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2009年2月26日 (木)

救急搬送は引かせた方が勝ち

どうも近ごろではネタが偏ってしまって、これではまるで医療系blogみたいじゃないかと少しばかりぐり研の将来を憂慮している管理人です。
それはともかく、先日も少しばかり触れましたところの消防庁主導による「病院に患者を置いてくるためのリスト作成」もとい、消防法改正案がほぼそのままで成立しそうな勢いのようです。

救急搬送先のリスト作成  自民、消防法改正案を了承(2009年2月25日47ニュース)

 自民党の総務部会は25日、医療機関による救急搬送患者の受け入れ拒否問題の改善に向けて総務省消防庁が今国会に提出する、消防法の改正案を了承した。患者の容体に応じた搬送先のリストを盛り込んだ「搬送・受け入れの実施基準」の策定と公表を、都道府県に義務付けるのが柱。政府は3月に閣議決定し、年内の施行を目指す。

 実施基準では、医療機関を対応できる傷病者の重症度によって分類し、救急隊がリストから搬送先を選ぶルールも策定。また、搬送先が速やかに決まらない場合に救急隊と医療機関が協議する基準を定め、最終的な受け入れ先の確保を目指す。

 実施基準は医師や消防関係者、都道府県の担当者らで設ける協議会が策定。協議会は救急搬送の改善に向けた調査・分析、知事や関係機関への意見表明もできるとしている。

 このほか改正案には、医療機関が基準を尊重する努力規定が盛り込まれた。

 消防庁は救急搬送患者の受け入れ拒否が社会問題化したほか、現場から病院に収容するまでの時間も延びているため、改善策を検討してきた。

読んでいただければわかるかと思いますがこのシステム、あくまで患者を病院まで搬送する側である救急隊の主観によって出来上がっていることに留意ください。
実際の医療崩壊、救急崩壊という現象はそこから先の病院内で起こっていることこそが主眼であるはずですが、そのあたりの事情は全く関わりなくいかに患者を病院に置いてくるかという次元で話が進んでいるということですね。
「医療機関が基準を尊重する努力規定」なるものがどのようなものなのか具体的なところが気になるわけですが、お上が決めたリストに従って容赦なく患者を配送するというようなシステムになるようですと一気に地方中小病院の救急指定返上が続発する可能性もありますかね。

救急隊と救急病院の関係も色々と難しいところがあって地域によっても大きな差がありますから一概には言えないのですが、あまり良好でない関係という地域も決して少なくないようです。
昔から「意識障害!レベル300です!」なんて言われて大慌てで受け入れたら単なる急性アル中の親父だったなんて話は幾らでもありふれていました。
特に日頃からつき合いをせざるを得ない地元医療機関に対してはどこの救急隊もそれなりに気を使うものですが、最近多い域外からの遠距離搬送例にこうしたトンデモ症例が増えているようにも感じますね。
昨今の搬送遅延からくる救急隊の焦りがこうした「騙してでも置いてくれば勝ち」という態度を助長しているところもあるようですが、一度相互の不信感が増幅サイクルに乗ってしまうと誰にとっても不幸な結果にしかならないことを関係者一同が再認識する必要はあるでしょうね。

あまり表に出てくることのない救急隊と病院とのこうした関係について参考になるのが下記の記事ですが、単なる搬送拒否だの受け入れ不能だのという報道の陰に現場のドラマが見え隠れしてくる気がしませんか。

「急性アル中」「精神疾患」などは救急受け入れ困難―消防庁調査で明らかに(2009年2月24日CBニュース)

 総務省消防庁が東京消防庁管内で実施した救急受け入れに関する実態調査によると、受け入れが断られやすいとの指摘がある急性アルコール中毒や精神疾患の患者、未受診妊婦などの場合、受け入れ照会が4回以上となるケースが32.5%と、救急搬送全体の8.3%を大きく上回り、現場滞在時間も長くかかるなど、受け入れが実際に困難である実態が明らかになった。受け入れ困難の詳細な理由についても調べており、こうした調査は国レベルでは初めて。

 調査は、昨年 12月16日から7日間、東京消防庁管内のすべての救急搬送9414件(転院搬送除く)について実施された。消防庁は昨年、これに先立ち救急受け入れについての実態調査をしていたが、受け入れ困難理由を詳細に分析する必要があるとして、東京消防庁管内でさらに調査を実施。消防庁で救急搬送の在り方などについて議論している作業部会に報告した。

