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2009年1月26日 (月)

医療の行く末は真っ暗闇?

ネットで面白い話を紹介されていたのでこちらにも転載しておきます。
近未来の医療が二極化した日本で、全く対照的な二つの病院に搬入された患者のその後を描いた物語といったところでしょうか。

2018年 菊花病院

あらすじ
10年後の日本。突然自宅で倒れた沙希の母親。救急車で運ばれた病院、それは公立病院『菊花病院』。主人公の目を通して、近い未来の日本の医療がどうなっているのか、覗いてみたいと思います。

2018年 地中海病院

あらすじ
10年後の日本。突然自宅で倒れた沙希の母親。救急搬送先として、民間病院『地中海病院』を指定した主人公だったが……

結局のところどちらの道を選んでも幸せになれたかと言えば難しいところですが、果たしてこれはフィクションの世界だけの話でしょうか?
医療費は高騰する、現場のスタッフは疲弊する、その一方で医療需要は増大する一方とくれば、何かしら今より未来の医療が良くなっていくと考えること自体が根拠のない妄想ではないかという考え方もあっておかしくないわけです。
たとえば最近こんな記事がさりげな~く出ていましたが、こういうものを見てどう考えるかですよね。

国立高度専門医療センター:6機関、借入金1700億円超す(2009年1月23日毎日新聞)

 10年度に独立行政法人に移行する国立がんセンターなど厚生労働省所管の国立高度専門医療センター6機関(8病院)の借入金残高が計1700億円を超えることが22日、厚労省の試算で分かった。大半の病院で経常支出が経常収入を上回り、国の十分な支援がなければ経営そのものや、医療の質の低下などが懸念される。

 国立高度専門医療センターは、がんや循環器、子どもの疾患などの先進医療を担う。独法化は、研究成果の実用化推進や優秀な人材確保などのため、昨年12月に成立した法律で決まった。この過程で厚労省が初めてセンターごとに借入金を試算した。

 資料によると、借入金残高は、国立がんセンターが583億円と最多。国立国際医療センターの357億円、国立成育医療センターの343億円--と続き、計1732億円に達した。経常支出に対する経常収入の割合(収支率)は07年度現在、国立がんセンターの中央病院と東病院が100%をやや超えたが、他はそれ以下で、自由に使える財源は乏しい。

 中央病院など比較的最近できた病院は、民間に比べ、1床当たりの建設費が約1億円と約3倍高い。厚労省は「借入金は建物や医療機器の整備に充てた。高機能病院のため建設費が高くなり、借入金が膨らんだ。独法化後も運営に支障がないよう財政当局と調整し対処する」としている。

 ◇上昌広東京大医科学研究所特任准教授(医療ガバナンス論)の話

 独法化すれば、各センターは独立採算を取らなければならず、これだけ大きな借入金の返済はまず不可能。一般病院にはない、がんなど特定疾患の高度な専門治療を行う目的があり、経営困難から不採算部門を切り捨てるようなことがあってはならない。ここまで放置した国の運営責任も重い。対応策を講じるべきだ。

ま、がんセンターや循環器病センターですから厳密に保険診療に則ってやってる医療ばかりではなかろうことは容易に想像できるところだと思いますが、それにしてもよくここまで増えたものですね。
こうなるとどう考えても自前での返済は無理ですから何らかの対策が必要になるのは明白ですが、それがどのような対策であるかが問題です。
「今後は借金を作らない医療に徹する」ということにでもなればこうした医療機関において医学的に求められている医療を提供することは出来なくなるでしょうが、果たしてそうした医療が社会的に求められている医療であるかどうかという点にも一度検証が必要でしょうね。
社会的に求められているのであれば受益者である社会が負担すべきなのは原則論からして当然だと思いますが、今の医療システムではそうした受益者負担と言うこと自体がやりたくてもやれないようになっている事も一つの問題ではあるわけですね。
そうした観点から冒頭の二つの物語を読み比べて見れば、また面白い想像も出来るのかなと言う気もしますがどうでしょうか。

立て続けに銭金の絡む話ばかりで恐縮ですが、何百億という大きな話が出てくる一方ではこういういじましい話も報道されています。

レセプト:オンライン請求、国を相手に提訴 医師ら「費用重く廃業も」 /神奈川(2009年1月22日毎日新聞)

 厚生労働省令による医療機関の診療報酬明細書(レセプト)のオンライン請求義務化を巡り、県内を中心に35都府県の医師・歯科医師961人が国を相手に21日、省令に従う義務がないことの確認を求める訴訟を横浜地裁に起こした。医師側弁護団は「廃業せざるを得ない医療機関が出るため、憲法が保障する営業の自由を侵害する」と主張している。

 訴状によると、厚労省は06年4月の省令で、原則11年3月末までにオンライン請求に切り替えるよう医療機関に義務づけた。原告の医師らは▽多額の初期費用を負担できず廃業に追い込まれる▽省令による義務は、国会を唯一の立法機関とする憲法に反する▽オンライン化により情報流出の危険にさらされ患者のプライバシー権を侵害する--と主張している。

