思議なのは、マスコミ報道の「厚労省の担当者」の話の内容は、厚生「労働省」サイドからすると、おもしろくないと言うか看過できるものではないと感じます。それに対するリアクションが今のところ乏しい事です。この辺りをどう考え、判断するかの続報が待たれるところです。

法務業の末席 2009/04/04 13:10

>厚生「労働省」サイドからすると、おもしろくないと言うか看過できるものではないと感じます。
>それに対するリアクションが今のところ乏しい事です。

私が想像するに、「厚生労働省の担当者の話」は東京都担当者或いはマスコミ関係者の、脳内メイキングであることを、霞ヶ関の本省労働系部局では当初から承知しているから、省内でのリアクションが出ていないのではなかろうか。また東京都に対して厚労省の労働系部局から、医政系部局を経由しないで直接イチャモン付けたり、ネジ込むことも官僚のルール違反ですから、表面化していないのではないかと想像するのですが・・・。

ただ表だってイチャモン付けなくても、心の内では「このヤロォー」と労働系官僚や労基署が憤慨し、その怒りの感情が「病院や都がそんな小細工するなら、今に見ておれぇ~」となって、医療現場にしっぺ返しと言うかリアクションが来ることを、私個人としては非常に危惧します。

(追記)この厚労省の奇妙な動きに関しては、「ロハス・メディカル ブログ」さんでも取り上げていただいているようですが、事実に関して重大な情報が掲載されていますので引用いたします。

厚労省医政局長から愛育へのアドバイスの中身(2009年4月10日の記事) より抜粋

愛育病院側の唐突な指定返上の申し出に慌てた都や厚生労働省は、翌日に中林院長ら病院側と会談の場を持ちました。

その会談内容について、26日付の朝日新聞の報道で、
「厚生労働省の担当者からは25日、労働基準法に関する告示で時間外勤務時間の上限と定められた年360時間について、『労使協定に特別条項を作れば、基準を超えて勤務させることができる』と説明されたという」との内容が流れていました。

この報道内容をそのまま受け止めると、
厚生労働省が病院に「過重労働してもいいですよ」と言ったということになります。
医療者の過労死裁判に多くかかわってこられた、松丸正弁護士にこの話を伝えますと、
「行政が『過労死してもいい』と言っているようなものではないか。行政のそういう態度が問題だ」
と、大変憤慨しておられました。

ただ、朝日新聞の報道では、「厚労省の担当者」としか書かれておらず、厚生労働省内の旧労働系の労働基準局なのか、旧厚生系の医政局の、どちらが言ったのかが分かりませんでした。

①結果的に医師の過重労働を容認するような形となる助言を病院長にした
②内容として、明らかに労働マターの話

一体どちらの局の「担当者」がそういう発言をしたのか、確認しなければならないと思っていました。

そこで、会見時に中林院長に尋ねると、

医政局長です」と。

!!!!!
担当者レベルではなく、医政を束ねる局長がそうおっしゃったのか、しかも、これは労働基準局側にも触れる内容ではないのかと、大変驚きました。

中林院長は、
外口局長が
『生きた行政をやっている医政局として、今の(労使協定の)条項では病院を運営していくことはできないので特別条項を使ってクリアしたらどうか』
と、アドバイスをしてくださった

とお話しされました。

これは、かなり問題ではないか?と感じました。
(記事のコメント欄に、法務業の末席様からもご指摘を頂戴しました内容ですね)

しかし、これは中林院長からのお話ですので、外口局長に事実を確認せねばなりません。
そこで、医政局書記室に上記の内容が事実であるかどうかをメールで、文字にして尋ねました。

すると、翌日にこんな回答を頂戴いたしました。

======

「外口局長が

生きた行政をやっている医政局として、
愛育病院が医師の処遇に努力されていることも理解しているが、三六協定の締結は求められており、勤務する医師の過半数を代表する者と合意することで特別な定めをすることができるようなので、監督署とよく相談してみたらどうか

と、アドバイスをしてくださった。」

という趣旨の発言をしたとの確認をいたしましたので、回答いたします。

======

ほー。
「特別条項」という文字は抜け、「こんな抜け道がありますよ」というニュアンスもやわらいでいます。

事ここにいたってと言う感もなきにしもあらずですが、最近になってようやく医療業界の外側からも「このままじゃ医療ヤバくね?」という声が聞こえてくるようになりました。
医療を守ろうと市民自らが立ち上がった兵庫県丹波市の例などもその一つですが、実のところこうした市民運動にしたところで別段特別にものすごいことをやっているというわけでもなんでもありません。
しかし医療の受益者である国民の間にようやく当事者意識が出てきたことの意味は、決して小さなものではないということですね。

この結果世の中の何が変わったかと言えば、かつてないほど医療ネタがニュースバリューを持つようになってきています。
医師が危ない-密着、高知医療センター脳外科」という一連の連載で好評を博した高知新聞などもその一例ですが、今まで「白い巨塔」がどうの「赤髭」がこうのと空想の世界で遊ぶばかりだったマスコミがようやく実際の医療現場に足を運んで取材するようになったことも、そうした視聴者層の意識変化に基づくものなのかも知れません。
医療業界内部では久しく以前から国民に警鐘を鳴らしてきた人々が存在していましたが、ようやくそうした声が届くべき人たちに届き始めたということなのでしょうか。

しかし一方でこうした労働問題に見られるように、業界内部では相変わらず昔ながらの発想でやっている人間が多いのも事実です。
せっかく世間では医療が危ない、何とかしなければいけないという気持ちになってきているというのに、一番の抵抗勢力が当の医療業界それ自体であったということになると目も当てられませんよね。
雇用側も被雇用側も最低限必要な関係法令は当然承知していなければならないし、法令よりも業界内部事情を優先させるなどという考え方を公然と語るという行為がどれほどおかしいことなのかという社会常識も持っていなければならない。

現代医療は卓越した個人の技に支えられた名人芸ではなく、幾多の凡人によって形作られる広大な裾野に支えられた社会システムです。
天才や超人、聖職者などにしかこなせないような特別な業務などというものは、社会全体で共有できるほど大きな規模で長続きさせることは決して出来ません。
心ある医療関係者は社会に向かって「変われ変われ」という以上に、何よりもまず同業者に向かって「変われ変われ」と言い続けなければならないということなのでしょうね。

医療志民の会 発足記念シンポジウム/東京(2009年4月12日ロハスメディカル)

 医療の抱える課題を克服するために国民的大合同をめざそうという『医療志民の会』が発足し、その記念シンポジウムが11日に開かれた。楽観的に言っても、悲観的に言っても、千里の道も一歩からの「一歩」は確かに踏み出した、ということに尽きるだろう。

 医療のステークホルダーには①提供者であり禄を得ている医療従事者②受益者である患者③大部分の費用負担をしている健康な国民・企業、の三者がある。

医療費抑制策と医療従事者への過度な要求とが続けば医療供給が細って行かざるを得ないということは、医療従事者のほぼ共通認識となったようだが、患者に共有されたとは言えないし、まして健康な国民や企業が心底から共感できるものでないと言わざるを得ない。右肩上がりの終わった社会では、費用負担者の理解を得ずにお金が回ってくるはずもないのだから深刻だ。

 原因は、当事者がきちんと説明していないからであり、そのまた原因は利害を共有できるはずの医療従事者と患者が協同していないからであり、もう少し厳しく言えば、医療従事者間でも利害と思惑が錯綜し、患者もまた一枚岩ではないからだ。ということで、国民的大合同をめざそうという理念・動きが出てくるのは当然とも言える。

 では、この日のシンポジウムで、国民的大合同の姿がかすかにでも見えただろうか。

 パネルディスカッションの司会をした黒岩祐司氏の総括の言葉だ。「論点が、あまりにも多岐に渡ったので方向性を出していけてないが、しかし良い流れなのかなあとは感じている。医師が権威の中にいた時代から、逆に患者の権利が過剰に言われて萎縮医療と医療崩壊の時代を経て、今改めて一つの場で、様々な立場の人々が立場を超えて情報交換し、変えるところは変え、我慢する所は我慢していこうという所に来た」

 努めて前向きな言葉遣いをしているが、要するにバラバラということが改めて分かった。そこは収穫だねという話だ。

 で、そのバラバラが、ステークホルダー三者の間のバラバラなのかというと、パネルディスカッションに登壇した15人の内訳は、医師8(勤務医6、開業医2)、歯科医師1、看護師1、ソーシャルワーカー1、患者2、メディア1、医学生1ということで、恐ろしく医療従事者側に偏っていた。

 患者である塩見健三・がんまんクラブ代表が、いみじくも最後に感想で述べていた。「この場にいながら勉強させていただいた。医療の世界が、これほどまでに複雑で矛盾をいっぱい抱えているんだなあと感じている」。私も全く同感であり、医療界内部のバラバラが主に見えたシンポジウムだった。費用負担者まで巻き込んだ運動にしていくためには、まだまだ何段階かの質的変換をとげる必要がありそうだ。

 ここからは、シンポジストたちの発言の中で印象に残ったものを、発言の出てきた順にいくつか拾っていく。

畑中暢代看護師
「先進医療である膵島移植のコーディネーターをしている。移植チームは、米国のベイラー大学で活動していて、その活動資金は多くが市民の寄付によって賄われている。寄付を募るために、まず市民講座を開き、それから老人ホームを訪問したり、ダンスパーティーに出席したり、市民開催のイベントに参加したりして、多くの市民に研究の意義やそこに関わるスタッフのことを知ってもらっている。実際、私も空港の入国審査で『膵島移植チームの方ですね』と言われたことがある。それだけ活動が一般の人に知られている。院内だけでなく外へ出て行って話をしないといけない」

(黒岩氏の、日本医師会が諸悪の根源でないかという問いかけに対して)
神津仁・神津内科クリニック院長
「日本医師会は若い医師の代表ではない。そうなるのは階段を一つずつ上がらないといけないようになっているから。私も区医師会の副会長になった時に雑巾がけもしないでケシカランと言われた」

長尾和宏・長尾クリニック院長
「私自身も医師会の人間だし、医師会には頑張ってもらいたいんだけど実際には非常に難しい。医師会こそchangeが必要で、やれるもんならやりたいが、そういう類のものではない」

神津
「皆がこの問題にフォーカスすれば変えられる。こういうことを話す場が今までなかった」

崔ヘイ(〓)哲・滋賀県立成人病センター放射線治療科部長
今の医者はスーパーマンでないと働けない。そういう職場に普通の人は入って来れない。市民と病院と自治体と合体して医療を何とかするという時には、必ず現場にシワが寄るようになっている。マスコミも叩きやすい所だけ叩いて、市民に対して責任や負担を果たせと伝えてきたか。医療は既に崩壊している。もう戻れない。戻れないことを前提に医者が生きていけるようにしないとゼロになる」
アクセス、コスト、クオリティのどれを選ぶのか、国民も選択の時に来ている

豊島勝昭・神奈川県立こども医療センター新生児科医長
「昔と比べて医療が良くなってきた部分も相当ある。でも、その良くなっている部分が人々の欲望を満たす方に分散して、本当に昔から必要だった分野の人がいなくなっているというのもあると思う」


「それは政策。全てを取ることはできない。我慢する所を我慢しろと伝えるのは、政治家とマスコミの仕事

豊島
「人間が協力して人間を守るという原点に立ち返りたい」

大谷貴子・全国骨髄バンク推進連絡協議会会長
「お金がない、お医者さんがいない、改めて切実さに鳥肌が立った。ただ、どうしてこんなにお金がかかるのかという時に、禁煙をなぜ推進しないのかという話もそうだし、たとえばイギリスでは、がん検診を受けて見つかった人の治療費は無料で、受けてなかった人は有料になるという。こういう政策をすれば皆楽になるんでないか」

ここから二部でシンポジスト交代。

小松秀樹・虎の門病院泌尿器科部長
「現実を認識するという努力は大変。こうあるべきだと言ってしまった方が安直。しかし厚労省の言ってくる、こうあるべきは、現場ではとても守れないようなものばかり」

竜宗正・千葉県がんセンター前総長
現場でドロドロになってやってきたたたき上げの人の声を政治に届けないといけない。患者・国民も医療を守るために義務を果たす必要がある。ただしそのためには医療側のピアレビューも必要で、悪い医者を皆で庇っている所があった。今後は、こいつの所へは行くなという位に情報開示しないと国民の信頼を得られないのでないか。ほとんどの医療者は見られても困るようなことをしてないのだから、どんどん情報開示したらいい。
看護師の専門性についていえば、看護協会が専門看護師、認定看護師を育成しているけれど、あれを取っても給料にもポジションにも反映されない所が大問題だ。全国に100人もいない専門看護師が、師長の下に従属させられて思うようなことをできないでいる」

足立智和・丹波新聞記者
「柏原病院の守る会は、別に大したをことしているわけではない。ありがとうと手紙を書いたり、お友達に無闇に病院に行ったらあかんよと伝えているだけ。そこら辺の地に足のついた所からやっていかないとダメなんじゃないか」

小松
「人と人とが感情でつながり合うということが非常に大事であることは間違いない。しかし、それだけでもない。そういうことを押さえるためにもデータが必要。たとえば先ほどの大谷さんの話を聴いていて違和感があったのは、禁煙すると医療費は減るかということ。喫煙に起因する疾病は減るだろうが、その分長生きするときっと別の病気にかかるからトータルでは医療費が増えるかもしれない。そういうことはデータに基づいて議論しないと間違える」

 ということで、勉強会として捉えるならば非常に盛りだくさんで刺激的だった。が、これで何かが変わるかといえば、やはりこれから各構成メンバーたちがいかに小異を捨てて大同に付けるか、その大同に外部の人間を巻き込んで来れるかということになるのだろう。

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2009年4月14日 (火)

静岡県立こども病院崩壊?! しかも何やらきな臭い匂いも…

静岡市内の新生児・小児ハイリスク症例を扱う静岡県立こども病院のNICUが突然崩壊してしまいました。
田舎病院に医師がいなくなったといった話題と違ってこの種の基幹病院と言えば昔は黙っていても行ってみたいという希望者が多かったところですが、今の時代は国立循環器病センターICU医師集団離職事件などにも見られるように何事にも例外と言うことがありません。
しかも報道を眺めてみれば何やら色々と楽しそうな気配もありますので、本日はこちらの話題から紹介させていただきます。

新生児ICU 新患休止 こども病院 医師5人減で/静岡(2009年4月11日読売新聞)

 県立こども病院(静岡市葵区漆山、243床)は10日、新生児未熟児科の医師が退職などで3月末時点の7人から2人に減る見通しとなったため、NICU(新生児集中治療室)の患者受け入れを13日から当面休止すると発表した。同病院は昨年12月、妊産婦や新生児に対する高度な治療を行う「総合周産期母子医療センター」に指定されたばかりの県中部の拠点病院。県内の周産期医療体制に大きな影響が出るのは確実だ。

 記者会見した吉田隆実院長らによると、新生児未熟児科には3月末時点で常勤5人、後期研修医2人の計7人の医師がいたが、科長が他病院に異動し、常勤医1人は派遣元大学へ戻った。別の常勤医1人も今月中に退職の意向。さらに研修医2人も別の病院に勤務するため退職する見通しという。

 同病院のNICUは12床。体重1500グラム未満の未熟児を年150人前後受け入れ、特に管理の難しい1000グラム未満が年20人程度いる。医師2人では入院中の患者への対応で手いっぱいになるとして、新規患者受け入れの休止を決めた。

 記者会見で吉田院長は「休止は一時的なもの。6月末までに医師を確保し、7月からNICUの受け入れを再開したい」と述べたが、確保の具体的な見通しは立っていないという。一方、これとは別に同科の山口解冬(ときと)副医長(33)も10日に記者会見し、「吉田院長が前科長を異動させたため、十分な体制での診療ができなくなり退職が相次いだ。残りの医師で十分な診療が続けられるかわからない」と訴えた。

 総合周産期母子医療センターはこども病院のほかに、県内では順天堂大静岡病院(伊豆の国市)と聖隷浜松病院(浜松市中区)にある。体重1000グラム未満の新生児が静岡市など県中部で生まれた場合、今後は救急車でも1時間以上かかる両病院に搬送することになる。NICUを持つ静岡市内の病院の新生児科医(36)は、「こども病院に入院させるべき患者を静岡市内の病院にどんどん回すと、地域の周産期医療体制はいずれ崩壊する。患者を振り分けるルールを作るべきだ」と話している。

静岡県立こども病院と言えば、つい最近も先天性心疾患患児に対する難手術が成功したことがニュースになったくらいで、小児患者に対して極めて高度の医療を提供している施設です。
それだけに勤務態勢もそれなりに厳しかったのだろうなとは想像できるところですが、地域医療にも大きな影響を与えそうなニュースではありますよね。
ところでこれだけですと今の時代によくある病院崩壊の話かなという感じですが、他社の報道もあわせて見てみますと少なからず面白そうな背後事情が見え隠れしているようです。

県立こども病院:新生児集中治療室、新患受け入れ休止--13日から /静岡(2009年4月11日毎日新聞)

◇内紛か、担当医激減

 静岡市葵区漆山の県立こども病院(吉田隆実院長、279床)は10日、新生児集中治療室(NICU)の新たな患者の受け入れを13日から休止すると発表した。最高度の医療を提供し、県から「総合周産期母子医療センター」指定を受けているが、担当医が7人から2人に激減したことが理由で「すぐに人材を確保して、6月中にも再開したい」と話している。ただ背景には人事をめぐる内紛があるとされ、県民不在との批判を浴びそうだ。

 こども病院は、最高レベルの医療が必要な出産前後の母親や新生児の入院を受け入れてきた。NICUはベッド数12床。1000グラム未満の低体重児や、重い疾患のある新生児に対処している。

 こども病院の説明にでは、NICUを担当してきた新生児未熟児科長の異動が3月に内示されたことで病院側と同科医師の間で対立が生じた。退職の意思を示す医師が相次ぎ、最終的に5人減員の見通しになった。

 こども病院が新患受け入れの休止を発表したことで、県が「総合周産期母子医療センター」に指定した医療機関は聖隷浜松病院(浜松市)▽順天堂大医学部付属静岡病院(伊豆の国市)--の2院になる。県中部では当面、県指定の機関がなくなる事態となった。

 こども病院の北村国七郎事務部長は10日、取材に「新患への対応は、ほかの指定病院や近隣の病院に協力を願っている。今は、現在いる患者11人の医療体制の維持が最優先だ」と話した。

医科長の代理人弁護士は「院長が医科長の退職を強要した。辞める医師も病院への不信がある」と訴えた。こども病院側は「院長からは『異動には理由がある』と聞いている」と説明した。

新生児ICU制限に院内のあつれき 県立こども病院/静岡(2009年4月11日静岡新聞)

 県立こども病院(静岡市葵区漆山)の新生児集中治療室(NICU)が新規患者の受け入れを一時的に制限する問題は10日、吉田隆実院長らの会見後に、NICUを担当する新生児未熟児科の医師が突然、会見して病院側を批判する事態となり、病院内のあつれきが表面化した。前同科科長の人事問題をめぐる混乱のしわ寄せが、結果的に県民の医療に及んだ形だ。
 会見した同科医師は、前科長が病院側から「院内外からクレームが多い」として退職を迫られたとし、「クレームを直接聞いたことはない。科長の異動は納得できない」と強調。3月に異動が内示された後、病院側や県に対し、不当人事で実際に異動すれば、同科の診療体制が維持できなくなるとして撤回を求めてきたと説明した。
 吉田院長らは、同科の医師の勤務環境を改善するため、新年度は常勤医の枠を6人から10人に増員する計画だったと説明。前科長の異動について「新体制を考えていたが、調整、コミュニケーションがうまくいかなった」とした。ただ、異動の理由など詳細については、「個人的な問題」として明らかにしなかった。
 同病院は7月の新患受け入れ再開を目指し、全国公募や大学に働き掛けて医師を確保する方針。ただ、医師確保のめどは立っていないという。

しかしまあ、病院当局者を押しのけるように現場医師がこうして表立って外部に発言してしまうというのも異例のことですが、いきなり代理人弁護士が登場したりとこれは何かしらよほどのことがあったと見るべきですかね。
実際のところ退職を迫られていたという新生児未熟児科前科長の診療ぶりがどのようなものであったかははっきりとしませんが、おそらく最も現場の事情に通じているであろう同僚医師が「納得できない」と声高に主張している点には注目すべきでしょうね。
ただちに医師を揃えて再開をと言いますが医師確保の具体的な見通しは立っていないという話ですし、ましてやこんな内紛真っ盛りの地雷原にわざわざ足を踏み入れようという医師が今どきそうそう見つかるものかどうか。

その後の続報ですが、受け入れを縮小してでも新規受け入れを続けるということのようですが、受け入れ範囲が報道によってそれぞれ微妙に違っているのが何かしら楽しい未来図を想像させますね。
しかも他診療科医師まで動員ということになりますとどうせ暇な先生方などそうそういないでしょうから、これは遠からず残り医師も逃散に及ぶ可能性が大かなとも予想するのですがどうなのでしょうか?
知事閣下も「県立病院機構で適切に対処していくものと確信」していらっしゃるそうですが、この世界に適切な公立病院の人事なるものが存在していたなら、今ごろ全国公立病院が膨大な人件費で慢性的赤字に苦しむということもなかっただろうと思うのですけどね。

NICU受け入れ縮小で再調整 /静岡

NICU・新生児集中治療室への新規患者受け入れを13日から休止すると発表していた県立こども病院が受け入れを縮小する方向で再調整していることがわかった。県立こども病院は今月10日の会見で13日からNICUへの新規患者の受け入れを休止すると発表していた。小林副院長によるとその後、病院内で検討した結果、全面休止とするのではなくできる限り患者を受け入れるべきではないか、という意見が強まったことなどから受け入れを縮小する方向で再調整しているという。受け入れの判断については患者の症状や容態などを病院が判断し決めるという。また、入院中の患者からの問い合わせについては個別に説明を行っていると話している。

静岡県立こども病院 患者受け入れ制限発表(2009年4月14日産経新聞)

 静岡県立こども病院(静岡市葵区漆山)は13日、新生児集中治療室(NICU)への新規患者の受け入れを制限すると発表した。現在は必要な患者は制限を設けず受け入れているが、今後は、静岡市内の患者のうち「こども病院でなければ適切な医療を受けられないような患者」(病院側)のみとし、それ以外の患者は市内の他の医療機関を受診してもらう方針だ。

 県立こども病院は、高度な周産期医療を提供する「総合周産期母子医療センター」に指定された、県中部唯一の医療機関。静岡市外の患者は、同じ指定を受けている順天堂大付属静岡病院(伊豆の国市)と聖隷浜松病院(浜松市)での対処を要請するという。

 同病院は、1000グラム未満で産まれた低体重児や重度疾患を持つ新生児に最先端の医療を提供できる、高度周産期医療の“最後の砦(とりで)”となっているだけに、受け入れ制限は周辺市町の医療機関にも大きな影響を与えそうだ。

 今回の措置の理由は、昨年度は7人いた新生児未熟児科の医師が、今月中にも退職などで2人に減ると見込まれているため。3月に出された同科長の異動内示に反発した周囲の医師らが辞意を示したことが、主な原因という。

 病院側は一時、NICUへの新規受け入れを全面休止すると発表していた。しかし、小児科など別の科の医師で減員分をカバーする態勢を整えたことから「病院として最低限の責務を果たすため、必要な患者の受け入れは何とか行うことにした」と方針を転換した。

同病院経営室は「新患の制限はあくまでも暫定的な措置。現在、医師の確保に努めており、6~7月をめどにこれまで通りの態勢に戻したい」と話している

こども病院 新生児ICU問題 「静岡市内のみ受け入れ」(2009年4月14日読売新聞)

 県立こども病院(静岡市葵区漆山)がNICU(新生児集中治療室)の患者受け入れを当面休止すると発表した問題で、同病院は13日、「院内、院外での協力体制が得られた」として、静岡市内の患者に限り受け入れを継続する方針を明らかにした。

 同病院の北村国七郎事務局長の説明によると、病院内で他診療科の医師に当直に入ってもらうことや、市内でNICUを持つ他病院の協力が得られたため、受け入れ休止範囲を狭めることにしたという。こども病院NICUの年間受け入れ数は140~150人で、その半数程度が静岡市の患者という。

 静岡市以外の周辺市町の患者については、同病院と同様、母体や新生児に対する高度な治療を行う「総合周産期母子医療センター」の指定を受けている順天堂大静岡病院(伊豆の国市)、聖隷浜松病院(浜松市中区)に協力を求めるという。

 この問題について、石川知事は13日の記者会見で「できるだけ早期の医師確保を期待したい」と述べたが、人事異動を巡る問題が休止のきっかけになったとの声が院内から出ていることについては、「県立病院機構で適切に対処していくものと確信している」と述べるにとどまった。

何となく当該診療科と院長・経営室など病院当局との間の意識のズレを感じ取れるかなという気もするのですが、あるいはそのあたりにも今回の一件の原因があるのかも知れません。
とりあえずこの件に関しては続報を待つというところですが、静岡県というところはもともと広くて人口もそれなりに多い割に医大定員は少なく、以前から医師不足は言われていたところです。
医大が県西部の浜松に位置しているだけに静岡市内でも高度医療を担う施設がなければ困るという事情はあるのかも知れませんが、今どき昔と同じ奴隷にむち打つ感覚で酷使しているとあっという間に医者など消えてしまいますからね。
内部情報も込みでたいていの情報があっという間に全国で共有されてしまう時代ですから、「医者など幾らでもやってくる」という驕り高ぶった意識のままでいるとどんな大病院であっても一巻の終わりと言うわけですが、正直それが同情に値するかと言えば…

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2009年4月13日 (月)

社会的責務として求められる医療従事者の労働環境整備

年度末はどこの業界も修羅場を迎えていたのではないかと思いますが、医療業界も例外ではありません。
もっともこちらの場合年度末だからどうこうと言うよりも、積年の問題がこうした機会を捉えてたまたま噴出してきたと考えた方がよさそうですね。
年度初めにはこういった修羅場とも関連して色々と面白い話が出ていますが、まずは沖縄の記事から紹介してみましょう。

患者・家族の不安拡大 琉大骨髄移植医の退職問題/「理由を公表して」/沖縄(2009年04月10日沖縄タイムス)

過重労働改善も要望
 県内で唯一、骨髄バンクを介した移植が可能な琉球大学医学部附属病院の骨髄専門医3人が退職することに、患者や家族の不安が広がっている。同病院では3月に小児科の骨髄専門医1人が辞めた直後で、「なぜ次々に医師が辞めるのか」「病院は早く理由を調べて公表すべきだ」と訴える。一方、病院側は退職について「新聞報道で初めて知った。医師の所属する医局と調整し対応を決めたい」としている。

 2007年に白血病で骨髄移植を受けた男性の妻(33)は、今年2月末に担当医から直接辞意を聞いた。現在も夫は月1~2回通院している。「移植できて感謝している」と話す。一方、「白血病は再発が怖い。今度は県内で治療できなくなるかもしれないと考えると怖い」と不安を口にした。

 昨年10月に移植を受けた崎原正志さん(28)と妻の千尋さん(31)=那覇市=は約2週間前、別の担当医から退職について聞いた。「病状や治療方法を丁寧に答えてくれた。最近体調が悪いと聞いていたが、まさか辞めるとは」と驚く。

 正志さんは今月、一時体調を崩して再入院。最近退院した。千尋さんは「担当医は『心配な時はいつでも電話して』と言ってくれた。急な高熱や痛みで、夜中、救急に行くべきかどうか迷った時に相談したこともあった」と話す。

 医師退職の原因が過重勤務にあると新聞報道で知り、夫妻は心を痛めている。「医師の退職は患者だけの問題ではない。医療体制を守るためにも病院は、医師の勤務実態など問題の所在を明らかにしてほしい」と求めた。

 がんの子どもを守る会沖縄支部の片倉弘美幹事は「小児科医の退職をきっかけに要望した治療体制の継続についても、病院からまだ正式な回答がない」と病院側の対応に憤る。「別の医師も退職すると聞いて驚いている。早急な回答を要求したい」と述べた。

