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2009年2月25日 (水)

救急医療の今昔 ~ それは医療のみの問題に非ず

昨日取り上げました前田氏クビの話題で厚労相のコメントが出ていましたが…舛添大臣、空気読んでくれと言いたいですね(苦笑)。

「民主党に説明責任」 中医協の国会同意人事で厚労相(2009年2月24日産経ニュース)

 舛添要一厚生労働相は24日午前の記者会見で、国会同意人事の中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関、中医協)委員1人が民主党など野党の反対で同意されず、再任できなかったことについて「民主党はどういう党内プロセスで決めているのか。国民に対する説明責任がある」と述べ、民主党に同意人事の検討過程を明らかにするよう求めた。そのうえで「国会同意人事を政争の具にすべきではない」と強調した。

 不同意となったのは前田雅英・首都大学東京都市教養学部長で、中医協では薬価専門部会の部会長を務めている。民主党は「前田氏が座長の医療事故調査機関の検討会で、医療関係者を萎縮(いしゆく)させる発言をした」などとして中医協委員の再任に反対したが、医療過誤の患者団体からは批判の声が上がっている

単に法学者に限っても前田氏以外にも人はいるんじゃないかと思いますが、そうまで前田氏にこだわるというのは何かしら背後事情でもあるのかとも勘ぐってしまいたくなるところですが…

それはともかくとして、今日のネタである救急医療に関連して首都圏の横浜市からこんなニュースが出ています。
ちなみに平成15年から導入された指定管理者制度とは公の施設の運営管理を民間団体に代行させるという制度でして、いわゆる民営化といったものと同様に考えていただければよいようです。

市救急医療センター指定管理者、「不適当」でも業務継続/横浜市(2009年2月24日カナロコ)

 横浜市は二十三日、市救急医療センター(同市中区)の指定管理者が再公募でも応募がなかったことを受け、補助金不正受給問題で指定管理者の取り消し処分が決まっている市病院協会を二〇〇九年度末まで管理者とする方針を明らかにした。今年七月に予定していた処分実施を延期し、「不適当」と認定した事業者に業務を継続させる極めて異例の措置。市の見通しの甘さや、ずさんのそしりを免れない対応に、市会からは責任を厳しく追及する声が上がっている。

 市は引き続き指定管理者選定を急ぐが、三月上旬に第三回市救急医療センター指定管理者選定委員会を開催。再公募でも応募がなかった原因を検証したうえ、センターへの指定管理者制度導入の継続が妥当かどうかや、市の直営(業務委託)にすることも含め運営方法を再検討する。
 上野和夫健康福祉局長は「委員会から助言を頂き、市としての方向性を決めたい」と述べた。

 センターの指定管理者公募は昨年十一、十二月の二回行われたが、医師不足や患者数減少による減収リスクの問題などから応募事業者はなかった。市は七月の業務引き継ぎは困難と判断した。
 このため市は、昨年九月に不祥事により指定管理者には「不適当」とし、取り消し処分にした市病院協会に、業務継続を要請する”前代未聞”の対応を決めた。処分自体はそのままだが、実施時期を当初の七月一日から二〇一〇年四月一日に延期する。
 二十三日の市会常任委員会で、上野局長は「見通しが甘かったと言われれば反省せざるを得ない」と釈明した。

 市病院協会の増井毅事務局長は同日、神奈川新聞社の取材に「協会の問題でこういう事態になって申し訳なく思っている。正式に申し入れがあれば理事会を開き決めるが、社会的責任を果たさざるを得ないと思う」と述べ、業務継続を受け入れる意向を示した。

今どき救急などババ抜きのババと同じで誰も引き受けたがらないという時代ですから仕方のない話かなとも思いますが、横浜市の場合には少しばかり前振りがあるようなのですね。
ちょうど三年ほど前の記事ですが、こちら「指定管理者制度って、どうなの?」さんから神奈川新聞の記事を引用させていただきます。

【横浜市】救急医療センター指定管理者、市医師会“非協力宣言”(2006年2月7日神奈川新聞)

