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2009年3月25日 (水)

レセプトオンライン請求義務化は先送りの方針

少し前に、ひっそりとこんな記事が出ていたのをご記憶の方も多いんじゃないかと思います。

レセプト電子化撤回求め、医師・歯科医783人追加提訴(2009年3月18日朝日新聞)

 11年度から原則義務化される診療報酬明細書(レセプト)のオンライン化をめぐり、全国の医師らが国を相手取り、従う義務の不存在確認などを求めている訴訟で、新たに43都道府県の医師・歯科医師783人が18日、横浜地裁に提訴した。1月に続く追加提訴で、集団訴訟の原告は45都道府県の計1744人になった。

 訴状によると、原告側は、オンライン化に伴って新たにコンピューターの購入が必要になるなど開業医の負担が増し、廃業に追い込まれる可能性があるなどと主張。「(医師の廃業は)国民の生存権につながり、営業の自由にとどまらない重要性がある」などと違憲性を訴えており、義務の不存在確認のほか、1人あたり110万円の損害賠償の支払いを求めている。

御存知のように保険診療において医療機関は窓口で被保険者である患者から受診料の一部である自己負担分のみを受け取り、残りは保険者に請求し支払いを受けるというシステムになっています。
この時に提出する診療内容の明細がレセプトと呼ばれるものですが、厚労省が法律にも基づかずに省令によってこのオンライン化を義務づけようとしていること、そしてそれに対して一部医師が訴訟沙汰に及んでいることは以前にも書きました通りです。
今回更に大勢の原告が加わったということですが、こうまで一部医師の反発を招いているという状況から厚労省が当初の方針を変更しつつあるようなのですね。

診療報酬:オンライン請求延期も 衆院選控え自民慎重姿勢(2009年3月18日毎日新聞)

 医師が治療費を請求するレセプト(診療報酬明細書)について、2011年4月からオンラインでしか認めないとした政府方針が揺らいでいる。日本医師会などが反発し、衆院選での日医の支持をもくろむ自民党が同調し始めたからだ。1月には35都府県の医師が義務化撤回を求め提訴する騒ぎも起きており、2年後に迫った完全オンライン化は先送りの可能性が出ている。

 医療機関は審査機関を通じてレセプトを保険運営者に提出し、報酬を請求する。オンライン請求なら不正請求やミスを発見しやすく、事務経費削減による医療費抑制も可能となるが、現在オンライン化しているのは病院の29%、開業医の3.2%にとどまる。

 そこで政府は06年4月、オンライン請求を段階的に義務化する方針を決めた。既に08年度から大規模病院で始めたほか、10年度には専用機器導入済みの開業医、11年度からは全医療機関に広げる。

 しかし、高齢の医師には機器の操作が難しい面があるうえ、設備費数百万円を自己負担する必要がある。厚生労働省は零細診療所には2年の猶予を設けるほか、代行機関による請求も認めるが、約1万4000医療機関を対象とした全国保険医団体連合会の調査には、医師の12.2%が「義務化されれば閉院する」と答えた。日医も「患者に利点はなく、医師不足に拍車をかける」と批判している。

 自民党も慎重姿勢に転じた。先月27日の同党医療委員会では「希望者だけにすればいい」といった声が相次ぎ、11年度からの完全移行を求める意見はなかった。

オンライン請求の免除拡大か 零細診療所のレセプト(2009年3月20日47ニュース)

 与党は19日、2011年4月から全国すべての医療機関にインターネットを利用したレセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求を原則的に義務づける政府方針を緩和し、請求件数が少ない小規模診療所や高齢の開業医については免除する方向で検討に入った。

 現在の方針でも13年3月末までの2年間、1カ月当たりのレセプト請求件数が100枚以下の医療機関(歯科は50件以下)は例外的に免除されているが、与党は例外対象の拡大を視野に入れる。