いや理由を公表と言いますがそれこそ個人のプライバシーの問題ですし、そもそも「最近体調が悪い」とまで言っているのに24時間オンコール体制を続けていたならそれは身体が保たないのも当然だと思いますけれどね。
記事から見る限りずいぶんと熱心に診療に当たられていた先生なんだと思いますが、これは典型的な燃え尽き現象と言うべきものではないでしょうか。

若手医師が臨床を離れる理由に「これが一生続くと思うととても無理だと思った」という声がよく上げられますが、決算期を乗り越えればという気持ちがある他業種と違って医療業界の場合多くは365日ずっと似たような状況が続きますし、しかも今後それが改善される見込みにも乏しいとすれば「もう限界、勘弁してくれ」と心が折れてしまうのも仕方ないでしょう。
かねて医療崩壊問題に関しては報道を通じて多大な貢献をしていると定評のある毎日新聞でも、同日付でこんな記事が出ています。

現場から:命のとりで /神奈川(2009年4月10日毎日新聞)

 「あと10年間、持つのか」。大学病院の医師の間で、こんな言葉が交わされているという。深刻化する勤務医不足を受け、政府は昨年、長年の抑制策から養成増に転じた。全国の大学医学部には今月、昨年度より約500人多い新入生約8500人が入学した。横浜市立大でも、約90人が緊張した面持ちで医学部長の言葉に耳を傾けた▼だが、彼らが一人前の医師になるには10年間かかる。長時間労働に学生指導の負担も増える現役医師たちは、それまで持ちこたえられるのか▼連載「医療クライシス」の取材で各地の医師に会うと、真剣に医療に取り組む人ほど苦しんでいるように思える。「取材なんか受けるひまはない!」と、悲鳴のような声で電話をたたき切られたこともある。最前線で命と向き合う医師のために人や予算を充てることが、なぜ難しいのか。私たちが命を預ける人たちが、追い詰められ続ける理由などないはずだ。

「いや取材拒否ってそれ毎日だからじゃね?」という素朴な疑問は置くとして、下記の記事のように10年などとトンでもない、今この瞬間にも危ういのだという声も一方ではあります。
このあたりは語る人間の主体によって何をもって医療崩壊とするかの定義の違いも絡むのだと思いますが、四病協などともなりますとまさにネズミに逃げ出された沈みかけた船状態の方々が大勢関わっておられることでしょう。
しかしこの記事、見れば見るほど突っ込み所にあふれていてなかなかに素敵ですよね。

「半年以内に先進国医療から後退も」(2009年4月10日CBニュース)

 日本病院会などでつくる四病院団体協議会(四病協)と超党派の「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」(代表=尾辻秀久・自民党参院議員会長)は4月10日、「メディカルスクール構想」をテーマに、東京都内でシンポジウムを開いた。国会議員や一般参加者など約80人が出席し、四病協メディカルスクール検討委員会の本田宏委員(済生会栗橋病院副院長)と中田力委員(新潟大脳研究所統合脳機能研究センター長)が講演した。中田委員は「おそらく、今何かしなければ、間違いなく6か月以内に日本は先進国医療から立ち遅れる」と警鐘を鳴らし、危機感を持つよう出席者に求めた。

 四病協の代表としてあいさつした日病の山本修三会長は、メディカルスクール構想のコンセプトについて、「質の良い臨床医を育てることだ」と強調
 山本会長はまた、「毎年、臨床研修医の中から100人以上がドロップアウトしている」と明かした。その理由について、「医師になりたいというモチベーションがあまりない」「臨床に出た後で(大学で勉強した内容との)あまりのギャップにやっていけない」の2点を指摘した上で、「米国のメディカルスクールでは、ドロップアウトする生徒はいないと聞いている」と述べた。

 講演の中で本田委員は、「今のままでは学士にもなれないし、途中でドロップアウトした人は本当につぶしが利かなくなってしまう。日本の医師国家試験は、医師数を減らそうとした時から年に1回になった。ちょっとでも体調が悪くて落ちると、1年待たなければならない」と問題提起。「米国では(試験を)毎日でも受けられると聞いている。いいところは米国のまねをして、日本の医師がよりよい臨床医になるよう理解と協力を頂きたい」と求めた。

 一方の中田委員は冒頭、「おそらく、今何かしなければ、間違いなく6か月以内に日本は先進国医療から立ち遅れる。それはもう確実だ。そうなれば絶対に元に戻らない」と強調。
 解決のキーワードとして、「要素が多過ぎて、どれを扱えばよいか分からない系」である「複雑系」を挙げ、「医療は『複雑系』の代表。まず『複雑系』だということを理解し、最初に解決法を考えなければ何をしても無駄だ」と指摘。そして、「医師の数を増やしたところで何の役にも立たない。どうすればきちんと患者を診る医師を増やせるかがポイントだ」と述べた。
 解決策の「応急処置」として、中田委員は「医師ではなく、患者を診ている病院に大量の資金を注ぐ」ことを提案。「病院医療を守ることによって、医者たちが戻ってくる」とした上で、「正しい専門医がつくれる、きちんとした医療改革をつくるという『根本治療』をやらなければならない」と訴えた。そして、「こうした議論ができる委員会を内閣府に設置してほしい」と求めた。

 質疑応答の中で、日本の適正な医師配置について、本田委員は「地域で決めなければならない」と答え、中田委員は「自分たちの意思と世の中の要求がうまく重なるようにしなければならない」と、配置は医師側が決めるべきだとの考えを示した。

例によって例の如く「メディカルスクールで良医育成!」一辺倒な方々はともかくとして、現状の学士入学、社会人入学組のその後の状況に少しでも虚心坦懐に向き合っていればモチベーションやドロップアウト云々に関してもう少し異なった見解も出てくるかと思うのですけれどもね。
今の時代不足しているのは最前線の野戦病院で奴隷労働に従事する方々であるわけですが、こうした奴隷医養成のためには妙な社会常識など抱え込んでいない人材が欠かせなかったという歴史的経緯がありました。
世間知らずの初心な連中を院内に幽閉し強制労働させるに近い行為を臨床研修と称して行ってきた時代には、極めてモチベーションの高い医師達が世に満ちあふれていた医療の黄金時代と言っても良いかも知れません。

時代は流れ臨床研修の内容も以前に比較すればすっかり(社会常識的には)まともなものと化し(旧世代の研修を受けた医師達からは「お客様研修だ」とずいぶん評判は悪いようですが)、ストレート入学組以外にも社会人などを経験した理性と常識ある人々が医学部にも大勢入学してくるようになりました。
こうした世間並みの常識を持っている人々が増えてくると「きつい仕事を我慢せずすぐ逃げる」「美容整形など安易な金儲けに走る」などと言われているようですが、苦労をせずともお金を稼げる手段があるのであればそちらの仕事から埋まっていくのは世の中当たり前の現象ではないでしょうか?
問題とすべきは学生のモチベーションがどうのと言う以前に労働環境として社会的に通用しない状況を平然と放置してきた医療業界の怠惰であるべきで、内部でだけしか通用しない価値観で染め上げてきた旧来のロジックこそ正義としてなおも後進に強要するというのであれば、それは「洗脳」と呼ばれる行為と同じだと思います。
こうした洗脳の結果どういうことになるのか、その一例としてこちらの記事が参考になりそうです。

勤務医の労働改善に高い壁 時間外勤務の上限“過労死ライン”超/滋賀(2009年4月9日中日新聞)

 成人病センター(守山市)など県立3病院の医師らの時間外勤務で労働基準法違反があった問題で、県病院事業庁などは先月末までに労使間の協定を結び、大津労働基準監督署に届け出た。協定内容は現場の実態を考慮して、厚生労働省が示す過労死の認定基準を超える時間外勤務を労使ともに認めるしかなかった。人員不足の解消など、勤務医の労働環境の改善が急務となっている。 (林勝)

 「(3病院で6割にあたる)過半数の勤務医が労組に加入すること自体が全国的にも画期的なこと。労働の適正化を求める意識が医療現場で高まっている」。病院側との労使間協議に臨んだ県自治労幹部はこう話す。

 1日8時間の法定労働時間を超えて勤務させる場合、勤務時間の上限を定める労使協定を結び労基署に届け出なければならない。県立3病院は従来、この労基法の規定を守らず、勤務医らの裁量に頼った運営をしてきた。

 この結果、脳神経外科や産婦人科などの診療科目によって違法な長時間勤務が常態化。昨春、内部告発を機に労基署がセンターを立ち入り調査して是正勧告を行った。同庁は自治労など職員団体と協議を開始。3病院の医師の労組加入も相次いで、熱心な議論が続けられた。

 しかし、医療現場と労基法の両立は現実的に不可能とする勤務医は多い。ある医師は「我々は労基法を守る前に、医師法または医師の倫理に従って仕事をせざるを得ない」と強調。医療従事者の長時間労働の上に日本の医療が成り立っている現実を指摘する。こうした状況に慢性的な人員不足が拍車を掛け、勤務医の負担は増える一方になっている。

 今回の労使間協議では現実を踏まえ、時間外勤務の上限を決め、当直を見直した。病院側は厚労省が定める過労死認定ラインを下回るように、勤務医の時間外勤務を月80時間以内とする案を提示した。しかし「最初から破られることが分かっている協定を結ぶべきでない」とする現場の意見があり、成人病センターでは月120時間を上限とすることで決着。これに沿って労働改善に取り組んでいくとした。

成人病センターの医師は「労基法と診療に対する責任を両立させるため、互いが譲り合った現実的な協定だと思う」と評価する。ただ、協定を継続して守るためには勤務医の負担軽減策が急務だ。病院事業庁は「欠員となっている診療科の医師確保に努め、事務作業などで医師の業務をサポートする方法も考えていく」と話している。

産科・小児科領域というものは世間的にも関心が高いですが、特に周産期のトラブルとも絡めて昨今の医療業界ではやや過敏とも言えるほど厳重な対応を余儀なくされています。
ところが患者に対しては厳しいことをいう医療業界内部では、全業種平均で90%に登る育児休暇取得率がわずか1/3程度と極めてお寒い状況にあることが先頃の調査でも判明しています。
過労が判断を鈍らせミスを招くということは既にはっきりとしたエヴィデンスが存在していて、アメリカなどでは過労レジデントによる医療事故が訴訟沙汰になって以来、医師の労働時間を独自の法的規制によって管理することで医療安全を確保しようとしています。
興味深いのはアメリカにおいても日本と同様に「長時間労働は医療教育現場のカルチャー」であるとか、「長時間労働がレジデントたちにdedication(献身), stamina(持久力), responsibility(責任)といったものを教えるんだと信じ込んで」いるなどといった声が現場にはあるということなのですね。
しかし明快なエヴィデンスに逆らい過労によって患者の命と健康に不利益をもたらす行為が果たして社会的正義なのかと考えてみれば、医療従事者はより良い治療法を追求するのと同等以上の熱意でもってより良い職場環境を追求する社会的義務があるように思います。

一昔前の過労死がさんざんに取り上げられた時代には「日本人はワーカホリックだ」などと諸外国から言われたものでした。
当時と比べれば日本の労働環境も幾らか改善されてきているのでしょうが、最近では別種の労働問題で賑やかだそうで相変わらず自殺率などは世界トップクラスを誇っています。
そしてその世界トップクラスの中でも更に医師の自殺率は一般より3割増に高いと言いますから、医療従事者の心身の健康が保たれているとは到底言えない状況ですよね。

最近の調査によれば残業の多いサラリーマンほど職場での幸せを感じる比率が高いと言う傾向があるようで、ある種ランナーズハイにも似た症状を呈するのは医療現場に限ったことでもないのでしょう。
しかし自分が患者の立場に置かれた場合に、心身の健康を損ない過労で冷静な判断力を失い、ともすれば精神的安定すら欠くような医者に命を預けたいかと言われれば、医療従事者は何よりもまず職業的責任感に従って健全かつ健康たるを目指さなければならないのではないかとも思うのですけれどね。
近ごろでは予防医学が盛んですが、あなたが必死に患者のためにと懇切丁寧に説明をしているつもりでも、相手の方では「この先生には言われたくないなあ」と考えているかも知れないということです。

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2009年4月12日 (日)

今日のぐり「うなぎ なか勝」

一見すると似たような結末を辿ったちょっとした事件であっても、それなりに個性というものが現れる場合もあるのでしょう。
こちらのニュースもいずれも「女には勝てぬ」と言う結論になるのでしょうが、その内容を見てみるとずいぶんと違った状況のようです。
言葉や料理の味ばかりでなく、こういうところにも関東と関西の地域性ということもあるのでしょうかねえ?

女性店員の涙に退散…無職男を強盗未遂で逮捕/東京(2009年4月6日産経新聞)

 6日午後6時20分ごろ、東京都江戸川区中葛西のコンビニエンスストア「SKM葛西駅西口店」で、男がレジカウンター越しにアルバイトの女性店員(17)にカッターナイフを突きつけ、「金を出せ」と脅した。女性店員がその場で泣き崩れ、男は何も盗まずに逃走。警視庁葛西署員が東京メトロ葛西駅の構内で男を見つけ、強盗未遂の現行犯で逮捕した。店員にけがはなかった。

 同署の調べによると、逮捕されたのは住所不定、無職、大室文男容疑者(38)。大室容疑者は「仕事がなく、金が欲しかった。(店員が泣き崩れ)ダメだと思ってあきらめた」と供述しているという。

食堂でたらふく食ってから店員に「金を出せ」/大阪(2009年4月6日朝日新聞)

 食堂で飲食した後、代金を踏み倒したうえに店員から金を奪おうとしたとして、大阪府警は5日、大阪市西成区山王3丁目の無職、山田友貞容疑者(42)を強盗容疑で緊急逮捕したと発表した。

 西成署によると、山田容疑者は5日午前9時半ごろから1時間にわたり、西成区山王2丁目の食堂で、ビール2本とカツカレー、鳥鍋、酢だこ、イカの塩辛、肉いためを飲食した。同10時半ごろ、代金の支払いを求めた女性店員(59)にナイフを突きつけ、「金を出せ」と要求。女性に「何を言うとんのや」と一喝されると逃げ、代金3450円を踏み倒した疑いが持たれている。

 事件から10分後、自ら「金がなくて強盗した」と110番通報し、自宅に駆けつけた同署員に逮捕されたという。

今日のぐり「うなぎ なか勝」

東京の住人がたまには関西風の鰻を食いたいというので、久しぶりにこちらへ。
昼下がりで半分程度の席の埋まりと、意外に空いていたのは季節柄なのでしょうか?
しかし鰻屋という商売も商品の旬を外した時期が商売のピークというのも扱う側の気持ちとしてどうなんでしょうかね。
まあ今は養殖が主体でしょうから昔ほどの季節変動は気にせずともいいのかも知れませんが…

以前にも何度か来ていますが、久しぶりに来てみて前回感じた不満がかなり解消されていました。
例によってメインには上ひつまぶしを頼み、うざくなど適当につつきながら出来上がりを気長に待ちます。
前回なかった白長焼きが復活していましたのでこちらも頼ませていただきましたが、きちんと脂も乗っていながらあっさりさっぱりと食べられるのは良いものです。
鰻の味を楽しむのに白焼きがないとはどうなのよと個人的に思う方ですから、やはり長焼きだけでは物足りないとここに改めて声を大にして主張しておくものであります。
しかし長焼きが復活したのは良いとして、今度はう巻きがないというのは卵好きな人間としては結構不満ですかね(わがままが多いですが)。

今回は特に何も言わずに頼んだのですが、ひつまぶしの明らかに判る違いとしてタレが減ったようですね。
そのかわりに「お好みでうなぎのタレをお使い下さい」とテーブルにタレの容器が置かれるようになったようです。
ここの場合特に上(鰻1.5倍)にするとタレの味がきつくなりすぎて、来るたびタレ少なめでオーダーしていたんですが、あるいは同様な感想を抱いたお客が多かったということでしょうかね?
さっくりと焼き上がったこの鰻にはこれくらいの控えめな味がちょうど塩梅がいいかなと思うのですが、顧客の皆さんの評判はどうなのでしょうか。
ついでにもう一つ贅沢を言うなら、ひつまぶしには茶漬け用に急須でお茶がついてくるんですが、個人的には茶よりもダシをかけて食うのが好きなんですよね。

あとこれは本当にどうでもいいことですが、個人的に下品にもおひつの中で軽くさっとひと混ぜしてから食べるのが好きなんですが、ここの場合おひつの口いっぱいまで盛ってある上に口が絞っているものですから混ぜるのは難しいですね。
ちなみに発祥の地と言われる名古屋ではまず一膳目はまずそのまま茶碗に取って普通の鰻丼的に食べる方がメジャーな食べ方なんだそうですが、いいじゃないですか、あの鰻の食感が変わっていく感じが好きなんですから。
あとは鰻屋と言えば伝統的に新香に気を使うんだそうですが、ここの漬け物はまあ良く言えば素材の味が存分に味わえると言いますか、あまり漬け物という味じゃないですね。
最近は減塩の風潮などもあってこういう生っぽい漬け方が増えているのかも知れませんが、これだったら別に付け合わせとして漬け物でなくても良いような気がします。

以前にもここのフロア係は客あしらいが下手だなと感じていたところですが、今回は修羅場っていなかったせいかそう気になるほどのことはなかったです。
もっとも相変わらず言葉の選び方一つとってもそれはちょっとどうよと感じさせられる危うい局面も散見されてはいるのですが…ま、それも店の個性の一つになりつつあるのかも知れません。
もともと味はしっかりしている店という印象でしたが、やや食事時を外している時間帯にも関わらず食べている間に結構席は埋まってしまいましたから、それなりに地域の定評を得ているということなのでしょうかね。

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2009年4月11日 (土)

新聞週間に寄せて マスメディアに求められる資質

先日4月6日は「新聞をヨム日(日本新聞協会販売委員会)」なんだそうで、同日から12日までが「春の新聞週間」と位置付けられています。
最近では地盤沈下著しいとも言われるだけに各紙合同でここぞとばかりに新聞を売り込もうと頑張っているようですが、幾つか記事から取り上げてみましょう。

ネット社会での新聞の意義語る 「新聞をヨム日」でイベント(2009年4月7日日経ネット)

 日本新聞協会は「新聞をヨム日」の6日、トークライブ「時代を笑え」を東京都内で開いた。新聞に連載を持つ人気漫画家3人がインターネット社会での新聞のあり方について話した。

 3人は新聞記事から漫画のネタを探す話などを披露。しりあがり寿さんは「ネットも見るが、どのニュースが大切かは新聞で確認しないと不安になるので手放せない」。やくみつるさんは「新聞はどのニュースが重大か記事の大きさで分かる。紙をめくれば色々なページにすぐ飛べる新聞はネットより便利」と強調した。

 西原理恵子さんは若者の新聞離れについて「ネットのせいではない」と指摘。「新聞は形を長い間変えていない。もっとおもしろいことを分かりやすい言葉で伝えられるはず」と話した。

「新聞読んで」 販売店がPR/宮城(2009年4月7日読売新聞)

 「新聞をヨム日(4月6日)」にちなんだ「春の新聞週間」(12日まで)にあわせ、仙台新聞販売店主会の会員らが6日、仙台市青葉区の「藤崎」前で、買い物客らに購読を呼びかけた。

 読売新聞社など6新聞社の販売店で作る同会の会員らは、「新聞週間です」「新聞を読んで」などと呼びかけながら、日本新聞協会が発行する「HAPPY新聞」2000部を配布した。「HAPPY新聞」は、読んで幸せになれる記事として、読者が選んだ19本を掲載している。新聞を受け取った同市太白区の大宮みつこさん(72)は「新聞を読まないと忘れ物をしたような気がする。若者にも新聞を読む習慣が広がるといい」と話していた。

春の新聞週間:3カ所で広報活動 /岡山(2009年4月7日毎日新聞)

 4月6日の「新聞を読む日」から始まる新聞週間(12日まで)に合わせて、県内3カ所で新聞の広報活動が行われた。

 同日、JR岡山駅前では新聞販売店主ら約10人が、心温まるニュースを掲載した「HAPPY新聞」(日本新聞協会発行)と花の種を配った。新聞公正取引協議会県支部の若藤純也事務局長は、「普段読まない人に、ぜひ新聞を読んでほしい」と呼びかけた。

 新聞4紙を購読しているという岡山市の学生、小林由果さん(20)は「写真がたくさん載っていると読みたくなる。事件や事故の記事は詳しく書いてあるので、記憶に残りやすい」と話した。

しかし今の時代ネットと比較しないではいられない気持ちも理解はできますが、何故こうもネットリテラシーの低そうな人たちのコメントばかり取り上げるのかとも思うわけですが…
ネットのつき合い方すらろくに知っていなさそうな人々に「ネットより新聞」なんて言わせたところで、時代に取り残されつつある人々とメディアが同類相哀れんでいるように見えて仕方がないんですがね。
こうして必死に営業活動を行っている新聞各社ですが、その先行きは果たしてどうなのでしょうか?

gooリサーチと毎日新聞社とが20代を対象に行った共同企画調査によれば、そもそも新聞を読まないという人々が4割、家庭や職場などに置いてあれば読む消極的読者が4割で、自分で金を出して新聞を読んでいるという層は全体の1/4だったそうです。
ではテレビが人気かと言えば、ヤフーバリューインサイトの調査では新聞、テレビといった既存メディアへの依存度が高かったものが20代以降にはこれらが急減し、以後ネット上のコンテンツに依存するという傾向が30代に至るまで続き、ようやく旧メディア復権の兆しが見られるのが40代以降という結果が出ています。
文化庁の調査でも新聞・テレビといった旧来のメディアに依存している人々はすでに社会的高年齢層に偏在しつつあり、しかもその年限は今後ますます上昇していくだろうという予測が成り立つという状況ですから、当然ながら今後その社会的影響力がこれから下落一方であろうということが見えているわけです。

大統領選の行方すらネット上の人気が左右するなどと言われるお隣韓国と比べれば日本のネットユーザーの社会的影響力は未だそこまで強力ではないのも事実でしょうが、同時に無視できるほど小さな勢力でもないのは確かですよね。
時を経る毎にますます一般大衆のネット利用が滲透する、あるいはネット利用者の一般大衆化が進んでいくとなれば、これはもう従来型メディアに対するもう一つの極を形成していると考えてよさそうです。
そして双方向性、大衆への解放といったネットの特性を顧みた場合に、既存の新聞、テレビと言った中央集権型メディアに対置してネットは分散・民主主義型メディアであるべきだろうし、そうならざるを得ないのではないかなという気がしています。

つまるところそれは自称「社会の木鐸」として、他者から攻撃されることなく自らは一方的に攻撃し得るという特権的ポジションに安住してきた既存メディアに対して、ようやく明確な批判勢力が出現してきたということです。
このあたりのネットと既存メディアとの相互関係の一例として、「ロハス・メディカル・ブログ」さんの大野病院事件に関する一連の報道への検証を取り上げてみましょう。

大野病院事件の報道をふりかえる。(2009年03月24日ロハス・メディカル・ブログ)より抜粋

2006年、福島県立大野病院事件に際し、当時は連日のように、様々な報道が相次ぎました。内容的には、被害者感情の救済、医療制度の問題点の指摘、医療関係者・行政関係者に対する批判も入り混じり、また、時の経過とともにその論調には徐々に変化が現れました。
(略)
まずは、第一報当時の様子です。

●逮捕時の2月18日の新聞マスメディアの第一報の見出しは、「『医療過誤』『手術ミス』で医師逮捕」であった。
●テレビニュースでは加藤医師が手錠をかけられ連行される映像が繰り返し流れた。
●記事は「・・・医師が癒着胎盤を無理に剥がして妊婦を失血死させ、・・・容疑を否認している」と報じ、これを読んだ医師を含む多くの国民は、医師には専門的知識がなく技術が未熟で、判断や処置に過誤があったという印象を受けた

しかし、世論には徐々に変化が出てきます。きっかけはインターネットでした。

●逮捕報道直後より、医師達がインターネット(so-net m3の医師限定掲示
板や、医師のブログ等)上で、事故調査委員会報告書等から実際の症例の経過や処置を検討し議論が開始された。
●それにより、実情は報道内容とは異なり、医師個人に対する刑事罰の追求は不当と判断するようになった。

さらに、くい止める会の署名の活動も始まります。

●3月17日、(くい止める会は)厚生労働大臣に陳情書・署名を提出し、記者会見を行った。
●これ以外にも、医師を支援するグループ、日本産科婦人科学会・医会、地域の医師会、病院会などからも多数の声明が発表された。
産科医療の問題点がクローズ・アップされ、多数のメディアに取り上げられた。

そして、マスコミの論調もしだいに変わりました。

●2006年3月~5月に主要三紙で産科関係の記事は108以上にのぼる。
●3月の新聞見出しは「医療過誤」「医療ミス」であったが、5月には「医
療事故」「妊婦死亡事故」「医師逮捕起訴事件」に変わっている

最後に、まとめとして、以下の3点が挙げられています。

①第一報の情報ソースは患者側家族や警察であり、公平に報道されたとはいい難かった。さらに翌日から第一報の情報を根拠に“加害者”被告側の非を責める「識者」コメントが報道され、これにより、一般人の医療不信を過度に煽ったことは否定できない。

②メディアにより産科問題が多数取りあげられたが、センセーショナルな内容が目立った。マスメディアには、地域医療の問題解決のための、堅実な情報提供と議論が乏しかった。

③医師はインターネットを通じて情報を共有し、活発な意見交換を行った。これまで勤務医がまとまって意見を発言する場がなかったが、インターネットによる署名呼びかけに対して、短期間に多数の賛同署名が集まり、厚生労働省はじめ関係機関に提言を行うことができた。

以上から、県立大野病院事件の報道には、医療報道の難しさや問題点が凝縮されていることがわかります。

①の指摘するとおり、第一報の論調は大事です。そして使用する用語(医療ミスか、医療事故か、等)も大事です。それにも増して、“識者”と呼ばれる人のコメントが一般読者に与えるインパクトは大きいのです。しかし、この“識者”と呼ばれる人はどうやって選ばれるどんな人なのでしょうか。おそらく「記者(もっといえばデスク)のほしいコメントをくれる、それらしい肩書きの備わった人」という、報道側の都合に沿って選ばれているのでしょう。

報道側がほしいコメントがどういうものかは、上で振り返ったとおり。一般的に見ても、報道が被害者側寄りになるのは致し方ないことなのでしょうか?ただ、本当に国民の利益につながるのは、②でも指摘されている「堅実な情報提供と議論」です。ニュース性、話題性を追うのはマスコミの性だとしても、その分析内容は堅実であってほしいのです。そうでなければ、そもそも報道の信頼性に関わると思うのですが・・・。

ネットの発達によって既存メディアにどのような影響が現れるものかと考えてみた場合に、上記の経過は非常に示唆に富むものではないかと思いますね。
確かにネットが今ほど発達していない時代であっても、主要メディアの読み合わせを行うことで既存メディアの「偏向報道」に関しては検証することが可能であったし、「あそこの報道は信用できない」といった情報も半ば常識的に(苦笑)流布されていたのは確かでしょう。
しかし問題はそうした検証の結果が広まるのは少なくともリアルタイムにおいては行った個人、あるいはその周囲の小さなコミュニティーに共有されていたに過ぎないということで、そうであればこそ既存メディアは自らの思うところを自由に吹聴できていたということです。

社会的には取るに足りないような個人であってもメディアの偏向に対して広く世間に警鐘を鳴らし得る時代になったということがよく判るものとして、例えば以下のようなサイトがその一つの実例になるんじゃないかと思いますね。

 

証言の「断片」のみ放映―台湾の被取材者が怒る反日番組「NHKスペシャル/シリーズ・JAPANデビュー」

 

昨今では例えば毎日新聞捏造問題などに見られるように、今やネットからの力が既存メディアに与える影響力というものは彼らにとっても無視できないものとなってきています。
一面で既存メディアの罪は罪としてそれなりの社会的報いを受けるべきは当然でしょうが、他方では彼ら既存メディアが歴史的に果たしてきた「ジャーナリスト」としての功績も功績として認めなければ公平ではないでしょうね。
彼らが「社会の木鐸」足るにふさわしい良識をもって正しく本業に従事するということであれば誰にとっても歓迎すべきことではないかと思いますし、その一助となるべくネットもまた健全な批判勢力としてますます成長し熟成していかなければならないのでしょう。

しかし、まあ…既存メディアにも色々と早急に改善すべき点は多いわけですが、せめて当たり前の社会常識くらいはさっさと身につけておいてもらわなければ困るんですけどね…
昔は「勉強のために新聞を読め」なんてことを教えられた時代もあったようですが、これからの時代の子供は「マスコミ関係者みたいな真似はしないように」と教育されて育つんでしょうか。

朝日放送番組でコカの葉噛むシーン 近畿厚生局麻薬取締部が注意(2009年4月10日産経新聞)

 朝日放送(ABC、大阪市)のテレビ番組で出演したタレントがコカインの原料のコカの葉をかむ場面があり、近畿厚生局麻薬取締部が、薬物犯罪をあおることを禁じた麻薬特例法に抵触する恐れがあるとして、同社に口頭で注意していたことがわかった。

 麻取部によると、番組のタイトルは「世界の村で発見!こんなところに日本人」。同社が制作し、今年1月2日に全国放送された。この中に男性タレントが南米・ボリビアを訪れ、露店でコカの葉をかんだシーンがあったという。

 コカの葉はコカインと同様に麻薬に指定されており、栽培や使用は処罰の対象になる。一方、麻薬特例法では、薬物犯罪や規制薬物の乱用をあおったり、使用をそそのかしたりすることを禁じている。

 朝日放送によると、1月5日に近畿厚生局から指摘があり、担当者が事情を説明。今後、このシーンの再放送は控えるという。同広報部は「なじみのない外国の風習を伝えたいとの意図だった。放送に際してはより慎重を期すべきだった」とコメントしている。

対局中の羽生名人に記者がサイン求める 厳重注意(2009年4月10日産経新聞)

 将棋の羽生善治名人(38)に郷田真隆九段(38)が挑戦する「第67期名人戦」(朝日新聞社など主催)で10日、朝日新聞の委託を受けて観戦記者として立ち会っていたフリー記者(75)が、対局中の羽生名人にサインを求めるトラブルがあった。同社は記者に口頭で厳重注意するとともに、対局終了を待って羽生、郷田両氏や共催の毎日新聞社など関係者に陳謝する。

 同社によると、トラブルがあったのは名人戦第1局2日目の10日午前9時45分ごろ、羽生名人が自らの手番で44手目を考慮中、記録係と並んでいた記者が白い扇子とペンを取り出し、羽生名人にサインをするよう求めた

 羽生名人は対局を中断する形でサインに応じ、頭をかく仕草をしながら盤面に目を戻した。この間、郷田9段は水を飲むなどして様子を見守った。

 この様子はNHKが中継しており、実況担当者が「今、何か書いているようですけれども…」と当惑しながらその様子を伝えた

 問題の記者は昭和51年から平成11年まで、朝日新聞社の嘱託記者として取材活動を行い、この日は同社の委託を受けて取材にあたっていた。

 休憩時間に担当者が、問題の記者に「対局中に声をかけるような行動は慎んでほしい」と注意したところ「郷田さんの手番だと思っていた。うかつだった」と釈明したという。朝日新聞社は「両対局者はもちろんのこと、主催する名人戦実行委員会のほか、関係者にご迷惑をおかけしたことを深くお詫びします」とコメントしている。

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2009年4月10日 (金)

産科無過失補償制度 医療に何を求めるのか?

