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2008年11月19日 (水)

医療と広報 ~ またも産科の話題で恐縮ですが…

厚労省の元幹部が相次いで事件に巻き込まれて、しかも政治的背景も疑われるということで大騒ぎになっています。
厚労省に色々と言いたいことがあるのは誰しも同じだと思いますが、こういう行為は許されるものではありません。
被害者のご冥福を祈ると共に、早いところ犯人が逮捕されることを願っています。

それはともかくとして、今日はまずは地方の小さな記事から近ごろ何かとこればっかりな産科関連の話題を紹介します。
崩壊が叫ばれて久しい産科医療には昨今珍しい喜ぶべきニュースだと思ったのですが、どうもそうそう良いことばかりでもないようで。

医師は50~70代の3人/鎌倉市医師会、産院の医療スタッフ内定

 鎌倉市医師会(細谷明美会長)は十七日、同市小町に開設を予定している産科診療所の医療スタッフが内定したと発表した。既に内定している雨森良彦院長(76)を含め医師は五十~七十代の男性三人。全国的にも珍しいという「医師会立」の産院は来年二月中旬から診療を開始する。

 診療所は市内でお産可能な産院が一カ所しかないという状況を受け二〇〇六年秋、市が医師会に計画を提案した。市も施設整備や運営補助として補助金約三億円を支出する。ベッド数は八床で、出産は三月から可能という。利用希望者にはオープンまで市内の産婦人科医で妊婦健診を受けてもらい、そこで診療所での出産の予約をしてもらう。

 医師三人のほか、二十~六十代の助産師九人、看護師三人が常勤する体制となる。雨森院長ら医師は三日に一度の当直勤務も行う。現在、以前の高齢者向け福祉施設(鉄筋二階建て、総床面積約六百三十平方メートル)を診療所に改修中で、一月中旬に完成する。

老人病院で院長自身も入院しながら診療を続けたなんてネタがありましたが、なにかそれを連想しましたね。
50~70代の医師三人が三日に一回の当直で回す産院ですか…色々な意味でいつまで保つものやら心配になってくる話ではありますね。
さて、このようなアンケートがあることをご存知でしょうか?
医師のみ答えて下さいということなので某所のカキコから転載させていただきますが、マスコミ(世論?)、判例(司法)、そして産科医自身の待遇の悪さ(行政?)が特に問題だという声が多いようです。

産科崩壊の原因(医師のみ答えて下さい)アンケート結果

 平成20年11月14日現在
1位 マスコミによる産科医叩き 33.5%
2位 産科医の待遇の悪さ、仕事の過酷さ 23.3%
3位 医療民事訴訟での非科学的な判決例 21.9%
4位 厚生労働省が出した産看護婦内診禁止通達 11.2%
5位 福島県大野病院産科医師の不当逮捕起訴事件 10.2%

マスコミに関しては医療業界は原則的に広告を出しませんからおいそれとどうこうなることはないでしょうが、それでも近ごろでは少し以前とは風向きが変わってきているのかな?という気配も時に感じてみたり。
医師会なんて高い会費を取ってるんですから、定期的に広告を打つなり冠スポンサー番組でも持つなりしてみれば面白いんじゃないかなとも思うんですがどうでしょうか?

まあマスコミ対策はともかくとして、少なくとも利用者となる一般市民に対してもっと啓蒙を進めていかなければいけません。
ひと頃「お産は病気ではない」なんてことがさかんにアピールされていた頃の反動か、どうも「お産=安全に終わって当たり前」という間違った認識が広まってしまったのは良い傾向じゃないですよね。
一昔前の文学などでも主人公と言えばたいてい母親がお産絡みで亡くなっているのがデフォだったくらいで、日本における周産期死亡率というのはこの半世紀ほどの間に二桁も急減して世界最高峰の水準になったのですが、問題はその実態です。
実際には紙一重の危うい状態の連続を何とか産科医療の進歩によって回避しての結果であるということをもっと周知徹底していかなければ、「産科医が身を削って頑張りお産の事故が減った。お陰で何かあれば医療ミスだと訴えられるようになった。」なんて話が笑い話ではすまなくなってしまいます。

