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2009年2月17日 (火)

岩手県立病院再編計画、さらに斜め上に疾走中!?

先日に引き続いてまた岩手県の公立病院再編計画の話題です。
住民に対する説明会が開かれ、一部(僻地)公立病院の無床化計画には断固反対という声が上がっているところまでは既報の通りですが、これに対して県医療局では計画通りの無床化推進という方針を崩していません。
この2月10日には県医療局から無床化を含めた最終計画案が発表されましたが、その報道がこちらです。

無床化前提に「支援」計上 県医療局 経営計画最終案を公表 /岩手(2009年2月11日読売新聞)

 県医療局は10日、県立6医療施設の入院用ベッドを廃止し、「無床診療所」にする方針を盛り込んだ県立病院の新しい経営計画の最終案を公表、県議や地元自治体に説明した。昨年11月の原案を大筋で踏襲する内容で、住民は改めて強く反発、19日から始まる県議会に、無床化撤回を求める請願を再提出する構えを見せている。県は来週にも計画を正式決定する。

 最終案は、5地域診療センターを09年度から、沼宮内病院を10年度から無床化する方針を維持した。
 その上で、住民側の要望に配慮し、入院が必要な患者の受け入れ先の確保については、基幹病院を中心に他の病院と連携しながら対応し、患者や家族には、無料送迎手段を確保することを新たに盛り込んだ。
 また、県は〈1〉関係自治体に夜間・休日、当直の看護師を置く〈2〉病床は当面「休床」とし、「廃止」手続きは民間の利活用など状況を見極めて決める――などの方針を口頭で示した。

 県地域医療を守る住民組織連絡会の及川剛代表(73)は「対案も提示してきたのに、期待を大きく裏切られた。悔しさでいっぱい」と声を振り絞った。

県当局は医療の危機を声高に叫んで改革を推し進めようとしていますが、実際のところ岩手県内での医療がどういう状況にあるのでしょうか?
こうした実情を判断する上で参考になりそうな記事がこちらですが、以前に紹介しました分とも併せて特に医療現場現場から発せられる声に留意ください。

常勤医20人以上退職か 岩手県立病院 /岩手(2009年02月06日河北新報ニュース)

 医師不足が深刻な岩手県立病院で、20人以上の常勤医が3月末までに退職する可能性のあることが5日、分かった。既に辞めた医師も含めると、年間退職者は50人前後に上ることになる。入院患者受け入れの縮小を迫られる病院も出るとみられ、22病院5診療所を抱える県医療局は医師の引き留めに懸命だ。

<入院・外来の縮小必至>
 医療局によると、退職の可能性があるのは、定年(65歳)の5人を除き20―30人。病院や岩手医大など派遣元の医局に退職を申し出たり、相談したりしている。
 既に退職した24人を含めると、年間退職者は全常勤医(530人)の約1割に達する。2006年度は30人(うち定年2人)、07年度は39人(同)で、増加傾向が進む形となる。

 退職意向を示している医師はほとんどが内科医で、30代後半から40代が中心。退職後の進路は開業医や専門性の高い他県の民間病院勤務などを考えているという。
 千厩病院(一関市)では内科医3人のうち、後期研修医の1人が3月末に大学に戻る。もう1人も4月末に県内の公立診療所に移る意向で、「入院や外来を抑制せざるを得ない」(医療局)状況になっている。

 大学病院も医師不足で後任の医師派遣は期待できない状況。医師が多い中央病院(盛岡市)が応援診療するしかないが、既に重い負担になっており、千厩病院以外にも診療縮小が広がりそうだ。
 前年度の47人から59人に増えた後期研修医も、指導する中堅医師の退職増が続けば、減少に転じる恐れもある。

 医療局の岡山卓医師対策監は「退職者増に医師確保が追い付かない。最後まで引き留めに努め、退職者を一人でも減らすしかない」と危機感を募らせている。

中核病院医師191人不足 公的施設分 県が試算(2009年2月17日読売新聞)

 県内の公的な中核病院で、不足する医師の数は、191人に上ることが、県の試算でわかった。この数は、これらの中核病院に勤務する常勤医全体の約5割にあたる。小規模な地域病院も含めれば、不足数はさらに増加するとみられ、深刻な医師不足の実態が改めて浮き彫りになった。

 県が16日の県地域医療対策協議会で報告した。それによると、現在、県内の公的中核病院で働く常勤医は計415人。これに対し、本来必要な医師数は606人で、191人足りなかった。

