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2008年11月 6日 (木)

産科はどこもいっぱいいっぱい

墨東病院の方がようやく下火になったと思ったら、マスコミにとっては新たな燃料投下になったようですね。
昨日も少しだけお伝えした東京の妊婦脳出血症例の続報ですが、当初かかりつけから搬送を要請された杏林大が「釈明会見」をしたそうです。

妊婦拒否の杏林大釈明会見 緊急性伝わらなかった(2008年11月5日東京新聞)

 東京都調布市のかかりつけ病院で脳疾患が疑われた妊婦が、杏林大病院(三鷹市)などから受け入れを断られた問題で、杏林大病院総合周産期母子医療センターの岩下光利副センター長は5日、記者会見し「病棟が満床だった上、かかりつけ病院側から緊急性がうまく伝わらなかった」と釈明した。
 岩下氏によると、9月23日午前3時すぎ、当直医2人が帝王切開手術中に、妊婦のかかりつけ病院である飯野病院から搬送依頼の電話があった。手術後、当直医が飯野病院に電話したところ「軽度の意識混濁、手の震えはあるがバイタルサインは安定している。いくらでも待てるので受け入れてほしい」との返答があり、緊急性は低いと判断。「他の受け入れ先を探す」と伝えたという。
 一方、飯野病院側は「緊急性があると判断したから受け入れをお願いした」と、杏林大には切迫状況を伝えていたと強調した。

【妊婦重体】「緊急性は低いと判断した」 杏林大病院が会見(2008年11月5日産経新聞)

 東京都調布市内の病院で嘔吐などの症状を訴えた30代の妊婦が、9月に杏林大学病院(三鷹市)など少なくとも都内の4病院に受け入れを断られた問題で、杏林大病院総合周産期母子医療センターの岩下光利副センター長が5日、記者会見し、受け入れを拒否した理由について「妊婦の状況から緊急性は低いと判断した。脳出血と分かっていれば受け入れた」との見解を示した。

 同病院の説明によると、9月23日午前3時から3時半にかけて、調布市の飯野病院から妊娠41週の妊婦の搬送依頼を受けたが、3時42分まで当直の医師2人が帝王切開の手術中だったため依頼を断った。

 帝王切開手術の終了直後、再び飯野病院から搬送依頼の電話があったが、杏林大病院の母体・胎児集中治療管理室(MFICU)と産科病棟はすべて満床だったうえ、医師2人が術後の対応に追われていたため搬送を断った。

 緊急性が低いと判断した理由について、岩下副センター長は、「2度目の搬送依頼を受けた際、当直の医師が飯野病院に妊婦の詳しい状況を聞いた。その時の説明では、妊婦に軽い手のふるえや軽度の意識混濁などがみられるが、呼吸や脈拍などは安定しているとのことだった」と説明した。

また「分かっていれば受け入れた」ですか…
病棟は満床、当直医は手術中、現場の状況を知っていれば単純にキャパシティーをオーバーしていただけの話と知れるのに、何故こういう頓珍漢なことを言うかなあ…
「当時の当院の状況では受け入れは無理でした」と素直に言っておけばいいものを、わざわざ突っ込まれるような事ばかり言うから現場で必死に働いているスタッフも患者・家族も皆が後味の悪い思いをしなきゃならなくなるんですよ。
ほんと、医療関係者はもう少し対人折衝とか広報とか言う領域に関して勉強しないといけないと思いますね。

今回の件でかかりつけと杏林病院の重傷度に対する認識の差が問題になっているようですが、こうした認識の違いは産科救急に限らずよくあることです。
かかりつけは自分のところでは手に負えない重症だと考えているからこそ送ろうとするわけだし、搬送先はいつもそうした症例を扱っているわけですからね。
しかし根本的な問題は救急最後の砦であるべきこの種の施設で「うちでなくとも対応出来る程度の軽症の人が来てもらったら困る」と言うほどに余裕のない体制を強いられているリソースの欠乏ではないんですか?
超急性期を扱う救命救急センターのような施設は本来常時スタッフや病床に余裕がなければならないのに、何故いつも満床近くで回していなければ経営がなり立たないような状況を強いているのかってことに思いが及ばなければこの種の問題はいつまでたっても解消しないと思いますよ。

