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2009年1月16日 (金)

成功しつつある地域医療の試み

先日は岩手県立病院の再編話題について少し書きましたが、同じ岩手県の公立病院でなかなか面白い試みをしているようです。
今日はこちらの記事を紹介してみます。

赤字、医師不足とは無縁 岩手・藤沢町民病院 /岩手(2009年01月15日河北新報社)

 県立病院・地域診療センターの無床化計画が問題になっている岩手県で、黒字経営を続ける公立病院がある。宮城県と接する県南の藤沢町が運営する藤沢町民病院。山あいのへき地にありながら、医師不足とも無縁だという。「外来と入院患者を増やさない」。素人目には収入減につながるとさえ思える方針を掲げ、住民と寄り添う地域医療を実践する現場を取材した。(盛岡総局・安野賢吾)

<120人を訪問診療>
 医師と看護師を乗せた乗用車は県道から山側の脇道へ。未舗装の悪路に変わったさらに先に、訪問する民家はあった。
 9日午前、退院した患者を定期的に回る訪問診療に同行した。

 「お正月に風邪はひきませんでしたか」。内科医の松嶋恵理子さん(33)が笑顔で聴診器を手に取る。「ひいたような気もするな。せきが出たから」と佐藤新三郎さん(92)が言うと、居間の雰囲気はさらに和んだ。

 佐藤さんは4年前、前立腺がんを患った。長男の妻とみ子さん(60)は「夫は長距離運転手で帰宅は週に1度。なかなか病院に行けないので、訪問診療は助かる」と言う。

 町民病院の経営は表のように、設備投資がかさんだ開院2年目(1994年)を除いて黒字を計上。

 訪問診療は開院から続く。対象患者は120人に上るが、1日に回れるのは5、6軒。取材した日は4人しか診察できなかった。
 「医師、看護師、運転手まで必要。極めて非効率に見えるが、この在宅医療こそが黒字要因になっている」。佐藤元美院長の説明だ。

 現在の医療制度では入院が長期に及ぶと診療報酬は下がる。利益につながる新規入院を増やすには、一定の空きベッドがなくてはならない。

 「病床利用率80%ぐらいが理想。それには入院患者を在宅医療に切り替えることが必要だ」と佐藤院長。患者が安心して自宅に帰れるように、家の改修助言やヘルパーとの協力など福祉と連携した包括医療に力を注ぐ。

<研修先に恩返し>
 95年に始めた「ナイトスクール」も経営を支える活動になっている。
 佐藤院長らが地域に出向き、理想の病院像を住民と考える。「外来が多すぎても病院はもうからない。じっくり診察できず、診療報酬の高い複雑な治療はできない」「安易な夜間診療はマナー違反」と説明してきた。

 その結果、1日300人だった外来は半減。「30人が来てお祭り騒ぎだった」(佐藤院長)時間外も4、5人に減った。
 地域医療の実践は医師不足の解決策にもなっている。54床の町民病院に必要な医師は6人とされる。これに対して常勤医は5人で、非常勤や宿直応援などで10人の医師もかかわり、充足率100%を維持している。

 常勤医や応援医師の大半は研修や派遣による町民病院の勤務経験者。栃木県で子育てしながら、訪問診療の応援に通う女医の松嶋さんも、自治医大在学中に2年間、町民病院に派遣されていた。

 「患者に合った医療を提供する地域医療の原点を学んだ。病院にも住民にも育ててもらった藤沢に恩返しがしたかった」と松嶋さんは言う。
 町民病院は昨年から新たな試みも始めた。研修医の報告会を公開の「意見交換会」に変えた。

 医師の卵の成長を見てもらう取り組みは、住民意識を変えるきっかけになりつつある。住民側から「皆さんが藤沢に戻る上で、何が障害になるか」などの質問が出るようになり、敬遠されていた研修医の診察を率先して受ける患者も増えた

 「若い医師を育てる意識が住民に芽生えている。地域に育てられた医師はきっと戻ってくる」と佐藤院長は期待する。

 「地域に合った特徴的な医療の実践が、経営安定にも医師のやりがいにもつながる。すべての医師が東大病院や聖路加国際病院など東京の有名病院勤務を目指しているわけではない」。佐藤院長は地方の公立病院の可能性を確信している。