 医療圏別では、釜石地方の医師不足が最も深刻で、必要数43人に対し、常勤医は19人しかいない。診療科別では、最も深刻な産婦人科は、必要数56人に対し、常勤医はほぼ半分の29人。

 県市長会を代表し同協議会に出席した久慈市の山内隆文市長は、「医師の絶対数も大事だが、病院の機能を維持するために、医師の配置も考慮してほしい。久慈病院には麻酔科医がいないため、担うべき医療(全身麻酔を要する手術)が満足にできない」と訴えた。

地域医療の危機:担い手たちの声/上 /岩手(2009年2月7日毎日新聞)

 県立病院・地域医療センター6施設の入院ベッド廃止(無床化)を柱にした県医療局の新経営計画案。医療局は、過酷な勤務状況による医師不足を理由に挙げ、住民に「地域医療を守るため無床化が必要だ」と理解を求める。果たしてこの新経営計画案で医師不足に歯止めがかかり、地域医療の確保につながるのか。地域で医療に携わる現場の医師2人に意見を聞いた。

 ◇医師やる気そぐ無理解

 〈県医療局によると、04~07年度の4年間で県立病院・地域診療センターの医師は定年者を除き140人が退職。うち91人が開業や民間病院への転職を理由にしている。同局は「医師不足の病院に派遣される診療応援などがある県立病院の勤務環境は過酷だ」と無床化に理解を求める〉

 確かに当直で夜通し救急患者が運ばれ、翌日も外来がある中央病院は大変だろう。しかし、地域診療センターはそうではない。むしろ、事務方の無理解こそが医師のやる気をそいでいる。
 例えば紫波地域診療センターでは、現在のセンター長が赴任後、赤字額を減らしている。病床稼働率は7割を超え、ベッドはフル回転だ。多くの患者をみとっている。それなのに「赤字、赤字」と言われる。私ならすぐ辞めてしまうよ。

 〈紫波地域診療センターの無床化を巡る県医療局の住民懇談会で、「計画案はかえって医師不足を加速させる」と訴えた〉

 無床化対象6施設の医師は半分以上辞めるだろう。そもそも、診療センターと中央病院などは役割が違う。体力的にもセンターから異動するのは難しい。しかもセンターの外来業務のため、基幹病院から医師が派遣される。日本刀で爪楊枝(つまようじ)を研ぐようなもので、基幹病院の医師の不満もたまる。
 医療局の人事は病院経営を悪くしていないか。ある医師は、旧大迫病院で高血圧や脳卒中などの予防医学に傾注し、大迫方式として注目を集めた。宮古病院の院長に「栄転」したが、「医師を確保できない」「赤字だ」と批判され続け、辞めてしまった。内科のオールラウンドプレーヤーだった彼が大迫に残っていれば赤字にならなかったのではないか。

 〈紫波地域診療センターの役割を終末期医療に限定し、開業医も当直体制に協力する私案を示した〉

 末期がんのように痛みの緩和が必要だが急性期ではない終末期患者を受け入れてほしい。医療局は中央病院の協力病院で受け入れると言うがそれも3カ月が限界。患者の家族は転院先を心配し続けなくてはならない。外来は開業医でカバーできる。救急は現状の職員や機器では対応できない。

 〈懇談会でも県医療局は「持ち帰って検討したい」と回答を明言せず、間もなく計画の最終案を示す〉

 寄せられた意見を本当に検討しているのだろうか。「意見を聞いた」というアリバイづくりのような懇談会だった。地域にとって大事なベッドを守れないか。せめて6カ月間でも猶予がほしい。

医療機関というものは単に個々の規模・立地などのみならず、その役割・性格も自ずから異なるものであることは医療従事者であれば誰しも知っているところですが、当然ながら求められる医師像もそれぞれの医療機関によって全く異なります。
都心部の裏通りにひっそりと佇む完全予約制の高級料亭と、郊外の基幹道路沿いに建つ24時間営業のレストランとでは同じ飲食店と言っても客層も違えば期待される役割も異なることは誰しも判ることだと思いますが、同じ料理人だからと簡単にスタッフを融通しあえるような性質のものでもないのと同じことですね。
一日100人の救急患者が訪れる野戦病院に癌専門医を置いても仕方がないし、急性期医療に特化したスタッフを慢性期病床に送り込んでも患者・スタッフ双方とも不幸になるばかりなのですが、報道からは未だそのあたりのすり合わせは不十分なのではないかとも感じさせられるところではありますね。