今年から運用が始まった産科無過失補償制度に関しては、これまでにも制度設計上の問題運用手続き上の問題を取り上げてきました。
特に後者に関連してこんな記事が出ていますので、まずは紹介してみましょう。

産科補償制度で「専用診断書」(2009年3月26日CBニュース)

 日本医療機能評価機構は3月25日、産科医療補償制度運営委員会を開き、脳性麻痺児への補償認定を請求する際に使用する「専用診断書」の様式を決めた。同制度が独自に定めている障害程度の等級などを書き込むもので、補償対象にするかどうかは、同機構内の審査委員会が専用診断書などを基に審査する。

 専用診断書を作成するのは、▽「肢体不自由の認定に係る小児の診療等を専門分野とする医師」▽日本小児神経学会が認定する小児神経科専門医-のいずれかの要件を満たす「診断協力医」。
 脳性麻痺児の家族が診断協力医に専用診断書の作成を依頼し、その後、分娩機関に提出。補償の対象は、審査委員会の審査を踏まえて運営委員会が認定する。認定請求は7月以降に始まる見通しだ。

 専用診断書は、障害の「等級区分」や「新生児期からの障害の経過・現症」などを書き込む「(総括表)脳性麻痺診断書」のほか、「脳性麻痺の状況及び所見」「検査結果」「神経学的所見及び臨床経過」「写真及び検査データ貼付欄」から成っている。全13ページにもなることから、25日の運営委員会では、「診断協力医の負担が大き過ぎる」と懸念する声もあった。

 専用診断書は、全国の診断協力医などに送付する。診断協力医については現在、約300人の委嘱手続きを進めており、関係学会などに呼び掛け、当面は1000人程度の確保を目指す。
 同機構では、専用診断書の作成マニュアルを5月ごろにまとめる方針だ。

一見して金を出す気がないんだなとも取られかねないような話なんですが、このあたりの報告書の書式策定の経緯については、少し古いですが下記の記事が参照になるかと思います。

中立的な事例分析を―産科補償制度(2009年2月18日CBニュース)

 今年1月1日からスタートした「産科医療補償制度」の中で、脳性麻痺発症の原因分析などを行う「産科医療補償制度原因分析委員会」が2月18日、初会合を開いた。委員長に就任した日本産科婦人科学会の岡井崇常務理事は、「この制度が社会にとって良い制度として定着するためにも、この委員会が果たす役割は大きい。医療提供者の側をやみくもに非難することなく、中立的な立場で事例の分析を行っていかなくてはいけないと考えている」と述べた。

 同委員会では、まず下部組織である部会が、分娩機関から提出された診療録などや脳性麻痺児の家族からの情報に基づいて医学的観点から検証・分析を行い、原因分析報告書案を作成。その後、同委員会で正式な報告書を作成する。報告書は、家族と分娩機関に提出するとともに、一般にも情報公開する。
 同委員会は今後、仮想事例を基にした原因分析のシミュレーションなどを行い、早ければ7月の会合で原因分析報告書の作成に入る予定。

 18日の初会合では、部会が作成する原因分析報告書案の作成マニュアル案や情報収集のあり方などについて意見交換した。
 部会は、「児・家族、国民、法律家などから見ても分かりやすく、信頼できる内容とする」「医学的評価に当たっては、検討すべき事象の発症時に視点を置き、その時点で行う妥当な分娩管理などは何かという観点で事例を分析する」などに留意して、▽原因分析報告書の位置付け・目的▽事例の概要▽脳性麻痺発症の原因▽臨床経過に関する医学的評価▽今後の産科医療向上のために検討すべき事項―の5項目から成る報告書案を作成する。
 マニュアル案では、発症原因の分析に当たっては、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会監修の「産婦人科診療ガイドライン産科編」や、米国産婦人科学会 (ACOG)特別委員会が定めた「脳性麻痺を起こすのに十分なほどの急性の分娩中の出来事を定義する診断基準」など、科学的エビデンスに基づいた資料を参考にするよう求めている
 臨床経過に関する医学的評価については、結果から診療行為を評価するのではなく、診療行為をした時点での判断に基づいて評価することや、当事者の責任の有無につながるような文言は極力避け、医学的判断の根拠やそのレベルを示す必要があるとした。また、診療録などと家族からの情報の内容が異なる場合は、それぞれの視点で分析・評価し、場合によっては両論併記とすることもあるとした。

 弁護士の鈴木利廣委員はマニュアル案について、「医学の立場から見て、望ましくないことが行われたときに、当事者の責任につながる文言を避けると、少しバイアスの掛かった報告書と見られかねない」と指摘した。
 また複数の委員から、報告書の情報公開時には、分娩機関名などが黒塗りされるのに対し、家族や分娩機関に渡されるものについては、こうした措置が取られないため、「家族がオープンにすることには規制がないのか」との疑問の声が上った。

 「産科医療補償制度」は、分娩に伴い重度の脳性麻痺を発症した新生児やその家族に補償するとともに、原因分析や情報提供を行うことで、紛争の防止・早期解決や産科医療の質の向上を図ることを目的としている。補償額は、看護・介護を行う基盤整備のための準備一時金600万円と、毎年の補償分割金120万円が20回の計3000万円。

こちらを見てみますと決定の段階で一番問題になったのは客観に徹した内容を求めるといったことであったようで、それだけに証拠固めということに関してはいささか神経質というほどのものを求める内容になってしまったと言うことなのでしょうか。
しかし科学的、客観的といえば聞こえは良いですが、厚労省やマスコミが好んで強調している「医療訴訟の軽減」や「患者救済」という側面は直接的には配慮されていなかったらしいことが、少なくともこの記事からは読み取れるようにも思えるのは気のせいでしょうか?

いずれにしても実際に運用しなければ問題点の洗い出しも出来ませんから当面経過を見ていくしかないのかなとも思いますが、何にしても産科を含めた周産期医療にかつてないほど注目が集まってきている時代であることは確かなのでしょう。
実際のところは少子化時代真っ盛りで子供の数が増えているわけでもないのですが、新聞などメディア上において医療記事が載るとなればまずもって周産期絡みが多いのもそうした社会的興味を背景にしたものでしょうか。
一昔前の文学と言えばお約束だった「主人公の親はお産絡みで亡くなっている」などという話がリアル社会で全く聞かれなくなったことにも現れているように、周産期医療は過去半世紀余りの時を経て劇的にその成績を向上させて来ましたが、皮肉にもそのことが医療に対する期待値をかつてないほど高くしてしまっています。
「妊娠出産は病気ではない」という言葉が一人歩きした結果、「お産絡みで何かあればそれは医療ミス」という発想に直結してしまっているようでは産科の先達たる皆さんの寝食を忘れても苦労も何だったのかということになりかねませんよね。

最近になってようやく既存メディアもそうした当然予想されるべきリスクの問題を認識したのか、ひと頃の医療バッシング一辺倒の論調からは少しは脱出し始めているような気配もないわけではなさそうです(微妙な表現…)。
例えばかねてから医療問題に関して素晴らしい記事を相次いで飛ばしてきた産経新聞ですら、こんな記事が載るようになったのも時代ということなのでしょうか。

【産科医解体新書】(30)“自然なお産”とリスク(2990年3月24日産経新聞)

 分娩(ぶんべん)台でのお産は、一番合理的と考えられているスタイルです。何が合理的なのかというと、合併症などが起きたときに一番対処しやすいのです。このスタイルは、産科学によって長い間かけて発達し、定着してきたものです。ただ、医師にとっては合理的でも、患者さんにとっていいかどうかは意見が分かれます。

 分娩台でなく、もっとリラックスした形で自然に産みたいという患者さんが多いのも事実です。日本人ならではの畳の上や、水中出産など“自然なお産”は、病院で行う分娩台での出産に比べ、感染症などのリスクが高いのですが、このことを理解している方はあまり多くありません

 一時期、水中出産がマスコミでよく取り上げられたことがありました。僕は学校で、ヒトが魚から猿になり人間へと進化したことを学びました。せっかく進化して人間になったのに、あえて魚にまでさかのぼって水中出産するなんて、僕にはすごく不思議なことに思えます。

 カンガルーのまねをする方法も盛んです。なぜ、日本でオセアニアの一哺乳(ほにゅう)類のまねをする必要があるのか? これについてきちんと勉強したことがない僕には分かりませんが、分娩後にいろいろなメリットがあることは確かなようです。

 ただ、分娩時のトラブルに一番神経を使う産科医にとっては、いわゆる普通の分娩をしてほしいのが本音です。魚やカンガルーと同じような方法で出産しているとき、もし大量に出血し始めたらどうすればいいんだろうと思うからです。

 患者さんの選択の全部を否定するつもりはありません。なるべく患者さんの意に沿う良い分娩を提供したいとも思います。でも、分娩台での出産は、お母さんと赤ちゃんの命を守るために定着したことを、患者さんにも知ってほしい

 これから出産を予定している人は、自分でリスクをきちんと調べ、医師や助産師さんと相談したうえで、どういう形で産むのがいいかを決めてもらえればと思います。(産科医・ブロガー 田村正明)

世に医療崩壊と言い、その原因として医療費抑制政策が悪い、訴訟リスクが原因だと色々と言いますが、根源的な要因としてミスマッチというものがあるのではないかなと感じています。
近ごろではしばしば需要と供給の量的ミスマッチからくる受け入れ不能問題などが取り上げられますが、むしろ医療に対する期待値と実効値との間に存在する質的ミスマッチこそがより大きな問題の本質なんじゃないかと思いますね。
病院に入っていれば必ず病気は良くなる、適切な医療を受けてさえいれば急変などあり得ない、そんなことは実際にはそれこそ「あり得ない」ことなのですが、何故かあり得ない期待だけが一人歩きした結果「期待はずれだった。おかしい」という話に結びついていく。

昭和の初めには日本人の8割が自宅で亡くなっていましたが、今では8割が病院で亡くなっていて、死が日常から遠くなったなどとも言います。
医療の究極の目的が病を治し死から人を遠ざけることだとすれば、医療というものはほぼ確実に最終的な敗者となることを宿命づけられているということですから、そうした意味では責任論的有罪の立場から決して逃れることは出来ないとも言えるでしょうね。
そうした現実を見据えた上で何をどうすべきか、医療従事者は近ごろそれなりの答えを見いだしつつあるようですが、医療を受ける側はどうなのでしょうか?

少なくとも言えるのは常識と思っていたものは今や全く常識などではなく、何をどうしようが人は、生き物はすべていずれは死んでいくということから話を始めなければならない時代だということなのでしょう。
しかし果たしてそれは崩壊一途の現場を必死で支える医療人の果たすべき仕事なのか、何であれ命に関わる全てを医療人に期待し望むことが正しいことなのかという一抹の疑問も感じています。
誰しも等しく関わらざるを得ない生命と健康の問題に対する、国民の認識はどうなのでしょうね。

医療にどこまで求めるのか―特集・新生児医療「声なき声の実態」番外編・上(2009年3月2日CBニュース)

「不安はあるけど、この子と一緒にいたい」=小児科病床―特集「新生児医療“声なき声”の実態」番外編・中

「わたし」たちはどこまで命を救う―特集「新生児医療“声なき声”の実態」番外編・下

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2009年4月 9日 (木)

ADR稼働 安全はけっしてタダではない

この4月から全国初の医療版ADR(裁判外紛争解決手続き)が稼働しているということで、まずはこちらの記事を紹介してみましょう。

医療紛争相談センター:6日から、全国初のADR業務開始 第三者機関が調停 /千葉(2009年4月3日毎日新聞)

 医療事故など医師と患者間の紛争について、裁判外紛争解決手続き(ADR)にあたる「医療紛争相談センター」が、6日から業務を始める。医師と法律専門家が参加し医療紛争のADRに取り組む第三者機関は全国初。今年中にADR法に基づく法務省の認証取得を目指す。

 センターは、NPO法人「医療紛争研究会」(代表・植木哲千葉大教授)内に設置。医療紛争では、民事訴訟を起こした場合、和解や判決まで通常2~3年を要するが、ADRでは調停と話し合いで3~4カ月をめどに解決を図る。簡単で迅速な手続きが特徴という。

 センターによると、県内で医療行為に関する患者からの相談は07年で約3000件あり、このうち医療過誤は約240件。千葉地裁に約25件が提訴された。植木代表は「民事訴訟として表に出るのはごく一部。潜在している紛争を解決する機関が必要」と話す。

 手続きは、患者か医療機関側が医師や看護師からなる相談委員と面談。その後、調停を申し立て、相手側が調停参加を了承した場合、医師、弁護士、学識経験者の3人の調停委員が和解を目指す。

 相談は無料。調停申し立て手数料は患者側2万1000円、医療機関側4万2000円。当事者双方が調停期日ごとに手数料1万500円を支払う。和解額に応じた成立手数料が必要。和解額が1000万円の場合は、約50万円の費用がかかる計算になる。

医療事故の和解へ相談所設立 千葉で開始、電話相次ぐ(2009年4月6日47ニュース)

 裁判ではなく、話し合いによる和解を目指す裁判外紛争解決(ADR)機関の「医療紛争相談センター」が6日、千葉市中央区で業務を始め、スタッフが電話での相談受け付けに追われた。弁護士や医師らでつくる特定非営利活動法人(NPO法人)が設立した。

 千葉県内を中心とした首都圏から電話が鳴り続け、相談者は「手術後に家族が亡くなったのに、医師から何の説明もない」などと訴えていた。

 センターによると、2007年度に千葉県に寄せられた医療相談は約3000件で、うち医療事故に関するものは約240件。裁判に持ち込まれたのは25件という。

 同センターの岡田知也弁護士は「裁判所に行かず和解をしたい人は多いのに、医療紛争では専門的な受け皿がない。裁判を起こすほどお金がない人にも和解の機会を提供できる役割は大きい」と話した。

日弁連はこのADRを全国に広めようとしているという話は以前にも書きましたが、おそらく今後各地で同様の組織が立ち上げられていくことになるのでしょう。
一つ気になるのは以前にも取り上げた法科大学院の惨状と言うものに関連して政府用党内でも司法試験合格者増加政策を見直す動きがあり、日弁連側からも合格者数現状維持を求める声が上がっているということです。
法曹人口も決して需要に対して多すぎるようには見えませんが、こうした新規業務を手広く行っていくということであれば人手の問題は果たしてどうなのかとも思うところですがね。

そうした懸念はともかくとして、先頃の産科無過失補償制度(極めて限定的ですが)導入に続いて医療訴訟という以外の医療紛争解決の道が整備されてきたことは評価すべきことではないでしょうか。
しかし問題はそれによって実際に患者側の不満が解消するのか、そして最終的に医療訴訟が減るのかといった実効性の面がどうなのかと言うことですよね。

医療事故と司法ということに関しては以前に大野病院事件と関連して和田仁孝氏のコメントを紹介しましたが、今の医療訴訟の一つ大きな問題が「誰にとっても良い結果にならない」ということではないでしょうか。
医療訴訟と言うと医療側には「司法は後出しジャンケンで裁いているではないか」という不満がある、一方患者側には「司法は一番知りたいことは何も答えてくれないじゃないか」という不満がある、結局お互い余計に気分が悪くなるだけで誰一人満足していないじゃないかというわけです。
こうした不満と言うのは多かれ少なかれ訴訟(ことに民事訴訟)に対する理解不足から来るものも多いようで、それに対する司法側の答えの一つが「裁判所は謝罪をする場所ではない、こころのケアをする場でもない、金額を決める場所です」という言葉に集約されているのかも知れません。

いずれにしても医療側も患者側も医療訴訟というものに対する過剰な(場違いな?)期待感というものを排除し冷静に向き合うためには、ある程度司法側のものの考え方、方法論といったものも理解しておかなければならないということなのでしょう。
そのあたりの司法のロジックというものを個人的にかなり納得できたのが「新小児科医のつぶやき」さんのところにありました下記のカキコです。

2007-03-02 神奈川帝王切開賠償訴訟」より転載

# an-do 『>暇人28号
私も以前知人の弁護士と同じような話になったのですが「普通に考えればわかる」というのは法律関係者への批判としては不適切だと言われました。
なぜなら、裁判と言うのは可能なかぎり「常識」を排除した上で、双方の言い分のみを比較し、どちらがより説得力があるかで勝敗がつくものだからだそうです。
極論を言えば、Aさんが「海は青い、なぜなら私が見た海は青かったからだ」と主張し、Bさんが「海は青くない、私はこのコップの中に海の水を入れてきたが、この水は青くないからだ」と主張すれば、例え裁判官が毎日青い海をみながら通勤していたとしても、裁判ではより説得力のあるBさんの主張が通り「海は青くない」という結論になるのだそうです。
そう考えると、法律関係者の意見としては、この判決がもし誤りだとすれば、それは判断を下した裁判官の責任ではなく「帝王切開決定から出産まで1時間16分かかったことは医学的に妥当である」ということを証明できなかった医療側に落ち度があると言う事になるのでしょう。

特に証拠の何たるかに厳しい刑事訴訟と比べると民事訴訟においては証拠能力(証拠となる資格)に関する制限がゆるいということですが、このあたりの考え方を理解するための材料として例えば最高裁の判断で「東大病院ルンバール事件」と呼ばれるものがあります。
1955年に東大病院で発生した患児死亡事例に関して民事訴訟となり、一、二審は原告敗訴、最高裁で逆転勝訴となったものですが、事件の概要を引用してみましょう。

用語解説◇東大病院ルンバール事件より抜粋

 原告は3歳児です。化膿性髄膜炎で入院中に、連日のルンバール検査の実施と投薬治療によって、症状は次第に軽快していました。

 事件当日は、担当医師が学会に出席するため、通常は避けている昼食20分後にルンバール検査を実施しました。その際、患者がいやがって泣き叫びましたが、医師は馬乗りになって患児の体を固定し、何度も穿刺してようやく成功しましたが、この間30分かかっていました。

 ところが、その15分ないし20分後に、患児は突然嘔吐し、けいれん発作を起こし、その後、右半身不全麻痺や言語障害、知的障害、運動障害が発症、後遺症として残ってしまったものです。

 争点は3つ。1つ目は、不全麻痺、知的障害、運動障害の原因は何かというものです。2つ目は、不全麻痺や知的障害、運動障害の発症と、医師が行ったルンバール検査との間に因果関係があるのかどうかです。最後の3つ目は、最終的に医師に過失が存在したのかどうかです。

 裁判の結果です。1審、2審とも医師の過失はなかったと認定。原告側の主張を退けました。

 第1審判決は、1965年2月28日東京地裁で下されたものです。判決は、発作や後遺症が生じた原因は脳出血と認定し、その上で、ルンバール検査と脳出血との因果関係は認めましたが、医師の過失はないと判断しました。

 また、第2審は、1973年2月2日、東京高裁で下されました。判決は、発作と後遺症の原因については、「脳出血によるものか、化膿性髄膜炎もしくはこれに伴う脳実質の病変の再燃によるものか、判定しがたい」と認定しました。

 この原因が明らかでないとの認定が前提となり、ルンバール検査との因果関係は断定しがたいと判断されました。結局、医師の過失も認められないとし、原告側の控訴を棄却しました。

 争いは、最高裁に持ち込まれました。そこで下された判断は以下のようなものでした。

 「訴訟上の因果関係の立証は、1点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつそれで足りる」。

 「高度の蓋然性」を証明することで因果関係の立証は足りるとの判断は、その後の医療訴訟に大きな影響を与えることになりました。「1点の疑義も許されない自然科学的証明」から「高度の蓋然性の証明」へと舵が切られたわけで、その意味でターニングポイントとなる判決だったのです。

 最高裁の結論は、「化膿性髄膜炎の再燃する蓋然性は通常低いものとされており、当時これが再燃するような特別な事情も認められず、他に特段の事情が認められない限り、経験則上、本件発作とその後の病変の原因は脳出血であり、これが本件ルンバールによって発生したものとして、その間の因果関係を肯定するのが相当である」というものでした。

この事件に関しては最近になっても未だに詳説が出ているようで、今に至るも色々と議論の余地もあるというのは確かなようです。
またこのところの司法のスタンスとしてはかつての「賠償金額を決めてから判決文を書く」といった患者救済優先の考えから転換しつつあるとも言いますから、必ずしも現在の医療訴訟の現場がこうした方針に基づいて動いているわけでもないのかも知れません。
しかし医療訴訟事情に詳しくないごく一般的な医療従事者の視線で見れば、ひとたび法廷に引き出されるとこんなふうに厳しいことを言われるんだなと考えてしまいそうな話ではありますよね。
患者と司法の関わり方と同様に医療機関における司法との関わり方というものは長年の蓄積によって決定されてきた経緯もありますから、何かしら新しいシステムが稼働しただとか検察の偉い方々が声明を出しただとかいった一事によって直ちに劇的に変わるものでもなく、気長に取り組むべきものであることは関係者全てが認識しておかなければならないでしょうね。

裁判沙汰などと大事にならない予防が大事という点では医療そのものとも似通った側面がありますが、現場での取り組みはどうなっているのでしょうか。
今の時代医療現場でひとたび何かが起こるとあちらからもこちらからも人非人のように集中砲火を浴びるわけですが、医療従事者にしても患者がすっきり治って退院していってくれればそれにこしたことはないわけですから、別に望んで医療事故を起こそうとしているわけでもない以上は少しでも安全に業務が行えるように改善していくモチベーションはあるわけです。
ただそのモチベーションなるものの所以が、現場の人間にとっては「医療訴訟なんてこわい、勘弁して欲しい」だとか「事故なんて起こしたら寝覚めが悪い」だとかいった気持ちの問題で片付くにしても、今の経営状態最悪な医療機関にとってはもう少し実利的なものが必要なんだと思いますね。
このあたりの事情が伺える記事も紹介しておきましょう。

医療クライシス:コストカットの現場で/5 費用がかかる安全対策

 ◇取り組むほど経営厳しく

 医療の安全対策の先進病院として知られる船橋市立医療センター(千葉県)。特に力を入れているのが、他病院での事例も含め、発生したトラブルの内容や防止策を図解などで職員に分かりやすく伝える「医療安全対策文書」の発行だ。

 作業の中心を担うのは、副院長以下3人がほぼ常駐する医療安全管理室。多い時には毎日のように発行し、02年9月からの6年半で750号に達した。得られた教訓は年1回、「ルールブック」としてまとめている。

 厚生労働省はこうした取り組みを推進するため、06年度の診療報酬改定で、専従の「医療安全管理者」を置いた病院には入院患者1人につき50点(500円)を加算する仕組みにした。だが、年間入院患者約9000人の同センターの場合、加算は約450万円で看護師1人分しかない。小沢俊・前院長は「経営面で言えば、医療安全に取り組むほど病院は損をする」と話す。

   ■   ■

 国が医療事故防止に本腰を入れ始めたのは99年に横浜市立大病院や東京都立広尾病院で重大な事故が起きてから。02年の医療法施行規則改正で、病院・診療所に安全管理指針の整備や患者相談窓口の設置などを義務付け、04年10月からは大学病院などに医療事故の報告義務を課した。

 こうした対策には、どれぐらい費用がかかるのか。今中雄一・京都大教授(医療経済学)らは06年度の全国調査で、入院患者1人にかけている医療安全コスト(人件費や研修費など)を、大学などの臨床研修病院で1日975円、その他の病院で404円と算出。全国の病院が「月1回、1時間以上の安全管理委員会開催」など標準的な安全対策を実施するには、総額332億円の追加コストが必要と推計した。これに対し、医療安全管理者配置による診療報酬加算(07年)は、全国で約18億円。今中教授は「診療報酬は抑制される一方、医療安全の要求は高くなった。水準を上げるには資源投入が必要で、国は資源確保の仕組みを工夫すべきだ」と指摘する。

   ■   ■

 厚労省研究班が03~05年に全国18病院のカルテを調べた結果、有害事象(予期せぬ障害や合併症)は入院患者の6・8%に起きていた。ベッド100床当たり年約63件で、事故の手前の「ヒヤリ・ハット」は、その数十~数百倍あるとされる。

 ところが、国が01年から始めた「ヒヤリ・ハットの全例報告」に協力する240医療機関(計約10万床)から寄せられた07年の報告は約21万件。100床当たり約210件で、有害事象の推定数の3倍程度しかない。

 年間5000件前後のヒヤリ・ハットを報告している東海大病院(神奈川県伊勢原市)は、データ打ち込み専従の職員を雇う。安田聖栄副院長は「医師や看護師だけでは対応できない」と話し、人件費は病院の持ち出しだ。関東のある病院長は「報告1件でいくらといった手当でもないと、情報を上げきれない」と漏らす。

厚労省は「医療安全は医療機関の当然の責務」とする。だが、予算がなければ対策は進まず、被害に遭うのは患者だ。

医療費というものは何事も公定価格ですが、本来は自由に価格設定していいはずの産科なども好き放題な値付けをしていられるわけではありません。
例えば出産の一時金は先頃無過失保証の保険料分だけ上乗せされて38万円になっていますが、産科の先生に言わせると母子の安全のためにきっちりした仕事をするためには少なくとも40万円以上はかかる計算らしいですね。
医療機関に経営的なゆとりがあった時代には出産費用は一時金の範囲内で抑えておこうというのもありだったかも知れませんが、実際には全国各地の赤字医療機関続出という状況では出産費用の値上げが続いている結果、一時金だけでは足りないという事態になっていることは御存知の通りです。
ところが一部公立病院では出産費用改訂も議会の承認がいるということで未だ原価割れでのお産取り扱いを強いられているところもあるやに聞きますが、昨今の公立病院も経費削減にうるさいですからこういうことになってくると、削るべからざる何かを削らざるを得ないということになりますよね(実際に色々と噂は耳にしますが…)。

