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2008年11月10日 (月)

声を出せと言うのなら出しましょうよ皆さん

お上と現場という視点で見ると面白い話を二題ばかり紹介しておきます。

死因究明をめぐる溝は埋まったのか(2008年11月4日CBニュース)

 「毎回そうやって溝は埋まっていると言う。だからみんな駄目になっている」―。日本救急医学会の堤晴彦理事は10月31日、「死因究明等の在り方に関する検討会」(座長=前田雅英・首都大学東京法科大学院教授)で、前田座長の「大きな溝があるように見えて、ほとんど溝がないように思う」との発言を痛烈に批判した。また、「(医療事故の原因を調査する第三者機関)医療事故調査委員会が設置された場合に協力する意思はあるか」との委員からの問いには、「納得するものなら必死でやる。しかし、納得しない形になったときに、協力しろと言われても、力は入らない」と述べた。堤氏は、「『医』と『法』の対立ではなく、対話を求める」として、対話の場の設置を厚生労働省などに求めている。

 同検討会の15回目となるこの日の会合では、医療事故調査委員会の設置に異論を唱える3学会からのヒアリングが行われた。

 堤氏はヒアリングの冒頭、「(第三者機関の設置を柱とする)大綱案に関して対立構造にあるかのようにいわれているが、本質的に意見の違いはない」と断った上で、賛成派と反対派に分かれる理由について、賛成派は「性善説」に立ち、反対派は「性悪説」に立っていると指摘。「賛成派は、大綱案がこの検討会で議論された精神通りに運用されれば、うまくいくと期待していると思うが、反対派は、法律というのはいったんできてしまえば、どのように運用されるか分からず、悪意を持つ人がいれば何とでも変えられたり、解釈したりできると疑っている。わたしたちもそのような立場に立っている。反対派ではなく慎重派と呼んでいただきたい」と語った。
 また、検討会にオブザーバーとして参加している警察、検察について、「現状を見る限り、警察はその他の犯罪捜査で手いっぱいで、医療事故の捜査まで手が回らないというのが本音で、事故調ができるのを静かに待っている。検察も無罪判決が続いて事故調が報告書を作ってくれるのを歓迎している。文字通りオブザーバーの立場で高みの見物をしている」と皮肉った。さらに、医療事故の被害者の弁護士にとっても得する話で、反対する理由はないとした上で、「医療事故調査委員会の設置に関し、反対派が少数に見えるのは、警察も、検察も、患者側の弁護士も物を言わない、そういう意味での反対が少ないということではないか」と指摘した。

 ヒアリング後の委員らの意見交換で、前田座長は「話を聞くと、大きな溝があるように見えて、ほとんど溝がないように思う。同じ制度をどう評価するかについて、性善説と性悪説のどちら側から見るかで全く色が違って見えることがあろうかと思う」と述べた。
 これに対し、堤氏は「毎回同じことを言っている。それが(会合が15回)続いた原因だと思う」と指摘。その上で、「座長は刑法学者であり、医療事故の刑事責任はどうなのか、など自分の本職できっちりやることが仕事だと思う。もし、この医療事故調査委員会が将来に向けた医療安全をやるのならば、座長を降りて医療側が座長に座るべき」などと批判を繰り広げた。
 前田座長は「いろいろな見方があり、わたしは(溝が)埋まってきていると思うし、新聞などでも埋まってきていると評価されていると思う」とした上で、「勝手に警察にやられては困るという気持ちはよく分かる。ただ、警察側も医師の協力なしには立件できない。主として医療が主導して、法律家の意見も入れて、『法』と『医』の現場を踏まえた対話の場をつくっていこうというのが偽らざる気持ち」と述べた。

 座長批判を繰り広げた堤氏は、委員からの「医療事故調査委員会がもしできたら、協力するのか」との質問に対して、「いかなるものかで変わってくる。納得するものなら必死でやる。しかし、納得しない形になったときに、協力しろと言われても、力は入らない。どんな事故調になるかで決まると思っている」と答えた。

 また、日本救急医学会が求めている「医療事故における業務上過失致死罪の明確化」などについて、「何が業務上過失致死になるのかということをあいまいにしたままでは、いかなる調査委員会をつくっても、うまく機能するとは全く思えない」と強調。明確化に向けて「『医』と『法』の対立ではなく、対話を求める」として、対話の場の設置を厚労省に求めた。