産科医解体新書】(11)誤解多い「正常なお産」(2008年11月5日産経新聞)

 患者さんと医療従事者の間には、大きな温度差があります。何より大きいのは、分娩(ぶんべん)に対する、とらえ方の違いです。先輩たちと話すことがあります。「正常なお産とはなんだ? 自然なお産ってなんだ?」と。

 日本でのお産の9割は、赤ちゃんもお母さんも元気に退院していきます。その現実だけをもって、「正常分娩は安全だ」という“神話”が信じられています。

 正常分娩に関して、一般の人が誤解していることが、少なくとも2つあります。1つは事実誤認です。正常分娩とは、あくまでも分娩がすべて終了してから判断できることです。正常分娩を前提に介助をしていても、途中から異常分娩になることがあるのです。

 もう1つは、医療介入についてです。ちょっとした抗生剤投与も介入に含めれば、実は8割近くのお産に医療が介入しています。医療介入を不自然なこととして正常でないとするならば、ほとんどが異常分娩に分類されます。異なる角度からみれば、正常分娩は2割程度というとらえ方もできます。

 どんなに些細(ささい)に思える医療介入でも、何らかの根拠に基づいて行われています。根拠には妥当性が高いものから低いものまであります。さらに、昔は良いと思われていた根拠が、現在では逆の見解を示すものもたくさんあります。このような常に揺れ動いている根拠であれば、医療介入は必要ないと感じますか? 全く医療介入なしの自然分娩だけで、日本の周産期死亡率は世界一の低い水準を保てると思いますか? 

 結果的に何もしなくても何も起こらない2割ほどの分娩のために、残り8割の分娩への医療介入をやめてしまえるのか…それは難しい問題です。もちろん、重症になることはまれですが、可能性が低いからといって放っておける程の度胸を僕らは持ち合わせていません。現在の医療訴訟の原因で多いものの一つは、適切な時期に適切な医療介入をしなかったことが争点になっているのですから。(産科医・ブロガー 田村正明)

現代日本の産科医療について驚くべきことには、既に地域によっては周産期死亡率が上昇に転じ始めているらしいのですね。
いよいよ産科崩壊という現象の実社会への影響が現れてきたのかなという感じになってきていますが、一方で産科医療の崩壊から今こそ助産師を活用しようという動きも見られますがどうでしょうか?
実はこれと関連して少し前に話題になったデータがありますので、「産科医療のこれから」さんのところから引用させていただきます。

助産所からの搬送例は有意に死亡率が高い

助産所からの搬送例の実状と周産期予後

           北里大学医学部産婦人科・小児科*
         池田泰裕 鴨下詠美 望月純子 金井雄二
        右島富士男 谷 昭博 天野 完 野渡正彦*
    (日本周産期・新生児医学会雑誌 第40巻 第3号 p553-556)

 概 要
過去5年間に北里大学病院で受け入れた助産所からの母体搬送21例,新生児搬送15例の予後について後方視的に検討した.その結果,助産所からの搬送36例中4例が新生児死亡,1例か乳児死亡であった。同時期の1次,2次施設からの母体搬送742例中新生児死亡は34例(4.6%)であったが,助産所からの母体搬送21例中死亡例は4例(19,0%)で有意に高頻度であった.助産所か分娩取り扱い基準を遵守していれば救命し得た症例もあった。助産所は周産期救急医療システムの理解を深め,関連協力病院との連携を密にする必要があると考えられた.

