« 岩手県立病院無床化計画のその後と関連して | トップページ | 近江八幡市立医療センター全国初のPFI契約解除 »

2009年1月13日 (火)

薬の話

今日はまずこちらの記事から紹介します。

厚労省:薬副作用の分析を強化へ 担当者100人増員(2009年1月8日毎日新聞)

 厚生労働省は来年度、発売された医薬品の副作用の原因を分析し、安全対策を検討する体制を強化する方針を固めた。担当者を約100人増やして現行の2倍以上とし、迅速な安全情報の提供や副作用の原因解明を目指す。最近、抗がん剤や関節リウマチなどで効き目の高い薬が登場する一方、重い副作用を伴うケースも増えているが、監視と分析の体制は欧米に比べ手薄になっていた。

 医薬品の副作用情報は、医師や製薬会社から独立行政法人・医薬品医療機器総合機構に報告され、担当者が分析。その結果に基づき、厚労省は緊急安全性情報を出したり、添付文書の改訂などを求めている。現在、1日当たり約130件の副作用情報が寄せられているが、処理されているのは死亡例や特に重い副作用のある同約40件にとどまる。また、対応の遅れで被害が拡大した薬害肝炎の問題を重視した。

 米国では医薬品の審査・安全対策に約2900人の担当者がいる。欧州連合(EU)は約440人を抱えているほか、EUを構成する各国にも400~1100人いるという。これに対し、日本には新薬の審査担当が厚労省と同機構の計310人、副作用分析などの安全対策は計66人にとどまる。

 そこで、厚労省は来年度から、同機構に安全対策を担う医師、薬剤師、統計学の専門家ら約100人を増員し、これまで重い副作用があっても分析が後回しにされがちだった事例の迅速な対応に取り組む方針だ。厚労省の倉持憲路・安全使用推進室長は「切れ味が鋭い薬は、副作用の危険性も高く、安全確保の体制強化が急務になっている」と話す。

省庁とは自ら拡大していくことを目指すものだという話もありますが、こういうところはもう少し拡大していかなければ仕方がないでしょうね。
しかしひと頃大騒ぎになったタミフルと異常行動の関係も結局結論は先延ばしになったままですが、どうもこういう情報収集・分析部門への軽視と言うのは日本の悪しき伝統なんでしょうか。
先の大戦においてもドイツでは数千人の専門家と解読不能と豪語するエニグマ暗号機を用いて当初情報戦を優位に進めましたが、連合軍はこれに対して万単位のスタッフを投入することで最終的に暗号を解読するのみならずドイツ軍を欺瞞することにまで成功しました。
ところが当時日本でこうした分野に従事している人間がどれくらいいたかと言えばせいぜい数百人のオーダーだったそうで、それは現場が奮闘努力する以前に勝負になるはずもありません。
少なくとも人材という点に関しては他の国に質量とも劣っていないのですから、こういうところでは世界に冠たる国日本を目指して頑張ってもらいたいものです。

さて、副作用もさることながら医薬品取り違えに関して先頃こんなニュースが出ていました。

医薬品取り違え防止で通知―厚労省(2008年12月5日CBニュース)

 厚生労働省は12月4日、各都道府県知事などに対し、「医薬品の販売名の類似性等による医療事故防止対策の強化・徹底について」と題する通知を医政局長と医薬食品局長の連名で出した。

 通知は、筋弛緩剤「サクシン注射液」をヒドロコルチゾン製剤「サクシゾン」と誤って処方・投与したことによる死亡事故が11月、徳島県で発生したことを受けたもの。
 医薬品の取り違えによる事故などを防ぐため、販売名の類似した医薬品を処方・調剤・投与する際に、医療関係者が互いに確認し合うなど、医療事故防止対策の強化を図るよう、各都道府県内の医療機関や薬局に周知徹底することを求めている。

 具体的には、▽各医療機関における採用医薬品の再確認▽医薬品の安全使用のための方策についての確認・検討▽処方せん等の記載及び疑義内容の確認の徹底▽ オーダリングシステム等の病院情報システムにおける工夫▽医薬品の安全使用のために必要となる情報の収集―の5点を求めている。

