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2008年11月 1日 (土)

明かされる産科医不足の実態

先日の「東京妊婦たらい回し事件」を受けた総括が進んできているようですが、マスコミ各社も今回ばかりは専らお得意のバッシングより医師不足といった面へフォーカスを当てている様子です(遅いっつうの)。
足りない足りないと言いつつどれくらい足りなかったのか定量的データがなかった産科医不足の実態について、産科学会が今さらながらに初の調査をしたというニュースが新聞紙面等を賑わせていますね。
まずは記事を紹介しましょう。

産科医、月300時間の拘束 過酷勤務明らか、初の実態調査

 全国の一般病院や大学病院に勤める産婦人科医が、診療や待機などで拘束されている時間は月平均で300時間を超え、中には500時間以上の医師もいることが、日本産科婦人科学会による初の勤務実態調査の中間集計で31日分かった。

 単純に1カ月30日として割ると、300時間の場合は休日なしで毎日10時間、最長の例では同16時間拘束される計算になる。

 学会は「過酷な勤務の一端が数値で示された」とし、厚生労働省に報告。詳しい内容を11月1日に都内で開く公開市民フォーラムで発表する。

 集計は一般病院の221人、大学病院の76人の勤務医からの回答を基にまとめた。一般病院のうち、当直勤務がある一般病院の医師は月平均4・2回の当直をこなし、病院にいる時間は月平均301時間だった。

当直がない一般病院では、実際に病院にいる時間は平均259時間だったが、お産があると必ず呼び出される「病院外での待機時間」も含めると、拘束時間は平均350時間に上った。

 一方、大学病院の勤務医は、大多数が一般病院でのアルバイトもこなすため拘束時間は平均341時間と長く、当直は月平均5・8回。最長で505時間だった。

拘束時間が月300時間超と言うと、単純計算で週80時間くらいでしょうか。
留意すべきなのは別段産科が特殊な環境と言うわけでも何でもなく、内科だろうが外科だろうが救急や脳外科や小児科だろうが、こういうレベルの労働環境はごく当たり前になってきていることです。
「それくらいなら俺の方がよほど(r」なんて言いたくなったそこのあなた!いずれにしてもあなたも産科医も労基法無視の職場環境こそが問題なのですから、不毛な奴隷自慢はよしましょう。

さて、今回のデータの取り方がどのくらい実態を把握しているかは判りませんが、申告された数字より実働時間が短いということはまずあり得なさそうですから、労働時間は少なくともこれ以上ということは確定出来るかと思いますね。
とりあえず今後の議論のたたき台として数字が出たことはいいことなんじゃないでしょうか。

こういうデータが出てしまったことによって、労働者の管理監督もしているはずの厚労省がどういう態度に出るかということが一番興味のあるところですね。
先日は桝添厚相が「現場の医師は声を上げろ」とありがたくもおっしゃってくださったからでしょうか、早速思う存分に声をあげているようです。
当然ああまで言ったのですから厚労省としても何らかの実効性ある対策を打ち出してくれるものと期待しておきますが、さてどうなりますことやら…

産科医の過酷な労働環境を厚労相に訴え―産科婦人科学会

 日本産科婦人科学会の吉村泰理事長らと舛添要一厚生労働相は、今回同学会から提出された緊急提言について、15分程度の懇談を行った。
(略)
岡井崇理事「今回の墨東病院の件は、患者さんの受け入れ先を探すことに時間がかかったことが本質的な問題。墨東病院の当直医師が人手不足だったことが端緒となった。東京都は規模が大きいから救急医療機関が分散して置かれており、総合周産期(母子医療センター)は9つだ。9つの病院で空いている所を探すのに時間がかかることはしばしばあるが、普通の周産期救急では、どんなに時間がかかっても最後には何らかの対応ができている。ただ、今回はかなり特殊なケース。おそらく脳の血管の病気があったので突然出血したということだから、普通の救急では珍しいケース。現在は妊産婦死亡、母体死亡が著しく減っている。昔はこういう症例はほんの一握りで、(妊産婦死亡)全体の中の比率が少なかったが、ほかのケースが助かるようになってきているので、比率として増えてきた。そういうものへの対応を今以上に強化しないといけないと、わたしたちは感じた。周産期救急体制に、母体疾患のあるようなケースを重視するなら、一般救急との連携を今以上に良くするためにどうするかだ。
 根本には医師不足。救急施設も適性に配置されていない。東京でも施設数が多い地域と手薄な地域がある。施設の規模も小さい。365日24 時間体制にしようとすると、いつもベッドを空けておく必要があるし、医師も余裕がないといけない。救急患者を診ていて、次も受け入れてというのは無理。例えば、産科の当直が2人で、帝王切開をし、難しいケースも対応していてというのは無理。NICUも分散しており、空いているベッドを探すだけで大変。(救急医療機関の)規模が大きければ、いつもどこかのベッドが空いていて、人も何とかなるのが理想の姿。
 病院を大きくするなど、規模を適正にするのはすぐにはできないだろうし、これまでは行政が強制的権限を持たず、病院のやり方に任せてきた。だが、こういう事件を受けて救急医療を考えるなら、行政もその辺に権限を持つようなシステムで適正配置し、規模も大きくするなどやっていかないと、都立病院の人手不足を解決しても、他で同様のことがいつ起こるか分からない。長期ビジョンでやっていく政策を打ち出していただきたい」
(略)
海野信也・「産婦人科医療提供体制検討委員会」委員長「学会で調査している、産婦人科勤務医の在院時間調査がある。大学病院を除く一般病院全体で、月間在院時間が平均290時間、時間外の月間在院時間が115時間で、若い年代の医師の在院時間が長い。大学病院医師は病院の応援で当直に行くので、そういう非常勤施設での在院時間を含めると、全体としては月平均で 340時間。これが産婦人科医の過酷な勤務実態を表した一つの数字。大学病院は週85時間。この調査の目的は、できるだけ(労働環境を)改善していくための基礎データとしてのもので、たまたま出たので持ってきた。効率化を考えていなければ」