この前田雅英氏なる座長は司法畑ではそれなりに有名人だそうですが、ざっと調べてみると少年犯罪抑制のために厳罰化を叫んだことで知られている御仁のようですね。
批判の内容もさることながら、救急医学会の理事である堤晴彦氏が反対派の急先鋒として論陣を張っていることにご注目ください。
ちなみに同検討会での堤氏の発言全文につきましてはこちら「産科医療のこれから」さんでまとめていただいていますが、これを読んで「ほとんど溝がない」と思えるものかどうか。

ついでいつもお世話になっているロハス・メディカル ブログさんから、厚労省の「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の見所を。

『周産期・救急懇談会1(ハイライト)』より発言部抜粋
海野信也委員(北里大学医学部産婦人科学教授)

墨東病院で脳出血の妊婦さんが亡くなった件を発言の前提としている。
「厚生労働省の周産期医療対策整備事業に関して。総合周産期母子医療センターが、母子救急の最後の砦であるように報道されているのだが、成り立ちの経緯はそういうものでは全くない。整備事業の主たる目的は、胎児と新生児の救急に対応できるだけのもので整備指針にも脳外科がなきゃいけないとは書いてない。産科、新生児、麻酔科の医師を置けばよくて、麻酔科は常勤である必要すらない。それで辛うじて施設基準をクリアしているような医療機関がかなりある。

当直医に関しても、マスコミが調査して2人いないところが多いというようなことを書いているけれど、墨東は別として、大多数の1人当直のところはそれで違反でない。平成8年にスタートした時には複数の当直が条件になっていた。ところが、それだと一般の医療機関では医師が足りなくて施設基準を満たせないという県が多かった。センターが一つもない県がかなりある一方で、でも現場からはセンターがほしいという声も強くて、平成15年4月21日付で厚生労働省の雇用均等・児童家庭局長から通知が出て、NICUが6床以下の場合はオンコールを置けば1人当直でよいことになった。決して悪いことではなくて、それならできるということで、各県の県立中央病院なんかがどんどんセンター化していった。一方で、センターで医師を一生懸命増やそうとしなくてもよくなって、医師不足の問題が放置されることになった。私がいた長野県では2人当直を置いていたのだけれど、通知が出てからは1人でいいんだからと言うことで、当直代が1人分しか出なくなった。私がオンコールに回ったので給料が激減したのだけれど、当直が2人いないと責められても、そういう決まりになっているのだから仕方ない。

もう一つ周産期救急情報システムも問題にされている。しかし整備指針には作れとは書いてあるが、どう運用しろとは書いてない。実際問題、高次医療機関が限られている地域では、端末を見るより電話した方が早いから作っても仕方ない。先ほど話のあった山形のようなやり方が常道だ。そういうところにもシステムだけはお金を使って作ってしまった。一方でNICUの絶対的不足は放置されてきた。今の時点でもNICUを増やすという方向は出されていないし、同様に後方ベッドの問題も明らかにならない。だから整備事業を見直してほしいと、産科婦人科学会では要望している」

池田智明委員(国立循環器病センター周産期科部長)

「一昨年の厚生労働省科学研究で全国の総合周産期母子センターにアンケートした。母体の脳血管系の救急について10のセンターが『対応できない』と回答した。『どのようにしたら』と質問したところ全ての施設の責任者が、自分のところに受け入れ体性をつくるのは非現実的であり近くの救急病院や大学病院と連携したいと答えた(後略)」

有賀徹委員(昭和大学医学部救急医学講座主任教授)

「積み残しになるといけないから言っておく。資料3の2頁目、都道府県に対して出した通知の『周産期救急情報システム及び救急医療情報システムの運用状況を確認した上で、必要があれば適切に改善するよう検討を行うこと』という項目について。東京都と東京消防庁との関係であれば何となくイメージできるのだけれど、たしかに厚労省が50年代から都道府県ごとの救急医療情報システムは整備を進めているけれど、しかし全県の救急を一体に運用しているような所はない。基本が市町村消防だからだ。それと全県一体の周産期救急とどうやって連携するというのか。この通知をポンと投げて都道府県に考えろというのだが、どういうイメージで考えろといったつもりなのか。要は、50年代から大きなお金をつけたものが成り立ってなかったということなんだが、だからこの通知の趣旨がよく分からなかった。この件を何とかしようと思えば、厚生労働省だけでなく総務省とも連携しなけらばならないと思う」

