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2009年1月29日 (木)

医療業界に向けられる外部の目線

専門性の高い職場ほどものの考え方が一方向に偏りがちであるということはしばしば経験することです。
そうした職場に全く依って立つところの異なる外部の意見を入れることは確かに有用な場合もあるでしょう。
しかしモノには限度と言うものがあり…と言いますか、空気読めと言いたい話も当然ながらあるわけですね。

市長推すトップ、波紋呼ぶ 町田市民病院/東京(2009年01月27日朝日新聞)

 経営改善を目指して4月から新たな管理体制になる町田市の市立町田市民病院が、トップ人事を巡って揺れている。石阪丈一市長が病院トップの事業管理者に医療や病院経営の経験がほとんどない人物の登用を進めているのに対し、病院内外から反発や疑問の声が上がっているからだ。この問題を契機に地域医療の中核を担う市民病院のあり方を問い直す動きも広がっており、三つの市民団体などは「混乱を招く恐れが強い」として、相次いで緊急集会を呼びかけている。(永沼仁)

 町田市民病院は、市内唯一の公立病院で、ベッド数は458床。赤字体質の改革に向け4月から地方公営企業法を全部適用(全適)し、病院トップの責任や権限を強化した「管理者」を新たに置くことが決まっている。

 焦点は管理者の人事だ。現在の病院トップの山口洋・総院長(74)は、任期が3月末で切れる。石阪市長は総院長のポストをなくし、管理者に元毎日新聞記者の四方洋氏(73)を起用する考えで、昨年10月には四方氏を非常勤特別職の「病院事業管理準備担当者」に就任させた。

 しかし、「全適」の移行時期や管理者の外部登用が病院幹部に示されたのは、議案が提出された9月市議会の始まる1カ月ほど前。一般職員への説明は議会開会の直前だった。現場からは市長の説明不足、病院経営の経験がない人物登用に疑問の声が上がった。

 さらに12月議会では、山口総院長が議会を侮辱する内容の文書を配ったとして、石阪市長が山口総院長に謝罪を求めるなど、市長と病院トップの「不和」が表面化。山口総院長が辞めた場合、他の医師が同調して引き揚げる事態につながる懸念などが問題視された。

 山口総院長は「市長が問題にした文書は、私の意見ではなく院内の声をまとめたもの」と反論。「市長から辞職を迫られたが、詳しい理由の説明はなかった」と語る。

 石阪市長はこれまで、人選について「病院を客観的に見て、経営の中身をきちんと説明できる人、組織間の調整ができる人」と説明する。医師の退職の懸念については「組織がしっかりしていれば混乱はしない」と言い切る。

 しかし、病院の医師や職員の間には困惑や動揺が続いている。医師不足から昨年9月に休止した小児科救急の対応などの課題もあり、「改革は時期尚早。今後の医師確保ができるのか」と疑問を口にする人もいる。

 自治体病院に詳しい伊関友伸・城西大准教授は「病院管理者は現場の医師や看護師の気持ちを理解できる人、医療経営に詳しい人でないと務まらない。専門家でない人でうまくいった例はあまりない。いきなり落下傘のような人が来たら、医師の大量退職につながるリスクがある」と指摘する。

院内の声をまとめたら市長を侮辱する内容になったというのもどんだけ~と思いますが、この場合専門家であるとかないとか言う以前に、その出自が問題なんじゃないですかねJK…
町田市民病院の現状に関しては「石田のヲモツタコト」さんでも何度か意欲的に取り上げられているようなので参考までにリンクしておきます。
大阪でもそうですが、東京でもこういった「ごく当たり前の」問題が発生しているということをどう考えるかですかね。

町田市民病院はこのような状況に陥っていないのだろうか?

町田市民病院について市議会の会議録読んでみた

さて、今度は福岡から何かと移転問題で話題の福岡こども病院ネタです。
ここでもキーワードは「外部の目線」ということになるのでしょうか?

