« 岩手県立病院再編問題、ついに無床化決定か?! | トップページ | レセプトオンライン請求義務化は先送りの方針 »

2009年3月24日 (火)

医療関連の特許権保護

政府内部での議論と言うのは実際に表に出てこないことには見えにくいものですが、最近医療業界で目についたのがこの話です。
こうした話自体はかなり前からあったことですが、ようやく具体的なスケジュールまで見えてきたということですね。

手術・投薬方法を特許に 政府検討、法改正の柱に(2009年3月17日日経ネット)

 政府は先端医療の競争力強化に向け、診断や治療などの「手法」も特許として認める方向で検討に入った。現行制度は医薬品や医療機器などの「モノ」だけを特許の対象としてきた。実現すれば医薬品メーカーは新薬の投与方法などでも特許収入を得られるようになり、開発投資の促進効果が期待できる。2011年に予定する特許法の抜本改正の柱に位置付ける。

 政府の知的財産戦略本部の先端医療特許検討委員会(委員長・金沢一郎日本学術会議会長)が医師や医療関連企業、弁理士などと協議に着手した。細胞などを用いた先端医療は「モノ」としての定義が難しい場合があり、手術方法や薬品を投与する量やタイミング、組み合わせ、部位の違いなどに着目した特許取得が重要になるとみている。

これだけではさすがに良く判らないと思いますから、背景事情を説明するのが少し古いですがこちらのコラムです。
試しに色々と検索してみて興味深いのはこういう推進派の論点というのはどれもこれも非常に似通ったロジックであることなんですが、まずは内容を見ていただきましょう。

第53回「医療関連特許を早急に認めよ」(2004年10月22日ビズプラス)

アメリカが先行する医療関連特許

 ゲノム解読後の生命科学研究の急進展とIT(情報技術)ツールの融合によって、医療現場の技術革新が急速に進んでいる。医師の技量と最新機器や薬剤の効能によって患者はより先進的な医療を受けられる時代になってきたが、大きな課題があった。どこまで特許と認めるかである。

 特許はある一定期間、排他的独占権を認めるため、医療の現場では患者を救済する医療行為と特許技術がぶつかってしまい、命を助ける医療行為でも特許権利があるために行使できないということになりかねない。

 しかし一方で、医療に特許を認めないと技術革新に投資がされず、先進的な研究開発に取り組むことができなくなる。アメリカでは1952年に特許法を改正して広く医療分野に関わる方法を特許と認め、数多くの医療方法特許が成立してきた。アメリカが先端医療技術で常に世界をリードしているのは、この特許事情によることが大きい

 ところが93年に、白内障の手術方法で特許を持っていた人が、医師や病院を特許侵害で訴えた事件が発生した。そこでアメリカは96年に特許法を改正し、人道的立場から「医師などによる医療行為には、原則として特許権を行使することができない」との規定を導入した。
(略)
 これで見るように、アメリカはいわば何でもありであり、欧州は一部の診断技術で特許を認めているが、手術・治療法などはまだ認めていない。日米欧の3極で見ると日本が一番厳しい。これでは、先端医療研究で後れを取るとして、以前から日本でもアメリカ並みに特許を認めてほしいという声が企業や先端研究者らから出ていた。アメリカ並みにしないと、国際競争力は得られないというのが多くの意見である。

専門調査会の意見は出尽くした

 政府の知財戦略本部が昨年7月に策定した「推進計画」でも、「患者が先進的な医療を受けられると同時に、医療水準の向上と医療技術の進歩の促進をする観点から医療関連特許について幅広く検討すべし」(要旨)が盛り込まれた。

 知財戦略本部はこれを受けて、昨年10月「医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会」(井村裕夫会長)を設置して、10回にわたって論議してきた。外部からの意見聴取も重ねた結果、次の点で方向性が出た。

(1)人道的立場から、医師の行為に関わる技術は特許の対象から除外する。

(2)医療機器の作動方法と医薬の製造・販売のために医薬の新しい効能・効果を発現させる方法は特許として認める。

 この事務局案に対し、企業や研究者の間からは、医師や医療に配慮しすぎた非常に狭い範囲であり、これではアメリカとは対等に競争できないという不満が出ている

 しかし一応、この方向で調査会の結論は集約する方向が見えており、井村会長を除く10人の委員の意見も出尽くし、最近の論議は各委員が同じことを繰り返し主張する堂々巡りである。委員の意見は、医療機器の作動方法を特許の対象とするべきという人が6人、欧州並みに検査方法の一部だけを特許の対象とするべきとする人が2人、特許の悪影響についてなお検討すべきという人と保留した人が各1人である。