いやあ、爆弾が落ちるわ落ちるわ(苦笑)。
いいんですかね、こうまで言っちゃって…まあ例によって一般マスコミは全部スルーして厚労省の公式見解だけ垂れ流しするのかも知れませんけど。
ちなみに名前の出ている各委員の主な母体である所属学会も挙げてみますとこうなります。

海野信也、池田智明 日本産科婦人科学会
有賀徹 日本救急医学会

さて、政府の事故調案に対してはっきり反対の姿勢を示している学会というのがあるのですが、それが日本救急医学会、日本産婦人科学会、日本麻酔科学会、日本消化器外科学会といったあたりなんですね。
そうした反対派の学会の人たちを招いてのこういう議論をしました、その結果総論賛成という結論が得られましたという政府・厚労省のアリバイ作りの意図が見え見えな気がするのは自分だけでしょうか?
問題はそうした意図に乗っかってくれる人ばかりではなかったということなんですが、同情する気にはなれませんね。

桝添大臣は現場の医者はもっと声を上げろと言っていましたが、問題は声を上げたところで果たして上の人間にそれを聞くつもりがあるのかということではないでしょうか?
たとえば先日の東京での件を受けて民主党が医療現場の惨状を黙認してきた厚労省を批判しています。

厚労省が「労基法違反を黙認」と追及―民主(2008年11月7日CBニュース)

 民主党の「厚生労働部門会議」が11月7日に開かれ、東京都内で妊婦が8病院に受け入れを断られた問題を取り上げた。同党の議員らは、医師不足の現実を直視して対応策を取っていれば、今回の問題は起きなかったとの認識を示し、「厚生労働省が、医療現場での労働基準法違反を黙認してきたせいだ」などと、厚労省の責任を厳しく追及した。
(略)
 同会議で厚労省の担当者は、「最終的な(受け入れ)病院に行くまでのシステム(救急医療情報システム)の問題が指摘されているので、改善していかなければならない」と述べた。これに対し、蓮舫参院議員らは「いくらシステムをつくっても、現場の情報を入力する人がいない」「受け入れる人(医師)も足りないし、(NICUが)ずっと満床だったら(この問題は)解消しようがない」などと追及した。

 山井和則衆院議員は、「医師の多くは労基法を守っていないが、患者に迷惑を掛けないようにと黙って隠し続けてきた」と述べ、多くの医師の「善意」によって医療現場が支えられている現状を訴えた。原口一博衆院議員は「厚労省は医療を管理する一方で、医療者を守るという責務もある」と強調し、医療現場で労基法の順守を徹底するよう求めた。

 足立信也参院議員は、多くの医療機関が建前では「宿直」と称して医師に「夜勤(時間外労働)」をさせている実態について取り上げた。足立議員によると、3 年ほど前に多くの医療機関に労働基準監督署が立ち入り、医師の宿直を「これは時間外勤務だ」と指摘し、過去にさかのぼって追徴課税した。追徴課税された病院は、医師の「夜勤」を黙認しておきながら、報酬も「宿直」の分しか払っていなかったという。

 会議の最後に、鈴木寛参院議員は「次回は労基法の担当者からヒアリングして、(医療者向けに)新しい(労働基準の)ガイドラインやスタンダードをつくることなども検討していきたい」と述べた。

労基法違反については、万年医師不足の超売り手市場であるはずの医療現場においてさえろくに自己の権利を主張してこなかった医者たちも確かに悪かったのかも知れません。
しかし先日来色々と言われていた墨東病院に関しても、そもそも以前から「もう限界。勘弁してくれ」と悲鳴はずっと上げ続けていたわけですよ。
ところがその声を全く無視して更なる現場への負荷を強いる体制を強いようとしている、この場合悪いのはもっと大きな声を出さなかった医者なのですか?
いったいどれだけの声を出したら現場の声に応えるつもりがあるというのでしょう?

幸いにも今の研修医達は声を上げることに対してかつてのような妙な遠慮はありませんし。
医療側もどんどん言いたいことは言っていく時代になってきている中で、それに対してどういう答えが返ってくるのかを誰よりも当の医療側が見守っていることを自覚してもらいたいですね。
不平不満と怨嗟に満ちていようと声が上がっている間はまだいいですが、今のままでは声もなく消え去っていくのみの医者達が増える一方だと思いますよ。

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