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2009年2月12日 (木)

「北風と太陽」という寓話がありますが

世間ではこの不景気で仕事にあぶれたという話を聞く一方で、人がいなくてひいひい言っている業界も結構あるものです。
いくつかの業界ではこの機会にと人材招致に熱心なようですが、相変わらず人材不足が深刻なのが医療と介護の世界。
人手不足が過重労働をもたらし、さらなる人材の流出を招くという悪循環に陥っているこの状況を記事から引用してみましょう。

産科医:3割で負担過剰 分娩数、限界に(2009年2月7日毎日新聞)

 都道府県の医療計画策定の基礎となる2次医療圏のうち、病院勤務医1人が扱う分娩(ぶんべん)数が年150件を超す医療圏が3割を占めることが毎日新聞の調査で分かった。日本産科婦人科学会などは帝王切開などリスクを伴う分娩を受け入れる病院勤務医が無理なく扱えるのは150件程度までとしている。地域のお産環境が危ういバランスで成り立っている実態がうかがえる。

 調査は厚生労働省が07年12月時点で集計した355医療圏(兵庫県は周産期医療圏)ごとの分娩数、常勤産科医数を都道府県に照会し、取材を加味してまとめた。

 有効な数値を得られた287医療圏を分析すると、63%の182医療圏で医師1人当たり分娩数が100件を超え、30%の87医療圏で150件を超えていた。

 都道府県別では北海道(7医療圏)▽神奈川県(6医療圏)▽長野県(同)▽愛知県(5医療圏)▽京都府(同)などで、150件を超すケースが目立った。富良野(北海道)、湯沢・雄勝(秋田)の両医療圏は、一つしかない病院の常勤医1人で分娩数が年150件を超えた。

今年1月までの1年間で、経営判断や医師不足などで分娩予約の受け付けを中止したり、産科の休止に至った病院は14府県17カ所に上ることも、今回の調査で分かった。

 ◇改革探るべきだ

 ▽日本産科婦人科学会医療提供体制検討委員長の海野信也・北里大学教授 産科医の増加はすぐには望めない。限られた医療資源を最大限に生かすため、通院時間や交通網、地域の実情に合った医療圏の見直し等も含め改革方法を探るべき時だ。

Watch!:枚方市民病院 小児科医が足りない!!24時間態勢の危機 /大阪(2009年2月4日毎日新聞)

◇年中無休、過酷勤務に疲弊--派遣医も4月から大幅減
 年中無休で、24時間の外来診療を続けている枚方市民病院(同市禁野本町2)の小児科が、態勢の維持に危機感を募らせている。当直を担う大学病院からの派遣医が過酷な勤務で疲弊しているうえ、4月から大幅に減る見込みとなったためだ。同病院は地元医師会を通じて開業医らへの協力を求めるなどしているが、光明は見えていない。【宮地佳那子】

 同病院は、全国で小児科が減少傾向にある中、市民病院の役割として00年4月から北河内地区で唯一、「無休」の小児科診療を実施してきた。これを維持するため、当直時間帯(原則午後5時~翌午前9時)は、大阪医科大(高槻市)のほか、関西医科大(枚方市)や地元医師会から毎月計約30人の医師の派遣を受けている。

 しかし、ほとんどの派遣医は、所属する大学病院で通常勤務があるため、当直開始時刻に間に合わなかったり、翌朝まで診療できなかったりすることが常態化。その場合、常勤医(計8人)が穴を埋めるなど、元々医師が足りないのが現状だ。

 また、派遣医は複数の病院で当直勤務をこなすため、当直が月計8日にのぼる人も。特に患者が多い日曜は、ほぼ一睡もできないまま月曜の通常勤務に向かうなど、「命を削って勤務している状態」(同病院幹部)という。

 これに加え、04年度から始まった臨床研修医制度が人手不足に拍車をかける。医大卒業生が研修先の病院を自由に選べるようになったため、医局(大学病院)への入局が減り、大学病院から市民病院への派遣医確保が難しくなった。月平均18人と同病院への派遣が最多の大阪医科大は4月から大幅に減る見通しだ。派遣医の中心を担う大学院4年生4人が3月で卒業するが、新制度の影響で2、3年生が現在一人もいないためという。

 今の時期はインフルエンザや風邪などが流行し、外来患者が年間で最も多い。昨年12月31日は182人の小児科外来患者に対し、2人の当直医で診療したが、最大約3時間待ちになった。同病院は手術や入院など緊急性を要する2次救急診療が原則だが、実際は発熱やせきなど緊急性がない1次救急患者が多く、重症患者が待たされる懸念もある。