 また医薬の新しい効能・効果を発現させる方法を特許として認めるとした委員は6人、反対が2人、なお検討すべしは1人である。

早期に国民の意見を聴く機会を設けるべき

医療特許に待ったをかける代表的意見は、日本医師会を代表する委員であり「特許を認めると排他的独占権が生じるので患者への影響が心配だ。もっと審議するべきだ」との意見を繰り返し主張する。

 しかし、論議は1年間、10回もかけている。このスピード時代に論議の内容に進展なく、単に引き伸ばしに等しい「検討論」に引きずられて渋滞するのは多くの国民の利益に反するものだ。また、国民の福祉を担当する厚生労働省が日本医師会の意見に同調するような態度を見せているが不可解だ。

 さる10月13日に開かれた第10回調査会では、取りまとめ案が審議され、その内容を国民に広く公表して意見や情報(パブリックコメント、以下パブコメ)を得たいという事務局案に対し、一部の委員が時期尚早を強く主張する態度は、引き伸ばし策の何物でもない。事務局はこれまでの審議内容を公表して広く国民の意見を求めるパブコメ公募に踏み切った。

 医療の技術革新の是非は、厚生労働省や日本医師会やそれに同調する一部の人が決めるものではない。企業や医療研究者が主張するように、このままではアメリカに先進技術を根こそぎ特許で囲まれ、先端医療技術で後れを取り、回りまわって日本の医療費の多くの部分がアメリカ企業に吸い上げられるという構図になりかねない。医療関連特許を早急に認めるべきだ。

 不利益をこうむったときの責任は誰が取るのか。国民にツケを回すようなことは許されない。

またここでも国益に反する抵抗勢力、汝の名は医師会ですか(苦笑)。
現在進行中の知的財産戦略本部における「先端医療特許検討委員会」議事録についてはこちらにありますが、例えば特許権を保護することで企業競争力を確保する、あるいは最先端医療の特許を保護することで国際的な開発競争に後れを取らないようにするという相変わらずの話が出てくる。
また既存薬であっても投与法などで特許が取れるということであればメーカーも開発費用を回収しやすくなるといった話もあって、具体的な例としては服用後に色々と面倒の多かった骨粗鬆症治療薬を毎日飲む方法から週一回投与に改めた例などが出てきます。
このあたりの検討は既に数年前から繰り返されている議論で、例えば資料の一つとして「医療特許は患者を救う!」などという素晴らしいバラ色の未来絵図もあって是非参照いただければと思いますが、検討している主体が知的財産戦略本部であるところからも明らかなように話の流れとしてあくまで特許を取る側主体での議論であるという点には留意下さい。

しかしながら当然こうした医療特許取得が実現すれば問題もあるわけで、例えば第五回などを見てみますとこういう議論が出てきます。

第5回 先端医療特許検討委員会 議事録(2009年3月2日)

○羽生田委員 やはり負の部分は今、本田委員が言われた金銭的な患者さんの負担というのは非常に大きいと思うんですね。これはいわゆる特許を取った時に、簡単に言うと後発品ができないということになりますので、そういった意味では価格が下がりにくくなるというのは当然ありますから、その面だけから言うと、患者さんの負担はそのまま大きいままでいる時間が長いということは言えると思います。ただ、逆に今、本田委員も言われたように、研究費がその分から出ていくということももちろん大事なので、その辺裏表がかなりあると思うんですけれども、患者さんにとっては金銭的な負担というものは、大きな負の問題だろうというふうに思っております。

○金澤委員長 ありがとうございました。
 佐藤委員、どうぞ。

○佐藤委員 薬剤の場合には、物質特許が認められた時にも、価格の問題が問題になったんですね。医薬が独占されると、当然価格高騰につながるということで、その時に議論されたのは、特許法上、公共の裁定実施権というのがありまして、公共上必要なものについては国が裁定で実施権を他人に与えることができるという制度が特許法上担保されていると。だから、もしそういうことが公共的に必要であれば、裁定実施権を使えば問題を対処できるのではないかという議論が前回もされたということが一つと。
 それから、もう一つは前回の専門調査会の時にも、物質特許の時に議論された今のような問題点について、あれから十何年たってからの話で、十何年間の間に物質特許を認めて、医薬を特許化することによってどういう弊害が出たのだということをアンケート調査をしたら、実際には薬価も上がってないし、そういう弊害も出てなかったという結果が出たと。ただ、それだから即医療行為を特許にしてもいいという話ではないということで、前回は見送りになったというふうに覚えております。

