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2008年12月 2日 (火)

診療報酬不正請求問題 ~ 悪徳医師が保険財政を崩壊に導く!?

昨日は元厚労省の美容外科医が新郎報酬不正請求で逮捕されるというなかなかキャッチーな事件がありまして、ワイドショーなどでもそれなりににぎやかに取り上げられていたようですね。
まずは記事から紹介してみましょう。

診療報酬不正請求で旧厚生OB医師ら3人逮捕 神奈川県警(2008年12月1日産経新聞)

 美容外科「菅谷クリニック」(現サニークリニック)で診療報酬の不正請求を繰り返したとして、神奈川県警は30日、詐欺容疑で、旧厚生省OBの医師でクリニックを経営する医療法人社団「天道会」理事長の菅谷良男容疑者(58)ら3人を逮捕した。
 菅谷容疑者は「不正請求はしていない」と否認しているという。菅谷容疑者は昭和62年~平成元年、旧厚生省で医療指導監査官として保険請求の不正監査に従事していた。

 調べでは、3人は平成16年10月ごろから18年8月ごろまで、自由診療で入れ墨除去をした患者に虚偽の病名を付けて保険診療を装い、計約110万円をだまし取った疑い。
 クリニックをめぐっては、診療報酬約400万円を不正請求したとして神奈川社会保険事務局が昨年2月、保険医療機関指定を取り消し、同年12月、菅谷容疑者を詐欺罪で刑事告発。県警は今年1月、クリニックなど関係先を家宅捜索したほか、菅谷容疑者に任意で事情を聴くなど、調べを進めていた。

元厚生省OBの医師逮捕 不正請求暴くプロが自ら不正(2008年12月1日産経新聞)

 「不正請求は行っていない」-。美容外科「菅谷クリニック」(横浜市泉区、現サニークリニック)で診療報酬を不正に請求したとして、詐欺容疑で神奈川県警に逮捕された菅谷良男容疑者(58)は、旧厚生省で不正請求が疑われる保険医療機関への監査に従事した経験を持つ、その道のプロ。不正の手口には精通していた。

 菅谷容疑者は昭和62年~平成元年まで、旧厚生省で医療指導監査官として保険請求の不正監査に従事。かつては医療機関による巧妙な架空請求や二重請求に目を光らせ、「摘発」してきた。
 しかし、旧厚生省を退官後後に美容外科をスタートさせると、自らが不正に手を染め、逮捕前には「治療していないのにしたものとして請求したことはない」と繰り返した。

 厚生労働省によると、18年度に実施した医療機関への個別指導は3334件で、新規に保険適用となった施設への指導分などと合わせ、求めた返還額は計約53億4000万円。
 総医療費が30兆円を超える一方で、少子高齢化の急速な進展で保険財政は逼迫(ひっぱく)の一途をたどっており、診療報酬の不正請求は財源不足をより悪化させる。

 不正請求を知り尽くした菅谷容疑者が逆に不正を行っていたとすれば、許されるものではない。

この件に関しては実際のところどんな状況だったのかまだ判らない部分が多いのですが(噂では詐欺まがいの行為も確かにあったとか云々…)、テレビ報道などを中心にいわゆる診療報酬不正請求問題と絡めて論ずるものが目立ちます。
そもそもこの診療報酬の不正請求というもの、いったいどういうことなのか世間一般では理解されていない場合が多いようですね。
「また何か医者が小ずるいことをやって金儲けしてるんだろ」なんて認識では医療側にとっても被医療側にとっても不幸が増えていくばかりなので、今日は不正請求という現象について少しばかり書いてみましょう。