 横浜市救急医療センター(中区桜木町)の指定管理者候補に同市内の病院でつくる「市病院協会」(荏原光夫会長)が決定したことをめぐり、同市内の開業医らが中心の「市医師会」(今井三男会長)が医師派遣に「協力できない」と反発している。「病院」と「開業医」の対立を受けて、市会委員会では6日、医師の人員確保や選定方法に疑問を呈する指摘が相次いだ。
 ◇   ◇
 同センターは1981年に夜間急病センターとして開設され、市が医師会の協力を得て「市救急医療財団」(現・市総合保健医療財団=今井理事長)を設立した経緯がある。センダー運営はこれまで医師会員の派遣などで成り立っていた
 ところが、今回の指定管理者選定では同財団は次点となった。医師会が開業医ら約2千人を擁するのに対し、病院協会は115の病院が加盟する。
 センターは今後、3月末限りで深夜帯(午前零時以降)診療を取りやめる一方、指定管理者が指定される7月からは市病院協会の提案により、診療開始を現行の午後8時から同6時に早める。小児科・内科・眼科・耳鼻科で年間延べ1972人が必要という。
 医師会側からはこれまでの運営の経緯や、センターが開業医の診療時間と重なる可能性がある夕方から診療を行うことなどに反発し、“非協力宣言”が飛び出した。
 6日の市会福祉衛生病院経営委員会では、会派を問わず発言が相次いだ。「人員配置がしっかりできるかが心配」との指摘に、市衛生局は「協会員6割、専任医師の雇い入れ2割、関係大学からの派遣2割の割合で確保できたと聞いている」と説明したが、委員から「医師の質が確保されなければ市民は安心できない」「夕方の診寮を行う医院が増えており、ますます人員確保が難しいのでは」「診療時間は市が方針を持つべきだ」などの声が相次いだ。
 また委員からは、選定委員会の選定の在り方についてただす声も上がった。「配点に問題があるのでは」「ほかの委員の意見を聞いて素点(素案の点数)を変更したケースがあるのは問題だ」「選定委員は、センターの成り立ちを知らされているのか」などの内容だ。

要するに開業医の団体である医師会が主体になって運営してきたところを、2006年になって病院の団体である病院協会に指定管理者が移ることになった。
施設の運用も変わって開業医と競合関係になるなど色々と事情も重なって、医師会側がこれじゃ協力出来ない、勝手にしてくれと言い出したと言うところでしょうか。
これ以後は病院協会が施設の運営をしてきたようですが、興味深いなと思ったのは三年の間に救急施設の指定管理者というものが奪い合うものから押し付けあうものへと劇的に変化しているということですかね。
救急というところはまさにこの国の医療行政というものをこの上なく分かり易い形で反映していると言ってもいいのかも知れません。

近年の医療政策下での救急医療に対する医療従事者の認識を考える上で、診療報酬を初めとしたコストの問題のみならず訴訟リスクや医療従事者自身の生活の質の担保(いわゆるQOML)など様々な要因が関係していて一筋縄ではいかない状況です。
ただ一つ確実に言えることは、これら要因のどれ一つをとってみても以前と比べて悪化したものこそあれ明らかに改善したと思えるものがないことで、当然ながら現場の医療従事者の間では救急医療というものに対するモチベーションは低下する一方と言って良いでしょう。
ちょうど厚労省が補助金を出して行う厚生労働科学研究の一つとして兵庫医大のグループが「緊急診療要請に遭遇した場合の意識調査」なるアンケートをやっている最中なんですが、この設問などを見てもなかなか興味深いなと思いますね。

「緊急診療要請に遭遇した場合の意識調査」設問より引用

(飛行機内など医療施設外で急患に遭遇した場合の対応について)
# 6.対応できなかったことがある方に質問します。
  対応ができなかった理由を教えてください。(複数回答可)

    自分の専門外なので対応困難と判断した。
    診療器具・薬品・設備や環境が整っていないので十分なことはできないと思った。
    法的責任を問われるかもしれないと思った。
    留まれる時間が限られていた。
    周囲の目、野次や横槍があって手が出せなかった。
    周囲の状況や自分の安全が確保されていないので対応困難であった。
    飲酒していたので対応困難であった。
    その他

# 7.すべての方への質問です。
  医療施設以外で急患に遭遇した場合、あなたはどのように思いますか?

    医師としての義務なので対応するのが当然だと思う。
    医療者としての社会的・道徳的な責務なので対応すべきだと思う。
    助ける・助けないは自由であり、その状況により判断する。
    その他

法的には応召義務が問われるのは「診療に従事している医師」が対象ですから、こうした事態に遭遇した場合に職業が医師であったとしても対応する法的義務はありません。
また特に国際線では法的に色々と難しい問題も発生しやすいようで、航空会社では地上のお抱え医師と連絡を取り合って対応するというシステムを構築して対応しているようです。
それでも「お客様のなかにお医者さまはいらっしゃいますか」と呼びかけるというのは実のところ、当の患者にむかって「うちはこれだけやってんだよ」というアピールも目的であるといった声もあるようですね(伝聞モード)。
いずれにせよ医療行為というものが常にリスクとベネフィットを勘案しながら行っていかなければならないのと全く同様に、こうした施設外での突発的事態に対しても常に冷静にリスクとベネフィットを考慮しながら行っていかなければならないのは当然のことでしょうね。

