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2009年3月 4日 (水)

墨東救急センター長大いに(?)語る

御高名な勝村氏の御活躍によって「ネットで暴走する医師たち」が思わぬ話題になるなど、最近では医療関係者独自の発言・発信を規制しようという動きが一定の支持を得ているように見えます。
個人情報保護法に加え元々医療関係者には刑法によって定められた守秘義務というものがあるのですが、このため患者側と医療側とが何かトラブルになった場合には患者側が一方的に主観的情報を発信できる一方、医療側は手技義務に阻まれて何一つ反証も出来ず一方的に叩かれるという展開になりやすいものです。
特に最近ではネットでの(形式的には)匿名での発信が盛んになったこともあって「医療関係者が好き勝手なことを言うのはけしからんじゃないか!」と言う声が一部団体を中心に大きくなってきているようですね。

こういう時代に敢えて公の場で口を開く医師というのは空気が読めていないのか、あるいはよほど深い考えがあってのことなのか、いずれにしても少しばかり普通じゃないのかなと思われても仕方がないところだとは思うのですが、実際に社会的地位のある人がそれを敢えてしてしまうとニュースになるという話題がこちらです。
ちなみに皆さんよく御存知だとは思いますが、墨東病院が絡んで昨年話題になりました東京妊婦死亡事例の当時の報道はこんな感じであったことにも留意ください。

妊婦死亡、墨東・救命センター長の見解(2009年3月2日CBニュース)

 昨年10月、脳内出血を起こした妊婦が都内8病院に受け入れを断られ、都立墨東病院で死亡した。これが周産期母子医療センター再編の議論が沸騰する発端となったが、その時、現場では一体何が起こっていたのか―。これまで同病院の医師が公の場で釈明する機会はほとんどなかったが、先日開かれた周産期、救急医療の専門家会議で、救命救急センターの濱邊祐一部長がその沈黙を破った。

 会議は周産期、救急医療の今後の在り方を検討している厚生労働省の研究班が主催。周産期母子医療センターの指定基準の見直しなど、同省の懇談会で年度内に検討するとしている事項について、現場の医師から意見を求めた。
 「今回のようなセッションが開かれたのも、うちの病院が発端だと認識している」。周産期と救急医療の連携がテーマとなった第1部で、濱邊部長はそう語り始めた。

 病院側は当日、妊婦のかかりつけの産科医院から受けた最初の照会を断り、2回目の照会で受け入れを決めている。厚労省の調査によると、病院から呼び出された産科部長が女性を診察した際、患者の頭痛が悪化していたため、ER(緊急救命室)の担当医が呼ばれた。その後、医師が脳卒中の可能性を指摘し、ようやく脳外科医の診察に至ったという。
 マスコミの報道の後、「救命サイドは、『墨東の救命センターは何をやっているんだ』とあちこちから責められたが、残念ながら、それに対して釈明の機会はまったく与えられていないし、釈明する気もない」と前置きした上で、濱邊部長は「患者受け入れまでの(開業医との)情報のやり取りは産科医同士だった。救急のラインの医者は全くかかわっていない。」と明かした。

 また、妊婦の死亡について、「私も含め、全く問題視していなかった。妊婦が脳出血を起こして死亡することはあり得ることで、今回のケースも、周産期ネットワークの中ではうまく処理された。不幸な結果になったが、(産科の医師も)ネットワークは機能していたという認識を持っていたはずだ。なぜかと言えば、(直後に)そのことが一切院内で話題にならなかった」と、当時の状況について説明。
 「搬送までに1時間も2時間もかかったが、『周産期のネットワークでは早い方だよね』『最初に断ったのによくとってくれたよね』とほめられても良いという認識が、おそらく関係者の中にはあった。ところが、一般人の感覚から言えば、『受けるんなら最初から受けろよ』という話になる。マスコミを含めた一般の方の受け止め方と、我々の受け止め方は全く違う。問題になるという認識自体がなかった」と、医療現場と一般の間の認識の乖離(かいり)について言及した。

 周産期システムが連携を図るための方策として、濱邊部長は受け入れ窓口の一本化すべきと強調。「今回も、情報が救急センターに入っていれば、まったく別の展開になっていただろう」と述べ、問題は「(収容の)キャパシティだ」と指摘した。そして、その解決策としては、「各ブロックにある地域周産期母子医療センターを整備した上で、各地域で責任の所在を明確にし、地域主導のネットワークをつくれば、いまの医療資源でも対応は可能だと思う」との認識を示した。
 ただ、この問題については、「最終的にどこに改善を求めるかと言えば『行政』。東京都で言えば、福祉保健局の医療政策部になる」とし、「これまで中から発信できなかった最大の理由は、うちが都立病院だからだ。都内の周産期センターでも都立は墨東だけ。うちから言うことは実は内部批判になる」と、苦しい胸の内を明かした。