診療報酬というものは行った医療の内容を記録したレセプト(いわゆる明細書)というものを毎月医療機関から保険者(国民健康保険団体連合会や社会保険診療報酬支払基金など)に送り、査定を経た上で認められた分が保険者から医療機関に支払われることになっています。
ところがこの診療報酬の査定というものは県毎に基準が違っていたりと昔から保険診療に関わる大きな問題として指摘されてきながら、全く改善されることなくますます悪化の一途をたどっているところなんですね。
こちらのようなサイトでもいろいろと書かれていますが、聞くところでは業者に外注で査定審査をやっていて、減額に成功すると成功報酬でその何割とかが委託業者の懐に入る仕組だと言いますから、それは医療として正しい、正しくないとは全く無関係に、ただ保険者の支払いを減らすためだけの作業が行われるのは当然でしょう。
つまり、明らかな詐欺行為もおかしな査定で削られた分も同じ「診療報酬不正請求」という言葉でくくられてしまっているのが現状であるわけです。

こうした機械的な査定審査の結果、医療現場にどういう影響があるのかが重要になってきますが、いくつか簡単な例を取り上げてみましょう。
慢性呼吸器疾患の患者では「経皮的酸素飽和度」と言うものを測定することが欠かせません(指先にセンサーをつけると酸素飽和度何%と表示される機械です)。
当然この測定というものは保険診療上認められた正当な医療行為なのですが、例えば一ヶ月間入院した患者に一日一回、計30回測定しましたと請求すると、たいてい10回くらいはばっさり切られて認められません。
おかしいと思いつつも20回までは認めてくれるんだなと次の月には20回測定しましたと請求すると、今度は7回くらいは切られてしまいます。
何で?と思いつつしつこく請求を繰り返していると、そのうち「おたくの病院、ちょっと請求回数が多すぎるんじゃないですか?いい加減にしないと全部認めなくしますよ?」なんて恐ろしいコールが来ることになるわけです。

無論、指先につけるセンサーで計るだけのことですから初期の導入コストはかかっても運用コストは微々たるものであって、無制限に認めれば幾らでも金儲けのネタにされてしまうという懸念は理解できます。
しかしそこには「酸素飽和度も測定できないようでは、この患者さんの治療は満足に行えないのでは?」などと言う考えは微塵も存在しておらず、単にお金の多寡だけを問題にする姿勢が根底にあるわけです。
「不正請求」を行った医療機関とそれを切り捨てた保険者、はたしてどちらが「正しい医療」を目指していると言えるのでしょうか?

不正請求の別な例として、最近なにかと話題になっている「同じ成分で同じ効果」をうたうジェネリック(後発医薬品)と言うものがあります。
このジェネリック問題については以前にも少しばかり取り上げましたが、ジェネリックも不正請求の温床となっていることをご存知でしょうか?
保険診療において薬を出すには、カルテにそれらを用いることが保険上認められている病名(適応症)を記載しなければならない、逆に言えば適応症としての病名記載がないのに薬を出すことは診療報酬の不正請求とされてしまいます(薬だけでなく検査や手術など何でも同じことですが)。
問題は同じ成分で同じ効果を持つはずでありながら、元になった薬(先発品)が持っていた適応症を持っていないジェネリックが存在しているということなんですね。

甲と言う病名に対して適応となっている薬Aを処方していた患者がジェネリックへの変更を希望しました。
担当医は処方箋に「同効薬変更可(ジェネリックに変えても良いよ)」と記載して患者に渡しました。
患者は院外の薬局でAのジェネリックであるA'という薬を受け取り、薬代も安くなったと喜んで帰りました。
嗚呼!やっぱりジェネリックって素晴らしい!

ところが後日判明したことに、担当医がカルテに書いていた保険病名が薬Aの適応症としては認められていても、薬A’の適応症としては認められていなかったのですね。
そうなると薬剤を処方した医療機関の診療報酬から適応外の薬価分の点数が差し引かれてしまい、しかもマスコミからは「また金勘定だけ達者な悪徳医者か!」などとバッシングされ、おまけに近隣住民からは「あそこの病院って違法行為やって処罰されたんですってね」と噂を立てられることになるわけです。
「幾ら何でもそりゃおかしいだろう」と処方箋のジェネリック変更を不可にするなど、ささやかな抵抗をしている先生もいらっしゃいますが、想像するだけで空しくなってきませんか?