福岡市長、再調査に慎重姿勢・・・こども病院移転問題(2009年1月28日  読売新聞)

 「ゼネコンに聞くことの何が悪いのか」――。福岡市立こども病院・感染症センターの現地建て替え費用をゼネコンへのヒアリングを基に上乗せした問題について、吉田宏市長は27日の定例記者会見でこう語り、「問題ない」との認識を強調した。「メモは残していた方が良かった」とする一方、経緯の再調査には慎重な姿勢を示しており、病院の人工島への移転を決める根拠になった手続きは、不明瞭(めいりょう)さが解消されないままだ。

 ■ヒアリングの妥当性
 ヒアリングは、病院移転のあり方を見直すため、副市長以下7人で構成した検証・検討チームが実施。コンサルタント会社(東京)が2007年7月に報告した現地での建て替え費85億5000万円について、「見積もりが甘い」として、病院建設の実績があるゼネコン3社に改めて見積もりを無償で依頼した。3社ともに、「(コンサル会社による見積もりの)おおむね1・5倍は必要」と答えたため、市は128億3000万円に増額したという。
 こうしたヒアリングには「行政と業者との癒着の温床になる」との指摘もある。しかし、市長は会見で「ゼネコンは、最も建築や建設の技術を持っている。何が悪いのか分からない」と正当性を主張した。

 ■揺らぐ信ぴょう性
 ヒアリング時期に関し、市は「(2007年の)8月10日前後」と昨年10月の市議会で答弁していたが、実際には07年7月27日に作った内部資料に現地建て替え費用を上乗せしたデータを盛り込んでいた。ヒアリングを受けたという大手ゼネコン九州支店は「電話で答えただけ。現地にも行っていない」と証言する。
 これに対し、市長は「コンサル会社の報告書を示し、意見を聞いたのは事実」と釈明。総務企画局の職員は会見の席で、「7月に大まかな数字を教えてもらうよう依頼し、おおむね1・5倍になりそうな感触を得たため、8月の正式回答の前に会議資料に反映させた」と修正した。

 ■文書破棄
 「メモは残しておいた方がベターだった」。検証・検討チームがヒアリングをまとめた文書を破棄したことについて、吉田市長はこう振り返った。一方で、「関係資料すべて保管する必要はない。ヒアリングした事実はあり、とがめられるものではない」と主張。経緯の再調査に関しては「軽々に申し上げられない」と慎重な姿勢を示した。

 ■責任は
 吉田市長は初当選した06年の市長選で公約に「こども病院の人工島への移転計画を見直す」と掲げたが、検証作業の結果として、結局は人工島移転を決めたことに対し、市民の間には「公約違反」との批判も渦巻く。吉田市長は「色んな人に話を聞き、どこから聞かれても大丈夫なように検証した。きちんと検証する責任は果たした」と述べた。

一般論として見積もりの検証という作業は大金を出す側として非難されるべきものではないと思いますが、福岡こども病院に関しては以前から移転計画自体に対する反対意見が根強いことも影響しているのでしょう。
特に昨今では公立病院=割高という図式がようやく一般にも知られてくるようになっていますから、いい加減な(失礼)見積もりを根拠に更なる支出増額をなんて話になればひと言なしと言うわけにはいかないのは理解できます。
ただし同病院のような性格の医療機関ですと一般病院と比べて建設費が高くつくだろうことは想像に難くありませんから、その点では実際に当初の見積もりが甘かった可能性もあって難しいところではあるのですが。

福岡こども病院についてはこうして日々ケチがつきまくっていますが、現在のこども病院に産科も併設した上で新築移転し小児三次救急をやるというなかなかに野心的な計画である一方、人工島への移転計画に関しては市内小児科開業医が軒並み反対だとか、市内基幹病院が揃って反対したとか何かと批判が強いのも事実です。
小児三次救急に特化した病院を目指すというのであればむしろ飛び込みの一般救急が来ない人工島の方がいいんじゃないかという意見もありだと思うのですが、漏れ聞こえるところからすると一次から三次まで全てやるという話もあって、それは早晩現場崩壊の死亡フラグ立ちまくりパターンなのでは…と危惧するところなきにしもあらずですけどね。
とは言え、実際に同市内の小児科救急が決して充足しているという訳でもないようですから、「とりあえず小児急患を送り込める病院を」という意見にも支持が集まるのは確かでしょう。

さて、先頃福祉医療機構の調査で全国一般病院の4割超が赤字と言う話が出ていましたが、未だに半数が黒字と見るべきなのか、そんなに赤字ならさっさと廃業した方がいいのではと見るべきなのか微妙な話題ではありました。
こと公立病院に限って言えば自治体からの繰入金などを除外すればほとんど例外なく赤字という状況であることが最近何かと自治体議会などでも問題になっている所以ですが、千葉県がんセンターの竜崇正氏の記事中にも「外部の目線」が登場してきます。

公立病院はなぜ赤字か?/竜崇正(千葉県がんセンターセンター長)(2009年1月27日日経メディカル)