◇藤沢町民病院の経常損益
1993年3313万円
94年▲5809万円
95年849万円
96年3134万円
97年1343万円
98年2636万円
99年5363万円
2000年5013万円
01年5002万円
02年3644万円
03年3453万円
04年1758万円
05年1億636万円
06年1940万円
07年7950万円
【注】▲はマイナス

[藤沢町民病院]1993年開院の地域病院。前身は国保藤沢診療所。診療科は内科、小児科、外科、整形外科の4科で、ベッドは54床。予防医療の健康増進外来、禁煙専門外来も行う。2005年度からは老人ホームなどを含む7事業に地方公営企業法を全部適用し、病院長が管理者を務める。スタッフが患者と一緒に支払い計画を立てるなど、診療費の未払い解消でも独自の努力を続ける。町内にはかつて県立病院があったが、経営悪化、医師不足から68年に廃止された。

「極めて非効率に見えるが、この在宅医療こそが黒字要因になっている」という訪問診療について、こういう計算というのは苦手なんですが試しに収益を推定してみましょうか。

おそらく往診料ではなく在宅患者訪問診療料で取っているんじゃないかと思うんですが、こちらが一日につき830点(交通費は別に実費請求できるそうですが取っているんでしょうか)。
藤沢町民病院のHPから見ますと訪問診療は週5日行っているようですが、一日5件程度で平均4000点/日、つまり80000~90000点/月くらいですか。
これに在宅時医学総合管理料が処方箋を出しているとして4200点/日(処方箋なしなら4500点)×120人で単純計算すると500000点/月程度。
中には重症加算1000点(月4回以上の訪問で算定)を取っている人もいると思いますが、一日5件とすると平均月一回くらいの訪問ということになりますからあまり多くはなさそうですね。
他にも注射や処置は別途加算できるようですが、ざっとみて少なくとも月々600000点(600万円)以上の固定収入は見込めるということになるんでしょうか?(間違いがあればご指摘ください)

日々入れ替わりはあるにしても医師、看護師、運転手の三人が週5日働く計算で考えてみると、その他のサポートスタッフへの人件費や車の更新費用にも回したとしても黒字でやっていけそうですね。
医療としては一見ずいぶん非効率に思えるんですが、収支の面から見ると意外に侮りがたいなあと言う感じです。

在宅患者を120人抱えるというのはそれなりに大変そうですが、地域ぐるみでの協力があれば不可能ではないということです。
例えば自宅玄関先まで車が入れるようにする、家屋内をバリアフリーにする、そうしたちょっとした改修に公の補助金を出すようにして、在宅をうまく回している自治体もあります。
しかしその大前提になるのは広く住民を巻き込んだ地域的コンセンサスの形成ではないでしょうか。

最近は「患者の視点での医療を」なんてかけ声も結構盛んになっていますが、そもそも患者の視点での医療と患者の利益になる医療とはイコールなのでしょうか。
「24時間365日いつでも診てもらいたい」「色々な病気の専門医が揃っていてほしい」「入院の途中で追い出されるようなことはなくして欲しい」「病気だけを診るのではなく患者の全体を診る医者にいてほしい」エトセトラ、エトセトラ。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」という言葉がありますが、患者のニーズにひたすら応えると言っても一見すると顧客拡大のために攻めの病院運営をしているようでいて、その実単なる受け身の対症療法になっているのではないか。
何でもかんでも言われる通りにいたしますと言うだけでなく、地域の医療リソースを見極めながら自ら望ましいニーズを作りだし、住民を誘導していくことで最終的には最大多数の最大幸福が計られるようになるのかも知れません。

経営効率という点で民間病院には及ばないのだとしたら、公的地域サービスと密接に連動した医療というものが今後の地方公立病院の目指すべきところかも知れませんね。

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コメント

 「外来が多すぎても病院はもうからない。」なんて堂々と住民に話せる院長は、かなりデキル人だと思います。
 在宅をやるなら、専従スタッフを一日中外回りさせるくらいの患者を集めよ、ということだと思いました。少なくとも、午前中外来やって午後から往診、というスタイルよりは効率良さそう。
 というか、普通の外来患者は、再診料+外来管理加算+処方箋料で200点くらいですか?ということは在宅患者1人は外来受診者25人分!?

