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2009年3月28日 (土)

医療行政におけるアメとムチ?

年度末ということもあってか、医療行政絡みの話題が幾つも出てきています。
今の時代にあってはひと頃のような医療バッシング全盛期とは世間の空気も異なってきているようにも言いますが、そうは言っても高邁な医療の将来像を掲げる政府・厚労省のことですからアメばかりしゃぶらせてもらえるはずもありません。
未だに医者など生かさず殺さず、ムチをふるってでも働かせればよいと考えているなら、そろそろ医者も耐性が身についてきていることを学んでもいい時期だとは思うんですけどね。

医師偏在問題 国研究班が提言(2009念3月25日NHKニュース)

医師が特定の診療科や一部の病院に偏るなどして医師不足の問題が深刻になっていることから、厚生労働省の研究班は、医師が専門の診療科を自由に選べる現状を見直し、診療科ごとに必要な医師の数を割り出して計画的に育てていくべきだとする提言をまとめました。

この提言は、国民が安心して医療を受けられる体制を作ろうと、厚生労働省が設置した研究班が25日に開いた会合でまとめたものです。医療現場では、一部の診療科や病院に医師が偏る「偏在」が問題となっていて、産科や小児科、救急などの診療科や、地方の病院などで必要な数の医師を確保できない深刻な医師不足の状態が続いています。研究班では、医師の数を増やすだけではこうした問題は解決しないとして、専門の診療科を自由に選べる現状を見直し、国民のニーズにあった新たな仕組み作りを検討していました。
25日にまとまった提言では、患者の数や手術件数といった医療のニーズを基に、診療科ごとに必要な医師の数を割り出し、新たに育てる医師の数を決める第三者機関を設置するよう求めています。
また、日ごろの健康を管理したり、軽い症状の病気を幅広く診たりする医師を新たに「家庭医」として認証し、高度な医療を提供する「専門医」と役割分担して、地域医療の体制を充実させるとしています。
研究班の班長で国立がんセンター中央病院の土屋了介院長は「国民の安心につながるよう、計画的に医師を育てる仕組みを早急に実現する必要がある」と話しています。
一方、診療科ごとに医師の数を決める方法については、医師の意欲をそぎ、逆に医療の質の低下を招くおそれがあるとして反対の意見もあり、厚生労働省は、提言をどう具体化するか慎重に検討することにしています。

いや、「医療現場では、一部の診療科や病院に医師が偏る「偏在」が問題となっていて」なんてさらっと書いてますけど、どこも等しく人手不足な状況で現場では偏在なんてちっとも問題になってはいないんですけれども…
そもそもこういう医療の現状で必要な医師数を積み上げて行くととんでもない総数になりかねないという危惧があるわけですが、現有医師数+養成医師数の総数との乖離をどう対処するのかという疑問が残りますね。
現状で不足している診療科を当面手厚くと言うことになれば、新卒医師は片っ端からラーゲリ送りなんて惨状も予想できてしまうところではあるのですが、一方で平等に薄く広く分散配置したところで何も解決するようにも思えませんしね。
ちなみに同じ話ですが、別ソースではこんな感じの報道になっています。

卒後医学教育の独立機関設立目指す-厚労省研究班(2009念3月25日キャリアブレイン)

 「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究班」(班長=土屋了介・国立がんセンター中央病院長)は3月25日、東京都中央区で第11回班会議を開催した。この日は最終回で、厚生労働省に提出される報告書の骨子案が示された。骨子案には、卒後医学教育の独立機関「卒後医学教育認定機構(仮称)」の構想が盛り込まれている。

 骨子案によると、欧米には、専門医認定基準の認定や医療需要の見極め、資源の分配、研修医・医療の配分のコントロールなどを行う独立機関が存在するが、日本には該当する組織がないとしている。土屋班長は、「卒後医学教育認定機構(仮称)」のような独立機関がコントロールを行う必要があると述べた。
 また、独立機関の役割として、卒後教育の評価、評価認定者(サーベイヤー)の養成、調査・研究開発、卒後教育プログラムの適正運営などを挙げている。

 土屋班長は、これまでも認定機関についての提案はあったが、話し合いは医療関係者のみに限られたと説明。新たな独立機関では、国民の視点に立った研修を目指すほか、設備や教育担当者の確保などにも費用が必要なことから、医療機関や医師会、勤務医、医学生といった関係者の枠を超え、厚生労働省や文部科学省のほか、内閣府や財務省などの官公庁や地方公共団体などとも話し合いたいとしている。
 また、機関が軌道に乗るには5年は必要とみており、「卒業後もしっかりと医師の面倒を見ることができるシステムをつくりたい」と述べた。

 研究班は年度内に報告書をまとめ、4月上旬には厚生労働省厚生科学課長に提出する予定。研究班は一応解散となるが、土屋班長は報告書の作成だけでは終わらせないとし、「4月以降は卒後教育の独立機関の設立に突き進みたい」と意欲を示し、引き続き班員に協力を求めた。

