« 東京都の救急医療はデスマーチ? | トップページ | 医療と広報 ~ またも産科の話題で恐縮ですが… »

2008年11月18日 (火)

迷走中の阪南市立病院のその後

先日もご紹介しました阪南市立病院のその後の経過ですが、新市長がまた妙なことを言いだしたようです。

医師歩合制「今すぐは見直さない」阪南市長(11月14日朝日新聞)

 阪南市立病院の医師8人が辞表を提出した問題で、福山敏博市長は13日の市議会特別委員会で、当選翌日に報道陣に対して表明した医師の歩合制給与の見直しについて、将来的に病院の収支バランスを見極めたうえで検討するとし、「今すぐは見直さない。説明不足で真意が伝わらなかった」と釈明した。

 福山市長は委員会で、就任初日の12日夕に病院で医師6人と面談し、病院の維持に協力を求めたことを説明。面談を済ませていない医師とも早急に会い、慰留に全力を挙げる考えを示した。
 質疑で議員らは「病院を助けにきてくれた医師にまず謝罪すべきだ」「就任前に事態収拾に動き出す必要があった」「歩合制を導入した経緯も知らずに発言すべきでなかった」などと厳しく市長を追及。福山市長は「12日の就任後、市長として責任を持って対処する考えだった」「医師との面談で感謝の念は示した」などと説明した。
 答弁に納得しない議員からは「市長発言の重みをもっと認識すべきだ」「市長の今の姿勢では医師慰留を任せられない」との声も飛んだ

 また、病院側は辞表を提出した医師の退職希望時期を、12月末と来年1月末が1人ずつでほかは2月末と説明。仮に8人全員が退職した場合、10月の医業収入で概算すると、4割以上に影響することを明らかにした。
 医師の辞表提出を招いたことについて、委員会終了後の会見で福山市長は「私の発言に反省というか、先走ったところがあったという認識は持っている」と述べた。

収支バランスを見極めてと言われましても、今現在がすでに大赤字で、さらに市長発言で退職者続出となって赤字幅も天井知らずの大幅増が確定的なんですがね。
医療現場というものはまず医師がいなければ話にならないので、今の時代増収増益を目指そうと思ったらまず何としても医師を確保するというのが大原則なんですが、真っ向反対の方針を追求して今後どうやっていくつもりなんでしょう?
今回の件も別に金がどうこうという話ではなくて、全国どこでも医師を求めて熱心に招聘しようと努力している病院ばかりという現状で、どうせ働くならお互い納得して働けるところでと考えるのは当然ではないでしょうか?
安月給だろうが激務だろうがド田舎だろうが集まるところには集まっているんですから、金が出せないのならそれを上回るだけの何かを示せばいいだけのこと、逆にお金お金と大騒ぎするから「他には何もないのか」と痛くもない腹を探られることになるのですよ。

さて、マスコミさん達は相変わらず「2000万なんて高すぎ!医者はなんて強欲なんだ!」とバッシングに一生懸命なようですが(たぶんバッシングしている人たちの方がはるかに高給取りなんですけどね)、実際のところどのあたりが「相場」なんでしょうか?
以前にも書いたことですが、公立病院の給与体系というのは非常におかしなところがあって、病院という高度の専門性が求められる職場にかかわらず専門性が低い職種ほど優遇されているのですね。
今は医師も看護師も不足と言われていますが、それらは高度な教育を要し養成数も限られている専門職であるからであって、非専門職は幾らでも人が集まるはずなのです。
当然売り手市場なら給与は高くなるし、買い手市場なら安くなるはずが、公立病院に限ってはこれが逆転してしまっているのですね。

その結果どうなるかというと、普通健全経営で4割以下が目安とされる人件費が多くの公立病院ではなんと6割以上、今回話題の阪南市立病院のようなところになってくると驚くなかれ!人件費率9割という信じられない数字になってしまうのです。
これでまともな病院経営やれと言っても出来ないのは当たり前で、医師の給与がどうとか言う問題では全くないんですよ。
具体的な数字としてちょうど某所の落書き(苦笑)に分かり易いものがありましたから、引用させていただきました(医師給与改定前の数字です)。

■阪南市 平成18年度平均給与月額

事務職員 594,544円 平均年齢44歳
医師 1,117,745円 平均年齢42歳
看護師 554,063円 平均年齢40歳
准看護師 651,427円 平均年齢54歳

用務員平均給与35万(22人)(民間平均227k)
清掃職員平均給与37.4万(26人)(民間平均299k)
調理職員平均給与35.7万(8人)(民間平均260k)
ttp://www.city.hannan.osaka.jp/inter/jinji/jinjigyousei19.pdf

医師以外の給与も民間水準と比較してどれだけ乖離しているかを見ていただければ、どうしてこの病院が経営破綻したのかが見えてきませんか?
ちなみに大阪府の医師平均給与は全国でも最下位クラスですが、公立私立含めての平均で15年目(約40歳)で1400万と以前の阪南市立病院より高額なのが判りますでしょうか?
先年の給与改定で約1.8倍増の2000万という数字を出してきたのは決して根拠のないものではなくて、薄給激務で医師が全く集まらない中でせめて給与水準だけでも民間病院並みの水準にするというそれなりに考えた結果だったんですよね。
こうしてある程度周到に練られた医師確保策があったからこそ「本気」を感じて応えた医師がいた、ところがそれを一発でぶち壊しにしたのが新市長の「先走ったところがあった」発言だったのですよ。
信頼関係がなくなったから辞めるしかないという医師たちの言葉の意味が新市長には理解できたでしょうか。

