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2009年2月28日 (土)

福大病院で延命治療中止

既に多くのメディアで報道されていますが、福岡大学病院で救急医学会のガイドラインに従い延命治療を中止した事例が明らかになっています。
まずは第一報である下記の記事から紹介してみましょう。

福大病院 学会指針適用し延命中止 人工心肺60代男性 「尊厳死」論議に一石(2009年2月26日西日本新聞)

 福岡大学病院救命救急センター(福岡市城南区)は25日、呼吸不全で入院した60代の男性患者について、回復の見込みがなく死期が差し迫った時点で家族の希望を受け、人工心肺装置を止めて延命治療を中止した例が昨年あったことを明らかにした。男性は家族が立ち会うなか13分後に死亡が確認された。

 医療チームによる対応など延命治療の中止手続きを明記した日本救急医学会の終末期医療に関するガイドライン(指針)を適用した。2007年10月に策定された指針に基づく治療中止が明らかになったのは初めて。治る見込みがなく、死が避けられない患者の「尊厳死」をめぐる論議に一石を投じそうだ。

 同センターによると、男性は肺炎による急性呼吸不全で入院した。搬送時に意識はなく人工呼吸器だけでは対応できない重い低酸素状態だったため、呼吸器に加えて人工心肺装置を付けた。

 いったん容体は落ち着いたが数日後に再び呼吸状態が悪化、多臓器不全となり血圧の維持も厳しい状況が続いた。

 入院から約3週間後、男性の家族は、男性が以前「無理な延命はしないで」と話していたことから治療中止を希望した。

 この時点で、医療チームは男性の余命が長くても数日、場合によっては1日以内とみていた。

 センター長や医師、看護師ら約25人で対応を検討、指針に照らし延命治療を中止しても問題ないと判断した。家族全員に説明した上で同意書を取得し人工心肺装置を停止させた。呼吸器は外さなかった。診療録(カルテ)には一連の経緯を詳細に記録したという。

 患者の意思を尊重して無理な延命治療をしない「尊厳死」は、末期のがん患者などを含めて多くの医療機関が経験しているとされる。だが特定の医師や家族だけで判断すると、適切な措置だったのかという疑念が避けられない。このため、救急医学会だけでなく厚生労働省も07年5月「患者本人の意思を尊重した上で、医療・ケアチームで慎重に判断すべき」との指針をまとめている。

 ただ何をもって終末期とするかの定義はあいまいで、医師が殺人罪に問われる恐れもある。同センターの担当医も「国は医師が刑事責任を問われないよう法整備を急いでほしい」と話している。

本論とは全く関係ないんですが、「後で問題になるといけないからみんなで責任分散しちゃおう」ってのは何とも日本的な光景と言う気もしますね。
ちなみに記事中に登場する「救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)」と言うものの詳細はこちらになります。
救急医学会では平成19年に同ガイドラインを公表していますが、試案の段階で意見を公募したところ会員から138件、会員以外の医師・看護師・薬剤師ら医療関係32件、法曹関係7件、倫理学・宗教などの社会科学関係8件、自然科学関係2件、マスメディア関係5件、その他の一般の方々15件(計69件)の意見が寄せられたといいます(同学会HPより)。
どこまでこれらの意見が反映されたのかは判りませんが、かなり具体的に手順について記載されたマニュアルが存在するというのはこういう時には心強いものではありますね。

留意すべき点としてこの救急医学会のガイドラインは「救急医療における」避けがたい死を前提としたものであって、癌など慢性疾患の終末期に対してのものではないと言うことは同学会も強調しているところです。
この点から今回の事例を過度に一般化していわゆる尊厳死・安楽死論争と安易に絡めるのも少しどうかと思うのですが、今までこの種の事例が公になると言えば医師が殺人で書類送検されただのと言った話が多かっただけに検察等の今後の動きが注目されるところではありますよね。

さて、たまたまちょうどいいタイミングで救急医学会の延命治療中止に関するアンケートも出ていますので、まず記事から引用してみましょう。

延命治療中止「数十例」 救急医学会アンケート(2009年2月27日朝日新聞)

 日本救急医学会の特別委員会(委員長=有賀徹・昭和大教授)が07年10月につくった終末期医療に関するガイドライン(指針)に沿って、これまでに、治る見込みがないと判断された患者数十人の延命治療が中止された可能性があることが、救急医を対象にした同委員会のアンケートで分かった。中止を検討したことがある医師は96人に上る。

