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2008年12月23日 (火)

医者が足りぬと言うのなら

医療費削減方針の抜本的見直しまでは未だ至っていないようですが、政府厚労省もようやく医師不足を公式に認め対策を講じ始めているようです。
問題はその内容なのですが、例えば臨床研修は期間が一年に短縮されたり研修先に枠がはめられたりと、制度発足当初の理念?何それ食べられるの?な制度改革がほぼ確定的となるなど、根こそぎ動員体勢が敷かれつつある気配すらあります。
近ごろでは医学生すら、すっかり世間からは優良顧客扱いになっているというニュースから紹介します。

オリコ学費ローン:医師は出世払い…無担保で最大2千万円(2008年12月20日毎日新聞)

 信販大手のオリエントコーポレーションが、私立大学の医・歯学部の学生向けに無担保で最大2000万円を融資する学費ローン商品を開発した。国立や他学部に比べて学費負担が重い私大の医・歯学部は、一般家庭の学生があきらめがちだが、高収入が期待できる医師・歯科医の「出世払い」を“担保”とする考えだ。

 オリコの学費ローンの実質年率は固定金利型で年4.8%以上。合格証明書や在学証明書などを添付した上で、電子メールや郵送で申し込めるため、来店が不要。1000万円までなら、在学中は利息だけの支払いも可能という。融資は学費として直接大学に振り込まれる仕組みで、神奈川歯科大学(神奈川県横須賀市)が来年2月から導入することを決めたほか、現在5大学と協議している。

 私立大の医・歯学部の卒業までの学費は2000万~6000万円。ほかにも寄付金などがかかるケースも多く、日本学生支援機構(旧日本育英会)や各大学独自の奨学金制度だけでは不十分なのが現状だ。学費の安い国公立大は募集人数が少ないため、金銭的な理由で医師への道をあきらめる学生も少なくない。みずほ銀行や三井住友銀行など1000万円以上の教育ローンを設定している大手銀行もあるが不動産などの担保が必要だ。

 同社は「医師・歯科医は高収入の場合が多く、融資決定の際に将来の返済能力も考慮する。地方を中心に医師不足が深刻化する中、学費負担の軽減で医師を目指す生徒が増えれば」と話している。

素朴な疑問として金がないなら努力して金がかからない大学に行けと思うんですが、まあ双方納得ずくでやることであれば真っ当な商行為ということでよろしいのではないでしょうか。
しかし「学費負担の軽減で医師を目指す生徒が増えれば」なんてオリコさんは判って言ってるんだと思うんですが、いくら学資援助をしようが医学部定員枠以上には学生は増えないんですけどね。
こうしたローン導入で社会に何かしらメリットがあるとすれば、今後は今まで以上に医者を金で釣りやすくなるだろうなということくらいでしょうが、医師不足が深刻化している地方にとってそれが良いことなのか悪いことなのかは検討を要する課題ってものではないですかね。

ところで医学部人気は衰え知らずなんて話も聞く一方で、ちょいと気になるこんな記事も出ているんですが実際のところはどうなんでしょうか?
少なくとも仕事に不自由する心配も就職活動で苦労する心配も当分なさそうな業界ですから、この不景気で先行き不透明な折ならもっと人気も出て良いんじゃないかと思うんですがね。

医学部進学 40人割れ ピーク94年度の半数に/秋田(2008年12月9日読売新聞)

 医師不足が問題になるなか、2008年度に医学部へ進学した、県内高校の卒業生が39人にとどまり、ピークだった1994年度の82人から半減したことが県高校教育課のまとめでわかった。県出身の医学生が減ることで、将来、県内の医療に携わる医師を確保することがさらに難しい状況になりそうだ。
 県高校教育課によると、高校卒業者の大学医学部進学者(現役・浪人合格の合計)は、記録が残っている72年度から2000年度に45~70人で推移。過去最高となった94年度には、82人のうち32人が秋田大医学部に入学した。
 01年度以降は減少傾向をたどり、07年度まで40~50人で推移。秋田大医学部は07年4月から県内高校の出身者の入学枠を設けたが、医学部入学者は07年度25人、08年度21人と増えていない。