澤倫太郎副幹事長「東京に在籍する医師は多いが、休日や夜間には、千葉、静岡、神奈川、群馬、栃木などにも行って、医療圏を形成している。プリフェクチャー単位じゃない。そういったことも現場の意見。われわれは本当に疲弊している

厚労相「貴重な提言を頂いた。来週にも救急や産科の医師を集め、集中的に意見を伺いたい。すぐに具体的な案は出ないかもしれないが。長期的なあらゆる観点からの処方箋(安心と希望の医療確保ビジョン)を出した。短期的にどうするかの具体策が欲しいと思っているので、検討を始めたい。日本産科婦人科学会の協力も頂ければと思う。ありがとうございました」

こいつら自身がものを判ってなさそうな気配といいますか、突っ込み所が幾らでもあるのは当面スルーするとして、来週にも更にヒアリングをやるそうですから、この機会に参加者の先生方は言うこと言っておいてもらいたいですね。

「今回はかなり特殊なケース」というのは、妊婦の脳内出血という症例としての頻度は確かに多いものではないでしょうが、今回の事例を統括する言葉として適当なものなのかどうか。
むしろ医療リソースが常時限界近くまで酷使されており、それを上回った瞬間に搬送不能という事態が発生してしまう恐れがあるという点ではまさしくこれが常態であるということを認識しておかなければならないと思うのですがね。

いずれにしても今回の事例が「たまたま、運悪く」だったと捉えるのではなく、程度の差こそあれいつ再現されてもおかしくないという現状から対策を考えていかなければならないわけなのですが、問題は根本原因たるリソースの不足。
解決策は受け皿を大きくするのか、利用する側を制限するかしかないという点をまず認めましょうよ。
受け皿はすぐには大きくはならない、一方で妊婦に限らず一定の割合で重症というものは出てくるわけで、それらに対しては常に最善最良の医療を提供するべき というのが社会的コンセンサスであるのなら、そうでない部分をどう削っていくのかという議論もそろそろ必要なのではないですか?
何より現場が崩壊しかかっているこの時に一番やってはいけないことは「みんなの元気をちょっとずつ分けてくれ!」で今以上に現場に頑張らせてしまい、システムのフリーズに追い込んでしまうことなのですが…

【妊婦死亡】墨東病院、可能な限り2人当直体制へ

 東京都内の妊婦が都内8病院で受け入れを断られ、出産後に脳内出血で死亡した問題で、問題が発生した都立墨東病院(墨田区)は、11月の土日祝日の当直体制を、これまでの1人体制から可能な限り、2人体制へと強化するとした。

 都によると同病院の11月の当直が全日2人体制になるのは、土曜日5日間のうち4日間(1、15、22、29日)と、日曜祝日の7日間のうち3日間(2、3、24日)。また、23、30日の日曜日は夜間当直のみ2人体制となる。

 当直が1人体制の日は問題発生時に当直に入っていた研修医は入らず、常勤医師による当直体制をとる。 今回は、同病院内の当直に入る産科医15人の中で、当直回数を増やしながら2人体制を実現。都は「かなり無理をしており、11月中は緊急対応としてやる」と述べ、今後は他の医療機関からの協力を得ながら当直体制の充実を図りたい意向だ。

いよいよこれは死亡フラグが立ったかな…
未来永劫続く救急医療の中において瞬間最大風速的に「かなり無理をして」「11月中は緊急対応としてやる」ことに、都の「ええかっこしい」アピール以外のどんな意味があると言うんでしょうか?
「もう限界!勘弁してくれ!」と悲鳴をあげている現場にさらなる負担を押し付けているようじゃあホントに墨東さんも長くはないかも知れないですね。

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