こちらも通知をやらないよりはやった方がいいのは当然ですが、過去に同種の事故が何度起こっているかを考えれば今ごろなんだという話でもありますよね。
ちなみに記事中で話題になっている徳島県での事件と言うのがこちらなんですが、見れば見るほどいかにもありそうな話だと言う気がしてきませんか。

筋弛緩剤を誤投与、患者死亡=徳島病院、抗炎症剤と取り違え(2008年11月20日時事通信社)

 徳島県鳴門市の健康保険鳴門病院(増田和彦院長)で、70代男性の入院患者に抗炎症剤を投与するところを、誤って筋弛緩剤を点滴し、死亡させていたことが19日、分かった。同病院が記者会見し、明らかにした。既に県警へ届け出ており、鳴門署は原因の捜査を始め、投与を指示した女性当直医ら関係者から事情を聴いた。
 同病院によると、男性は約3週間前から肺炎などで入院していた。死亡したのは18日午前1時45分ごろ。男性は17日夜、高熱が出たため、当直医が抗炎症剤「サクシゾン」を投与するよう指示。午後9時すぎから男性に点滴を始めたが、実際には筋弛緩剤「サクシン」200ミリグラムが投与された
 男性は点滴の約1時間後、呼吸も平静で眠っていたが、看護師が午後11時45分ごろに病室で確認した際、呼吸が停止しているのに気付いた。
 当直医は院内情報システムの電子カルテ端末で「サクシ」と3文字を入力し、サクシゾンを処方したつもりだったという。薬剤師は受け取る伝票に「サクシン」と記載されたため、筋弛緩剤を処方。受け取った看護師は当直医にサクシンの投与でいいか確認したが、当直医はサクシゾンと思って了承したとしている。
 同病院はサクシゾンを扱っておらず、端末に「サクシ」と入力すると、サクシンと表示されるが、当直医が気付かずにそのままクリックしたらしい。男性の症状から通常使用する解熱剤よりサクシゾンを投与するのが適当と判断した。
 当直医は4月から勤務。同病院がサクシゾンを扱っていないことを知らなかったという。

電子カルテ、過去にも誤入力 筋弛緩剤誤投与の病院(2008年11月20日朝日新聞)

 徳島県鳴門市の健康保険鳴門病院で、誤って筋弛緩(きんしかん)剤を点滴された男性患者(70)が18日に死亡した医療事故で、同病院は朝日新聞の取材に対し、過去にも電子カルテの入力ミスや誤表示のため、違う薬を投与しそうになったケースがあったことを明らかにした。同病院は再発防止策をとっていなかった

 同病院によると、医師がパソコン端末で入力する電子カルテを通じて薬品を発注すると、薬剤師の手元には薬品の名前と分量を示した紙しか出てこない。電子カルテを導入した04年7月以降、医師の入力ミスや誤表示で、誤った薬品名が薬剤師に伝達されたことが数回あったという。

 同病院は、いずれも薬剤師が「分量がおかしい」と気づき、誤投与はなかったとしている。だが、電子カルテの表示システムの改良や、医師や薬剤師の意思疎通を強化するなど具体的な対策は取られなかった。

 今回、抗炎症剤「サクシゾン」と筋弛緩剤「サクシン」を取り違えた原因の一つについて同病院は、薬品名を検索する時、入力した文字を含む全薬品名がパソコン画面に表示され、毒薬や劇薬かどうかの区別までは分からないシステムだったことを挙げている。

 00年に同様のミスが起きた富山県の高岡市民病院は、薬品の検索システムを改善。毒薬の場合、毒薬の検索画面を開かないと処方できないようにした。また、薬剤師や看護師には、薬剤が間違っていないか医師に確認させているという。

 財団法人・日本医療機能評価機構の調査では、鳴門病院を含め、登録している全国約550の医療機関のうち、類似した名前で薬剤を取り違えた事例は、調査を始めた04年10月から07年12月までに11件あった。医療過誤に詳しい森谷和馬弁護士(第二東京弁護士会)は「電子カルテの画面でサクシンが表示された時に、筋弛緩剤だと警告も出ていれば間違いに気づいたはず。ミスが起きることを前提に、食い止めるシステムを作るべきだ」と指摘する。