さて、最近は学生ばかりではなくリタイア・ドロップアウト組にも動員令発動中と言うことのようです。
こちら大ベテランにも現場復帰をしていただこうという記事を紹介しておきましょう。

復帰目指す 医師に『相談制度』 効果的な人材確保へ/千葉(2008年12月20日東京新聞)

 県のドクターバンク・メディカルサポート事業の一環で、医師の復職や転職などの相談に応じる「復職コーディネーター」の試みが始まった。再就職を求める医師を医療機関に紹介する取り組みは既に実施されているが、県は専門のコーディネーターに調整してもらうことで、より効果的な紹介をし、医師確保につなげたい考えだ。 (小川直人)

 県のドクターバンクに対し現在、常勤医師が六十八医療機関で二百四十五人、非常勤は二十三医療機関、六十五人の求人がある。一方で、職を求める登録医師は五人と少なく、これまで就職した実績は一人だけだ。

 県は、専門知識を持った人に調整してもらい実効性を上げるため、復職コーディネーターの配置を決定。本年度は月に一回ほど、相談日を設ける。電話のほか、メールでの相談にも応じ、相談日は県のホームページなどで告知する。メディカルサポートは、進歩する医療技術を習得するための研修先を紹介することが目的。出産や子育てなどで長期間、医療現場から離れていた医師の支援策にもなる。

 復職コーディネーターを務めるのは、県医師会理事の秋葉則子さん=写真。初回となった十七日には六十代の女性医師から、健康診断施設でフルタイムの就職を希望する相談があったという。

 秋葉さんは日本医師会女性医師バンクでもコーディネーターを務める。「勤務状態に悩む人など多くの医師に相談制度を知ってもらうことが大事。女性医師の場合、夫の転勤により転勤先での就職を求める人も多い」と指摘。県医療整備課は「登録医師が少なくもっとPRし、一人でも多くの医師確保につなげたい」としている。

六十代の女性医師、健康診断施設でフルタイムの就職を希望、ですか…
ま、今どきの医療業界で働く意志と能力のある人にはとっくに話が来ていると思われますから、こういうところに登録してという先生方は色々とその、何かしらの事情がおありの方々も多いんでしょうね。
それでもまだ医師としての資格を持ってやっているのなら誰に非難されるものでもないのですが、近ごろではいよいよ資格拡大も画策されているようです。

養成始まるナース・プラクティショナー 初期診療や薬の処方目指す(2008年12月17日産経ニュース)

 医師不足が深刻な中、看護師ら医師以外の医療従事者の役割を拡大してはどうか、という声が上がっている。米国ではナース・プラクティショナー(NP、診療看護師)やフィジシャン・アシスタント(PA、医師助手)という職種があり、診察や治療、患者説明などを担当している。日本でも今年から、NPの養成が始まり、医療を担う新たな存在として注目されている。

米国のNPやPAは、日本では医師にしか認められていない初期診療や急性の病気の手当て、薬の処方などを行うことができる専門職だ。米国でNPとして働く緒方さやかさんによると、NPは米国で医師不足が懸念された1960年代に養成が始まり、90年代に医療の質の高さや医療経済的な面から評価され活用が広まった。免許保持者は現在、14万人に上るという。

 緒方さんは「患者さんは『ちゃんと診てくれるなら医師でもNPでもかまわない』と考える人が多い。医師からは『専門の研究に専念する時間ができた』『休暇がとれるようになった』と言われることもあり、いい関係を築いている」と話す。

 名称にナース(看護師)が含まれるため、NPは看護師がスキルアップした職業ととらえられがちだが、米国では看護師の資格がない人も養成大学で学べば資格を得ることが可能だという。今年6月、米国のNPやPAの現場を視察した東京女子医大心臓血管外科の西田博講師によると、NPはシフト勤務で週40時間労働が守られ、資格取得1年目で年収7万5000~8万ドル(675万~720万円)程度。西田講師は「医師ほど責任が重くなく、忙しくないうえ、安定した収入が見込めるとして、米国では人気の職種となっている」と話す。
(略)
 一方、将来の医師不足が心配される外科系の医師の学会からも、NPやPAの養成を望む声が上がっている。日本胸部外科学会は4月、医師の過重労働を軽減し、高度医療を推進するために、「医師以外の専門職が担当できる部分を拡大するなどの制度改革が必要」との提言をまとめた。日本外科学会などは外科手術の術前、術中、術後の周術期を担当する「周術期管理ナース(もしくはNP)」の構築を検討し始めた。

