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2008年11月12日 (水)

貧乏人が思わぬ大金を手にすると…?

昨日お伝えした二階俊博経産相の名言?「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思いますよ。忙しいだの、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」ですが、さっそく全国医師連盟が噛みついたようです。
桝添厚相のお言葉に従って医師連盟も地道にこういう声を出す活動を続けていくことが大事なんじゃないかと思いますが、例によって二階発言もこの声明もマスコミには黙殺されそうな気配なんですよねえ…
まあそうなったらそうなったでますます楽しいことになりそうですから、いずれにしても当面は事態の巻き起こした波紋に要注目ってところでしょうか。

さて、今日も昨日の続きで医療費問題をちょいと絡めて医療業界の今後を考えてみましょう。
まずは先日報道されたこちらのニュースから紹介します。

介護労働、8割が「やめたい」(2008年11月7日  読売新聞)

多忙、低賃金など原因県医労連調査

 県内の介護・福祉労働者のうち約8割が仕事をやめたいと思った経験があることが県医療労働組合連合会(県医労連)のアンケート調査でわかった。人手不足による多忙な業務に加え、低賃金などの労働条件が主な理由だ。

 調査は昨年12月~今年3月、県内の病院や特別養護老人ホームなどの介護福祉施設を対象に実施し、介護福祉士やヘルパーら825人が回答した。

 「職場をやめたいと思うことがあったか」という問いに対し、「いつも思う」「しばしば思う」「時々思う」と答えたのは合わせて58・4%で、「まれに思う」を加えると81・3%に上った。職場をやめたい理由は、「賃金が安い」「忙し過ぎる」「家族に負担がかかる」「仕事のやりがいがない」の順で多かった。

 過去1年間の事故の質問では、47・5%が「あった」とし、内容(複数回答)は「転倒」が32%、「転落」10・6%、「誤薬など薬にかかわる事故」6・6%だった。

 07年10月の賃金総額は、「15万円未満」が22・4%、「15万円以上20万円未満」が39・9%、「20万円以上25万円未満」が21・4%。「10万円未満」は7・2%に上り、全体の平均は18万7400円で全国平均19万5400円を下回った。県医労連の高橋勝行書記長は「介護報酬を引き上げるなどの根本的な解決策が必要」と話している。

ひと頃介護サービス業者の不正請求問題がずいぶんと叩かれましたが、不正をやってもまだ赤字という実態は華麗にスルーされたままです。
辛うじて黒字という業者であってもその中身を見ていくと上の通り、現場の犠牲の上にかろうじて続けられているというだけに過ぎません。
サービス自体に対する需要は幾らでもある、どこでも人手不足で今の時代に求人は幾らでもある、それでも人は集まらないし事業としても継続が難しい。
こういうのは誰が悪いんでしょう?現場の努力不足ですか?

一足先に医療が完全崩壊してしまったイギリスの例を見るまでもなく、医療を崩壊に導く低医療費政策もいい加減に見直すべきではないかという声は徐々に高まっているように思います。
日本の医療スタッフは国際比較で見て明らかに他国よりよく働いている質は世界トップクラスに高い(WHO公認世界第一位、ただし過去形ですが…)、そのくせ金のある国ほど沢山つぎ込むと言われる医療費は何故かずいぶんと低い
しかし世界でも指折りの経済大国を自称するわりにはその相対的に低い医療費でさえ支払い限度いっぱいいっぱいだという、すると誰かが現場の努力(ヒラリーの言うところの「聖職者さながらの献身」というやつですね)を帳消しにするほどトンでもないことをやってるんじゃないかとは思いませんか?
低医療費政策はいい加減に何とかしないといけないのは確かだとしても、何にお金を使うかを間違うと医療は何一つ改善しないまま支出だけが増えたということになりかねないということですよ。

いずれにしても医療にもっと金を出せと要求するならば、どこを幾ら増やすかという議論もそろそろ必要な時期ではあります。
慶應大商学部教授の権丈善一氏とご存知虎ノ門病院の小松秀樹氏がこのあたりを語り合っていますが、経済学者の権丈氏曰く「当面」4.5兆円が必要だということです。

医療再生にはなぜ負担増が必要か◆Vol.6

 ――医療は患者やその家族にならないと、現実問題として捉えにくい一方、教育問題は誰でも直面する問題です。

  権丈 だから教育の方が、勝つかもしれません。以前、あるインタビューで「5年で1兆円の財源があったら、何に使うべきですか」と聞かれたことがあります。その時は答えなかったのですが、5年で1兆円使えても、医療はどうなるものでもありません。それなら、教育や環境の問題に使い、医療については負担増の必要性を国民に訴えていくべきですし、それを訴える正当性が医療にはあると思っています。

