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2009年3月 7日 (土)

県立病院再編問題で岩手県知事が議場で土下座

昨日夕方のニュースで報道されていましたが、かねて紛糾していた岩手県立病院再編計画に絡んで、同県知事が議場で土下座をしたということが話題になっています。
まずは第一報から紹介してみましょう。

再審議求め岩手知事が土下座  補正予算案の修正、可決で(2009年3月6日47ニュース)

 岩手県議会本会議で6日、複数の県立医療機関で入院患者の受け入れをやめる「無床化」に向けた補正予算案に反対する議会側が、無床化関連費用を除いた修正案を可決。これに対し再審議を求める達増拓也知事が2度にわたり議場で土下座する事態があった。

 達増知事は記者団に対し「身も心も投げ出してお願いすることで、礼を尽くさせていただいた」と説明。全国知事会は「議場で土下座は聞いたことがない。普通はあり得ない話」と驚いている。

 補正予算案は当初、無床化する5つの医療機関に来た入院が必要な患者らを、基幹病院まで無料送迎するマイクロバス5台の購入費約2300万円を盛り込んでいた。これに対し自民会派など議会の半数余りの県議が反対、バスの予算を削除した修正案を5日に提案していた。

 達増知事が修正案の再審議を求めたのは、首長が議決に異議がある場合に「再議」を求められる地方自治法の規定に基づくもの。再議で可決する場合は出席議員の3分の2以上の同意が必要で、修正案は7日午前1時半ごろ、あらためての本会議採決で否決された。

とりあえず無床化前提で既成事実化を計った予算案を、議会側が斬って捨てたというところでしょうか。
なにかこう、報道を見ている限り回りに目もくれず突っ走っているんだろうなあという印象を強烈に受ける知事の猪突猛進ぶりでしたからねえ…
ちなみに岩手県議会議員斉藤信氏のホームページでは当日の議場についてもう少し生々しい様子を伝えていますので、あわせて紹介しておきます。

本会議で補正予算修正案を可決 達増知事が再議決求め土下座する場面も(岩手県議会議員斉藤信氏ホームページより)

 3月6日の県議会本会議で、08年度岩手県一般会計補正予算と岩手県立病院等事業会計補正予算の修正案が賛成多数で可決されました。修正案の内容は、県立病院の新しい経営計画に基づいて4月からの5診療所の無床化を強行することを前提に、送迎用のマイクロバスを5台購入するための2300万円を減額しようとするもので、民主党以外の議員の賛成により可決されました。
 修正案の賛成討論に立った斉藤県議は、「無床化計画は、地域住民や地元自治体の納得も得られず、県議会の合意も得ていない。4月から5診療センターの無床化を強行するために、どさくさにまぎれて無床化を前提にした補正予算を計上することは許されない」と厳しく指摘。また「岩手町の日本一のがん検診体制、紫波町の県内初の医療と福祉の連携、住田町でも大迫でも九戸、花泉でも医療と介護の連携と訪問診療に県立病院と診療センターはかけがえのない役割を果たしてきた」と述べ、「無床診療所化の強行は、それぞれの地域が長年にわたって築き上げてきた保健・医療・介護の連携を一方的に壊すもの」と厳しく批判しました。さらに、「医師不足を支える取り組み、開業医・地元医師会との連携・協力、地域住民の取り組みなど、対立ではなく協力と共同の関係を築き強化することこそ必要」と強調し、「知事と医療局は強行に強行を重ねる態度を改め、今一度立ち止まって県民の理解と納得を得る努力をすべき」と訴えました。
 採決の後、達増知事が再議決を求める発言を行いましたが、その際知事が土下座する場面もありました。

岩手県立病院の再編計画については、当ぐり研でも過去に積極的に取り上げてきた経緯があります(2008年分より11/29、2009年分より1/61/121/191/232/17)。
これと言いますのも特に地方の医師不足問題と言うことに関して、トップである知事が音頭を取って積極的(あるいは強権的、でしょうか)に推進するという岩手県のアプローチは一つのモデルケースになるように思えるからですね。

岩手県に限らず医療に対する改善要求というものは全国どこでも賑やかになってきていますが、今やほとんどの地域において「今ある医療資源は手放さないで今まで以上の医療資源を要求する」などという贅沢は許されるものではなくなってきたと言うことが言えるのではないでしょうか。
全ての需要を満たすだけの医療リソースは到底存在しないとなれば、単に足りないものを足せばいいという話ではなく、必然的にどこを削り、その分どこを手厚くするのかという再配分の議論が必要となってくるわけですが、問題はこうした取り上げる側のロジックが取り上げられる側の住民に受け入れられるのかということですよね。

前回までに書いた分以降の目立ったニュースとしてもこんなものがありますが、今回の議場での状況を見ても知事の言うほど周囲は計画を称讚しているようには見えないというところでしょうか。

「いい計画」知事自賛 岩手県立病院無床化(2009年02月20日河北新報)

