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2009年1月 9日 (金)

続・医療行政最近の話題 ~ 周産期関連

今月より始まった産科の医療補償制度について昨日は書きませんでしたが、まずはこちらの報道から紹介していきます。

問題山積みのまま来年1月スタート 産科医療補償制度(2008年11月15日TBS放送分)より抜粋

産科医療補償制度。
いま全国のお産を扱う病院で、この制度への登録が始まっている。
来年1月1日以降に生まれる赤ちゃんが、重度の脳性まひになった場合、補償金をもらえる制度だ。
(略)
また、この制度では、補償をするだけでなく、脳性まひになった原因を専門家が検証する。
補償と原因究明の2つがこの制度の柱だ。
(略)
だが、全ての脳性まひの子どもが救われるわけではない。
(略)
補償の基準は原則として妊娠33週以上、出生体重が2000グラム以上に限られ他にも先天性の異常があれば外される
厳しい線引きがされているのだ。
(略)
この補償制度では妊婦が保険の掛け金3万円を払うが、国が公的保険である「出産育児一時金」の万円のアップで事実上賄うため妊婦の経済的負担はない。
そして病院で集められた掛け金は、厚生労働省の外郭団体に納められる
そこから、さらに損害保険会社6社に流れ、該当者への支払いに充てられる。

年間100万人以上の赤ちゃんが生まれる今、1年で300億円以上が集められることになり、公的保険を原資とした巨額の資金が民間の保険会社に流れこむことになる。
急ごしらえで出来た制度には不透明な部分が多いと、保険制度に詳しい専門家は指摘する。
(略)
国は補償の対象となる脳性まひの子どもを年間500人から800人と推計している。
800人だとしても、必要な補償金の総額は240億円。
年間60億円が余る計算だ。
(略)
海外のデータでは、補償基準が想定する「正常分娩」のお産で「脳性まひ」を発症したとみられるケースは(「脳性まひ」全体の)10パーセントほどにとどまっている
国内も、ほぼ同じだと指摘する小児科医もいる。

脳性まひの発症率を全国調査したデータはなく対象者は200人程度にとどまるとの声も多い。
だとすると補償総額は60億円となり、年間240億円もの資金が余る。

この制度の収支をめぐっては、準備段階から保険会社に配慮していたふしがうかがえる。
(略)
さらに、この制度を運営する厚労省の外廓団体にも金の一部が流れこむ仕組みになっている。
(略)
保険会社6社に聞いても、機構に流れる手数料については、保険会社は答えられないと回答した。
現場の産科医からは不透明な金の流れに不信感が募っている。

〇制度の説明会での医師の発言(大阪・9月17日)
厚労省の天下り機関ですよね。これ。厚労省の役人の思うツボになってる可能性ある」
(略)
さらに国は当初、任意の民間保険と言っていたにもかかわらず、加入した医療機関と、そうでないところとの間に診療報酬で差をつけると、突如、決定した。
(略)
これは果たして社会保障の一環なのか

〇厚生労働省医政局・佐原康之医療安全推進室長
「これは社会保障ではなくて、今回は民間の損害保険会社の仕組みを使って、新しい商品を立ち上げていくという形でやっていこうと。
民間のものを立ち上げるのを、厚生労働省としてお手伝いさせてもらった」
(略)
実施まで1ヶ月半と迫った産科医療補償制度。国側は、赤ちゃんがなぜ脳性まひになったかを検証すれば、産科医に対する訴訟は減ると強調しているが。
これに対し医療裁判を実際に闘ったことのある夫婦は、訴訟が減ることはないと感じている。

〇勝村久司さん
「医療訴訟を減らしたいと言っているのに、これまでの日本の産科の医療訴訟というものが、どういう訴訟だったのか、よく知らない人たちが議論しているのではないか」

最後に勝村氏が御登場というのはもはや様式美とも化している感がありますが、大きく二つの問題点を指摘できると思いますね。
一つめは保険料と支払いの不均衡や厚労省天下り利権疑惑など、導入の経緯にも関わる諸問題。
二つめは補償の範囲が狭い、医療訴訟抑制効果がはっきりしないなどといった、現場にとってほんとうに役に立つものなのかという疑問。

一つめの疑問についてはどの程度のコストがかかるのか厚労省の試算が出ていますのでこちらをご参照ください。

産科補償制度、事務コストは年52.4億円(2008年11月18日CBニュース)

