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2009年1月12日 (月)

岩手県立病院無床化計画のその後と関連して

少し前に岩手の県立病院無床化計画について少し書きましたが、その後の住民説明会はずいぶんと紛糾したようです。
今日はまずこちらの話題から記事を紹介してみましょう。

県立病院再編説明会 満席 議論は平行線(2009年01月10日朝日新聞)

 医師不足の中でも、地域の医療と医師の勤務環境をともに守る方法はないのか――。地域診療センターの無床化方針などを盛り込んだ県立病院の新しい経営計画案の初めての住民説明会が9日、無床化が計画されている花泉地域診療センターの地元、一関市花泉町で開かれた。医師不足による過剰負担を訴え、無床化の受け入れを求める県医療局に、住民側は改めて反発。議論は平行線をたどったまま、無床化に向けた手続きが進みはじめた。

 説明会場の一関市役所花泉支所の会議室には、開始1時間以上前から参加者が姿を見せ始め、定刻の午後7時には、用意された約160席がほぼ満席となった。
 医療局は出席した地元住民らに、説明用のカラーリーフレットを配布。根子忠美経営改革監が、医師不足が続くなかで、県立病院の勤務医にかかる負担が重くなりすぎ、さらに医師が辞めていく悪循環に陥っている、との現状認識を説明し、「県立病院がこれまでの機能と規模を維持していくことは難しい。県全体の医療崩壊を防ぐために策定した」と、計画案への理解を求めた。
 また、各施設で入院ベッドを廃止したあとの空きスペースを福祉目的で民間が活用する場合、使用料の減免などの支援策を検討していることを明らかにした。

 30分ほど続いた医療局側の説明に続いた質疑で、会場の住民からは「計画案は唐突すぎる」「住民や患者の立場に立っていない」「住民説明会も、医療局がこれから設置するという地域協議会も無床化を前提としており、見せかけだ」などと、県側の進め方や計画案そのものを批判する声が相次いだ。
 また、医師不足や医療費の不払いなど、医療を取り巻く問題に理解を深めるために「4月実施にこだわらず、広く話し合う場を作るべきだ」との指摘する声も上がった。
 これに対し県側は「医師不足は深刻で、延期する時間的余裕もない」とし、計画の内容や実施時期は変えない、という考えを改めて示した。

 説明会は、無床化される施設のある地元市町村で、19日までに順次開催される。達増拓也知事は「今の計画案がベスト」と語っており、住民側の理解が得られなくても、予定通り進める方針だ。

≪県立病院の新しい経営計画案≫

 27カ所ある県立医療施設の、09年度から5年間の経営計画案。県医療局が昨年11月に公表し、2月の正式決定を目指す。医師や職員の配置を見直し、基幹病院などに集約化する内容で、入院ベッドを全県で約400床減らす。うち花泉、紫波、大迫、住田、九戸の5地域診療センター(各19床)では今年4月、沼宮内病院(60床)は来年4月から、ベッドを廃止して「無床診療所」とする。遠野、千厩、大船渡、高田、宮古、久慈、二戸の各病院でもベッド数を減らす。無床化とされた地域を中心に住民の反発を呼び、12月県議会で延期を求める請願が採択された。

「無床化反対」が大半 県の公募意見 /岩手(2009年1月10日  読売新聞)

県、施設貸し出し検討

 県立6医療施設の入院ベッドを廃止し、「無床診療所」にする方針を打ち出した病院経営改革案に対し、県民から4591件の意見が寄せられたことが9日、わかった。大半が無床化に反対する内容だという。県は、地元住民の強い反対を考慮し、無床化によって生じる空きスペースを、民間の医療施設として活用してもらうなどの対応策の検討も始めた。一方、対象施設がある地元では、同日から住民に対する説明会がスタートした。

