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2008年12月 3日 (水)

不景気のさなかでも求人てんこ盛り?! ~ 介護業界の今

森鴎外の小説の一つに「高瀬舟」という短編があります。
島送りになる罪人を護送する高瀬舟の上で、弟殺しという重罪を犯しながらどこか嬉しげな様子を見せる罪人と、それを不審に思った役人とのやりとりが不思議な余韻を残す物語ですが、今日においても「やむにやまれぬ罪を犯した者」と言う文脈でしばしば引用されるところです。
今日は現代の「高瀬舟」とも言うべき一つの事件についてまず引用してみましょう。

100歳の実父殺害 壮絶な介護実態(2008年12月2日  読売新聞)

 宮崎市の自宅で100歳の実父を殺害したとして殺人罪に問われている同市吉村町、無職佐藤智子被告(71)の初公判が1日、宮崎地裁(高原正良裁判長)であり、佐藤被告は起訴事実を認めた。検察側は冒頭陳述で、壮絶な介護の実態を明らかにしつつ、懲役5年を求刑。弁護側は「遺族に処罰を求める声はない。6000人近い嘆願書も集まっている」と執行猶予付きの判決を求め、即日結審した。

 起訴状によると、佐藤被告は昨年12月24日、自宅で就寝中だった父の正行さんの腹や首などを包丁で刺し、失血死させた。その後自殺を図り、帰宅した夫に見つかって一命を取り留めた。

 冒頭陳述などによると、佐藤被告は35年前から父の世話を始めたが、父は10年ほど前から認知症の症状が出て、叱責(しっせき)したり、つえを振りかぶったりするようになった。叱責は毎日のように続き、被告は昨年4月、うつ病と診断された。父は深夜に大声を出し続け、徘徊(はいかい)する行為や部屋の窓ガラスの損壊も。実の娘を他人と思い込んで、「取ったものを返せ」とののしったこともあった。

 一人で日常生活を送ることは困難になり、自宅に客を招くことさえできなくなった。家族で話し合い、同年12月25日に介護施設への入所を決めた。ところが、24日午前、父は自宅を施設と誤解して「施設には入らん。死んだ方がまし」と激しく抵抗。被告は入所が無理と思い、自殺も考えたが、「父親を残せば、夫や妹にも迷惑をかける」と考えて無理心中を思い付いたという。

 佐藤被告は別の時期にも自殺を考えたが、踏みとどまっており、犯行後は夫に「ごめん、死なせてちょうだい」と語ったという。被告人質問で「殺すしか手段はなかったのか」と問われ、被告は消え入るような声で「今考えてもよく分かりません」と供述した。

 検察側は論告で「今後、被告のような家庭が急増すると予想されるが、安易に寛大な刑は高齢者の命を軽んずる風潮につながりかねない。負担を強いられたのは事実だが、動機は自己中心的」と指摘した。一方、弁護側は長年介護を続けた被告自身も病を患い、無理心中を図った事情へ理解を求めた。判決は26日に言い渡される。

事件自体に関してはこちらの短い記事に見られるように当時それほど大きな注目を集めたわけでもありませんでしたが、こうして経緯が判ってくると医療・介護問題では全く門外漢である検察にまで「今後、被告のような家庭が急増すると予想される」と言われるように、まさによくありそうな事例ではありますね。

慢性期の患者を引き受ける療養病床削減問題については以前にも取り上げましたが、政府厚労省は一時的に先延ばしにするとは言っているものの削減方針自体は撤回しているわけではなく、医療機関から介護・療養施設へという流れを医療費削減の柱の一つと位置づけているようです。
その政策誘導の一環として診療報酬削減によって医療機関自身に患者追い出しをさせようとしているのが厚労省のいやらしいところですが、その結果どういうことが起こっているのかということですね。

診療報酬改正でスケープゴートに、再入院もままならない脳卒中後遺症患者の苦難(2008年11月12日東洋経済)

 血栓溶解剤(t‐PA)使用への高額の加算創設など、2008年度の診療報酬改定では、脳卒中患者の早期治療、早期回復を強力に後押しする仕組みが盛りこまれた。反面、脳卒中の後遺症で長期の入院生活を続けている患者や体調の悪化で急に再入院が必要になった患者には、今までと同様の入院の機会が保障されなくなった。

 東京都足立区の柳原リハビリテーション病院(藤井博之院長、総病床数100床)。同病院3階の「障害者病棟」(40床)には、介護する人がいないために自宅に戻れない脳卒中の後遺症患者や、在宅生活で機能が低下した患者が多く入院している。ところが、今回の診療報酬改定で、そうした患者が同病棟の報酬算定対象者から10月1日付で外された。これにより同病院は報酬算定を断念。病院の収入が月に550万円も減少する見通しになった。