なにかこう見てみますと、医師派遣を担ってきた大学が管轄の文科省と大学から医師派遣を受けてきた自治体病院が管轄の総務省、そしてその間に割って入り大学に代わって医師配分に関与しようとしている厚労省との勢力争い勃発という気もしないでもないんですが。
しかしそれら各省庁のいずれにおいても最大の当事者たる医師の立場というものは単に数字合わせの対象でしかないということなのでしょうかね。
いずれにしても新たなセレクションが発生するわけですから、これからの時代卒業試験の成績が悪い順に一番負けは産科、二番負けは救急なんて割り振られていって、金時計組になると基礎研究一直線とか言った話になるんでしょうか。

医者の側もただ黙って好き放題されているお人好しばかりというわけではありません。
先日も少しばかり書きました臨床研修制度見直し問題と絡めて、厚労省は研修医に対してもこれまで以上の強力な縛りをかけようとしてきています。

ごく大雑把に言えば研修医募集枠を大幅に制限することで研修医を高く売りつけて恩を売り、その代償として研修病院から中堅スタッフを地域医療などに供出させようという話のようで、既に例によってアリバイ作りのためのパブコメ募集(苦笑)などもひっそりと行われていたりします。
ひと頃叫ばれた「研修医を強制的に僻地送りに」なんて話と比べると「研修医は安価な労働力ではない」という新臨床研修制度発足当初のタテマエは守っているかに見える話ですが、研修医は病院というハコではなく先輩医師によって学ぶわけですから、こんなことを実行すればずいぶんとおかしな話になるだろうことは誰にでも判ることですよね。

676 名前:卵の名無しさん[sage] 投稿日:2009/03/04(水) 12:54:51 ID:q6tTUY4t0
>>668
> 指導医もいないところに、指導を受けに行けとは、
> 糞役人は、やはり思考が狂っている。
「患者様が教科書だ」と主張する役人か医師がでてこないかな?
そして、プロ市民が「研修医の人体実験にするつもりか?」といってくれると
観戦しているものにとっては楽しいのだが。

そんな危惧を抱くのは当の研修医となるべき学生達にとっても同じ事のようで、早速学生団体からは反対声明が出ています。

「募集定員設定の撤回を」―医学生の会が声明(2009年3月3日CBニュース)

 医学生ら214人でつくる「医師のキャリアパスを考える医学生の会」はこのほど、都道府県別募集定員の上限と病院別募集定員の設定撤回を求める声明文を発表した。

 声明文は2月27日付。都道府県別募集定員の上限と、病院別募集定員の設定は、「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」が2月18日にまとめた最終報告の中で打ち出した。同会は、これに対し、教育体制の整わない病院にも未熟な医師を強制配置することで、医療の質の低下を招くと指摘した上で、「絶対に容認できない」と主張。卒後数年間に充実した教育を受け経験を積むことが、将来優秀な医師となるためには重要だと訴え、「医師不足問題」と「医師の教育」は切り離して扱うべきと指摘している。
 また、研修病院間の研修医の偏在については、「現在の制度下で公開されている情報を基に医学生が教育環境の整っていると考える病院を選んだ結果、都会・地方にかかわらず教育に力を入れている病院に研修医が集まった」として、国の介入は研修医から良い教育を受ける機会を奪うものだと批判。その上で、都道府県別募集定員の上限と病院別募集定員の設定の撤回を要望している。

 3月2日には、厚生労働省の医道審議会医師分科会医師臨床研修部会で、設定のための計算式などが盛り込まれた厚労省案が大筋で了承された。同省は3月中旬にも国民に意見を求め、その結果を次回の部会で報告した後、2010年度の制度導入に向けた省令改正などの手続きに入る予定。

 同会は、声明文を既に国会議員などに送付しており、今後は、国が目指す医師の計画配置に反対する署名活動を行う方針だ。

こういった学生の声明というものをどう考えるべきなんでしょうか?
今の時代の学生というのは情報収集能力に長けていますし、現役医師以上に物事を考える暇もあり、何より昔のような妙な洗脳を受けていない分視野が広がっています。
特にこういう独自団体を作り上げちゃうような連中は決して世間知らずのお馬鹿ではなくて、むしろ必要以上に(笑)世間ズレしちゃってるようなタイプが多いものです。
そうした視点から見つめ直してみますと、「国の介入は研修医から良い教育を受ける機会を奪うもの」なんていかにも正論的発言は、国の思惑や世論の動向も見極めた上でのそれなりに計算高い発言なんじゃないかなという深読みも出来そうに思いますね。