医療の側もいままでろくに収支計算もしないままどんぶり勘定でやってきたという点で同情に値しない部分もありますが、厚労省も診療報酬において加算するならするでちゃんと計算して意味がある加算をした方がいいんじゃないかという素朴な疑問が湧きませんか。
「日本人は水と安全はタダで当たり前だと思っている」とか「安全は金には換えられない」なんてことを一昔前にはさんざん言われていましたが(今でもか?)、マンパワー集約型産業の一つの典型である医療現場においてはサービスに対する対価というものをきっちり出してこそ安全が担保されるのだということをそろそろ政府も国民も、そして現場の人間も学習しなければならないのでしょうね。
なんにしろ医療対患者という関係に限らず様々な意味において「対価に見合ったサービス」という概念を理解できない病院はこれからの時代、どんどん淘汰されていくことでしょうかね。

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2009年4月 8日 (水)

産科ももれなく崩壊中 復活への道は何処に

年度の変わり目ということもあってか各地から医療環境のさらなる悪化を知らせるニュースが相次いでいますが、もちろん崩壊最先端の産科医療に関しても例外ではありません。
ここ数日目についただけでもざっとこれだけの関連記事が出ていましたが、これらも氷山の一角に過ぎないことは言うまでもないことですよね。

塙厚生病院:分娩受け入れ存続を要望 2万4559人の署名提出 /福島(2009年3月4日毎日新聞)

 ◇東白川郡4町村など

 塙町の塙厚生病院で4月から、医師減員により分娩(ぶんべん)の受け入れが困難になる問題で、同町を含む東白川郡4町村などが3日、JA福島五連会長やJA厚生連などに存続を要望した。2万4559人分の署名を提出し、「産婦人科の医師2人体制の堅持を」と求めた。

 同病院の産婦人科は郡内で唯一、分娩を取り扱い、07年度では185件あった。病院側は4月から同科の医師が1人体制になるため、「分娩の受け入れは難しい」としている。2月から、4町村の全世帯を対象に署名が呼びかけられ、街頭での署名活動も実施された。

 塙町によると、この日、菊池基文町長ら4町村長と「塙町産婦人科医体制堅持対策協議会」の鈴木道男副会長らが署名を提出し、体制堅持を求めた。JA五連の安田寿男会長は「趣旨は理解した。地域の皆さんと一緒に努力したい」と答えたという。

出産数県内最多の佐藤病院 受け入れ制限 /群馬(2009年04月04日朝日新聞)

 県内で最も多くの出産を手がけている産婦人科専門の佐藤病院(高崎市)が、妊婦の受け入れ制限に踏み切った。これまでは「来る者は拒まず」で対応してきたが、受け入れが増え態勢の限界に達したからだ。背景には、産科医不足や開業医のお産離れがある。

 佐藤病院の08年の出産数は1833人で、前年より約100人増えた。陣痛から回復まで一部屋で過ごせる分娩(ぶん・べん)室(LDR)を04年に3室から5室に増やしたが、当時想定していた出産数は年間1800人だった。医師数は常勤5人、非常勤16人。増やしたいが募集をかけても集まらないという。このため3月から現状を超える出産希望者は断ることにした。

 佐藤雄一副院長(40)は「ここでの出産数は頭打ちになると思っていたが、増える一方。市内の他病院に相談したら『うちは余裕があるから大丈夫』と言ってもらえたので決断した」と話す。

 外来の削減にも踏み切る。現在は1日平均160人を4人の医師が診ているが、120人に減らす計画だ。妊娠10カ月に入るまでは1、2回精密検査に来てもらうだけにして、定期検診はお産を手がけない産婦人科医院に任せる。「セミオープン」と呼ばれる連携システム。佐藤病院で勤めた後独立した医師も多く、カルテの書き方を統一するなど連携が取りやすいという。

 その分、現在1~2人態勢の病棟の医師を常時2人以上確保する。産科医療への要求水準が高くなっているためという。

 外来削減にあたっては、利益率の高い外来診療が減ることによる収益の落ち込みを補うため、出産料金の値上げも検討している。

 佐藤病院に次ぐ年間約1250人の出産を扱う前橋市の横田マタニティーホスピタルは、1500人の出産を扱えるため受け入れ制限はしていない。横田佳昌・医療法人愛弘会理事長は「高崎は前橋より大きな病院が少なく、佐藤病院に集中するのだろう。限界を超えると医療事故が起こりやすい。無理せず制限した方がいい」と話している。

 佐藤病院では、周辺でお産を扱う病院が減ったことに加え、妊婦の大病院志向の強まりが同病院での出産数急増の原因とみている。医師不足と大病院への過度の集中は、全国で「お産難民」が生まれる事情と共通する。

 日本の赤ん坊の半分近くは、今も医師が1、2人の診療所で生まれている。この診療所が、次々にお産の扱いをやめている。

 産科医療関係者の間では、「内診問題」が開業医のお産離れが進む引き金になったと言われている。子宮口の開き具合を確認する内診は医師と助産師に限られるが、産科医側では医師の指導監督下なら看護師も可能と解釈されてきた。ところが02年に厚労省が看護師の内診を禁じる通知を出し、06年には内診を看護師にさせていたとして複数の病院が捜査を受けた。

 佐藤副院長は「助産師の絶対数が足りない。医師と看護師だけの小所帯では、お産が難しくなった」と話す。

 産科の勤務医不足も深刻だ。県内でお産を扱う医師の数は94年に194人いたが、06年には168人に減った=グラフ。減少率は13・4%。同時期の出生数の減少率16・1%に比べると、余裕があるように見える。

 だが医療事故の責任を追及されることが多いのを嫌って若い医師の産科離れが加速し、医師の高齢化が進み、働き盛りの負担感が増しているという。35歳以下の産婦人科医は半数以上が女性といい、結婚・出産で現場を離れれば医師はさらに不足する。

 このため、病院で出産の予約を取り付けることさえ苦労する地域もある。佐藤副院長は「特に横浜では里帰り出産は厳しく、妊娠4週目で予約を入れないと間に合わないほど。『里帰り先の30件以上の病院に全部断られた。やっぱりここで産みたい』と頼まれたこともある」と話す。

県立志摩病院産婦人科が休診 医師退職、後任も辞退 /三重(2009年4月4日中日新聞)

 志摩市の県立志摩病院の産婦人科が、3月16日から、1人しかいなかった医師の退職などにより休診していることが分かった。同病院では2006年11月にも医師が不在となり、分娩(ぶんべん)の取り扱いを休止。約5カ月後に医師1人を確保して再開したが、2年で再び休診に追い込まれた。

 同病院などによると、昨年12月に医師から、2008年度末での退職届が出され、受理。新たな医師を京都府から迎え入れるめどが立ち、準備を進めていたが、健康上の理由などから3月になって医師が辞退し、前任者も退職したという。

 同科では月平均4、5件の分娩を扱っていた。市内では、ほかに出産できる医療機関はなく、伊勢市など市外に行かなければならない。

 病院は「新しい医師が来られなくなるのは想定外だった。常勤は難しい面もあるが、非常勤医師は確保し、早く婦人科の業務は再開したい」としている。

 志摩病院では、内科・循環器科の医師減により、3月から同科外来を完全紹介制とし、夜間などの救急受け入れ日数も減らすなど、診療体制の縮小が相次いでいる

こうして見てみますとやはり無理はしない、質を落とすくらいならアクセスを制限するという思想はかなり滲透してきている印象を受けますが如何でしょうか?
全国どこでも産科はキャパシティー不足が顕在化してきていますが、社会的要請からも粗診乱療に走って質を落とすことは困難ですから、少しでも実質的なキャパシティーを上げるためには一層の効率化しか手段はないということにならざるを得ないでしょうね。
「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」とは非常に悪い印象のある言葉ではありますが、実際に多少なりとも効果があるものであるなら工夫してみるのもよいかも知れませんが、あくまでその実効性に対する評価をきっちり判断していくという大前提は崩すわけにはいきません。

ところで上記の記事中でも「セミオープン」という話が出てきていますが、例えば先日は東京都からこういうニュースが出ています。

周産期連携病院:都福祉保健局が2病院を指定 /東京(2009年4月2日毎日新聞)

 都福祉保健局は1日、出産に際して一定程度の危険が見込まれる「ミドルリスク」の妊婦に対応する「周産期連携病院」に、東京慈恵会医科大付属青戸病院(葛飾区)と都立府中病院(府中市)を指定した。周産期連携病院の指定は2回目で、計8施設となった。

 周産期連携病院は、地域の産科医院や、ハイリスク妊婦の処置にあたる周産期母子医療センターと連携し、内科の合併症や緊急の帝王切開などに休日・夜間含めて24時間体制をとる。都は今年度中に合計21病院を指定する予定。

ミドルリスクとは聞き慣れない言葉だなと思っていろいろとググってみておりましたら、こういう資料が出てきました。
平成17年から厚労省のやっている「周産期医療オープン病院化モデル事業」なるものの資料ですが、妊婦かかりつけの産科診療所、助産院ではローリスク分娩のみを扱い、ハイリスク分娩は診療所医師が病院(オーブン病院)に出向いて出産を取り扱うというシステムを検討しているものです。
ちなみにセミオープン病院とは分娩までの管理は診療所で、分娩自体は病院医師が取り扱うというスタイルのことですね。

全国幾つかの自治体で産科施設が加わって行っている取り組みですが、実際にやってみるとすでに幾つかの問題点が指摘されているようです。
例えばオープン病院に出向いている間診療所は閉鎖になるわけで経営的にも難しいだとか、事故があったときに誰が(どの施設が)責任を取るのかだとか、あるいはこれだけ手間暇をかけても(診療所医師にすれば往診ですしね)収入面でインセンティブがないと厳しいだとか、考えてみれば当たり前の話ばかりです。
そんなわけで誰も手を挙げる診療所がいないものだから実際にはセミオープン病院でないと少なくとも地方においては無理だろうという結論になりつつあるようですが、今回の記事に言うところの周産期連携病院というものがこのセミオープン病院に相当するものというわけです。

これも病診連携の一つということになるのでしょうが、例えば東京都における状況ではこちらの記事などが参考になるかとも思いますので紹介しておきます。

日本医科大多摩永山病院の成功例に学ぶ 周産期医療体制を整えるには強いリーダーシップが必要だ

先日も世間を賑わせたかの愛育病院などでも割合積極的にこのオープン病院、セミオープン病院としての機能を果たしているようで、資料によれば2006年にはそれぞれのシステムに則って100件前後の分娩をこなしているということです。
こうした事業の理念自体の是非はさておき一千万都民の分娩に対してどれほど貢献するのかと言うところを考えるならまだまだ先は長いなという話ですが、こうした事業もあくまで質的な部分を担保するという大前提を抜きにしては無意味なものとなりかねません。
その意味ではこういう記事を読んでみますと、果たして現場の当事者意識として大丈夫なのか?と危惧しないではいられないものも感じるのですがどうでしょうか?

【産科医解体新書】(32)愛育病院「指定返上」の波紋(2009年4月7日産経新聞)

 リスクの高いお産を診る「総合周産期母子医療センター」の指定返上を、愛育病院(東京都港区)が都に打診しました。このニュースは、われわれ産婦人科医にとって非常にショッキングでした。愛育病院は昔から、周産期に力を入れている病院として有名で、その病院でさえ限界にきているのですから、まさに産科崩壊ここに極まる、です。

 今回の問題は、愛育病院の労働環境が劣悪だと労働基準監督署から指摘されたことに端を発します。厳密に労働基準法を順守するのであれば、日本全国ほとんどの産科のある病院は法律違反をしています

 僕のいた医局も総合センターに指定されています。僕がいたころの話ですが、いくつかの総合センターは常に満床で、搬送の受け入れが可能になったためしがありませんでした。つまり、総合センターとしての役割を果たせていなかったのです。これは、病床や人員の関係でやむを得ないことともいえます。

 このころ、僕らに労働時間のアンケートがありました。労働時間超過を疑われたためです。改めて考えると、自分がすごい長時間、病院にいることに気づきました。でも、僕らはそれが普通のことだと思っていました。僕は途中まで記入したのですが、はたと思いました。このアンケートを真剣に記入して提出したら産科が立ち行かなくなると。ちょうど他科でも労働時間が問題になっていて、労基署による家宅捜索がありました。結局、僕らはアンケートを提出しませんでした。

 自分たちで労働環境の改善を訴えておきながら、いざとなると、何となく尻込みしてしまった僕らは反省すべきかもしれません。産科医の労働環境改善が遅れたわけですから。しかし、患者さんのことを考えるとモラルジレンマに陥ってしまうのが辛(つら)いところです。

 医師の労働環境を問い直す時期だとは思います。ただ、今回のように旧厚生省と旧労働省で仕事を縦割りで進めていけば、間違いなく産科医療は一度崩壊することになるはずです。(産科医・ブロガー 田村正明)

自身が産科医でもある筆者はこれを「モラルジレンマ」と称していますが、果たしてそのように捉えるべき問題なのでしょうか?
これと全く同様の言葉を、例えば運送業界で働く運転手の人がしゃべっていたとしたらどうでしょう?

このころ、僕らに運行速度のアンケートがありました。速度超過を疑われたためです。改めて考えてみると、自分がすごい速度で、トラックを走らせていることに気付きました。でも、僕らにはそれが普通のことだと思っていました。僕は途中まで記入したのですが、はたと思いました。このアンケートを真剣に記入して提出したら会社が立ち行かなくなると。ちょうど他の運送会社でも速度超過が問題になっていて、警察による家宅捜索がありました。結局、僕らはアンケートを提出しませんでした。

労働者としての権利の尊重などと言う以前に、ひどく無責任で反社会的な行動であり自分勝手な論理の発露のように思えませんか?
例えば事故を起こしたトラックの運転手がこうした言葉を口にしたとして、あなたが被害者であったとしたら「ああ、あなたも大変つらかったのですね。それは仕方なかったです」と素直に許す気になるでしょうか?
もちろん中には心の広い人もいて同情的な言葉を投げかけてくれるかも知れませんが、それが世間での一般的な反応であるかどうかについては他科の2~3倍にも及ぶ産科の被訴訟率を思い出してからにした方が良いのではないでしょうか。
過労というものは判断力を大きく鈍らせる要因の一つであることはすでに広く知られていますが、過労の現場を離れてすらこうした奇妙な勘違いが根深く残っているということに医療業界の問題点が存在している気がします。

実のところ産科医不足問題というものは別に日本でだけ起こっていることではなく世界的な現象であって、その理由もまたどこででも似たような状況であるのだなと感じさせるものであるようです。
先頃医師会から発表された話ですが、こんな記事を見てみますとおそらくどこの国でも日本と似たような議論が繰り広げられているのだろうなと苦笑せざるを得ないところですよね。

産科医不足・偏在は諸外国も共通(2009年4月1日CBニュース)

 日本医師会は4月1日、定例記者会見を開き、日本を含め米国や韓国など15か国・地域の産科医の状況を探った調査結果を公表した。それによると、11か国・地域の医師会が「産科医の不在や偏在がある」と回答しており、この問題が諸外国でも共通して見られることが明らかになった。

 調査は、厚生労働省の子ども家庭総合研究事業「分娩拠点病院の創設と産科2次医療圏の設定による産科医師の集中化モデル事業」の分担研究「産科医を恒常的に確保するための各国の施策についての調査」として、日医が世界医師会に加盟する17か国・地域を対象に昨年1-8月に実施。このうち14か国・地域から回答を得て、日本を含めた15か国・地域分を集計した。

 それによると、「現在の産科医数に不足あるいは偏在がある」と回答したのは、15か国・地域中11か国・地域に上った。このうち、「不足」と「偏在」の両方があるとしたのは、日本、カナダ、ニュージーランド、イスラエルの4か国。また、「不足」のみは、英国、タイ、台湾の3か国・地域で、「偏在」のみは、米国、フランス、フィンランド、韓国の4か国だった。
 一方、産科医の不足や偏在はないとしたのは、ドイツ、デンマーク、シンガポール、アイスランドの4か国だった。

 産科医が不足・偏在する理由を聞いたところ、「女性医師の増加による人手不足」「訴訟の増加による産科医の早期退職」「医師の開業医志向による勤務医の減少」などが挙げられた。

 一方、産科医確保対策を聞いたところ、「研修医(インターン)数の管理・制限」が最も多く、回答があった12か国のうち7か国が挙げた。以下は、「地方・へき地での医師確保のための財政支援(奨学金、補助金)」(6か国)、「国内の総産科医数の管理・制限」(5か国)と続いた。

もちろん何をどうやっても対応できない場合には研修医の強制配置(学徒動員?!)などといった医療業界内部での強権発動もやむを得ない場合もあるのでしょうが、現状では医療業界を取り巻く外部環境にこそより大きく改善するべき余地があるようにも感じられます。
「聖職者さながらの献身」をもって世界一高効率な医療を行っている医療従事者を更にむち打って逃散を招くよりは、それ以外の部分で少しずつ皆が頑張っていった方がはるかに効率的だと思えますし、何より国民全てが等しく自ら改善出来る部分を探していくという行為こそ医療を守る意識改革につながっていくような気がするのですがどうでしょうかね?
地方も医療を失う被害者のような顔ばかりしていて良いのかと言えば、一面では自ら地域医療の崩壊を招いている側面も多々あるようにも見えるのですが。

妊婦健診無料化の実態を調査  厚労省(2009年4月7日47ニュース)

 4月からすべての妊婦健診を無料で受けられる仕組みが導入され、厚生労働省は7日までに、実施主体の市町村の取り組み状況について実態調査を始めた。

 日本産婦人科医会の調査で、実際に完全無料化している市町村は1自治体しかないことが判明。国は健診費用分に当たる地方交付税を市町村に配分したものの、交付税の使途は自治体に委ねられていることから、財政難などで別の用途に支出しているためとみられ、同省母子保健課は「調査結果を分析して、必要な施策を考えたい」としている。

 国は2008年度第2次補正予算などで、出産までに必要な14回の妊婦健診費用(計約11万3000円)を手当てした。約7割は自治体が負担、残り約3割は国から補助金が支給される仕組み。自治体負担分は交付税から賄うようになっている。

 これで、ほとんどの市町村では健診費用を全額公費で賄うことが可能なはずだが、医会が2月に支部を通じて調べたところ、約20道県の市町村の中で完全無料化は茨城県大子町のみ。ほかは補助率が約80%、約70%がそれぞれ4割で、約60%の市町村も2割あった。

 健診は自由診療のため、1回当たりの費用は医療機関によって異なり、予算で手当てされた額より高いところもあれば、安いところもある。補助率によって、妊婦は窓口で実際の費用との差額を請求されることになる。

未受診妊婦 減らせ 札幌市が対策/北海道(2009年04月06日朝日新聞)

■公費負担5→14回/啓発「10カ条」案まとめる
■安全出産へ健診促す

 一度も妊婦健診を受けず、出産間際になって体の異常を訴え、病院に駆け込む「未受診妊婦」を減らそう――。札幌市でそんな取り組みが進められている。国の政策と連動して4月から、妊婦健診の公費負担を拡充。さらに母子の健康や安全な出産に必要な知識の普及を進め、妊婦健診へと促す方針だ。関係者は「物心両面の対策で出産リスクの減少につなげたい」と意気込む。 

   ◇

《キーワード》
◆妊婦健診   母子の健康状態の確認のため、出産までに14回は必要とされる。血圧測定、尿検査などの一般的な診察のほか、血液検査、超音波検査などがある。費用は内容によって異なるが、1回あたり数千円~1万円程度。健康保険の対象外だが、国は今年4月、14回分を公費で負担するとした。道内でも多くの市町村で健診費用が公費負担される。

   ◇

 「ホテルで1人で出産したが、どうしていいか分からない」

 今年1月、夜間の産婦人科の急患に対応する札幌市の産婦人科救急電話相談に24歳の女性から電話があった。へその緒はつながったままで、母体から少量の出血がある状態だった。

 この女性は妊婦健診を受けていない「未受診妊婦」で、妊娠週数も不明なため、重症・重篤な患者に対応する北大病院(札幌市)に救急搬送した。母子ともに無事だったが、過去に二度の出産経験があり、前回の出産は帝王切開だったため、分娩(ぶんべん)時に子宮破裂を起こす危険性もあった。

■救急搬送13件

 同市の産婦人科救急電話相談には、08年10月の相談開始から5カ月間で、妊娠中の女性から361件の相談が寄せられた。そのうち、未受診妊婦と考えられるケースは約22%にあたる81件。その中で、急な出産や症状が深刻だったため、入院や手術に対応する2次救急病院や重症・重篤な患者に対応する3次救急病院に搬送したのは13件だった。

 北大大学院の水上尚典教授(産婦人科学)は「全国的に未受診妊婦の出産は全分娩(ぶんべん)数の0・3%ぐらいと言われている。札幌市では年間40件ぐらいあると考えられる」と話す。

未受診の場合、母子の生命が危険にさらされる可能性が高くなる。水上教授によると、未受診妊婦では、早産になるケースが20~30%と、通常の出産より4~6倍高いという。早産の子どもは妊娠周期が満期で生まれた子どもより死亡率が10倍高く、母親も妊娠高血圧症候群などの合併症が起きやすくなる。

 また、未受診妊婦は、産婦人科医や新生児集中治療室(NICU)の不足とともに、妊婦の救急搬送の受け入れ拒否の原因の一つとも言われている。病院側にとって、妊娠週数や母子の健康状態が分からない中での救急対応はリスクが高く、簡単には受け入れられないためだ

 同市はこうした状況を問題視。1月下旬に開かれた同市の産婦人科救急医療対策協議会で、未受診妊婦対策の検討を始めた。

■経済面も背景

 未受診の背景の一つとして指摘されている「経済的な理由」に対応するため、妊婦健診の公費負担をこれまでの5回から、出産までの望ましい回数とされる14回に増やし、超音波検査も8回分を公費負担とした。国の08年度2次補正予算の目玉として「妊婦健診の無料化」を打ち出したことが追い風となった。

 同市保健福祉局の飯田晃・医療政策担当部長は「助産所や市外の医療機関での出産も補助の対象にしており、経済的な理由で未受診となるケースはかなり減らせるのではないか」と見る。

 一方で、同協議会は、妊婦健診の必要性や健診費用の公費負担などを市民に分かりやすく伝える必要があると判断。3月下旬の協議会で、母子の健康や安全な出産のために必要な知識なども盛り込んだ「元気な赤ちゃんを産むための『新市民啓発10カ条』案」=表=をまとめた。

 同市は携帯電話のホームページやフリーペーパーに掲載するなどの広報手段を検討中で、今年度中に実施する方針だ。

 ただ、予想外の妊娠などで周囲に妊娠の事実を隠している人や、健診そのものを面倒がる人たちもおり、こういう人たちにいかに受診を勧めるかがなお課題だ。飯田部長は「地域住民が妊婦を温かく見守る環境作りなど、未受診妊婦を解消するための様々な手段を考える必要がある」と話す。

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2009年4月 7日 (火)

医療危機の時代にあって最も意識改革が必要なのは誰か?

昨日は救急の話題でしたが、需給不均衡が問題となっているのは何も救急の現場にとどまりません。
「病院か診療所か」というのも古くて新しい話題ですが、まずはこちらの記事から紹介してみましょう。

軽い病気でも… 5割「病院に」 医師不足解消 患者の意識改革不可欠 /静岡(2009年4月3日読売新聞)

軽い病気の時でも、最寄りの診療所ではなく高度な設備のある病院で診てもらいたいと考える県民が半数を超えていることが、県の「保健医療に関する調査」でわかった。患者の「病院志向」は病院勤務医の過重負担をもたらし、医師が病院に定着しない大きな要因になっていると指摘されている。医師不足の緩和・解消には患者側の意識改革も欠かせないことが改めて浮き彫りになった。

 調査は県医療室が今年1~2月に、県内在住の20歳以上の男女2000人を対象に郵送で行い、1207人(60・3%)から有効回答があった。

 軽い病気にかかったと思う場合、「病院に行く」と答えた人が53・6%に上ったのに対し、「診療所」とした人は25・1%にとどまった。2003年度に行った前回調査では診療所と答えた県民が60%、1998年度の前々回も58・4%あったが、今回は半分以下に減った。

 20~40歳代で「病院に行く」と答えたのは4割程度だったが、高齢者で女性ほど、「病院に行く」と回答した割合が高かった。一方で、「医療機関には行かない」は前回、前々回はいずれも3%前後だったが、今回は18・6%に達し、特に男性の20~40歳代、女性の20歳代では3割近くに上った。

 病気になった際に決まって受診するかかりつけ医は、今回の調査では39・6%が「いない」と答え、前回に比べ12・5ポイント減少した。地域で入院できる医療機関の状況を把握しているかどうかについても、「わからない」が41・6%に上り、前回比27・6ポイントも増加した。

 県医療室は「診療科の休診が相次ぎ、近くに医療機関があっても、実際に入院できるか不安に思う人が多いようだ」と分析している。また、県医師会の篠原彰副会長は「『軽症は診療所、重症は病院』との呼びかけが思いの外浸透していない。医師不足や医療費の高騰などで医療への不信が高まっているのかもしれない」と懸念している。

長期療養が必要な場合、自宅での療養を望むかどうか尋ねたところ、「望まない」が49・2%(前回比8ポイント増)で、「望む」の46・9%(同8・1ポイント減)を上回った。望まない理由(複数回答)としては、「家族に負担がかかる」が87・5%で最も多く、次に多い「症状が急変した時の対応が不安」の53・2%を大きく引き離した。

「軽症は診療所、重症は病院」だとか「かかりつけ医を持ちましょう」などと言えば一昔前に盛んに言われたスローガンですが、近ごろでは医療問題の所轄官庁たる厚労省自身が地域の中小医療機関を統廃合して集約化を進めているせいか近ごろではあまり大きな声で言われなくなってしまいました。
このところ開業医に対する医療財政上の締め付けが年々厳しくなったりレセプトオンライン請求義務化など小技を絡めた開業医潰し政策が進行していたりで開業医の利権団体たる医師会との関係も非常に微妙なものになっていますから、厚労省としても敵に塩を送るようなことはしたくないのか?とも邪推してみたり…

邪推はともかくとしても、今や喫緊の話題になっている医療問題において利用者であり最大の受益者である患者自身の行動が大きな意味を占めることは言うまでもありません。
量的な需給不均衡が大きく取り上げられる昨今ですが、実は質的な需給不均衡も久しく前から進行しています。

医療が高度化してくると当然今までよりも病気は簡単に治るようになるだろうと思えますが、実際には患者一人当たりに要するマンパワーが鰻登りに増大していることが経験的に知られています(このあたり、年々PCは高性能化しているのに重くなる一方の某社性OSを連想します…)。
世に言うインフォームドコンセント(IC)など昔にはさほど手間取らなかった作業が劇的に増加していることも一つの理由ですが、何より患者の医療に対する要求度が極めて高騰してきていることも大きな原因なんだろうと思いますね。

去る4月1日(そう、世界的に色々とイベント盛りだくさんのあの日です)にはこんな話が出てちょっとしたネタとして好評を博していましたが、これなども「おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな」的なものを感じるところですよね。

2009-04-01 ドラクエが医療を崩壊させた

医療に対する要求水準が天井知らずに高くなっていきますと、やがてクレーマーと言われる状態と高率に結びついてくる訳ですが、このクレーマーという言葉自体が一部の方々の過剰反応を引き起こす要因ともなっているようです。
別にクレーマーではないのならネタはネタと笑って済ませればいい話ではないかと思うのですが、こういう話が出てくると早速に噛みついていらっしゃる方々もいるというわけで、なるほど年に一度のイベントであってもこうなんですから日常診療ではどれほどの手間暇がかかっているのかと誰でも容易に想像できるような話ではあります。