さて話はかわって、先日の墨東病院の件を受けて、読売新聞がこんな調査をしています。

妊婦搬送、大都市ほど拒否…周産期医療センターを全国調査(2008年11月2日読売新聞)

 先月上旬に脳出血で死亡した東京都内の妊婦が、「総合周産期母子医療センター」のある病院など8病院で受け入れを拒否された問題を受け、読売新聞が全国75か所の同センターを対象に調査した結果、搬送の受け入れを「断る場合がある」というセンターが4割弱に上り、特に大都市部で多いことが分かった。

 逆に地方では大半が「原則すべて受け入れる」としている。産科医不足を背景に、土日などに「当直2人体制」が維持できないセンターは5割近くに上った。

 調査は、各センターからの回答や都道府県への取材により、71か所の状況を把握した。妊産婦の受け入れを要請された場合、「断る場合がある」は26か所(約37%)。内訳は、東京都内の全9か所、神奈川、福岡県の各3か所、大阪府と栃木県の各2か所、埼玉、千葉、茨城、群馬、和歌山、広島県と京都府の各1か所。首都圏の1都3県では回答した15か所のうち14か所(約93%)に上った。断る理由で最も多いのは「新生児集中治療室(NICU)の満床」。都市部でハイリスクのお産に対応するNICUが不足している実態が浮き彫りになった。ほかに「医師不足」「手術中」などもあった。

 大都市部では「拒否率」が5割超のセンターも7か所に上った。ただ、「ハイリスクの妊婦を受け入れるため、軽症の妊婦を断っており、適切な転院搬送の結果」(大阪府立母子保健総合医療センター)といったケースも含まれている。

 「原則すべて受け入れ」は45か所(約63%)で、地方都市で県内唯一というセンターが多かった。

 都立墨東病院がいったんは妊婦受け入れを拒んだのは「土曜日で当直医が1人しかいない」との理由だった。調査で土日や夜間に「1人体制」の時があるとしたのは34か所。その多くは規模が小さい地方のセンターで、待機医師の呼び出しで対応していた。「(大都市部と違い)うちが断れば、ほかに受け入れ先がない」(山口県立総合医療センター)といった声が複数あり、地方で当直体制が厳しいにもかかわらず、受け入れ拒否が少ない背景として、責任体制の問題も関係しているとみられる。

この調査でそれぞれの施設における実際の受け入れ数や他施設への再搬送数、搬送時間などもあわせてデータを取ってみれば、もうすこし面白いことが分かったかも知れませんね。
それはともかく、明らかに無理のある体制でそれでも何とか地方の医療が維持されているのは、担当エリアの人口すなわち搬送症例数が少ないということもあるでしょうが、まさしくあり得ないほどの現場の努力に頼っている現実があります。
産婦人科医会の調査によれば、この一年間で分娩を取り扱う病院が8%の減少(1281施設から1177施設へ)を来したと言います。
お産を取り巻く状況は昨日より今日、今日より明日と悪化していく一方であって、少なくとも今後数年~十数年という単位で劇的な改善は見込めないでしょう。

現場は「もうこれ以上は無理、勘弁してくれ」と悲鳴をあげっぱなしの状況であるのに、一体いつまで「重症だと分かっていればもうちょっと頑張れた」なんて欺瞞を続けるつもりなんですか?
出来もしないことを出来る出来ると言い張り、実際には出来ていないことの方がよほど無責任な態度だとは思わないんでしょうか?
上の人間も現場の判断ミスみたいな背後から鉄砲で撃つような真似はいい加減にやめて、「現状のリソースではこれ以上の負荷に現場は耐えられません。いま以上を求めるのならどこか他に削るべき部分を決めてください」という方向に踏み出していかないといけない時期が来ているんじゃないんですか?

