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2009年1月20日 (火)

赤紙復活?! 福島県の医療再生計画

昨日に続いてまた東北地方の地域医療ネタがありましたが、色々と興味深い経過をたどっている岩手県に比べると福島県ではどうもあまり面白いことにはなっていないようです。

民間の医師、公立に派遣 緊急確保策、県が素案 /福島(2009年1月20日  読売新聞)

緊急確保策、県が素案

 県は19日、緊急の医師確保策として、民間病院から公立病院への医師派遣などを盛り込んだ「緊急医師確保対策プログラム」の素案を県地域医療対策協議会で示した。県立医大などでの医師養成を待っていられないとして、素案をたたき台に具体策の議論を始める。厚生労働省によると、同様の医師派遣は岡山県で行われているものの、全国的には珍しい。

 素案によると、これまで県立医大などがへき地を含めた医療機関へ行っていた医師派遣ネットワークの派遣元に、開業医を含めた民間病院を加える。診療科は、医師不足が顕著な救急や産婦人科などについて重点的に検討していく。

 県によると、県内の人口10万人あたりの医師数(2006年)は3663人。人口換算すれば、全国平均より医師が600人不足している。特に産婦人科は深刻で、2008年には県立南会津病院で2人の医師が退職し、同科は一時休診となった。

 医師が足りない医療機関へ緊急的に半年間、民間病院から医師を派遣するシステムは、厚生労働省が07年に始めている。しかし、〈1〉医師派遣に伴う費用は受け入れ側が支払う〈2〉半年後の医師確保の見通しが必要――など受け入れ側の負担が大きく、県内で利用できる医療機関がなかった。

 県はこのため、「金銭などの穴埋めを最小限にできるよう緩やかな条件を考えていきたい」とし、人材面を中心に何らかの対策ができないか検討する。ただ、民間病院のなかには、県立医大からの派遣を受けて診療体制がようやく確保できるところも少なくなく、委員からは「民間も自分の病院を守るので精いっぱい」と実効性に疑問の声も上がり、課題も多そうだ。

 素案ではこのほか、医学生が研修先の病院を自由に選べる臨床研修で、複数の医療機関が共同の研修プログラムを行うことや、助産師が中心となって出産を介助する「院内助産所」の設置を促すため、助産師に対する研修を支援することも示された。

ま、何故産婦人科不足が深刻になっていったかといった経過を細々書かないのは武士の情けというものなんですかね…

それはともかくとしても、医師や看護師といった医療の専門スタッフは官民問わず職場を変わっていくことが多いですからそうした意味での官民間の垣根は低いんですが、よく見るとなかなか香ばしい話がちりばめられている気がしてきます。
民間医療機関と言えば公立と違って自前で採算を考えていかなければなりませんし、今の時代医療で儲けようとすればまず医師を初めとするスタッフをきちんと確保できるかどうかが生命線でしょう。
その意味で言わば病院にとっての血肉とも言うべき医師を差し出せと言うのですから、これはそれなりの補償でもないことにはちょっとどうよと考えるところなんですが、記事を見る限りどうもそのあたりがはなはだ怪しいですね。

たとえば「金銭などの穴埋めを最小限にできるよう緩やかな条件を考えていきたい」と言えば聞こえはいいですが、要するにタダでお上に御奉公せよってことですよね?
「開業医を含めた」と言いますが、開業医が自分のクリニックを放り出して僻地に応援に行くなんてことが現実問題可能でしょうか?(僻地とは何かあっても容易に帰ってこられないような場所にあるからこそ僻地と言われます)
話を聞く限り医師の供給源となるべき民間側にとって何らのインセンティブとなるものが感じられないのですが、この話に乗ってくるであろう医療機関として具体的にどういったところを想定して制度設計を行っているのかという疑問が湧いてきます。

福島県と言えば研修医集めの面でもこんな記事が出ています。

臨床研修医の育成 福島県、病院群制度活用へ(2009年01月20日河北新報)

