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2008年10月 1日 (水)

迷走する産科はどこへ逝く?

全国どこでも産科の減少傾向が続きいています。
日本産科婦人科学会が産科医の勤務実態を調査したレポートを出していますが、CBニュースの記事から紹介します。

産科医の「過酷な勤務実態」が明らかに―月295時間在院

産科医が病院にいる時間(在院時間)は月平均295時間で、緊急時の電話対応のための待ち時間(オンコール時間)は同144時間であることが、日本産科婦人科学会(吉村泰典理事長)の調べで明らかになった。同会では、「病院産婦人科医の在院時間が非常に長いことが示され、いわゆる『過酷な勤務』の実態の一端が数値として示された」として、産科医の労働環境の改善を訴えている。

 日本産科婦人科学会は9月29日、「産婦人科勤務医・在院時間調査」の第1回中間集計結果を発表した。調査は、同会の「卒後研修指導施設」となっている 750病院などを対象に7月から8月にかけて実施。一般病院に勤務する産科の常勤医163人のデータを年齢、性別などに分類した上で、「在院時間」「オンコール時間」「当直回数」などを分析した。
 それによると、産科医の平均年齢は42.1歳で、女性が占める割合は26%。一か月平均の在院時間は295時間で、オンコール時間は144時間だった。年齢別に見ると、在院時間が最も長いのは30歳未満(328時間)で、次いで40-44歳(308時間)、45-49歳(291時間)。オンコール時間は、50-54歳(195時間)、30-34歳(155時間)、45-49歳(148時間)などの順だった。
 「在院時間」には、休憩時間、宿直時間、時間外の診療時間などがすべて含まれ、このうち時間外の診療時間は月平均 117時間で、当直回数は同4.1回。当直回数は、あらかじめ定められた日に当直した場合のみをカウントし、重症患者の対応などのために臨時で泊まり込んだ場合は含んでいない

 同会によると、産科医の数が少ない病院で当直体制を取ると、医師一人当たりの当直回数が多くなり、在院時間が長くなる。また、オンコール体制の場合、帰宅後もいつでも呼び出しに対応しなければならないため、「その間は精神的緊張が持続する」としており、「二十四時間体制」とも言える産科医の過酷な勤務実態があらためて浮き彫りになった。今回の集計では、オンコール時間が月500時間以上の医師が4人、200時間以上の医師が22人いたという。

 今回の集計結果について同会では、「病院産婦人科医の在院時間が非常に長いことが示され、いわゆる『過酷な勤務』の実態の一端が数値として示されたと思う。また、その在院時間の長さは、医師の年齢によって差が少ないことが分かった。20歳代から40歳代後半まで、月間在院時間には有意の差が認められなかった」としている。
 その上で、「今後、さらにデータを集積するとともに、勤務実態の施設間差を解析し、産婦人科勤務医の勤務条件改善のための基礎的な検討を行っていく予定」としている。

産科医不足がようやく公的にも認められるようになった今の時代においても、残念ながらその改善の目処は全く立っていません。
産科関連の訴訟リスクも周知徹底された結果、例えば大野病院事件後に一人産科のお産取り扱い中止が相次いだことに見られるように、今まで多少無理目でも頑張ってきた身近なお産の場が減少を続けています。
新規の参加志望者も全く増加に転じる気配すら見えず、大学病院ですら全く人手不足という有様が更に地域産科医の引揚げを招き、スタッフ減少による労働の激化が更なる志願者減少を招くという悪循環。
そうしたお先真っ暗な状況は現場の人間が最も深刻に感じ取っているようです。

産科勤務の環境 「1年前より悪化」が半数

 日本産科婦人科学会の意識調査によると、ほぼ半数が1年前より勤務状況が悪化したと回答した。「医師不足が改善されていない」「周囲の施設が減り、残った施設の負担が増加している」などの理由が多く挙がったという。