すでに経緯などはよく知られている事例でもあり、何が問題でどこを改善すべきかといったことは東京都などが中心となって現在進行形で検討しているようですから、そのあたりのところは今回触れないでおきます。
濱邊氏の発言の中で注目すべきところは幾つかあるかと思いますが、個人的には以下の点が特に気になったところでしょうか。

1)「救命サイドは、『墨東の救命センターは何をやっているんだ』とあちこちから責められたが、残念ながら、それに対して釈明の機会はまったく与えられていないし、釈明する気もない」

2)「私も含め、全く問題視していなかった。妊婦が脳出血を起こして死亡することはあり得ることで、今回のケースも、周産期ネットワークの中ではうまく処理された。不幸な結果になったが、(産科の医師も)ネットワークは機能していたという認識を持っていたはずだ。なぜかと言えば、(直後に)そのことが一切院内で話題にならなかった」

3)「これまで中から発信できなかった最大の理由は、うちが都立病院だからだ。都内の周産期センターでも都立は墨東だけ。うちから言うことは実は内部批判になる」

1)については濱邊氏が救命救急側の立場であって、当初から搬送元の開業医と連絡を取るなど一次的に関わってきた産科関係者とは立場が異なるということに注意しておかなければなりません。
一般的に救急医療というものはまず救命救急担当者がファーストコールを受け、そこから各専門科にコンサルトする形が多いものです。
こうしたことから(施設によっては)救急担当と各専門科との間で押し付け合いの状況となりやすく、それがまた疲弊している勤務医の不満を増幅したりもするのですが、今回たまたまファーストコールが産科医だったことで逆の形になっていますね。
どこか不満げ、あるいはふてくされているような(失礼)濱邊氏の発言からは、普段病棟で各専門科医師が口にしているだろう「救急がまたこんな症例拾いやがって」といった類の嘆きの裏返しのようで興味深いものがありました。

2)についてはまさに各医療系サイトで話題になった通りで、「この症例をこの時間で受け入れられたんなら何も問題ないよね?マスコミは何さわいでるの?」という声が当時からあちこちで聞かれたものでした。
この問題に関しては基本的に需要に対する医療リソースの不足という致命的欠陥を放置したまま何を言ったところで空しいだけではないかと言うのが現場を知る人間に多かれ少なかれ共通する思いだったのではないかと言う気がするのですが、このあたりは最後までマスコミ及び国民との間の温度差は埋められずに終わっている気もします。
しかし事後検証の類は確かに内部的には有益な場合が多いのですが、今の医療を取り巻く状況の中でそれを外部に向かって公言してしまうことは「なに弾がない?銃剣もない?なければ腕でいくんじゃ!口で噛みついていけ!」という話になりかねないのが痛し痒しと言いますかね…

3)については正直文脈がはっきりしないのはよく判らない話ですが、今の時代内部批判が存在しないことを叩かれこそすれ内部批判を行ってはならないというものでもないと思うのですがどうなんでしょうか。
ただ濱邊氏の個人的見解としてもはっきりボールは行政の側にあるのだということを明示したことは評価すべきかなと思いますね。
最近すっかり影が薄くなってしまいましたが、東京都がこれからどういう医療行政の大方針を示してくれるのかという点については今後も興味を持って見守っていかなければならないでしょうね。

濱邊氏の場合御本人にはいろいろと思うところもあるでしょうが、基本的にこの事例において社会的に強いバッシングを受けるという立場ではありませんでした。
そうであるからこそ言えたという事情もあるのかも知れませんが、こうした「ぶっちゃけ話」というものがどういう影響力を発揮していくかですよね。

マスコミもひと頃の「医療関係者の発言は黙殺、ただバッシングするのみ」という姿勢からはようやく脱却しつつあるように見えるところもないではないですが(微妙な表現)、今度は医療側の口が固いと文句をつけているようです(苦笑)。
他人の発言を正当に扱ってこなかった人間と言うものがどう遇されるかという典型例のような話なんですが、社会的に医療に関する情報需要が高まっている中でこの種の内輪話は「高く売る」チャンスなのは確かですよね。
うまい具合にそのあたりの情報コントロールを行っていくくらいの知恵と能力を、昨今の医者達は十分にもっているように思うのは買いかぶりすぎでしょうか。

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コメント

内部批判躊躇は○○大臣が総理大臣を批判したりすると「内閣不一致」としてたたかれるのをイメージしているのかも知れません。

投稿: | 2009年3月 4日 (水) 22時49分

ああなるほど、なんとなく納得ですが、そこまで都立病院医師というものは組織に忠誠心を感じているものなのですかね。
管理職と末端の兵隊ではまたそのあたりの感覚も違うものなのかも知れませんが、上が言うべきことを言わないと物言わぬ医師達は黙って逃散するのみということになりかねませんが…

投稿: 管理人nobu | 2009年3月 5日 (木) 12時16分

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