 改革案に対する県民意見の件数は、5年前に無床化問題が議論された際の5055件に迫る。県医療局は今後、県民から寄せられた意見の内容を集約し、公表する。

 一方、県は、無床化によって生じる地域診療センターの空きスペースを、民間の医療法人などに貸し出し、有床の医療施設や福祉施設として利用する場合には、施設使用料を減免するなどの支援策についても検討を進めている。
 県立花泉地域診療センター(一関市、19床)の地元では、地元の医師らが中心となって、無床化後の空きスペースを有床診療所と福祉施設として活用することを求める動きが出ている。
 県医療局は、このほか、6施設に入院中の患者の受け入れ先を確保するとともに、6施設と最寄りの県立総合病院との無料送迎タクシーの運行も決めている。

■撤回求める声一色に 「花泉」で説明会140人出席

 花泉地域診療センターの地元・一関市の市役所花泉支所で行われた説明会には、住民ら約140人が出席した。

 説明会の冒頭、県医療局の田村均次局長が「常勤医が大変減少している。これまでの機能、規模を維持するのは難しい」と現状を述べた。続いて、担当職員が、医師の過酷な勤務状況など示しながら、改革案の概要を説明した。
 しかし、その後の意見交換では、住民側から「今年4月に実施するというのは唐突で拙速」「住民と広く現状を検討する場を作るべきだ」など、無床化方針の撤回を求める声一色。
 これに対し、田村局長は「昨年4月から検討を続けてきたが、多くの人の意見を聞いて議論したために時間がかかった」と釈明した。

県側が何としても計画推進という強い意志を固めているのは見えるんですが、ずいぶんと強引に進めているなという気はしますね。
表だった抵抗を避けたいなら一人ずつ医師を異動させていくとか、物理的に活動を維持できない状態へさりげなくもっていくといった手段もあったでしょうにね。

県民からの意見は反対一色と言うことですが、その反対意見がどこの住民から出ているのかということは報道されていません。
試みに「地域医療を維持するため、基幹病院の医師を地域病院へ分散配置することにします。この結果夜間や救急は今後対応出来なくなりますが地域医療を守るためですのでご了承ください」といった話であれば、かなり異なった意見が集まってきたんじゃないかという気がしますが、どうでしょうか。
医療資源が常に需要に対して過少であるという今の時代にあって、自ら権利を主張しなければ思わぬ不利益を被ってしまう可能性が高いということを市民のみならず医療従事者自身も認識しなければならないでしょうね。

ところで岩手県知事の達増拓也氏という人物の実像をよく存じ上げないのですが、年頭早々に県医師会幹部らを前にこういうことを言っていますね。

地域医療守る姿勢示す 医師会交賀会で知事 /岩手(2009年1月11日岩手日報)

 達増知事は10日、盛岡市内のホテルで開かれた県医師会・県歯科医師会の新年交賀会に出席し、「県民総参加で地域の医師と医療を守る取り組みを推進する」と述べ、深刻な医師不足による問題の解決に取り組む姿勢を示した。

 達増知事は「今年は(昨年11月に設立した)『県民みんなで支える岩手の地域医療推進会議』を中心に、県民の皆さんに地域医療の現状や課題を広くお知らせし、啓発活動を推進する」と強調。

 「救急医療などを担う勤務医の過重労働問題対策は、開業医の方々の協力をいただくとか、県民の皆さんに地域の医療は自らの手で守るという意識で、適切な受診行動をとっていただくなどの取り組みで、県民の理解を深めていきたい」と述べた。

ひどく抽象的な言い方になりますが政治家らしからぬと言いますか、今までネットで医療問題に関心を持って経緯を見てきたきた人々にとっては妙に耳に馴染んだようなコメントが並ぶと思いませんか。
wikipediaの記載によれば氏は外務省官僚あがりの民主党系衆院議員から県知事に転身したと言うことです。
民主党と言えばかねて医療問題に詳しい議員が多いんですが、どうもこれはネットでの情報収集も相当やってきているんじゃないかなと思って改めて経歴を見直してみますとこんな記述がありました。