 そこで、同病院は地元医師会に土曜・日曜・祝日の1次救急患者の診療を依頼するなど、同病院に集中する患者の振り分けを打診しているが、交渉は難航している。田邉卓也小児科長は「派遣医が減っても、これ以上医師一人一人の負担は増やせない。泉州や豊能地域のように休日の小児1次救急診療のセンターを作るなど、1次救急と2次救急診療を分ける仕組みが必要」と話している。

悲しむべき現実というものですが、こうした労働環境は実は必ずしも今に始まったことでもありません。
ただ昔と違うのは情報が容易に手にはいるようになった現在では「医者なんてこんな商売」「仕事というのはこんなもの」という固定観念(あるいは洗脳?)から解放される人間が増えてきた、何かおかしくね?と疑問を感じ始めたと言うことでしょうか。
医療業界にもようやく世間並みの常識が芽生えつつあるということは良い傾向だと思いますが、ではその改善のために何をどうしたらいいのかと言う点では未だ必ずしも社会的コンセンサスが得られていないようです。

世界的に言われていることに、医療においてクオリティー(医療の質)とコスト(医療費)、そしてアクセス(受診の容易さ)の三要素を同時に満足することは無理なのです。
どんな調査によっても医療の質を落としてもよいという意見が多数派を占めたことはありませんし、求められる医療水準というものも年々高まる一方ですから、公定価格でコストが決まっている以上はアクセスを制限するしかないのは自明の理です。
最近では救急搬送にもう少し規制をしようとか、時間外受診を抑制しようとかいった動きも少しずつ広がっているようですが、何故かクオリティーもコストもそのままでアクセスをもっと改善しろなんて無茶な政策が上から降ってくる場合もあるのですね。

過日お伝えしたところの「東京ルール」で救急搬送は何があろうが受け入れる病院を作ると大見得を切った東京都ですが、周産期医療においても「スーパー総合周産期母子医療センター」なる計画を実行に移しつつあります。
面白いのはこういう「スーパー総合」なるものを導入して何か現場環境に変化があるのかと思えば、どうやら名前が変わり全例受け入れが義務づけられたばかりで実態は何も変わっていないらしいということなんですね。

【産科医解体新書】(24)都の改革案に現場の疑問(2009年2月11日産経ニュース)

 東京都は「母体救命対応の総合周産期母子医療センター」(仮称)として3病院を指定しました。世論の批判に迅速に対応した結果だと思いますが、現場の医師は冷ややかに見ています。その理由は3つあります。

 まず1つ目は、一般の人と医療者との意識の差です。新たにセンターとして指定することで、一般の人の期待はかなり大きくなると思われます。「全員が救われる」と考える人もいるかもしれません。しかし、無条件に患者さんを受け入れたとしても、救命することが非常に難しい病は現時点でも厳然と存在し続けます。万が一、患者さんが亡くなったとき、家族と医療者との間で、また新たな火種ができるのではないかと危惧(きぐ)します。

 2つ目は、現場の受容能力は既に限界ですが、「無条件に受け入れる」という新たな業務が加わったにもかかわらず、今までの業務の何かが大幅に免除されてはいません。より大規模な分娩(ぶんべん)制限や正常分娩の中止、場合によっては婦人科病棟の縮小閉鎖も考えるべきかと思いますが、世間はそれを良しとはしないでしょうから、現場がしわ寄せを食うことになるでしょう。

 3つ目は、そもそもこれまでできなかったことが、名称を変更した程度でできるのかという疑問です。周産期センターはその地域内の最後の砦(とりで)として、これまでも搬送を断らないというコンセプトで運営されていました。しかし、受容能力が限界のため、患者さんを断らざるをえなかったのです。命を粗末に扱っているから搬送を受け入れられなかったわけではなく、命を大切にするからこそ、より良い条件で治療を受けられる施設を探していたのです。しかし、産科医不足から探すのが難しい状況に変化の兆しはありません。

 根本の原因解決にはまだまだ時間がかかるでしょうから、それまでのつなぎとしてのアイデアだとは思います。次の改善のための第一歩として、システムが機能するように見守る必要があります。(産科医・ブロガー 田村正明)

ま、全国最低の給与水準を誇る都立病院医師達がこれだけ働いてくれるというのであればそのコストパフォーマンスは絶大なものがあるだろうとは想像できますが、さすがに都当局も空気を読んだのか?選ばれたのは昭和大病院、日本赤十字社医療センター、日本大板橋病院といずれも都立でない施設ばかりです。
何かしらそれらしい名前をつけて指定をすれば現場が勝手にうまく回り始めるのならこんなにおいしい話はないのですが、現実世界ではなかなかそうはいかないんだろうなとは誰しも思うところではないでしょうか。
今まで世間では東京=医療の勝ち組地域という認識が先走っていましたが、先走り続けるあまりに日本医療の将来像を真っ先に実現させてしまうことになるかも知れませんね。

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