医療訴訟は医師の説明不足が原因。患者のせいではない。

何にしろ医療現場としてはこうした現実を前提とした対応をしなければならないのですが、接遇面ではまだまだ社会的水準に遠く及ばない医療現場の対応があるのもまた事実です。
世に「クレーマー」という言葉があり、一方で「クレーマーなどとケシカランことを言うな!」とお叱りの方々もいらっしゃるわけですが、実のところ当たり前の顧客とクレーマー(と呼ばれる方々)との間に明確な線引きは出来ません。
そうであるからこそクレーマーと断定する以前の初期からの適切な対応というものが重要であるし、最近では様々な書籍や相談サイトなども充実してきているのですが、全国の医療機関のうちでこうした面でしかるべきマニュアルなりに基づいて組織的に対応している施設はどれくらいの割合にあるのでしょうか。

クレーマー対処の基本は「窓口を一本化し専門的トレーニングを受けた担当者が対処する」こととされていますが、日経メディカルの記事によればクレーム処理の担当部署や担当者を決めている施設は41%だと言いますから、過半数の施設ではその場に居合わせた人間が行き当たりばったりで対応していることになるのでしょうね。
医療訴訟の当事者が決まって口にする「病院側の説明がころころ変わって信用できない」とはまさしくこういう事情に起因しているのでしょうが、組織としての対応の未熟さが自ら医療訴訟の種をまいているにも等しいということです。
例え善意の患者であってもこんなグダグダの状況ではすぐにトラブってしまうでしょうが、まして相手がプロフェッショナルな?クレーマーともなればいくらでも相手の矛盾点を突いていけるだろうことは想像に難くないですよね。

特に医療分野のような専門性の高い領域ですと変な意味で「何でも専門家に任せろ」といった風潮が蔓延しやすいのか、「先生の患者がご不満を述べていらっしゃるので対応お願いしますね」で医者に丸投げしてくるスタッフも多いようです。
顧客からクレームが来たときに「うちで一番の腕利きですから」と熟練組み立て工に対応させようとする自動車会社などあり得ないことを考えれば、こういう行為がどれほど的外れなものか誰にでも理解できそうな話ですが、何故かそれも理解できない人々が居座っているのも医療の抱える大きな問題の一つでしょう。
今の時代であれば「そんな病院に勤めている方が悪い」と言われそうな話でもありますけれども、顧客に対する組織的対応という点では以前にも取り上げましたように意外に?四国界隈で対策が進んでいるようですね。
しかしその背景をよくよく考えてみれば、これだけやらなければどうしようもないという現場の実態が見え隠れしているようで複雑ではあるのですが…

「コンビニ受診」に別料金(6)(2009年04月06日朝日新聞)

◇暴言・暴力 不払いも増加

  「時間外選定療養費徴収のお知らせ」――。 昨年4月、徳島赤十字病院(徳島県小松島市) のロビーにこんな看板が掲げられた。 休日や夜間の時間外に受診した患者のうち、入院の必要がなかった軽症者から一律3150円を別料金として徴収するという病院側の呼びかけだ。

  軽症にもかかわらず、重症者を扱う2次、3次救急病院を安易に利用する「コンビニ受診」 が全国で問題になっている。 脳卒中など生死にかかわる重篤な患者を診る3次救急に県から指定された徳島赤十字病院も例外ではない。 平日の夜間は多い時で100人、休日には300人を超す患者が相次いで来院した。 ところが、このうち入院した患者は1割に過ぎない。本来は、1次救急を担う地域の当番医や医師会などが運営する急患センターにかかるべき軽症者が大半だ。

  「医師の数が限られている中で、このままでは一刻を争う患者の治療に支障が出る」。 軽症者に対する別料金の徴収は、病院側の危機感の表明だった。

  同病院の実平政則・救急係長は「たとえ救急車で運ばれて来ても、軽症ならば別料金を徴収する。救急搬送は除外すべきか検討したが、『救急車に乗れば徴収されない』 と逆にコンビニ受診を助長させる恐れがある」 と話す。 別料金の徴収後、時間外に受診する患者数は徴収前と比べて4割ほど減った。

     ◇

  香川県は3月、病院を受診する患者に守ってほしいマナーをまとめた「地域医療を守るための宣言」 を発表し、「(医師への) 迷惑行為は慎もう」 「診療時間内に受診しよう」 などと呼びかけるポスター2千枚を県内の病院などに配った

  病院内で暴れたり、暴言を吐いたりする「モンスターペイシェント(患者)」 が近年目立つという医療関係者の声が県に寄せられたためだ。

  昨年12月には同県善通寺市の病院で深夜、患者の付き添いで来た40代の男が、担当医でなく当直医が応対したことに腹を立て、当直医らを暴行した事件も起きた。

     ◇

  「治療に納得がいかないから、料金は支払わない」。 そんな理不尽な言い訳をして、診療費を支払わない患者も増えている。

  四国4県の県立病院の07年度末までの診療費の滞納額(未収金) は、愛媛(5病院)が約3億500万円▽徳島(3病院) 約1億8200万円▽高知(3病院) 約1億6400万円▽香川(3病院、2施設) 約9千万円。

  各県は滞納額を減らそうと支払いの督促を強化しているが、病院側は診療に訪れた患者を「診療費の不払い」を理由に断ることは出来ない。

  愛媛県の担当者は「診療費を払えるのに意図的に支払わない悪質な問題を根本的に解決するには、一人ひとりのモラルに期待するしかないのが現実だ」 と話した。

モンスター患者に対策続々 対応指針、警察と連携も(2009年4月3日47ニュース)

 「待たせるなら金は払わない」「(自分で薬剤を指定し)これを注射しろ」。医師らに理不尽な要求をしたり、時には暴力を振るったりする「モンスター患者」への対応に各地の医療機関が乗り出している。

 徳島県阿南市の阿南共栄病院は1月、対応マニュアルを作成した。(1)暴言には3人以上のスタッフで対処(2)要求に応じて謝罪文や念書は提出しない(3)暴力行為は110番-などの内容だ。

 昨年12月には徳島県警の協力を得て研修会も実施。警察官がモンスター患者役を務めて実演を行い、「やりとりは必ず記録する」といった助言を受けた。2月からは、情報を共有するため具体的なケースを基にした事例検討会も開いている。

 全日本病院協会が2007年末から08年初めに加盟医療機関を対象に実施したアンケートでは、回答を寄せた1106機関のうち52%が、過去1年間に患者や家族から職員への暴力や暴言などがあったと答えた。

 兵庫県は09年度から、警察OBらを救急医療調整員として県立病院など17カ所に配置する。広島県医師会は県警と連携して昨年7月、「他の患者さんに迷惑をかけないで」と書いたポスター1万4000部を作製した。静岡県や大阪府の医療機関からも「送付してほしい」と問い合わせが寄せられるなど反響があったという。

崩壊する医療現場の志気を支えるためには最低限、医療機関が組織としてスタッフを守るという姿勢を明確に打ち出していかなければならないんだと思いますね。
院内の内輪の場所で「それはあなたの対応にも問題があったんじゃないの?」などと反省会をするのは幾らしてもいいでしょうが、外部に対して大きく手を広げて職員を守ってみせるべき組織が背中から銃を撃つような行為を平気で働いているようでは、それは誰も組織に対する忠誠心など発揮できるはずもありませんよね。

地域医療の行く末を大きく左右する問題の一つとして医療を支える地域住民の民度というものが大きく取り上げられるようにもなってきていますが、何より当の医療機関自身に医療と医療スタッフを守るという姿勢がどれほどあるのかということも問われる時代になっているということなのでしょう。

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2009年4月 6日 (月)

救急冬の時代 ご利用はくれぐれも計画的に

先日少しばかり触れました毎日新聞系新聞販売所従業員の死亡事例について、朝日新聞にやや詳しい経緯を書いた記事が載っています。

救急医療の危機 露呈 6病院搬送不能/奈良(2009年03月31日朝日新聞)

 ◇生駒市消防本部「7つ目、早い方」

 生駒市内で意識を失い倒れた新聞販売所従業員の男性(63)が生駒、奈良両市の六つの病院・医療機関に受け入れを断られ、約1時間後に大阪府内の病院に搬送後、死亡した問題は、県内の救急医療態勢のもろさを改めて浮き彫りにした。市消防本部は「七つ目で搬送先が見つかるのはまだ早い方。それ以上照会することも月に数件はある」と明かす。

 21日午後、救急隊員は通報を受け、7分後に市北部の新聞販売所に到着。すぐに重篤な救急患者を受け入れる救命救急センターを備えた近大奈良病院(生駒市)に電話。救急専門医の指示で、心臓の除細動や気道確保を行った。同病院には当直の医師が2人いたが、入院患者の処置で手が離せず、近くの2次救急病院に搬送するように指示されたという。

 この日、生駒市の2次救急の当番病院は白庭病院だった。新聞販売所からは北に1キロ足らず。だが、病院側は「土曜日で当直医が1人しかおらず、十分な設備もない。最初から(重篤な救急患者を受け入れる)3次救急で診てもらった方がいいと判断した」。

 近大病院と並ぶ救急医療の拠点、県立奈良病院救命救急センター(奈良市)も「研修医を含む4人が当直中でベッドは1床空いていたが、直前に脳内出血で救急搬送され、手術した患者の経過が悪く、処置に追われていた」と説明する。

 男性を最後に受け入れたのは、大阪府大東市の野崎徳洲会病院だった。市が計画中の公設民営の市立病院で指定管理者に内定している医療法人徳洲会が経営している。同法人は「年中無休」「24時間」、救急患者を受け入れることで知られる。

 市消防本部は「一般的に心肺停止に陥った場合、できるだけ近い病院で蘇生措置をした方がいい。それで心拍が再開した例もある」と言う。今回のように地元の病院が搬送を受け入れず、医療圏を越えて野崎徳洲会病院に搬送することは過去にもあったという。

 消防庁のまとめでは、08年の県内の重症患者の救急搬送で、受け入れ先が見つかるまでに4回以上照会したケースは530件と全体の12・5%を占め、割合は全国でワースト1。11回以上は50件(1・2%)あった。最大照会回数は23回だった。搬送先が見つかるまでに30分以上かかった件数も344件と、8・4%を占める。

 ◇「医師不足が影響」救命救急センター24時間体制作りへ

県の武末文男・地域医療連携課長は30日、記者会見し、救命救急センターを備えた県立奈良病院と近大奈良病院が受け入れを断ったことが最大の問題と指摘した。そのうえで「医師不足が影響している」として、今後、救命救急センターで常時重篤な救急患者を受け入れることができる態勢作りを進める考えを示した。

 武末課長によると、県立医大病院(橿原市)を含め3カ所の救命救急センターはそれぞれ研修医を含め医師約10人態勢だが、24時間体制で救急患者を受け入れるには30人態勢にする必要があるとした。

 また、消防隊員が2次輪番病院にも照会し受け入れを断られたことについて、武末課長は「2次病院に問い合わせても受け入れは難しい。患者の症状に合わせた照会の規則を作らないといけない」。今月可決された改正消防法は、都道府県に容体に応じた医療機関リストを作成し搬送先を選ぶルール作りを義務づけている。病院搬送に約1時間かかったことは「救急搬送にかかる時間の全国平均は33分。著しく長くかかったとは思わないが、平均より長いのは事実」とした。現場の消防隊員が患者の蘇生をしながら搬送先を探すのは負担が大きいとして、救命救急センターか消防本部が司令塔として照会を担う新たなシステム作りを検討するという。31日午後2時から医大病院で救命救急センターや消防、県の担当者が集まり検討会議を開く。

  ×  ×  ×

 ◎21日の救急搬送の経過(県調べ)

午後1時42分 男性が倒れ、同僚が119番通報
  1時43分 救急車が出動
  1時49分 救急車が現場に到着。応急処置をしながら搬送先を照会
・近大奈良病院(救命救急センター) 処置中
・白庭病院(生駒地区2次輪番病院) 処置困難
・阪奈中央病院(救急告示病院) 処置困難
・県立奈良病院(救命救急センター) 処置中
・西奈良中央病院(生駒地区2次輪番病院) 処置困難
・県立奈良病院 処置中
・野崎徳洲会病院 受け入れ可能と回答
  2時19分 現場を出発
  2時42分 野崎徳洲会病院に収容
  3時15分 死亡確認

こうして見ると本当にどこの施設も社会的要請に対応しているのか、無理な受け入れはしないという姿勢が徹底してきているのを感じますね。
医療に対する国民の要求を見てみますと少なくとも質的悪化を受容するという声はないわけですから、コスト面で国策的に押さえられている以上は全て同時には満足できないと言われる三要素(質、コスト、アクセス)の残る一つであるアクセスが悪化することは避けられません。
限られた医療資源によっても対応可能な範囲内においては可能な限りの対応をするという基準が明確化してくれば、後はその資源を如何に国民の間で分配するのかという議論になっていくのが自然かなと思いますから、後はこうした現状を受けての国民的議論の進展を期待するところですかね。

実際のところどの程度までなら対応可能なのかという話をする上で当然ながら救急の実態把握が欠かせませんが、最近ではマスコミ等においてもある程度現場の状況が報道されるようになってきました。
少し前までの「医療関係者が幾ら声を上げようが徹底無視」という状態からすると隔世の感がありますが、ここでは地方医療圏の状況を報じる地方紙を例に取り上げてみましょう。

医師疲弊「仮眠もできぬ」 危機の二次救急輪番制 広島ルポ(2009年4月1日中国新聞)

 重症患者を夜間や休日に受け入れる広島市の二次救急病院の輪番制が、崩壊の危機にさらされている。当直医師は日中の診察や手術に引き続く長時間勤務を強いられ、軽症患者の増加への対応に追われる。二次救急体制の維持の「瀬戸際」に立つ現場を訪ねた。

 ▽連続30時間勤務も 不当なクレームも悩み

 腕を骨折した幼児の診察中に、看護師が新たな救急車の到着を告げた。午後八時すぎのシムラ病院(中区舟入町)。外科部長の井上秀樹医師(43)は、エックス線撮影を待つよう母親に言い残して診察室を出る。待合室に寄って、別の親子に「もうちょっと待ってね」。搬送されてきた女性が待つ救急処置室へ急いだ。

 断続的に電話

 午後六時から翌午前八時までに井上医師が処置した患者は六人。うち五人が午後八時台に集中した。午前二時、腕のしびれを訴える男性からの電話に応えた。井上医師は「来院や救急隊や患者からの電話が断続的にあり、ほとんど仮眠できない」と明かす。

 この夜は、二次救急の本来の役割ではない軽症患者が五人を占めた。井上医師は「ブト」に刺された患者を深夜に診た経験もある。「それでも、夜にけがを負った患者を診るのは苦にならない」と使命感をみせる。

多忙を理由に日中に受診せず、輪番病院に来る患者が目立つ。いわゆる「コンビニ受診」が二次救急の患者数を押し上げている。広島市内では二〇〇七年度に二次救急病院が受け入れた患者は、十年前と比べ25・9%増の五万五千六百八人に達した。同病院の種村一磨理事長は「このままでは重症患者への対応の遅れを招く恐れもある」と訴える。

 現場では急患より先に診察を要求したり、必要のない検査を求めたりする患者からの理不尽なクレームも目立つという。種村理事長は「クレームやコンビニ受診が医師をつぶす」と危機感を抱く。

 参加減を懸念

 当直を終えた井上医師は翌日も午前中、外来診察をした。午後からは入院患者を診て、帰宅の途についたのは午後三時。勤務は連続二十八時間に達した。手術日は三十時間を超えることもある。

 「救急は不採算部門のうえ、医師不足で救急担当を確保できない」と種村理事長。広島市内で輪番制に参加する病院は四月から一つ減り二十七病院となった。「今後も輪番制から抜ける病院がありそうだ」と危惧(きぐ)する。

 輪番病院の経営者たちは小規模な医院などが交代で時間外に軽症患者に対応するシステムの整備を求めている。行政、医療機関、市民が協力し、医師がベストな状態で診療できる体制づくりが急務となっている。

 ●クリック 広島市の二次救急輪番制

 夜間や休日に入院や手術が必要な重症患者を診る二次救急の輪番制は4月から27病院が対応する。ピークだった1998年度の32病院から大幅に減った。各病院の参加頻度も年々減っており、整形外科は初めて必要な病院数の下限を割り込んだ。

少し前に消防庁が中心となって全国の救急搬送の実態調査結果を発表していましたが、「重症患者が医療機関から3回以上受け入れを拒否されたケースが全体の3・6%」であり「最も多かった理由が「処置困難」、次いで「ベッド満床」だった。」と言うことです。
ちなみに同じ条件で妊婦や小児の場合は「妊婦では749件(4・6%)、子どもでは9146件(2・8%)」であり、「拒否理由で最も多く挙げられたのは妊婦が「処置困難」、子どもが「専門外」だった。」ということですから、やはり妊婦の救急搬送というものはそれなりにシビアな状況と見るべきようですね。
なお同じ調査で都道府県別に見てみますと4回以上照会を要した比率では「奈良が12.5%で最も多く、次いで東京(9.4%)、埼玉(8.7%)、大阪(8.2%)」ということですが、聖地奈良は別格としても都市部の方が状況は厳しいのかなと感じられるところですが、これも少しばかり注意が必要な話です。

以前に兵庫県姫路市で深夜に吐血患者が搬送先がなかなか決まらなかったという事例があり、その後に同市消防救急が搬送拒否先医療機関リストなるものをずらずらと公表して物議を醸したことがありました。
この件に関しては当ぐり研でも取り上げましたが、肝疾患患者の吐血という状況で近隣に消化器内科の常駐する病院があったにも関わらず「外科の症例だろう」と勝手に判断してスルーしていたり、明らかに搬送先として不適切と言うしかないビル診クリニックにまで電話をかけ「連絡つかず」などとやっていたりと、むしろ消防救急の搬送先探し体制にこそ大きな問題があるのでは?と考えられた一例でした。

医療機関自体が少ない田舎と違って都市部では全ての医療機関の顔が見えているわけではないだけに、こうした行き違いの重なりが更なる救急搬送困難を呼んでいる可能性もありますが、まさしくこうした点の改善について消防庁が搬送先リストアップなどと言いだしたように、最近ようやく対策が立てられ始めているところです。
救急医療の逼迫に対する一つの対策として最近では各地の自治体レベルで搬送トリアージの試みも行われていますが、ちょうど先頃そのお試し期間の結果が発表されていましたので紹介しておきます。

軽症の70%が救急搬送辞退 トリアージ試行で効果(2009年3月31日47ニュース)

 傷病者の緊急度に応じて搬送の必要性を判断する「救急搬送トリアージ」を、東京消防庁が比較的軽症な例を対象に試行した結果、救急車での搬送を最終的に辞退した人が70%に上り、救急隊の活動時間短縮に効果があったことが31日、分かった。同庁は4月1日から本格運用を始める。

 トリアージは重症者の搬送遅れを防ぐため、同庁が全国で初めて採用した。救急隊が現場到着後に容体を確認し、緊急性が低い場合は受診可能な病院を紹介し、同意を得て自力で行ってもらう。同意が得られなければ搬送する。

 2007年6月から08年12月までの試行期間で、救急隊が出場した約105万件のうち比較的軽症な約1760件にトリアージを実施したところ、約70%の傷病者が自力で病院に行くことに同意し、30%は同意しなかった。

 1回当たりの活動時間は、「同意あり」は平均約19分だったが、「同意なし」は現場での活動や搬送などで約36分を要した。

東京都ではかねてこの救急搬送トリアージに前向きな姿勢を示していることが知られていますが、極めて限定的な運用であるとはいえ対象例の70%が搬送辞退したと言うことはそれなりの効果があったのかとも思われる結果です。
もちろん全体の中でのわずか0.2%程度に試みたということですから、恐らくは誰がどう見ても緊急性がない症例に限定されていたであろうことは容易に想像できるところですし、今後対象を広げるほど現場での説得時間が余計にかかるだろうとも予想されるところではあります。
しかしこうした報道によるアナウンス効果も含めて住民意識改善につながる可能性が多少なりともあるということであれば、救急医療の需要と供給の不均衡を改善する一助となるかも知れないという期待は残りますよね。

同じトリアージつながりでこんな記事もありますが、医療=限られた公共資源であるという認識を一人でも多くの国民が共有し節度ある利用を心がけると同時に、節度を失った乱用に対しては周囲からはっきりと否定的な態度を示していくということが求められているのだと思います。
今の時代何かあったとして絶対確実に医療機関に受け入れてもらえるという保証などどこにもないという時代ですが、少しでもその可能性を高めるために平素から心がけていけることは幾らでもあるということです。
医療が守るのも国民であるなら、医療を守るのも国民であるという認識が等しく皆の共有するところとなれば、限られた医療資源も最大限の効率で機能するようになるのではないかという気がします。

「トリアージ」進まぬ周知 災害、事故時の治療優先順位付け 医師「人命救助 協力を」(2009年03月21日西日本新聞)

 大規模災害や事故の際、負傷者の治療の優先順位を決める「トリアージ」が九州でも浸透しつつある。2005年の福岡沖地震や大分市の造船所で26人が死傷した1月のタラップ落下事故では、駆けつけた医師らが行った。だが、市民の多くは「『避けられる災害死』を出さない」という意義を知らず、「早く診ろ」と判定に不服を訴えることも。医師は「市民の協力なしには救える命が救えない」と理解を求めるが、容易ではない。

 「選別」を意味するトリアージは、医師たちが負傷者を救命不可能の「黒」、緊急を要する「赤」、治療を遅らせても影響がない「黄」、緊急処置が不要な「緑」に色分けし、札を付ける。効率よく、多くの命を救うための取り組みだ。

 大分市の南日本造船大在工場での1月の事故。大分三愛メディカルセンター(同市)の玉井文洋医師は現場に急行、負傷者の搬送順位を決めるトリアージをした。死者2人と重軽傷者24人が次々と病院へ運ばれた。

 「ショックが大きすぎたのか、負傷者が叫ぶこともなく静かだった」。こう振り返る玉井医師だが、一方で、救急隊が「何で何もしないのか」と責められる声を聞いた。

 救急隊はトリアージで、死亡した男性に黒色の札を付けた。「黒」と判定されれば、医師たちは別の負傷者を診る。しかし、同僚がシートに寝かされたままの姿を見た作業員は「助かるやつを優先するんだ…」とやりきれない思いを口にした。

 福岡沖地震では福岡市内の病院で行われたが、「緑」と判定された人が腹を立て、札をちぎり、再び判定を求めるケースもあった。判定に従わない負傷者が増えれば混乱は避けられず、市民への周知は欠かせない。だが、現状では医療者でさえ正確に理解していないこともあるという。

 大分県内の医療者や消防職員向けに毎月、学習会を開く玉井医師は、市民向けの啓発は今後の課題と指摘する。ただ「周知しすぎると、負傷者が重傷を装って『演技』する恐れもあって悩ましい」とも打ち明ける。

 災害医療に詳しい九州医療センター(福岡市)の小林良三救急部長は「多くの人に意義を知ってもらうため、行政との連携が必要」と訴えるが、手付かずの状態という。

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2009年4月 5日 (日)

今日のぐり「和牛レストランふゆさと」

年末になると色々な10大ニュースの類が発表されるのが恒例ですが、年度初めにもこんなニュースが出てくるのですね。
しかし4月4日で新聞をヨム日って幾らなんでも無理矢理過ぎるんじゃないでしょうか(苦笑)。

もっともハッピーなニュース 第5回『HAPPY NEWS 2008』大賞決定(2009年4月3日オリコン)

 日本新聞協会は2日(木)、4月6日の“新聞をヨム日”にちなみ、毎春実施している『HAPPY NEWS キャンペーン』第5回目の受賞結果を発表した。08年4月1日から09年3月31日までの、最もハッピーにしてくれた記事に贈られるもので、大賞には09 年1月12日付けで大分合同新聞に掲載された【形見のランドセル「僕が背負う」】の記事が選ばれた。阪神・淡路大震災で亡くなった当時小学1年生の兄が使用していたランドセルを、その後生まれた弟が小学生になった際に「僕が背負っていく」と、受け継いで使用していることを紹介した記事だ。

 優しい気持ちや、勇気などを届けてくれた新聞記事の切り抜きとその理由を読者から投稿してもらい、各年度の『HAPPY NEWS』を決定する同企画。今年は、国内外より過去最多となる10749件の応募があり、その中から一般を対象とした「HAPPY NEWS 2008」を10件、学生を対象とした「HAPPY NEWS小学生(以下を含む)/中学生/高校生以上の学生」を各3件ずつの計9件。そして、入選作品19件の中から「HAPPY NEWS大賞」1件を選出した。

 そのほかの入選作品には、タクシードライバーが乗客の喜ぶ顔が見たいためにプレゼントしてきた四つ葉のクローバーがついに1万本を突破したことを報じた【贈った四つ葉1万本】(秋田魁新報)や、「自分ができることで、困った人を助けてあげられたらいい」という思いで、3年間で約120台の自転車を修理してきた高校生のエピソードが取り上げられた【“特技”で人助け3年】(神奈川新聞)などが選ばれている。

さて、こちらがその結果なんだそうですが、大賞に選ばれました記事「形見のランドセル「僕が背負う」」はこちらで紹介されているようです。
こういうのを最近では深いい話と言うのでしょうか、個人的には今年度の「もっともハッピーなニュース」大賞はこちらの記事に差し上げたいかなという気がしますね。

ドイツの子ども3人、寒さから逃れようとアフリカ目指すも失敗(2009年01月6日ロイター)

[ベルリン 5日 ロイター] ドイツのハノーバーに住む3人の子どもが、寒さにうんざりしてアフリカを目指したものの、地元の駅で警察に補導されるという出来事があった。警察が5日に発表した。

 6歳の男児と7歳の女児は、新年に何か特別なことをしようと暖かいアフリカに行き結婚することを計画。証人として女児の妹(5)も連れ、1日早朝に路面電車で中央駅に行き、空港に向かう電車に乗り込もうとしているところを警察に止められた。

 警察のスポークスマンによると、子どもたちは食品や水着、サングラス、エアマットなどを詰めた3つのスーツケースを持っていた。警察官は子どもらに、現金やチケットなしではアフリカに行くのは難しいことを説明、代わりに警察署の見学ツアーをさせた後、親元に帰したという。

今日のぐり「和牛レストランふゆさと」

それ自体かなりなど田舎感が漂う新見市の市街地からも遙かに外れ、本当に何もない山の中をひたすら走っていると唐突に出現する「千屋牛の里ゆうゆうセンター」。
センターというと何かしら道の駅みたいな立派なものを想像してしまいますが、見る限り正体不明の建物こそあれど営業しているのはこのレストランだけのようにも見えます(噂によると裏側には牛が隠れているとかいないとか)。
ここには以前にも来たことがあってまあこんなものかなという程度の印象だったのですが、今回かなり違ったところもありましたので改めて取り上げてみます。

そこそこ雰囲気のある店内は昼飯時ということもあってか八分程度の入り、こんなど僻地にあってはまずまずの繁盛というところでしょうか?
ここは定食やセット系のメニュー(これもまあ定食ですが)中心なんですが、そのうちステーキセットなるものは特選、A、Bと値段の違う三種類があります。
写真で見る限りでも実際に見てみても肉以外の部分に差があるようには見えませんから、たぶん値段の違いというのは純粋に肉の差なんだろうなあと想像できるところですよね。
というわけで今回は「特選・ヒレ」と「A・サーロイン」の二種類の肉を食べ比べてみました。

記憶によれば以前に来たときに食べたのがこの「A・サーロイン」だったと思うのですが、味の印象としてはあちこちで出されるいつもの千屋牛の味だなという域を出ません。
霜降りなどと言いますがほとんど純然たる脂じゃねえか?と思えるほどにサシが多く、赤というより白っぽい色合いと言う時点で「ああ…」と嘆息。
肉質は至って柔らかく口の中にいれるとさっと脂が溶けると共に噛みしめるまでもなくはかなく消えていくというのは、日本の一部和牛信奉者によるところの「箸で切れるほど柔らかい肉」信仰の行き着く果てというところでしょうか。
もちろんこの脂自体のキレも味も決して悪くないんですが、脂の味で量的にも濃度的にも肉自体の味が薄まってしまうだけ噛みしめたときにほとばしる肉汁の旨みという点ではやはり物足りない。
こういう味の千屋牛を食べさせる店というのはあちこちにあるんですが正直食い飽きたと言うのもありますし、そうであるからこそ千屋牛と言うものに今までさほど高い評価を与えられなかったのも確かです。

