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2009年3月 9日 (月)

過失はどこまで罪なのか 医療業界と航空業界

昨今都市部の急性期病院はどこも多忙ですが、特に公立病院と言うところは負わなくてもいい部分でまで医師負担が増大していく傾向がありますよね。
今日は地方都市においても基幹病院医師の多忙な状況は変わらずというニュースから紹介してみましょう。

広島市立4病院:人手不足深刻 1カ月無休の医師6.8% 1日含め14% /広島(3月7日毎日新聞)

 広島市の市立4病院で、1カ月に休日が取れない医師が正職員、嘱託合わせて全体の6・8%に当たる25人に上ることが分かった。月に1日しか休みを取らなかった医師は27人おり、合わせて14・1%にも上る。市は「人手不足や医療への熱意で休日にも出勤している医師が多い。医師数を増やしたいのだが、経営面や人材面から難しい」と頭を抱える。
 6日、この問題を松坂知恒市議が市議会予算特別委員会で質問した。同市は広島市民(中区)、安佐市民(安佐北区)、舟入(中区)、総合リハビリテーションセンター(安佐南区)の4病院を運営。4病院で368人が昨年11月1日現在で在籍している。08年10月5日から11月1日までの4週間で休みが0日だったのは、広島市民14人▽安佐市民9人▽舟入2人の計25人だった。1日しか休みがなかった人も27人いた。
 08年4月から09年1月では、月100時間以上の時間外勤務を行った医師は安佐市民14人▽広島市民と舟入で各1人の計16人いた。
 6日の市議会で、大庭治・広島市民病院長らは「医師たちが休みがまったくない状態だったとは知らなかった。これから改善していきたい」などと答弁した。

記事の最後に広島市民病院長の大庭治氏のちょっとアレな発言が載っていますが、同氏の院長就任時の挨拶では「 時間外労働をせざるを得ない現状でも、労働基準監督署は一定限度以上の時間外は禁止しているし、解決は大変困難」なんてしおらしいことをおっしゃっています。
実態は労基署の禁止などどこ吹く風で好き放題残業をさせていたというオチがついたわけですが、一応弁護しておきますと氏の立場としては例え実態を知っていたところで「いやあ法令無視してましたわ。えろうすんません」とは言えないとは思いますけどもね。

人間誰しも疲れてくると仕事が雑になってくるのは実感として理解できるところだと思いますが、特に医療現場というところは絶対にミスが許されないなんてことを言う一方で、ミスを誘発する過重労働が常態化しているという非常に奇妙な職場です。
旅客機パイロットには厳密な運行時間の規定があって、守られないようだとお上の指導が入るなんて話を聞きますが、医療業界では最近ようやく残業代不払いに指導が入り始めたという話題が出ているくらいで就労時間を厳守しろなんて指導が入ったという話はあまり聞いたことがありません。
本当かどうかひと頃流れた噂では、労基署に労働条件について相談しても医者だとバレたとたんにガチャ切りされるなんて話もありましたが、もう少しもっともらしい噂によれば医師に労働時間厳守を言ってしまうと医療現場が成り立たないのは周知の事実なんで労基署も見て見ぬふりをするのが伝統なんだとか。
実際に過労がどれくらい悪影響を与えているものなのか、ちょうどこんな記事が出ていましたので紹介してみましょう。

疲労でミス寸前、半数が経験 県内勤務医 過酷実態裏付け/滋賀(2009年3月6日京都新聞)

 滋賀県の病院に勤める医師の5割近くが、過去1年間に疲労が原因で医療事故やミスを起こしそうになり、7割超が以前より疲れやすいと感じている-。県がこのほど行った調査で、激務が指摘される勤務医の過酷な実態が裏付けられた。医師の使命感ややりがいについて、4割近くが「失われていく」と回答し、県は「地域医療を守るために、勤務医の負担軽減が必要だ」としている。

