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2009年1月30日 (金)

自然なお産という言葉の裏に潜む大きなリスク

今や産科医不足は全国津々浦々まで共通の問題ですが、その一方で「産科医がいないなら助産師を活用すればいいじゃないか」という意見もかなり根強くあります。
最初にお断りしておきますが病院や産科医院では産科医と助産師が一体となって日夜お産に取り組んでいまして、活用すればどころではなく必要にして不可欠な存在なのが現状です。
ところで一方しばしば話題になってくるのが昔ながらのいわゆる「産婆」に相当する助産師単独の助産施設の問題なのですね。
いつ頃からか「自然なお産」なるものが妙なブームとなり、こうした助産所もそれなりに静かな賑わいを来していたわけですが、正直なかには医学的な面でちょっとどうよ?と首をかしげざるを得ないような施設もあったのは事実です。

平成19年の医療法改正の結果、こうした助産所も例外なくいざというときのバックアップを務める産科医を持たなければならないことになりましたが、これがまた大問題だったんですね。
当初産婦人科医会が配布した助産所との嘱託医契約に関する試案の表現を見ていただければ雰囲気が判るかと思いますが、当初から産科医側のやる気のなさが明瞭に見て取れるという状況ではありました。
この初期試案から最終的には変更になりましたが、特に産科医側にとって問題となるのが下記の変更点であったことは容易に想像できるところです。

「損害賠償を含む一切の請求は助産所が全額補償する」 → 「助産所、嘱託医は損害賠償責任保険にそれぞれ加入する」に変更
「助産行為のリスクはすべて助産所に帰属し嘱託医に何らの補償を求めない」 → 「助産行為は助産所、医療行為は嘱託医がそれぞれリスクを負う」に変更

産科医側からすればただでさえ忙しいのに助産所の尻ぬぐいまでさせられ損害賠償のツケまで回されるのではかなわない、特に一部のカルトまがいの施設が無茶をした後始末をなぜ強制的にさせられるのかと考えたのも無理のないところではあったでしょう。
こうした助産所から嘱託医へのスルーパスが実際のところどういった状況にあったのか、最近調査結果が出ているので「産科医療のこれから」さんの記事から紹介してみます。

嘱託医における助産所からの緊急搬送事例等に関する調査報告

2.助産所の業務内容について

 異常産の取り扱い、合併症妊婦の取り扱いは5%あった。この中には双胎妊娠、骨盤位、前回帝王切開や血液型不適合妊娠など医学的管理が必要な症例があった。GBS感染症(陽性)妊婦の取り扱いも問題がある例と考えられた。しかし異常産の取り扱いについても、嘱託医に報告されていない症例が相当数存在することであろう。

 およそ1/2が医療器機を使用していたが、ほとんどが超音波とビリルビン測定器であった。診断や治療と直結する場合が少なからずあり、使用方法には注視しなければならない。 しかし、1例とはいえ「流産のため麻酔器使用にて流産処置」との回答あり、事実であれば明らかに危険な違法行為である。縫合は1/3で行われていた。会陰裂傷縫合がそのほとんどと推察するが、分娩時に会陰が損傷することは稀ではなく、医師の観点からは少なくとも過半数は縫合の必要性があると判断されるだろう。さらに、医師にとっても縫合が平易でない例も少なからずある。われわれは医師として「縫合」は保助看法で定める臨時応急の手当」を遥かに逸脱していると言わざるをえない。外科的処置は十分な修練を積んだ医師にのみ認められた侵襲的行為と万人が考えるところであり、合法的であるか懸念するだけでなく、患者にとって利するところであるか甚だ疑問である。

