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2009年3月12日 (木)

岩手県立病院再編問題続報 誰も何も突っ込まないのか?

先日は知事が議場で土下座をしたということですっかり全国の注目を集めることになった岩手県立病院の再編計画問題。
東北と言えば全国でも医師不足が顕著な地域として知られていますが、お隣は宮城県知事がこの件に関してコメントを寄せています。

村井知事:岩手県知事の土下座「すごい」と評価 /宮城(2009年3月10日毎日新聞)

 岩手県の達増拓也知事が、6医療機関の無床化を巡って補正予算修正案の「再議」を求め議場で土下座をして全国的話題になったことについて、村井知事は9日の定例会見で「熱い思いが伝わってきた。すごいと思った」と評価した。

 村井知事は「岩手は県立病院が多く、宮城より医師不足が深刻。無床化は必要で、ある程度の集約はやむを得ない」との見解を示した。

まあ「すごいと思った」と言うのは率直な感想なのでしょうが、村井知事も基本方針としては再編計画を是としていることが読み取れると思いますね。
おそらく地域医療の実態を知った上でこの問題に注視している全国多数の人々が、大なり小なり同様の見解を持っているのではないでしょうか。
しかし岡目八目と言う言葉がありますが、外野がいくら先の先まで見通せたところで当事者にとっては何の意味もないということもまた事実です。
その点で当事者である岩手県がどういう認識なのかというところが問題になってくるわけですが、そのあたりの事情が垣間見えるのがこちらの記事ですかね。

過酷な医師の勤務 無床化、首長反対根強く/岩手(2009年3月10日岩手日報)

 県議会は9日、予算特別委員会が始まり、県立6医療施設の無床化をめぐる議論が大詰めを迎えた。議会内には県医療局の新経営計画に反発の声が依然根強く、地元市町村にも反対意見が続く。しかし、議論が平行線をたどる中で県立病院の勤務医たちは、医師不足を背景に「36時間勤務」といわれる過重勤務を黙々とこなしている。医療現場が疲弊する中、勤務医からは建設的な議論を求める切実な声が上がっている。

 9日午前9時。県立中央病院(盛岡市)循環器内科の花田晃一医師(38)は今月2回目の当直明け勤務に入った。
 前日は約60人いる入院患者の回診や検査結果の確認、治療の指示-。当直中も未明に心不全で運び込まれた急患の治療に追われた。十分な睡眠を取れないまま当直明けで外来業務に入ると、狭心症や不整脈など多くの患者が診療を待っていた。
 外来業務を終えて病棟に戻ったのは午後4時。再び入院患者の回診を行い、同6時からは学会の打ち合わせ。連続勤務時間は36時間に上った。当直は月6回。当直明けに休める日はほとんどないという。

 勤務医の過酷な現実。しかし、無床化の対象市町村からは新経営計画に反発の声が上がる。多田欣一住田町長は「医師に重い負担がかかっている状況は認識しているし、何とかしなければならない。しかし、県は事前に説明し対策を立てた上で進めるべきだった」と疑問を投げ掛ける。

 岩手町の民部田幾夫町長は「無床化しても医師不足が即解決されるわけではない。こういう課題こそ互いに話し合うスタンスでなければ県民の一体感や『結い』の県政運営などは醸成できない」と指摘する。
 藤原孝紫波町長は「医師不足について県医療局から町に情報が公開されず、問題が投げかけられることは一切なかった」と県の姿勢を批判。「県地域医療を守る住民組織連絡会」の及川剛代表は「勤務医の勤務環境は厳しいが、無床化は間違っている。外来の診療に制限を設けるなどの緩和策を行って、その間を試行錯誤する時間にしてもいい」と提案する。

 36時間勤務を終えた花田医師は「医師の勤務状況は限界に近い。県の計画に反対するならば、代替案を示してほしい」と指摘。「医師は患者を診るのが仕事。医師や患者がつぶれないようにするのは行政や政治の仕事だ」と建設的な議論を求める。

それぞれの立場でそれぞれの意見があって当然だとは思うのですが、記事から見る限り受益者側から「自分たちはこれだけ譲歩するがどうだ?」と言った話があまり聞こえてこないように見えるのは気のせいでしょうか。
そもそも明らかな医師の違法労働環境がこれだけ明らかになっている状況で、自治体首長ともあろうものが「もうちょっとその状態を続けてみない?」なんてことを公の場で発言してしまっていいのか?という素朴な疑問も感じるところですが、過去にも現在にもそういったことを考えたことはなかったとしたら医者が逃げ出すのも当然でしょう。
この状況で無床化は間違っているなどと言うのであれば遠からず自然に廃院となるだけの話であって、今になって試行錯誤しているような時間などどこにも存在しないと思うのですがね。