これだけだったら世に数限りなく存在する「その他どうでもいい店」の一つで終わっていたところですが、比較して食べてみた「特選・ヒレ」の方はかなり趣が違うんですね。
まず見た目からして違う、切り口はサシがほとんど入らないほぼ純然たる赤身、これぞまさしく肉という色をしています。
何より「A・サーロイン」と比べればナイフで切るのもちょっとした苦労がいるほどしっかりした手応えがあって、良い肉=とにかく柔らかいものなんて考えの人にとっては何でこれが特選?と感じられるかも知れません。
口にするとしっかりした肉の線維を感じるほどに歯ごたえがある、そしてこの歯ごたえのある肉をひと噛み、ふた噛みと噛みしめるごとに旨い、後から後から旨みが湧き出てくるんです。
脂がないようで食べてみると実は脂もそれなりにあるのですが、口の中に入った途端にあっさりと自然に溶けて流れる、そしてその後から熟成した濃厚なアミノ酸の旨みが口一杯に広がっていく、まさにこれこそ「肉の味」です。
食べ比べてみて初めて判りましたが、この肉を特選ステーキとして最上位メニューの位置づけで出しているのは非常にアグリーですね。

まあそんなこんなで肉に関しては案外見直したところもあるのですが、この店の場合その他の部分で色々と突っ込み所が多そうですよね。
ステーキとしての一番の問題は脂が周囲にまで飛び散るくらいにカンカンに加熱された鉄皿に載せてサーブされるところでしょうか。
いかにも古き良き時代の洋食っぽくて雰囲気的には嫌いでないんですが、こういうスタイルだと結局どんな焼き加減で頼んでもウェルダンにしかならないという気がしてどうかなと思います。
また明らかに肉自体が売りの店なんですから、個人的にはセットばかりではなく単品の肉料理も色々とメニューに並べて欲しいところですが、地域性や客層を考えると難しいところなのかも知れません。

それより何よりここの飯がまたちょっとこれはさすがにどうよ?と言わざるを得ない味で、肉うどん以外全てのメニューについてくるものであるのにこれはいただけません。
定食中心といってもかなり幅広い価格帯にメニューが分布しているだけにこうした部分のコスト設定は難しいのかも知れませんが、上位メニューであればそれなりに良い金額を出しているお客さんに対してこの飯を食わせるのはさすがに失礼かと思いますね。
その昔伝え聞いたところによるとこの辺りは稲作には必ずしも向いてない土地柄でもあるそうなので、地産地消に徹するということなら米の質としては仕方ない部分もあるかも知れません(実際に地元産の米なのかどうかは知りませんが)。
しかし米の質を云々する以前にこの飯の炊き上がりもその後の扱いもさすがにお百姓さんに失礼なので、このあたりのお金のかからない部分は是非とも改善を期待したいところですね。

サービスに関してもそこそこ広い店なのに、フロア係が隅っこの厨房脇でずっと立ちんぼというのはいただけません(まあ、この日のスタッフがたまたま揃いも揃ってそうだった可能性もありますが…)。
しかも厨房前にあるテレビの音量がそれなりに大きいので(それなりに高い金出してBGMがテレビの野球中継か…というところも突っ込みたいんですが)奥の方の席からは大声を出さないと聞こえないようですが、年配客の多い(そして地域の所得水準からすると相当なご馳走を食べに来ているだろう)客層に対してあまりに不親切ですよね。
店内中央に視線を遮る構造物があって厨房脇からでは席のほとんどが死角になるのに店内を巡回しているわけでもないようですから、こういうことなら各テーブルに呼び鈴でも置いておくのがよさそうに思います。

座敷の四角い座卓はともかくフロアの丸テーブルも妙に狭苦しいのが気になったんですが、この丸テーブルは真ん中に妙にばかでかいトレイが載っているので実効スペースは広くないんですね。
どうせバーベキューソースやらマスタードやらはその都度運んでくるわけですから、もっとコンパクトなトレイにするなりしていただけるともう少しゆったりとした気分で飯を食える気がします。

全般的に見て良くも悪くも田舎の店だなという印象なんですが、こんな何もない場所でやっていけているわけですからそれなりに成功していると見ていいのでしょうか。
これからの季節は雪も消えてよい気候になってくるでしょうから、あまり細かいことなど気にせずおおらかな気分で田舎の空気を吸いにいったついでに立ち寄るというのが正しい利用法なんでしょうかね。

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2009年4月 4日 (土)

既存マスコミとネット

すでに御存知の方も多いかと思いますが、朝日新聞社が2chで規制を食らった件で大恥をかいています。
まずはこちらの記事から紹介してみましょう。

朝日新聞、意味不明の連続書き込みで2ちゃんねるの運営を妨害(2009年3月31日technobahn)

フリーの大型掲示版サイト「2ちゃんねる」が30日付けで朝日新聞社(asahi-np.co.jp)からの記事の書き込みに規制をかけたことが明らかとなった。

 2ちゃんねるによると朝日新聞社は今年の2月頃から2ちゃんねるの「鉄道路線・車両」板内のスレッドに対して「あぼーん、あぼーん」といった意味不明な書き込みを多数投稿し、掲示版の正常な運営を妨害する行為を行っていたとしている。

 国内企業の場合、企業内から2ちゃんねるへ書き込みを行うことを規制しているところも多く、このように2ちゃんねる側が企業名を公表して迷惑行為の排除に乗り出すということは稀

本社編集局員、差別表現をネットに投稿(2009年3月31日朝日新聞)

 朝日新聞社内のパソコンからインターネットの掲示板に不適切な内容の書き込みがされていたことが分かった。本社は31日、この文章を書いた社員を特定し、事情を聴いたところ、投稿を認めた。

 社員は東京本社編集局の校閲センター員(49)で、掲示板サイト「2ちゃんねる」に断続的に投稿していた。部落差別や精神疾患への差別を助長する内容が含まれていた。3月30日夜、外部から指摘があり本社が調査を開始した。

 このセンター員は「他の投稿者と応酬するうちにエスカレートしてしまった。悪いことをしました。釈明の余地はありません」と話している。

◆本社「厳正に処分」

 朝日新聞社広報部の話 弊社社員が2ちゃんねるの掲示板にきわめて不適切な書き込みをし、多くの皆さまに不快な思いをさせ、ご迷惑をおかけしたことをおわびします。事実関係をさらに確認した上で、厳正な処分をいたします。

これらの記事からはどこが差別表現なのかはっきりしませんが、まとめサイトから実際の内容を引用してみますとこんな感じだったようです。
他にも見れば見るほど色々なところを騒がしているらしいのですが、しかしまあ単に差別表現と言うのですかねこういうのは…

朝日新聞社 鉄道板荒らし問題まとめwikiより抜粋
問題となった差別発言

15 名前:名無し野電車区[sage] 2009/02/09(月) 14:44:57 ID:faX4BoSi0
出て行け部落民。

20 名前:名無し野電車区[sage] 2009/02/09(月) 16:02:27 ID:faX4BoSi0
つまりルルってエタヒニンだから、関西から夜逃げして来たんだね。
だから、2ちゃんでは虚飾で飾っていながら、
実際には家賃にすら窮する貧乏フリーターなわけだ。
エタヒニンが足立区や舎人ライナーを馬鹿にするのは理解できなくもない。
やっと、そんな環境から逃げて来たんだものね。

147 名前:名無し野電車区[sage] 2009/02/13(金) 04:50:12 ID:95bZ80OZ0
馬鹿ルルは、部落民であることは否定しないのな。
貧乏で何の取りえもない基地外ルル。
とっとと箕面の部落で死ねばいいのに。

176 名前:名無し野電車区[sage] 2009/02/13(金) 22:09:08 ID:95bZ80OZ0
どうしたルル?
鬱病の薬が切れて二重人格が元に戻ったのか?
ニート精神病部落民のやることは分からんな。

186 名前:名無し野電車区[sage] 2009/02/14(土) 15:20:10 ID:3kTT4Qt40
部落民が毎日出しゃばってんじゃねえよ。睡眠薬でも飲み過ぎて永眠しとけヴォケ

朝鮮人差別

12 名前: まちこさん 投稿日: 2007/02/07(水) 20:08:43 ID:ifFrVJoE [ atws03.asahi-np.co.jp ]

お囃子のこと
このごろ、お囃子も地元佐倉囃子が東京の若山社中に侵食されつつあるのはさびしいですね。
佐倉囃子の会員が自分の囃子を粗末にして若山一辺倒になるのはどうかしてるし
佐倉で演奏するなら佐倉囃子を演奏すればいいのにね。
そもそも佐倉に若山を持ってきた奴は元会員なんだけど出自が朝鮮人で頭のおかしい奴だったから
日本人の心とかしきたりなんか何もわかっちゃないからしょうがないけど。
その人還暦近いのにまだわからないよ「馬鹿」。

不二家風評被害まで…

7 名前: まちこさん 投稿日: 2007/02/18(日) 03:39:53 ID:OPED7JVM [ atws03.asahi-np.co.jp ]
それってOKストアーでしょう。あそこは安い客がたくさん来るから生鮮食料品なんか新鮮だよね。
ただ、不二家の商品をまだおいてるのは、いただけないね?まぁ買わなきゃいいけど。

アダルトスパム

件名:挿れっぱwwwww 投稿者:ばばそ 投稿日:2008/11/01(Sat) 23:31 No.68 HomePage
ちょww ユカって子ヤバイwwwww
しゃぶってもらいながら、ずっとオ ナ見てあげてたんだけど、イった後もバ イブを突っ込んだままでそのまま寝てた(^^;
いやぁ、寝てても体はヒクヒクするもんなんだなぁwwwwwwww
(業者アダルトサイトのURL)

興味深いのは朝日新聞側では件の編集局員一人の犯行ということにしておきたいようなのですが、少なくとも六人のIPが規制されているようなのですね。
同じくまとめサイトから事件の経過を見てみますと、どう見ても一人での犯行というには無理のある現象が発生しているようです。

これまでの流れ

2009/02/08~
名無しと固定ハンドル※が2ちゃんねる鉄道路線・車両板のスレッドで 差別用語を乱発し 煽り合いをしていた。

2009/03/30(月) 16:01
双方とも荒らし行為として削除要請板のスレッドに報告され、スレッド内で名無しからの投稿が「atws02.asahi-np.co.jp」や「atws03.asahi-np.co.jp」からによるものだと判明する。

2009/03/30(月) 16:42
ニュース速報板でスレッドが立ち、祭りとなる。

2009/03/30(月) 20:09:13
「\.asahi-np.co.jp」が2ちゃんねる内の全サーバで規制される。

朝日新聞社のIPが規制されたのと時を同じくして、

    * 2nnへのアクセス数が半減する
    * 突如,政治的・思想的に偏った悪質な書き込みが激減する (特にニュース・スポーツ・政治系の板で顕著)
    * 同じくかねて運営より指摘されていた「中国と民主党工作員」の活動も鎮静。(「yahooみんなの政治」等、外では活発なまま)

という現象が発生。

2009/03/31(火) 15:39   
規制との関連性があるのかという話について、
管理者FOXが 朝日新聞から工作行為と断ずる事ができるレベルでの書き込みがこれまでにあった事を 暴露 。

このあたりの事情は噂レベルのカキコやら電突レポートやらで情報が錯綜していてどこまで本当のことなのか判りにくいのは確かですが、少なくとも朝日新聞社員が日頃紙面で非難しているまさにその通りの行為をネット上で行っていたという事実は拭えないと見てよいでしょう。
特に注目すべき点は朝日新聞、毎日新聞をはじめとする既存メディアが近年ネット上での言論に対して攻撃姿勢を強めているということで、その「中傷被害」なるものの実態が自社書き込みであったと言うことであればこれはマッチポンプと言われても仕方のない糾弾されるべき行為ですよね。
ちなみにネット社会ではこうした恥ずべき行為を至ってシンプルに「お前が言うな」と評します。

天声人語(2009年2月7日朝日新聞)

 パリの裏通りを歩くと、たまにクラクションの合奏に出くわす。渋滞の源である配送車に、後続の車が遠慮がちに鳴らした一発。それがたちまち長い長い一斉射撃に転じ、荷下ろしの配達員をせかすのだ。「奏者」不詳の匿名性が、気と音を大きくする▼インターネットでの中傷被害が絶えない。匿名に乗じて、小心者が振り回す言葉の暴力だ。巨大掲示板での雑言は、例えれば公園で怒鳴り散らすのたぐい、ブログへの悪態は民家に土足で乗り込む挙だろう▼男性芸人が殺人事件に関与したというデタラメな情報をもとに、芸人のブログに「殺す」などと書き連ねた女が、脅迫の疑いで書類送検された。同じブログで中傷を重ねた17~45歳の男女18人も、名誉棄損の疑いで立件される▼住所は北海道から九州まで。互いに面識はなかろう。同じ民家で暴れた縁とはいえ、「覆面に黒装束」では男女の別すら分からない。だが書き込みの記録から発信元は割れる。警察がその気になれば、覆面は造作なくはがされる▼顔が見える集団討論でさえ、意見が次第にとんがり、結論が極端に振れることがある。匿名ゆえに責任感が薄まる場では、安易に同調し、論より情にまかせて過激さを競うような群集心理が働くという(岡崎博之『インターネット怖い話』)▼自由に発信できるネットにより、善意の輪が広がることもあれば、権力やメディアの所業が問われもする。「情」と「報」の海に紛れる悪意をどう摘むか。もはや言論の裏通りとはいえない存在だけに、交通整理の知恵がいる

朝日新聞に限らずネット上での情報収集(彼らの言葉によればネット取材というのだそうですが)はごく一般的に行われている行為であり、最近もTBSが見事に恥をさらして話題になったことも記憶に新しいところです。
少し前にはテレビ朝日が「ネット上にあふれるブログなどのウソを見破る」と銘打った番組で嘘を見破ったはずが、実はそのブログ自体が自社制作の捏造だったと言うことがバレてしまい、やはりここでもマッチポンプの工作員活動遂行中であったことが知れ渡ってしまいました。
事件自体は珊瑚KY事件をはじめ捏造がお得意の朝日系列であるだけに「またいつもの得意技発動か」という感じなのですが、むしろ彼らの反社会的活動が常時ここまで詳細に検証されていると言うことの方に驚くほどで、それだけ既存メディアというものが社会的信用を失っているということなんでしょうね。
少し前には新聞協会が報道各社に対してだけ個人情報保護法の規制を撤廃せよなどと手前勝手な事を言いだしていましたが、こうした彼らの行動を見れば社会的支持が得られるものかどうかもう一度自省してみた方がよさそうにも感じられます。

既存メディアのネットに対する姿勢というものは一方で利用すべき点は利用するという実利中心のつき合い方もあるわけですが、むしろ公的立場としてネット敵視、ネット軽視という態度をあからさまにしているように見えることも注目されます。
ネット軽視ということに関しては彼らの底なしの無知ということが最大の原因のようにも見えますが、いやしくも21世紀に生きる報道業界の人間としていかがなものかと感じているのは自分だけではなかったようです。

NHKの討論番組で驚いたネットに対する認識不足(2009年3月30日日経ネット)

 NHKの討論番組「日本の、これから テレビの、これから」に出演した。メーンゲストは民放連の会長、NHKの副会長、糸井重里氏、ジャーナリストの嶌信彦さん、そして私の5人。さらに各民放のプロデューサーや放送作家、そして視聴者代表の方々が加わった生放送の討論番組で、3月21日土曜日の午後7時半から3時間というゴールデンタイムに放映された。(夏野剛のネオ・ジャパネスク論)

 テレビの企画としてはとても意欲的なもので、この企画をNHKで通した方々に本当に敬意を表したい。いろいろ大変だったと思う。

■ゲストも視聴者も50代以上

 番組は「視聴者代表 vs 番組制作者代表」という構図で進められたので、メーンゲストの5人が中心というわけではなかったのだが、視聴者、制作者、ゲストを問わず、私が思った以上に、50代以上の参加者がネットの基礎知識をもっていないことに愕然とした。

 というか、単にインターネットを使ったことがない、というレベルだろうか。メーンゲストも私以外は糸井さんも含めて全員60歳以上、制作者の代表も半数は50歳以上。また、土曜のこの時間だと、番組の視聴者も7割ぐらいが50代以上だろうか。

 別に年代と知識は連動しないのだが、発言内容をみると、ネットのことを知らない、あるいは使ったことがないことを露呈しており、かつ、分からないが故に嫌悪しているような響きのある発言すらもあった

 そういう人たちが多数派というなかでの討論なので、話が噛み合わないと言った方が正しいだろうか。番組の進行上も、ゴールデンタイムにNHKの討論番組を見る人たちにはネットの知識なぞないという前提なので、見ている人たちに合わせた発言レベルを歓迎する。

 図らずもネット業界代表のような立場になってしまった私であるが、なにしろ生放送なので、機会を逃さないように発言するのが大変であった。
(略)
■あまりの認識不足に悲しい気持ちに

 本コラムでは、番組の本来の趣旨である「若者がテレビ離れし、ネットに流れているなか、テレビはこれからどうなるのか、どうすべきか」というテーマに関して、気になったことをまとめてみたい。

 まず、多くの参加者が「テレビ=テレビ受像機と放送」という捉え方をしていたが、実際にはパソコンでもケータイでもテレビは見られる。人気番組はDVDにもなれば、映画として上映されるものもある。つまり「テレビ」とは箱としてのテレビなのか「番組」(あるいはコンテンツ)なのかが、人や発言によってバラバラであり、曖昧だった。

 また、ネットを使ったことがないと思われる人を中心に、「テレビ=マスメディア=良識ある報道、精度の高い情報」対「インターネット=個別メディア=無責任でいい加減な情報」という構図で話したがっていた。しかし、テレビ局だって新聞社だってインターネットを使っているわけで、テレビ対インターネットという構図はまったく的外れなのだが……。

 メーンゲストですら「ネットにはいい加減な情報が……」というような発言をしていた。議論すべきなのはテレビがこれからどうネットを使うのかという点であって、ネットの中のいい加減な情報について語る場面ではない。ネットに対するあまりの認識不足に、正直悲しい気持ちになった。

■制作者の危機感も薄く

制作者の方々の現状への危機感が薄いように感じたが、ご覧になった方はどうであっただろうか。例えば、決まった時間にテレビを見るということが今後減っていくと答えたのは、制作者9人のうち、わずか1人。残りの8人は今後もタイムテーブルに合わせて視聴者が番組を見てくれると思っているようだった。

 視聴者代表のどなたかが言っていたような「昔と比べてテレビ番組の質が下がっている」という話では決してない。単にテレビの他に面白いことがたくさん出てきているのだ。テレビしか娯楽がなかった時代ではないのだから、必然的に、決まった時間にしか見られない番組は敬遠される、というか相手にされなくなる

 絶対価値が変わっていなくても比較優位性が薄れているということに、テレビの制作者たちが感づいていないことは正直ショックであった。
(略)
■「使ってない」人の集まりは本質的な議論にならず

 今回は生の討論番組で、しかもゴールデンタイムだったので、このメンバー選択はよかったと思う。結論を出すことが目的ではないので、見方の違い、もっと言うと、ネットに対する基礎知識レベルの違いが明確になって、番組企画としては成功だったと思う。

 企業名や番組名などの禁句なし、台本なし、しかも私のような人間をゲストにしてくれたこと(他のメーンゲストは全員60歳以上)に、本当に感謝したい。制作に携わった方、本当にご苦労様でした。

 が、もしこれが政府主催の研究会や懇談会、あるいは諮問委員会だったら、と思うとぞっとする。つまりネットに対する誤解や、基本的に「使ってない」人たちがメンバーになっていると話が全く違う方向にいったり、本質的な議論にならないということだ。

 よくある政府関係の集まりでは、バランスをとると称して、いろいろな立場の人をメンバーにするのが常道だが、ことネットに関する限り、使ってない人には全く分からない利便性、効能をきちんと議論する必要がある。

 特に、未来に向かって「これから」を論じるときには、今あるものを廃止したりなくしたりするわけでない限り、新しいものを理解できずに恐れている人を議論に入れるのは意味がない

 今回の番組のなかでも「パソコンの操作が分からない」「オンデマンドになったら何万のコンテンツから何を見たらいいか分からない」「高齢化が進むのでますますネットを使えない人が増える」という視聴者代表の意見が相次いだが、そういう方々は今のまま番組表に基づいてテレビを視聴し続ければいいわけだ。少なくともテレビの「これから」を議論する際に重要な要素とは思わない(もちろん配慮は必要だけれど……)。

 翌週、この番組を見ていた知人からこう言われた。

 「番組は面白かったけど、ナツノさんの言っていることよく分からなかったな。オンデマンドって何?」

一方でネット敵視ということに関してはもう少し根が深く、今回のようなメディア側の不用意な自爆がネットの反発を招き、それに対してメディア側が反感を深めるという傍目には逆恨みの逆ギレとしか思えない関係が続いていることが根本原因となっています。
以前にも何度か登場いただいた佐々木俊尚氏を初めとする方々が、ネット憎しの急先鋒・毎日新聞をテーマにこのあたりのメディア側の事情を解説しているので引用させていただきましょう。

毎日新聞「変態ニュース」事件半年 ネットに「火種残されたまま」(2008年12月29日J-CASTニュース)

   J-CASTニュースが、毎日新聞の英語版ニュースサイト「毎日デイリーニューズ」で長年にわたって、異常な性的嗜好を話題にした記事を配信していた事実を報じてから、半年が過ぎた。この事件は、「低俗すぎる」「日本を貶めた」などとしてネットユーザーの「怒り」に火をつけ、毎日新聞の広告主に抗議の電話をする「電凸(でんとつ)」が相次いだ。一時消えた広告は戻りつつあり、表面的には収まったかに見えるが、その後も掲載した記事に関連して、同社の「ネット感覚」や報道姿勢に批判が出ており、「火種は残されたまま」になっている。

「マイノリティの意見として高をくくらずに対処した方がいい」

   2008年9月25日に開かれたマスコミ倫理懇談会の分科会「ネット社会とメディアの倫理」で、この問題が取り上げられた。同会によれば、徳島新聞の記者出身で著名ブロガーの藤代裕之さんが「電凸がどんどん広がり、マスコミが攻撃を受ける事態が広がりつつある」などと指摘。ライブドア広報部長を務めた、ウェブコンサルタントの伊地知晋一さんが、既存メディアへのネットでの攻撃をマイノリティの意見として高をくくらずに対処した方がいいとアドバイスし、「2ちゃんねるを1000万人が見ていることは直視すべきだ」などと話した。

   同会では、毎日新聞社にこの分科会に参加するよう要請したが、同社からは、

    「まだ収束しておらず社としてなすべき事は山積している。現段階での出席は時期尚早で、しかるべき時に会員として経過を報告したい」

といった内容の回答が寄せられたという。

   ITジャーナリストの井上トシユキさんは、毎日新聞の「変態ニュース」事件について、ネットでよく使われる「マスコミ」と「ゴミ」の造語「マスゴミ」という言葉を使って、

    「『2ちゃんねる』などでは、もともと毎日新聞などマスコミに対して、ちゃんと情報を開示しない、偏向的な報道しかしないという理由で、『マスゴミ』という受け取られ方をしていた。今回の問題は、格好の燃料投下になり、毎日新聞=『反日』メディア、というイメージを強化してしまう結果になった。未来永劫とは言わないまでも、毎日新聞は『マスゴミ』代表としてアイコン化されてしまい、まさに(ネットユーザーが反撃する)火種は残ったままだ」

と指摘する。

   井上さんの指摘のように、毎日新聞の「ネット感覚」に変化はないようだ。08年11月19日には、元厚生事務次官宅が相次いで襲われた事件前に、インターネット上の百科事典「Wikipedia(ウィキペディア)」に、犯行を示唆する書き込みがあったと毎日新聞が誤って報じ、問題になった。書き込みは事件後にされたものだったため、同紙はお詫びと訂正を行った。しかし、その一方で、訂正後もこの書き込みをしたユーザーを「犯行示唆と受け取れる書き込みをしたとする人物」、書き込みについては「問題の書き込み」と表現した記事を掲載するなど、いわば「ネットへの敵意」さえ感じられる姿勢さえとっている。そして、書き込みを行ったユーザーが、毎日新聞社に抗議し、その顛末をネット上で暴露するという事態も発生した。

「ネットVS毎日」の対立構図は相当根深いもの

   前出の井上トシユキさんは、「毎日新聞の現場の記者には、ネットをツールとして有効に使おうという記者もいる。ネットと現実社会と橋渡しとなるような取材をして、イメージを覆すように期待したい」と話すが、ネット上では毎日新聞は常に批判の槍玉に上がり、「ネットVS毎日」の構図は相当根深いものになってきていることは否めない。
(略)

「変態記事」以降も毎日新聞の「ネット憎し」変わっていない(連載「新聞崩壊」第3回/ITジャーナリスト・佐々木俊尚さんに聞く)(2009年1月1日J-CASTニュース)

   毎日新聞が自社の英文サイトに「変態記事」を掲載していた、いわゆる「WaiWai事件」では、ネットユーザーが広告主に抗議の電話をする「電凸(でんとつ)」と呼ばれる行動が相次ぎ、同社の経営に大きな影響を与えた。事件後も、同社はWikipediaの記載内容を誤って報じるなど、「ネットに対する姿勢に変化がみられない」との声も根強い。「WaiWai事件」とは何だったのか。この事件を通じて見える新聞社とネットとの関係を、同社OBのITジャーナリスト、佐々木俊尚さんに聞いた。

――今回のWaiWai事件を考える時の論点はいくつかあると思いますが、その一つが、広告を狙い撃ちした「電凸」です。「電凸」を実行したのはいったい誰なのでしょうか。

    佐々木   「毎日新聞のクライアントが誰か」というのは、紙面を見ればすぐに分かりますし、実際、200社以上に抗議の電話が入ったようです。「誰かが抗議ビラをつくってPDFにしてアップロードする」といったことが組織的に行われたのは、おそらく日本では初めてのことではないでしょうか。何故あそこまで大きくなったのか、びっくりしています。

「ネット世論」は、明らかに「普通の世論」とオーバーラップ

――影響力は、実際のところどのくらいあったのでしょう。

    佐々木   毎日のウェブの広告は、ほぼ全滅しました。ただ、「毎日.jp」に出稿されている単体の広告が1つずつストップした訳ではありません。「毎日.jp」は、基本的にはヤフーの(広告配信サービスの)アドネットワークに取り込まれていて、ヤフーに対してスポンサー側から「毎日はアドネットワークから外してくれ」という要請があったようです。毎日新聞はヤフーの大事な提携パートナーですし、新聞業界では一番緊密な関係にある。ヤフー側も、かなり悩んだようです。なおかつ、1社だけ外すというのは前代未聞です。結局「クライアントの要求には応えないといけない」ということで、「毎日.jp」への広告は一斉削除、ということになりました。

――「広告ゼロ」の期間、結構長かったですね。2、3か月ぐらいでしょうか。

    佐々木   6月終わりから始まって、8月いっぱいぐらいでしょうか。ウェブだけではなくて、本体の紙の方にも影響が出ました。ウェブの広告では、「被害額は年間で数億」というレベルですが、「毎日への広告は止めてもいいんだ」という傾向が広がってしまったのが大きい。すでにナショナルクライアントからすると、「もう出したくない」という思いが強くありました。朝日などと比べて、広告効果も見込めない。そういう状況で、WaiWai事件は「これ幸い」ということで、出稿をやめる格好の口実になった面があります。

――では、何故「電凸」が起きたのでしょう。その原動力はなんでしょう。「書き込みしているのは、ほんの一部の層」という指摘する声もありますし、「あんなものは大したことない」という評論家もいます。

    佐々木   様々な論点が錯綜しているように思います。「『荒らしは無視してもいい』というブログを書くときのガイドラインが誤って普及して『ネットからの抗議行動も無視していい』と誤解されてしまったことに加え、インターネットに世論なんか存在しないと思われてしまっていることがあるでしょうね。「ネットなんてフリーターや引きこもりがやってるものだ」ぐらいの認識しかない。そこが決定的に間違っています。
       すでに2ちゃんねるの平均年齢は30~40代。2ちゃんねるがスタートしたのが99年なので、当時の利用者が30ならば、もう40代近い。当然、彼らがみな引きこもりということはあり得なくて、2ちゃんねる上で「世論」として見られるのは、おそらく「まっとうな会社員で、技術系の人」というイメージです。具体的には、「IT系企業で係長やっている30代」といった人が中心なのではないでしょうか。そう考えると、「ネット世論」は、明らかに「普通の世論」とオーバーラップしてくる。そう思いたがらない人も多いですが…。

20~30代の若手記者までネットの悪口を言っている

――今回の「電凸」も、数から言っても「一部の人でやっている」というのは考えづらいですよね。

    佐々木   WaiWai事件について、2ちゃんねるにはスレッドが230ぐらい立ちました。書き込みにして23 万ぐらい。「一部の人が書いている」というのは、根拠がなさ過ぎる。ミクシィにも波及しているし、ブログにも広がっている。その読者も含めると、相当な数にのぼります。大手メディアではほとんど報道はされませんでしたが、インターネットを頻繁に利用する人は、大半が知っています。WaiWai事件を「毎日新聞低俗記事事件」と書いたら「そうじゃない」と怒られたこともありました。「あれは日本女性に対する侮辱であって、単なる低俗な記事を書いたということではない」、と。この事件は、本当に多くの人の怒りを呼んだんです。

――「『電凸』は威力業務妨害だ」といった指摘もありますね。

    佐々木   そもそも、それを「威力業務妨害」だと発想するのが理解不能ですよ。だって、消費者運動の一種じゃないですか。実際に物を壊すとかであれば、威力業務妨害ですが、「電話をして抗議する」というのは、1970年代から消費者運動として行われてきたことです。

――2ちゃんねるの利用者層とは逆に、新聞の読者層についてはいかがですか。

    佐々木   新聞の側が、読者の年齢層を上げてしまっています。元々、新聞では「標準家庭」という言葉が以前は使われていて、これは40歳ぐらいで専業主婦の妻と子供二人のいるサラリーマン家庭をイメージしたものです。そういう人たち向けに新聞を作っていたわけですね。ところが、若い人が新聞を読まなくなって、90年代ごろから読者の高齢化に付き添うようにして、新聞の中身も老化してしまうようになった。
       その結果、中心読者層が60-70歳代になっていて、知らない内に、書く側も、それに合わせてしまっている。私は47歳ですが、(自分が毎日新聞に在籍していた時の)同期の記者に会うと、「何でそんなに老けた考えしてんの?」と、ビックリすることが多い。みんな「世の中が悪くなった」とか言いたがる。自分が理解できないモノは全部ダメなものだと考えてしまっていて、「ネットが悪い」「いまの若者はだめだ」と言いたがる。そんなもの、単なる老人史観でしかありません

――新聞社の人は、「2ちゃん・ネット=悪いやつ」というイメージを持っているんでしょうね。

    佐々木   新聞業界の人からは、「ビジネスとしてはインターネットとつきあっていかなければならないのはわかっているが、生理的にはどうしても受け入れられない」という考えが伝わってきます。

――毎日新聞は、特にその傾向が強いと思いますか?