 ただ、義務化は規制改革の重点計画事項として07年に閣議決定されており、政府の規制改革会議メンバーは「改革の後退だ」と反発。政府、与党間で今後、調整が本格化するとみられる。

 オンライン請求の完全義務化には、日本医師会や日本歯科医師会などが「廃業する医師が増え、地域医療の崩壊に拍車がかかる」として撤回を強く要求しており、総選挙を控え自民党内で同調する声が高まっていた。

レセプト電子請求「地域医療に配慮」明記 政府改定案(2009年3月24日日経ネット)

 政府の規制改革推進3カ年計画(2007―09年度)の改定案が23日、明らかになった。レセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求については従来通り、11年4月からの完全義務化を原則としながらも、自民党側の求めに応じて「地域医療の崩壊を招くことのないよう配慮」との文言を追加した。例外を認めやすくする表現で、既定方針より後退した格好だ。24日の自民党部会に提示し、了承を得られれば月内に閣議決定する。

こうして改めて見てみますと、医師会などを初めとする一部の守旧的な抵抗勢力によって政府厚労省の高邁な理想が如何に歪められていくかということがおわかりでしょうか(苦笑)。

レセプト審査というものがいかに恣意的かついい加減なものであるかは以前にも取り上げてきたところではありますが、「オンライン請求なら不正請求やミスを発見しやすく、事務経費削減による医療費抑制も可能となる」とはどういうことでしょうか?
現状の恣意的な「不正請求」の指摘によって保険診療というものがどれほど歪められているかは人工透析患者に対する貧血治療薬使用に関わる「EPO訴訟」でも明らかになったところですが、恐ろしいことにこうした不当な査定が行われていた結果神奈川県では実際に透析患者の貧血は全国最低水準であったと言うことです。
「不正請求やミスを発見しやすく」なるとはつまり、ワンクリックでこうした足切りを簡単にできるようにするということなのかなとも勘ぐられるところではあるわけですね。

そして「事務経費削減による医療費抑制」といった話を聞きますと、自分としてはいつも電子カルテ導入の経緯を思い出さざるを得ません。
「事務経費削減による支出抑制」もうたい文句に導入された電子カルテですが、確かに事務員が行っていたコスト計算などの業務を医師や看護師にやらせるようになったわけですから事務員の業務量は大きく削減されたことでしょう。
ところが実際に電子カルテを全国公立病院などではどういうことが起こったかと言えば、仕事が減ったはずの事務員の数は一向に削減された気配がなくアフター5を謳歌している、一方で業務量が増加し効率が低下した現場医療スタッフは更なる過重労働を強いられた挙げ句、暇になった事務員から「医業収入が落ちているぞ!もっと働け!」と尻を叩かれる羽目になったわけです。

個人的意見としては多忙を極める医療環境が効率化することは良いことであるし、そのための道具として電子化が使えるということであるなら大いに利用すればいいと考えているのですが、電子カルテに見られるように肝心の医療がかえって非効率になってしまうような見当外れの効率化など電カル業者を喜ばせるだけで全く意味がないことだと言うことです。
オンライン請求を義務化するなら少なくとも全国の医療機関にオンライン請求のためのシステムを導入する経費が幾ら、そしてそれによって削減される事務経費と関係職員数が幾らという実際の数字を出して語ってもらわなければならないし、何より現在進行形で崩壊しつつある医療現場にわざわざこのタイミングで後方から余計な負担を転嫁するだけの説得力があるのかということですね。

そんなこんなで「幾らなんでもあまりに胡散臭すぎる話じゃないか?これはまたぞろ巨額の利権絡みか?」などと邪推しながら経過を見ているところなのですが、面白いことにこういう話でも額面通りに受け取っておられる方々も結構いらっしゃるようなんですね。
あるいは何らかの意図を持ってそう受け取らせようと努力されているということなのかも知れませんが、レセプト電子化からこんなバラ色の未来絵図が描き出されるということであるなら、それは確かに世の詐欺師の皆さんも儲かるんだろうなあと言う気もしないでもありません。

