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2008年11月28日 (金)

阪南市立病院問題で抗議の辞職 ~ 全国に広がる公立病院の病根(1)

市立病院問題で揺れる阪南市ですが、このたび同市公平委員会委員長が新市長の発言に対して抗議の意志を示すため辞意を表明したそうです。
この問題は当「ぐり研」でも本年11/1311/18と二度ほどお題として取り上げさせていただきまして、正直今さらな話題かなと思っておりましたら意外なほど大きな反響をいただきかえって驚いているところです。
ちなみに公平委員会というのは地方自治法に定められる組織ですが、職員の勤務条件等に関して要求したり措置を講じたりする委員会ですから、こういう問題には口を挟む立場にあるわけです。

阪南市:公平委員長が辞表 病院問題で「抗議」 /大阪(2008年11月26日毎日新聞)

 阪南市公平委員会委員長の妹尾正徳氏(75)が25日、市に辞表を提出した。任期は12月6日までだが、妹尾氏は「市立病院問題を巡る混乱に抗議の意思を示すため、あえて直前に辞表を出した」と説明。併せて福山敏博市長らに抗議文を提出した。

 妹尾氏は同委員を2期8年務めている。抗議文では「福山市長の不用意発言と事後対応の遅れで事態を悪化させ、病院のみならず市財政も危うくしている」と批判している。市立病院を巡っては、先月の市長選で初当選した福山市長が選挙戦などで「患者数に応じた報酬は公立病院になじまない」と給与見直しに触れたことを理由に、非常勤医師4人が12日に辞表を提出している。

この阪南市立病院を巡る一連の騒動では医師の給与だとか市長の発言だとかばかりが取り上げられていますが、なぜ人件費率9割なんてあり得ないことが起こっているのかについては誰も触れたがらないですよね?
阪南市の公平委員会がどのような実績を持っているのかは存じ上げませんが、こと市立病院職員の給与面に関してはずいぶんと評価に値する仕事をしてきたと言えるのではないでしょうか。
ただ残念なことには、話に聞く限りではこと医師の労働環境の面では決して良い職場とは言えなかったようで、今回の一連の市立病院問題もこのあたりが根本原因であったことは間違いないでしょう。

ところで、公立病院問題については当「ぐり研」でも初期の頃から何度も取り上げてきまして、今ざっと見た限りでも本年7/277/2810/3あたりはまさしくそんな感じの話題ですね。
何度も言うようで恐縮ですが、そもそも健全な病院経営がなり立つ目安がおおむね人件費率4割まで、5割を越えると赤字転落の可能性が高いとされていますが、全国の公立病院では人件費率6割、7割なんて異常事態が当たり前に起こっているわけです。
公立病院がほぼ例外なく赤字経営という第一の理由にこういった事情があるはずなのですが、何故かあまりマスコミなどでは報道されることがなくて、あいも変わらず「新臨床研修制度の影響で深刻化した医師不足が各地の公立病院の破綻を引き起こし」云々なんて明らかにミスリードな解説を垂れ流すばかりなのは興味深いところですね。
この辺りの事情に関して、珍しく僅かながらも記事になっているものがありましたので紹介しておきます。

第6部 「地域医療の行方」〈6〉病院改革「外部の目」で(2008年11月26日  読売新聞)

 ――総務省は入院ベッドの利用率が低い病院に大幅なベッド削減を求めた。「医療よりも経営を重視するのか」との反発もある。

 「誤解されている面が多く残念だ。確かに経営効率の悪い病院には規模縮小を求めている。だが、それは人もカネも無駄遣いしているからだ。かつて夕張市立総合病院は171床を抱えながら、利用率は30%以下だった。昨年4月に19床の診療所にしたが、隣の栗山町に赤十字病院があり、地域医療も崩壊していない」

 ――多くの自治体病院は経営立て直しのめどが立っていない。

 「経営改革が進まない病院では、労働組合が強い場合が少なくない。年功序列の給与体系を変えられず、事務職員や看護師の給与が、医師より高い場合もある。これでは医師も定着しない。私が道外の自治体で携わった病院改革委員会は、メンバー全員を他地域の医師や専門家で構成して成功した。利害関係がない人の方が『本当に地域に必要な医療とは何か』を判断できる。真剣に地域に医療を残したいのなら、それくらいの覚悟と決断が必要だ」

 ――赤字でも地域に欠かせない医療機関もある。

 「もちろん一方的に経営改善だけ求めているわけではない。総務省のガイドラインには、国が今後、必要な病院には財政支援を行うことを明記している。例えば根室のように脳外科手術や出産ができず、釧路まで車で2時間以上かかるような地域には、(手術・入院を伴う重症患者を受け入れる)2次救急の医療体制を完備しなければならない。しかし根室市立病院は今、常勤医が12人で夜間の救急患者も原則受け入れていない。こういう病院は重点的に支援する」

