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2009年1月28日 (水)

医療事故調の公開討論会が始まりました

いわゆる医療事故調については厚労省らが中心に久しく検討が続いていますが、何かと迷走していることは以前にも何度かお伝えしました。
この事に関連して先頃仙台と広島でオープンなディスカッションが為されたのですが、今後も各地でこういうことをやっていくのだそうです。
今までの議論の流れを見ていれば、厚労省としてはこれで国民の意見も広く聞いたことにして終わりにしたがっているんだろうなあという邪推も成り立つわけなんですが、会場の様子がどうだったのかと言えば報道を見る限りでも到底話がまとまったとは思えない状況のようですね。

「医療事故調」分かれる意見(2009年01月26日朝日新聞)

●仙台で討論会/医師側、仕組みに異論
 医療死亡事故の原因を解明して再発防止につなげる新しい第三者機関「医療安全調査委員会(仮称)」の課題を話し合う討論会が25日、仙台市で開かれた。「中立的な組織による調査は患者側と医療側の双方に有益」という理念については異論はなかったが、具体的な仕組みについては意見が分かれた。

 設置を検討している厚生労働省のイメージ(大綱案)によると同委員会は、医療機関の届け出や遺族からの依頼にもとづき、治療中の死亡事故の原因を専門的に調査。報告書を公表し再発防止の施策に役立てる。標準的医療から著しく逸脱した行為などがあった場合は、警察への通知も義務づける。

 患者側代表として参加した「医療の良心を守る市民の会」代表の永井裕之さんは、10年前に医療事故で妻を亡くした体験を語り、「日本では医療事故で亡くなった患者の数さえ把握されていない。中立・公平・正確な事故調査ができる機関づくりを早期に実現してほしい」と要望した。

 これに対し、青森県八戸市民病院の今明秀・救命救急センター所長は「大綱案では、医療側の過失などの定義があいまいで、警察へ通知するかどうかの線引きもできていない」と批判

 山形大の嘉山孝正・医学部長も「全国の大学病院には医療安全の専門部署や医療事故の情報開示制度が整備されている。この仕組みを使えば大綱案に匹敵する調査ができる」と主張した。

パネルディスカッション:安全調査委、在り方問う 厚労省が討論--中区 /広島(2009年1月26日毎日新聞)

◇医療過誤被害者ら参加
 厚生労働省が導入を検討している死因究明の第三者機関「医療安全調査委員会」の在り方を考えるパネルディスカッションが25日、中区の広島国際会議場であった。同省中国四国厚生局の主催。医療関係者ら約230人が参加し、医師や医療過誤の被害者らによる議論に耳を傾けた。医療安全調査委は、医療ミスが疑われる死亡事故の調査・分析を警察に先行して担う行政機関。同省は意見交換の企画を各地で開いている。

 パネリストの高田佳輝・県医師会常任理事は「死因究明のために新しい制度は必要だが、現段階で問題が多い。医療者への責任追及が前面に出ている」と指摘した。13年前、19歳だった息子を盲腸の手術中に亡くし、5年以上医療裁判をした藪見紀子さん=兵庫県=は「家族を亡くした人の意に沿うようにしてほしい。原因究明ができたら、遺族はもちろん一般市民も閲覧できるように」と求めた

 会場からは「薬の取り間違いミスならどうなるか」「現在の案では、医師は治療でリスクを冒すことはできない」などの意見が出た。

記事を見る限りでもさっぱり結論めいた事は見えてこなかったんだろうなとは想像できるところですが、実際の話の内容はさらに輪をかけて面白いものだったようです。
いつもお世話になっております「ロハス・メディカル」さんで仙台の説明会を詳しく取り上げていて、一度じっくり読んでみると色々と興味深いネタ満載なのですが、ここでは所々を抜き書きしてみましょう。

医療事故調の地方説明会in仙台

ディスカッション部から
大江
「総論としては医療側、患者、住民サイド、誰も反対する立場の人はいない。しかし第三次試案や大綱案を個別具体的に見ていくと、ここはどうなんだろうという話や、あるいはここがもっと良くなるというのがあるんだろう。今後医療安全調査委員会を立ち上げていくうえで、この点だけは強調しておきたいということがあれば。まず嘉山先生から」
この冒頭の発言を聞いただけで、ああこの人は経過を何も知らないんだと思った。本当に検討会の最初から、総論では誰も反対していないけれど各論では全く一致しないというのが2年続いているのに。厚労省から適当にレクチャーを受けて、分かった気になったのだろう。繰り返しになるが、直近3回だけでも議事録を読んでおけばよかったのに。

