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2009年3月 6日 (金)

必要とされる資質とは何か

これも少し前の話ですが、2001年静岡沖で起きた日航907便のニアミス事件というものがありました。
この時に便名を言い間違えたとして当時の航空管制官二名が起訴されていまして、一審では無罪となったものの昨年四月の二審判決では共に有罪判決が降りています。
色々と構造的な問題が積み重なって起きた事故とも言える本件が管制官の言い間違いという個人の問題にすり替えられたということもあって、当時関係各方面では大変な騒ぎになりました。

航空事故調というものは医療事故調のモデルとしてもしばしば言及されますが、これは調査報告書を個人責任追及には用いない代わりに真実は全て話して再発防止に協力しなさいという態勢がなりたっているからです。
ところが本件訴訟においてはこの事故調報告書が鑑定書として提出されるなど、制度の理念を揺るがしかねない行為が行われたことでも大きな話題になったのですね。
当時は関係者から「これでもう管制などできなくなるよ」という声が漏れ聞こえてきたものでしたが、実際のところどういう社会的影響が出たのかという記事がこちらです。

有罪ショック?管制官志望者が急減 ピーク時の6割弱(2009年3月3日朝日新聞)

 管制官を目指す学生が今年度、急減した。養成機関「航空保安大学校」の管制官コースへの応募者はピーク時の6割弱で、過去10年間で最低。同校が東京から移転したことや、ニアミス事故で管制官に有罪判決が出たことが影響したと関係者はみている。

 1959年に開設された航空保安大学校は毎夏、航空管制官や運航情報官などを公募している。管制官は空の交通整理の専門職の国家公務員で、2次元のレーダー画面から3次元の空域をつかむ特殊な能力が要求される。合格は毎年数十人の狭き門だ。
 ところが、昨夏の応募者数は1207人と前年の8割しかなく、最近のピークだった03年度の2140人の6割弱に落ち込んだ。
 大学校側は、公務員離れなどとともに、同校が昨春、羽田空港近くから、大阪府南部の関西空港対岸に移転した影響をあげる。大半の学生が付属の寮で生活するため「大阪からも遠くなり、敬遠されたのではないか」とみる。

 加えて影響したとみられているのが、静岡県焼津市付近上空の日航機同士のニアミス事故で東京高裁が昨年4月、管制官2人=最高裁に上告中=に出した有罪判決だ。
 便名を言い間違えて業務上過失傷害罪に問われた2人に一審・東京地裁は複数の要因があったとして無罪としたが、高裁は「危険な指示」と認定し、執行猶予付きの禁固刑を言い渡した。「ちょうど募集前に出て、受験生が敬遠した可能性がある」と、国土交通省の担当者は話す。

 ノンフィクション作家の柳田邦男さんは、福島県立大野病院で帝王切開手術の際に女性が死亡した事故で医師が逮捕され、産科医不足に影響したとされる現象を引き合いに、「個人の責任を追及する判決が将来を担う希望者をも敬遠させているのではないか」と指摘している。この医師はその後、無罪が確定している。

 2010年には羽田空港の4本目の滑走路が完成し、管制官の増員が急がれている。団塊世代の大量退職も進むだけに、関係者は危機感を募らせる。大学校は来年度に向けて大学を回ってPRしている。さらに、現役管制官を登場させた募集ポスターを、空港ターミナルビルなど目につきやすいところに掲示し、募集強化にも乗り出す予定だ。

この件に関しては医療業界と非常に相似形な構図だなと感じられることもあって注目していたのですが、一般紙においても同様のコメントが掲載されるようになってきたのは時代なんですかね。
「どうせ合格者は数十人なんだから、この程度の志願者数の落ち込みなんて全く関係ないんじゃないの?」という意見ももちろんあるでしょう。
実際医療業界で人手不足だ、逃散だ、リスク回避だと大騒ぎしていますが、医学部の受験倍率は相変わらず高値安定が続いていて「嫌なら(受験を)辞めろ。代わりは幾らでもいる」という状態なわけですよ。

しかし皆さん、ここでよく考えてみてください。
航空管制官にしろ医師にしろ、最も必要とされる能力は何かと言えば「危険が誰の目にも明らかになる前の段階でそれを察知し、回避する」という能力なんじゃないでしょうか。
ろくに舗装もしていない山道でいつ落石があったり崖が崩れたりするかも知れない、しかも真夜中なのに前照灯は壊れかかっていてろくに視野も確保できない、そんな状況でも構わずアクセル全開で突っ走っちゃうようなタイプの人間に自分の命を預けたいと思いますか?ってことですね。
ヤバイと感じて別ルートを選択しようとした人たちと、ヤバイとも感じないでそのまま真っ直ぐ進んじゃった人たちと、逃げ出したのがどちらで残っているのがどちらなのか?
そう考えてみれば、必ずしも数の上だけの問題ではない話なんじゃないかなという気がしているのですがどうでしょうか。