岩手というところは広い上に地理的要因から各地が分断されているという状態だそうで、元々各地に多数の公立病院を配置して地域医療を維持してきた歴史があるようです。
ただし公立病院というもの自体が今の時代にあっては色々な意味で不良債権化していますから、いずれにしてもそろそろ何とかしていかなければ時代について行けないという危機感がなければならないはずなんですが、どうも県内自治体や住民には「今まであったものはこれからもずっとなければ困る」という場所から一歩も動く気はないように見えます。
時代に乗り遅れた結果崩壊しつつある県立病院の現状が県議会でも公開されたようですが、先日の再編計画に反対した議員達がこれを聞いてなお動かないということであれば県政に責任を持つ立場として資質が問われかねないのではないでしょうか?

外来患者、延べ100万人減 県立病院 /岩手(2009年3月10日岩手日報)

 県議会2月定例会は9日午前10時から予算特別委員会を開き、2009年度一般会計当初予算案を総括審査した。県立病院の運営状況について、達増知事は「患者数が大幅に減少している」と説明。03年度と07年度決算を比較した場合、外来患者が延べ100万人減少していることを明らかにした。県医療局によると、薬の長期投与が認められたことにより、延べ患者数が激減。外来収益も約30億円減少した。

 予算特別委員長に関根敏伸氏(民主・県民会議)、副委員長に平沼健氏(自民クラブ)を互選。県医療局の新経営計画は千葉康一郎(民主・県民会議)、工藤勝子、高橋雪文(自民クラブ)の3氏全員が取り上げた。

 高橋氏は「県立病院の運営が困難になっている状況を示せ」と質問。達増知事は「医師不足と収益の急速な悪化が複合的に絡み合っている」と説明。

 03年度と07年度の決算比較で▽常勤医が75人減少▽入院患者が延べ19万1376人(10・6%)減少▽外来患者が延べ100万8178人(27・7%)減少していることを明らかにした。

 これらの背景として▽医学部の入学定員を国が抑制▽新臨床研修医制度により医師派遣元の大学が医師不足になった▽国の診療報酬抑制-などを挙げた。

 県医療局によると、03年度と07年度決算を比較した場合、入院収益は約25億円、外来収益は約30億円それぞれ減少。累積欠損金は30億円増加し、07年度に138億円に達した。

 達増知事は、勤務医が離職する要因として▽救急患者の増加や宿直、日勤が続き「36時間勤務」といわれる過重勤務▽給料や手当の処遇▽深刻な訴訟対応▽患者からのクレームの増大-などを挙げた。

 一方、医師確保対策室は06年9月に設置以来、15人の医師を招聘(しょうへい)。08年度内に1人、09年度に6人の招聘(しょうへい)が内定したという。知事は「09年度から医師支援推進室に改め、勤務医の支援強化を進めたい」と述べた。

 9日の予算特別委は午後4時44分散会。10日は午前10時から総括審査を再開。その後、議会、総合政策部を審査する。

答弁中で県知事は収益悪化の要因として診療報酬抑制などを挙げたと言うことですが、おそらく現場で起こっていることはもう少し違うんじゃないかという気がしますね。
県立病院の中でも(相対的な話ですが)稼ぎ手となっているのは本来高度医療に特化するべき都市部の基幹病院だと思いますが、こうした高率基幹病院は往々にして僻地公立病院や周辺病院から体の言い患者の押し付けられ先となりやすいものです。
「公立病院なんだから県民を全て引き受けて当然だろう」などと他院からも病院事務からも当の患者からも要求される、こうして患者が集中した結果何が起こるかと言えば医師の労働環境はひどく悪化し現場の志気が低下していくということです。

近ごろ流行りの病診病病連携とやらで適当に他施設に振り分けられれば良いのですが、患者の側も「県立病院の方が(いろいろと都合が)良い」と離れようとしたがらない場合が多く、何もこんな状態の人がこんな基幹病院に通わなくてもと思えるような軽症患者で外来があふれかえることになります。
こういう状況になってくると医師が考えることは少しでもこの患者を減らしたいということだけになってくるものですが、例えばお手軽な方法の一つとして大量の薬を一度に処方してひたすら受診間隔を伸ばしていくというやり方があります。
「延べ患者数が激減」と言う現象に対して県医療局は「薬の長期投与が認められたことにより」なんてことを理由として挙げているようですが、実際のところこの現象の意味しているのは現場の広範な志気崩壊の反映に他ならないと思いますね。