【正論】政策研究大学院大学教授・大田弘子 医療費効率化の骨抜き許すな(2009年3月24日産経新聞)

 ≪大臣在任中から取り組む≫

 超高齢化が進む日本で、医療の質を高めながら、できる限り医療費負担の伸びをおさえていくことは、最重要課題のひとつだ。

 経済財政担当の大臣在任中から、医療費をどうするかはたいへん難しい問題だった。“骨太方針2006” で社会保障費の伸びを抑制することが決められていたから、国会でも批判の矢面に立った。たしかに産科・小児科を中心に医師不足は深刻な問題になっているし、勤務医の待遇も過酷だ。医療が本来果たすはずの役割を損なってまで、歳出を減らすべきだとは、私とてまったく思わない。

 しかし、だからといって、いまの医療にムダがなく、効率化の必要性がないとは決して言えない。いわゆる“薬漬け、検査漬け”の問題は、いまだに解決されていない。かかりつけ医と、高度な病院との分担・連携もとれていない。1人当たりの高齢者医療費は、一番低い長野県と一番高い福岡県とで1・5倍もの差がある。

 必要な医療費を増やすことには私を含めて多くの国民が賛成するだろうが、だからといって、いまのまま医療費が増え続け、負担が増加することに無条件で賛成、という人は少ないはずだ。

 医療制度がきわめて大事だからこそ、効率化の努力を怠らず、高齢化に耐える制度にしていかねばならない。“骨太方針2008”では、社会保障費の伸びを抑制するものの、必要な医療費は、道路財源など他の歳出を削減して捻出(ねんしゅつ)することを取り決めた。

 しかし、いま効率化のために一番大切なことが、骨抜きにされようとしている。それは、診療報酬の明細書(レセプトとよぶ)の電子化である。

 ≪診療報酬明細の電子化を≫

 医師は、患者への治療や薬の代金をレセプトに記入して健康保険組合などの「保険者」に請求する。それを審査機関がチェックして、医療保険から診療費が支払われる。このレセプトは、手書きや印字で作成された「紙」で提出されてきたが、年間16・6億枚もの紙レセプトを処理するには、多大な費用がかかる。1枚につき114円(健保組合・医科の場合)が、保険者から審査機関に支払われているが、このお金は私たちが払った保険料から出される。

 費用の問題だけではない。紙レセプトが電子レセプトに変わり、オンラインで請求されることで、治療や投薬のデータはIT上で分析される。これによって、検査が重複したケースや、複数の病院にかかって薬が過剰に投与されたケースが明らかになる。もちろん、不正請求の防止にもなる。医療情報が蓄積されることで、標準的な治療法の確立など、データに基づいた根拠ある政策につながる。

医療の質を下げずに医療費負担の増大を抑えていくうえで、レセプトの電子化は何より大切であり、これなしに効率化の糸口はないとすら言える。

 だからこそ、さまざまな反対を乗り越えてレセプトの電子化が徐々に進み、平成23年度から診療所や歯科を含めて、完全に電子レセプトのオンライン請求を義務づけることが閣議決定された。しかしここへきて、医師会や歯科医師会を中心に猛烈な反対が起こり、レセプト電子化の義務づけをやめたり、平成23年度の期限が先送りされたりする可能性が出てきた。私はこのことに、大きな危機感をいだいている。

 医師会は地元の国会議員に賛否を問う質問状を送付し、回答は一覧表にして、所属政党の政策責任者や全国各地の医師会に送付するという。

 ≪保険料負担者の立場で≫

 反対の最大の理由は、オンライン機器の導入など負担が増えることや、IT化に対応できない医師が多いことである。しかし、それなら補助金を増やせばいい。

 導入に対して税制上の支援や低利融資があるが、それで不足だというなら、拡大すればいい。補助金が一時的に増えても、電子化による効率化のほうが、メリットははるかに大きい。IT化に対応できない医師には、代行の仕組みを整えればいい。僻地(へきち)や離島など特別の理由で対応が難しい場合は、一時的な猶予を認めて策を講ずればいい。

