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2009年2月18日 (水)

今や医療とは黙っていても与えられるものではありません

大阪府の医療問題と言えば例の阪南市立市民病院の件が有名ですが、同じ府内の松原市においてもやはり市立病院の経営問題が存在しています。
ただし以前に紹介しました通りこちらでは阪南市と違って、市長の声かけに答えて議会がさっさと病院閉鎖を議決してしまったのですね。
この手の話では少し前に銚子市立総合病院が休止決定で市長リコールと言う騒ぎになりましたが、案の定と言いますか松原市でも同様の騒動が起きているようです。

松原市長のリコール署名スタート 市立病院の閉院問題で/大阪(2009年2月16日朝日新聞)

 経営難を理由に、大阪府松原市の市立松原病院(162床)を3月末で閉院すると決めた同市の中野孝則市長に対し、病院存続を求める同市の市民団体「『とりもどそう住んでよかった松原を』市民の会」が16日、解職請求(リコール)の署名集めを始めた。

 同病院の累積赤字は07年度末で約40億円。医師不足や患者離れに加え、老朽化した施設の建て替えも財政難で難しいとして、中野市長が昨年11月末に閉院方針を表明。12月議会で関連の条例案が賛成多数で可決された。

 署名集めは3月16日まで。有効署名が有権者の3分の1(約3万4千人)を上回った場合、解職か否かを決める住民投票があり、有効投票の過半数が解職に賛成すれば市長は失職、50日以内に市長選が実施される。

 解職請求代表者の一人、長尾和さん(71)は「市民に諮らず独断で閉院を決めたことへの怒りを形にしたい」といい、4万人分を目標に署名を集めるという。

 2期目の中野市長の任期満了は6月16日。市長選は5月24日告示、同31日投開票の予定だが、中野市長はまだ態度を明らかにしていない。

首長も議会も一致して決めた病院の廃止が市民の声であっさり覆るということになれば議会制民主主義とは何なのよという話にもなりかねませんが、銚子市の件とも併せて行政が民意にどう応えるかを興味深く見守っていくべき問題とは言えるでしょう。

身近な病院が消えるといった問題を通じて、近ごろでは医療崩壊という現象が市民の間にも滲透しつつあるように思えます。
医療資源が需要に対してどうやらひどく過少らしいという認識がようやく広く認識されはじめたことは現状認識として進歩だと思うのですが、一方で品薄感が高じて往年のオイルショックまがいの騒ぎにつながりかねないという危惧も少なからず感じています。
この危機に対して計画的に医師を配置することで乗り越えようという国と厚労省を中心とした勢力があるわけですが、何かと評判の悪い臨床研修制度の改正問題とも絡めて更なる医師配置への支配権強化を図っている気配が濃厚なのは気になるところですね。

研修医募集枠を病院ごとに制限 国が方針(2009年2月18日中国新聞)

 医師不足問題を受けて臨床研修制度の見直しを検討している厚生労働、文部科学両省は十七日、二〇〇九年度以降の研修医の定員について、都道府県ごとの上限新設に加え、すべての研修先病院の募集枠を制限する方針を固めた。

 都道府県ごとに上限を設けるだけでは、県庁所在地などの大規模病院に研修医が集中し、地域内での医師の偏在が解消しない恐れがあるため。

 ただ、へき地の病院などに医師を派遣している大学病院などについては募集枠を優遇して配分し、地域医療を担う中核病院としての機能強化を図る。

 当初は総定員を前年度比16%減の約九千五百人とし、うち約千七百人は大学病院などへの優遇分とする。

 現行制度では、各病院は病床数などに応じて研修医の募集定員を自由に設定できるが、多くは定員割れとなっている。今後は、直近数年間の平均採用数など過去の実績を基準に算出し、実態に即した定員設定とする。

 定員を満たしている病院がさらに病床数などを増やしても、募集枠は据え置く。定員割れの病院については欠員分の枠返上を求める。

 採用者ゼロが続く病院に対しては、研修医を多く受け入れる地域内の中核病院とのグループ化を要請。研修病院としての機能は維持するが、独自の募集は行わないよう指導する。

 その上で病院ごとの定員の合計が、都道府県単位で新設する上限数を下回るように調整。それぞれの都道府県で募集枠の「余剰」を生みだし、医師派遣機能を担っている大学病院などへ配分するとしている。

 臨床研修制度見直しをめぐっては、現在、両省の検討会が(1)都道府県ごとの募集上限の新設(2)必修診療科数の大幅削減によるプログラムの弾力化―などを柱とする提言案を議論している。