 薬剤の使用は1/3、助産所のための薬剤処方は1/2強であり、10%は助産院が嘱託医に無許可で購入し使用していたことが推測された。医薬品の購入に関して厚労省医薬食品局は医師の許可のもとであれば認める通知を出した。だが、医師法、保助看法の観点からすると助産師が独自の判断で投与することは認められていないと解釈する。薬剤の品目では補液もあるが、抗生剤、麦角剤さらにオキシトシン、子宮収縮抑制剤、静脈麻酔薬まであった。医師が助産所に往診し、その節に使用するための準備品とも考えられるが、「以前から薬剤を使用していた」という回答は1/2あり、使用に際して「事後承諾」や「独自の判断」が1/4を占めていたことは必ずしもこれだけではない可能性がある。嘱託医としてこれを黙認することは遺憾に思う。医師不足から、従来医師がすべき仕事のうち「簡単な医療行為」はコ・メディカルも施行可能にしてはどうかという意見がある。しかし、各々の職種には各々の役割があり教育目標も内容も異なっている。ただ単に、学生の教育課程にこれらを「部分的に」含めることで良しとすることには賛成できない。

言うまでもないことですが、助産所で扱っていいのはあくまで正常分娩だけであって、(正常分娩かどうか自体が分娩終了後に初めて確定するという事情は抜きにしても)扱ってはならないはずの異常分娩を嘱託医も知らないままに勝手にやってしまうというのはどうなのでしょう。
それ以前に医師法の規定に従っても助産師が勝手に医療行為をしてよいはずもないのですが、勝手に薬を使ってみたり(一部で悪評高い陣痛促進剤もばっちり使っているようですね)傷を縫合をしてみたりと、想像以上に違法行為が蔓延している現状があからさまになってしまっています。
これら全ての結果責任だけが嘱託医に降りかかってくるということになれば、それは誰も引き受ける気になんてなれないですよね。

実際のところ一部助産所でどんなトンデモ行為が行われているものか、「天漢日乗」さんのところで取り上げられていますがまあなんと言いますか、これらが事実とすればなかなかユニークだなとしか言い難い内容ですね。

産科崩壊 兵庫県内の助産院でここ1-2年以内になんと先進国では考えにくい「新生児破傷風」が発生していた 原因は不潔な器具で臍の緒を切ったため

 2008年2月号の『病原微生物検出情報(IASR)』Vol.29 No.2(No.336)

 新生児破傷風の1例
が掲載されていた。1995年を最後に
 日本から新生児破傷風は発生してなかった
のだが、なんと21世紀に入ってから、2007年あたりに
 兵庫県で新生児破傷風が発生
したのである。原因は
 助産院で臍の緒を切ったときに使った器具が不潔で、破傷風菌に感染した
からだという。
(略)
日本国内では、10年以上にわたり新生児破傷風の発生はない。新生児破傷風発症の最大要因は、分娩時の不潔な臍帯切断であるため、児の出生した助産院に連絡。当該助産院はほとんど閉鎖しており、分娩を行っていなかったが、臍帯切断の際は、消毒した剪刀を用いたとのことであった。同時に自宅の衛生環境が非常に悪いとの指摘もあったが、患児には明らかな創傷がみられなかったことより、使用した剪刀の消毒が不十分であった可能性があると考えた。
(略)
いったいどんな
 消毒
をして、臍の緒を切ったんだよ、この「ほとんど閉鎖状態だった」助産院は。
嗚呼、これが21世紀の日本の兵庫県で起きた話とは、にわかには信じられないのだが、報告が上がっているのだから、真実だったと認めざるを得ない。

産科崩壊 「自然なお産」を標榜する40代の助産師による指導で自宅で思いがけなく水中出産してしまった末に産褥熱に しかも臍の緒を切る鋏などの器具を陣痛の始まった産婦に煮沸消毒させる 消毒薬は「アルコール」と「松の油」のみ持参

先日、TBを頂き、また拙blogの記事をご紹介くださった「琴子の母」さんのblog「助産院は安全?」に
 自宅で水中出産させてしまった上に、臍の緒を切る鋏などの器具を事前に陣痛の始まった産婦自身に「煮沸消毒」させた助産師
の話が紹介されている。このお産で、「ちまの母」さんは、
 産褥熱
に罹ったとか。現在、助産師会と係争中という。
(略)
2人目を自宅出産したものです。
 助産師からは、陣痛がきて時間があったら、お産のときに使う器具の入った金属製の容器に、水を入れて、ガスにかけて10分程度煮沸消毒するよう指示されました。容器には臍帯切断のためのはさみや会陰裂傷したときに使ったクリップ、せっし等が入っていました。
(略)
 破傷風菌も芽胞を作ります。煮沸消毒では効果がないようです。
 助産院や自宅だからといって、感染管理を怠ってはいけないはずです。私の関わった助産師さんは「助産院は化学的なものは使わないで、なるべく自然のものでという方針」だと言っていました。それから、「自宅は妊婦が住んでいるところなので常在菌がいるから安全とか言ってました。だから、消毒類も一切持ってきてなかったです。助産行為するのに。私は産褥熱でひどい思いをしました。
 自然にこだわらないで、母子の安全を一番に考えて欲しいです。助産師さんがその責任をおっているのですから。