投稿: JSJ | 2009年1月16日 (金) 16時44分

こうやって苦労して黒字を出すようになって、入院→在宅の流れができあがったころ、
厚労省の必殺技「ハシゴ外し」が出ないことを祈ります。
役人、それもベテランですらない若手が、エクセル叩きながらちょいちょいと点数を付け替えるとあら不思議。
死屍累々と相成ります。

投稿: でろんぎ | 2009年1月17日 (土) 11時37分

在宅一人あたり2時間として、外来で一人5分と計算すると2時間で24人とすれば計算はあってるということなんでしょうか。
しかしこういうモデルが利益が出るということが知れ渡れば、またぞろ診療報酬切り下げが行われそうですけどね(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2009年1月17日 (土) 11時48分

 続けてコメント、失礼します。
 後期高齢者の主治医6000円と比べても、在宅は8人分とすると、国が用意した僻地医療の解は、在宅医療ということでしょうか。診療所に設備を持たずに、医者と看護師が車に乗って一日中患者宅を回る、と。折しも、終末期に限るとはいえ、自分の車を緊急車両にできるようになるそうですし。過疎地の公共交通の崩壊で通院できないっていう問題も解決するし。
 病院だったら、外来は新患だけにして再来はすべて在宅。たまに検査が必要なときは救急車で来院させて一週間くらい泊めて帰す、と。
 国がいまもって道路整備に血道をあげているのもむべなるかなです。
 問題は、いづれはしごをはずされるんだろうな、と予想されることです。
 以上、与太話、失礼しました。

投稿: JSJ | 2009年1月17日 (土) 12時19分

その昔実際に郡部で訪問診療やっている先生がこんなこと言っていましたね。
「お爺ちゃんを病院に入院させるとただ寝かせてるだけでも月々何十万もかかる。家で面倒みられれば目一杯往診してもずっと安上がりですむ。お婆ちゃんはテレビ見ながら時々身体の向きを変えてるだけに見えても毎月十万二十万円分の労働しているのと同じことなんだよ」
確かに合理性から言えばその通りいけば理想的だと思うんですが、一昔前の大家族が当たり前だった時代と違って奥さんが老々介護できる家庭ばかりでもないのが厚労省の思惑違いってことになるんでしょうか。

ただ一つ今回の記事で思ったのは、別に新規投資をさほどしたわけでもないだろうこんなことでも結構この業界で食っていける道があり、田舎の公立病院などにも(失礼)それを見つけ出せる人間がいるのであれば、将来新たなハシゴ外しをされても何かしら対応できそうだな気がするってことでしょうか。
たとえ常識が欠落していようが医者も馬鹿ばっかじゃないんだなと言いますかね(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2009年1月18日 (日) 19時23分

はじめまして。医療機関の改革はよく聞きますが、いつも思うのは、治療も大切だけど、そもそも病気になりにくい取り組みが欠落していることです。治療がお仕事の病院だから仕方ないのですが、そういう仕組みが社会にないですもんね。健康保険証がなくても健康で自活する市民が増えるとイイなーといつも思うばかりです。

投稿: 村上 | 2009年3月 4日 (水) 22時15分

仰るとおりで、実際小さな地域医療においてはそういう試みが効果を上げているところもありますが今ひとつ盛り上がりません。

全国的・大々的に広がりにくいのは、一つには診療報酬上検査や処置などを行って医業収入が得られるようになっていて、そうした説明主体の業務には時間ばかりかかる割に儲けにならないというのが大きいでしょう。
そして何より今のところ病気がない人にとってはこうした話で長い時間を取られるというのは経験的に言って非常に苦痛なようですから、現場でいくら熱心に指導しようとしてもはかばかしい反応が得られないということもあります。

本来こういうことは病院外で医者以外の人間が行っていくべきなんでしょうが、田舎の自治体ほど医療と何かしら関連しそうな領域は何でもかんでも医者に丸投げしたがる傾向がありますから、儲けにならず相手から感謝もされない仕事に熱心に取り組みたがる医師もますます減ってしまうわけですね。
麻生総理が以前に発言したことは失言としてバッシングされてしまいましたが、一生懸命努力して健康を維持してきた人に対しても何らかの社会的インセンティブがあってもいいんじゃないかなという気がします。

投稿: 管理人nobu | 2009年3月 5日 (木) 12時23分

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