    佐々木   不思議なのは、ネットをよくわかっていない50代の記者が「ネットはけしからん」というのならともかく、20~30代の若手記者までネットの悪口を言っていることです。WaiWai事件以降、様々な地域面のコラムでネットの悪口が書かれるようになって、明らかに社内に「空気」ができているのだと思います。どう見ても、明らかに若い記者が書いている。毎日新聞は「ネット憎し」の空気で埋まってしまっている

「うちの会社で起きたら、震え上がりますよ」

――毎日新聞側からすれば「不当に攻撃された」と思っているということですね。一方で、ネット側の毎日新聞に対するとらえ方は変わったでしょか?

    佐々木   WaiWai事件が起こったという事実から受ける印象は変わらないんですが、問題は対応の仕方です。例えばお詫びの文章のなかに、「法的措置をとる」と強面で書いてあったり、PJニュースや個人のブロガーにひどい対応をして、そのことを(各メディアに)暴露されたりとか。今回のWikipediaの誤報の件でも、訳の分からないお詫びが紙面に出て、書かれた本人がWikipediaのノートで「毎日の記者から、こんなひどいこと言われた」と暴露している。こんなことがあると、ネットの人間は「毎日は、心底我々を憎んでいるんだな」と思ってしまう。一番びっくりするのは、これまで同様なことが起きているのに、また同じ誤りを繰り返すこと。 WaiWaiの時にPJニュースとJ-CASTに(対応のずさんさを)書かれて分かっているはずなのに、それが全ての記者にいきわたっていない。毎日新聞はガバナンスが不足している会社なので、そういったことが末端まで行き渡っていないのかも知れない。

――毎日新聞以外の他の新聞社も、「電凸」を恐れているのでしょうか。

    佐々木   みんな「うちの会社で起きたら、震え上がりますよ」といいます。だから自社の紙面ではWaiWai事件を大きく報道しなかった。報道したら、自分のところに降りかかると思っています。

――現場の記者は、WaiWai事件をどう受け止めていますか。

    佐々木   私がつきあっている30代の記者はメディア担当が多いので、リテラシーの高い人ばかり。彼ら(毎日新聞の記者)からは「毎日新聞はつらい。上に何を言っても理解されない」という声も聞こえます

――具体的には、どんなところが「理解されない」のでしょう。

    佐々木   例えば、双方向性を理解していないこと。言論がフラット化していることを理解していない。「ブログは素人が書いているもの」ぐらいにしか思っていない。1990年代まではインターネットもしょせんはマス媒体をウェブ化しただけで、言論のフラット化なんて起きなかった。だからそのころまでは彼らもネットをある程度は理解していたと思うのですが、2000年代に入ってブログの登場などソーシャルメディアが台頭してくると、言論は瞬く間にフラット化された。しかしこのようなソーシャルでフラットな世界というのは、その場に身を置いている人間ではないと皮膚感覚として理解できないんです。新聞社との人間とブログの人間は、違う言語空間に生きています。ほとんどの新聞社の人間はブログなんて見ていなくて、彼らにとって、ネットとは「アサヒコム」なんです。
(略)

――今後、新聞社のネットに対する考え方は変わると思いますか?

    佐々木   何らかのターニングポイントが来るのではないでしょうか。いまだに「インターネット世論は世論ではない」と思いたがっていますが、インターネット世論が世論だと言わざるを得ない局面が来る。そうなると、韓国みたいな状況がやってくる。一時はネット世論が権力を握るというところまでいったわけですから。ただ、韓国は行き過ぎて、ネット世論が肥大化してしまい、ネットの世論がリアルの世論と直結してしまった。その結果、「ネットで誹謗中傷を書かれて自殺」みたいなケースが頻発しました。さすがに日本のインターネットはそこまでの状況は作り出さないと思いますが、しかしどのような将来が待ち受けているのかは、まだわからないですね。

――毎日新聞にも、何らかの変化が起こる可能性はありますか。

    佐々木   トップダウンでやれるところじゃないとダメだと思いますね。古い大きな組織なので、無理でしょう。山本七平の名著「『空気』の研究」じゃないですけど、社内を「空気」が支配しちゃっている。没落のスピードが速すぎて間に合わない(苦笑)心配もありますね。

注目すべきは佐々木氏の「朝日などと比べて、広告効果も見込めない。そういう状況で、WaiWai事件は「これ幸い」ということで、出稿をやめる格好の口実になった面があります。」という言葉であるように思います。
ネットとの対立を云々する以前に近年「新聞離れ」「テレビ離れ」などと言われるような既存メディアの影響力の低下が先行して存在していて、すでに彼らのスポンサーたる各企業は没落する一方の既存メディアから手を引きたがっているという事情があったわけです。
確かにネット上での不買運動や電突行動は大きな動きではあったでしょうが、何よりもその前段階として存在していた実社会での影響力低下こそが本質であって、それを認められないような脳内が化石化した人々が未だに各メディア上層部を占拠し続けていることが問題の下地としてあったわけですね。

マスコミ業界の業績悪化については以前にも取り上げたところですが、近ごろでは過剰人員となった記者達が社内失業状態であるなどとも側聞します。
これに加えてネット社会に乗り遅れているというあせりも大いにあるのでしょうが、そうした社内的な業績低迷のストレスのはけ口としてネットという攻撃対象を求めているのだとすれば、これは自分勝手なロジックと批判されても仕方がないでしょう。
仮にも社会の木鐸を自称するほどプライドだけは天井知らずに高いわけですから、せめて自らの行動規範くらいは社会に迷惑をかけない程度にはきちんとしていただきたいところです。

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2009年4月 3日 (金)

医療の危機 その時医師会は

すでに新聞報道で取り上げられていますが、先日も少しばかり取り上げさせていただきましたところの政府の医療再生目的の基金がほぼ具体的な形でまとまったようです。
雇用対策など込みで社会保障全般に絡めて総額で4~5兆円規模と言いますから決して少なくない額なのですが、その中身を見てみますとやはりどうもよく判らない話なのですね。

政府、地域医療再生に1兆円基金 経済対策で4兆円(2009年4月2日47ニュース)

 政府、与党が検討している追加経済対策のうち社会保障と雇用分野の素案が2日、明らかになった。深刻な医師不足に対応するため1兆円規模の基金を創設し、都道府県ごとに「地域医療再生計画」を策定、実施する事業が柱。雇用、介護、ひとり親家庭対策強化なども幅広く網羅する。総額4兆-5兆円規模を見込んでいる。

 地域医療再生計画は、各地で医師の事務作業を補助する職員を配置、3年間で2万人程度の雇用創出を見込む。ほかにも女性医師の確保に向け病院内の保育所整備を推進、医師派遣を行う大学病院への財政支援を通じて医師派遣システムも強化する方針だ。

 このほか、災害発生時に傷病者の受け入れ拠点となる災害拠点病院や、障害者の入所施設など社会福祉施設の耐震化やスプリンクラー設置を促すための助成を実施、太陽光発電装置の設置も促進する。

 後期高齢者医療制度では一部低所得者の保険料8・5割軽減を継続。介護職員の給与水準の底上げを目指し、処遇改善に取り組む事業者に助成する。

 雇用対策は1兆6000億円程度となる見通し。雇用保険と生活保護の中間的な制度として「緊急人材育成・就職支援基金」を創設。ハローワークの人員を増員して相談体制を強化。ホームレス支援策では、緊急一時宿泊施設の整備も進める。

地域医療再生計画の柱が「各地で医師の事務作業を補助する職員を配置、3年間で2万人程度の雇用創出を見込む」ですか…確かに医師でなくとも出来る業務は医師以外の者にやらせるという話は以前から出ているところですが、地域医療再生への実効性はともかくとして雇用創出のためというのはよく意味がわかりませんね。
2万人を年俸300万で雇ったとして毎年少なくとも600億の支払いが必要ですが、一兆円の基金から幾らを回すにしてもいつまでも国が給料を出してくれるというわけにもいかないのでしょう。
すると2万人と言えば単純計算で全国の病院に等しく割り振っても各施設数人程度は新規スタッフが入るという計算になるわけですが、経営環境厳しい現状で一時的な補助金なりをもらったとしても新規事務員を雇用するような余裕がどれくらいの施設にあるかという疑問があります。
また本来こうした医療補助事務員などは電子カルテ導入などで暇になったはずの事務職が分担すべきというのが筋であって、新規に医療補助事務員を入れるなら暇になった旧スタッフの首をその分切らなければならない、結局雇用は増えることはないという計算も成り立ちます。

いやまあぶっちゃけた話、地域医療と言えばどうしたって地方公立病院がその主な担い手となってきますが、こういうところで惰眠と不当な高給を貪るしか脳のない寄生虫のごとき無用な公務員の首が切れないでいたことが経営悪化の最たる理由の一つともなっていることは、不良債権化した地方公立病院の異常なまでの人件費率の高さからも明らかなわけですよ。
一日中時間を潰すことしか仕事のない手合いがまともなスタッフの士気低下に及ぼす悪影響というものは腐った林檎以上のものがありますから、いっそ国が彼らの退職金を全額負担するなりして一度綺麗さっぱり片付けていただいた方がよほど後顧の憂いなく地域医療現場の改革も進むのではないでしょうか。
まずは職場内であまりに偏在している業務量の平準化こそが早急に求められているのではないかなと思うし、給料も無駄に高いがそれ以上に退職金が高すぎて首が切れないというこの種の手合いの対処に苦慮している各地自治体からも拍手喝采をもって歓迎されそうな政策という気がするのですがね(苦笑)。

まあそのあたりはともかくとして、見てみれば他の政策も突っ込み所なしとしません。
今どき院内保育所などまともな医療機関ならとっくに整備しているもので離職している女性医師がそんなもので復職するのかは激しく疑問ですし、せっかく苦労して潰した大学医局の人事権を再強化するなど白い巨塔アレルギー(苦笑)の国民の理解と支持が得られるのかなと思わされる話です。
例によってのハコモノ行政に関しては、まあ…この類の作業に関わる利権を期待する向きもまだまだ大勢いらっしゃるでしょうからお約束ということなのでしょうが、耐震化やスプリンクラー設置あたりまではともかく太陽光発電ってどこからこんな話が出てきたんでしょうかね?
介護職員の待遇改善などそれなりに必要なところにも金を出すと言うのは結構なのですが、何かこう医療分野に関しては隔靴掻痒と言いますか、少しばかりピント外れな印象を拭いきれない対策になっているように見えるんですけれどもね。
どうせピント外れなことをするというのであれば、昨今一部で大反対されているレセプトオンライン義務化にまつわる初期導入経費は全て国が負担しますとでも大見得を切った方が、さぞかし日医あたりからはるかに好意的目線で迎えられるのではないでしょうか(苦笑)。

ところでその日本医師会ですが、このところ色々と言われて久しい勤務医の労働環境問題に関してようやく公式な発言が出てきたようです。
一部では全国勤務医労働環境改善の最大の阻害要因などとも目されているとかいないとか言われる団体がこういうことを言うのも面白いなと感じさせられるところで、せっかくですから紹介させていただきます。

勤務医の健康支援で5つの施策を提言―日医委員会(2009年4月1日CBニュース)

 日本医師会は4月1日の定例記者会見で、日医の「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」がまとめた中間報告を公表した。この中で、同委員会は日医に対し、「医療機関での勤務医の健康を守る組織的対応を促進する」など5つの施策に取り組むよう求めている。

 同委員会は、勤務医の健康を守るための長期的な施策のあり方などを検討することを目的に昨年6月に設置され、計3回の会合を開き、中間報告をまとめた。

 中間報告は、一般国民、日医、厚生労働省などに、勤務医の健康を支援するための方策について提言している。

 一般国民に対しては、勤務医の労働環境や病院経営の実態を知る必要性を指摘。また、地域住民を主体に、医療を守ろうとする取り組みが始まっているとして、今後のさらなる展開を期待するとしている。

 また、日医に対しては、▽医療機関での勤務医の健康を守る組織的対応を促進する▽医師が自分自身の健康を維持するよう啓発を行う▽医師の健康支援を考える学術会議やシンポジウムを開催する▽医師のための電話などによる相談窓口を開設する▽厚労省、関連団体、国民に対して勤務医の健康支援の協力要請をする― の5施策を実施するよう求めた。

 中間報告は、勤務医の健康は質の高い医療を行うに当たって不可欠で、健康支援は喫緊の課題であるとして、今年度の具体的な取り組みの実施を強く要望している。

ちなみにこの中間報告の詳細が医師会のHPにアップされましたが、見てみますと委員として大学の先生方に混じって病院崩壊の淵からはい上がった千葉・東金病院の平井愛山院長なども混じっていて面白いですね。
この内容を見てみますと、まず医療崩壊と言う現象に対する政府の総論的な医療政策で医師個人の健康問題が放置されることを危惧しているもので、次のような言葉がその考え方の根幹にあるということのようです。

医療崩壊という言葉が社会問題となっているが,医師の健康面への影響は,医師自身だけでなく,患者や地域にとっても影響が及ぶ可能性がある。それゆえ,医師の健康は,医師自身が守ることは当然であるが,医療機関,そして社会としても守らなければならない。

どうした日医?!数年遅れでやっと社会常識に追いついたのか?!(苦笑)
まあ日医の変節ぶりはともかく、このレポート自体も「健診受診率は医師の方が一般職よりも高い。健診データ上も医師の方が一般職より良い傾向がある。よって既存のデータでは医師の勤務状態を他業種と比較評価することは困難で、医師間で比較することが有用と思われる」なんてことが延々と書き連ねてあってなかなか笑える仕上がりです。
正直内容的には前半部は公衆衛生学的記述が大部分でさしてめぼしいものはないのですが、後段の答申3,に至ってようやく「わが国における勤務医の健康を支援するための対策を行うにあたって,医療に関わるすべての者にその責務があると考える」といった興味深い話が出てきます。
特に興味深い部分と思われるのが下記の国民に対する提言なのですが、まずはそのまま引用してみましょう。

1.国民

勤務医の健康を考えるうえで,国民や患者の役割は非常に大きい。国民のほとんどは,医療は国民皆保険という社会保障の枠組みにおいて,一人一人の共通財産であることを認識している。しかし,一部の患者に「医療は,営利を追求するサービス業と同じである」との誤解があり,医師や医療機関に対して不当な要求をするまでに発展していることが報告されている27)。たとえば,勤務医に対する暴言や暴力,そして深夜や休日のいわゆるコンビニ受診も課題になっている。こうしたことが積み重なることが勤務医の疲弊につながっている。また,医療が地域において政治的な切り札として取り上げられ,医師が翻弄されることも避けるべきである。
背景には,医療に関する国民の認識と医療の現実に少なからず乖離があるとも考えられる。互いの信頼感をベースにした基本的な患者―医療者関係の樹立が徹底されていないことも原因のひとつである。わが国の国民皆保険が国民一人一人によって支えられ,勤務医の労働環境,病院運営の実態を国民が知ることが求められる。
また,地域での医療体制の現状と将来に関することについて情報公開を行い,議論を高め,医療体制を大事にする文化を醸成することが求められる。すでに,地域住民を主体として,医療を守ろうとする取り組みが始まっていることは歓迎すべきことであるが,今後さらに展開されることが期待される28)。

厚生労働省,日本医師会などは,医療が国民生活においてどういう位置づけにあり,国民皆保険において国民はどのように医療を受けるかといったことを再度考えるきっかけを積極的に提供すべきである。また同時にメディアが協力をし,国民に正しい情報を提供することが強く期待される。
国民が認識している以上に,すでに医療体制が各地で崩壊している。医療は我々の生活の安心の根底を支えるものである。その医療が受けられないことによる不安や,受診が遅れることにより治療可能な疾病や傷害により死亡するようなことはだれもが避けたいと願っている。今こそ,国民も参加して医療を守る活動が必要である

おいおい、本当にどうした医師会?!何か悪いものでも食ったんじゃないのか?!
まあ世間から何年遅れようが医師会もようやく覚醒したということはそれなりに評価すべきことなのかも知れませんが、全体の文章の流れを見ていくとこの段が妙に他の部分の論調から浮いているように見えてくるのは自分だけでしょうか。
例えばこの次にある医師会に求められる具体的な活動の内容はこんな感じです。

1)医療機関での勤務医の健康を守る組織的対応を促進する

医療機関が勤務医の健康を守るための組織的対応を促進するために具体例の共有やモデルとなる医療機関に対する支援を行う。また医療機関での取り組みを促進するためには,医療機関の経営トップである院長や理事長の理解が不可欠である。医療機関のトップに対して勤務医の健康を守るための施策を行うための情報提供を行うことも重要である。また,このような項目が病院機能評価などにも反映されると,現実的に進む可能性が高い。

2)医師が自分自身の健康を維持するよう啓発を行う

医師が自分自身の健康を維持するような啓発は,一部の勤務医に対しては,受け入れ難い可能性がある。しかしながら,「医者の不養生」という格言があるように,医師が必ずしも望ましい生活習慣を持っているとは限らない。医師は仕事に専念しすぎる傾向があるため,睡眠時間や食事をきちんととることより業務を優先することがある。こうしたことが疲労の回復をさまたげ,最終的には医師自身や患者への影響が起こる可能性がある。諸外国の取り組みにおいても,医師に対する啓発は重要なことであり,こうしたことは医師会が率先して行う必要があると考えられる。(略)

3)医師の健康支援を考える学術会議やシンポジウムを開催する

医師の健康支援のあり方を広く伝えるためにも,学術会議やシンポジウムなどを通じて,繰り返し情報発信をする必要がある。定期的に開催することにより,文化として根付くことにもつながる。(略)

4)医師のための電話などによる相談窓口を開設する

医師のための電話や電子メールを用いた相談窓口を開設することで,支援を必要とする医師へ相談の機会を提供する。(略)

5)厚生労働省・関連団体・国民に対して勤務医の健康支援の協力要請

厚生労働省や関連団体にも様々な役割があり,後述する。また前述の国民の役割も大きい。日本医師会としてこうした外部への協力を要請することは,対策の推進や議論の活性化に寄与すると考えられる。すでに日本医師会は国民に対してもテレビなどでCM を流すなどで対応が始まっている。
このなかで留意すべきことは,議論が正しい方向に進むようにすることである。勤務医の健康についての議論は,誤った方向に進む可能性がある。諸外国においても,国民が「ある一定数の医師がメンタルヘルス不全である」と思うことにより不安を増す可能性があり,慎重な対応が行われたという経緯もある。メディアなどに対しても冷静で正しい情報提供が定期的にできるよう,日本医師会としても積極的な広報活動が求められる。 

前述のある意味で極めて主観的な(あるいは、非学術的な)意見が前面に打ち出されてきた国民に対する呼びかけと比べると、例えば3)や4)は明らかに論調が異なっていることがおわかりいただけるでしょうか。
あるいは5)の後段にある取って付けたような文言などを見ても明らかな温度差を感じるところで、おそらく内部でそれなりに意見の対立があったのではないかと推察されるところです。
このあたりがもう少しうかがわれるのがこの後に続く厚労省を初めとする行政サイドへの提言の部分なのですが、主だったところを引用してみましょう。

 厚生労働省においては,勤務医もその対象となっている労働安全衛生法に基づいた医療機関での健康と安全に関する取り組みを推奨するように働きかける。また労働契約法第5 条に示されている安全配慮義務に関しても十分に医療機関の経営責任者が留意するような施策が求められる
 医療機関の産業保健活動については,厚生労働省の内部においては,旧厚生省と旧労働省の管轄の狭間にある。そうしたことが対策の推進の遅れにもつながっていることが危惧される。一方で,近年,医療機関に対して,労働基準監督署の立ち入りにより特に長時間労働と賃金不払いについての是正勧告などが相次ぎ,結果的には対策が十分でなかった医療機関に改善を促すきっかけを提供している。
 しかし,勤務医の健康を守るという視点でのさらなる産業保健の枠組みについての取り組みは,例えば医政局の担当部と労働基準局安全衛生部が連携した部署を設置して進めることが望ましいと考えられる。これは必ずしも勤務医だけではなく、医療従事者全体をカバーするものであってもよい。

これを一読して意味がわかったという人、どれくらいいるものなのでしょうか?
まず前述の国民に対する提言において医療というものを国民が誤解しており医師会や行政側はその是正をしていかなければならないという話だった。
前項の医師会に求められる対応では医療機関、あるいは医師自体が自らの労働環境を是正するという意思と意欲を持たなければならないし、持たせるように働きかけましょうという話だった。
それを受けて医療機関を監督する行政サイドに対する提言としてはもっと医療機関に監督指導して医師の労働環境に配慮させなさいよという話から始まって、実際に労基署の立ち入りなど行政サイドからの働きかけを契機として改善が図られるようになったという前半部の流れがある。
それを受けて終段では「いいぞいいぞ!もっとやれ!」という話に持っていくのが自然な流れだと思うのですが、何故か突然「いやあ今の医療行政は各省庁で分断されてるからね。まあ新しい部署でも作ってみてゆっくり考えましょう」などという話が出てくるわけです。
邪推すれば「労基署の立ち入り?まあもう少し皆で議論してからやってもらいましょう。アハハ」なんてあたりが本音なのかなとも思えてくるような話ではあります。

一体何なのでしょうねこの温度差は?
全く根拠なしに想像するに、御存知の通り医師会というところは開業医の利権団体であって、勤務医があまり労働問題に対してうるさいことを言い始めると「それじゃ俺たちは患者をどこに送ったらいいんだ?!」と会員諸氏からの反発も相当なものになるだろうことが容易に予想されます。
また報告書をまとめた委員のメンバーもほとんどが大学病院関係者など勤務医をさんざん使い潰してきた側の立場であって、彼らにしても「いや、そんなこと言われてもちゃんと働いてもらわないことには仕事が回らないんでね」といった考えがあるだろうこともこれまた容易に想像できるところです。
こうした人々のいずれにとっても痛くも痒くもないのが唯一国民に対する呼びかけの部分だけだったと考えるならば、恐らく周囲と異なる論調を持っていたであろう一部委員の本音がそのままの形で出たのがこの部分だけであったのだと言う推測が成り立つように思いませんか。

というわけで今日の結論、やはり医師会は医師会だったと言うことですかね(苦笑)。

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2009年4月 2日 (木)

医療業界冬の時代にあって改善すべき内部要因

昨日の続きとなりますが、医療現場を取り巻く環境の悪化と言う点で人為的な外圧というものがそれなりに大きな要因を占めている一方、医療業界内部においても改善すべき事柄は幾らでもあると言うことは認識しておかなければならないでしょう。
特に意識改革が必要なものとしては医療を支える経営面での努力なんだと思いますが、医療そのものと同じようにこちらも明確なエヴィデンスに基づく行動が求められる時代であって、「今までやってきたから」「何となく良さそうだから」が通用するような状況ではなくなっているわけです。
にも関わらず一部では相変わらず旧時代の遺物とも言うべき状況が放置されているのは、自助努力の欠如と非難されても仕方がないと思いますね。

例えば今の医療現場においては能力と熱意あるスタッフをどれだけ抱え込めるかということが経営を左右する最大の要因であることは常識となってきましたが、医者など捨て値で幾らでも使い捨てられるものだと旧態依然な考えを抱いている人々も未だに生き残っているようで、こういう生きる化石とも言うべき人々は何がどうなろうが同情に値するようには思えません。
世にモラール(志気)と言いますが、ことにこのモラールというものが重要視されるべき医療現場において、スタッフも守れないような施設が顧客によいサービスを提供できるはずがないと言うことはほとんど自明のことではないかとも思うのですが、そうした点を全く無視している医療機関も未だ数多く見られるのは残念なことですよね。

佐賀県立病院好生館と言えば以前にもモデルケースの一つとして取り上げさせていただいたほどにこのジャンルにおける「準メジャー級」の施設ですが、半ば以上は予想された通りに今や状況は末期的とも言える様相を呈してきたようで、これに対しては自業自得という以外の言葉を思いつきません。
今後は抜本的な収支改善に取り組むそうですが、彼らがこれ以上どんな斜め上への疾走を見せてくれるものかと今から期待しつつ続報を待っているところです。

県立病院好生館 08年度見通し 過去最高の赤字12億円 残業代の一括返済響く/佐賀(2009年4月1日西日本新聞)

 県立病院好生館(佐賀市)は、2008年度収支が12億4000万円の赤字になるとの見通しを明らかにした。産婦人科などの医師不足により、受け入れた患者数が前年度よりも約1割減ったことや、未払いが発覚した残業代を一括返済したことが響いた。赤字額は前年度の約6倍に膨らみ、過去最高となった。

 好生館によると、08年度の収入は96億6000万円で前年度よりも6.5%減少。一方で支出は109億円と前年度より3.9%増える。

 08年度の患者数は23万4000人と前年度より3万人減。産婦人科医が3人から1人に減ったことで外科手術が必要な高リスク出産に受け入れを限定したことや、眼科のベテラン医師が退職したことが影響した。

 昨年5月には、職員らに長期にわたって時間外手当の一部を支払っていなかったことが発覚。未払い額が確認できた05年5月から07年10月までの職員、研修医740人分の時間外手当4億4000万円を支払った。

 緊急的に計上した時間外手当の支払額を差し引いたとしても、赤字額はこれまで最悪だった3億4000万円(1998年度)の2倍近い8億円に上っており、好生館事務局は「抜本的な収支改善に取り組みたい」としている。