 そもそもITへの対応は、他の業界でも楽だったわけではない。それでも民間企業は、生き残りをかけて新技術に懸命に対応してきた。ましてや、医療は保険料という半ば強制的に集められたお金を使っている。他の業界より効率化の努力をしても当然ではないか。なぜ医療においてだけ、私たちはIT化のメリットを享受できないのか。お隣の韓国は、1996年から10年かけて、オンライン化100%を達成している。

 ここで閣議決定をくつがえし、レセプトの電子化を骨抜きにすることがあってはならない。政府・与党は、徹底して保険料負担者の立場に立ち、レセプトの電子化を進めるべきである。

 また、医師会の質問状に対する国会議員の回答一覧表は、マスコミを通して、ぜひ私たちに開示してほしい。

何事にも公益というものがあるでしょうから、リスクとベネフィットを考慮してそれが最も有効かつ早急に行うべき方策だと言うことであれば、現場が何をどう言おうが強権でもって進めるべきでしょう。
そうした公益を考慮する上でも、まずは空想の世界ではなく現実的なデータに基づいての議論をすべきだと思いますね。

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コメント

>反対の最大の理由は、オンライン機器の導入など負担が増えることや、IT化に対応できない医師が多いことである。しかし、それなら補助金を増やせばいい。

この人は大きな勘違いをしていますね。
現在医療機関に対しては、オンライン導入に際しビタ一文補助金は出ていません。
補助金を受け取っているのは審査支払機関の方です。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/170/touh/t170080.htm
先に見直すべきは、ご自身でも指摘しておられますが、「1枚につき114円(健保組合・医科の場合)が、保険者から審査機関に支払われている」という両者の関係ではないでしょうか?

投稿: orz | 2009年3月25日 (水) 11時37分

この大田さんって大臣時代、無能で有名だったヒトでしょ?

投稿: | 2009年3月25日 (水) 15時48分

レセプトのオンライン化にともなって、保険者が直接査定するなどが可能になるはずで、本来審査機関を縮小・廃止する、という話になるのが筋だろうと考えます。そうしてこそ、「医療費削減」(単純計算で、審査料がなくなるだけで1900億円の医療費が減らせます)につながるはずです。
なのに現実には、審査機関には高額の補助金が支払われ、天下り役員は続々と増え、あまつさえ、政管健保を協会健保と名前を変えることで社保庁をあぶれた人員まで吸収し、焼け太りになっています。そして、審査料を減らすという話は全く出ていません。

要するにオンライン化で開業医のそれでなくても減少傾向を続ける収入をさらに奪い取り、さらにはコンピューター審査による「不正請求防止」などというお題目のもと一方的な診療報酬カットを図って医療費を削減したいだけだ、という意図が透けて見えるわけです。

オンライン化によるコストダウンが最もされるであろうところが放置されて、最もされないであろう現場にすべてのコストを押し付ける。これのどこが「コストダウン」なのでしょうか。
ただ単に「患者に対して行った医療に対する正当な報酬」を難癖をつけてけちりたいだけのコストダウンにすぎないから、現場医師は反対しているのだ、ということがばれたら困るんでしょうね。

投稿: Seisan | 2009年3月25日 (水) 18時15分

誰でもちょっと考えれば胡散臭い話だなと感じるだろうに、何故かそうした事情について一切言及しないマスコミの報道姿勢というのも非常に面白いなとは思いますね。
こういう話は彼らが大好きそうなネタだと思うんですが、何かしらの取り上げたくない特殊事情でもあるんでしょうか(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2009年3月26日 (木) 10時07分

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