 調査は7月に実施。対象は医大生の卒後研修を実施している約750病院。産婦人科の責任者の医師に回答を求めた。332病院が回答し、回答率44%。
 産婦人科全体の状況について1年前と比べてどう感じるかを問うと、「悪くなっている」「少し悪くなっている」が合わせて47%。「良くなっている」「少し良くなっている」の計18%を大きく上回った。

 学会で医療提供体制の検討委員長を務める北里大医学部の海野信也教授は「全体状況が改善する段階には来ていない。研修医らの参入を促す方策を推進する必要がある」としている。

研修医らの参入を促す方策を推進ってのも正直なところではあるんでしょうが、一体どうやって?と訊いてみたくもなりますがね(苦笑)。
政府もようやく今にして医師不足対策などと言っていますが、今のところ産科医減少に対し役に立ちそうな対策を立てるに至っていません。
元々お産というものは保険対象外ですから(これもそもそもお産の現場を面倒なことにしている一因ですが…)、政府お得意の診療報酬による誘導など夢のまた夢。
そもそも現場で働く産科医の疲れ切った表情と大野事件などに代表される世間の扱いを見てみれば、彼らを間近で見て育つ研修医達が「俺も将来は産科を目指そう」などと思うはずもないわけです。

最も効率的な運用と言う点で産科医の集約化は既に避けては通れない状況ではないかと思いますが、これに対する最大の抵抗勢力が地域住民です。
「病院まで一時間もかかるのは困る」「いざと言うとき不安だ」などと未だにオラが町の産科医待望論が根強いようですが、そうまで心配されるのであれば自分が近いところに移っていただくしかないでしょうね。
将来的にもし十分な産科医が確保できるようにでもなった時代であればまだしも、今の時代そんなわがままを言っていると本当に国全体で産科というシステム事態が崩壊してしまいますから。
そうした点では産科崩壊と言う現象は前世紀末頃から患者サービス向上を至上命題としてきた日本の医療が、持続可能なシステムという公共福祉的側面へと意識改革していく一つの契機になるものなのかも知れません。

一方で訴訟リスクの恐怖というものは理屈ではないだけになかなか難しいところがあるのですが、ようやく限定的ながら無過失補償制度が始まったのは医師と国民の双方にとって基本的には喜ぶべきことではないかと思います。
ただしこの制度にも大きな問題点が幾つかあり、特に訴訟リスクという点から見ると「補償金を原資に訴訟を起こす」という危惧が少なからずあることは現場の医師達にとって無視できないことではないでしょうか。
実際のところはそうした事例がどの程度あるのかやってみなければ判らないとしか言いようがないのですが、少なくとも現状以上に訴訟リスクが増えることはないだろうと無理にでも納得していくしかないのかも知れません。

【ゆうゆうLife】医療 問われるお産の質 産科医療補償制度(下)

 医師の間では「補償を行うことで、訴訟を誘発するのではないか」との懸念もある。補償金が出ても、妊婦側が訴訟を起こせば、司法手続きは始まる。医療機関に過失が認められれば、補償金のほかに、賠償金が求められる可能性もある。医師からは「一時金の600万円が訴訟原資となる可能性もある。訴訟を減らすために始めた制度が、逆に増やすことになるのでは」との声も上がる。

 こうした見方について、石渡常務理事は「可能性は否定できない」としながらも、「利害が対立する裁判と違い、新制度では原因分析も示される。補償対象外になっても、不服申し立てもできる。こうした姿勢が理解されれば、長期的には訴訟は減少していく」と期待する。
 脳性まひの長女(29)を介護する「東京都重症心身障害児(者)を守る会」の岩城節子会長は「補償されても、納得できる原因が示されなければ、訴訟を起こしてでも説明を求める」としたうえで、「そうはいっても、家族にも訴訟は負担。公平な制度にし、原因究明を迅速に行ってほしい」と求めている。