1 公立病院の現状

公立病院は全国で970あるが、2001年に赤字の公立病院は50%で累積欠損金は1兆4000億円であったが、診療報酬の切り下げやその他で2006年には75%の公立病院が赤字に苦しみ経常赤字額は1997億円で、累積欠損金は1兆9736億円となっている。

このため総務省では2007年末公立病院改革ガイドラインを示し、各自治体に公立病院の改革プランの提出を命じた。ガイドラインでは、1, 病床利用率や人件費比率など具体的数値目標を定めての「経営の効率化」、2, 近隣の病院との機能重複を避ける「再編ネットワーク化」、3, 経営の権限と責任の一本化や民間的手法を取り入れるため、指定管理者制度の導入など、「経営形態の見直し」を改革の柱にすえた。この中身は廃院にする際の手続きまで示しており、公立病院にとっては相次ぐ医療費の切り下げの中、厳しい時代にたたされている。

2 赤字の原因は?ある評論家の意見

Wedge2008年7月号で一橋大学の井伊雅子教授は赤字の原因を、医師不足、診療報酬改定による医業収入の減少に加え、人件費や医業材料、病院建設費など「公」ならではの高コスト体質によるとしている。そしてこの大赤字の原因は、経営感覚を欠いた病院に責任があり、これを看過してきた行政や議会にも責任がある論評している。
公立病院改革ガイドライン策定のある委員は、民では黒字で維持しているのだから、公立病院はさらなる経営努力をして、公的な繰り入れ金が不必要なレベルまでの収支均衡を目指すべきであると述べている。

3 病院赤字の本当の原因は?

1)国の低医療費政策が主な原因!
公立病院が日本の救急医療や良質な医療を支えているといっても過言ではない。その病院の医師も懸命に働いている。それでも赤字になるその医療費の設定や医療政策に問題があるのである。
(略)

2)地方公営企業法の適応を受けるため、病院運営に必要な人材やシステム導入など、状況に応じた弾力的な経営ができない。

病院運営に素人の事業管理者が、公務員ルールを適応して病院運営をするので効率的運営ができないのが、公立病院赤字の大きな原因である。数字あわせによる経営計画を策定しての病院運営が行われるため、より良い医療を提供しようとする現場医師と意見が合わなくなり、医師が公立病院を離れる要因となり、さらに赤字に拍車がかっている。千葉県病院局長はこの3年の間に3人替わっており、継続的な病院運営方針がとれない中で、赤字になっても誰も責任をとらずに事業管理者が「渡り」を繰り返すので、残された医療現場はさらに疲弊する結果となっている。

3)医事会計のプロが公立病院にいない!

医事会計業務が外部委託なので、診療報酬が正しく算定されず、民間に比較してはるか少ない収入しか得られない。

4)その他公立病院赤字の要因

1 公務員の労働時間なので、9時から5時までの診療しかできない。
2 国の低医療費政策のため、良心的医療では赤字になる。
3 いわゆる公務員病といわれる働かない職員をかかえての運営になる。
4 国や県や市の縦割り行政のため、人口密集地では地域の実情を無視した総合病院が乱立し、病院同士の連携や機能分担ができず不効率となっている。
5 医師不足が深刻化し、公立病院では医師を集められない。
6 消費税で医療は非課税だが、材料費や薬品など病院に必要な経費は課税されているため、その差を病院が負担しなくてはならず、その金額は平成7年で病院負担損税は3300億円、総額で4600億円にもなり、病院経営を大きく圧迫している。
(略)

5 公立病院を護り、日本の医療を護るために

公立病院には、患者を護ろうという心優しく技術力にあふれた職員が多く、必死に働いている。しかしこれらの人たちも疲弊し、少しずつ病院から立ち去っており、今や日本の病院医療は崩壊しかかっている。公立病院改革ガイドラインが強力に推進されると多くの公立病院が崩壊し、良質な日本の医療は崩壊すると考える。今こそ厚生省主導の医療から、現場主導の医療に変換させなければならない。それには我々医療者がお互いの医療の質をベンチマーキングし、医療の質を高め国民の信頼を得る努力をしなければならない。無駄な医療や、質の悪い医療している病院などを告発する自浄努力も求められている。国ができないなら県として医療を護る継続的な「医政」が必要である。今が日本の医療を護れるかの正念場と考える。