先日のことですが、医療情報誌「ジャミックジャーナル」を発行しているリクルートドクターズキャリアがこんな調査結果を公表しています。

転職の契機「収入増」45%=勤務時間や人事の不満も-医師調査(2009年3月8日時事ドットコム)

 医師が勤務先の医療機関を替えるきっかけを尋ねたところ、45%が収入増を挙げた一方、プライベートな時間の確保を理由とした者も3割に上ることが8日、医師の人材紹介を行う「リクルートドクターズキャリア」(東京都港区)の調査で分かった。
 調査は昨年11月に実施。転職活動をした、または転職を意識した医師にインターネットを通じてアンケートを行い、880人から有効回答を得た。内訳は男性88.2%、女性11.8%、内科系44.3%、外科系23.6%など。
 転職を考えた契機を複数回答で尋ねたところ、「収入増」(45.1%)がトップで、次いで「プライベートな時間が欲しい」(29.3%)、「医局人事の不満」(28.0%)など。「勤務環境が過酷」(25.9%)や「技術を磨きたい」(18.9%)などもあった。
 「収入増」と回答した医師は、勤務先別では大学病院が最多の56.0%。医局からの医師派遣を受ける大学関連病院が47.8%、その他が44.6%だった。
 また「プライベートな時間」を挙げた医師は30代後半が36.7%で最多。20代後半35.0%、30代前半34.6%で、20~30代が目立った。

記事の読み方は様々あるのでしょうが、労働者として特別おかしなことを要求しているわけではないのだなという風にも見えるのは自分だけでしょうか?

公立病院の医師給与が冷遇されているというのは業界内で知らない者はいないというレベルの常識ですが、面白いもので民間と公立との役職毎の給与の違いと言うのはそれぞれの施設内での役職間のヒエラルキーをよく反映しているのですね。
また公立基幹病院での勤務環境は奴隷労働と言われるほど最悪であって、その上僻地公立病院にも当直応援などと称して派遣されてしまうとなれば、満足なプライベートの時間など持てるはずもありません。
そして当直先でやってくる患者と言えば「既得権益は絶対に手放すものか」と固く決意した人々と言うことになれば、いったい公立病院に残る理由とは何なのかという気がしてきませんか。

医者も一応は血の通った人間ですし近ごろでは多少の社会常識も身につけ始めていますから、多少のことまでは我慢しても明らかにそれはおかしいだろうと思える状況でいつまでも黙って堪え忍ぶ特異性癖所持者ばかりと言うわけではないでしょう。
彼らが人として当たり前の反応を取った結果として公立病院が崩壊してしまったとして、その責任を負うべきなのがいったい誰なのかということはそろそろ考えておかなければならないでしょうね。

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コメント

はじめまして。みやと申します。岩手県民、医療従事者です。
岩手の医療問題を取り上げていただいたこと、感謝します。皆さんにどう考えられているか気になっていました。

県立病院再編(統合含み)が進むにつれ、岩手日報にはほぼ毎日医療問題が取り上げられています。医師の労働状況、助産師による診療、NPの教育、県民による患者会設立、夕張や兵庫の地域医療再建などなど…地域の頑張りが必要!と訴える記事が増え、活動する方もいますが、来月どうなるのか先が見えません。
無床化反対の自治体の中には、65歳以上の高齢者が人口の60%を超えるところもあり、車で1時間かけて通院することは難しいという意見があります。そこでマイクロバス云々、土下座云々…今に至っています。土下座によって、良くも悪くも、全国の方に岩手の医療崩壊について注目して頂ける機会ができたと思います。

これを機に、一人の働く人間として扱われればいいなと思うのは自己中心的でしょうか…。

投稿: みや | 2009年3月14日 (土) 22時11分

貴重な地元情報ありがとうございます。
当「ぐり研」の基本スタンスは「現場主義」ですので、当の医療従事者がこの問題をどう捉えているのかは極めて重要な問題だと思いますね。
特に今回の事例は地域医療の行く末を占う上でも非常に興味深い研究対象になり得るのではないかとも思いますし、今後も折りに触れて取り上げさせていただければと考えております。

投稿: 管理人nobu | 2009年3月15日 (日) 18時56分

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