 私の場合は、特に希望したわけではなかったのですが、自宅のお風呂で水中出産してしまいました。
和痛のために入浴するよう言われて、お風呂に入っていたら陣痛が強くなりそのまま動けなくなってしまい、赤ちゃんの頭がでました。
 
 入浴前に助産師さんによる浴槽の洗浄・消毒もなく、さらに、助産師さんのすすめで事前に貸し出しされていたジェットバス(家庭用気泡浴装置)を出産中に使用していました。産後は、39℃台の発熱、じっとしていても汗が出るくらいの腹痛で、そんな状態で通院するのも大変でした。
 その装置から水アカが出ていたので、後で聞いてみたのですが、その装置は何年間も妊婦間で洗浄・消毒をせず、使いまわしていたようです。
 産科で経緯を話したら、水中出産時の感染ではないかということでした。赤ちゃんは幸い、肺炎を起こすことなく、無事でした。
 それから、なぜ、妊婦に煮沸消毒させたかということですが、簡単な作業だから任せてよいと思ったんですかね。助産師さん自身でしっかりと管理するべきだと思います。

 それから、赤ちゃんの臍の消毒は、臍セットに入っていたアルコールを使っていました。それ以外、消毒薬はもってきてなかったのですが、助産師さんが用意してくれた入浴剤に松の油が入っているから、そこに抗菌効果を期待していたみたいです。出産時の入浴や、導尿のときに会陰を拭くのに使っていました。
(略)
 自宅には常在菌がいるから安全
って、
 どこの世界の衛生学
なんでしょうか。
これが
 自然なお産
の目指すところらしい。

ま、いつもながら「天漢日乗」さんもお口が悪いからアレなんですが(苦笑)、何十年来変わらぬ昔ながらのやり方というものを墨守している人々もいると言う一方で、この半世紀で周産期死亡率がおよそ1/100に激減したという事実もきちんと知っておかなければなりません。
こういうものをもって「自然なお産」と言うのかどうかは判りかねますが、少なくとも今現在の水準でみれば「安全なお産」とは程遠いものであることだけは間違いなさそうです。
もちろん病院・診療所においても一部に信じがたいようなトンデモが存在しているのは確かですが、他人に尻ぬぐいをさせようとしないだけでも彼らの方がまだマシに思えてきたのは自分だけでしょうか。

いずれにしてもなんでも自然がよいと言うのも一つの考え方ですが、その背後に潜むリスクも十分に承知の上で利用していくよう心がけたいものですね。

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コメント

歴史的・生物学的には「自然なお産」≠「安全なお産」であり、むしろ=「危険なお産」であることをなぜマスコミはちゃんと言ってくれないのでしょう。助産院や助産師のみのお産をさもいいことのように取り上げてばかりいますが。
日本の「世界一安全なお産」は医療を最大限に活用することによって、すなわち「人工的な手法」を取り入れることによって成立しているということが、なぜわかってもらえないのでしょうね。

投稿: Seisan | 2009年1月30日 (金) 18時02分

今まで病院のお産は非人間的だとかバッシングに精出してきたマスコミが、こうした話題を今後どう扱っていくのかも楽しみにしています(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2009年1月31日 (土) 12時33分


<<<助産院は危険です>>>

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/09/images/s0905-7f1.gif

50年前、分娩場所が助産所や自宅から、病院や産婦人科医院(診療所)に代わり、母体死亡率が激減してます。

半世紀前に戻るのか????

投稿: 九州の女医 | 2010年8月13日 (金) 18時48分

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