すでに終わったものと考えていい阪南市立病院のことはともかくとして、興味深いのはこの件に対する世間の反応です。
繰り返しになりますが、これは言わば医師確保に対する本気度の問題なのであって、単なる給与問題に矮小化してしまうことは本質を見誤った議論にしか過ぎないのですが、やはり不景気の折ですから他人の懐具合が気になるというのも仕方のないことなのでしょうか。

新市長就任で阪南市の医師8人辞表提出 5派の意見(11月17日アメーバユース)

 大阪府の阪南市立病院における医師8人の辞表提出をめぐる議論がネット上で話題を呼んでいる。(略)
 ネット上では今回の件を受けて、医者を批判する派、医者を擁護する派、市長を非難する派、市長を擁護する派、市長を選んだ市民を批判する派、大まかに5派に分かれているようだ。

 医者を批判する派からは、「お医者はんもわがままやなぁ」「結局、能力のある人間は条件が悪いとさっさといなくなって割を食うのは他に働き口が無い人間」「医者は収入にこだわって、ごねるとかおかしいだろ」などの声があがっている。

 一方、医者を擁護する派からは、「辞める医者はお金が原因じゃないらしい」「お金以外の不自由や迷惑をただ金のために我慢しているんだから、当然」「辞める医師がかわいそう…」などの意見があるようだ。

 市長を非難する派からは、「なぜこんな市長が当選したのですか?」「頼んで来てもらったのに、市が給料下げるなんて約束違反」「市長のこの対応は一種の契約違反」など、市長の判断に対する批判があがっている。

 市長を擁護する派からは、「市長だって必死w」「市長…ガンバ」「福山どんまい」などがある。一方、この市長を選んだ市民を批判する派も。「当選させた奴、選挙に行かなかった奴が悪い」「選挙参加しなかった人には不満を言う権利はないと思います」などの声もある。

自治体が医療に対してどういう方針で臨むかはそれぞれの実情に応じて臨機応変なものであっていいと思います。
極端な話、今の時代自治体病院に黒字化などまず望めないのですから、特に阪南市のような近隣の医療資源に恵まれた都市部では自ら自治体病院を手放して、私立病院や周囲自治体病院に医療をおんぶにだっこするなんてことを考え始める自治体だってあっていいはずなんですよ。
ただし、どのような道を選ぶにせよ地域住民の合意のもとで行われるべきであって、もしも阪南市民が望んでいない方向へ新市長が一人突き進んでいるのだとしたら、それは為政者の暴走というものです。

今の時代、地域医療を維持することはどのような形であれ極めて困難な茨の道ですが、医療を壊すことは首長のたったひと言で容易に達成される…新市長は今回の事例を教訓にして、まずはその認識を持つべきでしょうね。

|

« 東京都の救急医療はデスマーチ? | トップページ | 医療と広報 ~ またも産科の話題で恐縮ですが… »

心と体」カテゴリの記事

コメント

あの、2000という数字は最低保障でそれに歩合が乗るのご存じかしら?歩合いれて4000は行くんじゃないかしら。患者さんの不満も多いし、市長さんの言っていることはおかしくないと思うわ。

投稿: 阪南魔女 | 2008年11月22日 (土) 21時15分

社会保障だけをとっても公立病院運営以外にも幾らでもお金を使うところはあるわけですから、どこにどうお金を使うかは自治体ごとの実情に応じて判断されるのがいいんじゃないですかね。
どこかの小さな自治体が「うちは病院全廃します。そのかわり搬送用の救急車を倍増します」なんて大胆なことやってみてもおもしろいかもしれないですね。

投稿: 管理人nobu | 2008年11月23日 (日) 09時30分

米1さん、このブログに置いては論点はそこではないんじゃないのですか?
極論を言ってしまえば、このブログに置いての論点は金額ではなく契約に置いての信義の問題でしょう。
その仕事にをいて誇りを持って働いているものが、社長が変わったから契約時のあれはなしね、とか言われたら給与以前の問題にモチベーションがなくなるでしょう。

投稿:   | 2008年11月23日 (日) 18時53分

歩合給だけで2000万というような医者は、それだけ病院を稼がせているってことになる。病院としてはそういう医者こそ大事にすべきでは?
医師として優秀かということではなく、病院としてよく稼いでくれるという意味で、そういう医者を辞めさせていては、いつまでたっても病院は大赤字に苦しむことになる。

投稿: 町医者 | 2008年11月24日 (月) 15時21分

こちらにはお上品なお医者様しかいらっしゃらないみたいね。でもね、世の中金よ、って言ってしまえるくらいのお医者様の方のほうが男らしくて私は好きだわよ。

投稿: 阪南魔女 | 2008年11月24日 (月) 17時07分

お金だけのことなら、今の職場、患者を捨てて応募しますよ。限界を超した、365日拘束で働いているものとしてね。

投稿: でも | 2008年11月24日 (月) 21時44分

>患者さんの不満も多いし、市長さんの言っていることはおかしくないと思うわ。

>世の中金よ、って言ってしまえるくらいのお医者様の方のほうが男らしくて私は好きだわよ。

どっちやねんwww

投稿: | 2008年11月24日 (月) 21時47分

そう、人間は感情の動物なんです。まず誰だって気持ちってもんがあるんです。今回の阪南市長の発言や対応はあまりにもその感情を無視した人間としてどうなのというものだと感じます。

投稿: あのね | 2008年11月27日 (木) 23時25分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/43152534

この記事へのトラックバック一覧です: 迷走中の阪南市立病院のその後:

« 東京都の救急医療はデスマーチ? | トップページ | 医療と広報 ~ またも産科の話題で恐縮ですが… »