たぶん多くの人間が思うことに「電子カルテ導入でミスが増えたんなら電子カルテやめりゃいいじゃん」という素朴な解決法があるんじゃないかと思いますが(苦笑)。
それはともかく、このあたりの薬品は昔から危ない取り違えを起こす組み合わせとして知られていたものですが、そうであっても起こるのがミスということですよね。
ちなみに情報によるとこの病院、混同しやすいという理由で「サクシゾン」はわざわざ採用中止にしていたそうですが、それでも起こってしまう事故であったわけです。

さて、こういう事故はどうやったら防げるのでしょうね?
この手のオーダリングシステムはだいたい最初の2、3文字くらいで候補薬品名がぞろぞろと出てくるものが多いですが、特に古くて反応の悪いシステムですとカーソルを動かして正しく選択したつもりでも別な薬になっていた、なんてことがけっこう起こり得るものです。
また時間の余裕がない時ほどいちいち念を入れて確認をしている暇はないのですが、悪いことに電子カルテシステムと言うのは紙カルテに比べてひどく手間取ることが知られています(諸説ありますが、時間効率は2/3くらいでしょうか?)。
実際のところ紙カルテと電子カルテで処方ミス発生率にどれくらいの差があるのかデータを見たことはないのですが、少なくとも現場の時間的余裕を奪っている一因となったのは確かに思えますね。

ちなみに某所で見かけたカキコでは、紛らわしい薬品名の例として他にもこんなものが挙げられていましたが、恐ろしいことにこれらのほとんどが誤投薬によって命に関わるような可能性のある薬品なんですね。

アルマールとアマリール
ソルコーテフとソルコセリル
アルサルミンとアミサミン
カマ(酸化マグネシウム)と過マンガン酸カリウム
プレドニンとプルゼニド
ヒルドイドとヒルロイド
タキソテールとタキソル
メイロンとメチロン

もちろん危ない組み合わせは他にも幾らでもありますし、これに加えてさらに後発品(ジェネリック)が混じるわけですから、特に昨今の医師不足であちらの病院もこちらの病院も助っ人の非常勤医で回しているという状況ではもう何が何やら判らないことになっても当然かなという気がしてきます。
医薬品の種類は年々増える一方ですし、それぞれの会社が好きに名前をつけているわけですから混乱は今後ますます増大していく一方だと思うのですが、誤投薬以前に日常診療の利便性を考えてみてももう少しすっきり分かり易い命名体系に整理してもらいたいと考えている人も多いんじゃないでしょうか。
厚労省も下手な医療行政なんかに手を出すよりそういうあたりの交通整理をやってくれればよほど現場から感謝されるんじゃないかと思うんですけどね。

こういう事故が起こると必ず「ちゃんと確認していないからだ」「再発防止対策をしっかりしろ」と言う声が上がってくるのが世の常ですが、実のところこの対策というのが大きな問題でもあるのですね。
上記の記事でも高岡市民病院の誤処方防止法が紹介されていますが、このようにほとんどの場合は作業を更に煩雑にする方向で改善(?)が進むため、現場は「日常的に」ストレスにさらされることになるわけです。
実際にとある病院ではダブルチェックからトリプルチェックへと確認作業が強化された結果、ただでさえ過重労働を強いられている現場がますます疲弊し日常業務の単純ミスが増えたという実例がありました。

人間の知力と体力に限度がある以上、特に忙しい現場ほど物事をシンプルに整理していった方がミスは減るだろうと思うのですが、本当にその逆を行くしか有効な対策はないものでしょうか?
そもそもこうした対策を考える人間は「もっと頑張れ」が通用するのは日常的に限度を超えて頑張っていない場合だけであるということをよく認識しておかなければなりません。
どんなに暇な現場でも一分一秒を争う修羅場が訪れる瞬間というのは必ずあるわけですが、その他の日常業務においては落ち着いて考えるだけのゆとりある態勢を維持できるようにしておかないと命を預かる現場としてはおかしいはずなんですけどね。

現実には医師不足対策においても見られるように現場に更なる負担を課すことで問題を解決しようという流れが続いているようですから、先行き明るいようにはとても見えないのが残念ですけれども。

|

« 岩手県立病院無床化計画のその後と関連して | トップページ | 近江八幡市立医療センター全国初のPFI契約解除 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/43726926

この記事へのトラックバック一覧です: 薬の話:

« 岩手県立病院無床化計画のその後と関連して | トップページ | 近江八幡市立医療センター全国初のPFI契約解除 »