嘉山孝正・山形大医学部長
「その前に、この並び、大江先生が決めたんじゃないだろうが、最初が深田さんで最後が永井さん、こういうのは心理的にいろいろ影響がある。それはそうと永井さんは本当にヒドイ、犯罪に遭われたと思う。それは本当に気の毒に思うのだが、しかしその衝撃が強すぎて発言に国民が医療を育てるという観点が抜けている。というのが間違ったことをかなり言っている。たとえば医療安全室、国立病院機構でも何でも専従者を置くように厚労省から通知が出ていて、どこでもきちんと置いている。訂正してほしい。それから医療事故が増えているか減っているか分からないというが、そもそも永井さんは医療事故を定義していない。医療は安全でないというのは開き直りだという発言もあったが、まじめに医療をやっていればやっているほど100%安全なんて言えるはずがない。そういうことはテレビでインチキ医者が言っているだけだ。生物なんだから、薬を入れた時のサイトカインの出方もみんな違う。
根っこの部分では永井さんと同じだと思うのは、今が信頼を取り戻すいいチャンス。そのために患者の苦痛を医療側が真摯に受け止めなきゃいけない。しかし永井さんの話し方は医療側の聴く気を削ぐ。というのがエビデンスに基づかないから。それだけヒドイ目に遭ったんだということは分かるが、むしろ信頼関係を崩している。もちろん我々医療側が自律自浄をしてこなくて、それが必要なことは間違いが今は情報を出し合って、医療を国民が育てていくべきとき。永井さんには我々の仲間になって、本当によい医療をつくるために一緒にやっていきたい。
そもそもが日本の医療費、高等教育費がとんでもなく低いことが根底にあるんで、この問題についても大綱案では財政も何も触れられていない」

あ~あ、言っちゃったよこの人は…
まあこの嘉山センセという御方は今までの議論の経緯をみていただいてもかなりの極論家なのでかなり割引いて考えないといけないんですが、こういう公開の場ではっきり言ったことにはそれなりに意義があったかなとは思いますね。
で、これに対する反論がこちらということになるんでしょうか。

永井裕之・医療の良心を守る市民の会代表(広尾病院事件被害者遺族)
「その前に嘉山先生のクレームにお答えしたい。医療安全の部署はそれぞれの病院につくっているけれど、私に言わせれば形だけのところが多い。一番の問題は院長自らが責任を持ってやっているところは少ない。私なんかが講演する時も、院長は必ず出席してくださいというのだけれど、院長が出てくる病院は少ない。ちゃんとやっているというなら、その病院で事故にあった被害者遺族の色々な話を本当に聴いていただきたい。被害に遭った人に話をさせてほしい。それから言ってほしい。現実は形だけだ。医療の不確実性について、私などは事故に遭ってから時間が経っているから理解しているつもりだが、ほとんどの人がこういう医療安全調査委員会ができても医療側にいいようにやられるんじゃないかと思っている。そこを医療界に任せると言っているし、先生の現場だって第三者委員会をつくっているのに、なぜこの委員会を医療者がしっかりやろうとしないのかが分からない」

嘉山
「気持ちは分かるんだが、しかし永井さんのところに自称被害者だと言って来ている人が本当はどうなのか。被害者といっても病気が重すぎてという被害者かもしれない。その辺が永井さんの話からは分からない。だってエビデンスがないから。公正中立と言いながら遺族側を入れろと言っているけれど、遺族側が入ったら公正中立ではない。言っていることが矛盾している。我々が今反対しているのは復讐の色が強すぎて、これでは誰も情報を出さなくなっちゃうからだ。重い病気で結果が悪かった人まで被害者だと、大野病院事件の遺族もまだ被害者だと言っているようだが、医療事故の定義がハッキリしてない。だからそこは互いに情報を出し合っていくしかない。永井さんの主張からは、医療者は嘘つきだから警察に捜査してもらうんだというコンセプトしか見えない。それでは、おっかなくて現場はどんどん萎縮していく。法を厳しくすれば官僚や官庁は責任逃れできるけれど、それでは社会が崩壊しちゃう」