あるいは陣痛促進剤の保険外使用の問題があります。
そもそもこの陣痛促進剤というものもひと頃さんざんバッシングされた薬ですが、例えば胃潰瘍の薬として承認されている「サイトテック(ミソプロストール)」という薬を陣痛促進剤として保険外適応したことをもって「添付文書にも妊婦には流産の危険ありと記載されているのに!なんてひどい医者だ!」とやられた。
実はこのサイトテックという薬、海外では陣痛促進剤として一般的に用いられている薬なので「潰瘍の薬として」妊婦に使えば流産するかも知れないのは当たり前なのですが、これも国内では何故か陣痛促進剤としての保険適応が認められていないことが問題をこじらせたのでした。

サイトテック自体は産科の先生からは「使いやすい薬だったのに残念だな~」と惜しむ声も漏れ聞こえて来ますが、日本では使ってはならないと言うのであれば他の薬を使わざるを得ないのは仕方ありません。
陣痛促進剤の使用自体についても色々な意見はあると思いますが、ここでは「極めて劇的な効果を生む薬とはしばしば最も強力な毒薬でもある」という一般論を語るもににとどめておきます。
しかし本来であればごく当たり前に使えたはずの有用な薬を正当な使い方で用いていながら不正請求として非難されると言うのであれば、それはやはり釈然としないものを感じますね。

もう一つ別な例として血液製剤(アルブミン製剤)の問題も取り上げてみましょう。
肝硬変も末期になってくると血液の浸透圧を維持する蛋白質(アルブミン)が次第に低下していき、身体の中の隙間に水が貯まって見るからに苦しそうな状態になってきます。
これを改善するために外から蛋白質を補いながら治療を行うと劇的な効果があるのですが、この場合に使用するアルブミン製剤というものは血液由来の貴重なものであるせいか月々の使用量に厳しい制限が科せられています。
アルブミンに限らず他の多くの治療・投薬でも言えることですが、使えば効くことが判っているのに保険診療上認められていないから使えない、結果患者さんは苦しみながら亡くなっていくという現実に釈然としないものを感じている医師も多いのではないでしょうか。

実際のところ不正請求をやった病院にテレビカメラが押しかけて周りの人たちに聞いてみると、意外にも「いや、熱心でいい先生でしたよ」なんて声で満ちあふれていたなんてことをワイドショーなどで見かけませんか?
明らかな犯罪としての不正請求と、査定で不当に削られた不正請求とがどれくらいの割合になるのか、はっきりしたデータは見たことはありませんが、ざっと調べたところ普通にやっていても削られてくる査定率というものは国公立病院で0.5~1%くらい(中には2%超というところもあるようですが…)、民間病院だとそれより低くたいてい0.3%以下?といったところでしょうか。
30兆の医療費のうち返還を求めた分が53億という数字とあわせて考えると、特に大部分の医療費を使っている病院診療においてはうっかり間違いや適応症記載漏れといった過失が大多数で、犯罪的な意味での不正請求はほとんどないように思います(現場の勤務医に取っては全くメリットがないですし)。

一部の医者が本当に犯罪行為に手を染めていたとして、それがどれほど全体に影響を及ぼすかとなると考えれば、「診療報酬の不正請求は財源不足をより悪化させる」式の批判ってのはずいぶんと的外れであって、むしろ医療業界全体にかつてでは考えられないほど「不正請求は出来ない」というプレッシャーがかかっていることによって、医療自体が変質を余儀なくされることの方がよほど問題でしょう。
一昔前なら「保険の査定で削られようが、患者のために必要な薬はちゃんと使え!」という「間違った先生」も多かったものですが、病院の半数が赤字に転落しているという今のような医療費大削減時代にそんな「金の亡者のような悪徳医者」は真っ先に淘汰されていきます。
生き残っていくのは「申し訳ないですが、これ以上の治療は保険で認められておりませんので」とすっぱり斬って捨ててくれるような「正しい先生」ばかりとなれば、それは確かに財源不足の悪化を食い止めることにはなるでしょう。
しかし保険で認められないからとすっぱり治療をやめちゃう先生と、保険では通らないけどやりましょうと最後まで頑張ってくれる先生と、果たして患者にとってどっちが良い先生なんでしょうね?