さて、こういう危機回避の勘というものは何も命の現場に限らず日常的にどんなことであれ有用に活用できるものだと思いませんか。
例えば日常的な商行為の中でも顧客との何気ないやり取りを通じて「ん?何か変だぞ?」と感じることで、貸し倒れだのといったリスクを回避できることってあるらしいですよね。

近ごろでは地方の医師不足問題もあって、あちこちの自治体で「医学部に進みたいなら奨学金を出してやる。その代わり卒業後は地元で働いてもらうぞ」なんていう「それ今どきどんな御礼奉公システムよ?」と思わされるような制度が用意されているようです。
中でも東北地方は全国でも最も医師不足が深刻だと言われていますが、例えば秋田県の奨学金システムはこんな感じらしくて、しかもこの条件でも応募が殺到しているんだそうです。
そうなると更なる欲が出てくるのが人間というものですが、実際にこんな感じの話が出てきているらしいんですね。

《地域医療再生》県「医師確保策」揺れる(2009年3月6日読売新聞)

修学資金貸与1人当たり減額へ 09年度、募集枠広げ総額抑制

 深刻な医師不足を食い止めようと、県が実施している対策事業が揺れている。県は2009年度から、県内で勤務することを条件に医学生らに貸与する「修学資金制度」の募集枠を拡大する一方、貸与総額を抑えるため秋田大の医学部生1人当たりの貸与額を減額せざるを得なくなった。大学から批判の声が出ており、県は頭を悩ませている。(鈴木幸大)

 医師を確保するため、県は2006年4月から医学生や研修医を対象に、貸与期間に応じて一定期間、県内の医療機関に勤務することを条件に返済を免除する修学資金制度を設けている。

 募集枠は、秋田大の医学部生15人(月額15万円)、どこの大学かは問わずに医学部生5人(同15万円)と大学院生5人(同30万円)、病院の研修医5人(同20万円)。現在59人に貸与している。

 08年度は、30人の募集枠に対し、35人の応募があったため、補正予算で対応し、全員に貸与した。

 09年度は、全体の募集枠を32人とし、大学院生を3人に、研修医を1人に減らし、希望の多い秋田大の医学部生を20人に、大学を問わない医学部生を10人に増やす。ただ、予算の制約があり、秋田大の医学部生の貸与額を月額5万円減らし10万円に改めた。さらに、すでに貸与中の秋田大の2年生以上についても、自宅通学者に限って月額10万円に減らすことにした。

 こうした措置に対し、秋田大地域医療検討委員会委員長の伊藤宏教授は「減額によって受給を辞退したいという学生もおり、医師確保対策にならない。金額を含めもっと柔軟に対応できないものか」と批判する。

 県医師確保対策推進チームの担当者は「限られた財政状況の中で増え続ける貸与額を抑制しつつ、医師に一人でも多く県内に残ってもらうために、貸与額を減額するのはやむをない」と話し、苦しい対応を迫られている。

「医師に一人でも多く県内に残ってもらうために」って、契約さえ結んでしまえば後はどうにでもなるという意思が見え見えなんですが…
まあ、その、契約関係なんてものは双方が同意の上できちんとやっているなら外野が口を出すようなことではないという考え方もあるのかも知れませんけどね。
しかし「支給期間の1.5倍の期間は働いて返してもらう」と言いながら、応募が思ったより沢山いたから支給金額を減らしますねってそれどんな詐(略)

いずれにしてもこういう話が出てきた結果、募集動向がどういうふうに変わっていくのかというあたりに注目していく必要はあるでしょうね。
今どきの学生はそれなりに情報収集能力も持っていますから、いつまでも騙しやすい純朴な田舎者だと思っていると面白いことになるかも知れなせん。
「ご利用は計画的に」というのは金融機関のCMですが、秋田で学ぼうとする医学生の皆さんもくれぐれもご利用の前には色々と検討してから判を押すことをおすすめしておきます。

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コメント

思うんですけれど、奨学金を貸与されている最中に契約条件を一方的に変更されたら、
貸与されてる奨学生が秋田に勤務せず自分の希望地に去っても文句言えないんじゃないでしょうか。
奨学金は返済すればいいわけですし、この医師不足の中ですから勤務先に不自由される事は
ないでしょう。何より医師に来てもらうために秋田より好条件を出すところはいくらでも
出てくるでしょう。
いずれにしてもお金で縛るというのは両刃の刃ですよね。お金を返せば秋田で勤務する必要ないって事ですから。

投稿: 通りすがり | 2009年3月 6日 (金) 20時05分

常識的に考えて信義に反する行為だろうと思いますが、契約を結んだ学生達がそこまでチェックして判を押しているかどうかでしょうね。
県側はそれなりに専門家に委任して契約書の条文を決めているんだろうと思うんですが、こういうことがやれるようにうまいこと文言を工夫しているのではないかと…

投稿: 管理人nobu | 2009年3月 7日 (土) 11時17分

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