 ただ、日本では現在、診断や処方などの医療行為が認められるのは医師と歯科医師のみ。また、保健師助産師看護師法で、看護師の業務は「診療の補助」などと規定されている。このため、NPが医師の指示がなくても自らの判断で診断や処方をするには法律改正が必要という議論もある。

 日本外科学会理事の田林晄一・東北大教授は「医療の質と安全性を高めるためにチーム医療による分業は不可欠で、コメディカル(医師と協同して医療を行う病院職員)の存在は今後、より重要になる」とNPやPAに期待を寄せている。

将来もしこうしたものが「補助医師」として位置付けられることになった場合に、医療現場に与える影響と言うものはどうでしょうか?
この手の話になると必ずと言っていいほど出てくるのが沖縄にかつて存在していた「医介輔」という補助医師制度ですが、沖縄の本土復帰後ははっきりした法的位置付けがないまま介輔の減少を続けた結果、ついに今年最後に残った介輔も廃業したと言います。
現状ではまだ法的にはっきりした資格となっていませんし補助医とも呼べるものでもありませんが、将来的に医師業務を一部なりとも代行するということであれば、まずはどの程度の権限を与えるのかをしっかり議論していかなければならないのは当然でしょうね。

そもそも過酷な現場から医師が逃げ出す理由の一つとして訴訟リスクも大きな要因とされていますが、こうした補助医的制度の何が問題かと言えば補助医の出した指示による結果も医師の責任となるのか?ということですね。
産科領域では現状でも助産師というものが存在しますが、同制度も「正常分娩は助産師で、異常分娩は産科医へ」という理念とは裏腹に様々な問題も指摘されており、必ずしも肯定的評価ばかりを得ているものではありません。
「医療現場で何か問題があれば全て医師の責任」と言うことであれば、医師としては何をされるか判らない他人の指示で医療をされたのでは安心も出来ませんから最初から全部自分で手を下していくしかない、それが結果として更なる過重労働を招くことにつながっているわけです。
現場での責任分散の制度もあわせて考えていかなければ、それぞれ異なった命令を発する司令部の数だけを増やしても誰も喜ばないと言う結果に終わるのではないかと危惧しているのですが…

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コメント

 NP、PAについて日経メディカルにくわしい記事が出ていました
-ttp://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200812/508942.html(PA中心の解説でしたが)
手術の助手、グラフト採取、カテーテル穿刺、胸腔ドレナージ、術後管理、退院サマリ作成etc.これって、日本の大学病院で「主治医」と呼ばれる人達がやっている仕事ではないでしょうか。ま、手先の技術と条件反射とも言えますが。
で、文中で紹介されている人たちの年収が5万5千ドル〜18万ドル(全米の平均が8万6千ドル)。日本でこの収入が(しかも 交代勤務で)もらえるなら医者をやめてPAになるって人がでてきそうです。が、恐らく日本に導入されれば、日本の看護師並みの給与になるのでしょう。というわけで、看護師の給与で働く医者を促成栽培する制度と理解しました。
 問題は、NP、PAが他ならぬ産經新聞で紹介されたということで、それが意味するところはただ一つ「財界はNP、PAは医療費抑制に役立つと判断した」ということです。同じ目的で始められた介護保険制度の現状を見るとき、日本版NP、PAがどうなることか…。

投稿: JSJ | 2008年12月24日 (水) 12時18分

ドレナージだのカテ穿刺だのになりますと、法的裏付けがない限り難しいでしょうね。
実際のところ現場の実働医師数を増やしたいのであれば大学・国公立病院看護師に民間並みの仕事をさせた方がはるかに早くて確実だと思いますが、マスコミ報道ではアンタッチャブルな領域ですから(笑)。

投稿: 管理人nobu | 2008年12月25日 (木) 10時39分

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