全くの個人的見解というやつですが、公立病院というところは運営目的なり患者層なりといった面でなかなか難しいところもあるわけですから、世間並みの労働をこなした者に対して待遇面で世間の相場より多少優遇するとか言うことは必ずしも否定されるものではないのかなとも考えています。
現実問題公立病院スタッフは上記のように民間より優遇されているのですから過去の待遇改善に向けた努力の成果として誇っていいのだと思うのですが、問題はこうした待遇改善のための努力が何故か医師だけは素通りしており、「公立病院医師=民間より薄給で激務」という図式が業界の常識化しているということですね。
公立病院が医師不足を嘆くならばまずこうした状況を改善しなければならないのは自明のことだと思うのですが、実際にはどうなのかと言うことをかつて話題になった佐賀県立病院の事例で見てみましょう。
まずは「県政へのご意見」コーナーに寄せられて一部で話題になった意見を幾つか取り上げてみますが、正直これだけでも十分お腹いっぱいって感じですよね(苦笑)。

佐賀県立病院好生館職員の勤務状態について (平成18年12月13日 回答)

 研修医ではないのに、研修医扱いとして好生館に派遣されている医師の家族です。

 休みは一日たりともありません。これは職業柄仕方ないとは思えるのですが。一週間のうち家に帰ってこれるのが半分もあればいいほうです。毎晩泊り込んで、寝る暇もなく働きづめです。帰って来た日でも、病院からの電話が殺到し、夜もろくに眠れません。
 やつれた顔を見るたびにいたたまれない気持ちになります。
当直として働いている日以外は手当ても出ません。超過勤務手当ては皆無です。日々雇用職員としての扱いになっているからとは思いますが、ボーナスもなし、扶養手当もなし、住居手当すらありません。
 給料の収入は一ヶ月で手取り29から30万円くらいですが、実際に働いている時間を考えると、時給に直せば200円足らずです。
 事務員に、月から金曜日までの週5日間、8:30~17:15の間のみ働いた形として、印鑑を打たされるそうです。
 実際はその何倍も働いているのに・・夜中の0時に呼び出され、朝方10時過ぎまで寝ずに働いても、ただ働きです。土日も終日(ひどいときは24時間)働いても、一円たりとももらえないのです。
 この現状を県はご存知でしょうか?これだけ身を粉にして働いても、生活は苦しいもので共働きでも大変です。市県民税は高価、払っていくためにどれだけ家族が犠牲になっていると思いますか・・・
 こんな状況で「すべての人が輝き、活躍できる県」といえますか?給料のことは仕方ないとしても、好生館に勤める勤務医の雇用状態についてもっと考えてもらえないでしょうか?このままでは、過労死してしまいます。
 どうか、お願いいたします。

【関係課の回答】
 県政提案メールをいただきました。ありがとうございます。

 また、日頃から好生館の医療業務のためにご尽力をいただき、まことにありがとうございます。

 好生館の職員の勤務については、やむを得ず長時間、深夜に及ぶことがあり、ご家族の皆様にも厚く感謝を申し上げます。
 給与の面や勤務時間の面について、できる限りの改善を図りたいと考えているところですが、公的な病院としての制約などがあり、必ずしも思うに任せない点があることも事実でございます。
 ご提案は改めて、県の関係部署にも伝えさせていただきます。

 一朝一夕に解決できる課題ではございませんが、優秀な医師の育成確保、そしてそのための勤務条件の改善は、最も重要な経営課題の1つと考えているところです。
 好生館を設置する県の方でも、現在経営の自由度を増す方策の検討が進められているところですので、今後ともご理解とご協力をお願い申し上げます。

県立病院好生館嘱託医の処遇に関して (平成19年6月11日 回答)

 県立病院好生館の嘱託医は、月に数10~100時間の時間外労働をこなしていますが、時間外労働に対する対価が全く支払われていません。

 明らかな労働基準法違反の状態と考えます。速やかに改善をお願いします。速やかに改善がなされない場合、法的手段に訴えることも辞しません
 今年4月から県立病院では電子カルテが導入されており、「いつ誰がどこでカルテ入力をしたか」はすべて記録されています。
 監査を行えば、ほとんどすべての嘱託医が無給で月に長時間の時間外労働をしている実態を隠すことは不可能です。
 公的施設としてすぐに金銭的な面での早急な対応は難しいと思いますが、少なくとも時間外労働実態把握のために、時間外勤務簿を正確に記入することから始めることはすぐにでも可能なはずです。(現在、嘱託医には時間外勤務簿はありません)

 若手医師の過労死が問題となっている中、県として自主的に監査を行われ、現状を改善してくださることを望みます。
 1ヶ月後を目処に改善がなされていなければ、法的手段を含め、私の持ちうるすべての権利を用いて現状改善を県に対して迫ります。

※同趣旨のご意見が他に1件ありました。

【関係課の回答】
 御指摘の研修医の勤務について、これまでにも同様の県政提案メール等をいただいており、好生館では現在、研修医のあり方について、実態を把握・分析しながら県庁内の関係する部局とも協議し、検討を進めています。

「時間外勤務簿を正確に記入することから始めることはすぐにでも可能なはず」とのご指摘ですが、この件については、研修医の位置付けをきちんと行ったうえで、具体的対応を決定する必要があると考えています。早急に検討を行い、方向性を出していきたいと考えていますので、ご了承ください。