永井
「最後のところは全く同じ。だが、そこに行く前、最初に納得いくように説明されていない。理解できないうちにシャットアウトされて、それからはクレーマーだと言われる。納得できるように説明されてないんだから」

嘉山
「やってないというエビデンスを出してくれ。事実を出してくれれば、私は全国医学部長病院長会議の医療事故に関する長で、処分することだってできるんだから」

大江
「出発点は違うが2人の言っている情報公開とか説明責任とかは同じなので、お互いに歩み寄ることで差は埋められるのでないか。従来の司法手続きから独立して再発防止につなげるんだという点では異論ないんだと思う。信頼回復とか独立性とか事故とミスの線引きとかのために、では委員会は何ができるのか。そうはいっても事故調の実態が不明なままだと疑念を抱かれてしまうのはあるのだろうが、共通しているのは独立して儲けられる調査委員会の公平性や透明性という点では皆さんの意見は一致する。今後法案化していくにあたって、どういう形で国は進めて行くのか」

ま、最後は水掛け論になってしまうのはそもそも互いに目指すところが根本的に違うんだから当然なんですが、その違いに目をつぶって話を進めても無理なんじゃない?ってのが今までの長い議論で唯一見えていたことなんだと思っていたんですがね。
今まで座長をしてきた前田氏に関しても言えるところですが、今回まとめ役をしているこの大江氏も何かしら結論ありきで誘導したがっているような気配が見え隠れするのは厚労省の思惑を反映しているということなんでしょうか?

この事故調の話題、そもそもの議論の出発点が明らかに異なるものを一緒くたにしてしまったところから事態が斜め上に一直線に進行中なんですよね。
思うに、昨日まで元気だった人間が今日ぽっくり逝っちゃうことに象徴されるように、医療なんてものは納得できるようなものではなく理不尽な現実そのものと思うんですが、それを納得させられないのは誰かの責任なんでしょうか。
極論すれば理不尽だろうが何だろうが納得させてもらう権利があるんだと思っている人間と、それは仕方がないこととして人間の工夫で改善できることを最大限改善した方が最大多数の最大幸福につながるんじゃないと思ってる人間とでは、話が噛み合うはずがないと思うんですよね。

「再発防止を目的としているなら、航空事故調みたいに当事者免責を条件に全ての事実を明らかにさせないと駄目なんじゃないの?」
「どんなことをやれば犯罪になるのかはっきりしないから、ここから犯罪なんだときっちり線引きしてくれ」
「ひどいミスを起こした者が全く放置されている、だいたい何が起こったのかも判らないなんてひどいじゃないか」

それぞれに見ていけばどれも重要な問題なんですが、これらを一つの組織なりシステムなりでやろうとするのであれば誰もが満足出来ないものになってしまうのが目に見えているんじゃないでしょうか。
患者救済は無過失補償システムを早急かつ広範に導入すると同時に第三者の医療・法曹専門家による調停システムによって行う、一方で純然たる再発防止の観点から法曹ではなく医療とリスクマネージメントの専門家を中心に犯罪捜査とは切り離した調査システムを作る、遠回りなようですがそれが一番確実で将来に結びつくんじゃないかなと思っています。

一方で司法的なリスクを現状で過大評価して「何が何でも法的に問題ないようにやってくれ」と言うのも話を混乱させているだけのような気がします。
大野事件などの影響もあって、医療の結果としての死亡や障害事例は実質刑事訴訟から切り離すということが運用面から実現しつつある現在、司法的な線切りを事故調の場において過度に強調する意味があるのかなとも思うのですけれどね。
例えば医療への司法介入は明らかな故意犯に限るといった極めて大雑把なくくりで捉えるならば、別に専門家の詳細な調査と判断なんてものがなくとも警察や検察の判断だけで十分に対応できるはずだし、それで判断できないような複雑な話にはそもそも介入すべきでないという流れを定着させるべきでもあるでしょう。

何にしろこれだけ先が見えない袋小路に陥っている議論の流れを、近い将来にでも厚労省が勝手に「学識者の議論に国民の声も聞いた結果こうなりました」とまとめてしまうことこそ危惧すべきことでしょうね。

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