 柳原リハ病院の年間収入は約10億円。今の事態を放置すると、半年で7000万円近くも穴が開く。同病院では、難病患者など引き続き障害者施設等入院基本料の対象となる患者の受け入れを増やすことで、再び障害者病棟の入院料の算定を目指しているが、道のりは厳しいという。

 病院の危機は、患者の危機と表裏一体だ。診療報酬点数の低い患者は病院経営を圧迫する。その結果、「不採算」の患者は行き場を失う

発端は療養病床再編 患者支援の機能が欠如

 「障害者病棟には、本来の目的にそぐわない患者が多く入院している。そういった方々は、(介護保険対象で医療従事者が少ない)老人保健施設などに移っていただきたい」

 厚生労働省幹部がこう言い放ったのは07年11月。診療報酬改定を議論する審議会の席上だった。難病患者や肢体不自由児などの入院を目的にした同病棟に、脳卒中の後遺症で障害を持つ患者が多数入院している事実を取り上げ、「本来の趣旨に外れている」と同省幹部が断言したのだ。

 脳卒中後遺症患者が同病棟に流入したのは、06年度の診療報酬改定にさかのぼる。この時、長期入院患者が多い療養病床(医療保険適用)に患者の医療必要度に応じた「医療区分」を導入。寝たきりなどで介護の手間がかかるものの、医療行為が比較的少ない患者に関する診療報酬を採算割れの水準にまで引き下げた。

 医療区分導入を機に、こうした患者が多い病院は経営危機に直面。病棟の一部を、相対的に診療報酬が高い障害者病棟に転換することで経営悪化と患者の追い出しを回避しようとした。改定前の05年から2年間で、同病棟の病床数が5割増の5万床に達したことがその事実を物語る。

 ところが厚労省は、08年度の報酬改定で障害者病棟の対象患者から脳卒中の後遺症患者を除外。患者を自宅や介護施設などに移転させる方針を明確にした。が、ここでの問題は自宅に介護者がいなかったり、介護施設が満杯で退院の見通しの立たない患者が少なくないことにある。

 柳原リハ病院では、脳卒中後遺症患者は同病棟の5割を占める。医療保険適用の療養病床から転換した経緯があるためだ。同病院では患者の追い出しは行わないが、自宅で体調を崩した患者の再入院も困難になっている。「亜急性期病床」という再入院の仕組みも活用しているが、病床数は全体の1割に規制されているため、同病院では10床にとどまる。

 「介護施設を含め、脳卒中患者を長期で支える仕組みを欠いたまま、障害者病棟を大幅に見直したのは歴史に残る失策だ」(藤井院長)。

 脳卒中患者の苦難は続きそうだ。

療養病床の削減問題は以前にも書いたところですが、結局のところ回り回って受け皿を失った急性期病院が救急患者を受けられないという問題にまでつながっていることをまず認識しなければなりません。
現実問題として医療機関から介護施設に移そうとしたところでどこも満杯の数年待ちという状況が解消されないのに、入所待機中の慢性期患者を引き受けていた療養病床を大幅削減しようとしたところに無理があったわけですが、むしろ厚労省としてはそれすらも折り込み済みだったのかも知れません。
急性期病院はどこも一杯で常時満床状態、慢性期を扱う療養病床ですら大幅削減となれば、要介護度の高い患者層は何があろうが物理的に入院加療など行えなくなるのは当然なのですから、結果として医療費削減も達成されるという理屈なのです。
厚労省も「療養病床の再編成についての概要と基本的なQ&A」なんてものを発表して必死に「誤解」を受けないよう努めてらっしゃるようですが、問題は彼らの「入院させる場所がなくなれば患者も出て行かざるを得ないだろう」なんて考えが国民の支持を受けているかどうかなんですけどね。
国民が求める水準の医療には金がこれだけかかるという説明責任も果たさないまま、単に現場に行政の尻ぬぐいを押し付けようとする姿勢はどうかと思いますよ。