当然果たすべき義務を履行しないということも、職業人として批判されてしかるべき行為ではあるでしょう。
医療業界にある程度余裕があった時代であれば多少の齟齬には目をつぶっても何とかなっていたのかも知れませんが、今や他業界と同様に当たり前のコストダウンはわざわざ言わずとも行って当然のことであって、シリンジ一本、針一本をも無駄にすることは許されないことは言うまでもありません。
特に皆保険制度では「赤ひげ」のように金持ちから法外の金をむしり取るといった行為は決して行って良いことではありませんから、不要の無駄を省くと同時に法や制度内で許される正当な報酬を正しく得るという当たり前のことが何より必要とされるわけです。

ところが昨今では診療費未払い問題がことに各地の公立病院で問題化してきていますが、驚くことに多額の公費を投入されて維持されている公的施設職員でありながら徴収のための適切な行動を行っていないような場合もあるらしいのですね。
医療機関が患者から一部負担金の支払いを受けられない場合に保険者が医療機関への支払いと患者からの徴収を行う「保険者徴収制度」というものがありますが、この要件として国民健康保険法では次のように定められています。

「保険医療機関又は保険薬局は、前項の一部負担金の支払を受けるべきものとし、保険医療機関又は保険薬局が善良な管理者と同一の注意をもってその支払を受けることに努めたにもかかわらず、なお療養の給付を受けた者が当該一部負担金の全部又は一部を支払わないときは、保険者は、当該保健医療機関又は保険薬局の請求に基づき、この法律の規定による徴収金の例によりこれを処分することができる。」(健康保険法第74条2項)

特に公立病院における収支は最終的に税から賄われる補助金によって帳尻合わせを行っているのが現状ですから、「善良な管理者と同一の注意をもってその支払を受けることに努め」ないと言うことは公の金を無駄遣いしていることと同じく納税者に対する背信行為と言ってもいいかも知れません。
最近では市民オンブズマン等による行政監視もあちこちで実効性をあげているとも聞きますが、こうした当然に果たすべき義務の不履行、怠慢もまた厳しい批判の目を向けられるべき対象と言えるのではないでしょうか。

県立病院の診療費未払い、3億超す 裁判で徴収検討 /兵庫(2009年3月31日神戸新聞)

 兵庫県立の十二病院で診療費の未収額が、時効分を除き今月末で三億円を超える見込みであることが分かった。八年前の二倍以上で、県は「滞納は年々増えており、悪質なケースも目立つ」などとして、民事訴訟を起こすなど強制徴収に乗り出す方針を固めた。

 県によると、医療制度改革で患者の医療費負担が増え始めた二〇〇二年度、診療費の年間滞納額は八千万円台に。その後いったん減ったが、〇五年度には一億円を超え、〇七年度は一億三千万円に増えた。

 期限を二十日過ぎても診療費を収めなかった場合、県は督促状を送付。その上で、専門員五人が患者の自宅を訪れるなどして診療費の徴収に当たる。だが、さまざまな事情で住所が確認できないことも少なくなく、年間徴収率は〇一年度以降、40%以下にとどまっている。

 〇五年度からは、一年以上の滞納者への徴収を民間会社に委託したが、それでも徴収率は6%弱と低迷。生活に困窮していたり、支払う意思がなかったりする患者が目立つという。

診療費徴収には時効があり、昨年度末までの七年間で三億円以上が徴収不能に。〇五年度には時効が五年から三年へと短縮され、景気の悪化なども背景に今後さらに増えるとみられている。

 このため県は、滞納が一年以上の患者らを対象に提訴を検討。裁判結果によって財産を差し押さえた場合、徴収期限の時効が中断されるといったメリットもあるという。県病院局は「資産が把握できれば分割徴収などにも応じたい」としている。

 診療費未収は全国的にも増加傾向で、国立病院機構が運営する百四十六病院では計約十九億三千万円(〇六年度末)。大阪府立の五病院でも約三億七千万円(〇七年度末)に上るという。

 未払い診療費の徴収 医療機関は医師法に基づき、正当な理由がなければ所持金がない患者でも診療の求めを拒否できない。厚生労働省の未収金問題検討会は2008年、医療機関による訪問徴収▽保険者が督促や差し押さえをする「保険者通報制度」の実施-などを提言した。

あるいはまた、開業医が儲かる時代というのはすでに遠く過ぎ去ったという現実がありますが、未だにそうした幻想が一定の影響力を保持しているのも事実であるようです。
しかし初期投資を可能な限り低く抑える軽装開業か、あるいは先代からの引き継ぎ等で既存の施設を利用できる場合でなければ、借金分の返済もままならず結局は元の勤務医に逆戻りという話も多々あるようで、今の時代新規開業は多大な経済的リスクを抱えていると見るべきでしょう。
しかし最近では医療現場を取り巻く情勢は年々厳しさを増す一方ですから、やむにやまれぬ事情から勤務医から開業医へと転身する場合も少なからずあると思いますが、こうした新規開業組というのは一部業界の方々にとって非常に美味しいお得意様と見なされているらしいのですね。

他業界では日々当たり前に行われていることですが、「宣伝・広告」「業務内容の質的改善」「ディスカウント」など、同業者の間で差を付けようとした場合に行われる定番の手法と言うものがあるわけです。
ただ医療業界においては保険診療を行っている限り広告は打てない、価格は定額で変えられないと制限がきつい、そして肝心の医療の質の良悪もなかなか門外漢には理解しにくいという点があってか、従来はそれこそ世間知らずな殿様商売がまかり通っていたような状況がありました。
最近ではこうした点に目を付けて医療コンサルタントというものが盛んになってきているようですが、これも実態を聞いてみればなかなかに寒々しいものがあるようで、世間の荒波で鍛えられていない医者などあっという間にコロリなんだとか。
今どきうまい話などそうそう転がっているはずもないという当たり前の現実認識を持っていなければ、医者はやはり世間知らずだなと言われても仕方がないところでしょう。

コンサルに狙われる開業医(2009年03月30日JB PRESS)

急患のたらい回しや地域医療機関の閉鎖など、医療を巡る諸問題がメディアをにぎわしている。筆者は医療の専門知識は皆無だが、得意分野である「カネ」にまつわる切り口から取材を進めていたところ、医療界を舞台に新たなビジネスが展開されていることを知った。

 今回の主役はコンサルタント。そして彼らのターゲットになっているのは開業医だ。

 コンサルと開業医。一見ちぐはぐな組み合わせに映るが、現状では開業医がカネをむしり取られ、医療界の疲弊に拍車がかかろうとしているのだ。今回はその一端を紹介する。

こんなはずじゃなかった開業

 大病院での過酷な実地勤務を経てキャリアを積んだ医師の最終目標は何だろう。お叱りを承知で言えば、「病院内での出世」「学会での名声」、あるいは「開業」に大別されるのではないだろうか。

 筆者の友人医師らによれば、慢性的に人が足りない大病院での過酷な勤務に疲弊し、独立開業を志す向きが増加中とか。「特に眼科や皮膚科、内科、美容外科などで、首都圏や大都市圏を拠点に開業準備を進める医師が多い」という。

 これらの科目に共通するのは、産科や外科などと比べて訴訟リスクが低く、急患が少ないということ。だが、ここに落とし穴が待ち受けている。「訴訟リスクが低く、急患が少ない科目ほど医師が増え、競合する医療機関がどんどん増えてしまう」(関係筋)のだ。

 加えて、開業時には高額な医療機器を購入しなければならないほか、優秀な看護士や医療事務スタッフ確保のため、人件費もうなぎ上り状態にある。

 当然、開業時には自己資金のほか、金融機関からの融資が必要となるが、クリニック間の競合激化や初期投資の金利負担に苦しみ、「こんなはずじゃなかったとこぼす開業組が少なくない」(同)。

 こうした開業医の中には、「年利10~15%と高利の医療報酬(レセプト)担保融資を導入して自転車操業に陥っているところもある」(同)。ノンバンクや銀行の有力なローン商品に成長する兆しがあるとされるほどだ。

“経営カイゼン” の甘言

 競争が激しく、なかなか業績向上が見込めない業界にいち早く目をつけるのが、コンサルタントの仕事だ。新規開業組にも様々な経営指南のアドバイスが持ち込まれているようだ。

 具体的には、「マーケティング戦略」「内装リフォーム」「ネット利用のノウハウ」等々だ。「顧客(患者)満足度を上げ、ライバルに差をつける」というサービス業や流通業では昔からお馴染みの手法である。

 科目別で見ると、皮膚科ではアンチエイジング向けサプリメント、各種の機器販売など。他の科目でも、メタボ検診や訪問診察の積極化など、様々な売り上げ向上策がコンサルタントによって「プレゼン」されているという。

 従来、ほとんど競争原理が働いていなかった医療界だけに、一見すると、こうした経営改善はやって然るべきことのように映る。

 しかしコンサル側の目論見は別のところにある。「医療コンサルのキモは、借金(設備投資等)で患者を集め、経費・人件費を圧縮し、医師をできる限り酷使して売り上げを伸ばすことに尽きる」(コンサルタント筋)。そのため、提案する様々な施策を通じ、多額のコンサルフィー(報酬)を上乗せすることが可能だというのだ。

開業医はおいしいクライアント

 極論すると、「病院、医院の経営カイゼンは楽」なのだという。まず医療報酬という国の保証がついている点。患者が集まりさえすれば、診療報酬という日銭が必ず入る。これだけ安定的なキャッシュを見込める業界は、他にはなかなか見当たらない。

 そのほか、「本音と建前の使い分けや、ビジネスの裏表を知らない医師が大半」のため、他の業界よりもコンサルの提案が受け入れられやすいという。

 元来、競争原理が働いていなかった業界に新規開業が相次いでいるため、著名な外資系コンサルや飲食やサービス業専門のコンサルが、おいしいクライアントを求めて「医療コンサル」に転身する向きが増加中だとか。

 民間信用調査会社、帝国データバンクが発表した2008年2月のリポートによると、2007年の医療機関の倒産は48件に上り、2001年以降最多を記録したという。

 同社はその背景について、「患者とその家族の医療に対する関心・知識の高まりから大規模病院に患者が集中し、中小規模を中心に厳しい経営環境に置かれる施設が増加している」と分析。医療機関の倒産が今後も増加傾向をたどると見ている。

 競争激化に伴う厳しい経営環境の中、医療コンサルが活躍する余地はますます拡大していくだろう。ある関係者は筆者にこう言い切った。「安易な開業は医師の命を奪うに等しい。熟慮に熟慮が必要だ」──。

医療業界内部における改善すべき点と言うものは山のようにありますが、興味深いことに他業界で当たり前に行われているような常識が導入されれば自然と解消しそうな事も多々ありそうだという気がしています。
ごく卑近の一例をあげるなら接客業の基本は挨拶であるとされていますが、診察室に入ってきた患者に適切な態度で挨拶が出来ている医者というものは思いのほか少ないんですね(この「適切」ということの意味が理解できていない方も医療、非医療業界を問わず大多数のように見受けられますが…)。
もちろん医療に限らず専門性の高い業界においてはその内部だけで通用する特殊性というものは幾らでもありますから、何でもかんでも世間並みにやっていくことが良いというわけではもちろんありません。
しかしごく簡単な社会常識を身につけておくだけで大したお金や労力もかからず少なくない改善効果が得られるというものがあるのなら、金も人手も全く不足している業界としてはそうしたものを活用していかない手はありませんよね。

世間における「医療知らず」を評して「今どき白い巨塔?何十年前のフィクションじゃんw」などと言って冷笑する向きも一部にあるようですが、他人を笑えるほど医療業界の住人が外の世界を知っているのかと言えば決してそうとばかりも言えないんじゃないかなと思うのですよ。
色々なものを知っていて、その中から取捨選択して有用なものだけを用いると言う態度と、最初から何一つ知ることがないまま盲目的に旧例固守で突き進むだけという態度と、外から見れば一見同じようでもどちらが時代の変化に柔軟に対応し生き残っていく確率が高いのか。
そう考えるならば、今のような冬の時代であるからこそ医療従事者はもっと広く世間を知ることが必要なんだと思いますね。

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2009年4月 1日 (水)

不況の最中、医療業界も厳寒期に突入している

世間では不景気真っ盛りで、この春の新卒者の就職もずいぶんと厳しい状況だと言います。
一方では比較的景気の動向に左右されない印象のある医療業界ですが、このところ構造的不況とでも言うべき状況に見舞われているのですね。
本日は新年度の初めから恐縮ですが、ひどく不景気な話を取り上げてみようかと思います。

病院の赤字:過去最大 100床当たり月1261万円(2009年3月31日毎日新聞)

 全国の病院の医業収支(医療での収入と経費の差)の赤字額が08年に、ベッド数100床当たり月約1261万円に上ったことが、全国公私病院連盟(竹内正也会長)と日本病院会(山本修三会長)の調査で分かった。67年の調査開始以来最も赤字額が大きかった。コストカットを優先する病院が多い中、診療報酬だけでは経費を賄えない現状があるとみられる。

 全国の病院の約4割にあたる3412病院に対し、08年6月1カ月の医業収支などを尋ね、1206病院(回収率約35%)が回答した。

 医業収入は100床当たり約1億3609万円で、対前年比1.1%の減少。内訳は、入院収入が約9063万円(対前年比0.1%増)でほぼ横ばいだったが、外来収入は3.6%減の約3995万円と落ち込んだ。

 一方、必要経費に当たる医業費用は約1億4870万円で、1.2%増えた。特に給与費の伸びが目立ち、1.3%増の約7791万円。100床当たりの赤字額は月約1261万円で、過去10年で最少だった00年(月約475万円)の倍以上に膨れ上がった。

 また、医業外を含めた総収支でみると、黒字の病院は23.8%にすぎず、76.2%は赤字だった。

 すでに3/4が赤字という状況では産業として成立していないとしか思えませんが、これぞまさしく医療の暗黒時代とでも言うべきなのでしょうか。
こういう状況になれば民間病院から真っ先に再編成が起こってくるでしょうし、その煽りを受けて公立病院も今まで以上の過酷な状況に追い込まれざるを得ないでしょう。
いずれにしてもどこの施設でも経営というものに対する要求は一段と厳しくなるでしょうから、何よりも医療を為す上で施設にとって得か損かという視点がかつてないほど求められることになりそうですが、果たしてそれが誰にとっての幸せにつながるのかということですね。

皆保険制度下での医療不況の大要因として政府が推し進めてきた社会保障費抑制政策の影響があったことも否定できないところでしょうが、事ここにいたってもまだまだ手綱を緩める気はないようです。

医療クライシス:コストカットの現場で/1 総務省「3年で経営改革」要求(2009年3月31日毎日新聞)

 ◇「黒字化」苦しむ公立病院

 「予算計上を認めていただきたい」。今月6日の岩手県議会。達増(たっそ)拓也知事が議員に向かい、じゅうたんに額をこすりつけるように土下座した。

 県立の1病院と5診療所の入院用ベッドを休止(無床化)するなどとした、県立病院・診療所計27施設の経営改革計画。反発した議会は、関連予算を認めなかった。無床化した診療所から、入院の必要な患者を病院へ送るマイクロバスの購入予算だった。

 県の狙いは27施設の黒字化だ。経営に年141億円を出しているが、合計収支は年10億円余りの赤字。県の試算では、6施設の無床化で年約12億円の節減になる。他の策も合わせ13年度には県の支出を123億円に減らし、10億円の黒字にするという。議会は土下座後もバスの予算を認めなかったが、結局は無床化を容認した。

 北海道に次ぐ広さで過疎地も多い岩手県。診療所周辺の住民は「開業医もなく、夜間・休日は無医村になる」と反発した。4万2653人の反対署名を知事に出したが、県は「医師不足が危機的で医師負担軽減も必要だ」と強調し、バスの代わりにタクシーを借りて計画を進めるという。

   ■   ■

 総務省は07年12月に出した「公立病院改革ガイドライン」で自治体に対し、病院経営を3年程度で黒字化する案を08年度中に作るよう求めた。小泉内閣から続いた構造改革路線の一環だ。

 総務省によると、07年度は全国957の公立病院に自治体から計約7000億円が支出された。それでも計約2000億円の赤字。公立病院はコスト意識の薄さを指摘され、効率化は欠かせない。だが、救急、へき地など不採算医療を担い、黒字化は簡単ではない。

   ■   ■

 兵庫県北部の但馬地区。豊岡市と朝来(あさご)市で作る「公立豊岡病院組合」が5病院を経営し07年度は約19億円の赤字だった。3年での黒字化は無理とみて、17年度までの9年で黒字化する計画を立てた。

赤字の主因は医師不足という。組合の試算では、医師1人が年約8000万円稼ぐが、03年度に113人いた常勤医は07年度には102人に。医業収支(医療での収入と経費の差)の赤字は、03年度は約8000万円だったが、07年度には約17億円に拡大した。

 計画によると、10年度から毎年、組合の奨学金を受けた医師が5病院に順次着任する。17年度に15人に達し、黒字化を見込む。

 だが、前途は険しい。手厚い看護体制にすると診療報酬が増えるため、08年度に看護師70人の確保を目指したが50人にとどまった。医師の突然の退職もある。昨秋、公立豊岡病院の麻酔科医5人のうち3人が辞めた。4月にやっと4人に戻る。

 同病院の竹内秀雄院長は「地方は不便で子供の教育にも困り、医師が定着しにくい。経営は大事だが、(総務省には)医療の質という視点がない。小児科など不採算な科も縮小はできない」と訴える。

いつの頃からか経費削減、効率化という言葉が至上のものであるかのように言われるようになっていますが、そもそも医療における無駄を削り、効率を改善するとはどういうことなのでしょうか。
例えばロケットの打ち上げなどには今でももの凄い管理体制が取られていて、普通そこまでやるか?というレベルの過剰なマージンが組み込んであります。
旅客機などともなればそれよりは数段落ちますが、それでもきちんと管理されたスケジュールに従って整備を行い、公共交通機関としては統計的に見れば非常に安全な乗り物としての地位を確保しています。
これが自家用車となりますと二年ごとの車検なるものはありますがこれもほとんどザルと言ってもいいレベルのもので、幸い今は機械的信頼性が上がっているからこそ何とかなっているとは言え整備不良車の比率はロケットや飛行機とは比較にならないでしょう。

ではほとんどの場合事故を起こすことのないジャンボジェットにかけている整備費用は無駄なのか、もっと簡略化すれば運賃はずっと安くなるんじゃないかと言われれば、多くの乗客は何かあってもらっても困るし、安全と安心のためのコストとして仕方がないだろうと感じているのではないでしょうか。
あるいはオイルはいつ交換したのかも判らない汚れっぱなし、ラジエーター水は下限を下回っていても知らんぷり、タイヤは摩耗し放題で空気圧?スリップサイン?何それ食べられるの?状態でも平気で毎日車を乗り回していられるのは、車に何か不具合があってもまあ何とか我慢できる範囲で収まるんじゃないかと考えているからですよね。
日常生活の多くの場合において安全にかけるコストとその利益とはまあそれなりに相関関係があるんだろうなという了解が成立しているわけですが、ある意味で安全というのは「ほとんどの場合に無駄となるだろうコストを余計にかけて買うもの」であると言えるのでしょうね。

ところが何故か世界一のコストパフォーマンスを維持していても「まだまだ無駄があるはずだ!さっさとコストダウンしろ!質を落とすことは一切まかりならんぞ!」などという妙な言説が、こと医療業界に対しては要求しても構わないのだと考えておられる方々が大勢いらっしゃるように見えるのが何とも不思議に思えます。
角を矯めて牛を殺すという言葉がありますが、日本よりはるかに金銭的にシビアな国民性を持っているだろう国々も含めて各国よりずっと安上がりで質の高い医療を維持してきた日本の医療に対して更なるコストダウン要求を強いることは、黙っていても99点を取れる子供に100点以外まかりならんと連日徹夜で猛勉強をさせ試験当日に過労で寝込ませるような行為ともなりかねないのではないかと思いますね。
そんなことよりもはるかに優先順位が高く、早急に改善されるべき問題が医療業界の外側に多数あることは今や周知の事実となっているわけですから、容易に改善し得て実効性も大きい領域から手を付けていく方がよほど「効率的」ではないのかと言うことです。

たとえば周産期救急が最近何かと話題になっていることから政府では各地の病院にNICUを作れ作れと言っていますが、東京都の「周産期医療体制整備プロジェクトチーム(PT)」座長を務める猪瀬直樹氏がこんなことを言っています。

1床あたり年間700万円以上も赤字では…新生児集中治療室の収支モデルを分析、増床策を提案する(2009年3月25日日経BP)

 周産期医療体制の問題で、17日、舛添要一厚生労動相を厚労省に訪ね、「NICUの整備促進に関する緊急要望」を提出した。僕が座長を務める東京都の「周産期医療体制整備プロジェクトチーム(PT)」による提言だ。昨年発生した、重症妊婦を複数の病院が受け入れ拒否した問題への対応策である。

NICUにいくらかかるのか、その収支モデル分析を初めて試みた

 「受け入れ拒否」の現場となった都立墨東病院、杏林大学病院の2つの事案とも、連絡を受けた総合周産期センターで受け入れができなかった原因の多くは「NICU満床」だった。NICU(新生児集中治療室)は、24時間体制で集中治療が必要な未熟児などに対して、人工呼吸器など特別な機器を備えた透明なアクリル製の保育器である。母子の容体が危ないときに搬送される総合周産期センターでは、かかりつけの産科医院では対応できない高度な周産期医療が行われるが、そのために必要なNICUが不足している。

 PTでは、これまでに都立墨東病院や杏林大学病院などを視察してきた。その際、僕が「NICU1床は、年間いくらでまわっているのか」と聞いても、誰も答えられなかった。医療関係者は、いままで「医師が何人足りない」という話はしても、「NICU1床を維持するのに年間いくら必要か」という考え方をしたことがないのである。

 NICUを増やしていくためには、新生児科医など担い手の確保が必要だが、これに加えて、経営体としての病院の経済的な裏づけも重要である。そのためには、収支モデル分析が欠かせない。

 収支モデル分析の必要性は、道路公団民営化のときも痛感した。旧道路公団には、「高速道路1本1本の年間収支はいくらか」という発想がなかった。僕は、どんぶり勘定でやっていた経営を改めさせて、収支分析を出した。そうすることで、説得力のある議論が可能となったのである。

 NICU1床あたりについて、PTでは、診療報酬などの収益と、医師・看護師の給与、薬品費、診療材料費、福利厚生費、維持業務委託費などの費用、建物の一定の床面積等についての減価償却費を計算した。その結果、4200万円の支出に対して、収入は3300万円で、900万円の赤字が出る構造になっている。さらに都の運営費補助金を投入してもなお1床当たり700万円以上の赤字が生じていた。

国はNICU増床を言うけれど、補助金は出さないという矛盾

 こうして、NICUでも高速道路と同じような収支モデル分析をして、どれだけのお金が足りないのかを、はっきりさせることができた。問題はこれまで、この赤字をどうやって処理してきたかである。

 高速道路の場合は、東名高速などの黒字路線から赤字路線にお金をまわしていた。NICUの場合も同じように、他の診療科から産婦人科にお金をまわしている。また、同じ産婦人科のなかでも、赤字の周産期医療と違って、正常分娩は収益が見込める。そのため正常分娩を増やすことで、NICUの赤字を埋め合わせてきた。

 本来なら、正常分娩は地域のクリニックが引き受け、緊急時の周産期医療に大病院が対応する形が望ましい。しかし、NICUが赤字だから、大病院では正常分娩を増やして埋めるしかない。その結果、正常分娩で大病院が忙しくなり、緊急時に対応できなくなるという悪循環が生じている。地域のクリニックとの役割分担ができない状況になっている。

収支モデル分析でNICUを増やせば増やすほど赤字が膨らむことが明らかになったころ、厚労省の「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」で、NICU増床という方針が打ち出された。出生1万人対20床という従来のNICUの整備目標を見直し、出生1万人対25~30床を目標にするものだ。現在の目標は出生1万人対比でおおむね20床となっている。東京都では出生数が10万人なので、NICUは207床、従来の整備目標はすでに達成している。

 新たな整備目標を達成するには、NICUの収支を改善しなくては増床するインセンティブがない。しかし、厚労省の周産期センターへの補助金は NICUに対して出されておらず、MFICU(母体・新生児集中治療管理室)という別の病床に対してのみ補助を出している。新しい方針が出たのに、従来のままの補助システムではちぐはぐである。

診療報酬の引き上げ、もしくはNICUへの適正な補助金──2点を提言

 国として、NICUを増やすという方針を出したのなら、そうなるような政策を具体的に実行する必要がある。赤字を埋めるような政策ができなければ、NICUを増やすというインセンティブは働かない。かけ声だけで実のある政策が打てなければ、また問題が繰り返される。

 僕は舛添厚労相との会談で、次の2点を提言した。

 まずは実態に見合うように、NICUの診療報酬を引き上げること。現行の診療報酬は1日あたり8万6000円だが、収支モデル上の赤字額700万円を診療報酬で埋めるためには、1日あたり2万3000円プラスして11万円程度の水準に引き上げる必要がある。

 これが直ちに難しい場合は、現在MFICUしか対象としていない国の周産期センターの運営費補助金を見直して、今後はNICUも対象としていくこと。東京都ではすでにNICUを対象に運営費補助金を出しているのだから、国も見習ってほしい。

霞が関と医療機関は透明性を高め、データを提示してほしい

 舛添厚労相とは、次のような話もした。

猪瀬 大事なことは、役人ではない舛添さんや僕のような人間が、経営の透明性をきちんと考えていくということだと思います。とくに厚労省は、透明性がないという伝統を持つ省庁だから、こういう問題を契機に、透明性を高める体質を作り上げていかなければいけない。もちろん予算の絶対量が足りないという面はあるけれど、限られた範囲内でも解決していく方法があるだろうということです。透明性を高めて収支モデルを明らかにすれば、おのずと問題も見えてきます。

舛添厚労相 私たちも、そのための努力をずっと続けてきています。やっぱり、普通の市民、普通の都民、普通の国民が見て、「あっ、それなら納得できるな」という形でやっていくというのが大事です。そのために情報の透明性を高めていくことには、もちろん大賛成ですよ。

猪瀬 国がこれだけ「NICUを揃えろ揃えろ」と言ったって、実際には設置していけばいくほど赤字になってしまいます。だから、 NICUを増やす気が各病院に起きてこない。そういうところを考えて、墨東病院はじめ2つの事件のようなことが、これから起きないようにしたいと思います。

舛添厚労相 周産期医療だけでなくて、医療体制全体の抜本的な見直しが必要だと考えています。そのなかで、東京都では猪瀬さんが副知事として問題に対処していただけるのは、非常にありがたいと思います。

猪瀬 旧知の仲だけど、まさかこういう形で舛添さんのところに来ることになるとは思わなかったよ(笑)。

舛添厚労相 私も、猪瀬さんがこういうところまで乗り込んで来るとは思わなかった(笑)。猪瀬さんとは気心の知れた仲なので、今後ともひとつよろしくお願いします。こちらから出せる情報はいくらも出しますよ。

 厚労省も東京都も、これまでNICU増床の必要性を認識しながら、経営体である病院に対して、必要な財政負担の分析と議論がなされてこなかった。これは、役所だけにデータがしまい込まれていたからである。

 霞が関と医療機関は、必要なデータを公開し、分析して、提示してほしい。今回の提案が、その第一歩になればと考える。国もこれをNICUの整備促進に向けて必要不可欠な提案と受け止め、新たな整備目標の実現に向け取り組んでもらいたい。

医療機関にとって損にしかならないことをドンドンやれ!とお上が強要すると言ったようなあり得ない現実があるわけで、消火器の押し売りですら消火器としての役には立つのだと考えるならば、これはそれ以下の犯罪的行為とでも言うべきでしょうか?
まあそのあたりは国中の俊英を集めた政府が先の先まで見据えて考えてやっていることですから、医療現場としてはただ黙々と合法的な範囲内で生き残るためにしかるべく対応を取っていくということになるわけですが、それで誰がどのような得をするのかということをマスコミの仕掛ける安易な医療バッシングの尻馬に乗る前に国民も考えていかなければならない時期ではあるでしょうね。

一方で公平を期すために言及しておかなければならないことは、医療現場に全く改善すべき余地がないかと言われれば、これが掃いて捨てるほどに沢山あるという点です。
しかし長くなりましたので、そのあたりは次回以降に続けさせていただきます。

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