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2009年1月27日 (火)

救急医療はババ抜きのババ?

一見すると地味な記事なんですが、よく読んでみると「なんじゃこりゃあ?!」な話って結構ありますよね。
今日は最近見かけた「なんじゃこりゃあ?!」な話を紹介してみます。

救急搬送の遅れ認め和解金 千葉のバイク転倒死亡事故(2008年8月26日47ニュース)

 千葉県流山市で2003年、バイクの転倒でアルバイト店員の男性=当時(18)=が死亡したのは救急搬送の遅れが一因だったとして、遺族が市に1200万円の損害賠償を求めた訴訟の和解協議が千葉地裁松戸支部(岡本岳裁判長)であり、市側が搬送の遅れを認め、100万円を支払うことで和解が成立したことが26日、分かった。

 和解は25日付。総務省消防庁によると、救急搬送の遅れをめぐる訴訟で自治体が和解に応じるのは極めて珍しいという。

 訴状によると、事故は03年1月6日午前1時すぎ、市道で発生。救急隊は午前1時29分に現場に到着したが、転倒した男性の搬送が始まったのは午前2時10分だった。男性は約6時間後、出血性ショックなどで死亡した。

 遺族側は、救急隊側が現場状況の確認に要した時間を差し引いても、搬送が31分遅れたと主張。市側は死亡と遅れとの因果関係を否定する一方で、今年6月、地裁の和解勧告を受け「搬送時に最善を尽くしたとは言えず、遅れはあった」と認めた

こちら少し古い記事ですがなぜか最近になって浮上していました。
一見すると「へえ」と見過ごしそうな話ですが、救急隊が到着して搬送開始まで41分間、搬送が31分遅れたと言うことは現場到着から10分以内に搬送開始せよと言うことですかね。
これを「遅れがあった」と認めたと言うことは、千葉の救急隊としては搬送に際しては物理的移動時間以外の全ては搬送遅延であると判断したということになりそうなんですが。

実際のところ全国的に救急搬送時間は延びる一方で、過去最長記録を更新したなんて話があちこちから聞こえてきます。
道路は良くなる一方のはずですから(苦笑)ほとんどは搬送先が見つからない部分で遅延が起こっているんだろうとは想像できるところですが、この辺りの改善に向けて消防救急がどう最善を尽くすつもりであるのか興味があるところですよね。
さて、そうした事情で消防隊に最善を尽くされてしまうと現場がどういうことになるかという一例がこちらの記事です。

適切な治療怠った当直眼科医を書類送検 /福井(2009年1月23日日刊スポーツ)

 福井県警は23日までに、2004年に同県敦賀市の市立敦賀病院に搬送された男性患者に適切な治療をせず、この患者が死亡したとして、業務上過失致死容疑で病院の当直だった眼科の男性医師(35)を書類送検した。

 調べでは04年6月5日、敦賀市内の暴行事件で負傷した無職石橋勉さん(当時61)が病院に運ばれた際、骨折した肋骨(ろっこつ)が肺に突き刺さっていたにもかかわらず、男性医師は、エックス線撮影で確認できず、適切な治療をしなかった疑い。石橋さんは2日後に肺挫傷で死亡した。

 敦賀病院によると、医師は04年4月から05年6月まで眼科医として勤務。現在は金沢市内の病院に移ったという。

中小病院での一般的な当直のスタイルというのは一人や二人でやっている場合が多いのですが、当然この当直医にも専門というものがあります。
一人ですと全科当直と言って、例えば内科医が外科領域だろうが泌尿器科領域だろうがみることになる訳ですが、さすがにそれではあんまりだと言うので内科系と外科系の二人当直という病院も多いわけです。
一見すると合理的で安心できるように思えるかも知れませんが、この内科系、外科系という区分が問題で、実際には精神科や皮膚科が内科系当直をしていたり、眼科や耳鼻科が外科系当直をしていたりするわけですね。
救急隊と言うところは病院に患者をおいてくれば仕事は終わりですから、「○○病院は外科系当直あり?それじゃ外傷患者みれるね?」で何でもかんでも送り込んできますが、その結果眼科や耳鼻科などのマイナー診療科医師が多発外傷を担当するなんて訳の分からない話が起こってくるのです。

一昔前の医療がのんびりしていた時代には、マイナー診療科医師は当直免除であったり、半ば電話番のようなもので(実は本来の当直医の仕事はこんなものなんですが)本当に患者がくれば専門の先生を呼んで頼めば終わりという程度だった頃もありました。
しかし今のように患者は増える一方で救急をやる病院は減る一方となってくると、どこの病院も現場のドクターは過労で殺気立って来ているわけです。

例えば外科のドクターが週に二回は当直でどんどん患者が来る、週に三回は呼び出し待機当番で毎回のように緊急手術に呼ばれる、更に残りの日も真夜中まで手術後患者の面倒をみなければならないという状況で、「先生すまんけど外傷来たからみて~」と当直医から呼ばれて喜んで出かける気になるものかどうか。
それ以前にモノの判っているまともなマイナー科の先生であればあるほど「このままじゃ当院の外科は潰れる」と良識を働かせて、自分で手に負える範囲の患者以外は最初から無理だと断るようになりますよ。
まして最近ではこうした記事にあるように専門外だから仕方ないよねですまされるような時代ではなく、むしろ専門外であるなら何故さっさと専門医に送らなかったのかと責められるようになっています。

救急隊からすれば「最近はどこの病院も患者を受けるのが渋くなって困るな~」という話ですが、医療を取り巻く状況から当たり前に起こっている現象に過ぎないことなんですね。
話に聞くところでは救急受け入れ病院の輪番制などで必ず受け入れ先があるようにしようと地域医療機関に働きかけている救急隊もあるようですが、リスクを一手に引き受ける現場が当たり前の防衛行動に出ている以上は安全な場所からどんなかけ声をかけようがうまく回るはずもありません。
救急医療の維持において必要とされるインセンティブというものがどういうものであるのか、それを現場に提示するために法令や予算なども含めて何をどう整備しないとならないのか、未だにそうした議論が見えてこないのは気がかりですね。

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