 調査項目は、受け入れ照会回数や、受け入れられなかった理由とその件数など。さらに、一般的に受け入れが断られやすいとされる傷病者の特徴や疾病として、▽急性アルコール中毒▽精神疾患▽結核▽感染症▽薬物中毒▽産科・周産期(定期的受診・ほとんど未受診・未受診)▽透析▽認知症▽要介護者▽過去に問題のあった傷病者▽CPA▽吐血▽開放性骨折▽複数科目―のいずれかの項目に該当するかも調べた。

 こうした項目に該当した搬送ケースは566件と、救急搬送全体の6%で、647件の受け入れ照会が発生していた。受け入れ照会数を見ると、「1回」が 36.2%(205件)、「4回以上」が32.5%(184件)、「6回以上」が17.7%(100件)、「11回以上」が5.1%(29件)などだった。3回以内の照会で受け入れられたのは67.5%。受け入れ照会の最大回数は、救急搬送全体で見ても最も多かった25回で、特徴や疾病としては「要介護者」の区分だった。
 照会が最も多く発生している区分は「精神疾患」で、照会件数の24.0%を占める155件だった。次に、「急性アルコール中毒」が23.5%で152件、「複数科目」が10.7%で69件、「認知症」が10.0%で65件、「要介護者」が9.4%で61件などと続いた。
 受け入れられなかった理由として、最も多かったのは、「手術中か他の患者に対応中」で24.8%、以下は、「処置困難」23.7%、「ベッド満床」20.1%などと続く。

■全体の約7割が1回で受け入れ
 救急搬送全体を見ると、受け入れ照会が「1回」が70.4%(6632件)、「4回以上」が8.3%(779件)、「6回以上」が3.1%(291件)、「11回以上」が0.6%(60件)などと、一般的に受け入れが断られやすいとされる搬送ケースの照会数を大きく下回っている。91.7%が3回以内の照会で受け入れられていた。
 受け入れられなかった理由として、最も多かったのは「手術中か他の患者に対応中」で31.5%。以下は、「処置困難」18.8%、「ベッド満床」18.0%などと続く。

 現場滞在時間を比較すると、一般的に受け入れが断られやすいとされる搬送ケースでは、「30分以上」が39.7%、「60分以上」が8.2%だった。全体では、「30分以上」が12.3%、「60分以上」が1.1%で、一般的に受け入れが断られやすい搬送ケースの方が受け入れ先を探すのに時間がかかっていることが分かる。

■小児のケース、対応可能医師の不在も
 全体のうち、「重症以上」のケースが737件あった。「1回」で受け入れが決まったのが71.9%で、「6回以上」となったのは2.3%。受け入れられなかった理由としては、「手術中か他の患者に対応中」と「処置困難」がそれぞれ27.9%、「ベッド満床」が23.5%など。

 また、「小児」のケースは680件あった。受け入れ照会回数は「1回」が77.4%、「6回以上」は1.2%。受け入れられなかった理由では、「手術中か他の患者に対応中」が33.5%と最多で、以下は「処置困難」19.1%、「(医師が)専門外」15.5%、「ベッド満床」13.7%などと続いた。

 このほか、65歳以上の高齢者の搬送が3894件と、全体の41.4%を占めていた。受け入れ照会は「1回」が74.1%、「6回以上」が2.5%、「11回以上」が0.5%と、救急搬送全体に比べ全体的に照会数が少なくなっている。ただ、傷病の発生場所を「老人ホームなど」の施設に限定した場合、「1回」が72.2%、「6回以上」が3.9%、「11回以上」が1.8%と、65歳以上の高齢者の搬送全体と比べ照会数が多くなる傾向があった。

■救急医療と福祉行政のかかわりを
 作業部会の事務局は、一般的に受け入れが断られやすいとされる搬送ケースについて、「受け入れ照会回数、現場滞在時間とも全体平均を上回っており、(受け入れ先の)選定困難事例となりやすいと思われた」との見解を示した。
 作業部会の会合で有賀徹氏(昭和大医学部教授救急医学講座主任)は、「社会的弱者になっている人たちを救急隊が取り扱いかねていることが分かった。このデータを今後どう使っていくか。これは厚生労働行政にも深く関係している」と、調査結果を今後の行政での検討に生かすべきと主張。横田順一郎氏(市立堺病院副院長)は、救急医療と精神疾患に関する団体との連携などを提言していくきっかけになると強調した。
 これに対し、消防庁の開出英之救急企画室長は、「データをどう生かすということが大事。搬送の中で処理できること、(患者の)出口や、福祉が絡むことなどがある。われわれだけでできないポイントがあるので、そこにつなげていきたいと思う」と述べた。
 このデータは、来年度にも開催される消防庁と厚生労働省の合同の検討会で資料として使われる見通しだ。