企業権益確保のために特許を認めるというのであれば当然その分は納入価格へ転嫁されて医療費増大に貢献することになるかと思いますが、そのあたり政府が推進している医療費抑制政策と絡めて誰がその分泥をかぶるのかという点にも注目されますよね。
あるいは上記のコラム中でもアメリカでの特許訴訟の話が出ていますが、これについても既に類似の話が国内でも発生しているようです。

商標と治療手技(2008年11月11日All About プロファイル)

Q.商標と治療手技

こんにちは。
今、歯科業界でとある治療法について問題が起きています。仮にその療法をAとし、その治療法の開発者をTとし話進めます

TはAという治療法についてホームページで公開し、専門書、手技DVD、手技にもちる機材等を一般歯科医にもひろめていました。

昨年、その治療法の名称を商標登録したため、勝手に使わないでくれといった内容をホームページや封書にて警告してきました。

このAという治療法はTVなどでかなり誇大な表現をし、世間に広まっています。(実際TV放映の後などは、電話での質問が増えます)
ですからすでに多くの歯科医がこれを基礎とし、日々研究しています。

このような場合、商標登録者の意見を聞き、自院のホームページから「A治療法しています」などの関連文章は削除しなければいけないのでしょうか??

A.対応策

ご回答いたします。
河野特許事務所弁理士 河野 英仁

治療法についての名称を削除すべきと考えます。

T氏はA治療法について商標登録を受けており、これを許可なくHP等で使用することは商標権侵害となります。

対応策としては、T氏から商標の使用許諾を得ることが挙げられます。この場合、一定の対価を支払う必要があるでしょう。

その他、A治療法とは異なる名称をお考え頂き、その名称を同様に普及させることも一つの手です。その場合、商標登録出願しておくことも一つの手です。逆に広く第3者の自由な使用を希望する場合は、商標登録出願は不要です。

技術立国を目指す日本は基本的に知的財産権保護にも熱心であるべきで、この件に関しても総論反対という人はそうそういないんじゃないかとは思いますね。
実際問題として国内医療分野においても特許権を認めていかないことには企業権益以前に遠からず国外特許にがんじがらめになりかねないという危惧も濃厚な時代であるわけですから、最終的には認めるか認めないかではなくどこまで認めるかの話となることでしょう。
しかしながらその議論の推進力として患者である国民の利益が侵害される!けしからん話じゃないか!といった話を持ってくるのであれば、では最先端医療の法的権益が保護されているアメリカで国民が広くその恩恵を被っているのですか?安上がりに素晴らしい医療を享受しているのですか?という話もしなければフェアではないわけですよね。

医療を受ける金がないから仕方なく資金援助を受けられる先端医療の実験台になりますという患者層が一定存在しているアメリカでの話を、国民皆保険制度で全員に平等な医療がタテマエの日本にそのまま適用できると考えているとはまさか思えませんが、そうとも捉えかねないミスリードを行っているかに見えるのは何かしら裏の意図があるからなのか?
とりあえず容易に予想できる今後の話の流れとしては先端医療研究開発推進のためという名目での混合診療導入ということになってくるんだと思うのですが、まさか知的エリート数多の政府官僚の皆さん方がそんな安い上がり手で満足するとも思えないんですがね…

|

« 岩手県立病院再編問題、ついに無床化決定か?! | トップページ | レセプトオンライン請求義務化は先送りの方針 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

 医療特許ねぇ、医療が進歩するのであればいいんじゃないですか。ただし国民の生命健康に直結するモノである以上、保険医療に採用された特許は一定の金額で実施を保証するとか、強制的に保険医療組織が買い上げるとか、公共の福祉にかなうように、一定の枠をはめる必要があるでしょう。
 こういったことは立法によりなんでも可能だと思われますので良い方法を考えてもらいたいです。

個人的には近年の知的所有権万能の考え方には与しません。特許制度は人々の幸福のために存在するのですから。

投稿: 元外科医 | 2009年3月24日 (火) 15時39分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/44451832

この記事へのトラックバック一覧です: 医療関連の特許権保護:

« 岩手県立病院再編問題、ついに無床化決定か?! | トップページ | レセプトオンライン請求義務化は先送りの方針 »