ごく大雑把に言いますと、お産で何か大問題になって大学病院に搬送された症例を検討してみると、助産所から運ばれた方が産科医等から運ばれた場合より死亡率が高かったということですね。
詳細な内容は元サイトを参照していただくとして、ここで言うところの「助産所からの母体搬送21例中死亡例は4例(19,0%)で有意に高頻度であった.」とはいったい何を意味するのでしょう?
助産所の助産師が扱って良いのは法的にあくまで正常分娩だけとされているわけですから、当然ながらちょっとでも異状があればすぐ搬送してくるはずですよね。
逆に言えば多少の問題があっても対応できる開業産科医などの方がより重症になるまで手元で対応しようと頑張ってしまうわけで、普通に考えればそんな産科医でも手に負えなかった症例の方が死亡率は高く出そうなものなのです。
ところが実際にはこの逆の結果となっていたことが明らかになったというわけです。

たとえば元の論文によれば助産所から搬送された15例のうち9例が逆子や双子であるなど、そもそも助産所で扱ってはならない異状妊娠であって、しかもこの双子であるということがお産の瞬間になるまで判っていなかったと言うのですね。
なぜこんな奇妙な現象が起こるのか、論文にはこのような記述があります。

助産所分娩取り扱い基準では助産所分娩の対象者を限定しており,それ以外の症例は病院分娩を選択すべきであると明示されている.しかしながら当院への母体搬送・新生児搬送例を検討してみると,助産所分娩には適さない妊婦が経過中に医療機関を受診せずに,助産所で分娩していることもあることが判明した.さらには妊婦の,あるいは助産所のあまりにも強い「自然」分娩指向があるためなのか,搬送時期が遅れ重症・予後不良となった症例もみられた

要するに妊婦側の発想として「お産は今や安全なものになった」、そうであるならお産にも「自然であること」といった付加価値を求めたいということなのでしょう。
しかし過去半世紀の劇的な周産期死亡率低下も「産婆から医者へ」という妊婦の流れの変化が非常に大きく関与していたと言われているのです。
もちろん「安全性が同等であるなら」自然分娩志向もいいでしょうが、実際にはそうでないことは検証されている通り、まして昨今一部の「自然」を売りとしている助産所は半ばカルト化しているなどと批判されているものまであるのです。
全国の妊婦さんには強調しておきたいのですが、お産が安全であるというのはあくまでも十分に管理された場合においての話であって、それすらも決して100%を保証するようなものではないということをもう一度よく理解してから分娩に望むべきではないでしょうか?

従来の医療業界は一般向けの宣伝・告知が下手だったことがようやく当事者の間でも認識され始めていますが、これからの時代は広く国民一般に目を向けた商売をしていないとやっていけません。
正しく情報を知らしめることが大前提であって、その結果何を選ぶかは国民の選択なのですから、まずは業界総出でもっともっと情報を発信していかなければならないでしょう。
最近は下記のような活動も色々となされているようで(ちょっと内容はどぎついというか、ストレートすぎるところもありますが…)、確実に業界の意識改革が進んできているのはいいことだと思いますね。

妊娠のリスク知ってほしい―現役産婦人科医が11か条の心得(2008年11月17日CBニュース)

 相次ぐ妊婦の救急医療機関への受け入れ困難の問題を受け、川崎医科大附属病院(岡山県倉敷市)産婦人科医長の宋美玄さんが、思春期以降の男女に妊娠・出産に伴うリスクを理解してもらおうと、妊娠についての心構えなどを示した「妊娠の心得11か条」をつくり、自らのブログで公開している。宋さんは「お産は一般的に『安心、安全』というイメージがあるが、実際は死を伴うこともあるリスクあるもの。産婦人科に来る女性は既に妊娠している段階なので、早い時期から妊娠・出産に対する意識と正しい知識を持ってもらいたい」と話している。
(略)
「妊娠の心得11か条」を公開している宋さんのブログ~「LUPOの地球ぶらぶら紀行」
http://blogs.yahoo.co.jp/mihyon0123
(管理人注:「妊娠の心得11か条」の記事はこちら

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