とはいえ、いずれにしても一部の医療機関で限度を超えた慢性的な過重労働に陥っていることは明らかですので、早急にこうした態勢を改善するためにはどこかからスタッフを引き抜いてくるか、それが嫌なら県民の医療需要自体を今より削減していくかしかありません。
単に既得権益を少しでも削減することには反対だと言い続けるだけでは今どき誰からもまともに相手にはされませんが、事ここにいたってようやく地域住民からも自ら医療を守るために動くという姿勢が見えてきたようです。

市民率先、地域医療守れ 釜石病院サポーターズ結成 /岩手(2009年2月10日)

 地域医療の危機が叫ばれる中、釜石市民有志は9日、中核病院である県立釜石病院(遠藤秀彦院長、272床)=同市甲子町=を支援する「県立釜石病院サポーターズ」を結成した。市民に「コンビニ受診」の自粛を呼び掛けたり、医療現場の実態を学ぶ勉強会を開催する。過酷な勤務を強いられている医師の負担を減らし、住民一丸で地域医療を守り育てる意識を醸成する。

 サポーターズには、市内の育児サークルのメンバーや市母子保健推進員ら約160人が参加。
 市民に対して▽かかりつけ医師を持つ呼び掛け▽不要不急な受診、コンビニ受診の自粛呼び掛け▽医療状況の勉強会開催-などを実施し、病院の案内ボランティアや清掃にも取り組む。
 県医療局によると、院内でボランティアが活動する県立病院は多いが、対外的な啓発も含めた総合的サポートを住民が主体となって展開する例は初めてとみられる。

 県立釜石病院は釜石医療圏(釜石市、大槌町)の救急医療を担う基幹病院。同市では、ともに急性期医療を担った市民病院が2007年3月末に閉院し、県立病院の役割は一層重くなった。
 07年度の県立釜石病院への救急搬送は1414件。市民病院があった04年度の760件に比べ2倍近くに増えた。
 一方で常勤医の数は21人(研修医を除く)で、04年度の20人とほとんど変わっていない。救急搬送患者の約3割は軽症という実態も負担に拍車を掛けている

 サポーターズのメンバー10人は9日、県立釜石病院を訪問。代表を務める同市甲子町の主婦菊池美和さん(37)が遠藤院長に決意書を手渡した。
 菊池さんは長女(2)が入院したことがあり、小児科医の奮闘を目の当たりにした経験を持つ。「医師はいつ家に帰っているんだろうとよく思った。こういう地域だからこそ医師を大事にしないといけない。去られてからでは遅い」と力を込める。

 遠藤院長は「(兵庫県の)柏原(かいばら)病院の成功例もある。住民の皆さんが立ち上がって、一つ一つ協力してもらえれば、大きな力になる」と期待を寄せる。

住民がこのように自ら医療を守るべく動き始めたことに対して、地域市町村の動きはどうなのでしょうか?
当然ながら医師を引き抜かれ病床を廃止される僻地自治体にとって県医療局の計画案が歓迎されるものであるはずもありませんが、こうした確執が妙なところにまで飛び火してしまっているようなのですね。
岩手県のおいても昨今流行の医師養成奨学金という制度があるわけですが、その迷走ぶりをこちらの記事から紹介してみましょう。

医師養成奨学金の負担増 各町村、直接支出せず /岩手(2009年2月14日岩手日報)

 県町村会(会長・稲葉暉一戸町長、22町村)は13日、盛岡市山王町の県自治会館で会合を開き、県が求めていた2009年度医師養成奨学金の負担金の一部について、「医療改革で県に町村の話を聞く姿勢が見られない」として、「抗議」の意思を示すため各町村が直接支出しないことを決めた。県市町村振興協会(理事長・谷藤裕明盛岡市長)の基金から支出する予定。医療改革をめぐる県と町村の確執が本来必要な医師確保対策に飛び火した形で、地域医療を守るための冷静な議論が求められる。

 町村長21人が出席。稲葉会長は「責任ある医療の確保なくして負担金を求める県の姿勢は許し難い。とても『真水』では出せない」と、町村の反対を押し切って県立医療機関の改革を進める県を非難した。
 一方で「医師不足は事実であり、妥協せざるを得ない」として、同協会の基金を活用する方針を示した。

 医師養成奨学金は、岩手医大など医学部の学生を対象とする市町村医師養成事業として2004年度から実施。県と市町村が半額ずつ負担している。09年度は定員が10人から15人に拡大され、県が市町村に負担増を求めていた。町村の負担は三百数十万円増える見込みで、この分を同基金から支出する。
 藤原孝紫波町長は「医療改革では県民の意見が全く反映されておらず、県に反省を求めるべきだ」と、直接的な財政支出を行わないことで、県への抗議を示す姿勢を強調した。
 また、県が高度医療に集中する姿勢を見せていることから、民部田幾夫岩手町長は「医師が増えても中核病院のみに配置されたのでは、町村が何のために負担するのか分からなくなる」と、養成した医師の派遣先について疑問を示した