 医師不足などの実態把握を目的に昨年12月、県内全60病院の勤務医1469人にアンケートし、927人から回答を得た。都道府県単位で行政が全勤務医を対象に行う調査は珍しい。

 

疲労から医療事故を起こしそうになったのは47%(434人)。最近1カ月の自覚症状について、最も当てはまる項目を問うと「以前と比べて疲れやすい」が「時々ある」「よくある」と合わせて73%(676人)に上った。「いらいらする」「朝起きた時ぐったりしている」「へとへとだ」なども60-70%が当てはまると回答した。

 週当たりの平均超過勤務時間では、20時間以上が25%もいた。1カ月の平均当直回数は「2-3回」が54%と最多だったが「5回以上」も16%。当直明けは83%が「通常勤務」で、当直からの連続勤務時間は「24-36時間未満」が60%、「36時間以上」も30%に上った。

 

「患者や家族から暴言・暴力を受けたことがある」のは82%もおり、医事紛争経験者は21%だった。医師としての使命感ややりがいが増しているのは20%だったのに対し、「失われていく」と答えた人は37%。改善点としては「診療以外の業務を軽減」「休日の確保」「医師と理解し合える住民意識を醸成」を求める声が多かった。
 県医療政策室は「勤務医を守るためにも、医療機関の機能分化や連携など地域で医療を支える仕組みが求められている。調査結果の分析から県が目指す方向をしっかりと打ち出し、医師が働きたいと思える環境をつくりたい」としている。

まあ、記事を見るだけでもいろいろと突っ込み所満載な現場の状況が見えてくるようですが…
読むものの立場によって「五割も?」と感じるか「五割しか?」と感じるかは様々だと思いますが、少なくとも言えることは見過ごしに出来ない割合の医師達が現状で一杯一杯だと感じており、しかも状況がますます悪くなっているように感じているということでしょう。
特に症状を見てみますとこれは典型的な過労から鬱発症というパターンですが、これくらいの高率で発症してくる職場環境ということになりますと誰か一人が抜けた瞬間に全般的な崩壊も目前という感じなのではないでしょうか。

こういう状況にあるわけですから当然過労からミスは出るだろうと誰にでも予想はつくわけですが、その場合「予測されたミス」と言うものに対してどのような態度で臨んでいくのか、ミスを犯した現場の人間を責め立て責任を取らせていれば良いのかということが問題になってくる気がしますね。
先日も少しばかり書きましたが、医療事故調議論の上でも航空事故調というのは良いモデルとして大いに参考にすべきなのだと思うのですが、問題はその航空事故調も様々な社会的要因で激震の真っ最中にあるということなんですよね。
しかし見ていて「さすが」と思ったのは、業界の自助努力でさっそく軌道修正を図る動きが出ているということです。

全日空 ミス不問の制度導入へ(2009年3月9日NHKニュース)

全日空は、パイロットなどから事故やトラブルの防止に役立つ情報をありのまま報告してもらうため、ミスを処分しないとする新たな社内制度を導入することになりました。

旅客機のパイロットや整備士などのミスには、今後の事故やトラブルの防止に役立つ教訓が含まれていることがありますが、処分の対象となることが障害となって、すべて報告されていないのが現状です。このため全日空は、パイロットなどにミスの内容をありのまま報告してもらうため、ミスを処分しないとする新たな社内制度を来月から導入することになりました。制度では、「避けられないミスだった場合は、当事者の懲戒処分や不利益な扱いを一切行わない」と社内規程に明記し、重大事故につながった場合でも適用するとしています。ミスを報告しやすい環境を作り、危険の芽をいち早く見つけて対策をとるのがねらいで、責任の追及よりも事故やトラブルの再発防止に重点を置くとしています。一方で、故意によるものや職務怠慢があった場合などは従来どおり処分の対象とするとしています。こうした制度は、国内では日本航空がすでに導入しているほか、欧米の航空会社でも広く取り入れられていて、効果をあげているということです。