「インターネットが一般化する前からパソコン通信を用いた情報発信を行うなど、先駆的な広報活動で知られ、当時マスコミから"サイバー議員"と呼ばれたことがある。」

まあだからどうだと何の確証もなく言えるわけではないんですが、一般論として行政当事者が直接現場の声を聞けるというのはネットの利点なんだろうなとは思いますね。
岩手県民がどういう選択をしていくのかはまだ先が見えませんが、全国の自治体主導の地域医療再建計画でうまく行っているものと言うのはほとんどないという実態には目を向けるべきでしょう。
崩壊は役場の机の上ではなく現場で起こってるのだと言うことを理解した上で、いずれの道に進むにせよ何よりも現場の声に耳を傾ける姿勢を示していくということが一番大事なことなんじゃないですかね。

さて、地域医療の維持と医療資源の集約化という観点から少しばかり興味深い話があったので引用します。
北大公衆衛生学の江原朗氏と言えば以前に「産科医療のこれから」さんのところでも取り上げられた「医師の長時間勤務で医療安全は低下」といった話に見られるように、医療現場を公衆衛生学的に検討していく上で幾つかの重要な仕事をしてきた方です。
今回の記事は全般的には限られた医療資源をうまく使うためには効率化は必須という観点から具体的な数字を挙げてまとめられたものといったところですが、末尾の部分のみ以下に抜粋させていただきます。

「集約化」で医療資源の有効活用と過重労働の軽減を(2009年1月9日CBニュース)より抜粋

―江原先生は、全国で小児科が集約化された場合、小児の死亡率がどう変わるかについても解析されていましたね。

 集約化が進むと、受診の際の移動距離は長くなり、受診までの時間が長くなることもあります。しかし、結論から言うと、それによって「小児の予後が悪化したり、死亡率が高くなったりする」ということはないと思われます。
 北海道は広域ですが、04年の時点で小児科の勤務医、小児科医合わせて598人のうち、509人(85%)が二次医療圏内の中心都市で勤務しています。その北海道で、各市町村の小児の死亡率と中心都市からの距離との関係を解析してみました。その結果、中心都市からの距離と小児の死亡率との間には相関関係は認められませんでした。
 面積から考えても、北海道よりも小さい本州、四国、九州地区の二次医療圏で、集約化によって重篤な小児患者の予後が悪化することはないと思います。繰り返しになりますが、集約化すると、地域の利便性という問題は残るものの、患者の予後に大きな影響が出たり、死亡率が急激に悪化したりすることはないと思います。わたしが管理しているホームページ「小児科医と労働基準」に、膨大な量の資料をアップしていますので、もっと詳しく知りたい方はそちらを見ていただければ幸いです。(http://pediatrics.news.coocan.jp/

感染症が主体の小児医療と(旧)郡部に多い高齢者医療においては疾患の傾向も変わるかと思いますが、「全国津々浦々に至るまで身近に常時救急対応できる施設がなくたって、実はそんなに結果に変わりはない」というのは実際の現場の感覚に近い話ではないでしょうか?
確かに本当の僻地というものはあって、何かあれば町立病院まで1時間、そこから一番近い基幹病院まで2時間という地域は今も全国かなり広範囲に広がっています。
しかしそういう地域に暮らしている人間というのは実のところ極めて少ないし、何かあるという発生確率が多少高くとも実発症数では決して多くはないというのも確かなんですね。
そしてその中で本当に一分一秒を争う場合がどれほどあるのかと考えた場合に、またもや我々はゼロリスク症候群の問題と直面せざるを得ないわけです。

こんなことを言うと「地域住民を見捨てるのか」とおしかりを受けるやも知れませんが、特に過疎地域に多い高齢者と言うのはそれ自体が疾患発症のハイリスク要因ですから、そもそも医療の必要性が高い人々が医療資源から遠く隔たった場所に生活すること自体が妙な話ではあるわけです。
お隣の青森でのコンパクトシティ化への取り組みを初めとして近ごろでは再び都心部での機能集積の意義が取り上げられることが増えてきていますが、高齢者にとって本来あらゆる生活インフラが身近にある都市部の方が住みやすい環境であるという見方もあるわけです。
こうした話に昨今話題の失業者を地方に呼び寄せて第一次産業の担い手になってもらおうなんて話を組み合わせてみると、「医師は田舎に強制配置しろ」なんて物騒なかけ声よりはよほど前向きな国土改造計画が見えてきそうな気もするんですけどね。

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