 また、当直など医師の負担軽減も重要な課題です。昨今の医師不足のなか、厳しい状況ではありますが、スタッフの確保など医療体制の充実についても努力していきますので、ご理解をいただきたいと思います。

県立病院好生館職員の勤務状態は改善されましたか。 (平成19年11月9日 回答)

 県政へのご意見(管理人注:上記「佐賀県立病院好生館職員の勤務状態について」)で記されている、県立病院勤務医師の劣悪な労働環境について、何らかの改善が図られたのでしょうか。
 何もフォローアップのリリースがないことから考えますと、県は何もしていないのではないかと疑いを抱いてしまいます。時間の経過とともに、この問題がうやむやになればよいと考えていらっしゃるということはないでしょうけど、何らかの広報が必要でしょう。

 研修医のみならず、すべての医師の早急な労働基準法遵守を強く求めます。事務方による、勤務時間データの改ざんに強く抗議します。県の、この点についての対応のなさ(不作為)に抗議します。

事務員に、月から金曜日までの週5日間、8:30~17:15の間のみ働いた形として、印鑑を打たされるそうです。
 「勤務記録の勝手な書き換え」が告発されれば、如何なる事態を招くかはよくご存じのことでしょう。
 佐賀県の医療を崩壊させないために、県立病院には率先して勤務医の労働条件の改善を求めます。

【関係課の回答】
 嘱託医の時間外勤務の問題については、7月末までに各指導医の勤務時間管理状況等についてのアンケート調査や、各嘱託医の職場環境改善要求項目等についてのアンケート調査を行い、集約して医局内で協議し、対応方針を検討してきました。
 検討の結果、嘱託医も11月1日から、出勤簿・時間外勤務命令簿に基づき、実績分を支払うこととしております。また、月16日を超えて勤務以外の日に勤務を命じる場合も、時間外勤務の処理をしていきます。

平成18年の問題提起以来、早急に検討を進めた結果どういう改善が進められたのか?と言う点に自然と注目が集まるわけですが、平成19年11月の時点で「出勤簿・時間外勤務命令簿に基づき」働いた分は払いますよと明言していますよね。
さあこれで少なくともただ働きはなくなったのだろう、一安心だと思ってしまうところですが、これで終わっているようではこういう場所で取り上げられるニュースにはなりません(笑)。
本年5月になってようやく一般紙で記事になったものがこちらですが、組織ぐるみの犯罪行為がこれだけ明確になってしまった上に「残業記録は捏造して正確なものが残ってないので払いません」ですか(苦笑)。

時間外手当1億4000万円未払い 佐賀県立病院(2008年5月30日佐賀新聞)

 佐賀県立病院好生館(樗木等館長)が長年にわたり、職員の勤務時間記録を改ざんし、正当な時間外手当を支払っていなかったことが30日、分かった。改ざんは歴代事務担当者によって引き継がれ慣行化しており、始まった時期は不明だが、2006年度は研修医を除く全職員約520人で総額1億4000万円が未払いとなっている。同病院は昨年、佐賀労働基準監督署から是正勧告を受けていた。

 好生館によると、人件費を予算内に抑えることを目的に、医師や看護師らを含む職員が提出した「時間外勤務命令簿」の時間を一定の割合で減らしコンピューターに入力、時間外手当を実際より少なく算出していた。

 07年4月に病院のコンプライアンス(法令遵守)を見直し、自ら実態通りの時間外手当を支払うよう改めた。その後、同年5月に佐賀労働基準監督署から06年度以前の正当な時間外手当を支払うよう是正勧告を受けた。さらに、時間外手当の制度がない研修医に関しても時間外勤務の実態を把握するよう勧告があり、同病院側は研修医にも同年11月から正当な額を支払っている。

 03年度以前は記録が残っておらず、改ざんが始まった時期は不明。研修医を除く06年度分を試算すると、本来支払うべき手当は約4億1000万円だが、実際は66%の約2億7000万円しか払っておらず、約1億4000万円が未払いだった。

 同病院は未払い分を本年度中に支給する方針だが、労働基準法による時効(支給日から2年間)があり、その起算日をどう定めるかを含め「弁護士と相談し進めたい」としている。また研修医の勤務実態が分かっておらず、6月議会の補正予算案計上は見送った。

 未払いの時間外手当がある事実を知っていた職員は多く、ある看護師は「予算面で厳しく、ある程度は仕方ない」とあきらめていたという。同病院の中島博文事務長は「勤務実態に応じた予算をつくればよかったが、慣行化し急に変えることができなかった」と話した。

何という電波な…て言いますかね、医師に対する態度というものがこうまであからさまになってしまったこの病院と佐賀県当局の姿勢を全国の医者がどう思うかですよ。
あなたが医者であったとしたら、行きたいと思いますか?こんな病院に。
全国各地に医療に対する必死の情熱をもって医師集めに奔走している病院数多の時代に、ここが第一選択になってくるという人は少なくとも社会的多数派ではないと思いますね。
人が集まらない病院、人が逃げ出す病院には、それなりの理由があるということです。

長くなりましたので今日はとりあえずここまでにして、明日以降に続けます。

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