一方で「公務員病といわれる働かない職員をかかえての運営」と言いながら他方では「患者を護ろうという心優しく技術力にあふれた職員が多く、必死に働いている」と言ってみたりと、この方の現状認識には色々と突っ込み所が多くて楽しいですが、ここでの外部の目線は「2 赤字の原因は?ある評論家の意見」の部分でしょうか。
医療経済論をご専門とする井伊雅子・一橋大学教授の依って立つところに関しては自身が医療経済に取り組むようになった経緯を語っているこちらの会談なども参考になりそうですが、「不十分な費用で質の高いサービスを確保できるというのは、経済学の観点からはあり得ない」「どこかに歪みがあるのではないか」といった問題点の提起をしています。
「日本の医療保険制度は「too generous」(寛大)である」が故に皆保険の存在自体がモラルハザードを招くという視点はなかなか興味深いかなと思うのですが、こうした観点からかねて同氏はコンビニ受診の問題など受診者側の受益と負担とのミスマッチを指摘しているようですね。

医療の需要が増える一方でありながら供給は急には増えない、むしろインフォームドコンセントの徹底など患者一人当たりの手間の増加を考えるなら相対的に医療資源不足が進行する一方であるとも言える中で、こうした受給ミスマッチを利用制限や受益者負担で解消しなければどうしようもないのではと言う考えも当然ありだと思います。
受益者側が自己抑制出来ないのであれば供給側が制限をかけるしかないわけで、そうなれば真っ先に制限の対象となるのが赤字垂れ流しの救急医療など非効率で無駄な分野となるのは医療経済論的にも自明のことです。
実際に今の時代に医療で黒字を出そうとするならばこうした「美味しいところだけつまみ食い」をやっていくしかないのが現実であって、きちんとした経営者のいる民間病院ではとっくにそうした経営の転換を行っています。

頑張った方が損になるなら頑張る意味などないわけですから、無駄な医療や質の悪い医療を排除するためにも、医療現場の人間はもっと公務員化した方が病院経営のためになるという考えは当然成り立つわけですし、実際にそうなりつつあります。
とっくに崩壊したどこかの共産圏諸国でその昔似たような話を聞いたような気もしますが、まさに外部の冷静な目線が見抜いた通りのあり得ない歪みを是正しようとする、これは医療現場の自己正常化ととらえるべきなのでしょう。

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コメント

 福岡の人工島は、造ってみたものの使い道がないものだから、少しでも空き地を減らすために、都合良く建て替え計画のあった子ども病院を移すことにしたんじゃないかと、私は邪推しています。あんなところに病院建てても患者は来ないだろうと思いますが、まさにそれを狙っているのなら大したものです。側副経路のないところですから、救急するならヘリポート必須でしょうね。
 竜崇正氏の文には、私はイヤ〜な感じを受けました。
 以前勤めていた病院は、地域の基幹病院といわれている公的病院でしたが、4〜5年前、収入を増やすために各科アイディアを一つだせ、ということになりました。で、出てきたのが、「MRIをたくさん撮る」とか、とにかく検査をたくさんするというのがほとんどで、それらが本当に目標になってしまいました。まさに貧すれば鈍すです。その時私は、この病院はダメだな、と思ったのですが、恐らく他の医師たちも内心ジクジたるものがあったと思うのです。でも病院がそこまで追い込まれたのは、低医療費政策のせいなのであって、それを「無駄な医療をしている病院を告発する」って竜崇正氏はどれほど偉いんだか。
 それと、これも一般の人には真意を理解しづらいことだと思いますが(医者の庇い合いだと思うのが普通でしょうね)、私は原則として前医の診療を否定・批判しないことにしています。というのは、前医に不信感を持ったために私のところに来た患者を診療することがあるのですが、そういう患者は私のことも信頼してくれません。そこから得た教訓は、一度医療に不信感を持った患者はその後決して医療に信頼感をもつことはない、ということです。それは、医師にとっても患者自身にとっても不幸なことだと思います。

投稿: JSJ | 2009年1月29日 (木) 20時25分

一般論として医療従事者もコスト意識を持つことは悪いことではないと思います。
ただ日本の医療が今まであり得ないと言われるくらいうまく回ってきたのは、医療現場が底抜けの世間知らずで性善説に基づいた医療をやってきたからという側面もあるわけで、現実に目覚めてしまうことは医療従事者自身にとっては良いことでも患者や社会にとっては良いことなのかどうか。
ともあれ患者は全て平等だという認識は確かに大切なのかも知れませんが、一方で患者は全て違うものなのだという認識もこれからの医療従事者は念頭に置いておかなければならないと言う気がしますね。

投稿: 管理人nobu | 2009年1月30日 (金) 12時28分

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