ところで実際のところこうした救急対応の実情がどうかと言えば、ひと頃大きな話題になったのが国保旭中央病院の大塚祐司先生が「航空機内での心肺蘇生の実施により心的外傷を負った1例」として報告しているケースです。
このケースの何が話題になったかと言えば、称讚されるべき行為を行ったにもかかわらず心的外傷に追い込まれたという悲惨さもさることながら、心肺蘇生を施したまさに当事者の方が現場の生々しい状況を公表してくださったからなんですね。
以下に少し長くなりますが、御本人の貴重な体験談を引用してみましょう。

[eml-nc6: 1563] 機内で人命救助(メーリングリストeml-nc、2006年9月分より引用)

平成18年2月17日 成田発ベトナムホーチミン行きに搭乗

離陸から2時間半後、突然「ドカン」という音がしました。
慌しく動くフライトアテンダントと旅行会社の添乗員に気付きもしかしたらと思い近
くを通った添乗員に「救急法を学んでいる者ですがお役に立つことがありました
ら…」と声をかけました
「人が倒れまして」と言われ急ぎ現場へ添乗員引率のもと向かいました。
傷病者はアテンダントの男性によって手荒にも上着が脱がされ仰向けで横たわってい
ました。
アテンダント達は戸惑うばかりで傷病者は放置されたまま、添乗員はCPR経験なし、
機内には医師や看護師もおりませんでした。

「もしもし、大丈夫ですか?」3回の呼びかけにも反応が無くすぐ気道確保しまし
た。
ですが狭い機内、傷病者は通路いっぱいに横たわり野次馬が増すばかりか中には携帯
で写メを撮る者まで数多く現われました。

周りの騒がしさもあって呼吸の確認もかなり慎重に行いました。
呼吸も無い状態で、日頃携帯しているキューマスクを取り出し人工呼吸を開始しまし
た。
抵抗も無く2回の吹き込み後、脈の確認を試みましたがエンジン音や振動で分からず
耳を心臓に直接あてて聞きました。不安もあって2回繰り返して聞いたように思いま
す。
心臓の音も聞こえず迷い無く心臓マッサージを開始しました。

時間が経つにつれ床に着いた足は痛くなり、ずっと圧迫していた手は真っ赤で腰から
大腿にかけては時々つるような痛みが走りましたがとにかく続けました。

そんな中、野次馬から
あいつが止めたら あの人死ぬのか?」という声が聞こえました。
ここでCPRを止めてしまったら『人殺し』と呼ばれるのではないかという恐怖に襲わ
れとても怖かったです。

40分CPRを続けたところで指が動き始め次第に心音も確認できるようになりました。
しかし呼吸は回復せず人工呼吸を続けました。
そして20分位たった頃に僅かな吹き返しを感じ、次第に呼吸が回復したので呼びかけ
や身体に刺激を与えながら様子を見ていました。
とりあえず反応が返ってくるのですが元気な人の反応とは違い微妙なものでした。
意識の戻らない傷病者を前にまた異変が起こるのではないかという不安でいっぱいで
した。
救助開始から3時間半後やっと目を開けましたが話しはできませんでした。

それから30分後ホーチミン空港に到着
飛行機から運び出す間際に呂律が回らない様な口調で「どうして寝ているんだ?」と
聞いてきました。
飛行機から運び出し待機していた救急車に引継ぎ4時間に及んだ救護活動は終わりま
した。
ただただ怖かったです。

今だから言える話ですが野次馬の罵声と圧力の怖さは一生忘れないと思います。
そして自分一人しかいない状況での救護活動がどんなに大変なものかも分かりまし
た。
もっと色々な救急法の勉強が必要だと思いました。

ベトナム航空への問い合わせについての返答
・搭乗した機内にもAEDは装備されていたにもかかわらず使用しなかったのはなぜか?
 「心臓病の患者のみに用いると思っていたのでは…」
アテンダントについても「CPRを学んでいても躊躇してしまい手が出せなかった」
と言われた
 ⇒ 航空会社に遺憾の意を示す手紙を送りました

この状況でこうまで冷静な対応を行い得たことには無条件の称讚が与えられるべきだと考える一方で、なかなか考えさせられる体験談であったのだなと思いませんか。
もちろん施設や人員といった医療リソースの問題を初め医療を取り巻く問題点はあらゆる方面にまたがって山積していますが、施設内、施設外を問わず、医療に関わる人間にその能力を十分発揮させないような様々な社会的要因もあるわけです。
そうした問題は決して医療従事者の自助努力や医療行政の小手先の改変などでどうこうなる問題ではなくて、まさしく国民皆が我が事として考えていかなければならないことではないかという気がしますね。

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