 提訴後の会見で、県保険医協会の入沢彰仁理事(58)は「医師不足の地区で病院がつぶれたら、国民は幸福なのか。国民の健康を考えると許されるものではない」と訴えた。同協会は06年からオンライン義務化を問題視し昨年、全国の医師らに提訴を呼びかけた。第2次提訴も予定しており原告は計約1200人に達する見込み。

レセプトというものはどんな医療を行ったかという記録であって、通常紙に記載されたものを医療機関から提出して審査を受けます。
ご多分に漏れずこれらの作業も久しく前から次第に電子化が進んでおりまして、専用の機械(レセコン)や電子カルテなどとも絡めたシステム導入が進んでいるのですが、厚労省としては更に一歩進んで一気にオンライン化を強制しようと言う話にまでなったわけですね。
今現在も手書きや古いレセコンで何とかやりくりしている場末の(失礼)医療機関にとってこういう「高度な」作業は非常にストレスになるだろうということは容易に想像出来るわけで、実際問題としてオンライン化が義務づけられれば60歳以上の老開業医の約3割は引退するという調査結果もあるようです。

「別にそんな時代遅れの爺医(失礼)なんて勝手に辞めさせとけばいいじゃん?」という声も聞こえてきそうな話ですし、確かにその通りなのかも知れないのですが、問題はそういう爺医(たびたび失礼)の皆さんも地域の中で一定の医療リソースとして機能していたという現実なんですよね。
早い話が今ですら患者殺到でひいひい言っている基幹病院の外来に、そうした廃業した開業医からどっと患者が流入してきたとすればどうなるか?
爺医(何度も失礼)の外来に通うような人たちというのはおおよそ医療の内容よりも世間話じみたことを求めているようなタイプが多いんじゃないかと邪推しますが、そんな人たちが一人三分で回さざるを得ない外来に押し寄せてくればどうなるか、火を見るよりも明らかではないでしょうか?

実際に近ごろでは地域の老開業医が後継者もなく廃業した結果患者が周辺医療機関に流れるということは珍しくありませんが、あちこちでこういう双方にとっての不幸とでも言うべきミスマッチが起きてしまっているのですね。
さて、この現象に対して最大の関係者であるはずの患者側がどういう見解を有しているのかということが注目されるわけですが、患者側代表氏の言葉によるとこんな感じの認識らしいです(苦笑)。

『地域医療の崩壊招く』 診療報酬オンライン請求 義務化に反対し提訴の医師ら(2009年1月22日東京新聞)

厚生労働省が進める診療報酬明細書(レセプト)のオンライン請求義務化。二十一日に義務化反対の訴訟を起こした医師と歯科医師は、会見で「負担が大きい」と窮状を訴えた。一方、患者側には「医療の情報開示につながる」と評価する意見も多い。 (中沢穣)

 「三百万円の投資を強要される。零細の開業医は辞めるしかなく、地域医療の崩壊を招く」。横浜市港北区の小児科医(46)は語気を強める。原告には三十五都道府県の医師ら九百六十一人が参加、さらに二百人以上が加わる見込み。県内からは二百二十二人が参加した。

 現在、医療機関による診療報酬請求はオンラインのほか、手書き用紙や電磁媒体の郵送など四種類の方法があるが、二〇一一年からはオンラインのみになる。原告団によると、専用コンピューターを導入した約八割の開業医は十五万円程度の追加投資で済むとみられるが、手書き請求の約二割の開業医は数百万円の費用が必要

 全国保険医団体連合会によるアンケートでは、医師の約12%、歯科医師の約7%が「開業医を辞める」と回答している。

 一方、患者側代表として厚労省の中央社会保険医療協議会の委員を務める勝村久司氏は「オンライン義務化は医療の情報公開・共有につながる」と評価。「オンラインで請求している病院は、患者の請求に対し、レセプトの発行が義務付けられている。医療費の内訳が透明になり、不必要な検査や治療がしにくくなり、患者の価値観に合わせた医療につながる」と話した。

厚労省は義務化の利点を「年間十六億件のレセプトの審査や仕分けの効率化」と説明、医療費削減につながるとしている。

ま、御高名なる勝村氏にとってレセプト開示と言えば何とかの一つ覚えにも相当する悲願ですから何でもこちら方面に結びつけたがるのも当然なのですが、この人は本当にこの引き出ししかないんですね(苦笑)。
一応は政府のしかるべき筋で委員として活動している人物がこういった認識なのですから、出てくる政策も推して知るべしと言うものですが、医療費削減より何より今最も窮迫しているのは医療の現場であるわけですから、医療システムをいじるなら現場の負担をどう減らすか、実働医師数をどう維持するかという方向でいじるべきだと思うのです。
ところが現実にはこのように現場の負担を増やして後方(この場合は審査する側)に楽をさせよう、現場を働かせて医療費を削ろうと言う政策ばかりというのは一体どういうことなのかと、医療行政に関わる誰一人として疑問には思わないのでしょうか?

こうしたオンライン化の流れは医療に限らず他業界でも最近流行りなのですが、小売業界などでも実際に地域の販売ネットワークが大きく変わるといった影響が出てきています。

10年後と言わずもっと早い段階で医療業界の大きな再編成が起こっても全く不思議ではなさそうな気がしてきました。

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