 そのためには、「いったい、どのくらい必要なのか」、その「見積書」を出す必要があります。例えば100億円や1000億円といった単位で医療の問題が解決するのならば、今の運動方針を続けられても良いと思う。しかし、日本の医療を再建するには恐らく兆の単位が必要ですね。兆の単位になると、他の支出から持ってくることは難しい。

 ――「見積書」はどのように作成すればいいのでしょうか。 

 権丈 前期高齢者については、来年から窓口負担が1割から2割に上げることになっていますが、その見直しが検討されています。では、1割に抑えるためにはいくら財源が必要か、その中で国庫負担をどうするか。救急、産科、小児科医療を再建するには、何をやる必要があり、それには幾らかかるのか。

 人件費については、積み上げが必要です。例えば、医師の場合、勤務時間を法廷労働時間内に抑えるためには何人の増加が必要か、夜勤明けに医師が休むことができるようにするには医師が何人必要でそのためにはいくらかかるのかなどの検討を行うことです。何十年も前に決めた医療法標準の医師数すら満たしていない医療機関が多いのですから、これを満たすためには何人必要なのかです。労働条件の改善は急務です。「昔は。少ない人数でこれだけ当直をこなしたんだ」などと言われても、若い人たちはかわいそうです。

 目に見える、国民に分かる形で「見積書」を提示することです。「見積書」を作ると、必要な医療費の「単位」が分かります。今までは、こうした計数感覚を踏まえずに議論してきたわけです。

 小松 「実は最近、権丈先生から、「医療費を7兆円増やすなら、何に使うか」と聞かれました。

 権丈 日本のGDP比の医療費は8%ですが、そのうち公費負担は6.6%です。それをドイツ並みの8.1%に上げるには、7.5兆円必要です。フランスレベルだと10兆円の財源が必要。そこまでは無理でしょうから、7兆円の財源が回るとしたら、何に優先的に使っていくかを小松先生にお聞きしたわけです。「ヨーロッパ標準の医療費を」ということは、医療政策の研究者や医療者が揃って言ってきたことですけど、それが幾らなのかはあまり意識されてこなかった。7兆円の公的医療費の使途を小松先生が知り合いに聞いてくださったところ、本当に詳細な試算が返ってきました。お持ちしたのはその一部です。

 小松 この試算が当たっているかどうかは分かりませんが、議論のたたき台にはなるわけです。ただ、「見積書」を作るのは、そう簡単な作業ではありません。例えば、私は急性期病院のことしか知りません。臨床を何年かやって、さらに医療制度や臨床に精通した方が何人か集まって、急性期から慢性期まで幅広い視点から作る必要があります。

 権丈 そのようにしてたたき台を作って、議論していくことが必要です。「医療費を増やすべき」という点では、私と小松先生と意見は一致しているのです。

 医療は、一つのサービスを購入することでもあります。その負担を上げるためには、「購入できるものは何なのか」をある程度、納税者に見える形にすることが必要なのです。年金だったら、「6万6000円を7万円にします」と言えば、どれくらい恩恵を受けるかは想像できます。一方、医療の場合は、「医療費を、国民1人当たり年間4万4000円増やして約5兆円必要です」と言われても、どんな医療を受けられるようになるかは分かりません。

 確かに「見積書」を作るのは簡単ではありませんが、医師や経済学者をはじめとした社会科学者、そして官僚を含めて、何人かの専門家が協力すればできると思います。「見積書」の作成と並行して、医療不信や政府不信をどう払拭するかが課題になってきます。

見積書のイメージ
 まず、診療報酬です。日本の病院の平均利益率は小泉政権登場前の段階で3~4%台でした。入院医療は現在実質的に利益が出ていません。かと言って、全ての医療機関が黒字転換するというわけにも行きません。キリがないからです。8~9割の医療機関が安定経営に戻るのを目標にするのが順当でしょう。取りあえず、小泉政権前の水準に戻すために、入院医療費15兆円を5%プラスするのに7500億円弱必要です。

 さらに急性期病院については、小泉政権以前から概ね赤字ベースでした。安定した経営のためには、10%程度の利益が必要と考えます。全国約2000の急性期病院……(中略)。