一生懸命医局を潰そうと頑張った挙げ句に、今度は国のバックアップで医局の権益を再強化しようとしているように見えるのは自分だけでしょうか…
まあ医療行政の朝令暮改ぶりはこの話に限ったことでもなく今やお約束とも言うべきものですが、とにもかくにも医師というものが今後は今まで以上に手に入りにくい貴重品になりそうだという気配は感じられるところですよね。
となれば当然の流れとして、いかにして必要な医療資源を手元に確保していくかという議論が出てくるだろうし、逆に特定の誰かに対して医療を提供する保証と言うものが業務として成立する可能性が出てきたということです。

混合診療の禁止(医療は全国同一価格同一サービスという大原則)の抜け道として、以前に「順天堂リフレッセクラブ」という会員制の医療サービスを紹介したことがありました。
これなども表向きはドックや慢性疾患の管理などが主体のサービスですが、

・疾病の治療のため、予約診察室を用いて速やかに診察を行い、疾病内容により、適切な専門医を紹介して、診察を受けることができます。

・緊急時医療について、昼間(9:00~17:00)は健康スポーツ室、夜間(17:00以降)は救急室を 通じて、サービスを行っております。

などといったHPに記述の「特典」を見る限り、いかにも「俺に対する医療の保証」といった特別待遇を期待させての会員募集という気配が濃厚ですよね。
少なくとも一つ評価できることには、最近ではようやくこうした「特別な医療給付と言う利益を受けとるためには、医療現場に対してもそれ相応の利益を保証していかなければならない」という当たり前の相互主義に対する理解が広がりつつあるのかなと感じられるところです。

NICU 市民優先のベッド確保 周産期医療対策 浦安市、順天堂大病院に/千葉(2009年2月17日東京新聞)

 新生児集中治療室(NICU)が満床などの理由で、妊婦や新生児が医療機関に受け入れてもらえない問題を受け、浦安市は市民を優先的に受け入れる空きベッドを市内の中核病院に確保するなど、周産期救急医療の充実に乗り出す。市は病院側に支払う運営費二千九百四十万円を二〇〇九年度当初予算案に計上した。

 市内で唯一、NICU三床を設置する順天堂大付属浦安病院の一床と、母体を守るため同病院産婦人科の集中治療室(ICU)一床を確保する計画。満床の場合も、ほかの空きベッドを病院側が市民に提供するなどの措置を取ってもらう。

市民がベッドを利用しなくても、年間管理用の診療報酬の半額を市が病院側に運営費として支払う契約。運営費は専門性の高い医師を増員するなど周産期救急医療の充実にも使用してもらう。

 松崎秀樹市長は「病院側にはNICUのベッドを三床程度増やす考えがあるようだ。増床につながる呼び水にしてもらいたい」と述べた。 

一昔前なら「ベッドがない?いつでも空きベッドを用意しておけばいいだろう!」で終わっていた話が、今や診療報酬のシステムによって空きベッドなど持っていようものなら病院経営が立ちゆかないという事実が認識されるようになった。
「うちは少しお高くなりますがサービスは抜群です(混合診療)」が禁止されている以上は薄利多売で客の回転を上げて稼ぐしかありませんから、「俺様がいつ行っても待たずに食べられるように常時席を用意しとけ」なんてことを言われても困るわけです。
それでも空きベッドは確保しておいて欲しいならその分のコストは我々が負担しますというのは当然の話ですが、この当たり前のことが当たり前に通用するようになってきたというところが昨今の医療業界における変革の特記すべき点ではないかと思いますね。
そして医師を初めスタッフにとっても、どうせなら当たり前のことが通用する職場なり地域なりで働きたいと考えるのは自然の流れというものですから、これも舛添大臣の言うところのインセンティブと言うものの一例でしょう。

最近では単にお金を出して既製品の医療資源を囲い込むというだけではなく、更に一歩進んで自ら必要な医療資源を育成し確保していこうという動きすら見られるようになってきました。
各地の自治体で流行りの「奨学金と言う名を借りた御礼奉公強制システム」は一昔前にどこかの業界でさんざんバッシングを受けた制度のリメイクとも言うべきもので残念ながらあまり人気があるようには見えませんが、中には企業レベルで必要な人材確保を図っているところも出てきているようなのですね。

タマノイ酢 2010年春「医師社員」誕生へ 医学知識を生かし商品開発を強化(2009年2月18日日経情報ストラテジー)

 創業100余年で「すしのこ」「はちみつ黒酢ダイエット」を販売する老舗食品メーカー、タマノイ酢(堺市)に2010年3月、医師2人が入社する。同社が2004年に開始した人材育成制度「フューチャー制度」を活用して難関国家資格の取得に初めて成功した元社員たちだ。2008年3月に国立大学医学部を卒業して医師免許を取得してからは、副業が禁じられている研修医を務めるために公式にはいったん退職。2010年3月に晴れてタマノイ酢に再入社する。2 人を医師に育てるために医学部在学中の学費はすべて会社が負担し、給与や賞与も支給していた。