 県立病院・地域診療センターの無床化を含む岩手県医療局の「新しい経営計画」について、達増拓也知事は19日の定例会見で、「県民の健康と命を守るいい計画ができた」と自賛した。県議の過半数が計画の4月実施凍結を求め、病院事業会計当初予算案否決の可能性も取りざたされていることには「非合理的な結論にはならないと期待する」とけん制した。

 達増知事は「医師不足を中心とする医療崩壊に直面する中、県立病院を立て直す計画ができた」と強調した。
 住民の反対については、入院ベッドを廃止ではなく、休止扱いとしたことなどを挙げ、「かなり地元の声を反映した内容になった」と主張。医療局と市町村が情報交換を行う場を設けることにも「県民の理解を深め、効果的な地域医療体制をつくれる形になった」と評価した。一方で、計画の凍結を求める県議らの動きには「勤務医に無理を続けろと言うのは、(診療所に医師を派遣している)中核病院の医師を減らしても構わないということと同意義だ」などと批判のトーンを強めた。

 その上で「県議会は岩手の医療崩壊を加速させたり、県民の利益を大きく損なうなどの結論は出さないだろうと期待している」と述べた。
 達増知事は19日開会した県議会2月定例会の所信表明では「医師の養成・確保に全力を注ぐ」「公立病院の再編・ネットワーク化を推進する」などと語ったものの、無床化計画に踏み込む場面はなかった。

病院「無床化」知事自賛 住民ら県庁前で凍結訴え(2009年2月20日読売新聞)

 県立6医療施設の入院用ベッドを廃止する「無床化」を盛り込んだ県立病院の経営計画が19日、庁内手続きを終えて正式決定した。達増知事は同日の記者会見で、「県民の命と健康を守るいい計画ができた」と自賛したが、地元住民グループは計画の見直しを求めて県庁前で街頭活動を行うなど反発を強めている。新年度予算案が審議される県議会もこの日開会。4月からの無床化実施を前提にした県立病院会計予算案も提出された。

 達増知事は、県立6医療施設を無床化し、入院患者の受け入れ中止を決めた県立病院の経営計画について、「医療崩壊の危機に直面する中で、県立病院の体制を立て直しながら、県民の命と健康を守っていくためのいい計画ができたと思う」と述べた。

 地元説明会などでの要望を受け、〈1〉夜間・休日に看護師の当直を置く〈2〉地域との協議の場を継続する――など今月10日に公表した最終案に新たに4項目を追加したことをあげ、「地域と調整しながら、県民にとって最大限、効果的な地域医療体制を作っていける形になって良かった」と満足した様子を見せた。
 2月県議会の焦点となる県立病院等事業会計予算案の審議については、「きちんとした議論がなされれば、非合理的な結論にはならないのではと期待している」との見通しを示した。
 経営計画は同日午前、県医療局の田村均次局長が決裁し、正式決定した。

 一方、無床化に反対する住民約70人はこの日、県議会の開会を控え、県庁前に横断幕を掲げて、計画の凍結を求めるチラシを配布。「県地域医療を守る住民組織連絡会」の及川剛代表(73)は、「私たちには身近な医療機関が必要。無床化によって、救われるはずの命も切り捨てられる」と訴えた。その後、住民たちは、県議会の本会議場に移動し、知事の所信表明演説に聞き入った。

無床化めぐり緊迫 県議会2月定例会開会(2009年2月20日岩手日報)

 19日開会した県議会2月定例会は、県立6医療施設の無床化に関連する2009年度一般会計当初予算案や県立病院等事業会計予算案への各会派の対応が焦点となる。無床化を盛り込んだ県医療局の新経営計画は議会の議決案件ではないが、県議会(定数48、欠員1)は最大会派の民主・県民会議(21人)を除く26人が計画の「一時凍結」を求めており、一部から予算案の否決論も出ている。県側の進め方に批判を強める地域の声がある一方、県立病院の相次ぐ医師退職など医療崩壊は進んでおり、県議会の対応を県民は注視している。

 県立6医療施設の無床化に直接関係するのは09年度県立病院等事業会計予算案。無床化に関連し、県立病院の空きベッドを介護保険施設として活用する市町村に対する交付金制度は09年度一般会計当初予算案に計上された。

一連の報道を見ていて思うのはこの達増知事という人物、良く言えば自分に自信を持っていて信念が強い、普通に言えば回りを見回すより前に突っ走っちゃうタイプなのかなと言う印象を受けるのですが、地元の人から見るとどうなんでしょうかね?
知事自身がじっくり関係者と合意形成をしてからと言うよりはかなり独走モードに入っていることが色々と反発を受けているだろうことは想像に難くないところですが、この場合むしろ気になるのはその周囲の論調でしょうか。