「余剰金が生じるのではないか」との指摘がある産科医療補償制度について厚生労働省は、年間100万人の妊産婦情報の管理や審査委員会の運営など「事務コスト」が年間52億4000万円掛かるとの試算を発表した。
(略)
 回答によると、同制度の運営に掛かる「事務コスト」は年52億4000万円。「年間100万人規模の個人情報を管理し、20年にわたる補償を行うための分娩機関・妊産婦登録システムの開発および維持に要する費用、制度の運営や審査などに要する費用、補償金の支払い業務を行うための事務費・人件費などが必要となります」としている。
 52億4000万円の内訳は、▽システム開発等経費(5年間限り)4.2億円▽妊産婦登録・審査等経費41.6億円(妊産婦情報管理経費27.5億円、審査、支払等経費14.1億円)▽長期分割金管理等経費6.6億円―で、1年間に掛かる費用と数年間にわたって掛かる費用が混在している。

 財務の透明性については、「外部有識者によって組織され、公開により開催される『産科医療補償制度運営委員会』に(収支状況を)報告するとともに、公表する」と回答。その上で、「決算状況を踏まえ、遅くとも5年後をめどに制度の見直しを行うこととしており、仮に5年を待たずに剰余が大きく見込まれることになれば、医療部会および医療保険部会にも適宜報告し、早期に制度を見直すことも考えられます」としている。

 「剰余・欠損が出た場合の処理方法」については、「もし脳性まひの発生率が見込みより低ければ、剰余が生じることになり、損害保険会社の収益となりますが、逆に発生率が高ければ、欠損が生じることになり、損害保険会社が経済的な負担を負うことになります」とした。
 この回答の意味について、厚労省の担当者は「補償の対象となる脳性まひの件数は年800件と考えているが、もしこれを上回る900件に補償金3000万円を掛けると270億円。これに事務コストの52億円を加えると、想定される収入の300億円を超えるため、欠損が生じる」と説明している。

病院に対する厳しい締め付けに比べてひどくいい加減などんぶり勘定だなという気もしますが、実際にどれくらいの支払いが生じるのかはっきりしていない以上は民間企業としてリスクは高めに設定しておくのは仕方ないとは思います。
しかしながら実際やってみるとやはり大きな過剰金が出たということになれば、五年後などとぬるいことを言わず早急に救済の範囲を拡大していくのが筋でしょうね。

さて、このあたりからは二つめの実効性にも絡んでくるのですが、導入の経緯で特に気になるのが補償対象は基本的に出生時の事故によると推定されるものだけであって、33週以前が補償外となるなど先天性脳性麻痺がばっさりと対象外にされている点です。
本当に弱者救済を目指した制度であれば意味のない区分分けではないかと思うのですが、当然ながら同様に感じた人は少なくありません。

産科補償制度で保険会社は「ぼろ儲け」?(2008年11月11日CBニュース)

 民主党の「子ども・男女共同参画調査会」が11月11日に非公開で開かれ、産科医療補償制度の概要について厚生労働省の担当者からヒアリングを行った。同党の神本美恵子参院議員と島田ちやこ参院議員の説明では、「厚労省の推計によると、民間の保険会社がぼろ儲けすることになるのでは」「公的な制度にするのが望ましいのでは」などの質問に、担当者からは明確な回答が得られなかったという。
(略)
 来年1月1日からスタートする産科医療補償制度では、出産時の事故で子どもが脳性まひで生まれた場合、家の改修費用などの一時金600万円と毎月10万円が20歳になるまで支払われ、厚労省は、医療事故の数を年間500-800件と推計している。全国の分娩件数は年間100万件程度で、これに保険料3万円を掛けると300億円。ところが、補償対象となる年間500件に補償金の3000万円を掛けると150億円となる。

 調査会では、この点について取り上げ、「(余剰金が生じて)保険会社にかなり大きな利益が出る」「(民間ではなく)公的な保険制度にすべきだ」と複数の議員が追及した。しかし、両議員によると、「(担当者からは)納得できるような説明は得られなかった」という。

 さらに、先天性の脳性まひなどが補償対象にならない点について、「なぜ先天性の脳性まひ患者を排除するのか」「(妊産婦と分娩機関の)契約の方法はどうなっているのか」「先天的な脳性まひの診断方法は本当に確立されたものなのか」などの質問も飛び出し、同党の議員らは担当者に資料の提出と再調査を求めた。