 これに対し県は16日の地域医療対策協議会で、養成した医師の派遣方針を示す予定。
 県医療国保課の柳原博樹総括課長は「医師の配置は市町村の意見を反映する仕組みをつくる」とする一方、「命のとりでを守らなければ、地域医療も維持できない」と、まずは中核病院の医師確保が急務であることを強調する。

岩手県が配置ルール案 奨学金で養成する医師 /岩手(2009年02月15日河北新報ニュース)

 岩手県は14日までに、公立病院の医師不足に対応するため、市町村との奨学金制度で養成する若手医師を地域病院、診療所にも一定期間派遣する配置ルール案を決めた。16日の地域医療対策協議会で提示する。

 配置ルールは、奨学金を利用して岩手医大や他県の大学医学部を卒業し、6年または9年間の県内病院勤務が義務付けられる医師に適用する。
 医師免許取得後の勤務について、中核病院や地域病院、診療所を回る6―12年間の複数のモデルケースを策定。義務期間の早期終了を希望する医師は最短の6年間、他県や民間の専門病院勤務を挟む場合は長い期間のモデルを使う。
 実際の配置は、地域対策協議会を構成する県と医療局、市町村、岩手医大などが医師本人や地域の要請を基に調整する。

 奨学金制度をめぐっては、県とともに資金を出している市町村から「卒業しても地域病院に勤務する保証がない」「県立の中核病院だけに医師が集中しかねない」などの声が上がっていた。学生に卒業後の進路の方向性を示す必要もあることから、県は配置ルールが必要と判断した。

あ~、まあ、そのですね…
岩手県立病院というもの自体が今や現場の医師達からそっぽを向かれつつあるのが現状なわけで、ともすれば逃散しかかっている医師達をどうやって引き留めるかという魅力ある政策を提示できるかどうかが今や県の医療の将来を左右する最大のファクターともなっているわけです。
地域住民達も今や単なる反対論者から脱して自ら積極的な医療保護のアイデアを提示しようとしている時に、医療行政を司る人々がこうまで露骨に医師をモノ扱いしている姿勢を示してしまうのもどうかと思うのですがね。

別に医療業界に限った話ではありませんが、組織に対する忠誠心などと言うものは無制限に期待できるようなものではありません。
岩手県の公立病院が特別医師達に対して手厚く報いてきたという話も寡聞にして知らないのですが、ただでさえ崩壊しかかっているであろう現場の志気に対してどのような影響をもたらすか、興味深く今後の経過を拝見させていただこうと思います。

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コメント

 毎日新聞の記事が正しければ、地域医療センターの機能として、地域住民はおみとり病院もとい療養病床を期待しているのに、現状は一般病床で運用されているのが、そもそもの齟齬と言えますね。そして、県医療局は昔も今も急性期医療しか見ていない、と。厚労省の猫の目行政を考えれば、将来どうなるかわからない慢性期医療には手を出さないというのは、それはそれで一つの見識と言うべきではありましょうけれど。
 そして、地域住民の要望というのも、お見舞いに行きやすいように近所に入院していてほしい、というのが本当ではないかしら。
 
 以上の見立てに間違いなければ、落としどころとしては、住民寄りにすれば、地域診療センターは療養病床にして、常勤医は一人、時間外の外来はしない、当直はすべてアルバイト。県医療局寄りにすれば、無床診療所と老健とか特老とかの介護施設。といったあたりではないかと思われます。

投稿: JSJ | 2009年2月17日 (火) 21時48分

良い悪いは別として、岩手の医療改革の特徴は行政側が確固たるビジョンの元に(半ば強権的に)改革を推進しようとしているように見えることです。
今まではともすればこっちに足りないと言われれば医師を送り、あちらに困っていると言われれば病院を作りと、良く言えば市民の声に反応してきたとも言えますが将来的なビジョンもない場当たり的の対応が多かったですから。
結果としてうまくいくのかどうかは全く判りませんが、一つの社会実験として見守っておく必要はありそうですね。

投稿: 管理人nobu | 2009年2月18日 (水) 10時58分

看護師、医者認定研修生の態度がド悪すぎて改善の予知さえみえない呆れ返る説も笑えるが

入学に際して岩手医大の黒さ
に勝てる
大学ほどいないWが有名主流~WWWW

投稿: mt | 2010年2月 3日 (水) 23時41分

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