報道あるいはブログ等での発信者を通じて垣間見えるのは、たとえば単純に「今ある医療資源を取り上げられるのには断固反対」という根強い住民の声であったり、あるいは「県政の無駄を省けば医者を呼ぶ金くらい出せるはずだ」という一見して正論であったりする。
ただ自分が注目するのは、医療需要に対する供給過少という全国的な現象が今後も当分続くだろうと見られる中で、今回の岩手での再編計画は地域内での需要と供給の均衡を目指した需要削減策と言うものが本格的に含まれていたケースであったと言うことです。

全国どこでも医師不足の中で「うちはこれだけの金を出して医師を優遇します!」と言えば確かに医師は集まるかも知れない、けれどもその結果今まで以上の医師不足に陥るだろう地域も必ず出てくるのは道理ですよね。
ろくな待遇も用意できないようなところは医者が逃げ出して当然だという話もまた大事な論点の一つなのですが(ちなみに管理人はそういう話が大好きです)、ここで強調しておきたいのは限りある医療資源を奪い合うという現象が既に現実のものとなっているということです。
短期的にみると医療資源の流動化に伴って給与が上がったりといった待遇改善は急速に進むかも知れない、しかし幾らなんでも一部プロスポーツ選手のような天井知らずの上昇というのは考えにくいし、何より医師というオタクな専門技能集団がそうした金だけの問題でいつまでも操られないだろうとすれば、金銭的優遇を超えた次の段階で医者達に大きなアピールを出来る要因とは何かということですよね。

例えば今後知事の計画が反対多数で中止となったとして、代わりに厳しい県財政からそれなりの大金を捻出して医師給与の大幅な改善にあてた結果大勢の医者が県内に集まるようになった、これで万々歳と言うことに果たしてなるのでしょうか。
「羮に懲りて膾を吹く」と言う言葉がありますが、今回の経緯を通じて事が人の命に関わる医療という問題に関する限り要求水準を切り下げるなどトンでもない、今以上の水準を要求することこそ絶対的な正義だと言う認識が県民の間に定着してしまったとしたら、今後二度とこうした縮小均衡政策を実施する機会はなくなるかも知れませんね。
三千万も出せば確かに大学の助教授クラスが飛んでくるのかも知れませんが、医療に対しては何一つ妥協する必要などないのだという確固たる認識をもった住民達が大挙して押し寄せてくる病院というものを目の当たりにした場合に、本当の意味で医師達がそこに根付く気になるのかどうか…それこそ「杞憂」で終わればそれに越したことはない話ですが。

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コメント

要するに、ヒマな有床診療所に当直も含めて複数の医師が縛り付けられるせいで病院勤務医の過労状態が悪化し、医師が逃げ出してきてるので、無床化して医師全体にそれなりにちゃんと働いてもらうことで過労状態を改善し、医師に残ってもらおうという政策のはずなのにね。

たまにしか医者にはかからないが、必要な時には30分以内に行けないと困る、とか、入院もすぐ近くでないと嫌だ、とかいう欲求を満たすために医師の負担がすごく増えてるんだな、という発想にならないのがやはり小沢王国なのかね。

投稿: | 2009年3月 7日 (土) 12時27分

報道の問題もあると思います。
「お年寄りがこんなに時間をかけて通院」とか「小さな子供が熱を出してもすぐに
診てもらえないなんて」とかの視点で報道されると行政側は悪者です。
数少ない医療資源の有効利用を有無を言わさず進めようとしてるんでしょうが、
如何せん「地元住民」に理屈は通用しないので感情論に負ける気配濃厚ですね。
冷静に考えれば何処でも医師不足の中、医療資源の再編で少しでも医療の集約化を
しない限り医療崩壊のスピードは増すばかりなのですが。

投稿: 通りすがり | 2009年3月 7日 (土) 14時10分

 現状の有床診療所だって、しょせん重傷者には対応できないことは、無床化反対派の人自身も認めていたようでしたけど。
ttp://s04.megalodon.jp/2009-0207-1201-09/mainichi.jp/area/iwate/news/20090207ddlk03040105000c.html
「無床化によって、救われるはずの命も切り捨てられる」って、どんな命なんでしょう?

 あくまでも、これまでの報道を見ていての印象なんですけれど、ベッドを残してほしい本当の理由は、「療養入院しているじいちゃん・ばあちゃんの見舞いに行くのに遠くちゃ大変。」とか「じいちゃん・ばあちゃんが亡くなるときに、駆けつけるのに遠くちゃ大変。」だとしか思えないんですよね。私は、この数ヶ月で岩手の人たちへの同情をすっかり無くしてしまいました。

投稿: | 2009年3月 7日 (土) 17時26分

各紙の報道や2chなどの論調も見ていますが、この件に関しては立場によってすごく見方が違っていて興味深いですね。
利益の相反する当事者や外野の声が交錯して訳がわからなくなってしまっている場合は、まず現場で汗水垂らして働いている当事者の声に耳を傾けてみるというのが大原則だと思うのですが、労働者の味方を自称するのが好きなどこのマスコミもあんまり現場の医療従事者の声を取り上げようとはしないんですね(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2009年3月 9日 (月) 13時15分

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