優秀な医師になるために必要なのは制度がどうとか言う問題ではないし、どんな制度であれモノになる医師とは自ら考え学ぶという態度を身につけていなければならないのは当然、であるからこそ制度論にかまけている暇があるならさっさと手を動かし汗を流して本質を学べ…なんてあたりが、恐らく少し以前までの「まともな指導医」の考え方でしょうか。
確かに医療現場における有能な専門職を養成する上でそうした考え方は今でも有力ではあるのですが、現代における医師という職業は既に汗水垂らして働けばよいという兵隊であるのみならず、言ってみれば専門職を指揮管理する将校であり、医療全般を統括する司令塔ですからね。
そうした意味では目の前の仕事を的確にクリアしていけるスキルがあればよしとする態度は今の時代にあっては少し視野が狭いし、某総理の言うように医者というものももう少し世間並みに常識を学んでいかなければならないというのが社会的要求とされる時代になってきたと言うことです。

いささか脱線しましたが、こうしたムチに対してアメにも相当するのがこちらの話題ということになるのでしょうが、しかしよく見てみれば必ずしもアメとばかりも言い切れないような話でもあるようです。

財政再建、新目標が課題に=社会保障費抑制を転換-与謝野財務相(2009年3月26日時事通信)

 与謝野馨財務・金融・経済財政相は26日、2006年の「骨太の方針」が定めた社会保障費抑制の転換を明言した。この方針は11年度までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化する政府の財政再建目標の大前提だった。今夏の骨太方針策定や10年度以降の予算編成に当たっては、社会保障制度のほころびや経済情勢の悪化を踏まえた新目標の設定が大きな課題となりそうだ。
 「骨太06」は基礎収支黒字化に必要な財源を捻出(ねんしゅつ)するため、07-11年の5年間で国の社会保障費を自然増分から計1.1兆円(年当たり 2200億円)抑制すると定めた。これに対し、社会保障費抑制が医療現場の崩壊につながっているとの批判が与野党を問わず噴出。与謝野氏は同日午前の参院予算委員会で、方針撤回を求めた民主党の蓮紡氏に「おのずとそういう方向になる」と路線転換を初めて認めた。 

国民全てが等しく関わる業界で多大な需要があり、さらにこれだけ人手不足も顕著とくれば医療・介護業界こそこの不景気の時期に何より望まれる超成長産業だと思うんですけどね。
そうした点で医療費抑制政策転換とはそれなりのニュースではあるのですが、ここでは医療現場の崩壊なるものと現場スタッフの志気喪失というものとは明確に分けて考えるべきでしょうね。

ひと頃から医師の逃散相次ぐ産科・小児科に対して診療報酬を手厚くしようなんて事が言われ始めましたが、診療報酬と言うものはあくまで医療機関に対して支払われるものであって、過酷な勤務状況にあえぐ勤務医の手に渡る保証などどこにもないわけです。
医療機関の整理、統廃合を画策する厚労省によって医師の集約化が進み、結果として医師の勤務状況に変化が生じるかも知れませんが、それと医療機関の赤字問題とはまた別問題ですよね。
そして医療機関が救われようが現場を支える医師らスタッフの心が折れてしまったという状況が改善できなければ、いくら診療報酬を増やしたところで意味がない話です。

実際問題として医療現場がどういうところなのかと言えば、先日も取り上げましたように県立病院で金がなくなったと言っては医師の当直費を支払わないなんて話が出たりする。
幸いにも何とか支払いの目処は立ったようですが、今の時代の医療機関が生き残れるかどうかの当落線はモチベーションの高い医師を確保できるかどうかで決まるという当たり前の常識があればこういう話はそうそう出てくるはずもないわけです。
「いくら医者を増やしたところで使い方が間違っていれば意味がない」とは厚労省の言い分ですが、同様に幾らお金を出したところで使い方が間違っていれば意味がない、そして何故か巨額医療費投入のツケだけは「この不景気であえぐ世相を他所に医者はこんなにも暴利を!」なんてことを言われてきっちり取り立てられそうな悪寒というのは考えすぎでしょうか(苦笑)。

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コメント

「新たに育てる医師の数を決める第三者機関」
「卒後医学教育の独立機関「卒後医学教育認定機構(仮称)」の構想」

また天下り組織を作るんですね。

大学が医者を育ててた時代は、多少の診療科による過不足はあっても、偏在もなく、曲がりなりにも安定した医療が提供されてたんですが、それを奪おうとしてこの結果なんですよね。
で、いじればいじるほどおかしくなってきてるという現状を全く理解していないかのように天下り団体だけが増えていく。
現場医師を無視した組織をどれだけつくろうと、絶対にうまくいかないでしょうね。

投稿: Seisan | 2009年3月28日 (土) 10時52分

>「4月以降は卒後教育の独立機関の設立に突き進みたい」と意欲を示し、引き続き班員に協力を求めた。

土屋班長の天下りにかける気合がひしひしと伝わる、素敵なコメントですねw

投稿: | 2009年3月28日 (土) 14時47分

この手の取りあえず新団体を作るところから話が始まるというのはもう勘弁してもらいたいところですけどね。

投稿: 管理人nobu | 2009年3月30日 (月) 13時22分

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