さて、介護施設が足りなければ増やせばいいじゃないかとお考えになるかも知れませんが、実のところ医療スタッフのみならず介護スタッフも大幅な人材不足で、どこも手を広げようにも現状維持が精一杯という現実があります。
仕事がきついのは人手不足もあるわけですから仕方がない部分もありますが、問題はそのきつい仕事に見合うどころでなく報酬が極端に安いということで、ここでも根本的な原因は介護報酬を出し渋る厚労省の姿勢があるわけです。
確かに自分でお金が出せる人達用の施設なら現状でも待たなくてもいいくらい余裕があるのですが、だから介護施設は十分足りてるってものでもないですよね。
施設はどんどん増やせ、ただし金は出さないぞ…こういう社会奉仕精神を強要するような厚労省の政策に乗ってくれる心優しい人間ばかりだったら、日本という国もさぞや住み心地の良い国になっていたことでしょうが、残念ながらそんなユートピアはまだこの地上には存在していなかったようですね。

介護事業所の経営悪化…報酬減、人手不足 介護業者 火の車(2008年11月6日  読売新聞)

 厚生労働省が10月に発表した介護事業経営実態調査の結果から、介護施設などの経営が悪化していることが分かりました。
 実態調査は、3年ごとの介護報酬改定の参考とするために行われます。今回は、15種の介護サービスを行う計2万4300事業所・施設に今年3月の経営状況を聞き、7195事業所・施設から回答を得ました。

 2005年の前回調査と比較すると、収入に対する利益の割合(利益率)が、特別養護老人ホームは13・6%から3・4%に、デイケアは18・9%から4・5%に大きく下がりました。入居者の要介護度上昇で収入が増えたグループホームなど、4種を除き、利益率が低下していました。
 06年度の介護報酬改定(05年10月改定分を含む)で、社会保障費を抑制するため、施設サービスで平均4%、在宅サービスで平均1%、介護サービスの価格にあたる報酬が引き下げられたことが、大きく響いています。
 ケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所の利益率は、最も厳しいマイナス17・0%となりました。経営を安定させるだけの利用者を確保できなかったことなどが影響したと見られています。
 事業規模別に見ると、規模が小さいほど、経営が厳しいことが分かります。この傾向は、訪問介護などの在宅サービスで特に強く出ています。

 介護の仕事は、大変な割に賃金が安いと言われています。特に都市部では他業種の賃金水準が高いため、職員を集めるには賃金を上げざるを得ません。このことも施設の経営を圧迫している要因になっています。特養では、収入に対する給与費の割合が、05年調査では55・1%でしたが、今回は60・8%に上昇しました。
 こうした現状を受け、政府・与党は、来年度から介護報酬を3・0%引き上げることを決めました。施設などに入る収入を増やし、職員の賃金を底上げするのが狙いです。月給を2万円引き上げ、現在約120万人いる介護職員の人数を約10万人増やすことを目指しています。

 事業所や施設の経営を安定させ、介護職員の待遇を改善することは、ケアの質の向上にもつながります。厚労省は、実情に即した報酬改定を行い、引き上げによる負担増について、国民の理解を得る努力が必要です。

【埼玉】介護 人手不足、疲弊する現場(2008年10月28日東京新聞)

 財団法人介護労働安定センター(東京都文京区)が昨年度に県内の179の介護関連事業所に行った調査によると、訪問介護員や介護職員など労働者の平均年齢は44.4歳。雇用形態別では非正社員が58.7%。1年間の離職率は全国より1.5ポイント高い23.1%で、離職者のうち勤務年数1年未満の人が49.6%を占めた。一方で平均月収は全国平均より9000円高いものの約22万3000円で、労働者に対する労働条件などの悩み調査(複数回答可)では「賃金が低い」が53.1%とトップだった。

◆寝る暇ない当直

介護業界は低賃金に加えて過酷な労働環境が敬遠され、さらに人離れが進むという悪循環に陥っている。
 「転職はめずらしくない。少しでも労働条件の良いところに人材が流れていく」。そう指摘するのは、川越市のデイサービスセンターに勤める介護福祉士の女性(39)。今の施設は三カ所目の職場だ。
 女性は「当直時間帯、看護師を含めて三人で六十床を担当した。おむつ交換や食事の介助に追われて寝る暇なんてなかった」と以前勤めていた病院の状況を振り返る。基本月給は手取り十四万円程度。生活のためには当直に入らざるを得なかった。職員不足も相まって八回も当直をこなした月もあった。
 女性は「福祉系専門学校はバタバタとつぶれ、九割以上の施設で職員が不足している」と前置きし、「待遇を改善し、次の担い手を育てる政策を打ち出さなければ、スタッフの質は落ちるばかりです」と警鐘を鳴らす。

折しも世情は新たな不景気の時代に突入しつつあると言いますが、どうせ政府主導で金を使うのであればこういう社会的需要もあり、人材も求められているところがもっと立ちゆくようにしていけばいいのにと思いませんか?

そのあたりにつきましては長くなりましたので次回に回したいと思います。

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