多少なりとも救いなのは、現場に対する無謀な労働強化を図ろうとした墨東病院を支援する動きが出てきていることです。
もちろん周囲の施設とて余力を残しているわけではないでしょうが、前線の傷兵に向かっては兵糧弾薬も送らず大和魂で頑張れ!いつか神仏の守護がある!なんて戯言を吐いているよりはよほど気持ちが伝わる話だと思いますよ。

妊婦死亡:墨東病院当直1人の日に「当番」制…都協議会(2008年11月6日毎日新聞)

 東京都立墨東病院(墨田区)などに受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題で、都周産期医療協議会(会長、岡井崇・昭和大医学部教授)は5日、墨東病院の当直が1人になる日は他の総合周産期母子医療センターが代わりに妊婦搬送を受け入れる「墨東当番」の導入を決めた。
 受け入れ拒否をした時に産科当直が1人しかいなかった墨東病院は10月末、11月の休日当直を「可能な限り2人体制にする」と発表した。しかし、新たな医師は確保できず、5日間は終日あるいは日中が1人当直となる見通し。協議会ではこの時間帯について、都内にある別の八つのセンターが代わって対応することで一致。輪番制とし、今月最初の1人当直となる8日にも導入する。
 都内では既に、センターが杏林大病院しかない多摩地区をカバーする「多摩当番」が導入されているが、墨東病院はこの当番から外すことも決まった。協議会に出席した墨東病院の小林剛院長は「墨東病院のある地域は分娩(ぶんべん)数が多いのに施設数が少ない。隣接する千葉、埼玉からも患者がかなり入ってくる。本当にぎりぎりの状態」と理解を求めた。

悪い方向に想像するならば、各地で起こっているドミノ現象と同様に、これが地域医療崩壊連鎖反応の最初の一歩にならなければいいんですが…
しかしまあ、この状況でこの人たちは…あんたら仮にも事態の最終責任者だろうにこういうことやってる場合なのかと小一時間(r
こういう低レベルな争いに終始している人たちが上にどっかと居座っているんですから、本当に全部が崩れ去ってしまうのも遠い先の事じゃないかも知れませんね。

都の対応間違っていた“妊婦たらい回し”、私を批判した石原都知事は赤っ恥かいた(2008年11月3日スポーツ報知)

 先月、脳出血を起こした妊婦が、都立墨東病院など8病院に受け入れを拒否され死亡した。この問題への対応をめぐり、舛添要一厚労相(59)と石原慎太郎東京都知事(76)が対立。互いへの激しい非難合戦に発展した。舛添氏は「都の対応が間違っていたのは、証明されつつある。私を批判した知事は赤っ恥をかいた」と強気な姿勢を崩さず。まだまだ、論戦は続きそうだ。一方で麻生太郎首相(68)の消費税率アップ発言には「議論すべきことで、適切な提案」と期待感をにじませている。

 ―病院施設が充実されていると思われた東京で、妊婦が“たらい回し”されて亡くなった。
  「大変にゆゆしきことだ。墨東病院は今年7月から、週末の当直医は1人きり。しかも、研修医という状態だった。考えられない。根本的な問題は医師不足。過去10年以上にわたり、厚労省は『医師は余っている』と言い続け、歴代大臣も何もしてこなかった。私が大臣になって対策を講じてきたが、医師の育成は10年はかかる。その矢先に、こんな問題が起きてしまった」

 ―石原知事と対立は。
  「私はあくまで都の対応を指摘しただけ。都知事を名指ししてないのに、知事が一人で熱くなって、マスコミがバトルに仕立て上げたんだ」

 ―なるほど。
  「そもそも、墨東病院は『総合周産期母子医療センター』という全国に74か所ある施設の1つで、国が補助金を出している。だが、地元の医師会が墨東の体制がひどいから、改善をするよう東京都に申し入れていたのに、都はずっと放置してきた。さらに、今回の問題が報道で明るみになるまで、厚労省に報告していなかった。だから私は『東京都に任せられない』と言ったんだ」

 ―知事の意見に納得できたのか。
  「国と都のどちらの言い分が正しかったか分かってきて、メディアは都批判に回りつつある。今回の妊婦の遺族が、どこで会見したか? それは厚労省だ。都立病院で起きた問題なのに、都庁ではなかった」

 ―つまりは。
  「遺族は都に抗議の意思を示す意味があったと思う。勝負はついたでしょ。知事はあんな発言をして、今、赤っ恥をかかされている。知事は行政のあらゆる分野に目を向けなければならないが、少なくとも医療分野に関しては、私の方が知識は豊富だ。都の役人の受け売りだけでなく、自らの目で事の本質を見ないと。医師不足に関して、国も改革を進めているのだから、都も都立病院の再編など、できることはあるはずだ」

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