 再入社後は専門知識を生かして健康に良い商品などの開発などに携わる予定だ。同社社長室の桜内晶子課長は「手間とお金がかかっても会社の理念や目的を理解する社員から医師を育てることに意味がある。普通の医師は病人を治すための存在だが、病気にならないような商品、サービスを開発できる医師になってほしい」と狙いを話す。

 2人の医師は新潟大学、山形大学の医学部で学んでいた。2009年2月現在も琉球大学医学部に社員が1人在籍している。同社のフューチャー制度にはほかに税理士コースや弁護士コース、調理師コースなどがある。また、スポーツ選手を育てるアスリートコースもあって、競歩選手の社員は2008年に日本選手権で7位入賞を果たした。

細かいことは全部抜きにしても、この会社の経営陣のやったことは結構大英断じゃないでしょうか?
税金を使って免許を取った医者どもが他業種に逃げ出していくのはけしからん!なんてことを仰る向きも世の中にはいらっしゃるようですが、自らの将来をも睨んでここまでの心配りをしている人々に対して心ない非難をするよりも学ぶべき点を学んでいく方がはるかに建設的であるように思えます。
様々な内圧・外圧によって医療業界の改革改善は今後ますます加速度的に進んでいきそうな勢いですが、今まで閉鎖的、非常識などとさんざん批判されていた業界の特異体質が世間並みになっていくのは誰にとっても歓迎すべきことのはずですよね。

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コメント

市立松原病院の最大のポイントは、今の市長が、「松原病院は医師を奴隷化して24時間働かせるから、みんな何でも受診していいよ」という公約をかまして当選した人だ、というところでしょうね。そのせいで質が低下して、真面目な患者が逃げ出していって病院が傾いちゃったという。
でも、市長が提案し、議会が通したというのに、「市民に諮っていない」って、ギリシャ時代の直接民主制でも実現しろっていうのでしょうか(それにしたって、事実上「市民の数」は「住民の数」とイコールではないですからねぇ)。
とにかく、病院を便利(コンビニ化的便利ですね。この場合)にすると言ったから市長に選んだのに、なんでこんなことをするんだ、というのが不満点のように見えます。

あと、ベッド確保のインセンティブは小児救急においては一般的になっている手法ですね。もう10年も前から、うちの大学には2次受け入れ用の空きベッドを確保しておく確保料が自治体から払われてました。まあ、それが小児科医の当直料に反映されることは今に至るまで全くありませんが(笑)。ただ、周産期領域というのは珍しいかもしれません。

投稿: Seisan | 2009年2月18日 (水) 11時54分

松原は結局八尾徳州会病院が引き受けて要望の多い小児科を開設し
100床ほどのベッドを持った病院になるようですよ。ローカルネタでした。

投稿: 通りすがり | 2009年2月18日 (水) 22時05分

小児科と言えばこうした公的支援の先達ですが、歴史的経緯を振り返ってみるとひと頃の「23区内まで1時間圏内!近くに小児科あり!」といった地方自治体の宣伝文句の一つとして拡充されてきた小児医療政策の流れという側面が強かったように思いますね。
小児医療無料化を初めこうした利便性をうたう客寄せ的医療がその後の医療崩壊の一因とも言われるようになったことを考えると何とも感慨深いものがありますが…

投稿: 管理人nobu | 2009年2月19日 (木) 10時26分

小児医療の補助・無料化ということ自体は、親の収入がそう多くない年代であることも考えれば非常にいいことだと思います。が、本来であれば、「健康保険本体」で自己負担分を減らすことをしなければいけないのに、「自治体で勝手にやれ」としたところに最大の問題があると思います。そのため、地域によって(金がある自治体かどうかによって)内容に大きな差が出てきてしまっています。
本来なら国が責任を持って方針を決めるべきなのに、「宣伝文句として使える」ようにしちゃったのが失敗のもとですね。

投稿: Seisan | 2009年2月19日 (木) 11時44分

タマノイ酢の医師養成だけど、なぜ国立大医学部なのか??
税金でまかなっている国立大医学部で、一私企業に奉職が義務付けられている物を、なぜ教育しなければならないのか???
当然ながら私立大医学部に通わせ、タマノイ酢が授業料を全額負担すべきではないか????

投稿: | 2009年3月13日 (金) 22時59分

学生教育にかかる費用は授業料で十分まかなえるということですし、私大医学部は医師養成所的側面が国公立以上に強いですから、この場合不適当なんじゃないかなという気もしますけれども。

投稿: 管理人nobu | 2009年3月14日 (土) 11時04分

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