ひと頃マスコミにおいても「未受診妊婦は受け入れを断られる場合が多い」云々という報道がようやく少しばかりなされたことがありましたが、社会常識として考えてみてもわかる通りに実際問題「顧客は決して平等ではない」のです。
増え続ける医療需要に対して限られた医療リソースを最も有効に活用するという観点からしても当然のことですが、医療機関側においてもハイリスク症例に対してはそれなりの対応をしているという状況が読み取れるかと思いますね。

急性アル中や精神疾患といった症例について搬送先探しが難航するのはまあそうなんだろうなと誰しも思うところでしょうが、夜間に医師一人、看護師一人という態勢の多くの救急病院で対応しかねるようなこれら症例については正しくはどのような対応をするべきなのでしょうか?
アルコールや薬物中毒などの場合はそもそも診療契約を締結する事が出来ないわけですから勝手に医療行為をするわけにもいかないだろうという意見もありますが、例えば「警察官職務執行法」には次のような規定があるようです。

警察官職務執行法 第三条

警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して次の各号のいずれかに該当することが明らかであり、かつ、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見したときは、取りあえず警察署、病院、救護施設等の適当な場所において、これを保護しなければならない。
 1.精神錯乱又は泥酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼすおそれのある者
 2.迷い子、病人、負傷者等で適当な保護者を伴わず、応急の救護を要すると認められる者(本人がこれを拒んだ場合を除く。)

また厚労省の委託研究の一つである「精神科救急マニュアル」(これ自体いろいろと面白いネタ満載で一度通読をおすすめします)においては、下記のような記載があります。

精神科救急マニュアル

3) アルコール関連の相談の場合
 ② 酔って興奮している場合は、電話による家族などの話から単純な酩酊と判断された時には、警察に保護を依頼するように伝える。
 ⑤ 病的酩酊で興奮が激しい時はもっとも危険であり、警察の協力を得るよう伝える。
4) 薬物関連の相談の場合
 自傷他害の恐れが強い場合は、緊急措置入院の取扱いが必要となるため、保健所などに連絡する。

要するにこれら医療のみでは手に余る症例に対する第一義的な対応の義務は警察等の組織にあるものであって、医療機関としては直ちに通報しお引き取りいただくのが適切な対応ということになるのでしょうか。
個々の医療機関側で場当たり的な対応をしてしまうよりも、こうした法やマニュアルに従って行動すべきなのは今の時代の社会的要請とも言うべきものだと思いますが、一方でこんな気になる記事も出ているのですね。

興奮状態で救急搬送されなかった男性、脳内出血発症し死亡/京都(2009年2月25日産経新聞)

 京都府警伏見署は25日、同署で保護した後に脳内出血を発症し、市内の病院に入院していた同区内の無職の男性(55)が死亡したと発表した。男性は15日、同区内のマンションで倒れているところを発見され、救急車が出動したが、男性が興奮状態にあったため救急搬送されなかったという。市消防局は「やむを得なかった」としている。

 同署や市消防局によると、15日午後6時45分ごろ、マンションの2階通路で男性が倒れているのを住民が見つけ、119番した。救急隊員が駆けつけたところ、自力では立てない状態だったが、救助を嫌がるようなしぐさをみせたため隊員は救急搬送をあきらめ、同署で一時保護した。

 ところが、同9時20分ごろ、男性の容体が急変したため病院に搬送。検査の結果脳内出血と診断され、緊急手術が施されたという。

 市消防局は「当時、男性の左側頭部にこぶが確認されたが、男性が救助の手を払いのけるなど興奮状態にあり、現場の判断はやむを得なかった」としている。

救急搬送が遅れてるぞ!何とかしろ!という声が盛り上がった結果消防庁が上に挙げたような行動に出てきているという現状を考えた場合に、こうした事例を受けて今度は警察がどんな行動に出るかということも見ていかなければならないでしょうね。
いずれにしても警察や救急隊にしろ医療機関にしろ患者搬送・受け入れといった責務を押し付けられる方向では年々社会的圧力が強化されていく一方、そのリスク分散に関しては全く軽減されることがないわけですから、やはりこれからもババの引き合い、押し付け合いという状況は続くことになりそうです。
自分の手さえ離れればそれでよいといった個々の部署だけに通用するロジックにとどまることなく、システムの中でどの部分が一番のボトルネックになっているのか、それを解消するために何をどうすればよいのかといった、きちんとした現状分析と対策こそが急ぎ求められているように思うのですが…

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