 非医療専門職員(無資格者)の増員は短期で達成可能です。急性期病院だけでなく、あるいはむしろ慢性期病院や福祉施設の方がその効果は大きく期待できます。医療・福祉関連の就業者数は既に600万人弱で、全就業人口の9%前後を占めています。非専門職は500万人弱です。そのうち病院での就業者は170 万人ほどで、看護助手が20万人、事務職員が15万5000人、その他の非専門職が9万人います。合わせて45万人です。病院勤務医数を約18万人として、医師1人当たり非専門職を1人ずつ増員すると考えて、約18万人増やすには、1人当たり年間人件費平均500万円として9000億円で充分です。(中略)

 以上、経営安定化に1兆5000億円、非専門職に1兆円、研修医養成プログラムに1兆円。存亡の危機にある診療科に対して1兆円で、総計4兆5000億円です。

 当座、これだけあれば日本の病院医療の建て直しはできます。

実際のところそれで足りるのかと言えば感覚的にはどうも否定的ではあるのですが、あくまで当座の措置としてはこのあたりが財政的にも落としどころかなとも思いますし、何より医療費増額へのアプローチとしてこういう定量的な方法論というものが必要なのは確かですよね。
しかし医療費増額に総論賛成という一方で、当然ながらスポンサーたる国民の皆さんには「金を出せば医療は本当に何とかなるのか?」という疑問もあるのではないでしょうか?
医療というものはなかなか目に見える成果と言うものが出しにくいところで、特に日本のように数字的指標からはもともと世界トップレベルの医療をやっている国では「これだけお金をかけたらこれだけ改善しました」というデータは出しにくいでしょうが、やはり金を出す側とすれば「それでどうなったの?」は気になるところです。

医療現場も旧来の殻を破り、営利的活動も含めて創意工夫して色々と新しいことをやってみたらいいと思うんですが、今の医療の抱える大きな問題は新しいことが出来ない診療報酬体系にあります(法的縛りに関してはこの際無視するとしても)。
一部の特殊な医療を行い得る専門病院は別として、現状ではまず救急、産科、小児科といった赤字部門は速攻で廃止して、健康人相手に健診でもバンバンやって黒字を確保というやり方でないとなかなか儲けが出ないでしょう。
何をやるにしてもまず原資と儲けがなければどうしようもないのは当然ですが、長く続いた医療費削減政策によってどの医療機関も設備投資などに回すような資金の余裕などありません(何しろ医療機関の半数は赤字なのです)。
今や銀行も病院へは金を貸したがらないと言うほどで、新しいチャレンジをするための基礎的体力が全く欠けているわけですから、その意味で医療費増額が状況を好転させる可能性はあるとも思えます。

しかしその一方では、必ずしも資本が潤沢であればうまくいくとも限らないのが現在の医療業界というものでもあるのです。
よく他業種の人が「医療業界は無駄が多い」なんてことを言いますが、現実問題として他業種からの医療参入と言うのは全くといっていいほどうまくいっていません。
オリックスが高知医療センターで見事に失敗して世間の物笑いの種になったのは記憶に新しいところですし(もっともオリックス自体は汚職絡みでボロ儲けという噂もありますが…)、朝日新聞が経営に参加した小倉記念病院が産科を廃止したのは日頃産科不足を紙面で云々する同紙の立場としてどうよ?と話題を提供したものでした。
そもそも金の心配がなければうまくいくのであれば全国の国公立病院がこうまで窮状を訴えるはずがないのですから、金さえ出せば問題が解決するような言い方は過剰な国民の期待感と将来の失望を招くミスリードと言えるでしょう。

結局のところ「金をもらってさてどうする?」に対する現場の明確なコンセンサスがまだ存在しないまま、単にもっと金を出せと騒いでるだけじゃないかと言われても否定できないのが現状でしょう。
今のところ経験則的に判っていることは「うまくいく病院とは人を集められる病院である」あるいは「スタッフが逃げ出すような病院は何をどうしようが駄目である」と言うことだけではないでしょうか。
医療がマンパワー集約型産業であるからにはごく当たり前とも思える話ですが、そうであるからこそまず現場の待遇改善を目指すべきであって、そのための一手段としての医療費増額であるということを再確認しなければならないでしょう。
現場の待遇改善と言う形で還元されないままハコモノなどに幾らつぎ込んだところで、そんなものは全く無意味であるということを常に念頭において金の使い道を考えていかなければなりません。