マスコミの片隅を賑わせる診療報酬不正請求なんて「犯罪行為」の裏側には、そんな医療現場の小さな小さなドラマが隠されていたりするわけです。

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コメント

必要のない手術をされて、後遺症に苦しんでいます。「生命にかかわることでなければ説明の必要ない」と言って、開き直られました。計画的な詐欺だったと今では確信しています。
そんな病院を紹介した開業医もグルだったと思います。後遺症自体、患者が嘘をついているということにされてしまっているらしいです。お金が目的ではないので警察に電話したら、話を聞く、書類も出してもらわないといけないので必要なものを持ってくるように言われ、準備していざ行こうと思って電話したら、「医師によって診断は異なるのは当然」だから警察では受け付けないと、断られました。病院の名前を告げたので風向きが変わったとしか思えません。消費者庁でも病院関係は受け付けてくれません。他にも必要のない手術をされた人を後で知りました。 汚染米も使っていました。 ペテン師に騙されたのは、自業自得かもしれないが、ひき逃げして大きな顔をしている、どころか被害者を加害者にでっち上げようという魂胆です。 因みに病院窓口での支払いは3割負担で約50万円でした。警察が腐っているという事を身をもって知りました。悪徳医師、ペテン医師を野放しにしていることには目を塞いで、医師を十把一絡げにして医療費を議論しても、共犯者としか思えません。
ご活躍をお祈り申し上げます。

投稿: 只野虫世 | 2010年9月14日 (火) 19時25分

世の中全てがおかしいと思えた時には、もしや自分の方がおかしいんじゃないかと言う可能性も真剣に検討してみる必要があるわな

投稿: | 2010年9月15日 (水) 10時03分

経歴の分からない医師にかからねばならないのは産地の分からない野菜を買わされるのと同じ。
藪医者にかかっても名医にかかっても、診療報酬は同じ。悪い教師もよい教師も給料は同じ。
性善説では善人、正直者は救われない。ミソクソ一緒にすれば悪貨が良貨を駆逐する。

投稿: 名無し | 2010年9月15日 (水) 12時37分

経歴の分からない医師にかからねばならないのは産地の分からない野菜を買わされるのと同じ。
藪医者にかかっても名医にかかっても、診療報酬は同じ。悪い教師もよい教師も給料は同じ。
性善説では善人、正直者は救われない。ミソクソ一緒にすれば悪貨が良貨を駆逐する。

投稿: 名無し | 2010年9月15日 (水) 12時37分

日本では医師の管理が出来ていない。伊藤隼也氏の「医師のインフレ」にも書いてある。藪医者が一番もうかる仕組みが出来ている。医師だけは密室が保証されている。

投稿: | 2010年9月15日 (水) 13時18分

藪医者が儲かるっつうか、まともな医者があまりに金儲けに関心がなさすぎたのがよくなかった。
今でも何にどれくらいのコストかかるのか全く知らない臨床医が多いからね。

投稿: | 2010年9月16日 (木) 23時46分

ジェネリックといっても溶出速度が異なるものもあるのだから適応症が完全に同一でないのは当たり前。
ちゃんと調べてから処方しろよ。
症状にたいして厚労省が認可している以外の薬を出しておいて審査が厳しいとはとんだ言いがかりだ。
だから医師会は守銭奴と云われるんだ
ネット薬販売にたいする薬剤師会の空気さを見習ってほしい。もう少し黙っていられないのか?
あと税金はちゃんと計算して払えよ。

投稿: 薬剤師 | 2013年6月29日 (土) 22時11分

薬剤師さまへ
適応症が完全に同一ではないのは再審査や特許のからみが理由であって、溶出速度は関係ないのでは?

投稿: クマ | 2013年6月30日 (日) 07時55分

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