 深刻な医師不足を改善しようと、福島県は新年度、複数の病院が連携しながら臨床研修医を育成する病院群制度による研修システムの導入を検討する。19日の県地域医療対策協議会で、県が緊急医師確保対策プログラム(素案)の目玉事業として示した。

 病院群制度による医師研修は沖縄県の公立、民間合わせて29病院が参加する「群星沖縄」が先駆的だ。1カ所だけでなく、いくつもの病院で研修することで多様な症例に接することができるため、多くの研修医が全国から集まっている。

 県は病院群研修制度の導入により、多くの研修医に臨床の場で戦力になってもらうだけでなく、研修終了後の県内定着につなげることも視野に検討を始める。まずは病院間での統一プログラム策定や研修医の共同募集などを具体化する方針だ。

 県の緊急医師確保対策プログラムは新年度から3年間をめどに実施する。産科医不足対策では、県外から転任してくる医師への優遇策や通常分娩(ぶんべん)での助産師活用などの検討を盛り込んだ。

 県外からの医師招聘(しょうへい)や、自治医大卒の県内出身医師が地元での就業義務期間を過ぎても定着してもらうための対策も積極的に進める。

「群星沖縄」も含めた沖縄の医療事情の特殊性についてはこちらの資料がある程度まとまっているんじゃないかと思いますが、沖縄と言うところは新臨床研修導入以後医師が大いに増えて現在全国でもトップクラスになっているところなんですね。
同様に医師が集まる東京都と同様、公立病院医師の手当て削減に熱心な県という意味でも注目を集めていますが、金銭的なもの以外のインセンティブで人集めが出来るというのであれば職場としてははるかに健全なのではないでしょうか?
そもそもどんな業界でも給料はそれほどでもないが人が大勢集まる職場と、金は幾らでも出すから来てくれ!と言っても閑古鳥が鳴いている職場でどちらが良さそうに見えるか考えてみれば判る話で、今どき幾ら法外な大金を積もうが「もう限界!勘弁してくれ!」と医者が逃散していくような病院には表沙汰にはならなくともそれなりの事情があると考えておかなければならないでしょう。

ただここで考えておかなければならないことは、沖縄が人を集めているのは「いくつもの病院で研修することで多様な症例に接することができるため、多くの研修医が全国から集まっている」なんて単純な話だけでいいのかということでしょう。
たとえば沖縄と言うところはその歴史的経緯からも米国の医療とつながりが深く、そちらへの進出を希望している医師にとっての入り口になってきたという歴史的経緯があるという点が一つ。
これは福島に限らず他の自治体ではおいそれと再現できないものです(同様に米国式研修を売りにしていた舞鶴市民病院が無駄だからと止めてみたところが、あっという間に潰れたのも記憶に新しいところですね)。

もう一つは結局臨床研修も人と人の関係が基本である以上、やはり研修医というのは上司や先輩である医師達をよく見ているということです。
「ここに残って働いたら楽しいよ」と言葉のみならず諸先輩達の表情や態度にも表れていれば「オレも残ってみようか」と言う気になるだろうし、現場のスタッフが見るからに暗い表情でやっていれば幾ら研修プログラムが立派でも「ああはなりたくないもんな」と研修終了後はさっさと逃げ帰るということになるでしょう。
そう考えてみると一番気になるのが、福島県の医療現場におけるスタッフの志気であるとか、職場に対する忠誠心といったものなんじゃないでしょうか。

大野病院事件の判決後に加藤医師が復職した際、県の復職の辞令に関わらず民間病院に移ったことを思い出すにつけ、福島県における医師達の志気というものがどういう水準にあるのかが気になるんですけどね。

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コメント

民間病院に移った加藤先生を県立に引っ張り出そうとかW

投稿: 元外科医 | 2009年1月20日 (火) 13時58分

その昔の戦争では九死に一生を得て戦地から帰還した兵を「負け戦がバレるといけないから」と更なる激戦地へ送り込んだという国もあったようですから、あり得ない話でもないかと。

投稿: 管理人nobu | 2009年1月21日 (水) 12時27分

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