結局今に至るも「なぜそうなのか」については明確な回答がないようですが、先ほどのTBSの報道とも併せて考えた場合にやはり何かしらの利権絡みなのか?という疑惑は拭いきれません。
このあたりに関して口が悪いことで有名な某便所の落書きではこんな不謹慎なカキコも出現しているようです。

「俺だけど、会社のお金使い込んじゃって・・・。○○万円振り込んでくれないかな?」(おれおれ詐欺師)

「脳性麻痺児を救い、そして産科医療崩壊を防ぐため産科医療保障制度に加入してください。」(厚生労働省)

二つめの問題点である導入効果についても実際のところやってみなければ判らないと思いますが、何より先行き不透明な理由の一つがこのように救済範囲が極めて限定的であることなんだと思いますね。
この点で問題になってくるのが補償外の妊娠33週未満の未熟児における発症件数なのですが、全国的調査はないものの幸いにも姫路市におけるデータがありましたので紹介しておきます。

平成19年度旭川荘療育アカデミー「地域療育と家族支援」(2007年10月27日)より抜粋

こちらの00年~03年のデータからみたところでは、妊娠週数と発症数、発症率の関係はこんな感じなんですが、これに現在の年間出生数110万をかけて全国での数を予想してみますと興味深いことが判ってきます。

妊娠週数    脳性麻痺児/出生数    発症率(出生1000人対)    年間予想出生数    年間予想発症数
31週まで        35 / 188                 186.1                   7784              1449
32週以後       38 / 26380                 1.4                  1092216           1529
合計            73 / 26568                 2.7                  1100000            2978

単純計算で年間3000人近くの脳性麻痺児が見込まれますが、更にそのうちの半数は最初から妊娠週数の点から対象外になるわけです。
さらに厚労省予測からすれば補償対象数は年間800程度と言うことですが、そうしますと妊娠週数が満期に近いのにも関わらず補償が受けられない場合が同数程度あるだろうと言う予想がなり立つわけです。
いろいろな意味でいかにも揉めそうな厚労省見通しなんじゃないかという気がしてきませんか?

現場の感覚からすれば週数は仕方がないとして、産科医師の方ではおそらく満期近くのお産であれば原則補償金が出るものと考えているだろうし、当然書類上も補償金が出るような書き方をするんじゃないでしょうか。
出された申請を全部を認めた場合、あっというまに補償金支払件数は予定を超過してしまうかも知れません。
そもそも「残念ながらあなたのお子さんは脳性麻痺ですが、出産時の事故によるものではないので補償金は支払われません」では家族が納得しないであろうことは目に見えています。

そうなると現場ではどういうことになってくるのか?
申請通りに補償金支払いが高騰して「これじゃやってられない!」と保険会社が悲鳴をあげるのか、支払いの可否を巡って医師対家族の修羅場が出現するのか、それとも支払い認定を思いっきり厳しくして制度は守られても国民の怨嗟の声が厚労省に集中するのか。
いずれにしてもずいぶんと楽しくないことになってきそうな予感もするのですが、単なる思い過ごしでなければいいんですけどね。

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コメント

 私は、これに関してはお手並み拝見と、経過観察中です。(いずれにしても病院機能評価は大嫌いですが)
 妻は脳性麻痺を診断する立場の医者なので、戦々恐々としています。
 ところで、産科医療保障制度のウェブサイトを眺めていて、一つだけいいことを見つけました。22週までに妊婦を登録しないと保障を受けられないのだそうです。このことを世間に周知徹底すれば、かかりつけ医を持たない飛び込み出産を抑制できるのではないかと思うのですが、そもそも妊婦検診も受けないような人に知らせる努力をしているようには見えないのはどうしたことでしょう。

投稿: JSJ | 2009年1月 9日 (金) 13時31分

問題のもう一つは、お産トラブルになるのは産婦人科で、脳性麻痺を診断するのは原則的に小児科医(特に新生児科医)ということですね。で、結局申請に伴う責任はだれが取るのでしょうか。それがどこにも明記されていないあたりが、「ホントに払う気があるのか」と感じさせるポイントでしょう。

投稿: | 2009年1月 9日 (金) 18時54分

こればっかりはやってみないと判らないことですが、一生に何度もないイベントで掛け金が3万だろうが10万だろうが保険から支払い受けられる妊婦にとっては大きな違いがないと思うんですよね。
やるならやるで脳性麻痺全例補償とでもすれば審査の面倒も現場の軋轢も減るだろうし、どうしてこんなハンパな補償範囲で始めるのかという気はしています。

投稿: 管理人nobu | 2009年1月10日 (土) 12時15分

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