さて、利点欠点多々あるこの産科補償制度に関しては今もって末端の異論反論数多く、当然ながらと言うべきか残念ながらと言うべきか制度に加入しないお産取り扱い施設も相当数があるようです。
政府もこの件に関しては思うところがあったのか、通常医療機関においては認められていない広告をこの産科補償制度に関しては認めるという例外措置を取るという話も漏れ聞こえてきます。

もちろん全ての関係者が善意で行動していると信じられるならば幾らでも話に乗っていけば済むことではあるのですが、残念ながらこの種の新制度導入に付きものの利権の噂もちらほら。
政府は当面制度を運用してみて、実際の支出額を見ながら補償対象を拡大していくという方針だそうですが、どうも話はそれだけでもないようで…

産科補償制度、「余剰金は返さない」

 「余剰が出るのではないか」「財務の透明性を要求すべき」―。来年1月から「出産育児一時金」を3万円引き上げることを承認した厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会(部会長=糠谷真平・国民生活センター顧問)で、産科医療の無過失補償制度(産科医療補償制度)の運営に対する注文が相次いだ。一分娩当たり3万円の掛け金と国からの補助金などを合わせると、余剰金が生じるのではないかとの指摘に対し、厚労省側は「(重度脳性まひの)原因究明も一つの大きな柱になっている」と理解を求め、余剰金が出ても制度に加入している分娩機関に返還する予定はないと回答した。(新井裕充)

 来年1月からスタートする産科医療補償制度は、分娩に関連して発症した重度脳性まひ児に対し、看護や介護のための補償金(総額3000万円)が支払われる制度で、一分娩当たり3万円の掛け金(保険料)が必要になる。医療機関の過失を証明しなくても補償金が支払われる仕組み(無過失補償)により、分娩に関連した医療裁判を減らす狙いがある。
 しかし、今回の無過失補償制度では、補償される対象が限定されているため、余剰金が出るのではないかとの指摘もある。補償される重度脳性まひの発生件数について、厚労省は年間500-800件と想定している。

■「余剰が出るのではないか」
 「出産育児一時金」の引き上げを承認した9月12日の医療保険部会で、対馬忠明委員(健保連専務理事)は「3万円という数字の根拠がよく分からない」との不満を表しながら、次のように指摘した。
 「分娩は年間約100万件で、これに3万円を掛けると300億円。ところが、補償対象となる年間500件に(補償金の)3000万円を掛けると150億円となり、相当乖離(かいり)がある。制度の運営費用については、来年度の概算要求の中でも数億円を要求しているはずだ」
 また、岩本康志委員(東大大学院経済学研究科教授)は「(年間500-800件というのは)リスクを高めに見積もっているような気がする。ノーマルにいけば、余剰(金)が出るのではないかが気になる」と指摘。余剰金が出た場合の処理について、「掛け金が『配当』という形で医療機関に戻るとか、そういう仕組みになるのだろうか」と質問した。

 厚労省の担当者は、同制度が重度脳性まひ児への補償だけではなく、事故の原因究明や再発防止策の検討なども目的としていることを理由に挙げ、「原因究明も一つの大きな柱になっている。これについては、国から補助金を入れて動かしていくが、この補償制度について国から補助金を入れているわけではない」と理解を求めた。
 その上で、「余剰については、お返しすることにはたぶんならない」と回答。保険金の支払い額が保険料収入を上回るような場合については、「リスクは保険会社が被るスキーム」と説明した。

もちろん民間の保険会社も関わることですから、儲けを出してはいけないなどと言うつもりはありません。
しかし政府が医療機関に認めている儲けのレベルと比べて、明らかに桁違いの金が患者に還元されることなく流れていくわけです。
それが保険会社の儲けだけで済むのか、あるいは更に流れ流れてどこかにたどり着くのかと言うことですが…

しかしまあ、毎度の事ながら厚労省という組織はどうしてこうも医療関係者の不信を招くのに素晴らしい手腕を発揮してくれますかねえ(苦笑)。

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