 救急医療では本人や家族の意思が分からないまま延命治療を続けるケースがある。現在の法制度では、治療してもすぐに死亡すると予測される場合であっても、医師が治療をやめれば刑事責任を問われかねない。そうした事情は指針ができた後も変わっておらず、調査結果は終末期医療の議論に影響を与えそうだ。

 指針は終末期について、「突然発症した重篤な疾病や不慮の事故などに対して、適切な医療にもかかわらず死が間近に迫っている状態」などと定義。(1)脳死などと診断された場合(2)人工呼吸器などに生命の維持を依存し、移植などの代替手段がない場合(3)治療を続けても数日以内に死亡することが予測される場合(4)回復不可能な病気の末期の場合――と分類し、本人の意思が明らかでなく、家族が判断できない場合は主治医を含む医療チームで延命治療を中止できる、などとした。

 こうした指針の普及ぶりを探ろうと、同委員会は昨夏、全国の救急医2700人余にアンケートをし、715人が回答した。

 延命治療中止のために指針を適用しようとした例が「あった」と答えたのは有効回答の13%に当たる96人。有賀委員長が回答の詳細を検討したところ、中止に至ったと見られるケースが数十例あった。有賀委員長は「複数の患者で中止を検討したと回答した医師もいた」と説明する。

 26日には、福岡大病院で指針に基づき、60代男性の人工心肺装置を止めて延命治療を停止した例があったことが明らかになった。同委員会が把握する数十例に含まれるとみられる。

 指針を適用しようとしたができなかった理由を13の項目から選んでもらったところ(複数回答)、「法的な問題が未解決」(75人)が最も多かった。「家族らの意見がまとまらなかった」などの答えも目立ち、判断の難しさが浮き彫りになった。同委員会は今春、指針の実施情報を集める仕組みを整え、問題点を掘り起こす方針。

繰り返すようですが救急医学会のガイドラインというものは救急医療における避けがたい死を目前にした場合の対応の話ですから、言葉は悪いですが結論がまとまらずともいずれ近い将来患者さんが亡くなるだろうことは半ば決まっています。
むしろ現場で困るのはある程度症状が安定している場合の取り扱いではないかと思うのですが、こちらは差し迫った命の危険がないわけですから過去の事例から判断すると殺人罪で書類送検と言うところまでは覚悟しておかなければならないのでしょうね。

以前にも少しばかり書きましたが、現状で延命処置中止と言うことになりますと何より法的問題、訴訟リスクというものを考えないではいられません。
おそらくは警察・検察も遺族の同意がきっちり取ってあれば積極的に事件化する気はないのだろうと推察するところなのですが、当面少なくともガイドラインや院内委員会等の判断に従い現場担当者だけが独走してしまうことのないようにしなければならないでしょう。
新しい標準治療法を常にアップデートすることなく昔ながらの治療にしがみついていた結果何かあれば責任を問われるのと同様に、こうした純然たる医療以外のリスクに関しても世間並みの水準と言うものを保てるよう日々学び心がけていなければならないということです。

患者・家族の側に延命処置中止に対する積極的なモチベーションでもあればまた違ってくるのでしょうが、幸いにしてと言うべきか日本の皆保険制度下にいる限りは医療費の患者自己負担分には限度と言うものがありますから、「先生もうこれ以上は勘弁してくれ。俺たちまで首吊りさせる気か」なんて話になることも考えがたいのが現状です。
また家族側にとっては「あそこの息子(娘)は親に精一杯のこともせずに死なせた」といった世間体というものも大きなファクターとなっているようで、「延命治療ですか。私は自然のままでいいと思うんですけど…」と言葉を濁される御家族は思いのほか多いものです。

今後こうした症例が積み重なり、ある程度世間も尊厳死・安楽死といったものに慣れてくれば「そういう道もあるんだな」という認識が一般化してくるかも知れませんし、もしかしたらそれ以前に医療財政上の要求から何らかの保険診療上の制約というものが出てくるのかも知れません。
この場合でも最終的には医療の話は素人には判らない他人事としてしまうのではなく、何よりも自分自身に関わることとして考えていこうという被医療者側の認識の問題になってくるのでしょうか。

医療が進歩した結果昔ほど人間が簡単には死なない時代となったわけですから、増え続ける寝たきり老人に対してどこまで医療を行っていくのかといった問題も含めて、日本人ももう一度自らの死生観を見つめ直してみる必要があるんじゃないですかね。

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