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2008年10月 2日 (木)

療養病床削減は医療に何をもたらすか?

慢性期医療学会のアンケート結果が公表されていますので、まずは記事から紹介します。

救急医療はもはや押し寄せる患者に対応しきれない――療養病床アンケート結果

日本慢性期医療協会(旧名称:日本療養病床協会)は9月19日、急性期病院と療養病床との連携に関するアンケート結果を公表した。近年、慢性期医療を受ける患者が急性期病院で治療を受け続けることにより、医療費が莫大になり、ベッド数が足りずに「救急難民」を生むなどの問題が指摘されている。同協会は慢性期の患者を治療する「慢性期病棟」が急性期の治療を継承し、医療連携を円滑化することでこれらの問題は大きく改善されるとしている。

調査対象は三次救急指定の全国202の病院で、回答数は74病院。8月にアンケートを実施した。病床種別についてみると、総病床数50,551に対して救急病床は2,145、一般病床は43,919、回復期リハビリ病床は153。医療療養病床は43で全体の0.1%にすぎないことがわかった。

一般病床の平均在院日数は15.3日で、救急外来患者のうち75歳以上の割合は15.7%。入院患者は75歳以上が3割を占め、外来に比べ入院では高齢者の率が2倍になっている。退院先の確保ができずに入院を延長することがあると答えた病院は87%にのぼり、救急の受け入れを断らざるを得なかった病院は 76.7%、受け入れを断った1病院1か月あたりの平均患者数は56.2人であり、ベッドが埋まっていたり、職員体制が不十分だったりして、「救急難民」が日々生じている実態が明らかになった。

救急病床の患者を直接「他院の療養病床」に移したことのある病院は59.7%、一般病床から直接「他院の療養病床」移したことのある病院は97.1%だった。療養病床との連携の必要性はすべての病院が感じており、8割を超える病院が連携システムに参加したいと答えている。また、介護保険施設や在宅の要介護者に急性期医療が必要になった場合、一部を療養病床が担うことは「できる範囲で積極的に行うべき」という回答も8割あった。

協会は今回の調査から「救急医療はもはや押し寄せる患者に対応しきれ」ないとし、高齢者疾患のノウハウをもってあたるべき患者は療養病床にゆだねたいという意識が読み取れる、と分析している。

厚労省はもともと2012年までに療養病床を35万床から18万床に削減すると主張していましたが、さすがに反対論数多という状況に配慮したのかこれを22万床にまで緩和すると方針転換したようです。
療養病床の削減は専らいわゆる社会的入院をはじめとする長期入院患者の追い出しにつながるという側面から非難されてきたわけですが、実のところ現場から最も危惧されているのが急性期病床の飽和問題です。

診療報酬の関係で急性期病院ではとにかく満床近い状態を常時維持した上で、入院期間を最短に保つことが要求されています。
ところが一方では急性期病院は新規発症患者の受け皿でもあり、救急搬送を受け入れるためには一定数の空きベッドを確保しておかなければならないという二律背反を強いられているわけです。
ひと頃話題になった「救急たらい回し」という現象も、元はと言えば政府・厚労省のこうした矛盾する政策誘導の結果当然に発生した結果に過ぎないわけです。

この問題を解決するためには急性期病院では急性期病院にしかなし得ない治療を行い、可能な限り早期に慢性期病院に患者を送って新たな患者受け入れのためにベッドを空けるという作業を繰り返していくしかありません。
このサイクルの障害になるのが一つには患者・家族の抵抗(「なぜ治るまでここで診てくれないのか!?」)であり、もう一つが送り先である慢性期病院のベッド不足であるわけです。
患者問題は「政府の政策です」と納得いただくしかないとしても、物理的な慢性期病床の不足(これも政策の結果ですが)に対しては国策として病床削減を続ける限りは如何ともしがたいものがあります。
要するに政府は治療の対象外として長期入院患者を追い出すつもりで、その実は最も治療が必要な急性期患者を閉め出す方向に一生懸命舵を取っているということです。

さすがにこのままでは政府・厚労省が悪役であるかのように誤解されてしまい(苦笑)マズイとでも思ったのでしょうか、近ごろではベッド数ではなく(またしても!)診療報酬削減という政策的誘導によって病院に患者を追い出させようと画策しているようです。

【社会】医療:脳卒中患者ららに退院圧力も  入院基準厳格化…「療養病床や介護施設に移ってほしい」と厚労省

 障害者対象の病棟や難病患者らの特殊疾患病棟で、10月から脳卒中や認知症が原因で障害がある患者の入院基準が厳しくなる。これらの患者の割合が少なければ入院は可能だが、多いと医療機関に医療費がこれまでのようには支払われなくなるため、退院圧力が強まる恐れもある。

 対象となる「障害者施設等一般病棟」では、患者のおおむね7割以上が障害者でなければならないが、脳卒中などが原因の場合は重い意識障害などを除き、10月から障害者の人数として算定できなくなる。

 特殊疾患病棟でも、同様にこれらの患者も算定できなくなる。

 厚生労働省によると、障害者病棟は約6万床、特殊疾患病棟は約1万4000床。脳卒中などの患者数は不明としているが、同省の昨年の調査では、これらの患者が9割を占めるところもあるという。

 同省は、「他の患者にベッドを空けるのが狙いで、療養病床や介護施設などに移ってもらいたい」としている。

医療あるいは介護の面から考えるならば、元々の原疾患が何であれ要する手間は全く変わらないわけです。
重度の要介護者をより点数の安い(当然スタッフの手薄い)病床あるいは介護施設に誘導すればするほど逆に誤嚥や褥創等のリスクが増大し、結果としてかえって余計な手間と医療コストを要するという事態になりかねません。
このあたりは一昔前に「日本の医療費が安く済んでいるのは、受診が容易で早期発見早期治療が行われているからだ」と言われていたことと幾らか似たような面があるかも知れませんね。

実際に幾つかの介護施設ではその能力を超過した重症患者を引き受けざるを得なくなっているのが現状で、入院中は全く熱も出なかった患者が退院して施設に帰った途端に逆戻りという事例が散見されるわけです。
そのたびに大騒ぎで治療を行う必要が出てくるわけですから、こういうのは「安物買いの銭失い」とでも言うのでしょうか。
個人レベルでの失敗であれば一時の笑い話で済むかも知れませんが、国として毎回同じような失敗を繰り返しているといずれどうなるのかということですね。

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