あくまでもこれは社内制度であって、先の管制官有罪判決のように社会的にどれくらい意味があるのかというのは疑問なしとしないのは言うまでもありません。
「この程度のことなら院内のインシデント・アクシデントレポートだって責任追及には使用しないって言ってるよ」と言う声ももちろんあるでしょうが、注目すべきはこうした公的な明記された取り扱いというものが国内だけでなく全世界的な共通認識として成立しているということですよね。

医療事故調導入との絡みでひと頃医療における刑事免責ということが話題になりましたが、それぞれの立場の違いはもとより「刑事免責?ミスで人を殺しても罪も問われないなんてケシカラン!」という声が当たり前のように出てきたことは記憶にあたらしいところでしょう。
一方でこうした航空業界のニュースが流された場合にどうでしょうか?新聞やメディアが「責任を問わないなんておかしい!」と言うでしょうか?世間が「航空会社の無責任体質は問題だ!」と抗議の声を上げるでしょうか?

事故とかミスとかいったことと絡んで何をどうやったら結果としてうまくいく、あるいはどうやったら害ばかりで益がないという話はおおよそ主だったところのエヴィデンスが出ていて、少なくとも理屈と現象面の上からは「これが正解」という対応の仕方というのがあるわけです。
航空業界においてはそうしたエヴィデンスに基づいた対応がきちんと進められていく一方で、医療業界でははるか遠い方向へ向けて迷走が続いている、その差は一体どこから来るのかと言うことですよね。

かつて聞かされたブラックジョークの一つに「飛行機事故と医療事故の一番大きな差とは、パイロットは死ぬが医師は生き残ることだ」なんてものがありましたが、社会的に大きな影響を及ぼす問題の解決に必要なことが素朴な感情論なのか、それともエヴィデンスに基づいた正しい対応なのか。
特に日本の場合は昨今ますます過失犯に対する処罰感情が強くなっている傾向が見て取れますが、社会利益という面からも何が一番よいやり方なのかをもう一度冷静に考え直してみる必要がありそうです。

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コメント

広島市の市立病院は何処も野戦病院ですよ。
特に舟入の酷さは話に聞く東京ER並ではないでしょうか?
あの惨状に医師を送るのは大学医局も躊躇うのでは?
院長や教授など上の人たちは過重労働を押し付けていた意識はあっても
「地域医療のため」を金科玉条に押し付けてったのでしょうが、現場の
実戦部隊はとうに崩壊してた…というのが現状だと思います。

投稿: | 2009年3月 9日 (月) 15時41分

パイロットや飛行機整備士のミスは処罰の対象にしない、ですか。
労働時間がきっちりと管理した上で、免責条項を社内規定としても設けるなんていい職場ですね。それでパイロットの年収が勤務医よりもいいんだから、うらやましいです。
医師は労働時間はむちゃくちゃ。へたすりゃ過労死ラインどころか正規の勤務時間の倍以上働いているなんてザラ、おまけに少しでも結果が悪ければ即医療ミスといわれてハイ訴訟。
これだけミスが起きやすい職場環境で、なおかつミスをすれば即社会的に抹殺される職業に、しかもそうたいしたことない年収(パイロットや一流企業、マスコミなどと比べた相対的なものですよ)で働くなんて、やはり奴隷といわれても反論できませんな。

そりゃ、医療現場が崩壊しない方がおかしいです。どこにも逃げ道がないんだもの。

投稿: | 2009年3月 9日 (月) 18時08分

ま、過重労働放置すれば逃散するだけですよ(大笑)

各科の医長にうちの病院へ来ませんかとリクルートの手紙でも書いてみませうか。

投稿: 元外科医 | 2009年3月 9日 (月) 20時46分

医療業界にけっこう強い外圧がかかっている状況ですから、遠からず色々な方面での再編成が行われていくんじゃないかと思って見ています。
制度的な話もさることならが、まずは現場で働いている人間にももっと意識改革が必要なのかも知れませんね。

投稿: 管理人nobu | 2009年3月10日 (火) 11時35分

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