実際に資金が今まで以上に使えるという前提で、医師などの養成数増といった以外の当面出来る対策とは何でしょうか?
医療費増と現場負担軽減とを絡めてみると、給与改善による人集めとスタッフ増員というのはごく簡単な解決策としてありそうに思えます。
この場合のスタッフとは専門性によって国内の総数が限られている医師、看護師等の専門職よりも、それらの業務をサポートする一般職員と捉えるべきでしょうね(高給を出して医師を集めれば必ずどこかから医師がいなくなるわけですから)。

公立病院などでよく見かける「働かないが永年勤続で給料だけは高い」人たちは論外として、そもそも医療現場における非専門職の意義とは何でしょうか?
医師は医師にしか出来ない仕事に特化し、看護師は看護師がすべき仕事に専念する、より専門性の低い職種に委ねられる仕事はどんどん下請けに出していくことが理想なのは確かにその通りでしょう。
決まり切ったルーチン仕事や書類関係はどんどん人任せにすべきなのですが、現実にはどうかと言えば、専門性を発揮すべきスタッフが一見どうでもいいような雑用仕事に振り回されている場合が多いわけです。
診療報酬縛りによって十分なサポートスタッフを導入できないという財政上の問題ももちろんありますが、そういった分業が進まない理由というのもちゃんとあったわけで、その一番の理由が医療現場には突発的、非定型的なイベントが満ちあふれているということなんですね。

医師が常駐する病院などでは何かトラブルがあると(医師の仕事じゃなさそうな話でも)たいてい最終意志決定者として医師に相談が行きますが、そうでない介護施設などでは医師不在の間に「どうしてこんなことになったんだ?」と愕然とするほど問題がこじれている場合が結構あります。
実際にはどうかはともかく名目上は医師たるもの、医療現場における全ての問題に精通しているという建前になっていますから、総合的な判断力では断片的知識しか持たない他の人間よりも優れていると思われているわけです。
もちろん無能あるいは説明下手な医師によって問題がこじれる事も多々あるだろうし、最初から医師が対応する場合と非医師がセレクションを行い最後に医師が対応する場合とで、トータルとしてどちらがマシなのかデータはありません。
ただ一つ言えることは、医師として能力、識見に優れ自他共に要求水準の高い「有能な医師」ほど他人任せにすることに不安を感じ、結果として多くの仕事を抱え込むことになっているという現実です。
全国どこでも医師は不足しており、有能な医師はさらに希少であるという現実を顧みれば、これは非常にもったいない話ですよね。

医者という人種は往々にして他人に任せたがらない職人気質の人間が多いこともありますが、「これを人任せにしたら患者の不利益になるのでは?」という不安を感じながらやむなく余計な仕事を抱え込んでいる者が多いのも確かでしょう。
昨今流行のEBMに則って考えれば、他人任せにして専門職の負担を減らすことが結局は医療の質的向上につながるという明確なエヴィデンスでも示されれば、頭の硬い医者達も納得するのかも知れませんが(誰かやってみませんかね、そういう仕事)。
いずれにしても患者のためにというなら短期的視点のみならず長期的視点に立っても考えてみるべきであって、真に医療現場の改革を目指すならまず医療スタッフの意識改革から行っていかなければならないのでしょうね。

金がないことに慣れきった医療現場は急に金を出してくれると言われてもどう使ったらいいのか判らず、医療費を増額しても当分は満足に結果が出ないということは覚悟しておいた方がいいんでしょう(イギリスなどはまさにその状態ですね)。
当面国民の皆さんに出来る最も安上がりで効果的な方法とは、目の前の疲れ切った医師や看護師たちに向かって「私たちはもうこれくらいの医療で十分ですから、そんなに頑張らなくてもいいんですよ」と声をかけ続けることなのかも知れません。

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コメント

はじめまして、こんにちわ。(^^)
がん患者ですが「もういいよ、そんなにがんばらなくて...」と、主治医(外科医)に心の中でつぶやいたことが何回もあります。声に出すことは躊躇しますが....

投稿: ふじくろ | 2008年11月12日 (水) 21時36分

はじめまして。
疲れ切ったときにさりげないひと言が心に染みるのは誰でも同じ事です。
医療の現場が今ほど殺気立ってギスギスしたものではなくて、もう少しお互いの思いやりと温もりに満ちあふれた場になることは医療従事者にとっても被医療者にとっても望ましいことなのではないかと思いますね。
そのために何をどうしていくのが良いのか、そろそろ追い詰められた当事者のみならず国民皆で考えていくべき時期なのではないでしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2008年11月13日 (木) 09時39分

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